田中克彦スレッド

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1天然八歩
言語学はまったく素人なのですが、田中克彦さんの本は好きで、ほとんど全著作を読んでいます。
最近も、クレオール語の本とスターリン言語学の本が相次いで出ました。
どちらも非常に面白かったです。
どんな対象を取り上げても、一本筋が通っているところが素晴らしいと思います。
田中克彦さんについて、みなさんの意見を聞かせてください。
2衝動派:2000/01/30(日) 01:32
#ホントに衝動的に書いてしまう(苦笑)

>どちらも非常に面白かったです。

どーいった点が面白かったのか、是非お教えください。
僕は非常に懐疑的なんですが・・・そうでない人の言葉を聞きたい。
3ぼくわ:2000/01/30(日) 07:05
「小説」として読んでます。なので読んだそばから忘れます。
4天然八歩:2000/01/30(日) 08:55
>衝動派さん
えーどちらの本も価値の転換がはかられているところが面白かったです。
クレオール語の本では、「奴隷ことば」としてのクレオールに積極的な意義を認めているところ。
スターリン言語学の本では、スターリンを「ロシア共産主義言語学からの解放者」ととらえているところ。
そしてどちらの本でも民族と言語の関係が共通のテーマになっています。「一本筋が通っている」とはその意味です。

ただ1に書きましたように、わたしは素人なので、専門家の方が多数いらっしゃるこのスレッドで意見をお聞きしたいのです。
「衝動派」さんの「非常に懐疑的」とは、どういう点が懐疑的なのでしょうか。
5ぼくわ:2000/01/30(日) 13:16
6衝動派:2000/01/30(日) 18:34
>天然八歩さん
田中克彦さんの本で最初に読んだのが「チョムスキー」でした。
で、これは僕にとってはトンデモ本でして、チョムスキーの本を
ろくに読めてないんじゃないかと思えるような内容。5さんのリンク先
もそれを言ってますね。ほぼ同感です。この出会いが悪かった。
それ以降の本は、バイアスかけて読むようになってしまいました(笑)。
そもそも岩波新書くらいしか見てませんが。

「懐疑的」と言ったけど、「つまらない」と言うべきでした。
クリオールの話にしても、それに積極的な意義を認める点は、
田中氏以前から当然だったんじゃないか?当たり前すぎる。その先が
問題として面白いと思うのにさっぱり具体的議論に入っていかない。

スターリン言語学についても、あのスターリンがマルから解放したというのは
えーそんなことがあったのかぁと面白いですが、だから、言語に対して
何か新しいことが分かったのか?と言うと、読んでも、何も残らない。

そもそも言語を科学的に研究しようとして、一定の理想化を施すのを
イデオロギーだと言って退けようとするのも、読んでて悲しくなる。

価値の相対化・転換は、田中氏が確かに力説するところです。僕なんかは
彼が目を向けているのは、そういった価値体系としての社会であって
言語自体ではないと思うのです。だから彼は言語学者ではなくって、
(言語から切り込もうとしてる)社会学者(?)なのではと。

長文ごめん
7天然八歩:2000/01/30(日) 19:16
>5さん
面白いHPを教えてくれてありがとう。
いやーこのサイトは面白いです。おもわず「なんにでもほえろ」とか掲示板までみてしまいました。
言語学プロパーの人からみるとやはり田中克彦氏はチョムスキー批判の人なんですね。
このサイトの人の批判の当否はわたしには分かりませんが、どうもヒステリックで重箱の隅をつついている感じです。
確かに細かいとこは色々ミスがあるかもしれませんが(「スターリン言語学精読」にもドイツ語のWasserに「ワッサー」とルビをつけていました。)、そういうのは一種の揚げ足取りではないでしょうか。
「生成文法は英語か、その類似の言語にしかあてはまらない」とか「生成文法は論証不可能な仮説を出発点にしている」とかいう批判はけっこう的を射ているのではないでしょうか?
8天然八歩:2000/01/30(日) 19:48
>衝動派さん
丁寧なご返事をありがとうございました。
うーんそうでしたか。専門の方には「当たり前すぎる」のですね。
でも素人には十分面白いです。一般向けの啓蒙書としては抜群に優れているのでは?

>この出会いが悪かった。
「チョムスキー」は、その意味では不幸な本ですね。
もしかしたら書かないほうがよかったのかもしれません。別にどうしても田中氏が書かなければならない種類の本ではないし・・・

>言語を科学的に研究しようとして、一定の理想化を施すのを
>イデオロギーだと言って退けようとするのも、読んでて悲しくなる。
たぶん理想化(抽象化)の過程で捨象されるものの方に、田中氏としてはより関心があるのでしょう。
915年生:2000/01/31(月) 04:51
>天然八歩さん
5さんのあげていたサイトの口調は、私も確かに感情的すぎ?と
思いましたが、論点と議論は明確で、決して重箱の隅をつつくタイプの
ものではなかったと思います。深層構造という用語に対する誤解、
glottal stopの話、無限に生成を続けなければならない単文の句構造
規則、どれも、至極まっとうな批判です。

>「生成文法は英語か、その類似の言語にしかあてはまらない」とか

生成文法理論それ自体が英語とその姉妹言語にしか当てはまら
ないということは、議論の前提がずれてくるので、ないと思います。
生成文法は英語とか日本語とかの個別言語に分かれる前の、
人間の生物学的特徴のひとつである言語能力に関する学問だか
らです。この言語能力を記述したものが普遍文法です。
個別言語の文法は、普遍文法プラス後天的パラメータ
設定が関わって、決定されます。だから、英語に設定された
パラメータ群が、英語と類型的に違う言語に当てはまらないと
言うことはあるけれど、理論そのものが英語と姉妹言語にしか
使えないとは、理論の道具立て上、いえないです。舌足らずで
すみません。

>理想化(抽象化)の過程で捨象されるものの方に、田中氏として
>はより関心があるのでしょう。

うーん、私は、それが、田中氏にとっての、自分と関心の違う研究者
を、根拠なくけなす理由にはならないと思いました。
どこかリンク先にも書いてありましたが、社会言語学と生成文法は、
興味の対象が違うだけで、別に学問的に両立しないものではないのに、
なんでおたがい悪く言うんでしょうか。この田中氏に限ったことでは
ないですが。
10天然八歩:2000/01/31(月) 06:29
>15年生さん
ていねいなご返答ありがとうございました。

>理論そのものが英語と姉妹言語にしか
>使えないとは、理論の道具立て上、いえないです。
これはトートロジーではないでしょうか? 15年生さんの説明をわたしは
「普遍文法は普遍である。なぜなら普遍的なものが普遍文法であるからだ。」
と言うふうに理解しましたが、誤解してますでしょうか?
問題はその「普遍文法」なるものが本当に存在しているのかどうかだと思うのですが、
この「普遍文法の存在」には客観的な根拠があるのでしょうか、それとも単なる作業仮説にすぎないのでしょうか。
(別に作業仮説だからダメと言っているのではありません。念のため)
1115年生:2000/01/31(月) 13:19
>天然八歩さん
>ていねいなご返答
いいえ、こちらこそ、恐縮です。

>これはトートロジーでは

たしかに、普遍文法があるかないか、と聞かれて、文法の
普遍的な部分を研究するのが生成文法、生成文法は普遍文法
を研究している、従って普遍文法はある、というのは
トートロジカルですよね。あるいは、あるかないかという
素朴で重要な疑問には答えていない。ただ、生成文法の研究
は個々人がその重要な疑問に答えなくてもできるのです。それは
それで問題なのかもませんが。

>問題はその「普遍文法」なるものが本当に存在しているのかど
>うかだと思うのですが、
>この「普遍文法の存在」には客観的な根拠があるのでしょうか

ええと、決定的なものはないと思います。第一言語の獲得の
速度とか、それに伴う刺激の少なさとか、あと、刺激の多様性
に対して、獲得する文法の統一性とか、第一言語と第二言語以降
の獲得度合いの差とか・・・(用語はしょってます)
などがあると入門科目で教わりました。自分はどの「証拠」
も反証不可能であるが故に、決め手に欠けるように思います。

ご指摘の通り、普遍文法というのは多くの
研究者にとって作業仮説なのです。さらに、最近の生成
言語学の研究は、UGそのものについて議論するよりも、
チョムスキーの与えた大きな理論体系を使って、あるいは
修正して何ができるか、という問題に研究者の関心は
傾いているようです。UG仮説の妥当性は、もしかしたら、
言語学ではなく、心理学や哲学の方面から論じた方が
建設的かもしれません。

steven pinkerの一連の著書が、好き嫌いはあると思いますが、
問題の大枠をつかむにはいいのではないでしょうか。
12天然八歩:2000/01/31(月) 22:02
>15年生さん
うわーありがとうございます。アホな質問に時間を割いていただいて
感激です。

>第一言語の獲得の速度とか、それに伴う刺激の少なさとか、あと、
>刺激の多様性 に対して、獲得する文法の統一性とか、第一言語と
>第二言語以降 の獲得度合いの差とか

しかし残念ですがこれはやはりピンときません。
例えばスプーンとか鋏とかトンカチとかの使用を人は直ぐに習得し、
また地理的に離れている古代の遺跡から似通った道具が出土したり
しますが、これを以って『個々の道具に先立ち「普遍道具」というも
のがあって、すべての道具はそこから派生している』と言ってよいも
のでしょうか。

水掛け論になりそうなので、まあそれはともかく、15年生さんのお答
えの中で一つ興味を引かれた点があります。

>チョムスキーの与えた大きな理論体系を使って、あるいは
>修正して何ができるか

この「何」というのは理論的な方面(例えば別の理論にチョム
スキーの体系を応用するとか)を意味しているのでしょうか、
それとも応用的な方面(例えば機械翻訳)を意味しているので
しょうか。また具体的にどういった試みがなされているので
しょうか。もしお忙しくなければ教えてください。

ピンカーは、前々から名前だけは聞いていて気にはなっていた
のですが・・・。これをきっかけに読んでみようかとも思います。
13餌彦:2000/02/01(火) 00:13
>普遍道具

面白い発想っす。
でもトンカチやハサミってのは構造が簡単すぎて、人間がそれらの
使用を習得するのが言語獲得に似ているってのはチョット強引すぎ
るような…
似通った道具が出土されるってのもその辺に理由があるような気が
します。
14なを:2000/02/01(火) 05:04
横レスの上に議論の本質に絡まない、
しかも重箱の隅をつつく揚げ足取りのようなレスで
申し訳ないのだが、一言いわせて頂きたい。

>理想化(抽象化)の過程で捨象されるものの方に、田中氏として
>はより関心があるのでしょう。

天然八歩さんの書き方では、
「田中克彦の関心は言語の理想化(抽象化)の際に
 捨て去られた具体的な事物の方にある」と
云いたいのだと私には伝わってくるし、
またそうでなければあなたの発言の意味が無い。
しかし「捨象」とは、ある概念の本質を捉える際に
「具体的な像を捨てること」を意味し、「抽象」と同義の言葉。
すなわち「捨象されるもの」とは「抽象されるもの」のことであり、
抽象化(理想化)の過程で抽象されていく
「理想型」そのものを意味することになる。
これではあなたの発言の意味が無くなってしまうが、
いかがかなものか。

せっかくの言語板なので正しく言葉を使って頂きたいだけ。
悪意はないので、平にご容赦を。

15天然八歩:2000/02/01(火) 21:44
>なをさん

おおそうでしたか。それはどうも失礼しました。

しかしながら、経済畑の人は「無視する・捨てる」という意味で「捨象」という言葉を使う傾向があります。
Webからいくつか例文を引くと:

不必要と思われる要因を捨象して残ったものが, 経済分析に使われるモデルあるいは理論である。
http://www.gakuji.keio.ac.jp/rishu/info/hiyoshi/keizai/hiyoshi/common/hi_com0003.htm

ニュアンスや重点の置き所の違いを捨象すると、導入論が挙げる主要な論拠は次の四つであろう
http://www.osakagas.co.jp/Cel/Cel42/Html/42_11.htm

ナショナルという場合には国家と国民と両方含んでいますけれども、日本の国家的利益になりますと、国民的要素が捨象されるニュアンスがあるのです。
http://www.sorifu.go.jp/danjyo/gijirokuold/bu1_12.html

もしかしたらこれも「すべからく」のように誤用が一般化した例かもしれませんね。
1615年生:2000/02/02(水) 11:17
>天然八歩さん
変な文で、わかりにくいかもしれないですけど、フォローアップ
してみます。忙しいは忙しいですが、それは私の仕事が遅い
からです(笑)お気遣いありがとうございます。

>しかし残念ですがこれはやはりピンときません

全部ではなくて一つだけ言い直してみます。というのは
私は個人的にinnateness hypothesisを援護するほど、
生成文法一筋の人ではないからです。あまり熱く語る気に
なれないんですよね。いや語る気にはなるんですけど。
それで、第一言語の習得の速さとは、たとえばこういう
ことです。
人間は生まれてすぐはまともに母語がはなせないのに、
子供はなぜか母語の完璧な能力わずか数年で
身につける、これはまわりの大人がいい間違えや、
話している途中で気が変わったりとか、
こどもにとってお手本となる言語を
つねにしゃべっているわけではないのに、それにも
かかわらず、です。
(ここで完璧、というのは文法的な文と非文法的な文を
分けられる直観を身につけるということ)
かかる事実が、言語の生得性の間接的な証拠になるの
ではないかということなのです。<悪文すいません
cont->
1715年生:2000/02/02(水) 11:45
->cont'd
普遍的な道具、というのは面白い考え方ですが、正直言って
深く考えたことがないです。どうなんでしょう。

>「何」というのは理論的な方面(例えば別の理論にチョム
>スキーの体系を応用するとか)を意味しているのでしょうか、
>それとも応用的な方面(例えば機械翻訳)

私が考えていたのは、生成文法理論の概念的な面(技術的
な細部ではなく)を前提にした上で、最近の言語学
(特に広義の統語論と意味論)の仕事はなされることが
多い、ということでした。
もちろん例外もあるでしょうが。
天然八歩さんの質問に答えると、理論的には、
チョムスキーの理論が他の分野に応用されるというよりも
チョムスキー(他)の理論が他の分野からの借り物で
成り立っているというほうが正しいような気がします。
理論物理とのanalogyをチョムスキーが好むのは
有名な話です。
応用的には、今の理論は、マシン処理できる
だけの明確さを備えていません。機械翻訳その他
への応用は現段階では現実的でないといって
いいと思います。
18天然八歩:2000/02/02(水) 17:06
どうもありがとうございました。>15年生さん
19餌彦:2000/02/07(月) 17:12
このスレッドに触発されて「チョムスキー」読んだけど、全然おも
しろくなかったよ。
「きっとすげーとんでもないこと書いてんだろうな」ってちょっと
ワクワクして読み始めたんだだけど、ただ単に理解できてなくて
チョムスキーの言ったことを自分の考えにねじ込んでまぜっかえし
てるだけだった。
皆さんがいってるように深層構造の意味を誤解して最後までつっぱ
しってる様はなんか痛々しかったな。mental organの批判もわけわ
かんないし。騙し絵の例えも論点ずれてる。
でも、こんな勘違い本でも出版できるってことを教えてくれた意味
ではちょっと貴重かもしれないな。

読んだ感想「だれか印刷する前につっこんでやれよ。」
20hit生:2000/02/11(金) 03:18
タナカツ先生は、色々と逸話の多い方です。
色んなエピソードを聞いていると、どうやら「憎めない人」
だったらしい。
21>20:2000/02/11(金) 17:20
>色んなエピソード
どういうエピソードがあるんですか? 興味津々です。
さしつかえない範囲で聞かせていただけると非常に嬉しいです。
22餌彦:2000/02/13(日) 00:25
>20さん
あの人今でも一ツ橋で教えてんの?
どんな講義か教えて!
23もう:2000/02/15(火) 22:01
やめたよ
24もう:2000/05/16(火) 19:43
 定年退官されたのですか?
25名無しさん
やめたやめた