■逮捕■【留置場経験者募集】《パート6》

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848ほかほか弁当
特別読み物「ジャンキーたちのクリスマス」

街はすっかりクリスマス気分だ。
駅前通りには巨大なクリスマスツリーが現れ、繁華街では忘年会帰りの酔っ払いの大声が響くころ――
ウチらジャンキーはひそかにマンションの一室に集まって、クリスマスパーティーで盛り上がったもんや〜〜♪
この時期、警察の実質的“年度末”である11月を越し、年末年始特別警戒で取り締まりの手も緩むから、思いっ切りハジケようというわけや。
せやから、この季節になると、パーティー需要で品薄になり、おネタの方も値上がりするもんなんざんす★
例えば、普段1コ2.5万円のSがヘーキで3万になったり。しかも、いかにも軽い袋にマゼモンたっぷりのクソネタやないか(;_;)
パーティー用スタッフでめちゃ人気なのは、やっぱ93(それも生のインディカ)と罰(ロレックス、スリーダイヤとか)やな。
けど、自分の場合、パーティーでやるのは決まってS、S、S(笑)
849ほかほか弁当:03/12/14 02:09
ある晩のこと。その日はDJやってるヤツのマンションでのパーティーだった。
マンションいうても、中はすっごく広い。さすが大金持ちのバカ息子や(笑)
24畳ぐらいのリビングに部屋が4つほど。そのうち1つがヤツの寝室で残りの3つがお客に開放されていた。
その日の客は全部で20人ぐらいやった。
HIPHOP系のお水とか(わかる?笑)、モデルやヘアメイク風のモードな子とか、サーファーのお姉とか、女の子もかなり来とって、もう誰が誰やら夜祭り状態(笑)
でも、み〜んなヤリたいことは1つ♪
そういえばオレも早速キメたくなってきて、探し回ると、あった、あった!
ナ、ナント、リビングのど真ん中にでかいコタツがしつらえてあり、そのコタツの上に理科実験みたいにアルコールランプ、金網台にのせられた三角フラスコなんかがデ〜ンと設置されていた。
三角フラスコの口には、三つ又のガラス管が通ったゴムコルクでふさがれており、ガラス管の先には透明ビニールチューブとガラス製吸い口がセットされとる。(^^;)
つまり、三角フラスコの中であぶったS蒸気を一度に3人が吸えるように設定されてんのや。
結晶もキャビアのベルーガの空き缶に砂糖みたいに入れられ、た〜っぷり用意されとる。
し、しかもキャビア缶の真ん中にひときわ目立つ、人食いサメの歯みたいなでっかいガンコロが! ヒャッホー(^^;;;
感激したオレはDJ野郎にあいさつに行った。「すごッ、すご過ぎる〜! カネ相当かかったやろ?」
すっとDJ野郎はヌケヌケと言いやがった。「あ〜、オレももう潮時やから、引退記念パーティー兼ねてんねん。カネ? サラリーマンの年収ぐらいかな」
ち、ちくしょー、黄金の国ジパングかよ、ここは!?
850ほかほか弁当:03/12/14 02:10
ぼやきつつも、オレはしっかりと、ふるまいネタをキメていた。
ひと〜つ。ふ〜、いい味や♪
ふた〜つ。いやあ〜落ち着くな〜♪♪
みぃ〜つ。う〜ん、来た来た来た、効いて来たーッ。第2段ロケット、点火ッ!♪♪♪
次の瞬間、オレはロケットに乗って大気圏外に飛び出し、木星に向かう軌道にのっていた。行くぞー、このまま太陽系外へ!(笑)

再び地球に戻ってきたとき、なぜかオレはそいつのマンションのふろにつかってた。蛇口から出るお湯をじぃ〜〜っとひたすら見つめて(笑)
耳元ではゴゥ〜ゴゥ〜と風の鳴るような激しい音が(たぶん頭の血流の音)
ふらふらと立ち上がって、オレはふろを出た。
一室ではなぜかゴダイゴ(笑)の「ガンダーラ」が流れ、数人の男女がボングを回しながらワインをがぶ飲みしていた。
仲間に入れてもらい、93を吸うと少し気分が落ち着いた。マンチーのせいか、何か食べてもいいなと思って、そばにあったピザーラのカレーモントレーを少しだけほお張る。
う、うまい。思わず涙が出て来るほどうまい。地球上にこれほどうまい食べモンがあったんか?
恒例の“ジャンプ大会”が始まった。
93をばっちりキメた後、じゅうたんの上にあぐらをかく。上げようとする両腕を、左右から両肩をしっかり押さえつけてもらい、合図したら離してもらう。
すると、グィ〜〜ンと体が空中に飛び出してゆく(錯覚が起こる)。ヒョー、気持ちいい! 翼もないのに空を飛んでゆく。
851ほかほか弁当:03/12/14 02:13
2、3回目のジャンプをキメたときだった。
「ピンポ〜ン」とチャイムが鳴った。インターホンに出た女の子が、真っ青になってオレたちの部屋に飛び込んできた。
「ちょっとー、たいへんや! 警察だって」
空中遊泳を楽しんでたオレは一挙にしらふに戻った。
「ちょっとお待ちくださいって、ゆうとけ!」DJ野郎も真っ青だ。
そりゃそうやろ、引退パーティーで挙げられるなんて。おまけにこの時期に持ってかれたら、大みそかと元旦は留置場でお迎えや(笑)
「ど、どないしよう、ほかちゃん」
「よっしゃ、オレに任しとけ!」急場を乗り切るために、オレは立ち上がった。
近くにあったバーボンのびんをひっつかみ、わざとこぼすように思いっ切りラッパ飲みした。これで何とか酔っ払いらしくなったかな。
852ほかほか弁当:03/12/14 02:13
「何でしょう?」玄関に立ったオレはあえてドアを開けて言った。
ドアの外には若い制服警官が一人立っていた。「××さん(DJ野郎の本名)ですよね? 宴会でもしはるんですか?」と警官はおずおずと切り出した。
「そうです。20人ほど集まっておって、朝まで飲むんですわ」
「そうですか。でも、ご近所から苦情も出てるんでですね、一つ、お静かにやってください」
「わかりました。気ィつけます」オレは心の中で安堵のため息をついた。
「どうも、すんません」ドアを閉めようとしたとき、突然、警官が制止していった。
「何か、松ヤニみたいなええ香りがしますなぁ」
「…………」凍りついたまま、オレは立ち尽くしていた。何も言えない。部屋いっぱいに漂う93の匂いのうまい言い訳が何も思いつかない。汗が体から噴き出すように流れて、背中を落ちていく。
そのとき、警官がニッコリして言った。
「ひょっとして、本物のクリスマスツリーですか? 本物の木を切ってツリーにする人がおるって雑誌で読んだもんで」
ふ〜〜助かった! 緊張の糸が解けて、思わずほっとする。
「いや、違います。女の子ら喜ばそうと、ハーブ入りのキャンドル、いっぱい焚いてんですわ」今度はうまい言い訳が出た。
「そうですか。ほな、ひとつ、くれぐれもお静かにやってください」そう告げると、警官は背を向けた。
オレは何だかものすご〜くうれしくなって、ものすご〜い幸せな気分になって言った。
「メリークリスマス! お巡りさん!」
去りながら、警官が手を上げた。
ドアを閉め切ったとたん、DJ野郎が飛びついてきた。
「ウオ〜〜ッ! ほかちゃん、やった、やった〜! 助かった、助かった。ありがとう」
オレの肩に手を回してDJ野郎が泣き出さんばかりに言う。「もう今夜は、とことんやろう」
「だめやで〜。もっと静かにせんと」オレは苦笑して言った。「そろそろ、ほんまにクリスマスキャンドルでも点けんか」
「そうやな……」
853ほかほか弁当:03/12/14 02:13
キャンドルの炎が揺れ、オレたちは時々その炎にボングを近づけて吸った。
炎を見つめているだけで、笑い出したくなるような、何とも言えない幸せな気分が広がる。
窓の外には、街の夜景が広がり、時折、クラクションの音が紛れ込んでくるだけだ。
誰かがかけたコルトレーンのサックスが静かに流れる。即席カップルがくすくす笑い合ってる。誰もが満ち足りた、幸せそうな表情をしているのは、ドラッグのせいだけではなかった。
今夜は、クリスマスイブ――。