ティシュナーの著作「テレパシーと透視」が出版された二年後の1919年、オカルティズムの仇敵ジグムント・フロイト
が、テレパシーに関する簡単な論文を発表した。ユングに語った「オカルティズムの黒い潮流」の所見からは、
想像も付かないことだ。抑圧された罪悪感と攻撃性を説明するにあたって、
テレパシーが副次的に必要となったに過ぎないと彼は弁明している。
『精神分析とテレパシー』と言うその論文において、フロイトは、そのパラノイア的怒りを爆発させている。
「我々は、科学の発展に安らかに従事できないうんめいにあるらしい。かろうじて二つの攻撃の撃退に
成功し(ここで彼は、おそらく、ユングとアードラーと思われる背教徒的精神分析者に対する簡単な所見を述べている。
〔二人共にフロイトの門下であったが、袂をわかって独自の分派をたてた〕)、、、ようやく身の安全を獲得出来たと思いきや、
今、また新しい危険が生じた。それは、恐ろしくかつ根本的なところで、我々のみならず我々の敵にもより大きな脅威をもたらしている。
新しい危険とは、オカルティズムのことだ。フロイトは、自分がオカルティズムに反対するのは、もし、霊や未知のパワーに答えを求め始めれば、「無意識」を
理解しようとする精神分析者たちの試みが無視されるようになるからである、
と説明している。にもかかわらず彼は、私は、最近の所見を公表せずにはいられない、
(だが近しい同僚たちよ(この論文は彼らの間で極秘に回覧された)その所見は、
君たちの胸にしまってほしい、と語っている。
最初の事例は、妹に対して近親相姦的感情を抱いた若者に関するものだった。妹は、ある
エンジニアと婚約した。 兄とそのエンジニアはともに登山に行き、もう少しで遭難しそうに
なった。――フロイトは、それを無理心中の試みと解釈している。のちに兄は、生年月日を告
げるだけで占ってくれると言うミュンヘンの占い師のところへ相談に行った。(恐らく、占星術
師だろう)。兄が、義の生年月日を告げると、占い師は、彼が、7月か8月にかににあたっ
て死ぬであろうと予言した。この予言は、実現しなかった。しかし、義弟は、前年の8月
に、かににあたってもう少しで死にそうになったことがあった。フロイトは、この事実を若者
からテレパシーで受信し、義弟に対する「死の願望」として表出したのだろうと結論している。
彼が、続けて引用しているシェルマンと言うベテランの筆跡鑑定士、筆跡からその人の性格だけ
ではなく(大半の筆跡観者が読み取るような)、しばしば、未来をも予知することが出来た。
フロイトの筆跡を見せられたシェルマンは、これは度し難い亭主関白のものだと語った――自分は、
もちろんそんなものではない、とフロイトは憤然と付け加えている。しかし、弟子たちの多く
に対する彼の態度は、執念深く暴君的で、筆跡鑑定士の言もあながち間違えとはいえないところがある。
フロイトは、更に別の事例をあげている。ある患者が愛人を囲っていたが、非常にむごい扱
いをしていたため、女は神経衰弱すれすれの状態だった。実は、その患者は、ある上流階
級の女性を愛していて、彼女から受けた苦痛をそのまま愛人にぶつけていたのだった。彼
は、最後に恨みを全て表出し、愛人と手を切ることを決意した。そのころ、彼は、愛人の
筆跡をシュエルマンのもとに持っていき、彼女が自殺寸前であることを告げられた。しかし、彼
女は、自殺しなかった。それは、シェルマンが若者の思考を読み、女が自殺を願っている事実を
読み取ったのだろう、とフロイトは推測している。
フロイトは、論文の締めくくりで、弟子たちに次のように語りかけた。「思考伝達の問題は、
広範にわたるオカルト的な奇跡の世界に比すると、とるに足らないものに思えるかもしれない。
だが考えてみたまえ。この仮説だけでもすでに、われわれの現在の見解から見れば、容易
ならざるほど大きな一歩を踏み出しているのだ。」
もし、フロイトがこの確信を公にしていたならば、それはたしかによういならざるほど大きな
一歩となっていただろう。恐らく、アインシュタインと並び世界でもっとも有名な科学者であった
彼が、テレパシ―の実在を認めていれば、ティシュナーが1ダースの本を著すよりも確実に、科学界は、
真摯な態度でテレパシーに臨むようになっていただろう。この論文は、フロイトの死後までほとん
ど知られずに終わった。そして、さらに40年の歳月を経てようやく、おしもおされぬ地位
を築いたユングが、次のように宣言するにいたったのである。「この現象の真実性は、今日で
はもはや論争の余地が無い。私は、体験的に、テレパシーが古代より主張されてきたように夢
に影響しえることを発見した。
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359-362>> コリンウィルソン 著サイキックより、、、、。
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