夕食の後片付けが終わると、ジョオはそそくさと自室へ向かおうとした。早く自室に
行きたいと思うあまり、後ろからトコトコとベスがついてくることに部屋のドアを開ける
まで気付かなかった。
「あっ、ベス!いたの?」
小説を書くなどという嘘をついた後ろめたさからか、いつになくジョオは狼狽した。
「ご・・・ごめんなさいジョオ、びっくりさせちゃって・・・。あの、ジョオこれから部屋に
こもって小説を書くんでしょう?だからその前に、と思って・・・ちょっといい?」
「ええ、もちろんいいわよ!さ、お入んなさい」
ジョオはベスに遠慮させまいといつもの快活な態度をなんとか取り繕い、ベスの背に
手を回して部屋に入れた。
「あの、小説を書く大切な時間を割かせてしまってごめんなさい。だから、手短に言うわ
ジョオ。今夜・・・・・・抱いてほしいの。約束が違うのはわかってるわ。悪いと思ってる・・・
わがままだと思ってる。でも・・・・・・我慢できないの・・・・・・」
長話をする気はなかったのだろう、ベスは閉めたドアをすぐ後ろにしたまま一気に言い
たいことを彼女らしくなく一方的に言い終えると、自分の両腕をぎゅっと抱えて切なげに
目を伏せた。
ベスには、ジョオに抱いてもらうにあたってひとつの約束事があった。初めての時も
そうだったが、それは、その日は夜に備えて昼寝をしておくというもので、まだ子供の
うえに体が虚弱なベスをジョオが姉として慮ったが故に出した条件だった。
その夜のマーチ家のいつもの満ち足りた夕餉の時のことであった。
「今夜はわたし、寝るまで小説の執筆に集中したいから、絶対に部屋には入ってこないでね」
「ジョオが小説を書いてる時に部屋に入ったらたいてい機嫌が悪いから、言われなくったって
行かないわ」
エイミーは「なんですって!」とジョオが言い返してくると思いながらもいつものクセで
軽口を叩いたが、ジョオはただ、
「あはっ・・・!そうね!」
と肩をすくめて笑っただけなのでいささか拍子抜けしてしまい、あっけにとられていた。