スタン・ゴフ
11月15日
親愛なるイラク駐留の兵士たちへ
わたしは退役軍人だ。わたしの息子は空挺部隊員として、諸君とともにイラクに
駐留している。
諸君一人ひとりが、イラクでさまざまな変化を経験していることが、わたしには
よくわかる。だからこの手紙では、兵士仲間のことばで、率直に意見を述べよう。
1970年、わたしは空挺部隊員としてベトナム戦争に派遣された。戦争に行く
前までのわたしは、まわりから、でたらめな思想を植え付けられていた。
テレビや映画からは、「男の中の男として生きるには何をなすべきか」を教わっ
たし、ベトナムに一度も行ったことのない近所の人々からは、「ベトナムが共産
化しないよう、米軍が戦わなくてはいけない」と教え込まれた。
われわれ米兵の使命は、「悪いベトナム人から、良いベトナム人を救う」ことで
あり、「悪いベトナム人が、カリフォルニア沿岸に攻め込まないよう」に彼らを
叩きのめすことだった。
そのためにわれわれは駐留し続け、5万8000人の仲間が殺され、300万人
のベトナム人を殺してしまった。
イラクの大量破壊兵器が米国を脅しているという話を最初に聞いたとき、「そん
なことはありえない、湾岸戦争でさんざんに痛めつけられた後、12年間も経済
制裁を受けているイラクが脅威だなんて、いったいどこの誰が信じるものか」と、
あきれたものだ。
しかし30数年前、ベトナムがアメリカの脅威になっていると、自分も含めて、
ほとんどの米国民が信じ込んでいたのを思い出した。
大量破壊兵器のウソをでっちあげた政治家たちは、諸君が「偉大な解放者」とし
て、イラクの民衆に歓迎されるだろうとウソをついた。政治家はベトナム戦争で
も同じようなことを言ったものだ。ベトナムに民主主義を根付かせるのが、われ
われ米兵の役目だとね。
わたしがベトナムに到着する前に、米軍はすでに村々を焼き、家畜を殺し、 畑や
森に毒をまき、市民をスポーツ射撃の的とし、村人をレイプして虐殺していた。
ベトナム人被害者たちにとっては、現地に到着したばかりの自分と、すでに蛮行
をふるっていた残虐な米兵たちとの見分けがつかない。政治家たちは、そんなこ
とを何も言ってくれなかったから、現地でわたしは、たいへんな目にあった。
政治家たちが諸君に知らせなかったことが他にもある。
1991年から2003年の間に、150万人のイラク人が、栄養失調や医療不
備のせいで死んだことも、諸君は知らされていなかった。その中でも、か弱い幼
児の死者数は、50万人にものぼった。
いまイラクに駐留しているわたしの息子には、生後11ヶ月の赤ちゃんがいる。
とてもかわいい赤ちゃんで、わたしは孫の顔を見るのが楽しみだ。
同じように、諸君にも息子や娘がいるだろう。自分の子供を何よりも愛すること
については、諸君もイラク人も変わりがないことに気がついただろうか?
自分たちの息子や娘を亡くしたイラク人たちは、50万人の幼児が死んだ原因が、
アメリカ政府にあるということを、かんたんには忘れないだろう。
だから、諸君がイラクで歓迎されるだろうというのは、あからさまなウソだった。
それは米国民に戦争を支持させるためのウソだったし、諸君の戦闘意欲を高める
ためのウソだったんだ。
もし自分がイラク人の立場だったら、と考えたことがあるかな? 自分たちの町
が米軍に占領されたとしたら、米兵を歓迎する気にはなれないだろう。
われわれはベトナムでも、厳しい現実に直面していた。わたしは、もし自分がベ
トナム人だったら、「絶対にベトコンになって、米軍と戦っただろう」というこ
とに気がついていた。
ベトナムでもイラクでも、自分たちの家族を無惨に殺され、財産を破壊され威信
を傷つけられた人々が、侵略者を追い出そうとするのは当たり前だ。