672 :
名無しさんの初恋:
ぽかぽか暖かい午後だった
出張先から帰る途中の電車の中で女の子を見かけた
見たところ高校生くらいの雰囲気の彼女は
通路を挟んだ反対側の3人掛けシートに座って
俯いてハードカバーを読んでた
ストレートのロングヘアがよく似合ってて
なんだかイラストみたいに様になってた
でも一番気になったのは容姿じゃなくて、読んでた本
もう残りページも少なくなってたそれは、俺も大好きな本
読んだら彼女はどう思うんだろう?何を感じるんだろう?
...ってちょっと気になった。感想聞きたくなった。
俺の回りには読んでるヤツ、居なかったからね
ラスト数ページ、ハンカチを取り出して口許を隠し、
鼻をグズらせはじめる彼女。ちょっと目も潤んでる
そう、きっとそこはクライマックスの名文
実は俺も泣いたんだ、内緒だけど。
読み終えて本を閉じた彼女、ちいさく溜息をついた
無意識だった、気が付いたら席を立って聞いてた
「それ、面白いですよね。」
今思い出しても恥ずかしくて冷や汗が出る
なんであんなことしたんだろう
彼女、言葉も出ずにきょとんとしてた
そりゃそうだ、いきなり見ず知らずの会社員に
読んでた本の感想聞かれたんだもの
気まずい沈黙...それはもう短いのか長いのか解らない沈黙
どのくらい経ったか、突然彼女、クスッと笑って
「はい、面白かったです。」
それから彼女が降りる迄しばらく、2人で感想を話した
怒られも逃げ出されもしなかったのが不思議だった
自分でやっておきながら言うのもなんだけど。
彼女、俺があんまり真剣な顔して聞くから
つい可笑しくなって普通に答えちゃったんだって
なんで逃げなかったか自分でも解らなかったって
結局、彼女は今だに隣でCRT覗き込んでるんだけどね
あの頃を思い出してクスクス笑いながらさ