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重要無名文化財:
編集者:(中略)お茶事は演出するもの、フィクションである。しかも、それは歌舞伎の「先代萩」とか
「菅原伝授」とか、たとえ俳優がかわっても繰り返してなんべんでもやれるというものではない。だから一期一会……。
千:一期一会はお茶から出ているんだが、べつにお茶だけに限らなくともいいでしょう。人間はおたがいに生活に
追われているから、一日の一瞬間でも、ほんとうに心からとけあってお茶事を構成していこう、そういう解釈で
いいんじゃないですか。今日会えば二度と会えなくても満足だという真剣勝負のような気持、そういう気魄は
当然あるべきだと思う。ただ、それを押しつけては、おたがいに窮屈になってしまうけれど。
三島:最高の快楽というのはそういうもんじゃないか。現在の一瞬間を最高に楽しむ。非常にストイックな
快楽ということになりますね。
三島由紀夫
千宗室との対談「捨身飼虎」より