神保町の横綱★さぶちゃん

このエントリーをはてなブックマークに追加
960ラーメン大好き@名無しさん
私が最初にこの店に入ったのは一浪していた時だったから,確か1975年だった.

今ほどじゃなかったけれど,当時も並ばないと喰えない店だった.初めは半チャンな
んてモノ知らないから,ラーメンか大盛りラーメンを頼んだと思うけれど,最初っか
ら「美味い!」と思った.それからしばらくはよく通ったなぁ.二回目以降は常連に
交じって半チャンばかり所望していた.美味かったし,ボリュームあったし,何より
安かったんで金の無い予備校生にはありがたかった.当時,普通のラーメンだか大盛
りラーメンだかが190円で,半チャンが250円ぐらいだったと記憶している.

私が通いはじめたころはモトさんは未だ居なくて,オーバーオールのよく似合う二十
歳ぐらいの女の子がお昼の忙しい時だけ皿を洗っていた.年頃の女の子にありがちな
ことだが無口で愛想がない代わり,とても綺麗な子だった.この子は一年以上は居た
んじゃないだろうか.予備校の「さぶちゃん」愛好者の間では彼女は結構人気があっ
たが,今ではもう四十過ぎのオバサンのはずだ.前に「モトさんが休んだ時にオバサ
ンが手伝いに来ていた」というレスがあったと思うが,「案外彼女だったのかもしれ
ないな」などと勝手な想像をしている.

意外なことかもしれないが,昔から客の出す注文にはよく応えてくれた.私も金のあ
る時にはメニューには載っていない「半チャンチャーシューメン」をよく頼んだもの
だ.中には「ラーメン大盛りに卵入れて,メンは柔らかめ.味は薄めで」と頼んでい
る猛者もいた.オヤジさんは怒りもせずに(当たり前か),「注文はそれだけ?」と
そっけなく聞いていたよ.頼んだ方も悪びれる様子もなく,「うん.それだけでいい
よ」だって.店の中に小さな笑いの渦が出来たっけ.だから,多少のことは聞いてく
れるんじゃないかと思うよ.いろんなメディアで紹介されたせいか,今では客の方が
妙に構えて遠慮しているみたいで,昔に比べると最近の客はみんな大人しくなったよ
うな気がする.スノッブでぶっきらぼうに見えることもあるけど,決して悪い人では
ないからまずはこのあたりからコミュニケーションを取ってみるのも面白いと思う.
でも,「化学調味料少なめに」とはチョット言いづらいかな.

社会人になってからはあまり足繁く通わなくなってしまったが,客のことは実によく
覚えていてくれて,
「前にゴルフ場でオヤジさんを見かけたよ」
「ん?.... ん〜.そういや,半年,いや一年ぐらい前だったかな.そんなこと
あったね.確か大宮国際だろ? どっかで見たことある人がいるなってオジさん思っ
てたんだよ」
「そうそう.ちょうど一年前の大宮国際だよ.よく憶えているね」(チョット狼狽)
「なんで声掛けてくれなかったの?」
「いや〜,俺のことなんか憶えていないと思ってサ」
「ちゃんと憶えているよ.10年くらい前に研数に通ってたんだろ.あれからどうし
てるの?」
「......」(絶句)
正直言って驚いた.さすがにいくらなんでも,今ではこんなことまで憶えちゃいまい
が.... 「作者」さんの話じゃないけれど,その後,落ち込んでいる時に喰いに
いったことがあって,そん時「アンタのことはちゃんと憶えているよ.あれからどう
しているの? がんばれよ」ってな目で見られた時には涙が出そうになった.

自分の味覚が変わってしまったからかもしれないが,神保町の街並みや「さぶちゃん」
の店構えが変わったように,昔に比べるとずいぶん味が変わったと思う.特にチャー
ハンの味は変わった.それでも,木枯らし吹きすさぶ季節に半チャン喰って黄昏時の
神保町の街に出ると,将来に対する不安と期待が入り交じったあの頃が,当時流行っ
ていた荒井由美の「あの日に帰りたい」と共に今も蘇ってくる.