ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のうち

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747名無しさん@1周年
 麻紀は外交官を目指し、勉強に明け暮れていた。高校3年生だった。まわりの友達
と同じように髪を染めていたが、制服のスカートは長めだった。また誰のグループに
も入らなかった。外交官を目指すようになったのは、中東問題に関心があったからだ。
 今日、授業をふけた麻紀は、ひとり川原でタバコを吸いながら聖書を読んでいた。
あまりよくわからなかった。しかしこれのおかげで世界は争っているのだ。宗教なん
かなくなればいいと思った。でも、聖書がなければ、世界は今とはずいぶん違うもの
になっていただろうとも思った。
 2本目のピース・ライト。缶コーヒー。麻紀は川原で遊ぶ子供たちを見ていた。心
から笑っているような笑顔。自分にもあんな時代があったのだ。冷めきった今の自分
には、想像もできなかった。学校の先生、チャラチャラしたうわべだけの付き合いの
クラスメイト、テレビ、ニュース・・すべてがくだらないと思った。将来、良い仕事
をしても、子供たちが群がっているあの駄菓子屋の親父と変わらない・・いつか地球
も寿命を迎えるのだから。キリストも、子供たちのようでなければ真理は見えない、
と言うし。恐ろしく無意味だ。麻紀はすべてを軽蔑した。とりわけすべてを見下して
いる自分自身を。
 思いがけず麻紀は呟いた。「あたしにも、渇かないように、その水をください。神
さま・・」
 風が強くなってきた。9月の風。今年の夏は水不足だった。麻紀は遠い目で空を見
た。すると突然、雨が降り出した。激しい夕立になった。子供たちは雨の中、楽しそ
うに遊んでいる・・不意に麻紀は、幼い頃、バレエを習っていたことを思い出した。
彼女は雨の中、少し踊ってみた。気持ち良かった。拍手がおこった。子供たちが言っ
た。「お姉ちゃん、かっこいい」
 軽トラックの駄菓子屋の親父も笑顔で拍手。キリストのようなヒゲ面だった。子供
たちと同じような笑顔で一礼した麻紀は、照れたようになって、駆け足で帰った。
 間もなく雨はやみ、空は高く透き通り、新たなる風は目に見えない塵を押し流した。