一見、文楽界側は堂々と公開討論に臨めばよさそうに思える。だが、公開討論の申し入れは、実は
▽技芸員の収入格差の是正▽協会がマネジメント会社のように公演のマージンを取る仕組みに変える、
という2条件とセットだった。すぐには無理だと断ると、橋下市長は激怒した。
込み入った話になるが、協会と技芸員の関係を説明しよう。技芸員は「個人事業主」として協会に所属するが、
基本的に協会からは収入を得ていない。協会から国立文楽劇場などに派遣され、劇場から支払われる出演料が収入となる。
出演料は、同劇場や国立劇場を運営する独立行政法人「日本芸術文化振興会」と協会などで決めた技芸員に
対する5段階の評価に基づく。つまり、収入格差の問題は、まず振興会や協会が検討し、その後、個人事業主・
技芸員と個別交渉が必要になる。このため協会は大阪市に「時間が必要」と回答した。
http://mainichi.jp/feature/news/20120724dde012040019000c2.html 協会が公演のマージンを取るのも、協会だけでは決められない。協会は、松竹が1963年に文楽の興行から退き、
公演のマネジメントなどを肩代わりするため設立された。国と大阪府・市、NHKが出資しており、「協会の役割変更は
国などとの協議が必要」だ。いずれも協会の言い分は妥当で、橋下市長が言う「特権意識」「恐ろしい集団」とは
何を意味するのか? 協会も「市長の真意が分からない」と困惑する。
2条件は、問題提起としては意味がある。後継者育成の観点から若手の賃上げは望ましいし、マネジメント
会社的な仕組みにすれば、協会は独自収入を得られて補助金への依存が減る。半面、文楽全体の収益が
限られる現状では▽若手の賃上げはベテランの賃下げを招く▽マージンを取ると、その分技芸員の
出演料が減少する。橋下市長は冷静に提言し、検討を待つべきだった、との声もある。
演劇評論家の権藤芳一さん(81)には、8日に住大夫さんから「(公開討論は)どうしたもんやろか」と電話で
相談があったという。権藤さんは「無理はしない方がいい」と助言した。芸一筋に生きてきた住大夫さんらが、
弁舌巧みな市長から持論を押しつけられることを懸念したからだ。