どうも常連さんの投稿がないようですね。こっちも野暮用に追われてなかなか取っかかれなかんたんです
が、本業は不景気で閑古鳥が鳴いてるしまつなんで時間が作れないわきゃあない、なぁにやる気になれば
噺の一つや二つ...とはいってはみたがアイデアが出ないといった具合で何とも締まらない話で...
不景気をぼやいてばかりいても仕方がないんで、いつもとちょいと趣向を変えまして、化けもの屋敷と
いう馬鹿馬鹿しいお噺でご機嫌をうかがわせていただきます。
「化けもの屋敷」
ちかごろではテーマパークってんですかね、でっかい遊園地に押されて昔ながらの見世物小屋なんぞが
出る幕はないようですが、今と違って娯楽の少ない時分には縁日などでもずいぶん色んなことをやって
いましたね。
あたしが子供の時分に覚えているのは、小っちゃな金盥の中に真っ黒な水が入っている、そこにセルロイ
ドのアヒルが浮かんでいましてね、これがあっちに行ったり、こっちに行ったりして、ちょこまかと泳ぎ
まくっている。とってもゼンマイ仕掛じゃあこうは行かない。
盥の後ろには小汚い親父なんぞが一人で下を向いて何にも言わずに座っていて、横の看板にこの不思議な
アヒルについて知りたい奴は本を買えなんぞと書いてありましてね。
盥の周りには人がいっぱいたかっていましてね、ああでもない、こうでもない、としゃべってるんだけど
誰も仕掛けがわかりゃしません。
そのうち折り合いをみはからってサクラが本を買うと、客のほうもつられて俺も、俺もという調子で
傍に積んであった本があっというまに売り切れます。
これでもう商売はお終いかなと見てると、親父はまたどこからかごそごそ10冊くらい新しい本を出して
くる。
こっちも子供心にアヒルがどうして泳ぐのかが気になってしょうがない。それでなけなしの小使いを
はたいて本を買って懐に入れて、ワクワクしながら家に帰るんですがね、こういう時は帰るまで待てない
もんで...
横丁の路地かなんかの陰で本を開いてみると「アヒルの首に糸を結びつけるべし。」と書いてある。
オヤって思ってもう少し先を読むと「糸の先には泥鰌をくくりつけるべし。」なんて人をくった商売が
昔はあったもので...
ろくろっ首「一つ目の坊や、何で泣いてんだい?」
一つ目小僧「だってお腹が空いてたまんないんだもん。」
唐傘お化け「そういゃあ俺もここんとこロクなものを食ってないんで骨と皮になっちまったなぁ。」
大入道「おめぇは昔から骨と皮だったじゃあねぇか。」
のっぺら坊「おい、おい、混ぜっ返すんじゃあないよ。でも確かに最近は実入りが悪いからなぁ。」
河童「おいらだって皿の水が乾いちまったよ。胡瓜の酢の物とうまい田楽でも肴にキューっと一杯やった
ら頭の湿り具合もよくなるんだがなぁ。」(パチパチパチ)
古狸「そういゃあ、座がしらの猫娘が割りをピンハネしてるっていう噂もあるぜ。」(パチパチパチ)
ろくろ「そんな根も葉もない話をしゃべるんじゃあないよ。あたしだってたまにはおいしい油も舐めて
みたいけど、今は世の中が不景気なんだから仕方がないじゃあないか。」
ざしき童子「『不景気』あたいも食べたい。」
河童「この餓鬼ぁ、ケーキと間違えてやがらぁ。そりゃ食いもんじゃあねぇや。」
猫娘「さっき誰かあたしの悪口を言っやしなかったかい、ピンはねがどうとか?」
大「おや、猫の姐さん。誰もそんなこたぁ言ってませんよ。なぁ、おい?」
古「そうだとも。昔おいらがサイコロに化けたころ、ピンを出してハネたことがあったなぁという思い出
話をしてたんで。」
猫「ふーん、それならいいけど。それにしてもみんなどいつもこいつも揃って不景気な面をしてるじゃ
ないかね。」
大「それなんですがね、姐さん。一つ目の坊やは腹を空かして泣いてるし、みんなお茶をひいてどうにも
こうにもならないんでさぁ。何かいい知恵はないもんですかねぇ。」
猫「そうさねぇ、近頃はテーマパークとやらにお客を取られて...それじゃみんなこうするかい?」
古「そうします。」
猫「まだ何も言ってないよ。ただ黙って待っててもジリ貧だからこちらから打って出ようじゃあないか?」大「おい、野郎ども、姐さんのおっしゃることを聞いたか。それじゃあみんな鉢巻をして、得物は得意な
ものをてんでにもって...俺りゃ金棒にするか。」
猫「馬鹿だねぇ。だれが殴り込みをかけると言ったよ。人の話をよくお聞き。」
大「へぇ。」
猫「みんなで揃って大阪はUSJの前に小屋掛けして、化けもの屋敷を開いて客を呼び込むんだよ。」
(パチパチパチ)
大「そんなんでうまく行きますかねぇ?」
古「満員で入れずあぶれた客がこっちに来るかもしれねぇな。」
猫「情けないことを言うんじゃないよ。皆で頑張ればどうにかなるさね。」
ということになりまして、USJの近くを探すとちょうど適当な空き地があったんでそこに勝手に小屋掛
けしまして、文句を言いにくる奴はろくろっ首が顔をペロリと舐めて追い返す、なんぞと大変な騒ぎで
して。
さていよいよグランオープンとなりましたが、物珍しいのか若い娘さんたちが外に鈴なりの勢いで列を
作るといった具合で...
大「姐さん、当たりましたねぇ! これからは俺いら達の天下だ!」
猫「そうは問屋がおろしそうもないよ。」
古「どうしてです?」
猫「だって外の娘達をご覧よ。真っ黒けなのとか、のっぺら坊に眉毛を描いた奴とか、あたし達よりよっ
ぽどすごい化け物揃いだ。これじゃあ商売にはならない。」(ドンドン)