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船橋洋一の世界ブリーフィングNo.809 [ 週刊朝日2006年11月3日号 ]
日本核武装を説くネオコンの真意 こんな妄言に乗せられないことが肝心

ブッシュ米大統領のスピーチライターだったネオコン理論家の一人、デイビッド・フラムが、ニューヨーク・タイムズ紙(10月10日付)に、日本核武装のススメを説く論文を投稿した。

フラムといえば、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」呼ばわりした2002年年初のブッシュ大統領の一般教書のスピーチライターとして知られる。
現在は、米国の保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)のフェローである。
フラムは北朝鮮の核実験実施を受け、米国は新戦略を練り直すべきであると主張する。

▼日本と韓国の安全保障の強化。

▼イランやその他のならず者国家に恐怖感を抱かせるため、北朝鮮にその行動のツケを十分に払わせ、見せしめとする。

▼中国を懲罰する。もし、中国が、北朝鮮の核開発に真剣に反対していたなら、北朝鮮は核開発を完成できなかっただろう。

ネオコンはブッシュ政権の大量破壊兵器(WMD)不拡散とテロとの戦いでは先頭に立ってきた。
それだけに北朝鮮の核実験は、彼らにとっては痛手である。
共和党は、その矛先をクリントン政権に向けている。
クリントンが北朝鮮に核の「凍結」といった生煮えの対症療法を許したばかりか、凍結したごほうびに軽水炉を提供するなど甘やかしたことが北朝鮮をつけあがらせた、その結果がこのざまだ、というのである。

しかし、クリントン政権時代のマドレーヌ・オルブライト元国務長官はこうした批判に真っ向から反論する。
「クリントン政権2期の間、北朝鮮の核実験はなかった。プルトニウムの新たな生産もなかった。核兵器開発もなかった。
われわれの関与政策によって世界はより安全だった。しかし、ブッシュ大統領は別の道を選んだ。その結果がいまここにある」

中間選挙を控えて、共和党、民主党の間で、責任のなすり合いが激しさを増している。
その中で、フラムらのネオコンはむしろ古巣のブッシュ政権の進める6者協議プロセスを俎上に上げる。
フラムは次のように言う。
「中国の指導者は、北朝鮮に圧力をかけるのを拒否してきた……中国が北朝鮮の核保有にもっと強く反対していれば、北はここまで核能力を高めることはなかっただろう」
「中国は、何百万という難民が自国領土内に流れ込む危険を恐れ、北朝鮮の体制を維持しなければならないという恐怖感に駆られている。
ただ、それは中国の恐怖であっても米国の恐怖ではない。
北朝鮮の体制を維持したければ、そのコストは中国が負担してほしい。なぜ、米国と韓国がそれを分担しなければならないのか」

フラムにしてみれば、中国は北朝鮮というならず者国家の支援国なのである。
「中国と北朝鮮は、北朝鮮の核実験は彼らに有利な状況をもたらしていると想像しているだろう。
そのような想像は、まったくの幻想であることを彼らに思い知らせることが肝心だ。
ならず者国家と支援国家を除外する新たな安全保障体制を構築する時だ」

その体制とは、グローバルNATO(北大西洋条約機構)であり、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールをそこに入れよと主張する。
そのうえで、日本に核不拡散条約(NPT)の破棄と核抑止力の構築を奨励せよとブッシュ政権に求める。
「(それは)中国や北朝鮮がもっとも恐れることだ。地域の核バランスを崩そうとする無法国家の試みを、米国や同盟国が積極的に正そうとすることを示す」

日本の核武装を説くネオコンはフラムに限らない。
私は、このほど出版した『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン 朝鮮半島第二次核危機』(朝日新聞社)の取材で
ブッシュ政権のネオコンたちの話も聞いたが、そのうちの3人までが日本の核武装を支持、あるいは容認した。

軍縮・不拡散担当部門の国務省の政治任命幹部は、「自分はネオコン」とわざわざ断ったうえで、言った。
「英国は核保有国であり、かつ米国のもっともよき同盟国だ。日本がなぜ、そうなってはいけないのか。
国務省の同僚にそう主張したが、自分のような考えはここでは圧倒的少数派」

やはり不拡散専門のネオコンの重鎮の一人は、
「米国はいざとなれば日本が核を持っても許容できる。しかし、中国にとっては死活問題だろう。それなのになぜ、中国はそれを言わないのか」と言った。
自問自答のようでもあり、私に質(ただ)すような言い方だった。
ブッシュ政権の中には、日本の核武装の可能性をことさらに言い立てることで、中国を神経質にさせ、中国に北朝鮮にもっと圧力をかけさせようと試みる人々もいる。

ジョン・ボルトン国連大使(前国務次官)がその典型である。
ボルトンは言う。
「北朝鮮が核武装しても……中国に対する直接の脅威にはならないかもしれない。
むしろ、地域の専門家の意見は大方のところ、北朝鮮が核保有国となった場合、日本への決定的な契機となりうると見ている。
日本が核保有国になれば、北東アジアの(各国の戦略)計算を根本的に変えることになるだろう。
中国はそれを注視しているはずだ……そのジレンマを中国がどのように解決しようとしているかは知らない。
正直言って、それはわれわれの心配することではないと思う」

フラムの日本核武装のススメはこうした戦術的なパフォーマンスとは違う。それは戦略的視点をのぞかせている。
しかし、ネオコンのイラク解放と中東大民主化構想が幻想であったように、フラムの日本核武装論も大いなる幻想にすぎない。

日本の核武装は、日米同盟、米韓同盟の強化に必ずしも役立たないし、北朝鮮にツケを払わせ、イランに恐怖感を覚えさせることにはならない。
それは中国を懲罰することになるのかもしれないが、中国の懲罰のために日本をダシに使わないでもらいたい。

ネオコンの日本核武装論は、べつに日本の安全保障を真剣に考えて言ってくれているわけではない。
日本を核武装させることで、中国に脅威を与え、日中をいがみ合わせようというねらいもある。
日本は米国の番犬ではないし、米国の駒でもない。
こんな妄言に惑わされないことである。

北朝鮮の核放棄のために何をすべきか。
韓国も含め、国連の制裁決議を足並みをそろえて実施する。中国に北朝鮮への圧力を倍増してもらう。
そして、日米同盟を維持、強化し、日米韓政策協調を定着させ、米国、中国と協力しながら、北東アジアの多角的枠組みをつくっていく。
6者協議への過大な期待は禁物だが、そのプロセスを使い、北朝鮮を核放棄させる。6者がどこまでやれるかとことん試してみる。
その間、日本は核保有は絶対に口にしない。
船橋洋一の世界ブリーフィングNo.809 [ 週刊朝日2006年11月3日号 ]
http://publications.asahi.com/syukan/briefing/809.shtml