SRA近藤博次って単なるアニヲタなの?

このエントリーをはてなブックマークに追加
12仕様書無しさん
はきだめの人形



    それは、たった一つの動作しかできませんでした。

 それは、はきだめに転がっていました。
泥だらけで、傷だらけになって。
僕は何も考えずに、ほとんど無意識にそれをひろって帰りました。
後で思うと、なんだったのか、じぶんでも理由がわかりません。
とにかく汚かったので、台所へもっていって洗ってやりました。
あれ、かわいいじゃないか。
泥を洗い流した後の、それが第一印象でした。
大きな目、長いまつげ。
上だけではありません。目の下のまつげもとても長いのです。
きりっとした口。
人間だったらすげえ美人だな。
日本人の女だったら、もうお高くてお高くて手も足もつけられねえところだ。
そんなことを考えたことを覚えています。
洗ったあと、三畳の部屋の壁によりかけてやりました。
にこっと微笑んだような気がしました。
初めてその動作をしたのは、このときでした。
「シアワセ」
そう言ったのです。
13仕様書無しさん:02/01/31 23:50
 給料日前でした。
手持ちの2600円で、四日間暮らさなければなりません。
三畳の部屋で、食パンとバナナを食っていました。
あの頃は、給料日前はそれが当たり前で、自分じゃわびしいとも何とも
思いませんでした。それが当たり前だったのです。
「お前も食うか。」
僕はそういって、食パンをちぎって、人形に差し出しました。
人形の瞳がかがやいたような気がしました。
「シアワセ」
人形は、そう言いました。
14仕様書無しさん:02/01/31 23:50

 給料日前でした。
手持ちの2600円で、四日間暮らさなければなりません。
三畳の部屋で、食パンとバナナを食っていました。
あの頃は、給料日前はそれが当たり前で、自分じゃわびしいとも何とも
思いませんでした。それが当たり前だったのです。
「お前も食うか。」
僕はそういって、食パンをちぎって、人形に差し出しました。
人形の瞳がかがやいたような気がしました。
「シアワセ」
人形は、そう言いました。
15仕様書無しさん:02/01/31 23:51
 デートをする金もなく、彼女もいませんでした。
やぶれかぶれな気持ちで、子供相手の駄菓子屋で100円のイヤリングを買って、
部屋に帰ってきました。
人形につけてやりました。
気のせいか、うれしそうな顔に見えました。
「シアワセ」
人形は、そう言いました。
16仕様書無しさん:02/01/31 23:53
 事件があって、父親から憎まれるようになりました。
実家には行けなくなりました。
俺は、表向き突っ張っていましたが、実の父親に憎まれるということは、
実は大変な重圧でした。
あろうことか親父はあることないこと言いふらして、おかげで兄や妹達にも
誤解をうけて、冷たい仕打ちを受けるようになりました。
寒空の下、冷たく光る星々を背に一人でトボトボとどこまでもどこまでも
歩き続けました。
足を棒のようにして、三畳の部屋にたどりつきました。
人形を抱きしめ、俺はおもわず泣いていました。
人形が言いました。
「シアワセ」
17仕様書無しさん:02/02/01 00:00
 会社で上司に怒鳴りつけられました。
なにか誤解をしている。
それははっきりしていました。
しかし、日本の会社では上司は常に絶対に正しいのです。
下の人間が説明をするということは、見苦しい言い訳としかとられないのです。
僕はじっとこらえていました。
その日一日、ただじっとこらえていました。
三畳の部屋に入ると、おもわずじわっと涙があふれてきました。
「お前だけはわかっているよな。」
思わずそう語りかけていました。
心なしか、人形がうなずいたように見えました。
「シアワセ」
人形は、そう言いました。

18仕様書無しさん:02/02/01 00:04
 僕はインターネットの事業を始めて、大成功しました。
年間売り上げ高、三億五千万ドル。
三十六階建てのビルの僕の部屋、つまりCEO室には、三人のグラマー美人が
います。僕の秘書達です。
ホームでは、美人のワイフが僕の帰りを待っています。
みんなプライドが高く、僕のようなリッチな男でないと鼻もひっかけません。
趣味がよくて、世界の超一流ブランド物でないとプレゼントしても喜びません。
超一流レストランでないと、連れて行っても嫌がります。
僕はもうすっかり忘れていました。
あの人形のことは。



 人形は、はきだめに転がっていました。
泥だらけで、傷だらけになって。