マーサおば様は数年前から足腰が弱くなり、寝室までの階段を上るのに、誰かの手を借りなければならなくなってしまっている。
もしおば様が目を覚まし、寝室へ向かう用事があるのならば、間違い無く呼び鈴で自分を呼ぶはずだ。使用人が一人で寝室に入ることなど最初から有り得ない。
(と言うことは・・あの人しかいないわ!)聡明な少女の脳裏にある人物の憎々しげな顔が浮かんだ。(デービッド!)
ジョオはゆっくりと図書室の扉を開けると、出来るだけ足音を立てない様に廊下を歩き、問題の寝室の前に立った。
寝室の扉はぴったりと閉じられていたが、やはり中に誰かいる気配がする。ジョオは静かに深呼吸すると、目の前の扉が開いたときに、ちょうど死角となる位置に身体を隠した。
−−数分後。その扉がスーッと細く開き(廊下に誰もいないのを確認しているのだろう)、やがて一人の男が寝室から出てきた。(・・・やっぱり・・・)その男の後姿を
見た途端に、ジョオは怒りで全身の血が逆流しそうになる。
間違い無くデービッドだった。仕事もせずに遊び回ってはおば様に金の無心にやって来る人間のクズだ。水色のスーツの内ポケットに何かを押し込んでいるのが、後ろからでもはっきり判る。少女は静かに口を開いた。
「恥知らず!」
その瞬間、デービッドは犬に付いたノミの様に飛び上がり、独楽の様にこちらを振り返る。
「ジ、ジョオ・・・」冷や汗びっしょりの顔は、いつにも増して貧相この上ない。その顔にピシャリとジョオの平手打ちが飛んだ。
「真昼間からレディの寝室に忍び込んで一体何をしていたんです!そのポケットに何を入れたの?」
一回りも年下の少女に決め付けられたデービッドはしかし、金魚の様に口をパクパクさせるだけだった。
「さあ!今すぐ持ち出した物をここに出して!」
「ま、待ってくれジョオ・・・これには理由が・・・」やっとのことで掠れた声を絞り出したダメ男に、さらに厳しい叱声が飛ぶ。
「理由ですって?じゃあおば様にお話なさったら良いわ!おば様の寝室に黙って入り、泥棒を働いた理由をね!」
「ジョオ・・・そ、それだけは許してくれ・・・」
「ならさっさとお出し!」いつの間にかエイミーを叱る様な言葉使いになるお転婆少女の前についに観念したダメ男は、