茨城のおいしいラーメン15

このエントリーをはてなブックマークに追加
★★★ファースト・コンタクト★★★
わかとら家(以下虎): そもそも荒井くんと出会ったのは日本じゃないんだよな。
ドラゴン(以下龍): ええ、もともとぼくは旅行が好きで、外国によく行ってるんです。
虎: オレはラーメン屋の前の仕事関係でフィリピンにはもう何十回も行ってる。3年前はたまたまそのフィリピンに店のスタッフ連れて遊びに行ってたんだよね。
龍: そうでしたよね。
虎: 安い食堂で朝飯食ってたら、日本のミョーな若者がぶらぶら歩いてる。気になって声かけたら日本でラーメン屋やってるっていう。驚いたよねえ。
龍: しかもご丁寧に茨城で。その時は連絡先の交換をして別れたんですよね。帰国した後、ぼくがしょっちゅうわかとら家さんにお邪魔して、勉強させてもらったり遊びに連れてってもらったりしてる。
虎: ただ店の休みの関係で、時間があうのが月曜の夜ぐらいしかない。よくフィリピンクラブとか行って、二人しておねえちゃんに囲まれてお酒飲んでる。
龍: 大先輩の宮本さんからは、ラーメン作りのサジェスチョンをいつももらってますよね。それが今のぼくにとっては、全て栄養やいい勉強材料になってる。ちょっと恐いけど、ものすごく頼りにしてる兄貴分。
虎: オレとしてはもっとざっくばらんに接してほしいって気持ちがないでもないけどね。まぁ年齢が離れてるから、それは仕方がないか。見た目ではそんなに歳違わないけど、なんつって。
★★★ラーメン屋としての起源★★★
虎: ラーメン屋始めて、オレが8年、ドラゴンは4年。荒井くんはなんでこの商売始めたの?
龍: 家がずっと商売やってたんです。高校のころから、自分も何か商売やろうって気持ちは漫然と持ってて。
大学生の時に、兄貴(ドラゴンつくば店・店主)の友達がラーメン屋やってたんで。そこで自分の目の前にラーメン屋って選択肢が見えた。
だからすがりつく、じゃないけど、よしやってみるか、って。
虎: じゃあそれから東京で修行して。
龍: ええ。そのうち実家の父親が具合悪くなったりして。じゃあ下妻で店出すか、と。タイミングですよね。宮本さんは?
虎: オレはね、それまでしてたのが水商売。でも、もともとラーメンが好きで、自分も店出そうかって、いろいろ食い歩いてた。勤め人にはなれないタイプだからね。自分の生きてく場所を探してたんだよな。そのころ、テレビで見たんだよ。あの人を。
龍: ぼく言っていいですか。吉村家さんですよね。
虎: そう!従業員に怒鳴り散らしてた。スゲー店だなぁと思ってこれは食いにいかなきゃな、と。店に行って「これからラーメン屋やりたいんです」って言ったんだよね。そしたらじーっとオレのこと見て「お前なら教えてやるよ」って。
龍: で、吉村家で修行して……
虎: いや、修行ってのとはニュアンスが少し違う。吉村実さんに1日だけみっちりと手ずから指導してもらった。スープ、タレ、チャーシュー、全部。「こう作るんだ!」って。普通はそんなことしない人なんだぜ。
龍: 宮本さんが吉村さんにリスペクトの念を抱いたように、吉村さんも宮本さんによっぽど近しいシンパシーを感じたんでしょうね。
虎: 吉村家には5年10年修行してやっと独立したって人もいるから「1日いたぐらいで吉村家を語るな」なんて書きこみもうちのホームページにあるけど、オレのラーメン作りのもとは間違いなく吉村さんに伝授してもらったことが根底にある。
龍: ぼくはお会いしたことないんですけど、最初に会った時、どんな印象持たれました?
虎: 冗談抜きで後光が差してた。存在感に圧倒されたよね。その姿見て、ああ、オレも白長靴履きてえって思ったもの。
★★★互いの印象★★★
虎: 荒井くんの印象は最初から今まで変わんないなぁ。チャランポランに見えて実はしっかりしてる。まして海外に1人で行っちゃう行動力もある。礼儀正しい男だしね。
龍: ぼくは最初のころ、けっこう恐かったですよ。店で食べさせてもらってても、ピリピリした緊張感が店全体に流れてて。最近は宮本さんとお母さんの絶妙なかけあいをBGMに楽しくいただいてますけど。
虎: 緊張感が客に伝わるのも良し悪しなんだけど、オレなんかはそれでいいと思うんだ。無理にキャラ作ってるわけじゃないし。
龍: いいと思いますよ。作り手側の気持ちがだれると、事故にもつながっちゃう。
虎: だらけた空気が流れると、行列を作って待っててくださるお客様の雰囲気にも影響するからな。
龍: それは絶対的にそうですよね。
虎: 郷に入りては〜って言うじゃない。無礼な客には、やっぱ怒鳴るよね。他のお客さんに迷惑がかかるから。でも後で周りに話すいいエピソードにはなるんじゃない。
龍: テーマパークのアトラクションだったら、水かけられても喜んじゃいますもんね。
虎: オレ、さすがに水かけたりはしないよ。
★★★現在の味、未来の味★★★
龍: 宮本さんの作るラーメンは、一口目からガツンとくる。すごくハイインパクト。毎回食べるたびに衝撃を受けちゃうんです。
虎: オレはいつも食べる人間を叩きのめすつもりで作ってる。うちを気に入って週に5回来てくれるお客さんには、5回ともノックアウトしてあげたい。
龍: ものすごく宮本さんの人柄が出てると思うんですよ。1杯の丼に。
虎: ちょっと待って。人はそう言うけど、オレ自身はそんなに攻撃的じゃないし押しつけがましくもないよ。
龍: あははは、すいません。そうでした。
虎: 逆にオレからは、荒井くんにもっともっと冒険してほしいって思ってる。今のきみのラーメンって、完成度は高いから10人食って「この味イヤだ」って人はおそらく1人もいないと思うんだよ。
龍: ありがとうございます。
虎: ただ、まとまり過ぎてるきらいはあるよな。だけど内に秘めたる闘志ってのは相当なもんだとオレは感じとってる。だから食う人間の心と体がカァーっと熱くなるようなものを丼に入れてほしいと思うね。変な薬入れろって言ってるんじゃないよ。
龍: 自分でも爆発したいと思ってるし、いろいろ試したりはしてます。
虎: まぁオレらは、趣味やアドバイザーとしてラーメンを作ってるわけじゃない。生活をかけて商売してる。だからその中で味を変えてくっていう難しさは知ってるつもり。でも敢えて言う。オレの中で荒井くんに対する期待っていうのはものすごく大きい。
龍: 嬉しいし、ありがたいですね。試行錯誤を重ねて、自分だけの、ドラゴンならではって味を作っていきます!
虎: その手助けはしたいし、いろんなヒントはオレなりに出せる。オレだって麺変えようとしたり、新しいラーメンを作ろうと研鑚し続けてるんだ。荒井くんにはガツンと客を唸らせるラーメンを作ってほしい。でも突拍子もない具が乗ってるようなのはイヤだよ。
★★★その名の由来★★★
虎: 話は変わるけどなんで名前はドラゴンなの?
龍: 店を出す時、ダサかっこいい名前を目指してたんですよ。
虎: 別にダサくないだろ、ドラゴンは。
龍: 「えー、ドラゴン?」って思わないですか? しかもアルファベットじゃなくてカタカナですよ。
虎: そのへんはジェネレーションギャップなのかな。オレは別に変だと思わないけどね。
龍: 当時、飲み仲間のイタリア系フランス人のガブリエルって奴がいて、龍の漢字を指差して「ブラボー!」とか言い出したんですよ。あ、コレだ!って思って。宮本さん、あんまり興味なさそうですね……
虎: ビールおかわりくださーい。え、なんか言った?
龍: ……いえ、いいです。わかとら家はどうして?
虎: タイガースファンじゃないかってよく聞かれるけど、ぜんぜん野球は関係ない。単純にオレが寅年だから。それと吉村家が師匠だから、家が着いてるのもあるんだけど……
龍: 他にも理由があるんですか?
虎: 歌舞伎とか好きで、ラーメン屋始める前、自分でも日本舞踊やってたんだ。で、ああいうのって屋号があるじゃない。中村屋とか音羽屋とか。粋だろう、そういうの。
龍: じゃあ宮本さんが麺上げして丼にスパーンて麺を入れた時、お客さんから「よっ、わかとら家!」とかって。
虎: 言ってほしいんだよね、オレは。
龍: 宮本さんがシラフの時、それができる勇気の持ち主っていないですよ。ちなみにぼくが次に店の名前変えるとしたら、荒井商店。
虎: すいませーん!ビールおかわり。
★★★虎からのBOM発言★★★
龍: 今ってメディアからの流れってありますけど、空前のラーメンブームじゃないですか? これがずっと続くかっていうと疑問。去った時に同じ気持ちでラーメンを作っていたいって気持ちは強いんですよね。
虎: ブームを意識しちゃダメだよ。うまいラーメンを作れば自然に「美味しい、美味しい」って客は集まる。人がそれをムーブメントって呼ぶ分にはオーケー。でも茨城は今のラーメンブーム、関係ないよ。
龍: そうなんですよね。もっと盛り上がってほしいって思うんですけど。
虎: 取り残されてる感じはするよな。東京とか他の県に比べて。うまいラーメン屋は少なくないけど田舎で点在してる状況。けどオレはそれでいいとも思う。地域に根付いたラーメン屋。家族連れやサラリーマンが安心して通える。そういうのでいいんじゃないか。
龍: 同じ場所でラーメンを作り続けて認められるのってほんとにすごいことですもんね
虎: ただ、ブーム云々は別として、もっともっとうまいラーメン屋がこの茨城にできてほしいって気持ちはあるよ、オレにも。
龍: ほんと、そうですよね。宮本さんは当然として、自分も含むのは不遜なんですけど、ぼくらの後に続くっていう人達が、どんどん出てきてくれればなって思いますよ。
虎: 考えたんだけど、ラーメン屋になってみたいって人、すでにラーメン屋やってるけど味で悩んでる人、うちと同じ味でやってみたいって人。そういう人たちがいるんであれば、ノウハウっていうのかな、わかとら家で教えてもいいと思ってる、オレは。
龍: それってかなり大胆発言ですよ。
虎: そうかなぁ。その店なりの秘密をキープするってのも大事なことだけど、そこまでわかってるんだったら開示してもいいんじゃないか。今、ラーメンの味で悩んでる人にとって時間や材料費、いろいろムダなプロセスが省けると思うんだよ。
龍: ましてや悩んでる人は生活もかかってますからね。あの、宮本さん……
虎: まさか、さっそく名乗りをあげるつもりじゃねえだろうな。
★★★苦労、苦悩、そして喜び★★★
龍: 苦労話ってやっぱり一種の自慢になっちゃうからあんまりしたくないですけど、ラーメン屋ってやっぱり重労働ですよね。
虎: 仕込みがあるから当然朝は早い。いったん動き始めれば、それが寝るまで続く。1日15、6時間は働くもんな。
龍: それも納得できる味ができて、お客さんもいっぱい入ってとか、精神的見返りがあればいいですけど……。ぼく最初のころは朝になるのがイヤでイヤで。店に火つけたくなりましたもん。
虎: オレも最初の2年ぐらいは辛かったなぁ。捌ききれなくてスープとか捨ててると、金かけてオレなにやってんだろうって、しみじみ情けなくなっちゃってさぁ。
龍: でも逆にお客さんがばんばん入って、どんどん注文をこなしてる時って、すごく楽しくなってくるんですよね。ラーメン作りながら、ある種トリップしちゃうぐらい。
虎: 売れてると嬉しいよ。でもそれは銭金の問題じゃない。波にのって美味しく作れる状況になるからなんだよな。そういう時って、スタッフ全員、顔つきが目に見えて違う。
龍: ラーメンズ・ハイですよね、これって。
虎: 一心不乱にラーメン作りに取り組んでるとアドレナリン出るっていうけど、ほんとハイな状態になるよな。自分のベストなものを丼に創造できる喜びだよ。
龍: ですよね。
虎: 大げさだけど、サグラダファミリアを設計したガウディと変わらないよ、根っこは。歪んでても、住みづらくてもいいんだよ。食った人になんかしら感じるものが残れば。
龍: こころざし高く精進してく。それしかないですよ。
虎: ただ、オレたちは根本的にアーティストじゃない。地道に毎日ラーメン作って、小さな感動をお客さんに味わってもらう職人、アルティザンだと。チャーシュー焼いたり、スープ仕込んだりって作業を積み重ね、研ぎすまさせて「美味しい」って言葉をもらう。
龍: 尽きますね、そこに。ぼくたちにとって、その言葉は肥やしにも励みになる。やっぱり満足して帰ってほしいですよ。来てくれたお客さんには。
★★★カーテンコール★★★
龍: 親しくおつきあいさせてもらって、ほんとに感謝してます。ぼくにとって今っていうのは吸収の時。ラーメンの作り方、人間関係、すべてにおいて手本となる人が宮本さん。今日はこういう機会をいただいて、ますます魅力にひきこまれたって感じです。
虎: いつもはここまでラーメンの話しないもんな。荒井くんは、オレに刺激を与え続けててくれる大切な存在だよ。そして互いに気持ち良く、実りあるつきあいができる男。これからもよろしく。
龍: こちらこそ。これからもよろしくお願いします。
★★★おまけ★★★
虎: ラーメンは日本人全員が初めて手に入れた食のアイデンティティ。だからみんな一家言持ってる。そもそも我々は麺民族なんだよな。。歴史は浅いけれど、思い入れは各々深い。敷居が高くないってのもいいんだろうね。

龍: スープって炊き続けてるから、いちばん美味しくなる時間ってありますよね。逆にある瞬間を越えるとガクンと落ちる。いい時は、今来て、今来てーって思うんだけどなかなか来ない。で、悪くなるとわんさか入って来たりする。なんだよーって思いますよね。

虎: オレ、ラーメンの世界に入る時、これでダメだったらこうしようって覚悟を決めてた。死ぬのは短絡的過ぎる。じゃあなんだと思う。仏門に入ろうと思ってたんだよ。

龍: 店を出してから、年々寸胴鍋に入れる食材増えてるんですよ。でも値段はなかなか踏ん切りがつかなくて上げられない。味は美味しくなるけど、コストは高くなり続ける。スープ・デフレーションですよね。

虎: オレのいちばんの趣味は仕事かもしれない。趣味だから好き放題やるっていうんじゃなくて、緊張と責任の中に身を置いて熱中すると、心と体が充実してくのが自分でもわかる。なんとも言えない心地良さがあるよな。
龍: 好きな旅行なんですけど、観光地周ったりとかじゃなく、なにも知らない所で捨てられたぐらいの感覚でその場所に溶けこみたいんですよね。でもこれからは、写真とか趣味にして遺跡とか撮影旅行しようかなとも思ってるんです。

虎: 生きてる時の最後の晩餐はなにがいいかって話をお客さんとしてて、女性だったんだけど「私はわかとら家のラーメンが最後に食べたい」って言われたことがある。
ジョークだったんだとしても、オレ、その日は家に帰ってからわんわん泣いたよ。

龍: 常連のお客さんが急にこなくなるとすごい不安ですよ。で、ある日、ひょっこり店にくると「心配してたんですよー」って言っちゃう。お客さんが思ってる以上に、ぼくはお客さんの顔を覚えてますからね。

虎: 小さいころ、ボーイスカウトやってたんですよ。たまにその隊長が定食屋みたいなとこでラーメンを食べさせてくれた。衝撃的だったよね。あれがオレの原体験なんだろうな。

龍: ぼくの最初のラーメン体験は子供のころ、お祭りの帰りに家族で寄った昔ながらのラーメン。テレビがナイター流してたりして。そう言えば一昔前は出前も当たり前でしたよね。もし頼まれても、今の自分はできない。
だっておっかないですよ、麺の状態とか、スープの温度とか。