GA文庫大賞、受賞作発表!GA文庫設立以後初の大賞となったのは「ファミリア・ミィス」 まさに超大作!

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これで上手い?
そりゃ底辺ラノベに比べりゃマシだろうが……その程度のレベルだろ。
70番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 00:37:29.83 ID:JRe28QKM0
>>69
ステマをステマと気づけないものに嫌儲はつとまらない。
ニャル子出してる出版社だぞ。おしてしるべし。
ネット小説の中でも商業で通用する上澄みクラスだと理解できる程度には上手いが
初の大賞になるほどの新鮮味があるとまでは想像できんな
72>>50->>53:2012/04/29(日) 02:15:16.19 ID:vD1p1+kaO
いや俺社員じゃねーよ
……っていうと余計に面倒になるんだよな……
73www ◆SbILoVERqY :2012/04/29(日) 03:35:47.79 ID:okLSFu9v0
最近の2ちゃん、批判しかしないからね@w@
74番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 03:46:34.49 ID:1bGQRYxA0
>>65
自演乙
75番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 03:48:26.66 ID:ApILzHyu0
>あの旗を立てるのは貴方 啓都正光

アッコが出てきてほしい
SATOさん、これが大賞にふさわしいのかい?
ニャル子にあげておけば良かったような
見た感じ新鮮な作品でもなさそうだし
77番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 04:01:09.17 ID:9NSENPjL0
いや、ガチですごいぞ

まあ、でもこのすごさと面白さがわかるには
ちゃんとした文学を千冊以上読まないと無理だろうな
ラノベの皮をかぶってはいるが
アントン・チェーホフと 林芙美子を足して割ったような洗練された文章だぞ
大賞にふさわしいどころじゃない、芥川賞だって手に余るほどの才能だ

>うちの居候が世界を掌握している!(受賞作品「ユーキノカケラ」より改題
正直ネットで載ってたやつの一話目>>50-53は糞つまんない
これ以降だんだん面白くなって、十話目で俺は信者になった
80番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 11:10:43.39 ID:Juz1XEcE0
>>77
あのさぁ・・・
>>65
良いSSですね。紹介してくれてありがとう。
徹夜で読んじゃったよw
82www ◆SbILoVERqY :2012/04/29(日) 14:15:06.49 ID:okLSFu9v0
@w@
>>79
ほい。
ダンジョンは下層に行くにつれ階層の面積が増える特徴がある。
5階層で既に中央広場(セントラルパーク)と同等の広さを誇るフロアは、降りれば降りるほどその範囲を拡大していき、40階層地点では都市オラリオ全域の規模に匹敵すると言われている。
途中その法則を無視する階層も存在するが、基本ダンジョンは円錐構造を取っていると考えていい。通路の道幅や各ルーム等も開放的になっていく傾向がある。
従って、「遠征」……とりわけ何十人規模のパーティがダンジョン攻略を行う場合、「深層」と定義づけられている階層まで進めば問題はないが、スタート地点である1階層から上層域は窮屈な思いをすることになる。
狭い通路、小さいルームの中での大集団の移動は不自由の極みだ。兵隊の行軍のごとく、進行自体が苦になってくる。
モンスターの対応も一々手間で、そもそも閉鎖空間であるダンジョン内での行列はマナー違反でもある。
よって、大人数での遠征の際は部隊を二つ、三つに分け、取り決められた階層(ポイント)で合流、再編成するのが定例だった。
例に漏れず、【ロキ・ファミリア】も部隊を二つに分け遠征を開始していた。
「ねえねえ、エルマ。どうして他の【ファミリア】の人達がパーティに交ざってるの? あの人達、雇ったサポーターっていうわけじゃないんでしょ?」
「馬鹿エルナ。前の遠征の撤退理由、もう忘れたの?」
「??」
「彼等は鍛冶師だ、エルナ」
「あぁ!」
【ロキ・ファミリア】首領であるホビットのフィン・ディムナを筆頭に、数人の第一級冒険者が組み込まれた先遣隊は7階層に到達しようとしていた。
十五人ほどの徒党が移動を続ける中、エルナ、エルマ、リヴェリアと、順々に声が響く。
「前は私達より先に武器の方が使い物にならなくなったから、団長が手を回してくれたのよ」
「『鍛冶』のアビリティ持ちの鍛冶師がいれば、どんな武器も新品同然になっちゃうもんね! フィン、やるぅ!」
「ンー、運搬する物資にスペアの武器を取り揃えるのも非効率的だったからね。神ヘファイストスと友好があるって聞いたから、ロキにも協力してもらったよ」
「鍛冶の【ファミリア】でもない我々がねだるのもおこがましいが……一人、鍛冶師の団員が欲しいところだな」
中層まで下っ端である【ロキ・ファミリア】の構成員達……つまり遠征時のサポーターが集団の先頭を務める中、第一級冒険者達はその後ろでゆるりと構えていた。
深層から本格的な出番を迎える彼等は一見軽く言葉を交わし合っているが、その実、静かに英気を養っている。
「アイズ、アイズ、聞いた!? 【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師達が付いてきてくれてるんだって!」
「うん……聞いたよ。すごいね」
「だよねー! これなら深層でもじゃんじゃん暴れられるし、あたし、爆発しちゃうよー!」
「壊れた武器は【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師でも直せないのよ、言っておくけど」
後ろから肩に抱きついてくるエルナに、黙々と歩いていたアイズは振り返り、少し笑った。
エルナはそれを見てへらっと相好を崩す。生まれてくる種族を間違えたかのような人懐こいアマゾネスの少女に、氷面で知れるアイズ・ヴァレンシュタインも感情を溶かす。
あるいは戦闘狂いの似た者同士に、姉のエルマが半眼で釘をさす中、彼女達は年相応の少女のように戯れた。
「ほー、【ヘファイストス・ファミリア】の連中なら、間違っても足手纏いにはならねえな。安心した」
「はい出たー。ベートの高慢ちき」
アイズの肩に張り付いたまま、エルナは横にいるベートに白けた視線を向ける。
口をつり上げていたベートは「あんだよ」とエルナを見返す。
「ベートはさ、何でそういう言い方しかできないの? 他の冒険者を見下して気持ちいいの? あたし、そういうの嫌い」
「勘違いするなっての。雑魚なんぞを見下して優越感に浸るなんて、俺はそんな恥ずかしい真似しねぇー。事実を言ってるだけだ」
「これでも誉めたんだぜ?」と後方にいる【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師達を顎でしゃくりながら、ベートは言った。
「ならば最低限の言動を慎め。お前の口から出る言葉は、まるで誤解して欲しいように聞こえるぞ」
「あーあー、うるせえうるせえ! エルフの説教は聞き飽きたっての! そもそも横から口出しすんなよ、リヴェリア」
鋭くまとめあげられた灰髪をぶんぶんと揺らしながら、ベートはふて腐れたように顔をしかめた。
左側の額から顎にかけて刻まれた稲妻のような刺青が軽く歪む。
「どうせお前等だって、そのド貧相な胸の中で似たようなこと考えてんだろう。雑魚を見て少しもダセエと感じてねえって、言えるのかよ?」
「あたしはエルマに全部奪われただけだぁあああああああああああ!!」
「ちょっと止めてよ、その言いがかり……」
「確かに、一度も哀れんだことがないと嘘はつけん。だが、私の憐憫とお前の侮辱を一括りにするな」
「哀れんでるだけ、エルフ様の方がよっぽどタチが悪いように思えるぜ、俺は?」
はぁ、と溜息をつくフィンを他所にベートとリヴェリア達の論争は続く。
リヴェリアに限った話ではないが、エルフは他種族と意見の食い違いから衝突しやすい。獣人のウェアウルフもまた一匹狼の節があるので、融通の利かない時がある。
本人達も別段ムキになっているわけではなく、もはや恒例のようなものだ。リヴェリアの方に関してはあれでもベートを諭そうとしている。
それを知っているから、リーダーを含めた他の団員達も止めようとはしなかった。アイズも黙って彼等のやり取りを見守る。
「俺は弱ぇ奴が大っ嫌いなだけだ。一人では何もできないくせにヘラヘラしやがって、吐き気が止まらねえ」
「強者の位置に立った者の驕りにしか、私には聞こえんな」
「そうだよ、ベートだって弱っちい時があったくせにぃ」
「身の程を知れって言ってんだよ、俺は」
両肩にかかっているエルナの重みを感じながらアイズは、身の程、と小さく呟いた。
少し、思う。
哀れみでも侮辱でも呆れでもない、透明な疑問。
あの時、身の程を嫌と言うほど叩きつけられた一人の少年は、一体何を思って何を感じ、どうなったのかと。
もう記憶としては既に掠れかけている、今にも泣き出してしまいそうだったあの藍色の瞳を、アイズはぼんやりと思い浮かべた。
そして、それからすぐに。
彼女は前触れもなく鋭く顔を上げた。
「……四人かな」
「あんだよ、噂すれば何とかってやつか?」
彼女と一様にそれぞれの者も反応する。エルナはアイズに密着したままそちらを見やり、ベートは頭の耳をくいっと立ち上げた。
ちょうどアイズ達が通過しようとしている十字路、その右手の方角から激しい足音が響いていた。聞くからに慌ただしい。
集団の前衛と後衛にそれぞれいるサポーター達が対応に向かおうとするが、フィンが手を上げてそれを制す。持ち場を離れなくていい、と指示を送った。
ややあって、アイズ達の視界に冒険者のパーティが現れる。
「なーんか、やけに泡食ってるね。声かけてみる?」
「止めなさい、ダンジョン内では他所のパーティに基本不干渉よ」
「ねえっ、どうしたのー!」
「……馬鹿たれ」
がっくりするエルマを無視してことは進む。
頻りに後ろを振り返っていた冒険者達は、突然かけられたエルナの声に肩を跳ねさせ立ち止まった。
「な、何だお前っ? って……げえっ!? ア、【大切断(アマゾン)】!?」
「エルナ・ヒリュテぇっ!?」
「ていうか、【ロキ・ファミリア】!? え、遠征!?」
通路から出てきた計四名のパーティはエルナ達を見て驚愕し、自然に尻込みし始めた。
一瞬響いたこの世の終わりのような悲鳴にエルナは目付きを怪しくするが、お構いなしにベートが前に出る。
「よし、黙ろうぜ? んで、こっちの質問に答えろ。お前達は何してんだ? キラーアントの群れにでも襲われて、仲間でも見捨ててきちまったか?」
「んだとっ……!?」
「おい、止せって」
「……あれに比べたら、キラーアントの方が百倍マシだっ」
吐き捨てるように落とされた最後の男の言葉に、ベートは訝しげに眉を上げた。
何を言っているんだと視線で問うと、相手の冒険者達は互いに顔を見合わせた後、リーダー格のヒューマンが絞り出すように答えた。
「……ミノタウロスが、いたんだ」
「……あぁ?」
「だからっ、ミノタウロスだよ! あの牛の化物が、この上層でうろついてやがったんだ!!」
相手の必死の形相にベートは瞬きを繰り返し、ばっと後ろを振り返った。
ベートと冒険者のやり取りを呆れながら傍観していたフィン達の顔に、怪訝そうな色が走る。
誰も見ていない所で、アイズの右手がぴくりと震えた。
「ねぇ、もしかして……あたし達の逃がしたミノタウロス、だったり?」
「ありえねえだろ? 確かに全部仕留めた筈だぞっ」
「それに、もし私達の討ち漏らしだったとしたら少しおかしいわ。あの遠征からもう一ヶ月経つのよ? ミノタウロスなんかが上層に留まっていたら、第三級以下の冒険者達の被害は馬鹿にならないわ。そんな噂、一つも耳にしたことがない」
「……申し訳ない。貴方がたが見たものを、僕達に詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
「あ、ああ……」
毅然とした態度のフィンに見上げられながら、相手のリーダーはどもりつつも語った。
いつも通りダンジョンにもぐっていたら、遥か通路の奥でミノタウロスの姿を一瞬捉えたこと。
すぐに響いてきた冒険者と思われる叫喚とミノタウロスの遠吠えに当てられて、急いでこの階層まで逃げ込んできたこと。
そしてそのミノタウロスは、冒険者の大剣を装備していたこと。
「大剣だぁ〜?」
「『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』じゃなくて?」
「は、はい、間違いないです ……」
「……今日までに、ミノタウロスの目撃情報は耳に挟んだか?」
「ないないっ、あってたまるか!」
「団長……」
「ああ、いよいよきな臭くなってきたね」
事情を聞き出した【ロキ・ファミリア】は自分達の討ち漏らしではないと確信する一方で、ことに対する不審さを深める。
フィンを始めとした勘のいい者は、これが意地の悪い神の“戯れ”ではないかと察しかけていた。少なくとも神の何者かが関与しているものだと当たりをつける。つけるしか、状況が説明できない。
フィン達先遣隊は完全に進行を止めてしまっていた。
「そのミノタウロスを見たのはどこ?」
そんな中で、金髪の少女が一人動きを見せる。
冒険者の一人に詰め寄って静かに問い質す。
「はっ?」
「冒険者が襲われている階層は、どこですか?」
「きゅ、9階層……動いていなければ……」
言い終わるより早く、アイズは走り出していた。
冒険者達がやって来た通路を、風のように疾走する。
「アイズ!?」
「何やってんだ、お前!」
「ちょっとあんた達、今は遠征中よ!?」
「……フィン」
「ああ、わかってる……隊はこのまま前進! 当初の予定通り、最短距離で19階層まで進め! 指揮はレイナード、君がとるんだ!」
「は、はい!?」
「指揮……まさか、行くつもりか?」
「親指がうずうずいってるんだ。見にいっておきたい。それとも、君は残るつもりだったのかい、リヴェリア?」
「……フィンの勘が働いているなら確かだな。どれ、私も行かせてもらおう」
「はははっ」
呆然とする【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の面々を残して、暇を持て余していた第一級冒険者達は、9階層へと先行するのだった。
祖父の顔を。
お祖父ちゃんの顔を、見たくなった。
両親のいなかった僕の、名実ともに育ての親。
皺だらけの顔をいつもくちゃくちゃにして笑っていて、「可愛い女の子を助けて仲良くなりたいよなー」とか、「美女美少女侍らすのはロマンだよなー」とか、
「スケコマシでもいいじゃない」とか、「あっでもヤンデレだけは勘弁な?」とか、たまによくわからないことを言っていたけど、とにかく愉快な人だった。
祖父はまるで自分の目で見てきたかのように英雄達の逸話を知っていて、よく僕に聞かせてくれた。
誕生日にくれる絵本が祖父の直筆だったことを知ったのは、あの人が亡くなってから随分あとのことだ。
アイツ等すげえよなぁ、自分より強い奴に一人でも立ち向かえるんだぜぇ、儂には絶対無理じゃぁ。
自分はあんな真似できないと口にしながら、祖父はいつも嬉しそうに英雄達を称えていた。
でも、英雄みたいなことはできないなんて、それは嘘だ。
祖父はカッコ良かった。
幼い僕がゴブリンに殺されかけた時、あの人は誰よりも速く、あたかも雷霆のように駆けつけてきてくれて、両手に持った鍬をモンスター達へ叩きこんでいった。
いつも外衣に隠れていた体は戦士のようにたくましかった。
丸太のような腕はモンスター達を寄せつけることはなかった。
大きな大きな手は、僕の小さな体を抱き上げてくれた。
今、思えば。
僕が初めて憧れた英雄は、お祖父ちゃんだった。
やばい時は逃げろ。
怖かったら逃げろ。
死にそうだったら助けを求めろ。
女の人がキレそうだったらすぐ謝れ。
馬鹿にされたって指をさされたって、それは恥ずかしいことなんかじゃない。
一番恥ずかしいことは、何も決められず動けないでいることだ。
いつもそう言っていた祖父。
目の前からいなくなってしまった後も、その教えだけはずっと心の側に残し、僕に一大決心をさせてくれたお祖父ちゃん。
オラリオに送り出してくれた、あの人の言葉。
お祖父ちゃんの顔が、見たくなった。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
お祖父ちゃん。
今の僕は、動けない。
「……ぅ、ぁ」
顔を振り上げて、口から漏れ出た大粒の唾液を飛ばすミノタウロス。
遥か視線の先にいるモンスターは、自分という存在を誇示するかのように大剣を携え、吠声をあげている。
まるでそれ自体が重鎧のような体躯に、深い損傷は見られない。傷はあくまで表面的なもの。
魔法が通用しないという現実の前に、無力感が全身を支配していく。勝てない、という言葉が頭の裏を何度も反響していた。
力が、入らない。
せっかく立ち上がった膝が、今にも折れてしまいそうだった。
「フゥゥ……!」
「……っ!?」
差し向けられた視線の切っ先が、首筋をぞくっとさせる。
誘発された冷たい電流が再び恐怖を呼びさまし、その代わりに、こみ上げていた脱力感を一斉に追い払った。
僕の意識とは別に、本能が死から遠ざかろうともがき始める。
このまま突っ立っていたら、殺される。
僕も、リリも切り殺される。
動かなきゃ……!
僕はあらん限りに手を握り締めた。
「ノヴゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
――壁際は不味い!
迫りくるミノタウロスを見て、僕はすぐにその場を離れた。
壁を背にしていればあの巨体によってあっという間に逃げ道を塞がれてしまう。
リリのいる場所とは逆方向に駆け出し、僕は広いフィールドへ戻るのを最優先させた。
こちら目がけてまっしぐらに進んでいたミノタウロスは、僕の移動とともにぐぐっと急カーブを描き、ドゴンッドゴンッドゴンッと床を踏み抜きながら追尾してくる。
側面からの急迫。震える瞳の中で、凶悪な牛面が大きくなる――!
「ヴムゥンッ!」
「――ぐっっ!?」
ミノタウロスが地を蹴った。
飛びかかってそのまま振り下ろされた大剣の一撃を、僕もまた地を蹴り込んで宙に身を投げる。
横合いからの攻撃に対し、前方に頭から飛び込む形で跳躍、回避。
間を置かず首のすぐ後ろで爆砕音が鳴り響き、戦慄しながらも地面の上をごろっと前転して立ち上がった。
急いでターン、そしてバックステップ。
眼前にできあがっている地割れに汗をぶわっと噴き出させ、こちらを睥睨してくるミノタウロスから必死に距離を取る。
「ヌヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
強靭な下腿が床に踏み込んだ瞬間、一気に間合いをゼロにされた。
瞳を見開く僕の前で、両手に持った大鉄塊がフルスイングされる。
頭が真っ赤に染まった。
風の悲鳴に促されるまま僕は全力で膝をたたんで、間一髪、その必殺をやり過ごす。
上半身があったところを大剣が凄まじい勢いで通過し、頭髪を何本か持っていかれた。
「ヴォオッ!!」
「うっ!?」
真っ白な白髪が空中に散る中、ミノタウロスは屈み込んだ僕へ剣を叩きつけてくる。弾かれるように横へ転がった。轟音。
濁流のような猛攻が始まった。
大力をもって振り回される血塗れの銀剣が大気を唸らせ、抉りとる。長いリーチを誇る剣撃は僕をどこまでも追跡し逃さない。時折おり交ぜられる拳打や蹴りが体のすぐ側を舐める度に、寿命が削り落とされていく思いをした。
呼吸が、動悸が焦げている。
強要される際どい回避の連続、一歩間違えればすかさず死に繋がる状況が僕の思考を狭めていく。
頭の打ち鳴らす警鐘が治まらない。
鼓膜が、壊れてしまう。
「っ!? ……ッ!?」
気が付けば僕は擦り傷だらけになっていた。ミノタウロスの攻撃を無我夢中で避け続け、床を転げ回った代償だ。
余裕なんてない。ある筈がない。満身創痍に一歩踏み込んでいる。
もし、このまま攻撃が続けば――。
あやふやだった未来のイメージが現実味を帯びて僕の頭の中をちらつく。一瞬過った真っ赤な末路。
このままではジリ貧だ。生き永らえることはできても、死ぬことは避けられない。
逃げる。
逃げろ、逃げなくちゃ!
逃げ出さなきゃ、助かりっこないっ!?
「ベル、様ぁ……!」
視界の隅で小さな山が身動ぎした。
リリだ。ぐらつく体を支えて立ち上がり、霞んだ視線を僕の方にさまよわせている。出血は止まっていない。
僕は余裕のない表情で叫んだ。
「リリ、逃げて!」
悲鳴に近い声に小柄な体が震える。
1〜10の流れが良かったっていみじゃないのか?
そして貼る必要性あるのか
薙ぎ払われる剣を躱しながら僕は必死になって訴えた。
でも、リリは動かない。立ちつくしたまま、泣きそうな目でこっちを見てる。
かあっっ、と頭に血が上った。
「にげてっ……逃げろよっ!!」
リリは泣きながら頭をぶんぶんっと振った。意識が定かではないのか、子供の我儘みたいに言うことを聞かない。
何でだよっ!?
リリがいたら逃げられないだろう!?
リリがこの場を離れたら、僕だって逃げられるんだよ!!
わかるでしょうっ? わからないのっ? お願いだからわかれよ!
「早くッ、いけぇええええええええええええええ!!」
怒鳴り声がリリを突き飛ばした。
止めどなく涙を溢れさせながら、リリは顔をくしゃっと歪めて僕に背を向ける。
その場から駆け出し、たったったっという足音とともに通路の奥に消えていった。
これで僕も逃げられる!
やっと僕も、逃げ出せる!
逃げ、出せるっ……
(……わけっ、ねーだろっ……!?)
今僕が逃げたら、誰がコイツを押さえ込むんだ。
コイツをこのルームから出したら、今行かせてしまったら、リリが死ぬ。
この牛の化物がリリに狙いを定めたら、リリがっ、リリは……っ!
「……畜生ッ!!」
プロテクターに右腕を突っ込み、《バゼラード》を抜剣。右に回ろうとする足を殴り飛ばしてミノタウロスに相対する。
泣きたいのか怒りたいのかわからない。体の中で絡み合う感情の束は既にぐちゃぐちゃだ。
もはやヤケクソの境地に片足を突っ込みながら、僕はミノタウロスと一方的な戦闘を続行させる。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「ッッ!?」
繰り出される左ストレートを《バゼラード》で横に叩く。
右手を衝撃で痺れさせながら、向かってくる大剣を回避。短剣ではあの得物は弾けない。
すぐに後退。詰められる。
盛大に歪めた僕の双眸と、ミノタウロスの鋭い両眼が交差する。
「ルヴッ、ヴゥゥッ、ウウウッ!」
「ぐ、ぅぅぅっ!」
命綱の防具もないまま死地の中に身を置き続ける。大剣が地面を揺るがす都度、砕かれた鋭い石片群が、青白くなっている肌と黒いインナーをボロボロに傷付けていった。
ミノタウロスの呼吸が荒い。捕まらない僕に業を煮やしているのか。
僕の呼吸は言うまでもない。大粒の汗が何度も頬を伝う。喉の渇きが最高潮に達しようとしていた。
ミノタウロスから発散される力の余波が再三にわたって草原をざわめかせる。ダンジョンの中の音という音が全て僕達の攻防から生まれていた。
天井一面に灯っている燐光に見下ろされながら、茫漠としたルームを二つの影が動き回っていく。
「フウッ……ゴォオオオオオオオオオオッ!!」
ミノタウロスが怒号をあげる。まるで「逃げるな」と一喝されているようだった。
ありったけの勇気を総動員して短剣での防御を用い始めていた僕は、速度が――「敏捷」が何とかせり合えることに気付いていた。
でも、前に出れない。
耳のすぐ横を掠めていく破滅の風切り音が、体の熱を奪っていく。足をすくませる。僕の恐怖心を膨張させる。
前になんか出るな。
無様に下がり続けろ。
逃げ回って逃げ回って逃げ回って、時間を稼げればそれだけでいい。
この瞬間を切り抜けられれば、それで……!
それで、いいだろう……!?
「は、ぁっ!」
上がる息を野放しにして剛剣を回避。
もう何度目とも知れない死と隣り合わせの脱出劇に、心臓が圧搾される。風圧で頬が切られた。
わななきながら僕は走った。
剣を振り下ろした格好で前屈みになっているミノタウロスの側面に回り込もうとする。相手にとっての死角、つまり唯一の安全地帯だ。
そして僕がそこに足を踏み入れた瞬間、ミノタウロスの瞳が、鋭く光った。
「――」
フッ、フッ、と鼻息を断続させるミノタウロスは、地にめりこんだ大剣から視線を引き剥がすと一気に、自身の頭蓋を僕に向かって振るってきた。
「――なっ!?」
「ヴゥウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
無理な体勢から繰り出された横殴りの頭突き。
強張った牛頭に生えているのは――角!
湾曲した片角が、瞠目する僕を急襲する!
「うあっ!?」
「ンンンンンンッ!!」
無意味と知りながら構えたプロテクターを、ミノタウロスの角は呆気なく貫いた。
僥倖だったのは致命傷を免れたこと。すくい上げられるように打ち出された牛角は、プロテクターを貫通することで僅かに角度がずれ、僕の左腕を浅く切り裂いただけで済んだ。
けれど。
ミノタウロスの角は、プロテクターを引っかけたまま。
がっしりと固定された角に引っ張られるように、僕は左腕ごとミノタウロスの頭上に掲げられた。
「ひっ!?」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
振り回される。
ミノタウロスが首を振るう度に、僕は振り子のように左右へ流れた。
ダンジョンの床から二メートル以上も離れた空中で体中をシェイクされる。地面が遠い。視界が、ままならない!
猛烈な勢いで揺さ振られこみ上げてくる吐き気。体を繋いでいる左腕が軋み、唸り、関節がイカれてしまう。
やがて二回、三回と、ミノタウロスが狂ったように首を振っていると、僕より先にプロテクターの方が限界を越えた。
既に半壊していた防具が繋ぎ目から千切れる。ミノタウロスの首が大きく斜め上に振るわれるのと同時に左腕が開放され、僕は、天高く放り出された。
「ぅ――ゎぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
十メートル以上もある9階層の天井にぐっと近付いて、すぐに僕は落下運動に入った。
山なりの放物線を描いて、ダンジョンの床に引き寄せられる。
身構えもできないまま、天井があっという間に遠くなり――墜落。
「い゛っっ!?」
背中からまともに激突した。
背骨を起点に体中へ絶叫が走り抜ける。頭が、スパークする。
手足が不細工に痙攣した。
【ステイタス】の「耐久」補正がなかったら、とっくに死んでる……っ!?
「ぁ……!?」
目がちかちかする。
打ち寄せてくる痛みの波に呻き声が漏れ、僕は眉間に皺を寄せて両目をぎゅうっと瞑った。
やがて接着している地面を通して、ミノタウロスの足音が伝わってくる。
不味い、と思っても体が思うように動かない。喉が喘ぐように酸素を求めるだけだった。
そして身動きが取れなくなった途端、無理矢理封じ込めていた恐怖は簡単にぶり返した。
歯が、かち、かち、と鳴り始める。瞳が揺れて潤み始める。
怖い。
やっぱり、滅茶苦茶怖い。
苦しいし、痛いし、辛い。
でも、何よりも。
恐い。
もう、立ち上がれないくらいに。
「ゥゥ……!」
地響きが徐々に近付いてくるのがはっきりとわかり、身の毛が逆立つ。ゆっくりとミノタウロスはこちらに迫ってきている。
こんなの生殺しだ。足先からじわじわと恐怖感に蝕まれていく。
発狂しそうになる。壊れそうになる。いっそそうなってしまえば楽なのかもしれない。
僕は眩いダンジョンの天井を見上げることしかできなかった。いくつもの燐光に目を焼かれて、涙腺が静かに砕け散りそうになる。
――もぅ、無理。
恐怖に雁字搦めにされる中、は、と湿った吐息が口から漏れた。
「…………?」
地響きが、止まった。
刻々と読み上げられていた死刑宣告が、不自然に途切れた。
代わりに鳴ったのは、そよ風。
怪訝に思った。何があったのかという、訪れた完全な静寂に対する純粋な疑問。
顔を歪めながら身じろぎする。
いまだ震えがおさまらない体を動かして、何とか首を持ち上げた。
すると、
「――」
あの人が、いた。
「 ……」
澄んだ黄金の長髪。蒼色の鎧。銀のサーベル。
いつかどこかで目にした光景と同じように、あの女剣士が、僕に背を向けて立っていた。
僕は時間を止めた。
「ゥ、ヴォオ……!?」
ミノタウロスが、怯えている。
何も喋らない彼女に見据えられ、じりじりと後ずさっていく。
風が鳴っていた。
一人の少女を取り巻くように気流が踊り、ルームを静謐に震撼させる。
研ぎ澄まされた威圧が、渦巻いていた。
――【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタイン。
「いたぁ! アイズゥー!?」
「ちッ、つまんねえことに振り回されてんじゃねえっての!」
続々と駆け付けてくる足音と声が耳に飛び込んでくるけど、僕の瞳と意識はその後ろ姿に縫い付けられたままだった。
目と鼻の先。
ヴァレンシュタインさんが、僕を庇うようにミノタウロスと対峙している。
頭が混乱する。状況に思考がついていけない。
何が起こっているのか。何が起ころうとしているのか。
吸い寄せられるように上体が起き上ったことに気付かないまま、僕は呆然と彼女の背中を見上げ続けた。
「……大丈夫?」
――大丈夫?
あの時と同じように。
細い横顔が小さく振り向いて、同じ言葉を告げた。
ズクン、と心臓が打ち震える。
「……頑張ったね」
――頑張っ、た?
あの時とは異なって。
労わりの言葉が、添えられる。
グシャッッ、と心臓が唸る。
「今、助けるから」
――たす、け?
心臓の音が、暴走する。
視界の中の光景に色が戻った。
灼熱の色が、灯った。
助ける?
助けられる?
また?
この人に?
同じように?
繰り返すように?
誰が?
――僕が。
「ッッッッ!!」
頭に火がついた。
それまでの感情という感情が一掃される。
馬鹿みたいに一途な気炎が、恐怖を上回った。
みじめな強がりが、とどまることを知らない想いの丈が、無様な体たらくを粉砕する。
立て。
立てっ。
立てよッ!
いつまで寝てれば、気が済むんだんよッ!?
同じ時を繰り返すのは御免だ!
この人に助けられるだけの弱い自分なんて、絶対にっ、御免だ!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
少年が駆け出していく。
アイズの唖然とした視線をその一身に引き受け、小さな冒険者は待ち受ける巨大なモンスターのもとへ飛び込んでいった。
「ま、ダンジョンで獲物を横取りするのはルール違反だわな。ふられたな、アイズ」
「……」
置いていかれてしまったアイズの背中に、ベートはのん気に言う。
冒険者としてあいつの方が正しいと鼻で笑った。
ルームにはベートとエルナに続いてエルマが到着しており、遅れてリヴェリアとフィンも足を踏み入れていた。彼等が目撃する中、ベル対ミノタウロスの戦いの火蓋が切られる。
相手の初撃を上手い具合に避けたベルをちらと見たベートは、「ほー」と口を円にした後、「ん?」とあることに気付く。
「あの白髪頭……もしかして、あの時のトマト野郎か? くっ、はっはははっ! 何だよ、つくづくミノタウロスと縁があるみたいだな、あのガキ!」
「それって、アイズが間一髪で助けたっていう?」
「おお、間違いねえ! ミノタウロスに惚れられちまったんじゃねえか! あのガキが恋しくて、はるばる中層からやって来ましたってよ!」
「ふざけないで、ベート」
エルマの注意にベートは肩をすくめる。
ニヤニヤと薄笑いを浮かべてアイズとベルを交互に見た。
「合点いった! そりゃ助けられたくねえよなぁ〜。前に助けられちまった時とまるきり同じ状況で、みっともねえ所を見せた相手になんかよ〜」
「ねぇ、いいの? あの男の子、Lv.0なんでしょ? 絶対にミノタウロスにやられちゃうよ!」
「トマト野郎が決めたんだ、俺達が口出しするもんじゃねえっての。なぁエルマ」
「私に振らないでくれる?」
笑みを残したまま軽々しい態度を崩さないベートに、エルマは呆れた表情。
三人で小さな円を作る中、エルナは異議ありとばかりに食ってかかった。
「どっちにしたって、あのミノタウロス放っておくわけにはいかないんでしょ! 先か後かの違いだけじゃん! あたし、行くよ!」
105www ◆SbILoVERqY :2012/04/29(日) 15:19:22.22 ID:okLSFu9v0
余り貼ると著作権侵害なるから辞めといた方が良い;w;
106番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 15:23:34.11 ID:BGfLBViy0
まあ確かに文章書くのは難しいよな
107番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 15:48:33.52 ID:dQJIK6Sy0
これはおもしろかった
また読みたい
著作権云々言われたら即ビビって貼るの止めててワロタ
110番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 17:59:58.88 ID:LLzP/ml10
GA文庫で最高は「のうりん」だな。

ここでサンプルが100ページ近く読める。
http://ga.sbcr.jp/novel/taikenban/no-rin01_sample.pdf
いや、連投で規制くらったからなんだが
>>103>>104の間が抜けてた

竦む体はどこかにいってろ。
怯える暇があったら覚悟を決めろ。
憧れの人の前でこれ以上醜態をさらしてどうする。
誰よりも想いを伝えたいこの人の前で、これ以上カッコ悪い姿を見せてどうする。
そんなこと、耐えられない、耐えられない、耐えられない!
ここで格好をつけないで、いつ格好をつけるんだ!
ここで見返さないで、いつ見返すっていうんだ!
ここで立ち上がらなくて、いつ立ち上がるっていうんだ!
ここで“高み”に手を伸ばさないで、いつ、届くっていうんだっ!!
僕の足は地面を蹴り飛ばした。
立ち上がり、再起した。
「!?」
「……じゃ、ないんだっ」
彼女の手を掴む。
力を入れれば折れてしまいそうなそのか細い手を取って、自分の背後に押しやる。
僕は、自分の意志で前に出た。
「アイズ・ヴァレンシュタインは、まだお呼びじゃないんだっ!」
腹の底から叫んで短刀を構える。
狂牛は再び現れた僕に目を見開き、そして確かに、獰猛に笑った。
こちらの意志に呼応するように大剣の刃を僕へと向ける。
「勝負だッ……!」
冒険を、しよう。
この譲れない想いのために。
僕は今日、初めて冒険をする。
これなんなの、最初に貼った1話の続き?
全然話が繋がってないんだが
最初に貼ったのが冒頭で今貼ってるのは最新話辺りじゃないのか
114www ◆SbILoVERqY :2012/04/29(日) 19:26:09.95 ID:okLSFu9v0
こんだけ会話文以外が多くて、
よく原稿用紙380枚以内に纏められたな@w@;
115番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 19:29:26.77 ID:H5O66Zz8O
>>103
>「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」

これ何て発音すんの?
116番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2012/04/29(日) 19:40:04.22 ID:UhPh9mvk0
>>115
うんこを我慢してる時の感じで
奨励賞 木崎君と呼ばないで! (受賞作品「木崎君と呼ばないで」より改題、来月発売予定)

改題って!付けただけじゃん
118www ◆SbILoVERqY
GAは今年もダメみたいなので、来年ニャル子さん以外の有名作が出るの期待してるよ;w;