最近、酒にからんだ有名人の失態がマスコミを騒がせることが多い。若者に人気のタレントが泥酔して公然
わいせつ容疑で逮捕され大きなスキャンダルとなった。私も精神科医としてこの騒動についてコメントを求め
られることが何件かあった。その際の重要な見落としを尊敬する精神科医から指摘された。
これを深く受け止めて自戒の意味も込め、その見落としについて書いてみたい。
強調したいのは、今回のような問題を起こした人が周囲にいた場合、あるいは自分がそうした失敗を起こした
場合には、既に治療が必要なレベルに達し、アルコール依存症との診断を受ける可能性が大きいということである。
このくらいでアルコール依存症なのかと思われるかもしれないが、それは日本というより国際的な基準に準じた診断である。
日本の自殺数は先進国で最も多いレベルであり、44歳までの男性の死因のトップだ。
日本では年間3万3000人の自殺者が出ている。その15%がアルコール依存としても、5000人もの命を
奪っていることになるのだ。飲酒運転を厳罰化しても、それがやめられない人のかなりの部分がアルコール
依存だという推測も的外れなものには思えない。飲酒運転をなくすには、厳罰化だけでなく、治療や啓蒙(けいもう)
も必要なのだ。
先に述べたレベルで治療が必要なもう一つの大きな理由は、症状がさらに進行して、離脱症状が出てしまうと、
アルコールがやめにくくなることだ。この離脱症状は禁断症状として知られるものである。その苦しさを逃れる
ためにアルコールに手を出すという悪循環が続くことになる。
このレベルになると入院治療がほぼ避けられない。ブッシュ前米大統領は若いころにアルコール依存症の診断を
受けていたが、40歳で断酒して、その後、州知事から大統領にまで上り詰めた。アルコール依存症の診断を受ける
ことは社会的生命を失うことではない。治る病気であるのだ。
しかし同時に、治療が必要な病気でもある。「あのくらいはよくあること」という誤解が蔓延(まんえん)するのは社
会的な損失となる。正しい知識ときちんと治療を受けることの大切さが社会で共有されることを切に望みたい。
http://sankei.jp.msn.com/science/science/090618/scn0906180334000-n1.htm ※大幅にソース省略