建物の概観と同じく、調度品も機能的な物のみで心のゆとりが
全く無く、二人にあらぬ緊張を強いています。
「ようこそ、フレデリック大尉!お待ちしておりましたわ!」
メアリー先生は部屋に入ってくるなりジョオにではなく大尉へ挨拶しました。
目は細くて切れ長でキリッとされていて、唇も薄くもなく、ぽってりともせず程よい
綺麗な形をしています。色彩も淡い薔薇色で、絶えず濡れるような艶やかさ
を放っておりました。鼻筋もすっと通っていて小さく美しくあります。髪の毛
は焦げ茶色で上で綺麗に止められいて、決して不美人などではありません。
むしろ美人と言っていいくらいで、なによりも背が高く華があり栄える……はずでした。
しかしメアリー先生は女らしさを拒絶していたのです。服装は地味な紺のワンピースに
厳つい尖った眼鏡を掛けていました。そして極度に上品ぶる姿勢がどことなく
人を受け付けないのです。
セーラは一目で可哀相な女と感じてしまったのでした。それはミンチン先生
にも言えることでした。セーラのように感性だけで大人を辱めるような物言いを
する娘は懲らしめてやらねばと強く信じていました。自分がそうやって大人の顔色を
窺って生きてきたから、どうしょうもなかったのです。
「たいへんユニークなお子さんとお聞きしましたが」
ジョオにはつまらない話が暫らく続いて、また自分のことに話が及びます。
「エミリーとは誰のことですか?」
「わたしの本当のおともだちですの、ミンチン先生。明日、おとうさまと買いに
行くんです!」
はあ?という訝しげな顔をミンチン先生はクルー大尉へと向けました。
セーラはミンチン先生とお友達になれると思ったのですが、その機会は永遠に
失われたかのようでした。
「人形のことですよ。インドではともだちがおりませんでしたからね」
「それは困ったことですね。早くクラスメイトたちと馴染んでいただかないとね」
それは正論でした。そのことをセーラにもピシャッと言い渡します。そして、数日間
は二人でホテルで過しますからと、その日は学園をあとにしました。
セーラは馬車のなかで塞ぎ込んでいます。街並のムードも気分に拍車をかけました。