余録:野田佳彦首相が年頭の記者会見でチャーチルの演説を引用したのは…
野田佳彦首相が年頭の記者会見でチャーチルの演説を引用したのは、
単に国家的難局の際の指導者だからという理由だけではないかもしれない。
戦時内閣を率いたチャーチルだが議会での基盤は弱く、自らの属する保守党にも有力な政敵がいた。
北アフリカで英軍が敗退した際には、とうとう戦時というのに首相不信任案が審議され、
新聞は政変の危機を書き立てた。チャーチルは演説に立った。
「この審議は、戦時でも英国の議会が持つ無制限の自由の見本である。
私は他国が行使しないこの自由に賛成だ。」むろん皮肉だが、
彼は自由な議会が圧倒的多数で自分を信任することが敵に打撃を与えると訴えた。
結果はその通りとなる。内外の苦境を演説で乗り越えたチャーチルだ。
野党の攻勢に加え、与党内の不穏をも抱えて通常国会に臨む野田首相はさぞあやかりたかろう。
その施政方針演説は課題先送りの「決められない政治」からの脱却を説き、
消費増税法案成立へ強い決意を示すものだった。
とりわけ自民党の歴代首相の税制抜本改革や与野党協議をめぐる発言を言質とし、
野党が協議に応じるように求めたのは首相自身の意向という。ただ言質をいうなら、
野党時代の民主党は政局優先で与野党協議に消極的だった。マニフェストの質流れも同断だ。
与野党が突っこみ合わずとも、国民はすでに政治の言葉の無責任にうんざりしている。
政治家たる者は心底、その言葉への国民の冷笑を恐れてほしい。
ちなみにチャーチルは戦争指導の使命を終え、選挙で敗北して下野した。
首相がそこまで踏まえて彼にあやかろうとしているのかどうかは知らない。
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20120125ddm001070050000c.html