4.運転制御方法
第1章でも述べたように、総括制御方式の開発によって長大編成が可能になり気動車列車が
飛躍的にふえたのだが、この総括制御方式について簡単に説明しよう。
例えば乗用車を運転する場合は、アクセルを踏んでエンジンの出力を加減しながら、
スピードに応じて手動でギアチェンジを行ない、目的のスピードを得ている。これはエンジン
が1台だから操作できるのであって、2台以上になると1人でマニュアルで操作することは
困難になる。これを可能する方式が総括制御と呼ばれているものである。エンジンの総括制御
の一例は電磁弁と空気圧を用いて行なう方式であり、DMH17H型、DMF13HS型などに採用されて
いる。これはDC24VまたはDC100Vのバッテリー電源を用意し制御用電源として各車両に引き
通しておき、エンジンにはそれぞれ3個の電磁弁とこれを結ぶリンク機構を設け、調速機の
コントロールレバーと結んでいる。運転室マスコンからの指令により、3個の電磁弁のON・
OFFが2進法にのっとって励磁され、指令ノッチによってリンクのリフトを変え、コントロール
レバーにより燃料の噴射量を増減させている。この方式では各エンジンの燃料噴射量が同一
に制御されるので、エンジン出力も同一となり均等にパワーを発揮する。エンジンの出力
制御には回転数を一定に保つため燃料噴射量を増減させる方法もあるが、直結運転を行なう
気動車ではノッチによって車速がギクシャクし、また他形式エンジンとの混結運転を行なう
場合、エンジン負荷が片寄りアンバランスになる可能性があるので好ましくなく、したがって
エンジン回転数に関係なく、各ノッチごとに噴射量を一定に保つ制御方法が使われている。
5.気動車用エンジンの必要条件
気動車用エンジンに必要な特徴を説明するため、当社のエンジンの中ですでに500台以上の
納入実績を持ち御好評をいただいているDMF13HS型、13HZ型、13HZA型の直噴シリーズを取り
上げ、外形図・断面図・比較表などを用いながらDMF13H系機関の構造と特徴を解説したい。
(1)信頼性・耐久性と安全性
これはあらゆるエンジンに共通していえることだが、特に気動車のように2両から十数両
連結して走行する場合、中間のエンジンが不調で異音・振動・黒煙などを発しても乗務員
には全くわからず、そのまま運転継続されるためダメージが大きくなる。これに対し
船舶用エンジンは運転中機関士が監視しているので異常を発見しやすい。したがって
気動車用エンジンは信頼性と耐久性がなによりも要求される。
DMF13H系機関はこれに合致させるため、長年の経験を基礎に各種の応力解析計算・温度
計測・性能試験・連続耐久試験を実施して確認するとともに、他形式エンジンの豊富な
データベースとも比較チェックして開発を進めた。例えば耐久性向上のための設計上
の配慮として、
1.潤滑油ポンプをオイルパン内に設置しているので油切れがなく、メタルの寿命延長が
可能になった。
2.ピストン噴油金具によりピストンを強制的に冷却し、摩耗防止・耐久性向上を図って
いる。
3.カム軸ケースにオイル溜を設け、カム・タペットの潤滑を十分に行なって摩耗を防いだ。
4.高ヘッド型の冷却水ポンプを用い、水室の水圧レベルを上げてキャビテーションを
防止した。
5.大容量ミスト抜きを採用し、クランクケースの内圧低下を図っている。
6.ピストンリングの摺動面にはすべてクロームメッキをほどこし、耐久性向上を図って
いる。
次に信頼性・安全性に対する配慮としては、
7.水冷式排気管の採用により、排気ガスの周囲を冷却水ジャケットで包んでいるため
排気管の表面温度が低い。したがって可燃物が付着しても発火する心配がなく、
安心して運転できる。
8.高面圧リングガスケットと耐熱性ゴムOリングを採用し、ガス漏れ・油漏れをシャット
アウトした。
(2)メインテナンス作業性
第3章にも述べたように、気動車の走行キロ数は多いもので月間15,000kmから22,000km、
年間では18万kmから27万kmに達するのでエンジンの定期的点検整備が必要であり現行の
法律では25万kmと50万kmで点検整備することが義務づけられている。したがってエンジン
を点検整備する場合、できるだけ短時間で完了できることが運用率向上・経費節減の
ため重要である。日常の保守点検の容易化と高能率化のため、次のような配慮を取り
入れている。
1.部品点数を少なくしてエンジンの分解組立てを容易にした。ちなみに DMF13HZ型の
部品総数はDMH17H型より22%少なく、DMF15HSA型より57%も少ない。
2.シリンダヘッドは一筒一体型であり、軽くて保守点検を容易にした。
3.ボルトは標準的な六角頭つきボルトを多用、一般的なスパナやレンチだけで分解
組立てを可能にした。
(3)低燃費と良好な始動性
1983年以後に開発したDMF13S型、DMF13H系は直接噴射式を採用している。それ以前の
エンジンは予燃焼室式で、これは燃料を予燃焼室内に噴射して燃料の一部を予燃焼室内
で燃焼させその膨張エネルギーにより残りの燃料をピストン上部の主燃焼室に噴出させ
燃焼させるものである。予燃焼室式のメリットとして燃料噴射ポンプや燃料弁ノズル
に加わる負荷が軽く耐久性があるが、欠点としては予燃焼室噴口穴を空気やガスが通過
するときの絞り損失と予燃焼室の周囲を水で冷却しているための冷却損失により熱効率
が低く、したがって燃料消費率が175〜190g/PShと大きいことと合わせ、これらの損失
のため圧縮空気温度が低いので燃料の着火性が悪く始動性がよくないことである。
および燃料の燃焼期間が長いため排気ガス温度が高く、ピストンやシリンダヘッドの
熱負荷増大となって悪影響をおよぼしている。これに対して直接噴射式は次のような
長所がある。
1.予燃焼室のような損失がないので熱効率が高く、燃料消費率は145〜160g/PShに低減
できた。
2.同様に絞り損失・冷却損失がないため圧縮空気温度が高く燃料の着火性がよい。した
がって予熱プラグなどの始動補助装置は不要である。
3.直噴式は短時間で燃焼が完了するので排気ガス温度が予燃焼室式にくらべ約100℃も
低い。このためピストンおよびシリンダヘッドに加わる熱負荷が軽減され、部品
耐久性向上に役立っている。
(4)出力増大へのステップ
航空機や高速バスとの競合にうち勝つため、車両の高速化と接客設備の拡充・グレード
アップによるサービス電源確保、重量増加などに対応するためエンジンの出力アップ
の必要性が次々に高まってきた。当社はこれにこたえるため、表1・2に示すように
1985年の220PSにひきつづき、1986年に330PSを、そして1989年に420PSを開発し発表
してきた。
DMF13HS・DMF13HZ・DMF13HZAの比較
DMF13HS DMF13HZ DMF13HZA
機関形式 横型・直列・水冷/過給 同左/過給・給気冷却 同左/同左
サイクル 4 同左 同左
吸排気弁数 2弁式 同左 4弁式
燃焼室形式 直接噴射式 同左 同左
シリンダ数 6 同左 同左
ピストン径×行程(mm) 130×160 同左 132.9×160
総排気量(L) 12.7 同左 13.3
圧縮比 15.7 同左 14.5
連続最大出力
出力(PS) 250 330 420
回転速度(rpm) 1900または2000 2000 2000
ピストン速度(m/sec) 10.1または10.7 10.7 10.7
平均有効圧力(kg/cm2) 9.3または8.8 11.7 14.8
シリンダ内最高圧力(kg/cm2) 125 135 145
最小燃費率(g/PSh) 155 151 145
クランク軸材質 炭素鋼 同左 合金炭素鋼
クランクケース材質 ミーハナイト鋳鉄 同左 バーミキュラ鋳鉄
シリンダヘッド材質 ミーハナイト鋳鉄 同左 バーミキュラ鋳鉄
ピストン冷却 ジェット噴油冷却 同左 冷却ギャラリー方式
過給方式 排気タービン式(TD08形) 同左(TD08形) 同左(TD10形)
空気冷却器 なし 給気管内蔵式 同左(容量大)
潤滑方式 歯車ポンプ圧送式 同左 同左(容量大)
冷却方式 渦巻ポンプ循環式 同左 同左
始動方式 始動発電機(7.5kW)×1 同左 同左
機関制御方式 電気式燃制 同左 同左
単体重量(乾燥)(kg) 1300 1350 1410
搭載車両 キハ31・32・33・38・54・ キハ183・400・480 キハ110・キヤ190換装
183・185・キロハ186・ ニセコ・クリスタル キハ147
キハ130・第3セクター キハ58換装・第3セクター
納入台数 411(発電機用含む) 105 6
1.過給機と空気冷却器による出力アップ
ディーゼル機関の歴史上、1898年ルドルフ・ディーゼルによるディーゼル機関の発明
と同様に、1926年に実用化された過給機(スーパーチャージャー)の発明は画期的な
ものであった。エンジンの出力の尺度として正味平均有効圧力(Pme;kg/cm2)という
評価があり、同サイズのエンジンではPmeが大きいほど出力(馬力)が大きい。無過給
エンジンはPme=5〜6kg/cm2であったが、過給機つきにすることによりPme=8〜12kg/cm2
にアップ、つまり出力を2倍にすることができた。過給機とは排気ガスのもつエネル
ギーでタービンを回し同軸上に取り付けたコンプレッサーで空気を加圧してエンジン
の燃焼室へ送り込むものであり、加圧された空気は容積が同じでも密度が高いので
空気重量が大きく、したがってより大きな出力を出すことが可能になる。あわせて、
従来は捨てていた高温高圧の排気ガスエネルギーを過給機で回収することにより、
エンジンの熱効率も向上させることができた。過給機で空気を圧縮すると温度が
120〜150℃にもなり熱膨張するので、これを水で冷やして収縮させ、エンジン燃焼室
へ送り込む空気重量をさらにふやして出力を上げるために空気冷却器を取り付けた
のがDMF13HZ形であり、いわゆるインタークーラー・ターボである。空気冷却器を
取り付けることによりPme=10〜15kg/cm2までさらに向上した。
2.4弁化への移行
インタークーラー・ターボであっても2弁式ではPme=13〜14kg/cm2が限界である。
2弁式とは1シリンダあたり吸気弁と排気弁が各1本、合計2本のタイプをいい、
これに対し吸気と排気弁を各2本ずつ計4本装備しているものを4弁式という。
4弁式はバルブの通過面積が広くとれるので空気やガスの流れがよくなり、した
がって、より多くの燃料を燃焼させることができるので大きな出力を出すことが
できる。4弁式インタークーラー・ターボではPme=13〜18kg/cm2となり、無過給
エンジンの3倍近い出力を出すことが可能になった。
3.出力アップに対する設計改造
燃料を多く燃焼させれば、シリンダ内最高圧力が高くなりピストンに加わる熱負荷
も増大する。したがってこれに対応するために比較表に列記したようにDMF13HZA形
は主要部品の材質を高級化し、ピストン冷却にも冷却ギャラリー方式を採用して
冷却効果を上げている。
気動車用ディーゼル機関の発展経過と構造・特性について述べてきたが、これからの
エンジンにあたえられた課題としては、低騒音化、排気ガスの無公害化(低NOx化)、
オーバーホール期間の延長、故障診断装置による不具合の未然発見−−など新たな
課題がたくさん生まれてきている。私たちエンジンメーカーは、これらを克服しながら
地域住民や観光客の足として、さらにお役に立てることを念願して進んでいく所存です。