社会保障改革は国民をしっかり説得して着実に進めなければならない。政府には、そんな努力が欠かせない。
政府の行政刷新会議が、年金の給付額が本来よりも2・5%高くなっている「特例水準」を段階的に解消していくべきだ、と提言した。
これを受けて、小宮山厚生労働相は来年度から実行したいと明言し、藤村官房長官も厳しい財政状況を踏まえ、「具体的検討を進める」と述べた。
この問題は自民、公明両党の政権から積み残されてきた課題だ。政府は解決を急ぐ必要がある。
年金は、原則として物価の変動に応じて支給額も上下する。
ところが、1999〜2001年に物価が下落したにもかかわらず、当時の自公政権は翌年度の年金額を据え置いた。
差額分は、景気が回復して物価が上昇した局面で、引き上げずに据え置くことで解消する予定だった。
だが、現実にはデフレで物価の下落が続き、特例状態が継続したまま、累積で7兆円もの「払い過ぎ」が生じる結果となった。
物価や現役世代の賃金は下がっているのに、年金だけは高止まりしている。政府は、年金の「払い過ぎ」を段階的に縮小し、解消する方針だ。
実態は「引き下げ」ではなく、特例で高い状態にある金額を適正に戻すことになる。
特例分の2・5%を解消した場合、国民年金を満額(6万5700円)受け取っているケースで、月約1600円減額になる。少ない金額ではない。
その一方では、年金制度を支えるために現役世代の保険料は着々と引き上げられているのだ。特例を続ければ、世代間の対立を招きかねない。
低所得の高齢者に一定額の最低保障年金を支給するなど、きめ細かな年金制度改革を迅速に進めることで、理解は得られよう。
民主党内では、「特例水準」の解消に及び腰の空気が強い。高齢者の反発を恐れたものだろう。
しかし、政府・民主党は、「本来の支給額に戻す」という点を丁寧に説明する必要がある。
それを怠れば、後期高齢者医療が「制度の周知が足りず、名称からして配慮を欠く」と批判されたように、感情的な反発が先行してしまう。
実施には関連法の改正が必要だが、自公両党も協力しなければなるまい。高齢者に理解を求める作業も与野党であたるべきだ。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20111126-OYT1T00886.htm?from=y10