【出囃子・出語り】歌舞伎の地方【長唄とか浄瑠璃】

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299重要無名文化財
傳左衛門日記 10月11日
ttp://blog.sankyokai.com/2013/10/1011_2.html

今月は国立劇場、染五郎丈の「鏡獅子」。
「食べたものが出る」という喩えが有るが、幼少から厳しく仕込まれているだけあって、
金太郎君の胡蝶が品も行儀も良い。楽屋での挨拶からして、やはり違う。
世襲は環境である。血統が有ってもちゃんと鍛えられなければ只の駄馬。
さて、八月から三ヶ月連続の獅子物であるが、よく曲中の「露の拍子」について、
御覧になられた方々から楽屋口や道端でお声掛け頂き、ご質問ご評価を頂くので、回答まとめて。
あそこは古来、調べの音をさせなくてはならないところでは無いし、弱音でも無い。
或時、松竹座のこけら落とし辺りか、静寂の中の調べの音が更に静寂を喚ぶ感覚に襲われ、
間を溜めて強い弱音を響かせる遣り方でやった時、中村屋に「あのイキとあのポンだ!
今までずっと鏡獅子やってきたけど、初めて露の意味が解った!誰が何と言おうと
今後はあれで!」と、自分で申すは気恥ずかしいが、ベタ誉め。
と同時に大きな課題。
鼓は気候、劇場の空調、音響等に影響され、ともすれば偶然の産物と言えるのを
百発百中にしなければならない。
丈の「千万人と言えども我往かん」のあの闘志が乗り移り、精度を上げる練習。
弱音は強音の十倍以上の、まさに寿命を削るような集中力と腕力を要しつつ、
軽く打っているように見せなければならない。
私の遣り方は、先達には非常識と言われるかもしれないが、様々試行しつつ、
平成25年現在は斯様な感じ、というのが回答である。
去年の勘九郎襲名で「鏡獅子」を野田秀樹さんと御覧になられた
キャサリン・ハンターさんが開口一番「あそこは深い山の中の、花に水気が
集まって垂れる音ね!」と、何の予備知識も解説も無く感想を仰っていたので、
取り敢えず意図した通り伝わるようにはなってきたか。
それにしても現在は染五郎さん海老蔵さん猿之助さん、勿論勘九郎さん兄弟に
菊之助さんと、「鏡獅子」を踊る技術と資格を持つ役者さんが大勢居る。
中村屋から頂戴した遺産を発揮する機会を多く頂くのは、本当に有難いことである。
こんなに早く「遺産」になると思わなかったが。
日時: 2013年10月17日 20:00