サッカーの応援というのは本来、自分たちのチームだけがいい思いをしたいということでしょう。
応援席で一体となって熱狂する。敵への怒りや憎しみを爆発させる。たった2時間で揮発しちゃう
一種のガス抜きですけど、一種のバカになりにいく。それがサッカーの魅力であり、ある意味、
健康的なことでもあると思うんですよ。この社会で私たちは「冷静であれ、おとなしくあれ、
善き市民であれ」という驚くほどの圧迫のなかで生きています。本能的な野性味は全部、
制御されてしまっている。でも人間には、たまには大きな声を出すことも必要なんです。
それにはスタジアムに行くぐらいしかない。私もお酒をやめてから特にそう思います。
今回、浦和レッズのサポーターが「JAPANESE ONLY(日本人だけ)」という横断幕を掲げたことを
Jリーグが問題視し、無観客試合の制裁を科すなど素早く対応したのも、FIFAに見とがめられたら
大変なことになりかねない、という心配があったからでしょう。でもスタジアムの外の社会には、
もっとひどい言葉がごろごろ転がっていますよね。東京の新大久保ではヘイトスピーチで
「朝鮮人死ね」と叫ぶ人たちがいる。嫌中憎韓をあおる週刊誌にも、読むに堪えない言葉が
書かれている。もともと社会の側に火種があれば、何万人もが集まって大声を出せるスタジアムは、
ちょっとしたことで発火する危険をはらんでいます。たかがサッカーですが、社会の偏見が
リアルに表れる場でもある。ファンとしていくら興奮しても、決して最後の禁句は発しない。
そんな「節度ある罵倒」を楽しみませんか。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11135494.html