二人は身寄りを失い、 さまよってるうちに礼拝堂に迷いこんで倒れてしまったっと言うのだ。
俺とみんなはネロとじっくり話し合った。少年もまた、世間の荒波に翻弄され、真理と真実を
知りたいと深く望んでいた。その日からネロはもっともひたむきな俺達の同志の一人となったのだ。
ネロとパトラッシュは俺達が売僧どもから解放した礼拝堂で聖ルーベンスの2枚の絵を心ゆくまで
見ることができた。そしてネロは決意した。真理を深く追求していくと。
時には膝詰め談判で丁々発止と火花を散らしつつ相手を説得していくことも必要だ。
「あなたは人を頼り過ぎ、しかも悪い事に人を利用しようとしているんだ、ペッピーノさん!」
俺の炎が出るかのような剣幕にペッピーノさんもたじたじのようだ。
「そ、それは…わしゃあ、そんなつもりで…芸術のためにと思ってやってることだ…」
俺はさらにたたみかける。
「さあ、そこだ。芸術のため。あなたの志は一見素晴らしい。しかし、その志の中に肝心の
魂が入ってないじゃないですか。人のために貢献していこうという気持ちが少しでもあなたに
あるのはわかっている。しかし、間違っているのはその方向性じゃないんですか!?」
ペッピーノさんは伏し目がちにおずおずと答える。
「方向性…ねえ…。」
「そう、方向性です。あなたは内心、人を馬鹿にし利用しようとするところがある。そこを
変えなくては良いお芝居はなかなかできませんよ。人をもっと思いやることです。」
ペッピーノは小さい声で答えた。
「…ええ。努力はしていきますよ。人のため…に。」
「お父さん、これからはもっと真摯に人に接してね。…どうも今日はありがとうございました。」
ペッピーノさんの長女、コンチエッタさんがそう言って俺をねぎらってくれた。
「…。」
次女のフィオリーナが強い眼差しで俺を見つめる。
「どうしたの?」
俺はフィオリーナの目を見つめて尋ねた。
「あなたの話…もっと聞きたい…。」