読売「セウォル号船長も新渡戸稲造の『武士道』を一度でも読んでいれば・・・」
19世紀末、世界の注目を集めた日清戦争に勝ったとはいえ、当時の日本はアジアのどこにあるのか欧米では理解されていなかった。
「日本と世界をつなぐ懸け橋になりたい」と誓い、ドイツに留学していた新渡戸稲造は、ベルギーの法学者から
「日本では宗教教育をせずに、どのようにして道徳を教えているのか」と聞かれ、答えに窮したことがずっと胸につかえていた。
盛岡藩士の三男に生まれた稲造は、武士の道の中にその答えがあると考え、1900年、滞在先のアメリカで出版したのが「武士道」だった。
成文化されてはいなくても、仁、義、名誉、勇、誠などを守ることを美徳とする日本人の考え方を堪能な英語力で表現した。
ニューヨークではベストセラーになり、感銘を受けたセオドア・ルーズベルト大統領が子供たちに読むよう薦めたほどだ。
ただ、日本と海外の思想の対比に孔子やプラトン、シェークスピアからローマの軍人の言葉まで幅広い分野から引用していることもあり、難解な部分もある。
盛岡市先人記念館学芸員の久保田さやかさん(34)は「『武士道』の研究者の間でも、その出典はすべては分かっていないと言われます」と話す。稲造の知識は当時の日本人の常識を超えていた。
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20か国語以上で翻訳され、日本語の訳書も数え切れないほど出版される「武士道」は、そもそもなぜ、これほど長く支持されるのか。
青森県十和田市立新渡戸記念館館長で、稲造のいとこの子孫に当たる新渡戸常憲さん(47)は
「たとえば『名誉』は自分に恥じることをしない、『勇』は正しい行いをするという当たり前の行為だが、その教えには時代や国を超えて通じるものがあるからでしょう」と指摘する。
明治になり、封建制度が崩れても武士道が日本人にとって心のよりどころである――。その普遍性は、今も連綿と通用するのだ。
韓国の旅客船「セウォル号」の沈没事故で、乗客を置き去りにしたまま脱出した船長が強い非難を受けている。
「武士道」は韓国語でも出版されている。船長が一度でも読んでいれば、と思う。(文・西條耕一 写真・安川純)
http://www.yomiuri.co.jp/otona/travel/meigen/20140531-OYT8T50009.html