121 :
その1:
あるきっかけ
それは、季節は冬に差し掛かろうとした頃の事・・・
兼ねてからの、バンド仲間からの一本の電話で 僕は呼び出された。
「相談事がある・・・」そういった Aの差し出した数枚の紙には
あるライヴハウスのスケジュールがあったのだ。
一ヶ月のうちの半分も稼動していない・・・。
「ひどいな・・・」僕は そう呟いた・・・。
「どうにかならないかな?」Aは困った顔をして僕に相談してきた。
「打開策はあると思う・・場所柄も問題なさそうだし・・・」
現状も見ずに、僕は言ったが きっと 過去の経験からの自信があったのだろう。
実際、傾きかけていたライヴハウスを何度も 軌道修正してきたという
自信が僕にはあったし、何よりも 大阪の音楽シーンの歴史の中に
様々なカンフル剤を打ち込んできたという自負があった僕にとっては
「何とかなる」 と思った事は確かだ。
そして、その数時間後 僕は そのライヴハウスのオーナーと面談して
現状を聞く事になる。
経費面・・・現状の赤字状態・・・
そこから、僕は まず損益分岐点を考えて 運営の建て直しを
考える事になった。
まだ、ライヴハウスそのものを 見ていなかったのだが・・・
122 :
その2:2006/08/28(月) 18:25:46 ID:W3ynnYWr
当時の現状
そして、その後 僕はAと共に ライヴハウスの現状を
見てみる事にした。
ビルの地下に存在している そのライヴハウスの入り口付近から・・・
少し問題だな・・・と感じながら 内部へ足を踏み入れたのだが・・・
絶句すべき現状が そこにはあった。
音響機材の設置は、デタラメで負荷のかかる状態になっている・・・。
効率さえ 考えられていない現状と 付け焼刃のような店内・・・。
音響機材が不足しているのは 仕方がないと考えるが・・・
そして、当時の店長は・・・僕が その後リサーチしてみたのだが
他店を数店 ダメにしてきたという人間であったようで・・・
トラブルも ちらほらと 聞かれたのだが・・。
なんだか、これは ちょっと 厳しいかな・・・と
正直思った程だ・・・
今後のスケジュールを見て まずは 店内改装案を 提示した。
もちろん、赤字財政の為 必要最低限 そして なるべく手作りで
改装をする事を考えた。
飲食店関係の 基本は QSC の3原則を徹底する事にある。
Q=整ったクオリティ
S=行き届いたサービス
C=クリンリネス(常に清潔を保つ)
ひとまず、店内をそういう状況に持っていく事を考えたのだ。
その日から、店の休日を利用した 店内改装が始まったのだ・・・
因みに、僕は当時も 別の仕事を持っており 社員として
他社に在籍していたという事も 付け加えておく。
しかしながら、そういう現状(改装)を見ても
当時の 店長は 手伝う素振りも見せなかったのは
やる気のなさを 見てしまったのは仕方がないものだ。
123 :
その3:2006/08/28(月) 18:40:58 ID:W3ynnYWr
さぁ はじめようか
「あなたの思うとおりに運営してください」 僕は、社長からそう言われて
自分がこれまで暖めてきたプランや、これまでの音楽シーンについての疑問を
「ライヴハウス」という観点から 変える事ができるかもしれないという
気持ちになったのは事実だ。
「ライヴハウス」は、音楽業界の中にありながら
常に、業界から隔絶された状況にあるのかもしれない。
(そうではないところもあるが、ほとんどが 単なる演奏できる店というだけ。)
僕は、Aと共に あちこちを走り回って 店を快適な空間にリニューアルする為の
道具を買い続けた。
それこそ、自分の時間を削りながら・・・
本当ならば、会社というものに束縛されていなければならない僕だったが
そうも言えない状況の中で 何とか 早く立ち上げたかったのだ。
当時の店長は、なぜか そういう状況の中でも こちらに向いて来る事は
なかったのかもしれない。
そんな店長を見て Aは とうとう「解雇通告」を社長の代行として行ったのだ。
僕的には、店長は 店長職ではなくて「音響マン」として 店に留め置き
僕は、あくまでプロデュースや営業に走り回りたかったというのが
本音なのだ・・・。
なぜならば、音響で僕が張り付いた場合は その時間を拘束される訳で
それ以外に仕事ができなくなるからだ。
そうすれば、不要な人件費を考えることなく 店の繁栄による
コミッションを受け取るだけで僕は問題ないと考えていたし
第一、僕にも 他業が多く存在している事や 組織の人間でもあった訳で
それをないがしろにできない環境でもあったからだ・・・
しかしながら、雲行きは「店長解雇」で変化してしまった。
僕は、音響オペーレーターも兼任せざるを得ない状況になりつつあった。
そうなれば、当然 組織に籍を置くのは 問題がある。
僕は、組織に「退職願」を提出した。
もう、下がるに下がれない状況となった事は感じていた。
失敗も 許されないような状況に・・・
当然、店は 機材も追加して 常に前進していたのは言うまでもない。
124 :
その4:2006/08/28(月) 18:41:58 ID:W3ynnYWr
運営に対する展望
店長が去り、様々なところに営業を掛け始めた僕だった。
少しずつ、バンドに対する PRを進めながら 僕は感じていた。
「僕たちが、バンドをしていた頃と 今のバンド達の意識が違う・・・」
どうも、目的意識や夢が感じられないのだ・・・
なぜなのか・・・僕は 常に考えていた。
僕は、巷のライヴハウスが打ち出している ありふれた形が
どうも 気に入らなかった。
それは、僕達がバンド活動を活発にしていた頃は
ライヴハウスのチケットは、300円〜700円程度だった。
でも、今は 最低1,000円で 平均すると 1,500円・・・
それにドリンクをつければ、2,000円となる・・・
演奏する側に、それだけの値打ちが最初からあるだろうか?
結果的には、そのチケットが「ノルマ」という形で出演者に反映されてしまっていて
そのチケットは、出演する為の「有価証券的」な扱いになっているのだ。
大抵 その 高額チケットが10〜30枚が、販売ノルマなのである。
という事は、出演する為には 15,000円〜45,000円のお金が必要なのだ。
それを 純にお客さんが買ってくれるならばいいのだが
そんなはずなどなく、ほとんどが 出演者の自己負担であるのは
長い経験から わかっていたことだった。
つまり、ライヴハウスは 単なるレンタル・ホール化してしまっているのが
現状なのだ・・・。
僕たちが 活動していた頃は ライヴハウスには「情熱」があった。
それは、ライヴハウスも看板のアーチストを育成したかったという思いがあり
二人三脚で成長していたものだ・・・。
そんな中で、チケットの単価が 300円から500円 やがて1,500円 と
上がっていくのは自然の事だったし、出演しているシチュエーションも
平日の3グループから週末へ そして土・日・祝へ そして ワンマンへと
段階があったものだ。
それが、今は いきなり 何でもできてしまうのだ。
金さえ払えば、お客さんは0人でも 文句は言われない。
それが、「ライヴ」というものではない事など・・・
誰にだったわかるはず・・・
僕は、そういう状況を 改善する先駆者として 自分のいるライヴハウスを
プロデュースしようと思ったのだ。
もちろん、その為には いくつもの難関がある事など 承知はしていた。
しかし、僕には 勝算は あった。
それは、ぼくの計画や思いに いくつものアーチストは 同調してくれたし
他のライヴハウスも、協力を約束してくれていたからだ・・・。
そして、ライヴハウスは 動き出した。
125 :
その5:2006/08/28(月) 18:42:48 ID:W3ynnYWr
再会したスタッフ
僕は、ライヴハウスの運営のため 過去 僕の右腕としてかなり助けてもらった
スタッフを呼び寄せた。
当然 僕の 意とするところは理解してくれる人間であるという事もあるが
そのマネージメント能力は、捨てがたいものがあったからだ。
そうして、僕の懐は固まっていった・・・。
そんな中、Aは自分の妻とその友人を入店させていった。
僕は、そういう事は 気にする人間ではないが ひとつ気になったのは
Aは その妻の言う事には 絶対服従しているというところだった。
やがて、ライヴハウスは まだ 僕の考える位置には 到達していなかったものの
自分の中では 少しずつ シーンの手ごたえを掴みつつあった。
しかし、もう一つ気になっていたのは・・・
そのライヴハウスには、ヴィジュアル系を中心とした事務所が存在していた。
当然の事ながら、その所属バンドのイヴェントも その店で行われていたのだが・・・
なぜか、Aの陣営のスタッフは その事務所が店を使用する事に対して
酷い嫌悪感を覚えていた。
僕的には、もう少し 調整しあってもいいし 事務所とキチンと話し合って
二人三脚で運営をしていけばよいと思ったものだったが・・・
社長を頭として、事務所側とA陣営は 睨み合った形のまま
時は進行していた。
僕的には、無用な争いであり 無駄な事だと感じていたのだが・・・
確かに、それまでの 店の運営は ガタガタであり
不透明なところが多かったとは感じている。
しかしながら、それは いがみ合う事では解決しない。
A陣営のスタッフは 常に その事務所が店を使う度に 苦情を言い続けている状況であった。
僕は、店内のスタッフが閲覧できるメーリングリストで 何度か
その対応にも 注意を促した。
それは、出演者の意識を持ってライヴハウスの運営をすれば
手痛い シッペ返しが来る事は 裏方稼業の僕には痛いほどわかっていたからだ。
また、運営に対してや 店の危機的な状況も 常に
メーリングリストでは 提案し続けていたのだが・・・
結果的に、それは 理解されなかったという出来事が
次から次に起こったのだ。
126 :
その6:2006/08/28(月) 18:43:50 ID:W3ynnYWr
進まない事
ライヴハウスの広報も兼ねて 動いていた僕は 常に自家用車に
手作りの「出演者募集」のチラシを積んで 走っていた。
常に、貼付してくれそうなところがあれば 積極的に活用した。
音楽スタジオを巡り 他のライヴハウスに行き 歩道橋やストリートの音を聞き
あらゆる営業をかけ続けた。
しかしながら、一人では 能力の限界もあるのは事実で
それを常に、積極的に協力してくれる姿勢をスタッフに求めていたのだが・・・
結果的には、「うるさいおっさん」というレッテルを貼られたようだ。
それは、常に問題提議をしても Aの妻からは「あなたは 自分の事しか言わない」
という事を言われたからだ・・・。
自分の事ではある・・・しかし それは 常に「店の経営」を考えた上で
必要な事であり、店を引き受けた以上は 「責任」というものから来る事である
のは 100%間違いのないところである。
もしも、スタッフ全員が 僕の方法で 出演者を集めたならば
今頃、ライヴハウスは 完全に立ち直って 毎日稼動に近い状態になっている
事は 保証させてもらってもいい。
それは、過去 様々なイヴェントを企画して成長・成功させてきた経験から
言わせてもらう。
しかしながら、Aは 社長の「看板娘を立てろ」という 言葉を捻じ曲げて
解釈したのであろうか・・・
看板と営業は 全く別物であるという事を理解していない事が
変わらぬ店の運営に現れているのは言うまでもない事は証明されている。
確かに、Aの妻の友人は 他店にて勤務の経験もあり
出演者を引っ張ってくる事もできるのは 事実である。
しかし、それは そこまでの事で 全くの新規開拓となれば
話は別になってくる。
ライヴハウスは、当たり前の運営をするのではなく 違ったアプローチから
アピールしていかねば、生き残っていく事はできないと考える。
他店に並んだ やり方では 見劣りしてしまう環境の中では
わざわざ 慣れ親しんだ店から拠点を変える必要性などないに等しいからだ。
つまり、時間はかかるが 出演者に対して 高い目標設定ができるような
環境に持っていかねばならないと考える。
どんなに見劣りする環境でも 目標設定を正確にさせていたからこそ
ミナミのバハマは 現在も存在していると僕は思っている。
127 :
その7:2006/08/28(月) 18:44:33 ID:W3ynnYWr
募る不安
僕は、常にスタッフ間の温度差を感じていたので そういう信号は
常に、Aに対して 発信していた。
しかしながら、その回答は常に 仕方のない事 というものだった。
その言葉の裏には 今にして思えば「自分の周囲は動かさない」という
意思表示だったのかもしれない。
僕の体制になってから 約3ヶ月目 とんでもない事になりつつあった僕は
常に、不安感と隣り合わせであった。
僕は、会社員という立場を退職している訳であり
正直なところ、それで早急に結果を出さなければ
生活もままならなくなってくるのは 目に見えているからだ。
店の状況と、自分の生活 を考え合わせると 焦りも出てくるのは
仕方のないところなのだが・・・
そんな折、様々な問題が自分の周囲で起きている事も
僕は 知る事になる。
僕の右腕のスタッフの携帯電話が止まっているのだ。
料金未納による停止なのだが・・・
僕が、理由を尋ねると・・・
「出演者募集のため 連絡を何度もとって 通話料金が上がりすぎた。」
という。
僕達ならば、パソコンからネットメールを使えば いくらでも
料金は節約できる。
しかし、その環境を持ち合わせていない彼女は 大変な思いをして
僕に協力していたのだ。
僕は、心が痛くなった。
わざわざ 僕が 引っ張ってきておきながら 僕は何も出来ていない・・。
そんな折、店に Aの妻とその友人が 昼頃よりタイムカードを押して
出店し、店の電話を使って 出演交渉および 電話対応をしている事実を
知る事になる。
実際、この時点で 僕に相談がないという事は 明らかにおかしい事である。
この時、Aの対応に 段々と、不信感が募り始めてきたのは言うまでもない。
128 :
その8:2006/08/28(月) 18:45:41 ID:W3ynnYWr
現実問題
現実問題として いろんな問題が勃発してきたのは言うまでもない。
一方は、店の経費を使って出演者を募り 一方は自己経費を使い続けて
出演者を探す。
この差を 責めて縮められないものだろうか・・・
みんな同じ事をして 同じ店の為に考えているのに
あまりにも差がありすぎる・・・
僕は、その差を 無くす努力をする事が 運営を任されている者としての
責任と感じているので、Aに 早急にスタッフ部会を要請した。
しかし、Aの対応は 「考えておく」の一言であった。
通常、営業におけるセオリーは「考えておく」は 95%断りの言葉なのだ。
この時、既に Aの中では 僕の話を聞くという体制では
なくなっていたのかもしれない。
結果的に、何一つとして 改善される事はなく
全ては、Aの なすがままに進んでいったのだ・・・。
そして その後 信頼関係を一切断ち切る事が起こるのだ。
129 :
その9:2006/08/28(月) 18:46:27 ID:W3ynnYWr
騙されているのか?
店が始まった当初、店ではスタッフ全員に回覧できるように
メールのシステムが構築されていた。
当然、僕も そのメールは活用していたのは言うまでもない。
だが、ある日 Aより電話がかかってきた。
「メールサーバーが故障したので しばらくメールは止まるので また
復帰したら教えるし そちら宛のメールは ちゃんと連絡するからね。」
というものであった。
僕は、軽く考えていた。
メールサーバーのトラブルは よくある事でもある。
そのうち 復帰するのだろうと あまり気にも留めてはいなかった。
なにより、見る気になれば フリーメールにも同じものが存在しており
いつでも閲覧できるようにパスワードも統一されていたからだ。
そして、僕の収入の問題だが 会社という安定収入に近いものを
退職して 店に掛けていた訳だから それ相応のものも必要なのは
言うまでもない。
Aは 僕に対して 「1日、1万円くらいしか出せないけど・・・」
と言う事もあり 店の状況も踏まえて それでよしとした訳だが・・・
清算された収入は、時間給700円という換算である。
大阪市の最低賃金は 708円である。
交通費を実費にて 入店し 時間給700円で営業時間内計算・・・。
前店長に対しては、月給20万円という固定給であったという。
それ以下の対応である。
それも、社会経験も遥かにある男に対して提示する金額ではない。
僕は、音響オペレーターとして 一日拘束6時間でも 最低7,000円の
日当が発生する訳で、それならば 到底 そういう仕事はできない・・・
と考える。
そういう事から 考えると Aは前店長をリストラして それ以下で
雇用できる人材を入れる事により マイナス方向での店の維持を
考えたとしか 捉える事はできなくなった。
そして、上記のメールの件だが いつの間にかパスワードは
変更されており、Aを始めとして その他の数人のスタッフは
メールを閲覧できる権利を持ち合わせている事が判明した。
ここまでくると 完全に 騙し・・・嘘と裏切りだけが
ライヴハウスに渦巻いているという事になる。
僕は、そんな状況では 働く気になどなれないし
一切の協力もする気にはなれない。
130 :
その10:2006/08/28(月) 18:47:11 ID:W3ynnYWr
決別
当然、時間給700円などという収入で 一人暮らしの男が食っていける
状況にならないのは 誰が考えても わかりきっている事だし
メールも 隠されて コソコソ運営するような状況になっている
腐った体質の職場にいる必要もないので 僕は 即座に 退店のメールを
出した。
対応は、早かったもので 即座に 僕の関係していた証も 消え去っていた。
という事は、始めから それも策のうちだったと思わざるを得ない。
それから数日して、社長より電話があった。
「どうなっているのか?」という事だった。
僕は、「どうなっているのかは こちらが聞きたい。」
と 事のあらましを全て語ったつもりだ・・・。
社長は、「後日 改めて話し合いたい・・・こんなのは おかしい。」
と言う。
僕は 「いつでも話し合いますよ」 とは 言ったものの
おそらく 二度と 連絡はないと思ったものだ。
それは、きっと Aが防衛線を張り巡らし
僕と社長を会わせる事はしないだろう・・・と 考えたからだ。
社長は、何一つ 報告を受けておらず 結果のみを知らされていたに
過ぎないのだろう・・・。
この時の 社長の言葉には 嘘はなかったと 信じられる。
だが、男はプライドの生き物であり
それを傷つけられたならば いつでも 身を引く事はあるものだ。
因みに、現在・・・僕が 退店後 ライヴハウスは 営業はしているものの
稼動状況は 横ばいのままだ。
また、システムも変わってしまい 出演者をサポートする体制ではなく
他のライヴハウスと同じ位置で運営をしているようである。
今の僕には 全く関係ないが・・・
僕は、現在 他のライヴハウス(専属ではない)のプロデューサーとして
様々な 相談に乗り続けているのは 言うまでもない。