「時代の勢い」に同調するな=哲学者・木田元さん
喫茶店の一角、哲学者は窓から差し込む明るい陽光の中に腰掛けていた。
傍らには歩行器。「最近、足が痛くなってね」。少しかすれた声だった。
この参院選に、私たちはどう向き合うべきなのか。素直に尋ねると、一つ大きく息を吸い込み、
振り絞るように語り始めた。「時代には勢いがあります。今ならば、ちょっと右寄りの方がかっこいいとか、
そろそろ憲法改正が必要だとか、昔日の日本の威光を取り戻そうとか、そういう動きですね。
それらに安易に同調したり、勝ち馬に乗ろうとしたりすると、とんでもないことが待っているかもしれない。
戦前、日本の孤立を決定づけた国際連盟からの脱退に国民は拍手喝采しました。
その愚を繰り返さないように立ち止まって考え、『勢い』をチェックして、
場合によっては抑えることが必要でしょうね。賢さと言い換えてもいい」
政治家の言動にきな臭さを感じている。「彼らは自分たちが兵士として戦場に赴くことはないと思っているから、
勇ましいことを簡単に口にする。国防軍などと言うが、軍隊を持つことの意味が分かっているのか。
軍とは単に自衛隊を拡張させたものではない、そんな生やさしいものではないんですよ」
自衛隊の名称が変わっても国民の多くは無縁の話だと思っているかもしれない。
「でも、少子化で若者の数が減れば軍を維持するために志願制から徴兵制に変わるかもしれない。人ごとではないのです」
哲学者の話は難解という先入観はいつの間にか拭い去られていた。
「何かと言えば経済成長。しかも株価の上下に一喜一憂して……。
近ごろの日本人、目先のことばかりにとらわれて、少しおかしくなっていませんか」
http://mainichi.jp/feature/news/20130704dde012010029000c.html