米国の科学者チームは、エイズ(後天性免疫不全症候群)を引き起こすウイルスであるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)
のいわば「アキレス腱」を発見した。従来、株式市場の分析にも使われた数学的手法によって発見したもので、
この弱点がワクチンや医薬品の狙うべき主要な標的になり得る、と科学者らは期待している。
研究者らの間ではこれまで、HIVワクチンは一斉攻撃を行うのではなく、数少ない標的に狙いを定めるべきだ、
という刺激的な理論があるが、今回の米チームの研究により、この理論の重要性が増したといえる。
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HIVのぜい弱な部位を突き止めるため、チャクラボーティ、ダヒレル両博士は「ランダム行列理論」と呼ばれる統計手法に依拠した。
この理論は原子物理学の諸問題解決のために1950年代に開発された理論で、物理学者のパラメスワラン・ゴピクリシュナン氏
(現在ゴールドマン・サックスのマネジングディレクター)などによって株式市場の動向分析にも応用された。
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同チームは、ウイルスの各セクターを純粋に数学的に定義し、ランダム行列理論を使って、
相互関連的な変異をもたらすHIV遺伝子コードの大半をフィルターにかけて排除した。
そして最も変異を繰り返さないでいられる部位を、Gagと呼ばれるHIVタンパク質上の「セクター3」と名付けた。
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同博士のチームはまた、HIVをコントロールできない患者の免疫システムも、セクター3をしばしば攻撃するが、
その際は自らの免疫システムのほんの一部の力を攻撃に関与させるだけで、力の大半は、
攻撃を回避するため容易に変異するウイルスを攻撃してしまう傾向があることを発見した。
これを受けて、同チームは今回の論文で最も重要な仮説、すなわちワクチンというものはウイルスを散弾的に攻撃するのではなく、
セクター3と、同じく低変異性のHIV部位に対してサージカル(正確かつ迅速)に攻撃すべきだという仮説を導き出した。
米分子生物学者でノーベル生理学医学賞受賞者のデービッド・ボルティモア氏は、
「これは素晴らしい研究だ。なぜエリート・コントローラーがHIVをコントロールし続けられるのかを理解する一助になる」と述べた。
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_252384