セクハラ、霊感詐欺、無免許運転、脱税、訴訟乱発

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81名無しさん@3周年
第七章 新興宗教ブームと女性

3 女性の自立とは (215〜227頁)

 A子さん。
 31歳。
 この春(93年3月17日)、A子さんは横浜地方裁判所民事部に損害賠償を求めて訴えをおこした。被告は、新興宗教団体の教祖。訴訟の原因は、A子さんが入会していた宗教団体の教祖からセクシャル・ハラスメントを受けたというものである。
 性的いやがらせによるセクハラ訴訟は、ここ数年、勇気ある女性によっておこされ、女性の人権を守る闘いとして定着しつつあるが、新興宗教団体におけるセクハラ訴訟は初めてと言ってもいいだろう。
 A子さんに会って話を聞く
82名無しさん@3周年:03/10/06 23:11
「私の世代は、中・高校生時代にテレビではスプーン曲げが、雑誌でもオカルトや占いが流行っていて、人一倍私も興味を持ったものでした。
 神秘の世界へのあこがれというのでしょうか、心霊世界に興味を持ったということが言えます。
 それに、高校もキリスト教の学校で、家では母親が立正佼成会に入っていて、環境的には神様にも仏さまにも抵抗がなかったのです。
 だから、二十四歳のとき、本屋で深見青山の「大天運」という本を手にして、その本に紹介されていたコスモメイトのセミナーに行ったのも、私の前世を知りたいなあという軽い気持ちからでした。
 セミナーはコスモメイトの会員にならなければ受けられないと聞いて、三万円払って正会員になったわけです。
 その一年後のクリスマス・セミナーに行ったところ、ご奉仕を一緒にしない? とさそわれて、会員向けの発送業務などを手伝う(ご奉仕)ようになったわけです」

コスモメイトとは、東京都杉並区に本部をおく神道系の新興宗教団体で、教祖は深見青山氏(本名 半田晴久 四十二歳)。
 深見青山の著書は二十冊以上あって、五、六年前からの霊界ブームに乗って売れている。本を媒介にして信者(会員)を増やしている。会員は公称約二万人。全国に100ヶ所の支部があるが、職員が配置されているのは大都市の六ヶ所。
その他は会員の自宅をご奉仕と称しての連絡場所にしている。
 現在、「皇大神社」の名称で静岡県に宗教法人の申請中。
 系列グループには、株式会社コスモメイト(資本金1千万円)、ファッション時計の大手「三十鈴」、その他に薬局、経営コンサルタント業、占い喫茶「あ・たーる」などがある。
 深見青山は、このグループの実質上のオーナーと言われている。

83名無しさん@3周年:03/10/06 23:11
「コスモメイトの本部での封筒づめ作業は、仕事を終えてから始めるので、深夜までかかってしまうのですが、これは神さまのためにやることだからとつい無理をしてしまう。
 当然、つきあっていた彼ともうまくいかなるし、自分の身体もへとへとになる。
 でも、自分がやっていることは正しいことだ、いい事をやっているのだと思わされてしまうのですね。だって、すべて愛と真心から言われ続けると、自分がやっていることは世を救い、人を救うことなのだからと思ってしまう。
 そんなときに、先祖が救われると言う救霊の話などを深見から聞くと、もう陶酔状態になってしまう」

A子さんが、住宅メーカーを退職して株式会社コスモメイトの社員になったのは九十二年二月末。
「深見からスタッフ(職員)になるように言われたのは、九十二年の一月でした。夜中に突然、呼び出して、熊野の神サマがおりて来て、スタッフにするようにと言われたと。ともかく、私がハイと言うまで帰さないというので、しかたなく前の会社を辞めたのです。
 でも、スタッフになって、コスモメイトの内部がわかってくると、これは何なのだ!と思うようになってきました。
 三施と言って、『体施、物施、法施』のご奉仕があるのですが、中年のおばさんはお金を出す『物施』、お金のない若者は労力奉仕の『体施』という具合に、もう信者をバカにしているわけです。
 そのうえ、暴力とセクハラなのですから……」

84名無しさん@3周年:03/10/06 23:14
訴状によると、
 九十二年の二月に行われた「神業」と呼ばれる宗教活動中にA子さんが発言したところ、深見被告からいきなり「言訳するんじゃない」と怒鳴られ、約二十回にわたってA子さんは殴打される。
 六月に退社の相談に出かけたところ、深夜に三時間も待たせたうえで、A子さんの意向を聞く前に「体調が悪いと言っているらしいが、君は更年期障害だ」と決めつけたり、
「君は過去に男を知っているから疼くんだ」「だから最低、週に二回は男性と性関係をもったほうが良い」などと言って、午前六時頃、テーブルの反対側から飛びかかり(略)布団の上に押し倒して、A子さんの口の中に舌を入れてきた。
 そして、衣服をめくり上げ、ブラジャーを外して、乳首に口を当て、吸いつく。抵抗するA子さんを押さえつけて、A子さんの下腹部に手を移したところ、A子さんが生理中で血が肌着ににじんでいたのにびっくりして手を離した(略)
85名無しさん@3周年:03/10/06 23:17
B子さん。
 三十歳。
 A子さんに続いて、横浜地裁にコスモメイトの教祖、深見青山からセクシャル・ハラスメントを受けたとして、訴訟を三月末に提訴する予定と知って、B子さんにも会って話を聞く。
 (その後、ふっ切れたとして、訴訟をとり下げる)
「小学校五年生だったと思うのですが、自分が写っている写真に影というか霊のようなものが見えて、心霊に興味を持つようになったのです。母親も心霊には共感してくれて、二人でよく話をしたり、その関係のテレビを見ました。
 私、友達にも霊感が強いと言われたりして、歩いていても、銀色の線が見えたりするのですよ。中・高校生の頃、超能力がさわがれていたことと関係があるのかもしれませんが。
 八十八年の一月頃だったと思うのですが、その頃つきあっていた男性との仲がうまくいかなくて悩んでいたときに、本屋で買って読んだのが深見青山の『愛の守護霊』でした。気持ちが落ち着いたのが、コスモメイトに魅せられたきっかけだったと思います。
 私のように恋愛で悩んで入ってくる人って多いのじゃないかしら。幸せになりたいとか結婚したいとか、その他、神さまを求めてとか超能力に魅せられてという人もいますけれど。
 中年の主婦でコスモメイトに入ってくる人は、暇でお金があって、夫にかまってもらえないからという人が多いみたいですけれど」

86名無しさん@3周年:03/10/06 23:21
 B子さんは、八十八年の十二月に入会して、九十一年九月にA子さんと同じように「神のお告げがあって」という教祖、深見青山の言葉で、スタッフになる。
「当時の私は、深見のことを神さまみたいに思っていたので、スタッフになったのですが、まわりの友達は心配してくれましたね。
 実際にスタッフになると、仕事とご奉仕が一体化していて、午前九時から五時半まで仕事をした後で、ご奉仕という名目でまた働かされる。休日も朝から出てくるように言われる。
くたくたになっても、深見から『限界を超えたところから成長がある。神からの応援がある』と言われるとついがんばってしまう……」

 コスモメイトでは、女性スタッフへのセクハラ事件だけではなく、男性スタッフ(二十人以上)が経営不振を理由に不当に解雇をされたとして、やめさせられたスタッフたちがユニオンを結成して、地位保全を求める訴えを東京地裁に起こしている。
この訴訟をおこした背景には、横浜の民間かけこみ寺みずらの新聞記事がある。

(章末脚注より)
 かながわ・女のスペースみずら
 ミスでもミセスでもないミズ(女性)たちという意味の名称。九十年五月に神奈川県横浜市で発足した女性のための民間かけこみ寺。セクハラや労働問題などのあらゆる相談活動や、女性が自立するためのプロジェクト活動をしている。シェルターも持っている。
会員は百八十人。賛助会員二百二十人。スタッフは常勤が四人、等。電話は省略(文中では明記)。

87名無しさん@3周年:03/10/06 23:22
この記事を読んだ彼女たちは「おそるおそる電話をしたのです」と語る。
 そして、みずらのスタッフたちにはげまされ、横浜弁護士会の三人の女性弁護士に訴訟代理人として弁護を依頼し、彼女たちは訴訟をおこしたわけである。
 彼女たちは語る。
「新興宗教に若い人が入る動機は、一人暮しがさびしい、親との関係をよくしたい、生きがいを持ちたい、などという悩みが多いのです。そして、それを神さまにお願いすることで解決しようとする。神に依存ですよね。
 親が病気になったり、自分が失恋したりしたときに、自分自身で乗りこえる力がない。そういう力を育てられてこなかったということも言えます。大人も、みんな優しかったし」

 彼女たちは60年以降の高度経済成長の中で育てられてきた。生まれたときからテレビがあった世代である。
 第二次大戦の戦中、戦後を体験した親の世代は、子供たちに苦労をさせたくないと、子どもを育ててきた。
 子どもたちは、親の保護、それも性別役割分業の中の母親に抱えられて育ったのである。
「男は外、女は内」という性による役割分業は、大人の社会と直接につながらない母親をうみ出しただけではなく、その母親が次の世代を育てるという現象をつくり出してしまった。
 かつての家父長制の下での子どもたちは、良くも悪しくも、家の子どもとして育てられ、母親だけによる子育てではなかった。
しかし、資本主義社会における性別役割の家庭においては、子育ては母親が担うという母性神話を創り出した。
 その結果、母親が育児責任とされる子育ては、女性の寿命の伸び、子どもの数の少子化、家事の電化、等々の社会状況の中で、いちまでも子どもにかかわっていたいという母親と、大人になりたくない子どもたちとの関係をつくり出している。

88名無しさん@3周年:03/10/06 23:23
 宗教学者の島田裕己氏が「信じやすい心―若者が新々宗教に走る理由」(PHP)の著書の中で、大人への通過儀礼である「イニシェーション」が、かつては宗教のはたす基本的な役割であったのにそれがなくなっていることを書いている。
「むしろ、現在の宗教は若者たちの精神を子どものままの状態に押しとどめておくものに変わってしまった感さえあるのだ」(19頁)と。
 この現在の宗教と、性別役割による子育てとは、ある意味で一致している。つまり、大人にならせない、なりたくない親と子、宗教団体と信者の利害が一致しているとも言える。
 コスモメイトの彼女たちが教祖から言われた女性の生き方は、次のようであった。
「女性はいつもニコニコしていなければならない。
 また、女性は巣でなければならない。
 女性はそこにいるだけで、まわりの人を安心させる気がある。その安心の気で男性を働かせてほしい。
 女性は新聞や本など読んでいろいろなことを批判してはいけない」
 そして、彼女たちの化粧から服装にいたるまで教祖は指導している。例えば、ブルーのアイシャドーやパステル・カラーの服装。また、裾のひろがったすカート、等はいけない。

89名無しさん@3周年:03/10/06 23:24
 なぜ、彼女たちは教祖の教えに忠実であろうとするのか。
 一つには、職場でもあるコスモメイトをやめたくないということと、自分たちの信じる全智全霊の神でもある教祖の教えには従うのがあたりまえとする心の働きから来ているのだろう。
「いま考えてみれば、お金を出せば何でも悩みが解決するというのはありえない事なのに、どうしてそれを信じてしまったのか、不思議ですよね。
 例えば、『神霊美容術』というのがあるのですが、
○言われてみれば、どことなく美しい……五千円以上ご随意
○なんとなくどこか美しいようだ……一万円以上ご随意
○若々しい美しさ……三万円以上ご随意
○はつらつとした美しさ……五万円以上ご随意
○貴婦人のような麗々しい美しさ……十五万円以上ご随意
○神秘的な美しさ……二十万円以上ご随意
○はっとする周囲の目をひくほどの美しさ……三十万円以上ご随意
○天照大御神のような、神々しい美しさ……五十万円以上ご随意
(コピペ注:225頁は平成5年度春の関西秘法会申込書の写し)
 その他、『ヂ・エンド秘法』(痔治し、生理痛治し)や『脳ミソ大改造秘法』など、お金を出せば、すべて解決!という秘法を信じてしまっっていたのですから」

90名無しさん@3周年:03/10/06 23:26
 彼女たちは、不当解雇やセクシャル・ハラスメントを許さない、と闘うことで、初めて自分の足で立ったということが言える。大人になったと言おうか。島田裕己氏が言うところのイニシェーションである。
 自分で自分の責任をとる。親によりかかったり、金に頼ったり、神にすがったりしないで、自己の確立をする。
 誰かにとっていい子、いい妻ではなく、一人の子ども、女性として自分をまず持つ。
 コスモメイトの原告弁護団の一人、三木恵美子弁護士は
「彼女たちと初めて会ったときは、どこかオドオドしていたのが、訴訟の準備をするなかで、顔つきが変わってきた。
 彼女たちは、親にとってのいい子で、いつも自分で物事を決めるのがおっかない人たちだったと思う。いまは、彼女たちに自己決定をどうさせるか、が課題」と語る。
 女性にとっての自立は、経済的、精神的、生活的、等が語られることが多いが、それよりも「何物にも依存しない自己の確立」こそが必要ではないかと思う。

「新興宗教ブームと女性 [増補版1995刊] 」いのうえせつこ(新評論)

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