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名無しか・・・何もかも皆懐かしい:
ジョン・スミス氏は自分宛の手紙を読んでいた。
長い手紙だ。
手紙は彼に対する罵詈雑言、
呪いの言葉で埋め尽くされている。
彼は背筋にゾクゾクと電気が走るのを感じた。
「あぁ。。これだよ。僕の待っていたのはコレなんだ。
モット、もっと書いて欲しいんだよ。。」
彼は、秘書に連絡を取り、手紙の送り主の
休暇を取り消させるように命じた。
勿論、それは彼が援助をしている人物に対しての
彼の当然の権利なのだ。
「休暇を友人と過ごすことは感心しない。勉学に勤しむように。」
何時ものように簡潔というより感情の篭っていない
伝言を秘書に託すと彼はもう一度手紙を手に取った。
「次の手紙が楽しみだ。。」
とりあえず、sageとくか。。
ジョン・スミス氏は手紙を危うく破りそうになった。
届いた手紙には彼に対する感謝と彼の容態を気遣う言葉が並べられていたのである。
「くそ!くそ!くそ!こいつは一体何を考えていやがる!
普通怒るだろうが!なんでそれがこんな手紙になるんだ!」
彼は爪をガリガリと噛みながら部屋の中を歩き回った。
援助している相手は素直に彼の忠告に従い休暇を勉学に捧げた。
あそべなかったのは残念と言えば残念だが、自分が何故援助を
してもらっているのかを危うく忘れるところであったと謝罪の言葉と
そして勉学に対する意気込みが書かれている。
爪を噛みすぎて指が痛くなるまで彼は部屋を歩き回りそして名案を思いついた。
「彼女をニュー・ヨークに招待しよう。華やかで空しい街だ。」
都会に出たことの無い相手の事だ。きっと夢中になる筈に違いない。
享楽と退廃に塗れた相手の姿を思い描き彼はしばしウットリと酔いしれた
「そうだ。服を新調する為のお小遣いも送らないとな。せいぜい
無駄遣いの楽しみを覚えてもらわないといけないからな。」
彼は秘書を通じて招待状を送らせた。勿論自分は別人になりすます。
「着飾った君の姿が目に浮かぶようだよ。。」
手紙に書かれた特徴的な彼の姿絵を眺めジョン・スミス氏はニンマリと笑った。
ジョン・スミス氏は機嫌が良かった。
彼女の手紙には友人が好きな物を
好きなだけ買えるのがとても羨ましいと
書いてあった。
「そうだ。そうじゃなきゃな。」
彼は、秘書を呼び出すと彼女宛に小切手を送る事にした。
「$50も有れば良いだろう。。今のうちに贅沢を楽しむが良いさ。」
彼は、お礼の手紙を心待ちにした。
何時か彼女が引き返せない所に行くであろう日が来るのだ。
彼はそれを想像してウットリとした。
後日、送り返された小切手と彼女の感謝と謝罪の手紙を彼は
震えながら読むことになるだが。。
「くそ!今に見ていやがれ。。」
美談の裏に、そんな裏話があったとは・・・(w
ジョン・スミス氏は機嫌が悪かった。
最悪と言って良い。
奨学金を受ける事が出来たとの手紙が来たのだ。
彼は想像もしていなかった事態にうろたえてしまった。
うろたえた自分に気がつき、さらに機嫌が悪くなった。
今まで援助してきた者は皆彼の思い通りに動いた。
破滅も栄達も彼の思いのままだったのだ。
それが今回は上手くいかない。
彼はその日長い事爪を噛みながら部屋をぐるぐると廻った。
彼なら彼女が奨学金を受けることを止めさせる事も
彼女を退学にする事も簡単なのだ。
それこそ電話一本で済む話だ。
だが、彼はその方法を取ることをしなかった。
なんの捻りも無いでは無いか。
彼の楽しみを自分自身で潰してしまう事になるのだから。
長い時間部屋をぐるぐると歩き回り
彼は彼女から送られてきた雑誌を思い出した。
彼女の短編小説が掲載された雑誌だ。
「取り合えず、この辺から突付いてみるか。。」
彼はおもむろに彼女の小説を添削しはじめた。
「待ってろよ。。立直れなくなる程、念入りにチェックしてやるからな。。」
彼女に会った時の台詞まで考えながら
彼は熱心に添削を続けていった。
おもろいな一連のジョンスミス日記w
猛気を漂わせててよいw
今度テレ東で映画やるよ
暇な香具師はみてみるべし
12月24日(水)
午後1:30〜
足ながおじさん
DADDY LONG LEGS
まだ、誰も居ないな。。
このまま妄想書いてても怒られないかな。。
怒らないよ
ジョン・スミス氏はまた時計を見た。
かれこれもう3時間も待っている。
彼の怒りは限界を通り越し、素に戻ってしまっていた。
彼女の小説を批評したのは先週のことだ。
「批評」だ。彼の念入りの添削で真っ赤になった小説を見て
彼女は泣きながら飛び出して行ってしまった。
彼は、心の底から湧きあがる勝利の快感を顔に
出さないように注意しながら彼女にこう言ったのだ。
「来週の土曜に校門の前で待っている!」
そう、今日会ったら優しい言葉をかけてやろう。
彼女には自分にしかいないことを思い知らせてやるのだ。
しかし、思惑は外れた。
彼女は現れなかった。1時間待った。2時間待った。3時間待った。
人を幾ら待たせても平気な彼だが人に待たされる事は無かった。
彼の体は小刻みに震え、持っていたバラの花束は
何時の間にか握り潰されていた。
「この、この俺を待たせるか。。今に見ていやがれ。。」
彼は、自分が囚われている事に気が付かなかった。
手段が目的に変わった事を。
後日自分が致命的なミスを犯す事も気が付かず、
彼は震えながら彼女を待っていた。
「そう、笑顔で迎えてやるんだ。。彼女は待たせたことを詫びるだろう。
笑って許すんだ。そこでさらにポイントアップだ。
彼女には僕しか居ないんだ。。僕しか。。」
ジョン・スミス氏は再起不能だった。
起死回生の一撃であった筈のプロポーズを
断られてしまったのだ。彼は生きる屍だった。
「彼女には僕しかいない筈なんだ。。僕しか。。」
今まで思い通りに生きてきた彼にとって彼女の存在は
想像の外であった。
彼女はもう自分無しでも生きていける。
そう、自分の思い通りになる筈だった者が自分の手から
離れてしまうのだ。
彼は激しい焦りと怒りを感じ一日中部屋をぐるぐると廻った。
「あの青年を殺すか。。事故に見せかければ。。」
彼の思考が堂堂巡りの末に危険な方向に傾きかけて
来た時、その手紙は来た。
「彼を愛しているのです。でも私には彼を愛する資格が無いのです。」
彼は、震える手で手紙を読んだ。
そう、彼は勝ったのだ!
こみ上げる勝利感と達成感に彼は震えた。
そして、彼は急いで秘書を通じ彼女を呼び出すことにした。
彼の望む最高のクライマックスの為に。
その後の彼がどうなったか?
貴方は知っている筈である。彼は真に勝利したのか?
それは、世の男性全ての疑問である。
妄想SS 「わたしがあしながおじさん」 完。