推理クイズ3

このエントリーをはてなブックマークに追加
俺の狭苦しいアパートに大学の後輩の山田がやってきた。
山田は俺を見るなり「先輩助けてください」と泣きついて来た。
「金の話ならダメだな」
「違いますよ、実は仕事のことなんです」
山田は、俺の大学の英文科を卒業後、某出版社に就職し、今はミステリ部署にいる。
そこで新年度から有名なミステリ作家の藤原朔太郎の担当になった。
で、その藤原御大からやっかいな難題を出されて困っている、というのが山田の悩みらしい。
「難題ってなんだい?」
「先輩、真面目に聞いてくださいよ。藤原先生が新年度からウチの出してるメルマガのコラムを執筆することになったんです」
「ほう、よかったじゃないか」
「ところが、先生はそのコラムで続きものの新作推理小説を書くと言い出したんです」
「それで?」
「ウチとしたらコラムに日々の雑感を書いてくれればいいと思ってたので連載小説を書く、と言われてちょっと困ってるんです」
「そうか、無料のメルマガに小説書かれたら読者は喜ぶが、会社としては新作は有料の雑誌に書いて欲しいよな」
「ええ、こっちも原稿料払ってるので出来れば有料の媒体に書いて欲しいんですよ、でも先生変わり者だから」
「それで、俺に藤原朔太郎を説得するいいアイデアをくれ、ってことか」
「いえ、先生は新作小説を雑誌に載せる条件を私に出してきたんです」
「それは、なんだい?」
「先輩、ぼくは真面目なんですよ。先生はぼくにクイズを出してきたんです」

山田が言うには、藤原御大は自分の出したクイズを解けば出版社側の要望通り
メルマガでなく山田の会社の雑誌にその新作を載せてもいい、と言ってきたらしい。
つまり、山田がクイズを解けば解決するということだ。
しかし・・・
「そのクイズが難しいので、俺に解いてくれってことか?」
「はい・・・お願いします」
藤原朔太郎コラム第一回
新連載 題名未定

新緑のゴールデンウィークに絶海の孤島にやってきた高校のミステリサークルの部員
そこで起きる壮絶な殺人悲劇
あなたは、この謎が解けるか?

【登場人物】
山口一郎(33)・・・Q高校ミステリ部の顧問教師。
担当は数学。若い頃からミステリ好きで学生時代にはプロの作家を志し
懸賞小説にも幾度か応募していた。ミステリのほかにバイクツーリングと釣りも好き。独身。
ドイル、クリスティー等の王道古典が好き。右利きで手先が器用。

熊本史(17)・・・Q高校3年生でミステリ部部長。
長身でやせているキノコカットの高校生。人当たりが良くて誰にでも親切なので人望がある。
クイーンやチェスタートンなど本格ミステリが好み。左利きでピアノが得意。山口は高校1年時の担任。
顧問の山口のミステリ分野への知識の広さに敬服し憧れの人になっている。

岩尾龍太(18)・・・X大学1年生。
Q高校の卒業生で推薦でX大学に進学。OBとしてときどきクラブに顔を出す。中肉中背、茶髪。
赤川次郎や西村京太郎など2時間サスペンス系の小説を好む。右利き。山口は高校3年時の担任。
中学時代はサッカー部だったが、脚を故障して運動部に入るのを諦め、ミステリ部に入った経緯がある。

坂上純子(16)・・・Q高校2年生。ミステリ部副部長。
小柄で色白、いわゆるロリ体系。本人はそれに悩んでいる様子。
母親がテレビや雑誌に出てる有名な料理評論家。本人も料理は得意。
いわゆる4F系ミステリ、とりわけウォルターズが好き。右利き、家で大型犬を飼っている。

有川聡子(16)・・・Q高校2年生。
生徒会とミステリ部に在籍する真面目な生徒。曲がったことが嫌いで他の生徒からはやや煙たがられている。
中学時代は秀才だったようだが、今は成績がやや伸び悩み。特に数学に苦労している。
ショートカットでボーイッシュ、中性な印象を受ける。右利き。趣味は読書と詩を書くこと。
東野、宮部が好きだが、ミステリ以外でも村上春樹や宮本輝など雑食系な読書傾向。

玉木初男(16)・・・Q高校2年生。
ミステリにはさほど興味はないが、坂上純子に憧れているため入部。
身長は低く眼鏡をかけている。優柔不断なタイプなのでクラスでからかいの対象になっている。右利き。
小説は乱歩や横溝などの有名どころしか読んでいないが、漫画の金田一少年や探偵学園Qはよく読んでいる。

和倉幹子(15)・・・Q高校1年生。
有川の中学の後輩。新入生だが、有川が熱心に勧誘して入部させる。
父親が過去のドラマのDVD収集が好きで、そのためか歴代の刑事ドラマに関する知識は深い。
本人はドラマ「相棒」好きで、DVDを全巻揃え、何度もリピート視聴している。右利き。
「なんだこれ?」
「これがコラムの1回目です」
「題名も未定なのに、いきなり登場人物紹介か」
「はい、しかもそれだけで終わってます」
「しかし、絶海の孤島で殺人・・・って思い切りベタだな」
「まあ、そうですけど、こういう設定は読者に好まれるんですよ」
「へぇ、そんなものかねえ、で藤原朔太郎の出したクイズとは?」
「それが、第2回のコラムを見た上で答えろ、という条件なんです。そしてここにそれがあります」
「そうか、じゃあ見せてくれ」
山田がUSBメモリーを挿して持参のノートパソコンのモニタに映し出された画面は・・・


藤原朔太郎コラム第二回

アルビレックス新潟
川崎フロンターレ
セレッソ大阪
ジュビロ磐田
鹿島アントラーズ
湘南ベルマーレ
ヴァンフォーレ甲府
名古屋グランパス
大分トリニータ
ベガルタ仙台
柏レイソル
大宮アルディージャ
FC東京
浦和レッズ
清水エスパルス
横浜Fマリノス
サンフレッチェ広島
サガン鳥栖
「これで終わりか?」
「はい、これで全部です」
「これってプロサッカーのJリーグだろ、スポーツコラムと間違えたじゃないのか?」
「いいえ、これでいいと先生はおっしゃいました」
「これ、小説でもなんでもない、ただのクラブ名の羅列にすぎないだろよ」
「はい、確かに。先生はおっしゃいました。『この謎を解かなければ2回目のコラムはこれを載せる』と」
「随分メチャクチャだな。お前がクイズを解かないと、メルマガの2回目のコラムはこのチーム名だけがそのまま載るのか?」
「正確には、これに加えてこれまでの経緯を書いて載せるそうです」
「経緯?つまりお前にクイズを出したことと、お前がクイズを解けなかったこともか」
「そういうことになります。先生が言うには『私の1回目のコラムとこの2回目のコラムを見たメルマガ読者は
必ずキミに出したクイズの答えを解くであろう。目の肥えたミステリファンならたやすいことだ』とのこと。
そして、『これが解けないで私の担当をしてたら読者に笑われるぞ、フハハ』と言われました」
「いけ好かないオッサンだな。お前を苛めて楽しんでるんだろうな」
「先生は大御所ですので私が説得しても無駄です。期限は今日1日なんですよ」

期限が1日と言うことで、俺は山田を手伝ってやるにした。
「ところで、重要なことをまだ聞いてないんだが、藤原御大のクイズの内容は何なんだ?」
「それは・・・」
山田によると、その内容とは、これまでのコラムを読んで
この小説の中の殺人事件の「被害者」と「犯人」と「動機」と「殺害時刻」を言い当てろ、ということだった。

「って、まだ事件も起きてないし、小説すら書いてないだろ、分かる訳がないわ」
「そうなんですけど・・・つまり、登場人物の紹介文だけでクイズを解け、ということなんです」
「むちゃくちゃな・・・想像で書けということか」
「・・・助けてください・・・先輩・・・」
心底、悩んだ顔をしてる山田の顔を見て俺は言った。
「わかったよ、説けるかどうかは責任もてないが全力は尽くしてみる」
「お願いします!」

さて、この謎、どうしたものか・・・