【依頼 176】
昨年1月、荻窪病院(東京都)倫理委員会が承認した、共にエイズウイルス(HIV)に感染している夫婦への
国内初の体外受精が、厚生労働省から「社会的な議論と倫理的な検討が必要」と求められ、中断していることがわかった。
海外でも、こうした夫婦への生殖補助医療の可否について議論が分かれる。
この体外受精を計画している同省研究班は、広く意見を聴く異例の公開班会議を28日に開き、
実施の可否を検討するとともに、指針を作る方針。
荻窪病院の花房秀次副院長らは、精子からHIVを取り除く方法を開発。
これを用い、夫のみが感染している夫婦に慶応大や新潟大などで体外受精を行い、65人の子供が生まれた。
母子ともに感染の例はない。
同病院では、厚労省研究班の研究事業として、この方法を共に感染している2組の夫婦にも適用しようと準備してきた。
いずれも、血液製剤で感染した夫が、増殖能力の強いウイルスや薬剤耐性ウイルスを持っている。
性交渉をすると、ウイルス量が少なく、免疫状態も安定している妻に、夫のウイルスが再感染し、病状を悪化させる恐れがある。
だが、病状が重いと子供が成長する前に両親が亡くなることも想定される。
海外でも、2004年に欧州連合などの専門医らで作る特別委員会が「少なくとも片方の親が子供の成人まで養育すべきだ」として、
生殖補助医療は片方の親が感染している場合のみに限るように勧告。
これに対し英国の研究者が「感染者の予後は同じではない。(認めないことは)希望するカップルの生活の質を低下させる」と反論している。
薬害エイズ被害者らで作る、はばたき福祉事業団(東京都)の大平勝美理事長は
「一番大切なことは新たな悲劇を作らないこと。感染した場合の責任についての議論が必要」という。
さらに万一、子供が成人する前に両親が亡くなった場合のサポート体制が不可欠で、
「社会的援護も必要になる。もし実施するとしても広くコンセンサスを得ながら進めるべきだ」と語る。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080719-OYT1T00401.htm