上京してきてすぐのことだった。私は、下宿の近くにちょっとした広場というか
野原を見つけた。私が初めてそこを通りがかったとき、一匹の小さな子犬が
尾を振ってこっちを見ていた。アパート暮らしでペットが飼えない私にとって
久しく犬と触れ合う機会だからか、吸い込まれるようにその野原へ入っていった。
赤、白、黄色。いろいろな色の花がそこには咲いており、綺麗な模様の蝶が
羽を休めようとやってきては、また飛び立っていく。そこはまるで夢のようだった。
浦安の遊園地にもないファンタジーだ…と思いつつその様を見ていると、心が
和んできた。私は犬と一緒に、この野原を駆け回った。とても楽しい瞬間だった。
さっきまで抱えていた仕事の問題も、恋愛の悩み事も、今はどうでもよかった。
いつまでもここに居たいと思った。この居心地のよさは、他の場所にはないだろう。
たまたま今日ここを通りがかってよかった。今日ここに来ていなければ、いつ
またこんな場所に巡り合えるか分かったものではない。そして今の私は、なにか
新しい発見をしたという思いでいっぱいだった。そりゃそうだ、誰にも邪魔されず
都会の喧騒を忘れて癒されることができる、自分だけの場所を見つけたのだから。
心が洗われるような思いとともに、私はその野原を後にした。ここは私にとって
大事な場所であり続けるだろう。そんな気がした。お金さえあれば、いつかここに
宮殿でも建てて暮らしてもいいくらい。それほどに私はここが気に入ったのだった。