和尚が、教えを受けていた僧に「夜がふけたので帰ったらどうか」と言った。
僧は別れの挨拶をして外へでると真っ暗なので引き返し、「外は真っ暗です」と言った。
和尚は手燭に火を付けて渡した。僧が受け取ろうとしたときに和尚はふっと吹き消した。
僧はそこで悟って深く礼拝した。和尚は「お前は何を悟ったのだ」と聞いた。僧は「私は今日から世の大和尚達の言うことを疑いません」と答えた。
翌日、和尚は説法の際に言った。
「この中に、歯は剣のよう、口中は血のように赤く、棒を食らわせてもびくともしない男がいる。
これは将来我が道を打ち立てるであろう」と言った。
僧はそこで金剛教の解説書を取り出し、法堂の前で松明をかざして言った。
「いかに理論を極めようとそれは広大な空間に髪の毛を一本置いたようなものである。
肝腎な所を体得しても、一滴の水を大峡谷に投じたようなものである」 そして解説書を焼いて立ち去った。
しかし無門和尚は解説の後に更に詠って言います。 鼻孔を救ったが目をつぶしてしまった。
ひとつ悟らせたはいいが他の方をだめにしてしまった、と。
これは、人に会い人に学ぶことを教えたことはすばらしい、しかしそれによって自分で見て自分で判断するということが出来なくなってしまった。
ひょっとしたらこの僧は自分のものを突き詰めて独自の大きな悟りを得たかもしれない、その個性というものを潰してしまった、と解釈出来ます。
無門和尚によればこれも一つの茶番です。