「隆くん、相談事があるの」
そこにいたのは、僕の知らない京香だった。声はかすかに震え、顔に血の気はない。
こんなに何かに怯えている京香を、僕は今まで見た事がない。
「一体何があったんだ?」
僕は心配になって訊いてみた。しかし、うつむいて黙り込むだけで京香からは何の反応もない。
「なあ、本当に何があったんだよ」
もう一度訊いてみた。京香はそれを聞いて何か哀願するかのような表情を浮かべたが、その口からは何の言葉も発せられなかった。
気まずい沈黙が、テーブルを挟んだ二人の間に流れる。その中で、僕は少しずつ京香に苛立ちを感じ始めていた。自分から話を振っておいて黙り込むなどという真似は、かつての彼女なら絶対やらなかったはずだ。
付き合っていた頃の京香は、もっと正直に自分の想いを言う奴だった。確かに内気な所はあったが、それでもこんな中途半端なことは決してしなかった。
京香が抱えている事情が非常に重いものだと推測はつく。僕だって彼女のことが心配でたまらない。
なのに京香はそれを取り繕おうとする。ゲームセンターで再会した時もそうだ。あの時から彼女が再三見せるぎこちない笑い。それを見る度、僕はこう思った。
『何かあるんだったら正直に話してくれ、こっちまでいたたまれない気分になるじゃないか』と。
僕には京香に対する負い目がある。だからこそ、京香に何かあるのなら助けてやりたかった。それなのに、京香は何も言わないで一人で背負い込んでいる。
そして永遠とも思えるような無言の時間の後、京香が例の作り笑いを浮かべて言った。
「ううん、何でもないの。今言ったのは忘れて」
その瞬間僕の中で、何かが切れた。湧き上がる怒りを抑えきれずに叫ぶ。
「何でもないはないだろ!」
京香の体が、ビクンと震えた。しまった、と僕は思った。
「……ごめん……なさ…い…」
目に涙を浮かべる京香。僕は焦った。本心を隠すような彼女の作り笑いにイラついていたのは事実だったが、それを表に出すべきではなかった。
まして僕は6年前に京香を心身両面で傷付けている。その京香の傷に塩を塗り込むようなことを、僕はしてしまったのではないか?
「……すまない」
僕は、搾り出すようにそう言うのが精一杯だった。頭の中で深い後悔が渦巻く。
一体僕は何をやっているんだ。これじゃ6年前の冬と同じじゃないか。
自分の感情に任せて、京香の気持ちは何一つ考えない。これで僕は京香を傷付けたんだろ?
僕はちっとも成長していないじゃないか。情けない。あまりに情けない。
唇を血が出るくらい強く噛んで、僕は目を閉じた。
京香の顔を直視することなど、僕にはできない。
どのくらいの時間が経ったのだろう。一分か、二分か。
「隆くん、ごめんね」
ふと顔を上げると、京香は泣き止んでいた。まだ頬にはうっすらと涙の痕が残っていたが。
「……私が言い出したことだもんね…最後まで…言わなきゃ」
そう言うと、京香は顔を上げて話し始めた。
「……私、2週間前にこっちに越して来たって言ったよね」
「ああ。それが何か関係あるのか」
「実は……ある人から逃げてきたの」
僕は何か嫌な予感がした。京香の顔が、その台詞を吐いた刹那かすかに憎悪をあらわにしたからだった。
「ある人って誰だよ」
「……前……付き合ってた人……」
そして、ポツリポツリと京香は話し始めた。
僕は時折頷きながら京香の話を聴いていた。京香は時折声を詰まらせて辛そうにしていたが、そんな時には「話したくないならいいよ」と流してやった。
多額の借金。度重なる暴力。止まない浮気。逃げようとしたことも一度や二度ではなかったという。しかしその度追いかけ、泣きつかれた。
『お前じゃなきゃダメなんだ』
あまりの必死さに、それを京香は拒むことが出来なかった。
そして再び繰り返される日常。それがどういったものであるのか僕は訊かなかったし、京香も話したがらなかったが何となく想像はついた。
京香は1年耐えた。よくそれだけ耐えたものだと思う。しかし、遂に限界が来た。
彼女はその男が不在の隙をついて、その男と住んでいたアパートを出た。彼の借金を返すために貯めていた、預金通帳を持って。既に不動産屋で転居先は決めていた。
そして彼女は上板橋にやってきた。それが2週間前のことだ。
長い京香の話が一区切りついた。僕は軽く溜息をつき、ほとんど空になったウィスキーグラスをあおる。氷はほとんど溶けていたが、やけにアルコールが強く感じられた。
僕はその男に対する激しい怒りを感じていた。男として、絶対に許しては置けないタイプの人間だ。もし目の前にそいつがいたら、自分の感情を制御する自信はない。
少し冷静になりたかったが、それでも怒りがかすかに声に出た。
「それで、そいつは今どうしてるんだ?」
「……分からない。でもきっと今でも私を血眼になって探してると思う」
京香は心底怯え切った目をして言った。それはそうだろう。今までは京香は友達の家に逃げ込んでいたが、その度毎にその男は蛇のようなしつこさで京香の居場所を探し当てたという。
今回は全くの一人暮らしだが、それでもその男に対する恐怖は晴れないのだろう。
「もちろん、携帯やメアドは変えたんだよな」
「うん……でもやっぱり怖いの…今でも時々眠れなくなる」
京香の声は、また震え始めていた。その姿に、今まで抑えていた気持ちが少しだけ溢れた。
「僕が守ってやるよ」
えっという表情を浮かべる京香。僕は真っ直ぐに京香の目を見た。
「もう僕は京香が傷付く姿は見たくない。いつでも相談に乗る。少しは何かの役に立てるかもしれないから」
その台詞を聞くと、京香の顔が涙で歪んだ。
「…ねぇ、ちょっと…隆くんの…胸貸して…」
僕は席を立ち、座ったままの京香を抱きしめた。
京香の嗚咽を聞きながら、僕は彼女を守りたい、と思った。
それが、僕の贖罪なのだから。
418 :
272:02/11/02 17:00 ID:f1riGUwA
よーやっと出来ますた。第5話です。
1回書き上げたんですが、もうダメダメで。
レポート作成作業の合間を縫ってなんとかまともな形にできました(汗)。
こんなんで将来大丈夫なんだろうか俺…。
とりあえず次回は再来週になりそうです。
レポ発表すれば多少はゆとりが出来る…と思ったら次のレポートもすぐだったよヽ(`Д´)ノ ウワァァン!
419 :
ななし:02/11/02 23:48 ID:p80pAaYU
420 :
名無しさんの初恋:02/11/03 07:58 ID:Puz662f7
age
421 :
♪:02/11/03 13:42 ID:O2o32lXd
とりあえず、今日コンパなので、願いかけ!!(笑)
422 :
名無しさんの初恋:02/11/03 23:22 ID:ztBu63kH
保守age
423 :
名無しさんの初恋:02/11/04 20:58 ID:t4J4v0cB
age
424 :
♪:02/11/04 21:10 ID:voblGLwt
とりあえず、コンパ駄目だったので上げ(涙)
425 :
名無しさんの初恋:02/11/05 11:30 ID:wDRhm/Is
応援age。
小説もレポも無理しないでやってください。
首長くして待っています。
426 :
名無しさんの初恋:02/11/05 11:57 ID:dMFYhAo1
こないだ、お店にきた中国のガイドさん、なんかすごい好みだった!!
しかも向こうもなんか、私のほうを気にして見てたりして、
そのあと話し掛けられたりしたのが嬉しかったなぁ。
あーあ。メアドとか聞いておけばよかった。次はいつ日本に来るんだろう、、、。
いつ来るかも分からないし、来たって会えるかどうかもわからない、、、。
次、会えたらコレは絶対運命だ!次は絶対連絡先聞かないと!!!
427 :
名無しさんの初恋:02/11/06 08:21 ID:aXZ2ECIZ
age
428 :
名無しさんの初恋:02/11/07 06:23 ID:jb91Tkcz
おはよう。
辛い辛い辛い。
頼むよ。
429 :
名無しさんの初恋:02/11/08 02:22 ID:Nszl0BUg
age
430 :
名無しさんの初恋:02/11/08 16:44 ID:96FMfy5f
sage
期待age
なんか微妙に心当たりがあるんだが、ここの書き手に。
お前OSじゃねえ?
433 :
272:02/11/09 19:08 ID:mg62TW22
これから第6話執筆始めます。今度こそ絞め切り(?)に間に合わせねば…。
>>432 僕の事ですか?OSが何を意味してるのか知らないですけど、それがイニシャルなら違いますよ。
434 :
ひよ子さん ◆PMqnWNOWEY :02/11/09 23:17 ID:HvoUWQ8B
435 :
名無しさんの初恋:02/11/10 22:57 ID:55cqOXX8
age
436 :
名無しさんの初恋:02/11/11 23:56 ID:kEwOcyFY
age
>all
必 死 だ な !
期待age
今から×年前のことです。当時大学3年生の私は某楽器屋でアルバイトをしてました。
レジを担当してたんですが、結構いっぱいいっぱいでしたね・・・。
大手の楽器屋なので、色んな人が来てました。
でも年齢層も幅広く、なかなか落ち着いた感じの店なんですけどね。
そんな中、ギターを試奏しに来てる人がいて、週に3,4回くらいかな。
私がシフトに入ってるときがそれくらいだから、もっと来てたのかもしれませんね。
まあ。ギター試し弾きに来る人なんて多いんですけど・・・
その人は今更ながらZEPの天国の階段をちょろちょろっと弾いて帰るんです。
なんとなく、たどたどしさがジミ−ペイジっぽかったかもとは思ったけど。
来る日も来る日も・・・なんかとっても熱があるんですよね。
もう少し聴きたいな〜などと思ったりもしたんですがホントにちょろちょろっと弾くだけでした。
私と同じくらいの歳かな?背の高く、艶のある黒髪がとても似合う・・・静かな印象の人でした。
黙々と弾く姿がかっこよかったな。
次第に気になり始めたんです、なんとなくアルバイトのある日が楽しみでした。
あんまし日に日に上達してるってわけでもなかったみたいでしたね。
歴1〜2年くらいなのかな?あんまし練習はしてなさそう。
決まって天国の階段なんです。
・・・やっぱたどたどしいよ。
今思うとそれからたいして日がたってなかったと思う・・・そんなある日です。
弾き終わった後その人は静かにスッと私の方に歩いてきたんです。
(え、なんだろう・・・。)
そう思うと立ち止まり、ちらっとこちらを見て
一言。
「このギター買います。」
レジを打ちながら、少し胸が高鳴ってました。
でも、ギターを買ってしまうという事は、
もうこれでお別れかな・・・
そう思うと少し寂しい。
交わした言葉も無いし、これからも言葉を交わす事もない。
小さな片思いでした。
その次の日、ZEPのアルバムを買ってました。天国の階段・・・今も聞くと、あの人を思い出します。
どこかで、これを弾いてる彼がいる。
あれからやはりあの人はもう店には来ませんでした。
でも、ちょっと店に入ってくる人を期待して見てしまう。そんな私が確かにいました。
大学3年も終りに近くなり、私はアルバイトを辞めて就職活動に専念することになりました。
就活が思うように行かなくて、悩む日々でした。
今日もうまくいかなかった・・・そんな日々ばっかでした。
顔もそんなよくないし、何より内向的だったんで、そりゃ、うまくいくわけないんですけどね。
冬真っ只中で、本当に寒かったです。なにより気分が。
時くらいだったかな。
ある日の面接の終りに、あの楽器店の近くを通ったんです。
公園沿いを歩いていると一本のギターがそっと捨てられてました。
いや、まさか彼の物とは・・・、でもなぜかフッとそう思ったんです。
確かこれと同じようなものだったような。
誰も公園にはいなかったし、通りにも誰もいなかったんです。
これって運命かな?と思ったんです・・・、もちろん、いや、絶対ありえないんですけどね。
やばいかな・・・と思いつつも私はそれをもって家に帰ってしまいました。
使い古されてたんですけど、でも、決して使えなくなるくらい壊れてたわけではないようでした。
すてたわけじゃなかったらどうしよう・・・。
迷った挙句、恥ずかしながら元の場所にもどしてこようと思ったんです。
ごめんさない。9時です。抜けました。
11時になるかならないか、これははっきり憶えてます。
もう通りは暗く誰もいない・・・。家の前もなんだか不気味でした。
少し不安でしたが、なんとなくもしかしてって気持ちがあったので
足が公園に向いてました。
空を見ると、星が綺麗でした。
風邪が少し冷たくて、なんとなく気持ちは落ち着かない・・・。
楽器屋の側を通ったときは、11時30分。
もうあと、5分もすれば公園です。
楽器屋の前で、少し立ち止まりました。
自然と天国への階段が聴こえてくるような・・・。
なんでだろう、いつもより今日は寒い。
もちろんギターからは何の音はしません。
深夜・・・12時。
この日を忘れる事はないでしょう。
やっぱし、公園の側には誰もいませんでした。馬鹿な勘違いだった・・・と。
公園の側にギターを置いて・・・うん?よく見ると、人影が・・・・、男の人?
思わず緊張しました。少し相手に気付かれないように近寄ってみよう、
そう思って、
あっ!でも、やっぱ関係ない人。
まあ、そんなものかなと思ったんです。
相手は50歳くらいの人でした。
そりゃ、小説じゃないし
ところが・・・妙に動きが変・・・。
なんで縄なんか・・・。
その人・・・いわなくてもわかりますよね・・・。
もうパニックで慌てて私は止めに入ったんです。
もう夢中でした。それからはもうよく憶えてません。
必死に励ましたと思います。
どうも、衝動的なことだったので、結構あっさり事なきをえました。
・・・その後、その方やご家族の方に非常に感謝され、とても仲良く交流するようになりました。
就職もなんとかうまくいき、ご縁がありその家の息子さんと、結ばれました。
今は本当にとても幸せです。でも、さすがにこの話はできずにいます。
たまたまあの夜、遠くまで就活に行ってたせいで、通っただけと伝えてますし。
もちろん、この話自体友達にもした事はありません。夫とも就活中に出会ったという事にしてます。
446 :
名無しさんの初恋:02/11/12 15:13 ID:f2UM4bXo
>>445 なんというか・・・sageだな。
ついでに逝ってよし。
もひとつおまけに逝ってよし。
447 :
名無しさんの初恋:02/11/12 15:14 ID:f2UM4bXo
どうせだったら天国まで逝かせてやれ。
彼が一番欲しかった言葉は、「逝ってよし!」だったと思うぞ。
448 :
272:02/11/13 00:41 ID:qt+63+U5
ああっ、また〆切守れんかった…逝ってきます…。;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
つーかキャラが思うように動いてくれねー(涙)。
>>445 まあまあたまにはそういう話もありかとw
どうでもいいですが漏れもZEPは大好きです、ハイ。
「天国への階段」マンセー。
;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
って自分を拳銃で撃ってるAAだったんでつね。
耳を掻きながらすまして痰を吐いてるのかと思ってました。。。。
スレ違いですね。。。
450 :
272:02/11/14 00:07 ID:qXVy89bC
一応第6話書き上げました。現在校正中です。
明日には確実にUP出来ると思います。
kitaiage
11月の朝は、肌に冷たい。たとえ体をウィンドブレーカーで覆っていても、その寒さはつま先から染みてくる。
軽く屈伸を始める。その後に伸脚。両脚のアキレス腱を伸ばし、体を捻る。徐々に体が温まってくる。準備は出来た。
僕はゆっくりと走り始めた。最初は体の動きを確認するかのように。そして少しずつ、速度を上げていく。
呼吸は一定のリズムを刻む。脚の運び、腕の振り。これも大事なのはリズムだ。
それが決して乱れないように、自己を律する。丁寧にピッチを刻んでいく。
そうしていくうちに、段々と流れていく景色や周りの人影は目に入らなくなる。見えるのは目の前のコースと、自分の肺から吐き出される白い息だけ。自分の息遣いしか聞こえない。
自分だけが外界から遮断され浮き上がっていく、そんな感覚。それはある種の快感ですらある。
水曜と土曜、週二回の自分との「対話」。それは3年半前に東京に来てから続けている、僕の儀式だ。
タイムはともかく、城北公園の3kmのジョギングコースを一定のペースで走り切る。走っているうちに色々な想いが頭をよぎっていく。人間関係のこと、勉強のこと。不思議なことに、普段よりも走っている時の方がより冷静にそれらのことを考えられるのだ。
目にチラッとランニングコースの表示が見えた。残り半分。
少しずつ重くなっていく脚を感じながら、僕は京香のことを考え始めていた。
あれからもう6日が経っていた。あの日以来僕と京香の関係が劇的に変化したということはない。
僕は大学の授業か予備校、彼女は仕事。頻繁に会うようなこともない。
ただ、彼女からの電話やメールは増えた。中身は他愛のない話ばかりだが、それでも彼女から信頼されているようで少し嬉しい。
心配していた彼女の元恋人の件も、今の所は特に何もないようだ。僕はそのことに安心していた。
だが、僕はこれからどう京香と接していけばいいのか。そして、京香は僕をどのように考えているのか。
その所に、僕は迷いを持っている。僕には彼女に大きな負い目がある。それを京香がどう考えているのかは、今の所あまり分からない。
一見するとそんなに気にしていないのではというようにも思える。しかし、それはやはり甘い、自分に都合の良い考えだろう。
そして何より、僕自身彼女をどう思ってるのか。単に過去の贖罪のために動いてるだけなのか?それともまだ未練があるのだろうか。
おそらく後者が正しいのだろう。だが、僕に彼女を愛する資格はあるのだろうか?たとえ彼女がそれを許したとしても、僕自身が許せない。
残り1kmを過ぎた。大分呼吸も辛くなってくる。リズムを保とうと意識する。
そんな中で、どこかから「考えるな」という声が聞こえたような気がした。
案外、今は何も考えない方がいいのかもしれない。多分、それは正しいのだろう。
だが、それが僕に出来るのだろうか。また一つ、脚が重くなったような気がした。
「筆記用具を置いてください」
試験終了を知らせるチャイムが鳴った。
僕は軽く溜息をついてシャープペンシルを机の上に置く。
退室の合図が出た。筆記用具をバッグにしまい、3年前に買った使い古しのジャケットを羽織る。
軽く伸びをすると少し貧血を起こした。やはり試験当日にジョギングは体力面で辛かったらしい。
もっとも、試験そのものの出来はこれまでになく良く出来た。ことによると全国ランキングに載るかもしれない。上機嫌で退室すると、隣の部屋から風間が現れた。
「おう、どうだったよ」
「うん、まあ手応えありかな」
「珍しいな、お前がそんなに強気に出るとは。いつもは『全然だよ』とか言うくせにな」
風間が少し驚いた表情をした。
「たまには強気に出てもいいじゃないかよ」
「ふーん、そんなもんかね」
風間は右手を顎に当てて何か考える素振りをした後、出し抜けに言った。
「ほー、さては何か良いことでもあったか?」
ニヤリと笑う風間。京香のことは彼には言っていない筈だが。微妙に焦る。
「…いや、特にないけど」
「いーや、それは何かあるね。ズバリ、コレか?」
そう言うと、風間は右手の小指をピンと立てた。頭に血が集まっていくのが自分でも分かる。
「お前、ホンットに分かりやすい性格だなあオイ。そんなんで弁護士になれんのかよ」
「…うっさい」
腹を抱えて笑う風間に僕はふてくされて言った。
「んで、どういう風に知り合ったのよ?」
風間はマクドナルドのチーズバーガーをパクついている。僕は中学時代の同級生とたまたま上板橋で再会した、と言っておいた。京香との過去は話さなかったが、まあ嘘ではない。
「ほう、そりゃエライ偶然だな。運命的再会ってやつか」
風間はもう5個あるうちの2個めのハンバーガーに手を伸ばした。模試が体力を使うものであるのは確かだが、それにしても良く食べる。
「……まあね。というか、お前食べるの早くない?」
「ん?あー、実はプロテストが12月の21にあってな。それに備えてもうそろそろ減量しなきゃいけねえんだよ。だから今のうちに食い溜めとかねえと」
「へえ、そうなんか。で、見込みはどうなんだ? お前なら受かると思うけどさ、合格率は結構低いんだろ」
僕は手元のコーラに口をつけた。
「どっかのテレビ局の番組に出てる連中よりはずっと高けえよ。まあ、デビューしてからだな」
口の中に入っているハンバーガーの残りをジンジャーエールで流し込むと、風間は自信ありげな表情を見せた。
「んで、話を元に戻すか。その彼女とはどこまで行ったんだ? もうヤッちまったか?」
その言葉は、僕の癇に障った。
「そ、そんなわけないだろ!……まだそんなのじゃないし…それに…」
「あー、全くダメだねえお前は。これだから経験のない奴は」
肩をすくめておどける風間。しかし、それに真っ向から反応する気にはなれない。
再び京香への良心の呵責がうずく。告白やSEXで済む問題なら、こんなに悩んではいない。
僕と風間の間に、微妙な間が出来る。黙り込んだ僕を心配したのか、風間が珍しくシリアスな表情で言った。
「……まあお前にはお前の事情があるみたいだがな。あんまり難しく考えるなよ。考えれば考えるほど、恋愛は深みにはまるぜ」
「……ありがとう、助かるよ」
難しく考えるな…か。確かにそうなのかもしれない。
今の僕は、自分で自分を縛っている。それが自分を苦しめている。それは事実だ。
しかし、全てを捨てて自分がやりたいようにやれるほど、僕の心の荷物は軽くはない。
風間のように、自分がやりたい生き方が出来る奴が心から羨ましく思えた。
456 :
272:02/11/14 10:28 ID:b1SH1z9m
第6話です。ようやっと出来ますた。
今回から新章っぽい感じです。動きがあるのは次回以降かな?
次回いつUPできるかについては、来週のどこかとだけ…(汗)。
またレポートが入っちゃってるのですm(__)m
457 :
名無しさんの初恋:02/11/14 10:52 ID:j/i1gVWh
乙
459 :
恋も2度目なら:02/11/14 11:53 ID:uDltiUIw
ここは小説のスレッドでしたか。おやおや。
460 :
ひよ子さん ◆PMqnWNOWEY :02/11/14 13:19 ID:+lPN+LS0
お疲れさまです。
今回も一気に読破しました。
中島ファンの俺はニヤリ
462 :
名無しさんの初恋:02/11/15 00:03 ID:uFasNQ+v
age
463 :
名無しさんの初恋:
保守