先月満65歳を迎えた中西清さん=仮名=のもとに、誕生日を前にして日本年金機構から1通の封書が届いた。
38年間の会社員生活を全うした中西さんは、64歳から年金が満額支給されているので「何だろう?」と「重要書類在中」
と印刷された通知書を開封したら、「70歳まで年金の支給を繰り下げませんか。
そうすれば最大70歳までの60カ月に応じて0・7%きざみで年金が増額となりお得ですよ」という内容であった。
ご丁寧に「繰り下げ受給(66歳以降に増額された年金を受給)を希望される方は、
66歳から70歳までに年金請求の手続きをお取りください」と書かれてある。
経済的に余裕のある人は今回は何もしなくていいですよ、という意味である。
昭和22年生まれの中西さんは60歳から特別支給の老齢厚生年金を受けていて、
昨年から老齢厚生年金と老齢基礎年金両方の支給となった。現
在の年金支給開始年齢は、昭和36年生まれ以降は原則65歳からである。
この通知書は、これが70歳に繰り下げられる前触れのようにも見えてくる。
おまけに、同封された「年金請求書」を提出しなければ自動的に繰り下げが決定するシステムで、
中西さんのように無職で収入のない年金受給者が期限までに提出を遅れると
「65歳以降の年金のお支払いが一旦停止します」と朱色の注意書きまである。
60歳から65歳の節目に年金受給者本人の「意志確認」が義務付けられていることによる手続きなのだが、
65歳の誕生日前に届く1通の「重要書類」は、リタイアした団塊世代400万〜500万人全員に送付される。
要するに、今年4月以降、団塊世代が65歳を迎えるにあたって、
一気に増える年金支給額を抑える目的で編み出された官僚のご都合主義が見え見えの文書であった。
少子高齢化で労働人口の減少と年金問題は密接に絡み合っているのは理解できるが、
「うっかりミスも容赦ないような文面で、とても不愉快な思いをした」と中西さんは憤りを隠さない。
最後に「繰り下げする人なんてほとんどいないでしょうね」とポツリとつぶやいた。(谷口和巳)
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20120802/dms1208020718003-n1.htm