フレデリック大尉は御者にチップを沢山弾むと、ジョオを抱えてホテルへと向かいました。
部屋に入って落ち着くまでが一苦労でした。他人に自分たち親子がどう見られようと
気にはなりませんでしたが、ジョオに向けられる目だけは気がかりでしたから、
チップを弾まねばなりませんでした。
部屋に入ると気を失っているジョオの躰を水で濡らしたタオルで拭いてやり
部屋着に替えてベッドに寝かしつけます。大尉はテーブルに座らせておいたセーラ
のおともだちを取って来ると、寝息を立てている少女にそっと抱かせるのでした。
ジョオが唯一インドから持ってきた大切な物でした。古い物でしたから、大尉は
持ちかけたのです。英国に着いたら、新しいおともだちに会わせてあげようと。
セーラはきょとんとしていましたが、想像力がすぐに加速して、すでにエミリーという名前
までついてしまったのでした。
確かにメアリー先生が仰るように、学園に早く馴染んで、本当のおともだちを
作ることが一番大切なことです。しかしセーラとの約束はかけがえのないもので
楽しみにしているのなら尚のことでした。
「さあ、明日はお前のおともだちのエミリーを探しに行くのだから、ゆっくりとおやすみ」
フレデリック大尉は寝息を立てているジョオの頬に触れて、親指でそっとなぞりました。
次の日、街を歩くセーラの腕のなかにはインドからのおともだちがいました。
そのお人形はインドの生活に於いては唯一のともだちだったのです。セーラの
想像力で、その子は妹にも子供にも親友にもなっていました。大尉はその様子
を面白可笑しく眺めていましたが、確かにセーラにとっては不憫なことでした。
ほんとうのともだちが出来て欲しいと願わずにはおれません。それなのに
自分はセーラに何をしているのだろうかと考えないでもありませんでした。
ミンチン先生が訝るのもごもっともな話です。先生にはやんわりとでしたが、それが
自然体なのですからと含みを持たせました。なによりもセーラが楽しみにしていた
ことですから大目に見てやってくださいとも。しかし、その真意がどれだけ正確に
伝わっていたのか知ることはありませんでした。
「おとうさま、ご覧になって!」