いろいろ探し回ってやっと見つけたのは、仕立て屋のウインドウのなかに座っている
女の子でした。
「ごめんね、お嬢ちゃん。これは売り物じゃないんだよ」
いくらでも出しますからと言ったのに断られました。エメロードの瞳も曇ります。
「おや、お嬢ちゃんのおともだち、とってもくたびれてるね。それをちょっと貸して
くれるなら、お人形は差し上げますよ」
そう仕立て屋のご主人は言ってくれました。
「あの娘のお名前はエミリーなの!ありがとうございます、おじさま。エミリーも
きっと感謝しているわ!」
ジョオはインドから連れて来たおともだちをご主人に渡しました。大尉は大変
恐縮していくらでも払いますからと言ったのですが、本当のご主人にめぐり合えた
のだから人形も幸せでしょうと丁寧に断られたのでした。ただし、お嬢ちゃんには
ちゃんとおともだちを引き取りに来て下さいよと悪戯っぽく微笑むのでした。
ジョオにとっては、自分の奇妙な話を通して本質を見ていてくれたのは、
英国に着いてから、おとうさま以外では初めての出会いでした。
学園を眺めてから、屋根裏部屋から見るといいでしょうとミンチン先生はぶっきら棒にでしたが
教えてくれました。
「バン!」
澱んでいる部屋の空気に、外の新鮮な空気が流れ込んで来ます。陽が射し込み塵が
舞っているのがわかります。
セーラは躰を乗り出して見下ろします。おとうさまが乗っていらっしゃる馬車がまだ遠くに
見えました。やがてそれも、どんどん小さくなって見えなくなりました。泣かないとおとうさまと
誓ったのに、瞳が濡れています。
「わたし、もう泣かない、泣かないわ!」
セーラは誰ともなく静かに呟いていました。風が吹き込んでセーラの艶やかな黒髪が
なびいています。もう見えなくなってしまっても、馬車が消えていった場所をエメロードの瞳が
いつまでも眺めていました。
セーラはともだちを作るのはたいへん上手でした。彼女の魅力には誰も叶い
ませんでしたから。しかし例外もありました。ラビニアとその仲間たちでした。
ジョオへの嫉妬はいつしか憎悪へと変っていたのです。
気づいていた学園の使用人のベッキーは気懸かりでしかたがありません。
セーラを陰ながら慕っていたからです。