438 :
毛布:
息苦しさを感じて、アラドは目覚めた。
鼻から口にかけてが、柔らかくてあったかくてうぶ毛が生えてていい匂いのする
何かでもっちりと塞がれている。その感触と匂いで、アラドはすぐに息苦しさの
正体を理解した。
「……っぷぁ」
もぞもぞと身をよじって、顔を上に突き出す。常夜灯のオレンジ色の明かりを受けて
穏やかな寝息をたてる、ゼオラの寝顔が目の前にあった。
ゼオラには小さい頃から、一風変わった癖がある。不安や緊張で眠れない時、何かを
胸元へぎゅうっと抱きしめていると、安心して眠れるのだ。ただし、その何かとは
何でもいいわけではなく、抱きすくめるのに手頃な大きさで、人肌くらいの温度があり、
ふさふさ毛が生えていて、できればアラドの匂いがすれば言うことはない……まあ
要するに、アラドの頭を抱きしめているのが一番いいのである。この癖はずいぶん
昔からあって、アラドは彼女の胸がまだ真っ平らだった頃、そこに頬をつけて眠った
記憶がある。その後、頬に押しつけられる感触こそ劇的に変化したものの、この癖
自体は今にいたるまで連綿と続いている。
(……まあ、しょうがねえよな。宇宙怪獣とかプロトデビルンとか、ここんところ色々あるし)
ゼオラが投降兵扱いで、名目上アラドが監視役だった前大戦時の名残で、二人の
部屋はラー・カイラム内でもすぐ近くに配置されている。ここ数年はさすがに
恥ずかしいのか、ゼオラも自制していた癖であるが、原種襲来時、二人が再会した
当初は、ほとんど毎晩のように枕を持ってアラドの部屋にやってきたものだ。
「んー……」
もそもそとゼオラの手が動いて、アラドの頭を抱きなおす。また窒息してはたまらない
ので、顔を動かして口元を逃がした。指先がアラドの髪をまさぐる。Tシャツごしに
豊かな胸が、ショートパンツごしにむっちりした太ももが、アラドの体にのしかかってくる。
人が見れば同衾としか思えない状態だが、あくまでゼオラが安眠するために、
昔からの習慣を実行しているだけだ。いわば民間療法のようなもので、そこに
性的な含意は、とりあえずは一切ない。ラー・カイラムの男性クルーがこぞって絶賛する
ゼオラの豊かな胸に、アラドがまったくセックスアピールを感じないのは、もしかすると
この習慣のせいかもしれない。
>>430 >>431 問題は最も教導隊らしい仕事をしているカイの担当モーションが
最もPTに不必要なモーションなことだなw
基本量産機の量産ヒュッケでパンチとかしたら逆にこちらが壊れそうだしw
440 :
安眠の方法:2006/11/17(金) 01:11:26 ID:E6tDmiJi
むぎゅー、とアラドの顔が、柔らかい谷間に挟まれる。抱きしめる力の強さは、
だいたい眠れない原因の大きさに比例する。窒息するくらい抱きしめられたのは、
ネリーの小屋で暮らしていた頃以来のことだ。
(不安なんだな……)
アラドとて、もちろん不安である。銀河の滅びの運命に逆らおうというのだ。恐怖を
覚えない者などいまい。昔から、逆境に弱いのはゼオラの方だった。順風の日には
ゼオラがアラドを、逆風の日にはアラドがゼオラを、それぞれ支えて今日まで生きてきた。
やり残したことはいくらでもある。まだまだ見たいもの、食べたいもの、会いたい人、
行きたい場所があり、そのすべてを一緒に体験したい人がいる。
アラドはそっと身をよじり、胸の谷間から抜け出した。とたんに不安げに寝息が
乱れはじめるゼオラを起こさないように注意深く、上方へ体をずり上げていく。同時に
ゼオラの肩に手を添えて、そろそろと下へ押し下げる。ゼオラの胸のところにアラドの
顔があったのが、じきに位置が逆転して、アラドの胸にゼオラの顔が当たる形になった。
さらさらの銀色の髪に手を添えて、ゼオラの頭をぎゅっと胸元に押しつける。昔よりは
ずいぶんたくましくなったつもりだが、ゼオラの頭を支えるにはまだちょっと心許ない、
自分の胸板。緊張して息をつめていると、やがて、
「……あらどー………♪」
心底安心しきった声が、腕の中から聞こえてきた。嬉しくなって、腕に力を込める。
くふ、と、満腹した猫のような声をもらして、ゼオラが額をすりつけてきた。さらさらの
髪を胸元に感じながら、アラドもゆっくり目を閉じる。腕の中に、確かな幸せの感触を
抱きしめて。
翌朝、先に目を覚まして真っ赤になったゼオラにアラドは想いきりひっぱたかれることに
なる。ゼオラの安眠の方法が少し変わるのは、まだちょっと先の話である。
End