茨城のおいしいラーメン15

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26ラーメン屋への道1
人生: そもそもラーメン屋の前は何の仕事をしてたのかな?
小櫻: いろいろやりましたよ。道路工事から記者から。営業まわりの仕事なんかもしてました。今日はここのラーメン食べるから何時に出て、あの会社に営業かけようか、とかって。
人生: 仕事よりラーメン優先。
小櫻: 自分の好きなラーメンにはテーマがあって。丼の底が見えるぐらい透き通ってて、なおかつコクがあるしょうゆ味。食べる側としてこれを求めたいと。
人生: うんうん。
小櫻: 美味しいところもいっぱい行ったんですよ。でもここは麺がいいけどスープがちょっととか。スープが抜群だけど具の組み合わせがちょっとアレだなとか。そのうちに…
人生: いろいろ食ったけど、気に入ったのがないから、自分で作っちまえと。
小櫻: そのころ親が亡くなって、実家が空いちゃった。ちょうど仕事も辞めてゴロゴロしてた時期で。多少の蓄えがあったんで、肉屋でガラとか買ってスープ作り試したり、うまい店を食い歩いて、食材の仕入れ先を調べるのに裏口のゴミを漁ったりしてたんです。
人生: すごい研究活動だ。
小櫻: そのうちかあちゃんにバレちゃった。だったら実家を改良してラーメン屋でもやってみっかと。深い考えなしに。
人生: じゃあまったくの独学だ。おれもそう。修行とかしてないんだよ。
27ラーメン屋への道2:04/03/13 00:45
小櫻: 結局誰かの下について覚えてくと、その店主以上の味にならないんですよね。自分で店を切り盛りしながらお客さんの食べてる顔を見て味が作られてくもの。おれなんかはそう思うんです。
人生: まったく同感。ところで店の準備とかはどうしたの?
小櫻: 近くのホームセンターや中古屋で材木やらステンレスやら買ってきて。量販店で買ってきた布をかあちゃんがミシンで暖簾にしたり。
人生: やるもんだねえ。
小櫻: オヤジさんはどうしてこの世界に入ってきたんですか?
人生: おれはね、もともと機械いじりが好きで工場やってたの。現場あがりでだんだん偉くなって気づいたら社長になっちゃってた。
小櫻: 順風満帆。それがなんで?
人生: そうなると周りが現場で作業なんかさせてくんないんだよ。
小櫻: 社長がそんなことなさらなくても、私がやりますやります、なんていって。
人生: そう。製造業ってのはものを作ってクレームや反響が返ってくるまで何ヶ月もかかるじゃない。そうじゃなくて自分が一生懸命手がけて、すぐに返ってくる仕事がしたくなったんだよね。
小櫻: それでラーメン屋。あれ、その会社はどうしたんですか?
人生: 甥っ子に任せちゃった。
28オヤジたちの仕事:04/03/13 00:45
人生: 実は会社を経営してる時、ラーメン店作りのプロジェクトを試みた時があった。何人か集めて。でもみんな立地がどうたら、コストがなんやら、回転率だとかしかいわないんだよ。
小櫻: 肝心なラーメンの味が…
人生: うん。うまいものを作ろうっていう気概、発想がまったくない。これは自分だけでやらないとダメだなぁと思った。
小櫻: ただのビジネスになっちゃうとラーメン作りはつまらない。自分んとこ、キロ3千円のトビアゴ使ってるんです。とてもじゃないけど店の経費なんか使えない。でもスープに深い甘味が出る。だから自分のこづかいでやりくりしてんです。かあちゃんに内緒で。
人生: おれがおたくに会ってみたいなと思ったのは、人づてだけど儲けをほとんど考えてないって聞いたからなんだよ。その通りだ。
小櫻: あははは。繁盛してるけど儲からないラーメン屋。
人生: 金勘定は女の仕事。やりくりや採算だとかを考えてたら、男はいい仕事なんかできっこない。
小櫻: あとオヤジさん。ラーメン屋は、必ずその店のオヤジが厨房にでーんと立ってないといけないですよね。
人生: いわずもがな。絶対的にそりゃそうだよ。
小櫻: 店の親父が自信をもって真剣に作ったラーメンを客の前に出す。それがないとニセモノになっちゃう。
人生: おれたちの仕事ってのは、ラーメンと一緒に感動を売ってるんだよな、
小櫻: 陽の出る前から暮れるまで狭い厨房に立ってラーメン作りに取り組む。でも苦痛じゃないんですよね。おもしろいし楽しい。やってるうちに頭の中から商売の感覚なんか飛んでっちゃう。
人生: お互い好きな道を歩んでるからなぁ。リンクする話だけどラーメンの美味しさってのは五感だけで味わうものじゃない。オヤジの味、店の味ってのが一番大きい。
小櫻: うちの店、三人でまわせるけど四人でやってるんです。なんで一人多いかっていうと帰ったお客さんの丼をすぐに下げられるように。外で並んで待っててくれたのに、やっと店に入って丼そのままじゃやんなっちゃいますもんね。
人生: そういう雰囲気作りは大事だよな。
小櫻: ラーメンの味そのものはオヤジが作るもんですけど、キープするのは店全体なんですよね。
小櫻: オヤジさんとこの厨房は広いですね。器具なんかも充実しててすばらしい。理想的ですよね。
人生: 客に出す料理とは関係ないオーブンとかあるもんなぁ。
小櫻: ウチの常連さんとかによくいわれてたんです。早く人生のオヤジさんに会っときなって。みんなの話とか聞いて、とても魅力的なオヤジなんだろうなと。
人生: どんな話聞いたの?
小櫻: 調理器具に囲まれてラーメンの魔法を研究してるって。
人生: まだ魔法は習得してないよ。おれもあなたのことは周りから聞いてた。ずっと興味持ってていつ会いに行くかなと思ってたら、そっちから来てくれた。今のラーメンブームのこととかいろいろ話してみたいと思ってたんだよ。
小櫻: 今、ブームになってるラーメンって刺激の強いもんがほとんどじゃないですか。もちろんおれはトンコツ系とか背脂系とか否定するわけじゃないですよ。うまい店のラーメンはやっぱりうまいですから。
人生: まあ、素材が持つ風味や食感を殺してるものは圧倒的に多いよな。
小櫻: おれら以前の年代ってのは、小さい頃おかあちゃんの作るおしんことかで育った。そう考えるとちょっと悲しいなって部分もあるんですよ。
人生: その気持ちわかる。
小櫻: おれ一回店からコショー全部下げちゃったことあるんです。
人生: スパイスは起源をたどればただの匂い消しだもんな。
小櫻: そしたらみんなブーブーですよ。かあちゃんにまで「やり過ぎじゃないの」っていわれて。
人生: で、戻したの?
小櫻: ええ。そのかわり全部但し書きつけました。[あまりかけ過ぎると小櫻の味を損ないますのでご注意ください]とか。
人生: 話は戻るけど、今、ラーメンはやっぱりブームの真っ只中なんだよ。それが去ってからが本当の勝負といえるだろうね。
小櫻: おれはそういう時がきても自分のペースでやれるって思ってます。家族が食べられるぐらいはできっぺ、って。
人生: 必要なのは、どんな時でも前見て夢中に働くってこと。妥協しないでちゃんとやってれば絶対に仕事はまわってく。金は少し足りないぐらいがいいんだよ。
小櫻: 金銭面でいうと、ウチの店は今もそうですね。
30ラーメンが繋ぐ契:04/03/13 00:47
人生: 話してると、楽しいし、勉強になる人だよね。こうして巡り逢えて本当によかった。ラーメンってものと生きるってことに信念を持って取り組んでるよね。
小櫻: オヤジさんは今まで積み上げてきた部分が大きいから、余裕と遊び心を持ってラーメンを作ってる。おれはまだまだ駆け出しだから、あれもやりたいこれもやりたいのぎゅうぎゅう詰めでラーメンを作ってる感じです。
人生: おれの歳でもこれからまだまだ自分だけのラーメンを探求し続けるつもりだよ。うまくいかない部分も多いし。これはもう納得いくまでやるしかないよな。
小櫻: 今、自分ぐらいの年代が一番生意気盛りじゃないですか。ラーメン作りにもスケベ根性がまだまだあるし。年輪を重ねていっていつかオヤジさんみたいになっていきたいと思います。
人生: 近いうちに今度はおれがそっちに遊びに行くから。そん時はラーメン食べさせてください。
小櫻: はい、ぜひ来てください。
人生: 今日はこれから食べてくでしょ?ウチのラーメン。
小櫻: いただきます!師匠。
31おまけ:04/03/13 00:48
小櫻: 厨房にいる時は夢中でアドレナリンが出てっから、マナー違反の客にはけっこう怒鳴っちまう。
人生: のびた麺と冷めたスープはまずいラーメンの絶対的な二大条件。
小櫻: 店名もいろいろかっこいいのも考えたんですけど、子供の頃住んでた地名にしたんです。一番楽しかった頃のがおれの原点だなって。
人生: この30、40年で時代ってのはすごく進化した。逆におれはゆっくり時間の流れるところにいきたいんだよ。だから店のストーブも昔の薪のまま。いつも自分のできることだけで手いっぱい。それを一生懸命ずっとやっていきたい。
小櫻: ナンバー1じゃだめ。がんばってるラーメン屋同士が切磋琢磨しあわないと。今は商売抜きでラーメンの話ができるそんな仲間がたくさんいる。
人生: ラーメンが好きってだけじゃなく、その上にバカがつくぐらいじゃないと。おれたちは一杯の満足いくラーメンにたどりつくため、泣かされ泣かされここまでやってきたんだから。
小櫻: おれとかはまだ青二才だから理屈をこねくりまわして答えを探そうとするけど、オヤジさんはそこに存在してるだけで、なんていうか雰囲気で答えを出してるんですよね。
人生: ラーメンを通して自分の人生をいかにエンジョイするか。今の自分にとってラーメンはその手段なんですよね。