ここが噂の2chであるか 其の参

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20ひよこ名無しさん
以下(『「ご冗談でしょう、ファインマンさん」I』リチャード・ファインマン著、大貫昌子訳、岩波書店)より引用

「そもそもことはプリンストン大学院の研究室に始まる。ある日僕が部屋で仕事をしていると、
ボブ・ウィルソンが入ってきた。実は極秘の仕事をする金が出たという。
ほんとうは誰にも口外してはいけないのだ、内容さえ聞けば君だって即座に参加すべきだと思うはずだ。
だからあえて説明する、というのだ。そしてウランのさまざまな同位体を分離して、
ゆくゆくはそれで爆弾を造る計画を打ち明けた。
……僕はそんな仕事はまっぴらだと断った。
……ものの三分もしないうちにさっきの話が頭に浮かんできて、
仕事が手につかなくなってしまった。
 ……僕たちは、ニューメキシコ州のロスアラモスで実際に原爆を造る計画が始まるので、
今までここでやってきたことは中止して、
全員ロスアラモスに集まってさっそくこの仕事にとりかかるよう指令を受けた。
とにかく原爆実験のあと、ロスアラモスは沸きかえっていた。
みんなパーティ、パーティで、あっちこっちと駆けずりまわった。
僕などはジープの端に座ってドラムをたたくという騒ぎだったが、
ただ一人ボブ・ウィルソンだけが座ってふさぎこんでいたのを覚えている。
 「何をふさいでいるんだい?」と僕がきくと、ボブは、
 「僕らはとんでもないものを造っちまったんだ」と言った。
 「だが君が始めたことだぜ。僕たちを引っぱりこんだのも君じゃないか。」
 そのとき、僕をはじめみんなの心は、自分たちが良い目的をもってこの仕事を始め、
力を合わせて無我夢中で働いてきた、そしてそれがついに完成したのだ、という喜びでいっぱいだった。
そして、その瞬間、考えることを忘れていたのだ。
つまり考えるという機能がまったく停止してしまっていたのだ。
ただ一人、ボブ・ウィルソンだけがこの瞬間にも、
まだ考えるということをやめなかったのである。