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国立駅舎どうなる 瀬戸際の保存問題
曳き家・市議会が3度否決 存置・JRが拒否 解体復元・価値考え市が難色
JR中央線の高架化工事に伴う国立駅舎の撤去期限が刻々と迫っている。国立市が目指した
「曳き家(ひ や)方式」は野党多数の市議会で3度否決された。現在地に残したまま工事を進める
「存置方式」は工期への影響からJR東日本が拒否。JR側が提案した「解体復元方式」は駅舎の価値が
損なわれるとして、市が難色を示しており、保存問題は行き詰まっている。JR側は「9月議会がリミット」と
している。
■■ 曳き家方式 ■
駅舎を駅前ロータリー内にある円形公園へ台車などを使って約40メートル一時移動させ、高架化工事が
完了する2010年度以降、現在地へ再び移動させ、保存するという計画。
移転対象は三角屋根を構成する駅舎の木造部分で、東側の鉄骨部分は将来の復元を視野に解体する。
この方式では、往路に約4500万円、復路は修復費などを含め約1億円かかると試算され、一時移転中の
維持管理費などが別に必要となる。
市は、全解体して工事終了後に復元する方法に比べ〈1〉工費が安い〈2〉部材の保存場所確保が必要ない
〈3〉部材の再利用率が高い――などのメリットがあると説明している。これに対し市議会野党は
「現在地へ戻す際に、JRからの土地取得に多額の財政負担が必要になるなど、計画が不透明だ」などとして
反対している。
■■ 存置方式 ■
駅舎を現在地に残したまま高架化工事を進める方式で、駅舎保存の上ではベストとなる。しかし、現在地を
資材置き場や工事車両搬入などの工事用地として使用できなくなると、工事の遅れは避けられず、遅延金は
年1億5000万円に上るという。その全額が原因者(市)の負担になると説明されている。
市は駅東側のガード下の道路拡幅用地を前倒し取得して工事用地として提供する案を示したが、JRは用地の
距離や広さ、提供時期などから、工期への影響は避けられないと拒否した。
(※
>>303の続き)
6月市議会で曳き家案が3度目の否決となった後、議会で「存置方式」を目指すと決議され、市や議会は
改めてJRに「存置」を要望したがJRは「当初計画通りの撤去」を表明。撤去の際、一部部材を保存し、
将来復元する「解体復元方式」を選択するかどうかの判断を市に迫っている。
ただ、存置方式の場合でも市による保存ならJRからの土地取得は必要だ。
野党などは「JRの負担による保存」との主張を強めているが、JRが存置方式を受け入れる可能性は
低いとみられている。
■■ 解体復元方式 ■
長野新幹線建設時に軽井沢駅で採用されたことから「軽井沢方式」と呼ばれたり、復元が元の駅舎
そのものでないことから「レプリカ方式」と呼ばれたりする。
JR側の提案によると、駅舎のうち「円形飾り窓」「屋根瓦」「古レールを使った柱」などを解体時に保管する。
木造部分などは腐食などが想定されるため保存されない。
復元の規模などによるものの、建設費は曳き家以上にかかるとの指摘がある。現在地へ建設する場合は、
曳き家や存置方式同様に土地取得が必要となる。
◇
(※
>>304の続き)
駅舎保存の運動を行っている市民グループ「赤い三角屋根の会」事務局の中町仁治さん(52)は
「一見、市と議会が一致して保存を目指しているようにも見えるが、成算はなく、時間切れで一部の部材を
保存する解体になってしまうのではないか」と懸念。「市も議会も市民への経過説明が足りない」と
いらだちを示す。
同会は市議あてに「存置方式を訴えるからには、しっかりとした材料を持った上で不退転の決意で交渉に
当たってほしい」「経緯の説明と現在の状況について市内各所での説明会開催」「万が一、駅舎が
残らなかった場合、どのような責任を取るのか」などとした文書を提出、10日までの回答を求めている。
一方、保存問題への関心を高めようと活動している市民グループ「ティームくにえき」の吉谷崇さん(28)は
「解体復元方式は問題を先送りする一時逃れに過ぎない」と批判している。
(2006年8月5日 読売新聞)
ttp://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news001.htm -----
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“街の顔”として親しまれてきた駅舎の保存問題は、各地で持ち上がっている。「開発優先」や
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解体復元のモデルケースとなった軽井沢駅の概要を紹介する。
(※見出しのみ)
(2006年8月5日 読売新聞)
ttp://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news002.htm