愛の若草物語 ベス 【三女目】

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778名無しか・・・何もかも皆懐かしい
 「ねえメグ、キミだって解ってる筈だろ?うちの親父が死んだらこの家の財産は全て僕のものになるんだよ?
キミはこのニューコード・・・いや、マサチューセッツで五本の指に入る大金持ちの奥方になれるんだ。こんなチャンスは人生に二度とない、そうだろう?」
一体これがプロポーズの言葉だろうか?ロマンチックさの欠片も無く、熱に浮かされたように財産のことしか口にしないエドに、メグは心底あきれ果てる。
 「こんな千載一遇のチャンスを逃すような人間は、言っては悪いが大馬鹿者さ。ねえメグ、僕の愛を受け入れておくれ。一生不自由はさせないから・・・」
喋りながらクズ男はメグの美しい顔と、モスグリーンのドレスに包まれた母親譲りの豊満な身体を無遠慮に眺め廻す。その爬虫類のような視線に、温厚なメグも遂に怒りを爆発させた。
 「いい加減になさい!」初めて見るメグの激しい態度に、エドは驚いた顔で二、三歩後退りする。
 「さっきから聞いていれば何です!お父様の財産の話ばかり!私には、あなたは自分のお父様がお亡くなりになるのを待ち望んでいるようにしか聞こえませんわ!
私は大馬鹿者で結構です!あなたのような人間に相応しい結婚相手なら沢山いるでしょう!とにかく、もう二度と私にそんなお話はなさらないで!」
言うが早いか、青ざめた顔のクズ男を部屋に残し、メグは憤然としてキング家を後にした。
 五月の空は美しい茜色に染まっていたが、今のメグには美しい夕焼けに見とれている余裕などない。キング邸やローレンス邸のある、この高級住宅街を歩いている人間は彼女以外一人もいなかった。
もしいれば、怒りに震えながら柳眉を逆立てて歩く、絶世の美女の姿を拝めたかも知れなかったのだが。 
 キング家を飛び出してからもう半マイルは歩いた筈だが、メグの怒りはまったく収まらない。それどころか、エドの爬虫類のようないやらしい視線が脳裏に焼きついて離れず、ますますあのどら息子に対する怒りが湧いてくるのだ。
 (“親父が死んだら”だなんて・・・なんて人なの!ああ、生まれて初めてプロポーズされた相手があんな・・・あんな悪魔のような男だなんて!)
 知らず知らずのうちに、彼女の切れ長の眼に涙の珠が盛り上がってくる。