>>549 こっち(東京)は凄かったよ。福岡はどうだ?
男女の交通課員は、全員外で活動していたと思う。
本当に警官だらけだった。
どうでもいいが、男の警官の2割程度は合服だった。
多分、衣替えだという事を忘れてたんだろうな(笑い)。
婦警さんは、ぬかりなく全員夏服だった。
ラジオライフ(7月号)という雑誌を初めて購入した。
毎号、立ち読みは欠かさなかったんだが。
ミニパトとレッカー車が直接、無線交信してるなんて知らなかったので、興味があってね。
ま、もっとも、俺自身、受信機を買って、無線を傍受しようなんて更々思ってない。
ああいうのは、偶然見かけるからいいんであって、あらかじめミニパトのいる場所がわかっちまったら、多分つまんねえと思うから。
あと埼玉県警の年頭視閲式での新任警官を捉えた、青春ドラマの1ページのような写真がとてもいい。
俺も実は、現場にいたんだが、このシーンは撮り損ねたんだよね。
俺も最近になって、そこそこ写真の腕に自信を持ち始めた頃ではあるんだが、こんな写真見せられたら、完全に脱帽だ。
まだまだ修行が足らんね。
>>551 福岡はね、新制度以前から「駐禁取締り=婦警」って部分は少なかったと思う。
「婦警のためのミニパト」というシステムもないと思うんだよね、自分の感じる限りでは。
だから、自分は、実は今回、感慨深い部分はあまりなく、ほとんど、傍観者の視点でした。
>>552 ラジオライフの写真はよかったですね。
あの雑誌は、なぜ投稿写真を茶化すような、記号や文字をその上に重ねるのかなぁ。
写真のよさをそぐのでもったいないと思ってます。
>>540 なんで一言多いかなこの人は…
普通に書けばスルーしたのになぁ。
例えば…
大野が彩を抱いた理由は「男性恐怖症を克服させたい」だったと思って読んでいたら、
女性器から流れ出す精液に「これが中出しの醍醐味だ」という文が出てきて、かなり戸惑ったんですよ。
それはAVの中だし表現の手段であって、大野にはもっと特別な感慨があると思ってた。
そういう読者の感情の流れを上手くコントロールできていない部分がけっこう多いと気になっていて、
そういう部分を直せば、よくなるんじゃないのかな、と考えてます。
特に、このペースで書いているのはすごい事だと思うから、そういう部分に意識的になって書けば、
もっと上手くなると思うから、もったいない、と思ってる。
ある程度の量をテキストエディタに書いて、推敲のあと、アップする方法はやらないのかな?
「マニアックで気持ち悪い」を棚に上げて書いてしまいましたとさ。
554 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/02(金) 23:30:29
婦警さんもナイスガイには弱い?
とある外人が多い街(こう書くともうバレバレか?笑)にて、放置駐車のバイクを確認したミニパト婦警さん。
さっそく3人ぞろぞろ下りてきて取締りにかかった。
デジカメで撮影して、端末に入力してと、手順的に駐車監視員と同じ作業をやっている感じがした。
7、8分経過しただろうか。いよいよ黄色いステッカー「放置車両確認標章」を出力しようとした、その矢先、
バイクのオーナーらしき、外人のハンサムガイがメチャメチャ笑顔で戻ってきた。
婦警さんたちは、心もち顔を赤らめつつ、なにやら二言三言外人と会話を交わし、最後は笑顔で外人を放免。
まてや、オイ!
俺の時と随分、待遇がちゃうやんけ。
俺は、正味1分しか止めてないのに、OGは睨んでくるし、婦警は「横断歩道の前後はどうたらこうたら・・」とチクチクやりやがる。
少しは、外人にも嫌味のひとつも言うたらんかいや。向こうは8分やで。
ホンマ、お前らに見せてやりたかったわ。あの、うっとりした婦警の表情を。
引くぞ、マジで。
ちなみに俺に対応した婦警と、外人に対応した婦警は別人なので、念の為。
555 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/03(土) 22:35:51
553
感想ありがとう。
「ミニパトより愛を込めて」が俺の処女作で、まだまだこれからなんで、ひとつお手柔らかに。
漫画なら厨房の頃まで描いてたよ。
「ミニパトより愛を込めて」は、今、読み返すと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
全身にじんましんが沸きそうだ(笑)。
一応、女性向けに書いたつもりなんだけど、男性の読者からも、結構、面白いと言ってもらえてるんだよな。
557 :
侍:2006/06/03(土) 22:47:44
侍部屋パクんな!
558 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/03(土) 23:20:56
おう、侍か。久しぶり。
まだ辞めてないんだな。中々頑張ってるじゃねえの。
女警のひとりやふたり、もう食ったか?
ショート・ショート1
(何だ、ここは!?本当に日本なのか?)
俺は、己の目を一瞬疑った。
東京の街には、制服の警察官の姿がそこかしこに見られる。
ありふれた日常の光景のように見える。
だが、いつもと何かが違う。何かが・・・
皇居周辺、霞ヶ関の官庁街、永田町周辺を警備している警察官の全てがスカートをはいているのだ。
そう、彼ら・・もとい、彼女たちは全員、女性警察官なのだった。
彼女たちは、黄色いゼブラ(警視庁では機動隊のゼブラは黄色、交通は白色)を身にまとい、鋭い視線で周囲を警戒している。
(どういう事なんだ。俺は、夢でも見てるのか?)
俺は、思い切って立番しているひとりの女性警察官に声をかけた。
「あの・・・」
彼女は、胸を反らしながらジロリと鋭い視線を俺に投げてきた。
「何だ?」
(「何だ」?婦警のくせに、この態度の放漫さはどういう事だ。婦警ならこういう場合、ニッコリ笑って「何でしょうか?」と応じるのが本来の姿だろう)
「用は何だと尋ねている。冷やかしなら、とっとと失せろ。仕事の邪魔だ」
俺の背中から、冷や汗がツーッと流れ落ちた。
「あの、今日はどうして警備の警察官が全員、女性警察官になってるのですか?女性の国賓が来日されるのですかね?」
ショート・ショート2
「何を言ってる?いつも、女性が警備してるじゃないか。普段通りだよ」
「そんなバカな!普段は男性の警察官が重々しく警備してるじゃないですか。彼らは、どこに行っちゃったんですか」
「お前、何か悪い物でも食ったのか?大体『女性警察官』って何だ?勝手に言葉を作るな」
俺は、本気で頭が混乱してきた。
「女性の警察官は、『女性警察官』って呼ぶじゃないですか?婦人警察官から女性警察官に呼び名が変わって5年程度経ちますかね」
「お前、いい加減にしないと、ちょっと来てもらう事になるぞ。『警察官』なんだよ、我々の呼称は。
対して、男の警察官は、これまでの紳士警察官から、男性警察官に呼び名が変わったんじゃないか」
その時、一台のミニパトが俺たちの前を、スーッと通り過ぎて言った。
俺は、もう少しで、気を失い、その場に倒れてしまう所だった。
ミニパトに乗務していたのは、男の警察官だったのだ。
俺は、ようやく事態が飲み込めてきた。
どういう理由があったかは知らないが、この世界の警察官は男女の役割が完全に逆転しているらしかった。
俺は、彼女に礼を言い、その場を後にした。今日は、もはや仕事どころではない。
俺は、電車に飛び乗り、新宿、渋谷、銀座などの繁華街や、大手町、丸の内などのビジネス街の交番を片っ端から見て回った。
結果は、やはり俺の想像した通りだった。
交番に詰めている警察官の全てが、女性で占められていたのだ。
ショート・ショート3
俺は、自他共に認める婦警マニアだ。
俺にとって、この突然、現出した新世界は歓迎すべきものだ。
俺は、携帯電話を取り出し、2ちゃんねるの警察板にアクセスした。
俺の予測が正しければ、この世から、婦警マニアと呼ばれる連中は、跡形も無く消え失せているはずだ。
そして、数分後には、俺の予測の正しさが、見事に証明された。
昨日まで乱立していたはずの「婦警をレイプ」、「婦警のパンチラ」、「婦警をナンパ」等のスレッドがないのだ。
考えてみれば当然の事。絶対数が少ないからこそ希少価値が出る。
この世界のように、そこらじゅうに、婦警(この世界では単に「警察官」と呼ぶらしいが、俺はあえて「婦警」と呼ぶ)がいれば、その価値は当然に下落する。経済原論のイロハだ。
代わりに、「紳警に萌え〜」、「紳警さんをおしゃぶりしたい」等のキモいスレッドが散見される。
俺は、溜息をついて、通信を切断した。
ショート・ショート4
深夜になった。
自分の自転車の防犯登録のステッカーをわざと剥ぎ取り、近所をふらふら徘徊し、巡回警らしている婦警と遭遇する機会を待った。
しばらくすると、白い自転車に乗ったふたりの婦警が、前方から現われた。スカートを履いている。
俺の下腹部は瞬時に硬直した。前にいた世界では、絶対にありえないシチュエーションだったからだ。
俺は、婦警から、わざと顔を背けた。彼女の目がギラリと光った。
「すいません。ちょっとお話を聞かせてもらっていいですか?」
来た、来た!
俺の心臓は激しく鼓動した。もちろん、職質の恐怖などではなく、ワクワク感による高揚のためだ。
俺は、ふたりの婦警との深夜の会話を堪能した。
「ふけい・・・お巡りさん、女性なのに大変だね。こんな夜遅くまで」
「女性なのにって?訳のわからん事を言う奴だな。警官に夜も昼も関係ないだろ」
「まあ。そうですが・・ところで、少しはニッコリしてほしいな。女の子はしかめっ面より笑顔の方が絶対に魅力的だよ」
「そんなのは男警に任せたらいい。連中はいつもニコニコしてて、警察のマスコットを務めているからな。我々は憎まれ役だよ」
俺は、少し落胆した。
外見は女だが、心は男そのものの彼女たちを前に、俺の下腹部は、次第に小さく萎んでいった。
ショート・ショート5
あれから一ヶ月たった。
相変わらず、「新世界」は、婦警さんの天下だ。
だが・・・
これだけ、婦警さんがいるのに、俺の心はまるで満たされる事がなかった。
婦警さんの笑顔はどこ行った?
ミニパトの中で女学生よろしく、ペチャクチャだべっている婦警さんはどこ行った?
敬語をきちんと使って接遇してくれた婦警さんはどこ行った?
そして、街角で婦警さんを見かけた時に、少年のように激しく高揚し、息子を固く硬直させた俺はどこ行った?
もういい。
以前の世界に戻りたい。
数が少なくてもいい。スカートはかなくてもいい。
笑顔のない婦警なんて、何の価値もない。
夢なら覚めてくれ。もうたくさんだ――
ショート・ショート6
翌日。
俺は、社有者で得意先回りに精を出していた。
月末の五十日(ゴトビ)で、大忙しだ。
いつもは、コインパーキングに入れるのだが、その時間も惜しいので、路上駐車していた。
「あっ!」
思わず声が出た。
3人の警察官が俺の車を取り囲み、駐車違反の確認作業をしていたのだ。
なんと、全員女性だ!
「すいません。すぐに動かします!」
向こうも月末で忙しいのか、普段は駐禁取り締まりをしない婦警も動員してるようだ。
婦警が、俺をチラリと見、そしてニコリと笑った。
え?笑顔?
「ここは、駐車できない道路なのをご存知でした?」
敬語だ。どういう事だ?
ふいに遠くからサイレンの音が聞こえてきた。機捜の覆面が緊走しているらしい。
あれ?男が乗務してるぞ??
この世界の警察は女性優位だったはずじゃ・・
俺は胸騒ぎがした。
「ちょっと失礼!」
婦警さんに断って、携帯を取り出し、2ちゃんの警察板にアクセスした。
565 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/05(月) 19:30:32
ショート・ショート7
あった!
「婦警をレイプ」、「婦警のパンチラ盗撮」、「婦警を・・・」
婦警スレが乱立している。
元の世界に戻れたんだ!
「やったぞ!」
俺は、腹の底から絶叫した。
「あの・・どうしました?」
婦警さんが、怪訝な表情で尋ねてきた。
久々に聞く婦警さんの敬語が心地よく胸に響く。
「いえ、なんでも。ところでやっぱりキップは切るんですか?」
婦警さんたちは顔を見合わせた。
まだ情報端末への入力の途中らしく、通常、この場合は、「現場処理」で済む。
「そうですね。きちんと反省して頂けるなら今回は『警告』という事で・・」
俺は、彼女の言葉を遮り、こう行った。
「いや切ってくれていいよ。その代わり、もっと笑顔を見せてくれないか?一ヶ月ぶりなんだ」
(おわり)
婦警さんが、ずいぶんピリピリしている。
例の駐車違反取締り方法の変更に伴って、神経が高ぶっているのだろう。
1日に、チクチクと嫌味を言われた事はすでに書いた通りだが、
先日も、写真を撮らせてほしいとお願いしたら、凄い勢いで怒られたorz
「壁に女の子の写真をいっぱい貼ってあるのか」とか、「そうやって女の子に片っ端から声を掛けているのか」とか・・
今まで、こんな事、全くなかったので、正直戸惑っているし、多少ヘコみもしている。
まあ、お前らも、くれぐれも気をつけてくれ。
一応、彼女たちも警察官。いっぱしの権限は持っているからな。
567 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/09(金) 00:41:19
奈良署の20代の婦警さんが、コインランドリーで洗濯中、制服を盗まれてしまったというニュースが入った。
ソースによれば、洗濯中、その場を離れていたという。
俺は、一報を聞いて、バカ正直な婦警だなと思ったんだよ。
制服類は、一定の間隔を置いて随時支給されるらしく、その際、古い制服と交換という形を取っていない。
(例えば、夏服上衣は4ヶ月が使用期限。つまり毎年一着ずつ増えていく事になる)
つまり、一着や二着紛失したって、しらばっくれてれば当面は、分かりっこない。
退職時には、当然に制服類は、一括して返却しなければならないが、それはその時に考えればいい事だ。
と、よくソースを読み返してみたら、階級章まで盗まれてしまっているではないかw
多分、識別章も一緒にくっついていたのだろう。これでは駄目だ。誤魔化しがきかないわな。
しかし、よく分からないんだよな。
コインランドリー?
単身寮に洗濯機くらいあるだろ。PSにだってあるはず。
まさか、実家から通いじゃないだろうし。
深夜になっちゃったから、他の寮生に気兼ねして、コインランドリーに行ったんだろうか?
568 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/11(日) 01:39:50
2006年06月08日
大阪府警曽根崎署は8日、駐停車禁止の交差点周辺で客待ちをしていたタクシーの一斉取り締まりを実施し、運転手18人に反則切符を切った。
運転手が乗っているタクシーは駐車監視員による取り締まりの対象外。
ドライバーから「不公平だ」という声が寄せられたため、同署が警察官による取り締まりに踏み切った。
道路交通法は、交差点から5メートル以内を駐停車禁止場所としており、車内に運転できる人がいても車を止めただけで違法になる。
同署の一斉取り締まりは8日午前10時半から2時間半、監視員が主に活動する駐車違反取り締まりの重点路線のJR大阪駅北側など交差点計8カ所で実施した。
同署管内では、計18人の監視員が連日活動している。
同署には「一般車はちょっと車を離れただけで違反になるのに、なぜ交差点で止まっているタクシーは取り締まりの対象にならないのか」と苦情があったという。
-------------------------------------------------------------------
なかなか注目に値するニュースだ。曽根崎署の、今回の試みはとてもいい。
ドライバーが車内に残っている状態で、駐車違反の反則切符を切られるというのは極めて珍しい。
現にこうやって、報道されているしね。
俺は、新しくなった駐車違反取締り制度において、駐車監視員と警察官の活動の違いを探るべく、彼らの行動を注視してきた。
まだ10日しか経っていないので何とも言えないが、ここまでの感想をひと言で言えば、
「同じやん!」
である。
婦警さんたちが2、3人で、ミニパトないし徒歩で巡回し、放置駐車を確認したら、デジカメで撮影し、確認標章を車に貼り付ける。
つまり、駐車監視員と全く寸分違わず同じ事をやっているのである。
そこで冒頭で紹介した記事。
民間の監視員は放置駐車を、警察官は通常の駐車を取り締まるという事で、お互い確固としたテリトリーを持つ事ができるヒントとなりうるのではないか。
タクシーの無法ぶりは、東京も同じ。東京の警察署も大いに見習って参考にしてほしい。
569 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/12(月) 12:13:55
さあ、新作のスタートだ!
↓
中本は吸っていたタバコを道路に叩きつけ、荒々しく靴で揉み消した。
約束の時間は、とうに過ぎている。
(すっぽかす気じゃないだろうな・・・)
不安がむくむくと身をもたげてきては消えるの繰り返しだった。
午後7時30分。もう30分が過ぎてしまった。
(もう帰ろうか・・)
そう思った矢先だった。
交差点の向こう側にいる、タバコを吸いながら中本に視線を向けていた黒いスーツの男の存在に気がついた。
あいつだ!間違いない。中本は確信した。
男は、無表情のまま、まっすぐ中本に向かって歩みよってきた。
「中本さんか?」
低い声で男がそう尋ねてきた。
「そうです・・」
男は、身長が183cm近くはあろう長身だった。肩幅は広く、かなり鍛えられている様子がすぐにわかった。
中本も、警察官の中でも体格はいい方で、格闘にも多少の自信はあったが、目の前のこの男と戦って勝てるという確信は持てそうにもなかった。
「例のモノを確認させてくれ」
再び男が中本に短く声をかけた。
中本は、黙って頷くと背広の内ポケットから、警察手帳を取り出し、男に示した。
【巡査長 中本義和】と書かれてある。5年くらい前の写真だろうか、今より大分若く見える。
男は鋭い眼で、警察手帳を凝視したが、やがて大きく頷き、「本物だな。いいだろう。あんたを信用しよう」と、中本に言った。
アホアホニュース(妄想がソース)
警○庁、35歳以上の女性警官を交番勤務に
警○庁は、階級が巡査長以下で、35歳以上の交通課所属の女性警察官を原則的に地域課に配置変えし、
泊り勤務を含む4交代制の交番勤務に就かせる事で、大筋で合意した。施行は来年4月。
今月より始まっている駐車違反取締りの民間委託に伴い、交通課所属の女性警察官の人員がダブついているという事情が背景にある。
階級が巡査長以下であっても生活安全課や刑事課など交通課以外に所属している女性警察官については、今回の合意の対象から外す。
ある交通課の女性警察官(39)は、「これまで私たちは、身を粉にして組織に尽くしてきた。今回の合意に、一瞬我が身実を疑った。
これは体のいいリストラではないか。到底、承服できない」と憤る。
これに対し警○庁筋は、「今回の合意の対象となる女性警察官の中には、20年も勤続していて駐車違反の切符の切り方しか知らないという者も少なからずいる。
警察学校を卒業したての新任警察官とレベル的にどっこいどっこいのまま無益に年齢だけ重ねてきた事になる。
スキルが同じなら人件費の安い若手を重用した方が経費の削減にもつながる。また、納税者の理解も得られやすい。
断っておくが、これはリストラでは断じてない。交番勤務で優秀な成績を上げてもらえれば、希望の専務に就く事は可能なのだ」と語る。
なお、この施策に該当する女性警察官の実数は、警○庁が公表していないため明らかではないが、
総数が2000人である事から、400人程度が該当する物と思われる。
その男と中本は、近くに架かっている歩道橋の階段を上り、階段と横断部の境界付近に立ち止まった。
老朽化が著しく、利用者がほとんどいない寂れた歩道橋だ。そのため秘密の会話をするには却って都合が良かった。
「メールで概要はお話しましたが、ここで改めて依頼内容の確認をさせてもらいます」と、中本が言った。
男は黙って頷いた。
中本は、軽く咳払いをし、自分の口元を掌で覆い隠した。
「さきほどの“手帳”でお分かりのように、僕は警視庁・臨海署に所属する現職の警察官です。
年齢は30歳になります。ある女警から婚約を一方的に破棄された事は既にお話した通りです」
「その女警の個人データは持って来てるな?」
その男も、口元を掌で覆い隠し、中本にそう尋ねた。
「はい」
中本は、ガムテープで厳重に封がされたA4の封筒を取り出し、男に手渡した。
「女警の本名、所属、住所、携番、メアド、通勤経路、生年月日、血液型、家族構成、学歴、採用区分、身長、体重、その他もろもろ。
画像や動画を納めたCD−R。彼女の肉声も収録されています」
「よくこれだけ集めたたな。元フィアンセとはいえ、所属は別だ。大変だったろう」
男は、封筒をバッグに収めながら、中本にそう言った。
「なあに。あの女を地獄のどん底に叩き落すためですよ。ちっとも苦労じゃないですね」
中本は、胸を反らしながらそう言った。
「着手金は?」
男が、尋ねた。
「持ってきています」
中本は、バッグから無地の封筒を取り出し、男に手渡した。
「100万入ってます。成功すれば、残りの500万を一括して支払います」
男は、ニコリともせず、無言で頷くのみだった。
「お願いしますよ、大野さん。とにかくあの女、深沢千夏をめちゃくちゃにレイプし、そしてそいつを撮影してください」
「中本さん、あんた自身が彼女を襲う事は考えてないのか?」
タバコに火を付けながら大野と呼ばれた男がそう尋ねた。
「無理ですよ。警察を馘になって、かつ臭い飯を食わせれるのは御免です。それにアカの他人のあなたに襲われた方が千夏に与えるショックも大きいでしょうから。
あ、いや、まてよ。あいつ面食いだからな・・・イケメンのあなたに襲われてもあまりショックは受けないかも・・」
「おい、どうするんだ?やるのかやらないのか、はっきりしろ」
中本は慌てて首を振った。
「もちろんお願いしますよ。ただどうせなら、『ハゲ、デブ、オヤジ』の女に嫌われる三要素が揃った奴の方がより良かったかなと思っただけでして・・」
「いいだろう。それならその辺に転がっているホームレスを実行役に仕立ててやってもいいぜ。なるべく女が嫌いそうな外見をしている奴をピックアップしよう」
「本当ですか?いやぁ、嬉しいなあ」
「追加で100。いいな?」
「あ。はあ・・まあ仕方ないですね。乗りかかった舟だ」
大野は、吸っていたタバコを路面に投げ捨て、踵で揉み消した。
「商談成立だな。また追って連絡する」
大野は、そう言って階段を下りかけ、思い出したように足を止めた。
「中本さん、ボイスレコーダーで録音するのはいいが、あまり自分のポケットをチラチラ見ないほうがいいぜ。モロバレだよ」
中本の顔色が、さあっと変わった。
「あ、いえ、これは・・」
大野の目は、氷のように冷たい光を放っている。
「消します。すいません」
中本は、蒼い顔をしながら、ボイスレコーダーを操作し、ログの消去作業を行った。
「ペナルティが必要だな」
大野は、そう言い、中本に一歩歩み寄った。
「ペナルティ?一体なんですか」
中本の足元がガクガク震えている。
――本当にこいつサツ官か?
大野は内心の苦笑を禁じ得なかった。
「レイプの実行は、中本さん、あんたにやってもらう」
中本の目が、ギョロリとむき出しになった。
「そんな!彼女は僕の事を知っているんですよ。出来るわけないです!」
「マスクでも被って、変装すればいい」
「体形や身体の特徴でバレますよ。一応、“関係”は、あったんですから」
「そんな事は知った事じゃない。鬼気迫るレイプをすれば、女は恐れて告訴出来ないさ。もう腹をくくる事だな」
「鬼気迫るレイプって・・・例えば、訴えたら殺すとか、そういう意味ですか?」
「そうだ。それを言葉ではなく、行動で千夏に示すんだ」
「もし、出来ないと言ったら?」
大野は、自分のネクタイを裏返し、中本に示した。
中本の顔から完全に血の気が引いていった。
大野のネクタイの裏側にピンホールレンズが装着されていたのだ。
「盗撮していたんですか・・・あんまりだ・・」
「人の事が言えるのかよ」
「それをどうするつもりですか?」
「さあな。あんたが自由に判断すればいい」
中本は、覚悟したように、一回大きく溜息を尽いた。
「どうする?力ずくでメディアを破壊するか?」
中本は力なく顔を左右に振った。
「あなたと戦っても勝てる自信はないですよ。それに下の歩道は人通りが多い。こんな場所で喧嘩なんかしたら、すぐに110番されてしまいます」
「じゃあどうする?」
「大野さん。この依頼はキャンセルという事でいいですか?先ほどお渡しした100万は違約金として差し上げます」
「金だけじゃ駄目だ」
「は?」
「千夏の個人情報が入ったこの封筒も頂いていくよ」
「ああ、いいですよ、そんなもの喜んで差し上げますよ。煮るなり焼くなり、ご自由にどうぞ」
大野は、再びポケットからタバコを取り出し、火を付けた。
「中本さん、ひとつだけ忠告しておこう。闇のサイトで知り合った人物に危険な依頼をする際は、丸腰で臨む事だ。
俺はこう見えても平和主義者なので、着手金だけで放免してやるが、相手によっては命すら奪われかねないぞ」
「はい・・」
「心配するな。これを餌にあんたを強請ろうとか、そんなつもりは更々ないよ。安心して警察官として、今後も働いてくれればいい」
「それを聞いて安心しました」
「行っていいよ」
「はい。失礼します」
中本は、よろよろした足取りで階段を下りて行った。
大野は、中本の姿が消えた事を確認すると、歩道橋の反対側の階段を下りた。
そして通りかかったタクシーを拾うと、何処とも無く消えて行った。
今日も、西京線は通勤帰りのサラリーマンやOLでぎゅうぎゅう詰めの混雑を呈していた。
執務を終え、帰路についていた、鉄道警察隊、原宿連絡所に所属している千夏は、扉の前に立ち、激しい車内の混雑にじっと耐えていた。
西京線は都内でも有数の痴漢多発路線として有名で、JR東日本管内では、いの一番に、女性専用車両が導入されたという経緯がある。
千夏の後方に立っている中年の男が、揺れに任せて、千夏の体に気安く触れてきている。
最初は腕のあたりだったのが、次第に腰に下がり、さらにはカバンで尻に当たってくる。
不快ではあったが、この程度は、よくある事なので、千夏はじっと耐えていた。
ガクンと音がして、電車が大きく揺れた。ポイントを通過したようだ。
「ひっ!」
思わず、声が漏れそうになった。
千夏の尻に、ゴツゴツした男の掌の感触がはっきり伝わったからだ。
千夏は、眉間に皺を寄せ、後ろの中年男をギロリと睨んだ。男は、素知らぬ顔で、視線を注に背けた。
(今度やったら“確保”するからね。こう見えてもこっちは、“痴漢”相手のプロなんだから)
(注)作中の「原宿連絡所」は実在しません。
電車は次の駅を目指し、疾走している。あと5分ほどで到着の予定だ。
男が千夏に、全く当たってこなくなった。先程の“ひと睨み”が効いたのだろうか。
電車が減速を始め、次の停車駅のホームに車体が吸い込まれていった。
(どうやら大丈夫らしいわね)
千夏は、安堵し、一瞬だけ気を緩めた、次の瞬間――
さっきと同じ感触。後ろの中年男が千夏の尻を、数回撫で回してきたのだ。
「ちょっと、あなた!何を・・」
言いかけた直後、電車は停止し、目の前の扉が一気に開かれた。
ターミナル駅であるこの駅は、乗降客が桁違いに多い。
千夏は、後ろから、怒涛のような人波に押され、一気にホームの外に押し出されてしまった。
「痴漢です!痴漢!そこのグレーのスーツ、眼鏡の男です!」
千夏は、必死の形相で叫び声を上げた。
しかし、中年男と千夏の間に乗降客の流れが割って入り、千夏は全く成す術がなかった。
――悔しい。散々、触られたあげく、むざむざ取り逃がしてしまうの?
やがて、乗降客の流れが一段落つき、ホームは静穏を一瞬、取り戻した。
千夏は、呆然としたまま、ホームに立ち尽くしていた。
「大丈夫ですか?」
近くにいたOLが心配そうに、千夏に声を掛けてくれた。
578 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/13(火) 20:37:09
「はい。大丈夫です」
千夏は、精一杯の笑顔を作って、OLに感謝の意を表した。と、その時だった。
「離せよ、この野郎!何するんだ」
後ろから男の怒声が響いた。
千夏は慌てて、後ろを振り返った。
「あっ!」
思わず、声が漏れた。
あの中年痴漢男が、サラリーマンらしき男に、両手首を拘束されていたのだ。
「グレーのスーツに、眼鏡。こいつに間違いありませんね?」
30歳前後。黒いスーツに、長身。鍛えられた体格をしていたその男が、千夏に確認を求めた。
「はい。間違いないです!」
千夏は、興奮し、叫ぶように返答した。
「俺は知らねえよ!証拠が、あんのか?これは痴漢冤罪だ。俺は、絶対に認めないからな!」
中年痴漢男は、この期に及んで、見苦しいあがきを見せた。
千夏は、ふっと鼻から息を吐くと、バッグから警察手帳を取り出し、男の鼻先に突きつけた。
「詳しいお話は、署の方で、ゆっくり聞かせてもらいますよ」
中年痴漢男の膝が、ガクンと折れた。
「すいませんが、お宅様もお時間を頂いてよろしいですか。お手数はお掛けしませんので」と、千夏は、サラリーマン風の男にそう言った。
「もちろん。喜んで供述させてもらいますよ」
男は、笑みをたたえながら、千夏にそう返答した。
千夏は、心もち顔を赤らめながら、男に会釈を返した。
誰かが通報してくれたのだろう。数名の制服の警察官が、こちらに向けて疾走してきているのが見えた。
臨場した3人の警察官は、この駅の連絡所所属の鉄警隊員ではなく、所轄の地域課員だったことが、多少の落胆を千夏にもたらした。
鉄警隊は、かつての国鉄に属した、「鉄道公安職員」がルーツだ。彼らは、警察官ではなく、あくまで国鉄の職員。
ただし、彼らは司法警察権を持ち、拳銃所持、捜査差押、通常逮捕などの警察権を行使することが可能だった。
1987年3月31日、国鉄の分割民営化に伴い、鉄道公安制度は廃止となり、翌、4月1日より、鉄警隊が発足する事になったのだ。
しかし、鉄警隊には、事件の検察送致など被疑者処分の権限が与えられておらず、事案処理を所轄に引き継がなければならないなど、その権限は、旧鉄道公安と大差ない不十分な物であると言えた。
(ただし鉄道事業に起因する一部の犯罪において、鉄警隊が処理することが適当と認められるものについては、鉄警隊が独自に処理できる〜鉄道警察隊の運営に関する規則・第四条)
失職する事になる旧鉄道公安官の受け皿として、全国の警察に、2882人の増員枠が認められ、彼らの大半が、警察官採用試験を受け、警察官としての新たな一歩を踏み出した。
そのルーツゆえ、組織内における鉄警隊の地位は、決して高いとは言えない。
彼らの所属が、各都道府県警によって地域部であったり生活安全部だったりと、まちまちである事からもそれが伺える。(ちなみに警視庁では地域部に属する)
警視庁は、2001年6月11日より、駅構内に100人の機動隊員を配置し、構内警備を強化したが、これもある面、彼らにとって屈辱ではあったろう。
この時点における鉄警隊員はわずかに130人。連絡所は、いつ訪れても無人である事が多く、人員配置が不十分である事は、傍目にも明らかだ。
それでありながら、痴漢やスリの検挙などの「努力目標」という名のノルマだけは、しっかり本部から押し付けられてくる。
千夏の直属上司も、旧鉄道公安上がりだが、「国鉄時代の方が努力目標がない分、余程よかった」が口癖で、
原宿相談所内全体が、そのような、低モチベーションの空気に染まりきっていた。
モチベーションが低いと、検挙実績も上がらないし、従って増員要求はいつまでたっても、受け入れてもらえない。
千夏は、110番ではなく、直接、この駅の連絡所に電話を入れるつもりでいたのだが、付近の人に、110番通報されてしまったのが誤算だった。
通信指令本部は、所轄と連絡所の双方に臨場指令を送る事となる。はっきり言って早い者勝ちの世界。
せっかく身を挺して、痴漢を確保したのに、所轄の地域課員に臨場されてしまったので、残念ながら鉄警隊の得点にはならない。
「どうしました?婦警さん」
ふいに声を掛けられ、千夏はハッと我に返った。
「さあ、行きましょう。お巡りさんが待っていますよ」
黒スーツの男が、にこやかに千夏を促した。
「ごめんなさい。少し考え事をしていました」
ふたりは階段を下りながら、言葉を交わした。
「僕、大野と言います。先程は大変でしたね」
「大野さんですか。私は、深沢と申します。助けて頂いて本当にありがとうございました」
「いえ、当然の事をしたまでです。ところで、これって記事になっちゃうのかな?」
「さあ。私にも分かりませんが、多分、ならないんじゃないかしら」
「ならない?ほう。なぜですか?」
「マル被・・被疑者の身柄を確保したのは、私ではなく、あなたですから・・・」
そう言ってから、千夏は、自分の失言に気が付き、心の中で舌打ちをした。
この事案の場合、千夏自身が、痴漢を確保したわけではないのだ。純粋に彼女は、被害者でしかない。
従って、体面を重んじる広報がレクするとは、とても思えなかったのだ。
その時だった。
前方から、ラガーマンのような、頑強な体躯をした男が階段を猛然と駆け上がってきた。
ホームに停まっている電車に、何とか乗車したいと思っているのだろう。男の目は殺気立っていた。
このままでは千夏に衝突してしまう。
その瞬間――大野が千夏の前にすっと回り込んだ。
ガツッという鈍い音がして、ラガーマンのバカでかいリュックが、大野の肩をモロに直撃した。
大野の顔が、瞬間、苦痛で歪んだ。
ラガーマンは、後ろを全く顧みる事なく、閉じかかった電車の扉を力ずくでこじ開け、車内に姿を消した。
「大野さん!大丈夫ですか」
千夏が、蒼白い顔をして大野に声を掛けた。
「大丈夫ですよ。全く困った奴が多いですね、最近は・・」
「ごめんなさい。二度までも助けて頂いて・・」
(なぁに。これも、あんたを地獄に叩き落すためさ。どうって事ねえ、これ位・・)
「大野さん?」
「あっ?いや、ははっ。聞こえてますよ。どうか、お気になさらず・・」
582 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/14(水) 18:43:07
深沢千夏(ふかさわ ちか)27歳 警視庁地域部 鉄道警察隊 渋谷分駐所原宿連絡所 所属。
階級は巡査長。採用区分は女性一類。西新宿署の交通課でミニパト乗務を経た後、現所属。
最近、単身寮を退寮し、さいたま市内の実家に居住。
西新宿署地域課の中本と婚約していたが、鉄警隊に異動と同時に婚約破棄を一方的に中本に通告。
中本の優柔不断な性格に、嫌気が差したのではないか。
現在は、特定の恋人はいない模様だが、生来の男好きのため、複数の隊員と肉体関係を持っている事はまず間違いない―――
以上が、中本が大野に寄こした千夏に関するレポートだ。
確かに、中本自身の自己分析にもあるように、彼は、警察官にしては、極めて押しが弱い。
アクが強い男揃いの警察組織にあって、無味無臭、人畜無害の中本に、千夏が幻滅していったというのは理解出来なくもない。
しかしだ。
根が善人の中本を、闇サイトの住人に大枚をはたき、レイプさせようと画策させるまでに、追い込んだ千夏の罪は限りなく重い。
中本の無念さは、同じ男として、よく理解できるつもりだ。
安月給の彼から、100万をタダでもらい、そのまま放置というのも、どうにも背中がむず痒い。
中本の依頼うんぬんは関係なく、自分の意思で、千夏を屈辱にまみれさせる――
まずは、その第一段階として、千夏を自分に惚れさせなければならない。
ズキズキ痛む肩を、必死にマッサージしてくれている千夏の横顔を眺めながら、大野は、第一段階はあと一押しでクリアできるという確信を抱いていた。
(注)渋谷分駐所原宿連絡所・西新宿署は実在しません。
583 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/18(日) 20:00:18
宮川花子は元婦警なのか、元交通巡視員なのかはっきりせい(笑い)。
「交通課の巡査でした。まだ大阪は田舎っぽいところがあった時代で、町は漫画『じゃりン子チエ』みたいな感じ。悪さした子に、近所のおばちゃんが怒ったりしてた」
「ちょうど、スケバンがはやってた時期でした。高校二年ぐらいから、髪の毛も染めてましてん。パーマ当てたり」
「中学でも高校でも勉強なんかほとんどせえへんかった。『あなたは、やればできるんやから』という親の信用一つで生きてた。
ほんま、それだけが救いやったね。学校さぼってばっかりやったし、同窓会やったって『私、このクラスやったかな』と思うくらい、いい加減やったのにね。
家の近所の交番にかっこいいお巡りさんがいたから、高校卒業した1974年に大阪府警へ入りました。
配属された城東署でやったんは笛吹く交通整理。でも、「合わへん」とおもて、1年で辞めてしもた。
女性の先輩が結婚して辞めていくのを見て、あんまり先はないなとも思って。生意気やったなあ。走るのも苦手やったしね。
芸能界に入って一番最初にやったんが大助君との結婚。76年の春、20歳でしたわ。
今考えたら、警察辞めたん、もったいなかったな。ほんま私、今の若い子、代表するようなやつやったわな。『根気ない、やる気ない、努力もせん』という三拍子そろったやつやったんです。
若いころは何も考えてなかった。若気の至りやった。だから今は府警の同期に感謝してます。現役で頑張っている姿を見たら、自分ができなかったことをやってくれてると、つくづくありがたく思うから。
実は漫才も大助君と結婚して、いったん辞めてるんです。76年から3年、ガードマンしてた。何事も長続きせえへん自分やった。
大助君がやろう、ていうたからコンビ組んでまた始めた。それからです、それまでのことをみんな忘れて一筋にやってきたんは。
◇みやがわ・はなこ
大阪府寝屋川市出身。元婦人警官。先輩が次々と男子警官と結婚退職する姿に落胆、お笑い界へ。
1988年10月、胃がん宣告。闘病記「愛をみつけた」が1995年にNHKドラマ化された。50歳。
◇別ソース・大阪府警の元交通巡視員で漫才師の宮川花子さんは「大阪人は『我がの土地は我がの土地や』という意識が強いから違反するのが多いんですわ(以下略)
被疑者が頑健に否認した事から、大野と千夏に対する事情聴取も精緻を極める必要があった。
そのため、ふたりの事情聴取が終了したのは、午前零時近くになってからだった。
「深沢さん、西京線をご利用という事は、埼玉方面がご自宅ですね?」
PSのロビーにあるベンチで、大野は別段疲れた様子を見せることも無く、千夏にそう尋ねた。
「そうなんです。もう電車がありませんから、どうしようかしら・・」
「タクシー代は、経費で落ちないんですか?」
「落ちませんよ。これは仕事じゃないんですから」
千夏は、上目遣いで、伺うような眼差しを大野に向けた。
「あ〜あ。給料前で、金欠なんですよね・・」
大野は、心の中で苦笑しながら、持っていた缶コーヒーを一気に飲み干した。
(自宅から通ってて金欠もクソもねえだろに・・)
PSの正面にある、24時間営業のレンタカー店の明かりが、これ見よがしに目に飛び込んできている。
「どうです?レンタカー借りて帰るというのは。タクシー代よりは安くあがりますよ」
「駄目ですよ。私、お酒飲んでるんだもの。それに家に余分な駐車スペースないですし」
「ビジネスホテルならこの辺いっぱいあるでしょう?手持ちがないなら、お貸ししますよ」
千夏は、大きく咳払いをし、そっぽを向いてしまった。
受付に座っている制服が、大野に目で合図を送ってきている。
(鈍感だな、お前。彼女、送ってよって言ってんだよ。気が付かねぇのかよ)
大野も、目で合図を返す。
(とっくに分かってる。じらしてるんだよ。そっちこそ気付けよ)
「ああ。なんだか、車を運転したくなっちゃったなぁ」
大野のその声に、そっぽを向いていた千夏の肩が、ピクンと動いた。
「深沢さん、レンタカーでよろしければ、ご自宅までお送りしますよ」
「でも、ご迷惑では・・」
「迷惑?世に数多といる婦警マニアから八つ裂きにされてしまいますよ、そんな罰当たりな言ったら」
大野の軽口に、ようやく、千夏の表情が緩んだ。
千夏を助手席に乗せ、大野は「わ」ナンバーのゼロ・クラウンを発進させた。
「女性警察官ですか・・我々、男にはよく分からないけど、何かと大変な世界なんでしょうね」
ステアリングを操作しながら、大野は千夏に話しかけた。
「そう見えますか?実はそれほど大変でもないんですよ。あっ、これオフレコでお願いしますね」
大野は、苦笑しながら肯いた。
「見て下さい、私の腕を」
そう言って千夏は、長そでのブラウスを捲り上げ、大野の目の前に、しなやかに伸びた、自分の腕を示した。
「綺麗ですね。白くて透き通ってる」
「細いでしょ?筋肉なんか全然ついてません」
「・・・」
「これでも警察学校に入校していた時分は、ムキムキの腕をしてたんですよ」
「ほう」
「ご存知かも知れませんが、警察学校の厳しさはハンパじゃありません。女性という事で精神的な追い込みはあまり掛けられませんが、体力面は別です。
男子と全く同一のカリキュラムをこなす必要があるんです」
「なるほど」
「ですので、並の女性の体力では警察学校の術科には、まず、ついて行かれないと思います。男子ですら、きついメニューなんですから」
「そのために日頃のトレーニングが不可欠なわけなんだ」
「はい。でもそれも、卒配までの話。所轄に配置されたら、誰も筋トレなんかしません」
「でも奈良だっけ?制服を盗まれた婦警さん、ジムに通っていたらしいじゃない?」
「彼女はダイエットコースを選択していたんだと思います。女警でもダイエットは普通にしますから」
「アスリートの女性でも、3ヶ月休養を取っただけで、筋肉がすっかり落ちるって言うけど、なんだか勿体無いね。せっかく付けた筋肉を落としちゃって」
「だから最初の話に戻りますけど、私たちの仕事に男性並の体力は必要ないんですよ。最低限、女性被疑者を取り押えられるだけの体力があればいいんです」
「女性被疑者と格闘して、押されちゃう婦警さんっているの?」
「います。やっぱり、そうなると周りから白い眼で見られちゃいますよ。女性被疑者の確保は、原則、男性の同僚には任せられませんからね」
「でも、今日みたいにひとりでいる時に、痴漢に遭遇したら、自分でなんとかしなきゃならないわけだけど?」
「大丈夫。大野さんみたいな、勇敢な男性が必ず助けてくれますから」
「おだてても、何も出ませんよ」
千夏はクスリと笑い、車窓の景色に視線を移し変えた。車は、いつの間にか、さいたま市内に入っていた。
「ところで、大野さんは、どんなお仕事をされているんですか?」
「ははは。内緒という事で」
「ズルいですよ、私ばかり話をさせて」
「具体的な社名は勘弁ですが、一介のリーマンですよ」
「ふうん。もう結婚はされてるの?」
「しています。妻と幼い娘がいます」
千夏の目が、一瞬、左右に揺れた。
「そうなんだ・・愛していらっしゃるんですか?奥様の事」
「はあ・・」
「愛してないの?」
「いや、もちろん愛してますが、最近、どうもすれ違い気味で・・」
「ごめんなさい。余計な事を聞いちゃったみたい・・」
口では謝りながら、千夏の表情は喜びに満ち溢れていた。もちろん、それを見逃す大野ではなかった。
大野は、静かに車を路肩に寄せた。
千夏は、一瞬、驚いた様子を見せたが、特に何を言うわけでもなく黙っていた。
お互い無言のまま、数分の時が流れ、車内は、静寂だけが支配していた。
「私、寂しかったんです・・」
千夏が、ふいに口を開いた。
大野は、黙ってまま、千夏の顔をじっと見た。
「本当は、タクシーに乗るお金なら持ってました。でも、どうしても、あなたに送ってもらいたかった・・」
大野は、中本が千夏を評して、「生来の男好き」と書いた意味が、はっきり理解できたような気がした。
恐らくこれまでも、目をつけた男には、この調子で甘え、惑わせてきたのだろう。男女の駆け引き事に目がない女は、少なからず存在するが、千夏もこのタイプと言ってよかった。
彼女にとって恋愛の真似事こそが、ストレスの発散方法であって、お互いそれをわきまえた上で交際すれば、それはそれで意義があろう。
しかし、しょせんゲームはゲーム。遊びは、いつかは終止符を打たなければならない。
だが、中本は、千夏の婚約破棄という名の、一方的なゲームオーバー宣言が許せなかった。中本は、ゲーム感覚の恋愛という考え方が理解出来なかったのだろう。
で、大野と言えば、恋愛なんぞどうでもいい、とにかくひとりでも多くの婦警とセックスできれば、という考えを持っていた。
大野は、何も言葉を返す事はせず、その代わり、千夏の右手の甲に自分の左手を乗せ、静かに握り締めた。
千夏は一瞬、驚いた様子を見せたが、特に抗う事なく、大野のされるがままに身を任せていた。
「毎日、毎日、痴漢被害に遭った女性の相談に明け暮れ、で、私と言えば、痴漢の王道を行く西京線での通勤。痴漢なんてザラに遭います」
「捕まえた事はあるの?」
「あります。でもそれが新聞の記事になっちゃって・・もちろん実名は掲載されませんでしたが、所属と年齢は出ましたので・・結構、堪えますよ。分かる人は、私だって分かりますから」
「そうか。朝から晩まで痴漢漬けの毎日なんだね」
大野はそう言って、彼女のしなやかな黒髪を優しくなでた。
「奥様に怒られちゃいます」
「関係ないさ。今は君しか俺の眼中にない」
590 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/20(火) 17:52:22
「私は警察官です」
「だから?」
大野は、自分のシートベルトをバックルから外し、千夏の肩に手を回した。
「警察官だって人の子だ。寂しい時は異性に甘えていいと思う。違うか?」
「でもあなたには奥様がいます・・」
「全くよく動く口だな」
大野は、助手席のリクライニングのスイッチを押し込み、シートを少しだけ倒した。
「何をするの?止めて下さい」
「いいや。止めない」
「やめて・・」
大野に口の動きを封じられ、千夏の声は、そこで途切れた。
千夏の息は酒臭かったが、それがまた大野の劣情を刺激する形となった。大野は、互いの舌を絡め合い、千夏の乳房を揉みしだいた。
「はあ・・んぁあ・・」
千夏の口から、悩ましげな吐息が漏れてきた。
(何が「私は警察官」だっての。初対面の男に、いきなり、ここまでやらせるかね)
「やめて、大野さん。本当にもうやめて。いい加減に帰らないと、明日の朝、起きられなくなるわよ。もう2時近いし」
「ん、ああ。そうだな・・」
お互い、いつの間にじゃ敬語が抜け、タメ口で会話をするようになっていた。
大野は、千夏を自宅の前で下ろし、互いのメアドを交換した。
「おやすみなさい。気をつけて帰ってね」
大野は、軽く右手を上げて千夏に応えると、新大宮バイパスを目指し、アクセルを踏み込んだ。
西新宿の高層ビル街に、時ならぬ男の怒号が響き渡った。
「ふざけんじゃねえよ!たったの5分しか停めてねえだろ」
ふたりの女性警察官を相手に、肉体労働系の茶髪の若者が食ってかかっていた。
「今月から取締りの方法が変わったのを、ご存じないんですか?短時間でも車から離れたら切符をきるようになったんですよ」
「あのな、納品場所はビルのテナントだ。
守衛室で入館手続きをして、エレベータに乗って商品を運び、お客の所で検品してもらって、受領印をもらい、次回の注文を取って、再びエレベーター乗って、守衛のとこ行って・・
どんな手慣れたヤツでも10分以上確実にかかるんだよ!」
「でしたら、駐車場にお車を入れて頂く様にしてもらわいませんと・・」
「社長がケチでよ、駐車代金を出してくんねえの!わかる?公務員さん」
男は、今にも婦警を殴り飛ばさんばかりの勢いで、まくし立てている。
婦警のうちの先輩格の方が、そっとその場を離れ、携帯電話を取り出し、課に応援の要請を求める電話をかけた。
その間、若い方の婦警がひとりで、男の応対をしなければならなくなった。
「でも、他の宅配のドライバーさんは、ちゃんと駐車場に入れてますし、またやむなく路駐する場合でも、助手を運転席に座らせてから配達していますよ」
「おめえ、さっきの俺の話を聞いてんのかよ?それは黒猫とか佐川とかの大手の話だろ。うちとこみたいな零細は金銭的にも時間的にもそんな余裕はねえんだよ。
じゃあ何か?おめえは、俺に自腹を切って駐車場に入れろと、こういうのかよ」
「ですから、それは社長さんに、よく事情をお話になって、駐車場の代金を出していただくように交渉なさっていただくしか・・」
「てめえ・・・」
「お気持ちは分かりますが、あなただけを特別扱いはできないんですよ。違反をなさったのは、事実なんですから」
「今、てめえをぶん殴ったら、多少は気分が晴れるかな・・」
男は、指の関節をバキバキ鳴らしながら、婦警にジリっと詰め寄った。
「やめなさい!公務執行妨害の現行犯になりますよ」
婦警の額に脂汗が滲んだ。
「もうどうでもいいや。おめえらマッポが弱い者いじめをして仕事の邪魔をするなら、こっちだって反撃する権利はあるはずだ」
男の目は完全に据わっていた。このままでは、本当にこの婦警は殴られてしまう。
「手島さん、ミニパト!」
通話を終えた先輩格の婦警が、手島と呼ばれた若い婦警に、大声でそう命じた。
「はい!」
ふたりの婦警はミニパトに飛び乗り、ドアロックをかけた。
「おらあっ!マッポのくせに逃げる気か!」
男は完全にキレ、ミニパトの車体をガンガン蹴り上げた。
そしてやおら、道に落ちていた巨大な石を拾い上げると、ミニパトのフロントガラス目掛けて、渾身の力を込め、石を叩き付けた。
次の瞬間、「ガシャッ!」という破壊音が響き、フロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビが走った。
「おら、出てこいや、メスポリ!今さらビビってんじゃねえよ!」
男は、狂ったように喚き散らし、フロントガラスに蹴りを見舞った。
ガラスは一気に砕け散り、車内に破片が散乱した。
「キャーッ!」
ふたりの婦警の、「女」の叫び声が響き渡った。
「何がキャーだ、オラ!都合のいい時だけ『か弱い女』してんじゃねえよ!」
婦警の制服にも、無数の破片が飛び散っている。下手に動けば大怪我をしてしまう。
ふたりは車内で、身動きひとつ取れず、ガタガタ震えるばかりだった。
男が、近づいてきた。手にはバタフライナイフが・・・
「手島さん、エンジンをかけなさい!」
「えっ・・」
「早く!」
「はい!」
運転席の手島婦警は、先輩の命令通りセルを回し、エンジンを始動された。
「後ろの車にぶつけて構わないから、何とか脱出して。最悪、男をはねてもいいから」
「でも・・」
「殺されるわよ!いいの?」
「わかりました!」
手島婦警はギアをバックに入れ、アクセルを踏み込んだ。
「先輩、しっかりつかまってください!」
左バンパーがガリガリガリと火花を散らしながら、ガードレールを擦った。
「逃がすか!この野郎」
男が絶叫し、走り寄る。
ガツッという衝撃が走り、ミニパトの左前側部が後方の駐車車両に衝突したが、手島婦警は構わずアクセルを踏んだ。
どうやら一発で、駐車の列からミニパトを出す事に成功した。
先輩婦警がサイレンのスイッチを入れた。
「あっ!先輩、あいつ、また大きい石を持ってます!」
手島婦警が叫び声を上げる。
男がモーションを起こした。目線はミニパトのコックピットを捉えている。
「手島さん。バックで逃げられないの?」
先輩婦警が金切り声を上げた。
「やってみます!・・あっ、小さい子供がすぐ後ろにいます!」
「嘘ぉッ!」
「もうだめです!先輩伏せて!」
ふたりの婦警はガラスの破片で顔を切らないよう気を付けながら、頭をかかえ、伏せの姿勢を取った。
数秒がたった。
石は・・・飛んで来ない。
「離せ!何だテメーは!」
「あぁ?婦警さんをいじめる不届きものに名乗る名前なんてねえよ」
前方から、男の言い争う声が聞こえてきた。ふたりは、恐る恐る顔を上げた。
「あっ!」
手島婦警の口から、思わず叫び声が漏れた。
長身のサラリーマン風の男が、違反男を後ろから羽交い絞めにして、組み伏せていたのだ。
595 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :2006/06/22(木) 00:08:22
「大丈夫!婦警さんたちは、ミニパトに乗っていて下さい」
ふたりの婦警の機先を制し、男が口を開いた。
「でも!」
「あなたちちが来ると、またこいつを興奮させてしまう。僕ならひとりで平気です」
ふたりは顔を見合わせた。
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「やっと、お出ましね・・。もう遅すぎよ」
先輩婦警が安堵の溜息を漏らした。
「手島さん。あなたの行動は冷静で、よかったわよ。私だったら、気が動転して、後ろの子供をはねていたかもしれない・・」
「そんな・・」
手島婦警の顔が、桜色に染まった。
手島婦警は、照れ隠しのように、視線を前に移した。
高そうなスーツをズタボロにしながら、懸命に男を組み伏せているサラリーマン風の男と、偶然、視線が合った。
男は軽く頷き、手島婦警に笑みを投げかけた。
桜色に染まっていた彼女の顔が、今度は真っ赤に染まっていった。
3台のPCが相次いで現着した。
違反男は、続々とPCから降りてきた制服に、公務執行妨害、器物破損の疑いで現行犯逮捕され、あっという間に連行されて行った。
日付は数日さかのぼる。
中本は、警ら用自転車に乗り、管轄区域をひとりで巡回警らしていた折、男からふいに声を掛けられた。
男は、大野だった。
「驚かせてすまん。今、ひとりだな?」
「はい。ちょっと困るんですが・・。勤務中ですので」
「ひとつだけ聞かせろ。あんたの以前の所属、西新宿署で、千夏と一番仲が悪かった婦警を教えてもらいたい」
「千夏と、ですか・」
今日は日曜日で、運送会社の倉庫が並ぶこの近辺は、閑散としていた。それでも、心配性の中本は用心深く周囲の様子を伺ってから声を潜め、こう答えた。
「そうですね。手島みゆきという25歳くらいの女警が交通課にいますが、千夏と犬猿の仲である事は、署内の人間なら、皆知っていましたよ」
「詳しくわかるか?」
「僕は、見ての通りの地域課員なので詳細はわかりませんが、噂では、千夏がみゆきの男をつまみ食いして、それがみゆきにバレたという事みたいです。あくまで噂ですが」
「なるほどな・・」
「あの、僕からもお聞きしてよろしいですか?」
「何だ」
「そんな事を聞いて、どうするつもりですか?」
「わからんか?」
「・・・。あまりよくは分かりません」
「『あまりよくは』って事は、多少の想像はついてるって事だよな」
「・・・」
「この間、千夏に接触したよ。数時間後にはキスをし、胸を揉んだ。最初は俺のナンパテクもなかなかのものだと自惚れてたが、
今に思えば、千夏のシナリオ通りに誘導されてたに過ぎないんだな。あんたの言った通り男女の駆け引きにおいては、相当な手足れだよ、あれは」
中本は、口をあんぐり開けたまま、言葉を失っていた。
前方から、相勤員らしき制服が、キコキコ音を鳴らしながら、自転車で、こちらに向かってきているのが見えた。
「海岸駅は、2つ先のブロックでいいんですね?」
大野は、大きな声で中本に声をかけた。
「は、はい、そうです。この先のふたつめの路地を左に折れてもらえれば、300mほど先に駅が見えてきますよ」
「そうですか。助かりました。ありがとうございます」
「お気をつけて」
中本は、軽く挙手注目の敬礼を大野に送った。
大野は、背広を肩にひっかけると、悠然とその場を後にしていった。
西新宿署の署長室に通された大野は、警視正の階級章が燦然と輝く制服を着用している署長から、うやうやしく感謝状の贈呈を受けた。
警務課の男性吏員が、バシャバシャとカメラのフラッシュを焚いた。
傍らには、スカート姿のみゆきの姿も見られた。先輩の婦警は、事情聴取がまだ終わっていなかったのか姿が見えない。
大野は、「贈呈式には、スカートで来てくれませんか」と、みゆきに冗談半分に耳打ちしていたのだが、本当にスカートに履き替えてきてくれていた。
大野はこういうシチュに結構感激する口で、みゆきに対する好感度は一気に急上昇していた。
式が終わり、署の玄関に向かっていた大野を、みゆきが息を弾ませながら走り寄って来た。
「大野さん。先程の贈呈式の写真ですけど、カラーコピーで申し訳ないんですが、プリントしましたので、宜しければお持ちになってください」
「あっ、わざわざ有難う。いい記念になります」
大野は、頭を下げ、みゆきから、写真が入った封筒を受け取った。
「ゆっくりお礼も言ってませんでしたね。改めて言わせてください。本当にありがとうございました」
みゆきは、そう言って、深々と頭を下げた。
「いいえ、当然の事をしたまでですよ。どうかお気になさらず」
「すいませんが、事件の件で、後日お問い合わせする事があるかも知れませんので、念のため、ご連絡先を伺ってよろしいですか?」
(連絡先なら、さっき捜査員に散々聞かれたっての)
大野は、苦笑をかみ殺しながら、みゆきに携帯の番号とメアドを教えた。
「僕もあなたの連絡先を聞きたいと言ったら、公務執行妨害になっちゃうかな」
冗談めかして大野がそう言うと、みゆきは口を手で覆い、「後で封筒の中を見てください」と小声で囁いた。
「えっ・・」
みゆきはスカートの裾をひらりとひるがえし、署内に駆け戻って行った。
大野は、その場に立ち尽くし、しばし呆然とするのみだった。
「・・・とまあ、こんな出来事があったんだ」
その夜、大野は、行きつけの居酒屋で、千夏に今日あった出来事を話して聞かせた。
「ふ、ふうん。そうなの・・」
千夏の口先は、微妙に尖っていた。
「あの婦警さん、何て言ったっけ。あっそうだ、手島さんって言ってたな」
――ギリッ・・
千夏の歯が擦れる音がした。大野は、素知らぬ顔でグラスのビールを一気に飲み干した。
「で、でもちょっと情けないわよね」
「情けない?どうして」
「だっていくら男の人が相手とはいえ、女警がふたりもいながらミニパトに逃げちゃうなんて。西新宿なら通行人もいっぱいいたはずだし、みっともないわよ」
「だけど、彼女たちは警棒や拳銃、手錠を持っていないんだぜ。それに耐刃防護服も着用していない。
現に奴はサバイバルナイフを持ってたんだよ。逃げていなければ、刺されていた可能性は十分にあった」
「あなただってお台場の逃走警官の一件覚えてるでしょ。世間は必ずしも、あなたみたいに物分りはよくないの」
「しかしだね・・」
その時、大野の携帯が着信音を奏でた。
「女房からだ。ちょっと失礼」と断ってロビーに出て行った。
「何よ。バカ」
千夏は、大野の後ろ姿を目で追いながら、ボソリとそう呟いた。
テーブルの上に、「西新宿警察署」という文字が印刷されたクラフト封筒が置かれてある。
大野は、通話を終え、そのままトイレに入っていったようだ。
千夏は、ゴクリと唾を飲み込み、封筒の中身を素早く取り出した。
見覚えある西新宿署の署長が大野に感謝状を贈呈している写真のカラーコピーが数枚、そして、みゆきの名前、携電、メアドが手書きされたメモ用紙。
600 :
アホアホ仮面 ◆AHOPAHabu6 :
「オホン!」
ロビーの奥から大野が咳をする声が聞こえた。
千夏は慌てて封筒に書類を入れ、テーブルの上に戻した。
「いや、失礼・・・ん、どうしたの?何か顔色がよくないよ」
座敷に戻ってきた大野が、千夏にそう声をかけた。
「ううん。何でもないわ」
「いや、顔色が青いよ。あまり無理しない方がいい。今日はもう撤収しよう」
「そうね・・。じゃあ、お言葉に甘えて・・」
ふたりは居酒屋を出ると、まっすぐJR渋谷駅を目指した。
「じゃあ、今日はここで。俺は東横線だから」
駅前交番の左隣にあるハチ公口改札の前で、大野は千夏にそう言った。
「ごめんなさい。せっかく誘っていただいたのに、こんな事になって」
「気にしなくていい。それより気をつけて帰るんだよ」
千夏は、コクリと頷くと、自動改札機に定期券を入れ、構内へと消えていった。
大野は、千夏の姿が消えたのを確認した後、携帯を取り出し、中本あて電話をかけた。
<中本です。どうでしたか?千夏の奴>
「かなり堪えているようだった。真っ青な顔をしていたよ」
<そうですか>
「どうだ。まだ続けるか?俺もやるからには、とことん千夏を追い込む。今ならまだ後戻りは可能だ」
<・・・>
「黙ってたらわからん」
<続けて下さい。あの女は、どう考えても許せない。お願いします。とことん追い込んでください>
「わかった。また連絡する」
大野は、電話を切ると、踵を返し、東横線ホームに向け、歩を速めた。