抱擁やキスなどでその感情を表わすことはなかったので、身を案じてみただけの行為に
対して、エイミーはベスにしては少し大げさだと内心困惑した。
エイミーのその困惑は広まった。エイミーを抱きしめていたベスの両腕がさわさわと
エイミーの背中や腰、さらにはお尻の近くまで撫でまわし始めたのだ。
今日の出来事に気付いているかのようなベスの言葉にも、ジョオは驚かなかった。むしろ、ベスなら気付くのが当たり前だとすら思う。
「あのね・・・?さっきジョオが”ただいま”って言ったとき・・・なにかいつもと違う感じがして・・・」ためらいがちにベスが言葉を続ける。
「ほら、ジョオっていつも、外でイヤなことがあったとき・・・無理に明るく振舞ってみせるでしょ?私達に心配させないように・・・」
(奥様もだんな様も今日はお帰りにならないから・・・もう少し・・・このままで・・・・・・)
ベア夫妻はとある泊りがけの用事ができて、戻ってくるのは明日ということになっている。
階下の台所のエーシアも忙しく、万一自分に用事があっても大声で呼びはしてもいちいち
ここまでは来るまい。また、生徒たちはベア夫妻が不在のため授業ができないので野外で
各々の受け持つ畑や動物の世話や、サイラスの野良仕事の手伝いなどをするよう言われていて
全員出払っており、これまたここにやってくる危険性はない。
それ故、メアリ・アンはこの寝室に入ってくる者がありえないことがわかっており、いつに
なく安心してこの秘密の行為にわずか数分の時間とはいえのめりこむことができた。
(奥様・・・奥様のにおい・・・・・・。はぁぁ・・・・・・)
この寝室でジョーに思いを馳せた日は、決まってその夜に肉体がうずき、眠りにつく前に
ジョーの残り香を反芻しながらオナニーにふけるのだった。メアリ・アンは今夜は特に深い
快感が得られそうな気がした。
・・・・・・タシ・・・タシ・・・・・・
今日は誰も来るはずがない・・・・・・いつもは抱いているはずの警戒心はこの日ばかりは完全に
おっぽり出されていた。そんな心の緩みが、いつもなら聞き逃さない階段を上ってくるこの
足音をメアリ・アンに気付かせないでしまっていた。