1 :
名無しさん、君に決めた!:
◆小説執筆時のポイントなどのまとめにどうぞ
・ちょっと試しに書いてみたい人へ
初心者なら硬くならずにお遊び気分でやったほうがスムーズにかけると思う。
これを「テキトーにやってりゃいいっしょ」と解釈してしまう人は論外。
キャラへの感情移入などができれば質が上がる。
新しく書き始める前に、作品のラストはどうしたいか、途中でどんなイベントを入れるか考える。
小説は書けないときに無理して書く必要はない。調子が悪いときなどに無理して書いても良い作品にはならない。
書いた小説は一度に全部公開しないで、少しずつ投下したほうがいい。
週1でも良いので投下ペースを固定。推敲をしっかりと行う。
長編小説が全てではない。短編小説もある。話が短い分、より内容を濃いものに出来るからだ。初心者の方はこちらをオススメする。
3 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/06(木) 23:00:45 ID:Hi6uAJpS0
知っておきたい2ちゃんねる・ポケモン板の設定
1レス辺りの最大改行数:32(行)
1レス辺りの最大文字数:半角2048字(全角の場合半分→1024字)
小説を投稿(投下)する上で忘れてはならないポケモン板の制限。
以上の制限にかからないためにも、1レス辺り20行前後、多くても25行程度に抑えておきたい。
1回の投下では、最低でも4レス分はまとめて投下したい。
また、連投制限もあるので(40秒に1レス)これにも注意して投下する事。
その他のポイントは下記のwikiを。
http://www21.atwiki.jp/nobita_in_pokemon/pages/379.html
BWが発売されてからいらんスレが増えたんと思う
5 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/06(木) 23:03:43 ID:Hi6uAJpS0
過去に投下された短編
「リザードンに炎エネルギーをつけて炎のうずでスネオのカメックスに100ダメージだ。」
「そ、そんな…あべしっ。」
「最後のサイドカードをとって僕の勝ちだぁ!」
「そんな…のび太に負けるなんて…」
のび太はスネオに勝利した。
「じゃあこのパソコン通信はもらっていくよ。」
「ああ…パパに買ってもらったレアカードが…」
のび太達の中では今ポケモンカードが大ブーム!今日もみんなで遊んでいた。その中でものび太の実力はトップクラス!今日もスネオからカードをまきあげていた。
「僕を唸らせる奴はいないのか?」
「私がやるわ」
「しずかちゃんが…?僕に勝てるわけないだろ。」
「うるさいわね。とりあえずやるわよ。」
カードをセットしデュエルは始まった。
「私のターン、ドロー。ゼニガメを出して水エネルギーをつけてのび太さんのワンリキーに攻撃。あわ!コインは………表!マヒよ! フハハハハ、ずっと俺の…ターン!!!」
「うわぁああああああ。」
そのあとのしずかのずっと俺のターンが続きのび太は敗れた。
「あんちくしょう!しずかちゃんごときに負けるとは…鬱憤ばらしだ!出木杉勝負!」
「え〜…まぁいいよ。」
ドン☆ デュエルスタンバイ
「のびた君、僕の先攻だ!まず僕はフシギダネを召喚。フシギダネに草エネルギーをつけて、ベンチにタマタマを召喚ターンエンド」
「僕のターンドロー!トレーナーカード、まさきを発動!ドン☆ カードを2枚ドローする。さらにビードルを召喚!草エネルギーをつけてフシギダネにバトルフェイズ!どくばり。コインは…裏…運がよかったな…。とりあえず10ダメージだ!」
「危なかったー…僕のターンドロー。僕はトレーナーカード、ポケモン育てやさんを発動!フシギダネワアアアアアープ進化あああ!!!フシギバナ!」
「草エネルギーをつけてターンエンドだ!」
(出木杉の奴もう進化しやがった…だけどエネルギーがたまってない、あと2ターンは大丈夫だ!)
「僕のターンドロー、ベンチにミニリュウを召喚。草エネルギーをミニリュウにつけて、ビードルのどくばりでフシギバナを攻撃!コインは裏。ターンエンド」
(やばいな…のび太君に着実にダメージを与えられている…なんとかしないと…)
「僕のターンドロー。まさきを発動。ベンチのタマタマをナッシーに進化、さらに草エネルギーをフシギバナにつけてターンエンド。」
「僕のターンドロー。ビードルのどくばり…コインは表!しゃああああ。どうだ出木杉!ターンエンドだ。」
ポケモンチェックフシギバナは毒で10ダメージ。
「僕のターンドロー。フシギバナに草エネルギーをつけてビードルにソーラアアアビイイイムウウ!!!!!」
「ぐひゃあやられたあ。」
出木杉はサイドカードを一枚引いた。
「く、僕のターンドロー。トレーナーカード、イマクニを発動。僕のミニリュウは混乱。フシギバナに攻撃!…コインは…裏…くそっ!」
ミニリュウは20ダメージをうけた。
「ターンエンド!」
「僕のターンドロー。これで止めだ!フシギバナソーラービーム!」
ドン☆
「ぐひゃああああ。」
「君のベンチにポケモンはない、よって僕の勝ちだ!」
「ひでぶうぅ!」
のび太は戦いに敗れた。
8 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/06(木) 23:06:30 ID:Hi6uAJpS0
「今日は帰るよ^^明日覚えててね。」
そう言いのび太は空き地を後にした。
「まぁいいや。ジャイアンデュエルしようよ。
「いっちょやるか。勝負だスネオ!」
カードをセットしてデュエルスタート。
「先攻は貰うよジャイアン^^カードを引いて、僕は最初にセットしたコラッタに無色二個エネルギーをつけて、ベンチにもう一匹コラッタを召喚。ワンリキーに攻撃」
ワンリキーは20ダメージ。
「ターンエンド^^」
「俺のターンドロー!ワンリキーに闘エネルギーをつけて攻撃!」
弱点で20×2のダメージ!
「コラッタを撃破だ!」
「サイドカードを一枚引いてターンエンド!」
「僕のターンコラッタをラッタに進化させ炎エネルギーをつけてワンリキーに攻撃!ターンエンド^^」
「俺のターン…スネオ残念だったな、俺の勝ちだ!」
「何!?」
「俺のターンワンリキーにプラスパワーを付け、更にもう一枚プラスパワーを発動!ラッタに攻撃!60ダメージだあああ!」
ド ン ☆
「うひゃあ」
「俺の勝ちだ。」
ミ:::....:::彡彡ミミ...
ミミ::::::::::::::::::::::::::::::::::彡
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ヾ:::::/""" """;:::::::::::::::::巛
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|:| ゝ,:::::::::::::ミ
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}<ひゝ <ひ> i::/ゝ 〉/
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ヽ -=ニ=- 、 |
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i ! ! ! ! / | ! |
10 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/06(木) 23:07:30 ID:Hi6uAJpS0
今日の最強カードはこれ!
【イマクニ】
【自分のポケモンを混乱状態にする】
自分のポケモンを混乱させるという、明らかな壊れカード!みんなも使い過ぎて嫌われないようにな!
明日も見てね!
12 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/06(木) 23:14:19 ID:Hi6uAJpS0
新規参入のためにと思い勝手にポケモン板にスレ建てしました
今更こっちにたててもどうしようもない気が
14 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 00:50:42 ID:LUfw1tCN0
あげ
あげんなカス
17 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 12:25:25 ID:urOpnV730
\_____ ___________________________/
∨
___ _
/ ____ヽ /  ̄  ̄ \
| | /, −、, -、l /、 ヽ きみ頭だいじょうぶ?
| _| -|○ | ○|| |・ |―-、 |
, ―-、 (6 _ー っ-´、} q -´ 二 ヽ |
| -⊂) \ ヽ_  ̄ ̄ノノ ノ_ ー | |
| ̄ ̄|/ (_ ∪ ̄ / 、 \ \. ̄` | /
ヽ ` ,.|  ̄ | | O===== |
`− ´ | | _| / |
18 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 14:15:13 ID:LUfw1tCN0
誰も投下しないの?
ドラポケを外部に紹介するとしたらどれが一番良いかな
軽い気持ちで読めて面白さが分かりやすい奴がいいと思うんだけど
20 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 14:52:47 ID:LUfw1tCN0
実績から言って初代
もうあの頃の連中はポケモン板自体見てないと思う
22 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 18:12:58 ID:LUfw1tCN0
hoshu
23 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 18:15:31 ID:LUfw1tCN0
保守
ドラえもんのAAで話すスレかと思ったのに…
そもそも今のポケモン板じゃ勝手の分からないか糞コテ奴に荒らされて終了だろ
どっか別のとこでやるのが賢明 新規加入とか考えないほうがいい 削除依頼出しとけ
文才があれば書いてみたいテーマではあるが
27 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/07(金) 23:45:09 ID:LUfw1tCN0
あげ
まぁ今はここより広場でやったほうがいいな
ウィキ見てきたけど、作品(?)が多すぎて何を読んでいいのか分からん。
第一本スレ(?)がこの状態じゃ読む気にならない。
30 :
KHP222226250002.ppp-bb.dion.ne.jp:2011/01/07(金) 23:58:18 ID:kAXYartP0
第一なんでポケモンカードになってんだよ
のび太がしずかちゃんを賭けてチャンピオンの出来杉と戦う話しか考えつかない
32 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/08(土) 00:04:50 ID:qzBz99lp0
ヌオー+ポケット=ドラえもん
>>31 じゃあとりあえず一番上のドラーモンって奴を読んでみる
官能小説だけど面白かったw
35 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/08(土) 14:23:08 ID:7T9KxhyR0
あげ
36 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/09(日) 13:06:12 ID:CBbh3lN00
投下します
規制?
釣り?
39 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/11(火) 18:25:33 ID:AOob9+d10
保守
うんこ
俺は
>>36じゃないが、SS投下するとしたら、このスレにしたほうがいいの?
是非とも
じゃあ推敲が終わったら投下する。
言っとくけどまともな文章なんて書いたことないからな!
44 :
41:2011/01/11(火) 22:54:40 ID:???0
投下します。
「バーチャル体感機。これがあれば、好きなゲームの世界を体感することが出来るんだ。あくまで体感だけど、結構リアルに感じるもんだよ」
ドラえもんがそういい終わる頃には、すでにのび太は泣き止んでいた。
「これを使ってポケモン赤の世界に行ってみるかい?」
「うん、行く行く!」
ドラえもんは機械に「2」と入力し、自分とのび太の首筋にプラグを差し込んだ。
「痛い!」のび太が叫ぶ。
「最初だけだよ。ほら、すぐに気持ちよくなるから」
「あ、本当に……」
二人は、目の前がまっしろになった。
45 :
41:2011/01/11(火) 22:55:38 ID:???0
「……ここは?」
首にプラグがないことを確認しながら、のび太が言った。
「分からないよ。ぼくはこのゲームをやったことがないんだから」
「うーん、最初の町の名前ってなんだっけ?」
間抜けな顔で考えるのび太。
「この際、名前なんてどうでもいいよ。これからどうすればいいんだい?」
淡白なドラえもんの問いに、ようやくのび太は答える。
「あ、そうだ。ポケモンを貰うんだよ! オーキド博士の研究所で」
46 :
41:2011/01/11(火) 22:56:39 ID:???0
「いないね、博士」
研究所はもぬけのからだった。
「うん。でも、ボールはあるよ。貰っていこうか」
「ドラえもん、それはさすがに……」
「のび太君、これは現実じゃないんだ。この世界の人に感情はないんだよ。あるように見えてもね」
ドラえもんは面倒くさそうに言った。
「でも、それを言ったら現実の人にだって感情があるのかなんて分からないよ。それに何が現実かなんて、神でもない限り分からないさ」
のび太が話し終えるのを待たずに、ドラえもんはボールを手に取った。
「入ってるポケモンは……ヒトカゲ。見たところ炎タイプかな、のび太君」
のび太もしぶしぶボールを手に取る。
「ぼくはゲームでもフシギダネだったなあ」
のび太は、ボールから出したそばから擦り寄ってくる、草タイプのポケモンを見つめて言った。
47 :
41:2011/01/11(火) 22:57:43 ID:???0
草むらから出てくるポケモンを蹴散らしながら、二人は徐々にこの世界になれていった。
「あ、次の町についたみたいだね」と、ドラえもん。
二人はトキワシティにたどり着いた。
「確か、どこかの森を抜けるまで戦えるジムはなかったと思うよ」
「それなら、この町にいる必要はないね。さっさと抜けよう」
さっさとゲームをやめたいドラえもんと、ゆっくり楽しみたいのび太。 二人の意見が一致することは普段からそう多くなかったが、いつもどちらかがすぐに折れるので、深刻なけんかに発展することは少ない。
今回もその例に漏れず、のび太は無言でドラえもんの後を追った。
48 :
41:2011/01/11(火) 22:58:27 ID:???0
二人はポケモンセンターにもフレンドリィショップにも寄らずに、町を出ようとした。
しかし、この町の出口への道は泥酔した老人により塞がれていて、既プレイののび太も、序盤のイベントはほどんど失念していた。
「なんだてめぇらぁ、誰の許可を得てここを通るか!?」
のび太は助けを求めるようにドラえもんを見たが、ドラえもんもどうすべきか決めかねていた。
「黙ってんじゃねえぞ小僧ども! ここを通りたけりゃあなあ、八百屋の野菜をもってこい。でっかくて、新鮮な奴だぞ!」
「うーん、分かりました。持ってきます」
ドラえもんの言葉に、のび太は驚いて言った。
「持ってくるって言っても、この世界に食べ物はないよ」
「元の世界から持ってくればいい」
「あ、そうか! でも、八百屋ってことは……」
49 :
41:2011/01/11(火) 23:01:11 ID:???0
現在の状況
のび太 フシギダネ Lv7
ドラえもん ヒトカゲ Lv8
これで終わりです。
初代氏、ドラーモン大長編氏、ジャイアン氏、ポケモンとのび太とノート氏のSSを読んだので、影響を受けてるかもしれません。
50 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/11(火) 23:08:25 ID:tk1PdLhPP
>>49 トリップつけたほうが良い。
つけ方は#の後に任意の文字列
台詞で状況を伝えるあたりが初代っぽいな。乙
乙。現実とゲーム世界をちょこちょこ行き来するとしたらかなり新鮮でいいと思う
54 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:28:01 ID:LHrDHmAu0
昨日の今日ですが、投下します
55 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:29:20 ID:LHrDHmAu0
「マサラタウンを経由しないと元の世界には戻れないんだ」
現実への帰路、ドラえもんが説明した。
「じゃあ、現実世界に戻れなくなるってこともあるの?」
「外の機械から操作すれば強制的に意識を戻すことは出来るよ。この世界で死んでも強制的に戻されるだけだし。ただ、トランスしているときにプラグが抜けたりすると……。
しっかり刺さってるからそうそう抜けることはないけどね。まあ、プラグなしでも制限つきでトランスすることは出来るから、外からのアプローチがあれば戻ってくることはできるよ」
「ふうん」
現実世界に戻り、のび太は首筋のプラグを引っ張ってみた。
確かに自然に抜けることはないだろうが、少し力を入れて引けば子供力でも十分に抜けるだろう。のび太の心に不安の種がまかれた。
56 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:31:33 ID:LHrDHmAu0
二人はジャイアンの家に向かった。
途中、しずかちゃんと出木杉が仲よさそうに話しながら歩くのを見た。出木杉と目が合ったが、のび太は声をかけなかった。
「ジャイアン、大根くれ。ただでくれ」
ドラえもんからの唐突な要求にジャイアンは面食らっていたが、少し考えてから大根を差し出した。
「おう。いいぜ」
のび太にはこのやり取りが理解できなかったが、ドラえもんは一言礼を言って家に向かって歩いていった。
「あのジャイアンが、あんな理不尽な要求をすんなりと受け入れるなんて、どういうこと?」
のび太が聞くと、ドラえもんは笑って
「今に分かるよ」
と言った。
57 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:33:08 ID:LHrDHmAu0
トキワシティに着き、ドラえもんは無言で酔っ払いに大根を差し出した。
「あぁん? なんだぁそれぁ? ……大根か」
酔いどれ老人は急にはっきりした声で言った。
「よかろう、ここを通そう。いや、餞別として、ポケモンの捕まえ方を教えてやろう」
老人はそういうとバックから折りたたみ式ナイフを取り出し、近くの木に止まっていたオニスズメに投げつけた。
「ポケモンと言うのは、こうやって捕まえるんじゃ!」
折りたたみ式ナイフが直撃し、ひるんだオニスズメに対し、老人は高速で木を登り、オニスズメを捕獲した。
必死に抵抗するオニスズメに、老人が今度は折りたたみ式ナイフの刃を出すと、とたんに大人しくなった。
「ポケモンにも恐怖心はあるんじゃな。ほれ、このオニスズメはお前にやろう」
老人はドラえもんにオニスズメを差し出した。
「どうなってるんだ……?」
のび太のつぶやきは、後ろからの怒声によりかき消された。
「俺も混ぜろ!」
58 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:34:31 ID:LHrDHmAu0
「ジャイアン!? どうしてここに?」
のび太は驚くが、ドラえもんはいたって冷静だった。
「僕らの後をつけてきたんだろう。大根を大人しく渡したのも、僕らの行動の裏にある『何か』を探るためだったんだと思うよ」
「その通りさ! さあ、そのオニスズメを俺によこせ。大根の代金だ」
笑いながらジャイアンが言った。
「ど、どうしよう? ドラえもん」
「素直に渡すよ。これも計算のうちさ」
ドラえもんはオニスズメをジャイアンに手渡した。
「ボールはないのか……まあいい。すっかり怯えてやがるぜ」
「もちろん、一緒に旅をするんだよね、ジャイアン」ドラえもんがたずねる。
「おうよ。その方が効率も良いしな」
のび太は、ドラえもんとジャイアンの要領を得た会話についていけずにいた。
59 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:40:01 ID:LHrDHmAu0
一行はトキワの森に到着した。
「ここは虫ポケモンが多いから、ドラえもんとジャイアンはかなり有利だね」
のび太は相性の上での優位性についても取り残されていた。
ドラえもんとジャイアンが楽々、虫取り少年や野生のポケモンたちを倒す中、のび太も遅れまいと必死であった。
しかし、その必死さが災いして、気づけばのび太は一人ぼっちになっていた。
もともと勇敢でない彼は、じっと待機することも出来ず、野生のポケモンたちをなぎ倒していくことも出来ず、にっちもさっちもいかない状況に立たされていた。
彼が立ち往生していたその間、ドラえもんとジャイアンは彼とはぐれたことに気づかず、先へ先へと進んでいた。
60 :
41 ◆m3DNSoFAFg :2011/01/12(水) 17:45:27 ID:LHrDHmAu0
現在の状況
のび太 フシギダネ Lv11
ドラえもん ヒトカゲ Lv15
ジャイアン オニスズメ Lv14
終わりです。
>>53 そのつもりです。
連投乙!
高速で木を登る老人がカオスw
62 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/12(水) 20:58:20 ID:joqxmRNTQ
乙、ジャイアンやたら賢くなったなwwてか老人こええww
保守
ほしゅ
支援投下します
灼熱の太陽が大地を照りつけ、水分は水蒸気と変わり、宙へ舞う。
扇風機による送風が窓に吊り下げられた風鈴を揺らし、涼しげな音色を響かせる。
日本は夏真っ盛り。
東京都練馬区、○×小学校の生徒達もまた、嬉しい夏休みを迎えていた。
夏休みだからといってハメを外さず、受験生のように勉強に没頭する優等生も居れば、宿題にも手をつけず、遊び呆けている者も居る。
野比のび太は後者の部類であった。
学校から与えられた問題集などランドセルから一秒も出しておらず、文房具の詰まった筆箱もまた同じ。
宿題のしの字も頭に無い。夏の風物詩とも言える彼の姿だった。
「あ〜…… 暑いなぁ〜……」
全開に開かれた窓の下で、のび太は座布団を枕替わりにして寝そべっている。
宿題に手をつけなければ、何かをして遊んでいるわけでもない。
夏の暑さにやられた彼は、こうしてだらしなく無駄な時間を過ごすだけだった。
「みんな自分達だけで遊びに行くなんてズルいよなぁ……
スネ夫とジャイアンはスネ夫の従兄と一緒にハワイなんかに行って、静香ちゃんは京都へ家族旅行……」
座布団を顔面に押し当て、無人の部屋の中でぐちぐちと独り言を喋り出す。
「あ〜あ〜、ドラえもんは健康診断で未来に帰っちゃったし、パパとママはいつもとおんなじ……
僕も行きたいなぁ、どこか旅行に……」
なんて僕は不幸な家庭に生まれてきてしまったんだ、と言いたくなる。
せっかくの夏休みだというのに普段と何も変わり映えない毎日に、のび太は嫌気がさしていた。
何気なく座布団の側に置いてあったゲーム機、ニンテンドーDSを手に取り、彼は寝返りを打ちながらその電源を入れる。
既にゲームソフトは入っていた。
彼らの世代で大流行中のそれは「ポケットモンスター・ハートゴールド」。
一ヶ月ほど前に発売されたこのゲームソフトは、以前から「ポケットモンスターシリーズ」に親しんできたのび太にとっても満足の行く内容であり、彼自身は寧ろ最高の評価をしていた。
二十時間近くのプレイ時間を経て、昨日ようやくラストボスのドラゴン使いを倒したところだ。
殿堂入りの喜びを噛みしめ、達成感溢れるエンディングのBGMに涙を流し、そして今、最初の町ワカバタウンへ帰ってきた。
そこで、のび太はさらなる衝撃を受ける。
ゲームはまだ、終わっていなかったのだ。
ジョウト地方をクリアしても、まだカントー地方へ行ける。
あのイカしたマント野郎はラスボスではなく、これからもまた新たな戦いが彼を待っていたのだった。
……冒険は長ければ長いほどやりがいがあり、楽しみが多いものだ。
何度挫折を繰り返しても楽しんでゲームをプレイ出来る自分は、もしかしたら所謂マゾという性癖を持っているのかもと少しばかり畏怖してしまう。
「よおし! やっとマチスを倒したぞ!」
本日ハートゴールドをプレイし始めてから三時間後、ゲーム機を片手に豪快なガッツポーズを決める少年のび太。
因みに、同じ時期にこのゲームソフトを購入した彼の友人達は既にカントー地方をクリアし終え、既に個体値厳選や努力値調整などといったやり込み要素に励んでいる最中だった。
きっとスネ夫とジャイアン達もホテルの中で通信対戦とかしてたりするんだろうなぁと、我が友の姿が脳裏に浮かぶ。
非常にどうでも良く、苛立たしいことであった。
「あ〜っ! もうやめやめっ! こうなったら僕一人で旅行に行ってやる!」
ゲームの中の自分がレポートを書いた後、現実の彼がゲーム機を閉じる。
すると、跳び跳ねるように畳から起き上がり、閉まりきった押し入れへ向かって歩いていく。
この押し入れはただの押し入れではない。
ドラえもんという名の親友の寝室である。
のび太は入り口を開くと、ベッドとなっているその二段目の奥へと右手を伸ばす。
そして彼は枕元にて白い何かを掴み取り、勢い良く目の前に引き戻した。
やっぱり、残してあった。
ドラえもんのうっかりやさんめ……
「スペアポケット〜!」
今に見てろ、スネ夫にジャイアン、静香ちゃんについでに出木杉よ。
お金が無くても僕にはこれがある。
これがあれば、君達が出来ない凄い旅行が出来ちゃうんだからね!
意気揚々とポケットに手を突っ込み、目当ての品を探る。
今の彼は止められない、止まらない。
不思議なポッケがあればどんなことだって出来ることを、彼は証明したかった。
「はい、もしもボックス〜」
「もしも」の一言が現実となる、禁断の最終兵器にして最強の秘密道具を、のび太は惜しみなく部屋の中で取り出した。
これさえあれば、どんな願いでも叶えてくれる。
早速電話ボックスの中へ入り、彼は受話器を手に取った。
「もしも僕がポケモンの世界へ行けたら」
ハワイや京都など、所詮は現実止まりだ。
子供達の誰もが憧れるポケモンの世界をこの身で旅行するなど、一生の自慢話になるだろう。
彼が受話器に向かってはっきりと「もしも」を言い放ったその時である。
普通ならこの時点で道具の起動は完了する筈なのだが、しかしある異変が起きた。
《システムエラー、システムエラー!》
「えっ……?」
《モシモボックス、オーバーロード。レイキャクノタメ、キョウセイテイシシマス》
耳に当てた受話器の向こうから、機械音声によって告げられる。
次の瞬間、電話ボックスは赤く染め上がり、各所から白い湯気を吹き上げた。
外装に触れれば火傷では済まされないだろう。
身の危険を感じたのび太は急いでボックスの中から飛び出していった。
「ど、どうしたの!?」
もしもボックスが機能障害をもたらした。
それは今まで起こり得なかったことである為、彼が慌てるのも無理は無い。
冷却が完了し、オーバーロードが終了した後でも、もしもボックスが正常に働くことはなかった。
「くそっ! 役に立たないんだからもう!」
理屈はどうあれ上手く思惑通りにいかなかったことに怒れ、のび太は八つ当たりにも電話ボックスに対して思い切り蹴りを喰らわせる。
しかし、硬い金属を相手に生身の人間の蹴りでは、ほとんど蹴りを喰らわした方にしか被害が行かないことは、誰が考えても分かることだった。
激痛にのたうち回り、右足を抱えてうずくまる哀れな少年。
涙を目に滲ませ、天井というよりも天へ向かって彼は叫んだ。
「ドラえもぉぉぉぉぉーーーん!!」
どうして此処に居てくれないのか。哀れな僕を助けてくれよ。
今は現代に居ない青き友の名を叫ぶことで、ようやく自分の一日が始まった気がした。
この時、彼は気づかなかった。
もしもボックスが起動しなかったわけを。
この世界に起こっている異変を。
そして、この世界とは外れた闇の世界に眠っていた白銀の竜が、赤い眼を大きく開いたことを――。
全ては知りようのないことだった。
投下終了
次回は未定
72 :
名無しさん、君に決めた!:2011/01/23(日) 10:38:59 ID:D+spat1M0
おつ
ドラーモンの鬼畜出来杉が面白かったことは覚えてる
乙!もしもボックスって実際あったらマジ便利だよなぁ
おつ
ジャイアン達参加できねーのかな
保守あげ
期待あげ
投下します
夏休みという子供の休日を余すことなくゲームのプレイ時間として活用していく不健康的な少年は、その甲斐もあって遂にカントー地方のジムリーダー全てを打ち破り、最後のダンジョンである「シロガネ山」に向かっている最中だった。
そして彼はとうとう対面した。
ポケットモンスター・ハートゴールドのラスボス、ポケモントレーナーのレッドと。
「ふふふ…… どんな奴が相手でも、このレベル61のホウオウが居れば勝てる!」
カントー地方のジムリーダー相手に散々苦汁を味わされてきた彼だが、どういうわけか自信満々だった。
そしてラスボスに話し掛け、戦闘が開始する。
敵が繰り出したポケモンはピカチュウ。
名前の横にはLv89と表示されていた。
「なにこのレベル差……」
てきのピカチュウのボルテッカー。
ホウオウはたおれた。
「いやあああああああああああっっ!」
ラスボスとの戦闘は一瞬にして決着がついた。
結果はのび太のストレート負け。
これまで行ってきた数々の激闘が無に返ったような錯覚を催し、彼は錯乱し、DSを畳の上に叩きつけた。
「変な大声出さない! 近所迷惑でしょ!?」
「はーい……」
彼の動騒を一瞬にして沈黙させたのは、一階からの母の声だった。
なんか、一気にテンションが落ちた気がする。
あんな奴どうやって倒すんだ。
「はあ…… スネ夫達が帰ってきたら聞いてみよ……」
あのラスボスだけは自分だけの力ではどうにもなりそうもない。
自力での撃破を諦めた彼は、大人しくゲームをクリアしている友の帰宅を待つことに決めた。
すると、
「のびちゃーん、武さんから電話が来たわよ〜」
「本当っ!?」
「空き地で待ってますって〜」
まさにグッドタイミングである。
武さん、即ちジャイアンは既に帰国し、自宅へ戻っていたのだ。
彼が居るなら金魚の糞、もとい骨川スネ夫も居る筈。
どうせハワイ旅行の自慢話を聞かせてくるんだろうなと用件は察することが出来るが、ラスボスを倒す為だ。この際我慢しよう。
慌ただしく階段を駆け下りると、のび太は玄関まで走っていく。
その途中、茶の間で普段通りせんべいを食べながらテレビを眺めている母の姿を見掛けた。
《…目撃者の証言によりますと、ハチは全長50センチほどの大きさで、前足にヤリのような……》
「なあにそれ? アニメに出てくるキャラクターじゃあるまいし……」
「ママ!」
母が眺めているテレビの画面には「また新種生物発見!?」という大々的な見出しが映し出されている。
しかも発見された場所は都内の森林地帯であると、アナウンサーが説明していた。
いまいち刺激に欠ける世の中としては一際興味を引くニュースであるが、のび太の関心は向かなかった。
「空き地に行ってくるね!」
「気をつけて行きなさいよ。
あら、切れちゃった。停電かしら……?」
この時の母の関心はのび太よりもテレビにあったようだが、唐突な停電がそれを遮った。
クーラー以外にこれといった電子機器は使っていない筈なのにと不思議がる彼女を傍ら、のび太は踵を返し、玄関から外へ飛び出していった。
果たして気をつけて行きなさいとの母の言葉は彼の耳に入っていたのだろうか。
のび太は周りも見ずに標識を無視して全速力で走っている。
幸いにも車通りは少ないようだが、このままでは接触事故もあり得る。
そして、やはりそれは現実となった。
死角になっていた曲がり角から、不意に彼の前に人が現れたのだ。
「わ、わあああっ!?」
車は急に止まれない。
それは人間も同じことだ。
彼の中では最高の加速が付けられた今の状態で、急に足を止めることなど出来はしない。
最悪にも、彼は正面から衝突してしまった。
「痛たたた…… すみません……」
尻餅を付き、付いたその箇所を擦りながらのび太は謝る。
周りを見ないで走っていた自分が一方的に悪いと判断したからだ。
しかし、衝突によって尻餅を付いたのは自分だけであり、相手の方は何事も無かったかのように佇んでいた。
「ん?」
ぶつかった相手の姿を足元から見上げていくと、思ったより大きな背ではないことが分かる。
寧ろ自分より随分と小さい。
140cm程度の身長だ。肩まで掛かる長さの黒髪と透き通った金色の大きな眼を持ち、涼しげな印象を受ける白を基調とした服を身に纏っている。
その細い首からは、金色の球体状のペンダントが、胸元の辺りまで掛けられていた。
着衣と同じ色の帽子を深々と被り、日差しから身を守っているのはのび太と同級生か、それ以下の年端の少女だった。
「…あっ、ご、ゴメン……」
彼女の顔まで見上げたところで、尻餅を付いたままの体制でもう一度頭を下げる。
気のせいか、顔面が熱い。
彼女の容姿に思わず見とれてしまっていたのだ。
「……何よ? いきなりぶつかってきて何か用でもあるの?」
「い、いえ、別にそんなことは……」
当前ではあるが、少女の機嫌は非常に悪そうに見えた。
なんということだ。
よりによってなんでこんな可愛い子にぶつかってしまったんだ!
かくなる上は、このプライド全てを投げ捨てるしかない。
のび太は一旦立ち上がるともう一度身を屈め、頭を限界地点まで下げた。
日本特有の文化、土下座である。
周囲には彼女の他に人が居ないからこそ出来る芸当だ。
「……何それ?」
だが、肝心の少女には彼の熱意は伝わらなかったようだ。
町中で突然地に頭を付けて謝罪してきた彼のことを気味悪く受け取ったように見える。
「許して下さい許して下さい許して下さい……」
「分かったからそこ退きなさいよ。邪魔」
「はい……」
幼い容姿に似合わずきつい口調で彼をあしらい、彼が道を開けると同時に少女はその場所から立ち去ってしまった。
遠ざかっていく後ろ姿を眺め、のび太は落胆した調子で呟く。
「なんて馬鹿やったんだ僕は……」
あれほど自分に可愛いと感じさせる少女とは、そう簡単に出会えるものではない。
源静香という本命が居る彼は、勿論あの一瞬の間で名も知らぬ少女に一目惚れしたわけではないが、初対面にして嫌われてしまったということに良い思いが出来る筈はなかった。
可愛い子には好かれたい。
単純な思考回路を持つ彼にとって、理由はそれだけで十分だった。
故に今は落ち込んでいる。
先ほどまでの元気はどこへやら、肩を落とし、のび太はトボトボとした足取りで待ち合わせ場所へ向かった。
「遅いじゃねぇかよのび太ー!」
「どうせ走っている途中に誰かとぶつかってたんだろ」
待ち合わせ場所である空き地に到着すると、既に二人の先客がそこに居た。
土管の上に腰掛けている大柄な少年は剛田武、愛称ジャイアン。
その下で鋭くものび太の到着が遅れた理由を言い当ててみせたのが、彼の腰巾着こと骨川スネ夫だ。
「ごめん、ちょっとスネ夫の言う通りだったんだ……」
「本当かよ」
先の少女との接触を引き摺っているのか、のび太の口調は低く暗い。
彼としてはどうにかして話題を変えたかった。
「そういえば、どうしていきなり呼び出したの?」
もしかしてハワイ旅行のお土産を買ってきてくれたのかと淡い期待を抱く。
しかし、次にスネ夫が放った一言によってその期待は呆気なく粉砕された。
「宿題に夏の自由研究があっただろ?」
「あ……」
ナツノジユウケンキュウ……
そういえば、そんな宿題も出されていた気がする。
彼に言われるまで決して思い出すことはなかっただろう。
のび太と同じ宿題忘れの常習犯が続く。
「それを俺達三人で共同してやろうってんだ」
「別に良いけど…… 何するのさ?」
「ははっ、良い質問だ! さ、スネ夫」
ジャイアンにパスを出され、スネ夫が分かりやすく説明した。
彼の話によると、どうやら彼らが行おうとしている自由研究のテーマは、近頃都内で発見されている新種生物についてのことらしい。
丁度家を出る時にその件のニュースを見てきたところなので、のび太の理解は早かった。
「……それで、どうやって調べるの?」
「直接会って捕まえるんだよ、俺達三人でな!」
「学校にそいつらの標本でも持っていけば僕らは表彰は勿論、全国でも有名人だ。どう? やらない?」
「答えは聞いてねぇ! やるぞのび太!」
有名人というフレーズに良い響きを感じたのか、ジャイアンはやる気満々である。
のび太もどうせやらなければならないのなら、一人より三人で行った方が楽だと考え、スネ夫の提案に潔く同調した。
協力しなければゲームの攻略法も教えてくれないだろうしね。
三人はこうしてあてもない新種生物探しの旅に出掛けたのだった。
三人が真っ先に赴いたのはこの練馬区で最も馴染みある自然地帯、「学校の裏山」であった。
裏山へ到着すると目標をより効率良く探す為、彼らはそれぞれ三つの手に別れて歩くことに決めた。
のび太は二人と別れ、単独行動をしながら辺りを見回す。
裏山は勿論、これまでに新種生物の目撃情報があったわけではない。
しかし、その広さと草木の豊かさは動物の住まう環境として優れている為、一概に新種生物なんて居る筈がないとも言い切れなかった。
しばらく歩き続けていると、のび太は不意に「そいつ」と遭遇した。
「そいつ」は新種生物ではないのだが、彼にとってこの遭遇は新種生物とのそれと同じぐらいの衝撃があった。
「で、出木杉君、静香ちゃん!?」
そいつ…… いや、正確にはそいつらか。
彼が想いを寄せる少女と、その恋敵との遭遇だった。
「あら、のび太さん。こんにちは」
「やあ、君も自由研究しに来たのかい?」
彼の心情も知らず、彼に気づいた一人の少年と少女が振り向き様に挨拶をする。
二人はその手に数枚のレポート用紙の束を持っていた。
「な、なんで二人が一緒にここに?」
「出木杉さんが自由研究に誘ってくれたのよ。裏山の自然観察を一緒にやりましょうって」
「僕達の近くにもこんな素晴らしい自然があるってことを、彼女にも見せてあげたかったんだ」
共同の自由研究を行う者は、自分達だけではなかったということだ。
見れば少女の機嫌は良好で、その隣に立つ少年がのび太に向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
(静香ちゃん、帰ってたのか……
くそっ、出木杉め、アイツだけ知ってたのか……!)
彼は自由研究を共同して行うという面目で、静香との親睦を深めようとしているのだ。そうに違いない。
彼女が家族旅行から帰宅する日まで知っていたとは流石、校内一の優等生だ。
手を回すのが早い。
(ふっ、君がのんびり遊んでいる間に、こうして先手を打たせてもらったのさ)
心の中だけで目の前に居る眼鏡の少年を嘲笑い、天才は優越感に浸る。
彼の源静香に対する気持ちを知っているからこそ、その優越感は大きなものとなった。
別に出木杉は、彼に嫌がらせをしているわけではない。
ただ愛する人から好かれる為の行動を取っているだけだ。
人には言えないが実はこの連休中、彼はどうすれば源静香を喜ばせることが出来るのかを、明くる日も考え続けていた。
いかがわしいゲームをプレイすることで、その手の知識や技術にも磨きを掛けてきたつもりだ。
(ギャルゲーで得た全ての技術を使って、僕は彼女を攻略する!
さあ、君は大人しく家に帰ってポケモンでもやっていれば良い。その間に僕はポイントを荒稼ぎだ!)
出木杉英才はその名の通り出来すぎており、既に勉強も運動能力ものび太とは天と地ほどの差がある少年だ。
その上、彼は新たな世界へと足を踏み入れてしまったのである。
最早死角は無い。
彼はあらゆる分野で出来すぎた男となったのだ。
「ぼ、僕も一緒にやって良い?」
「私は良いけど…… 出木杉さんにも聞いて」
「むっ? 勿論構わないさ」
彼に対抗する気か、のび太はジャイアン達が居ながらも彼女との共同研究を選ぶ。
この時出木杉が小さく舌打ちしたことを、二人は見逃していた。
それから山の散策に回る三人だが、やはり飛び入り参加ののび太では出木杉と静香の話に着いていけず、一人取り残されるような形となってしまった。
これでは惨めなだけである。
(あ〜あ〜…… 植物なんか見てたって何が面白いんだろう? しかも暑いし疲れる……)
と情けない台詞を心の中で吐くのび太だが、共に研究すると言い出したのは他でもない自分自身なので、それを口に出すわけにはいかない。
もっとも、出木杉にはそんな彼の思考を完全に見抜かれていたようだ。
(ふふっ、甘いねのび太君。力の違いを見せつけてあげるよ)
恋敵と意中の彼女が同じ場所に居るこの状況こそ、意中の彼女に自分をアピールする絶好の機会である。
三人が歩き進んでいくと、木陰に置かれた深緑色の物体を見つけた。
ハエの集るような悪臭を放つそれは、明らかに植物の類いではない。
(あんなところにゴミ袋が……)
家庭から出されたゴミが、不当にそこへ捨てられていたのだ。
隣で不快そうな顔をする静香を見て、出木杉はこの状況を利用出来るものと判断する。
「山にゴミを出すなんて何を考えているんだ。片付けなくちゃ……」
「出木杉さん、立派ね」
「いやあ、当前のことだよ」
良心的な男をアピールする良い機会だ。
自分の手が汚れるのは気に入らないが、この際我慢する。
出木杉は彼女の心を掴む為、ゴミ袋の側へ歩み寄った。
その時、
「僕も一緒に運ぶよ!」
「のび太君……」
彼の狙いを見透かしているのか、それともただ良心の為に動いているだけなのか、おそらく後者であろう。
のび太も彼を手伝うと言い、ゴミ袋の端を掴む。
余計なことを…… とは言えないので、やむを得ず出木杉はそれを許可した。
「にしても臭いなぁ」
「山の自然を何だと思ってるんだ…… 悪い大人も居るんだね」
本心でも出木杉は山にゴミを出す輩を煙たがっている。
嘘ではなく、この物体が此処にある状況を良心的に許せなかった。
悪態をつきながら袋を持ち上げようとした次の瞬間、重い衝撃が二人を襲った。
「―ッ!?」
「うわっ!」
二人の少年が袋から突き飛ばされ、尻餅をつく。
ゴミ袋が独りでに動き出し、強い力で彼らの身へ体当たりしたのだ。
突然起こった現象に思考が揺らぎ、出木杉は困惑する。
(な、何が起こったんだ?)
ゴミ袋が独りでに動いた?
そんな怪奇現象が現実にあるものか。
何かの間違いだと彼は頭を左右に振り、意識の覚醒を促す。
しかし、突き飛ばされたのは彼だけではない。
野比のび太という証人が居た。
「二人とも大丈夫?」
立ち上がる二人の元に源静香が駆け寄ると、彼らは揃って大丈夫だと返す。
しかし、出木杉同様にのび太も先の出来事に疑念を抱いていた。
「ね、ねえ…… あのゴミ袋、動いたよね?」
「君にもそう見えたのか……」
青ざめた顔で尋ねるのび太に対し、出木杉は冷静だった。
無機物であるゴミ袋が独りでに動くことなど非科学的である以前にあり得ないことだ。
しかし、もしあれが無機物でないのだとしたら。
「もしかしてあれ生き物なんじゃ……」
のび太は出木杉の疑念の核心を突く。
あれが近頃町の周辺で続々と発見されている新種生物の一種だとしたら、という可能性は無くもない。
だが出木杉は否定する。
「あの中に動物か何かが入っているんだよ」
「あっ、そうか。流石出木杉君」
あの深緑色の袋の中に、生き物が入っている。
大きさから察するに、タヌキか何かが。
そう決めつけることによって、出木杉の胸の内の疑念は解消された。
しかし、その解釈は直後に否定される。
深緑色のゴミ袋が「目を開き」、そのうえ「走って」、二人の元へと襲い掛かってきたのだ。
「ゴミ袋が走った!?」
ようやく二人は理解した。
ゴミ袋の中に生き物が居るのではない。
ゴミ袋が生き物だったのだ。
木の陰であった為今まで見えなかったが、よく見れば袋からは手と足が生えており、目と口があった。
その姿は動物というよりも、ファンタジー物のゲームに登場するモンスターのようである。
二人に触れられるまで眠っていたのだろう。無理矢理起こされたことに腹を立て、彼らを外敵と判断した。
「やばい……」
「静香ちゃん、逃げよう!」
「えっ、ええ」
敵意の宿る眼差しから身の危険をいち早く察した出木杉は静香の腕を引っ張り、襲い掛かるゴミ袋から身を翻し、ダッシュする。
遅れてのび太が彼らの後を追った。
「待ってよぉ!」
頼りなさげな叫び声は眼鏡猿こと野比のび太の物だ。
出木杉は足が速く、運動神経皆無の彼に配慮して引き離さない程度に走ってくれているようだが、それでも彼とは差がついた。
そんなに急いで逃げなくても、とのび太は思う。
クマのように大きく凶暴な動物と遭遇したならともかく、ゴミ袋のような生き物は小さく、それほど凶暴には見えない。
臭いは強烈だが、中々愛嬌のある可愛い生き物ではないか。
まるでポケモンみたいだ。
ふと振り返り、彼は追い掛けてくる相手の姿を確認する。
すると、小さな足で走りながら身体から目映い光を放つ深緑色のゴミ袋の姿が目に映った。
(なに…… あれ……)
光はゴミ袋の姿が見えなくなるほど輝きを増し、広がっていく。
その中に、のび太はゴミ袋とは違うシルエットを見つけた。
大きい…… 2メートル近くはある大きさだ。
光が拡散し、のび太の目が新たに捉えた物体は愛嬌あるゴミ袋のような生き物ではなく、様々な色が入れ混じった巨大なドブネズミのような醜い外見の生命体だった。
体から放つ悪臭が鼻孔を刺激し、のび太は目眩を催す。
周囲に生い茂っていた植物はたちまち元気を失い、枯れ果てる。
全てはあの生物が出現した影響だ。
「ポ、ポケモンみたいに進化した……」
驚愕に目を見開き、あまりの状況に逃げることすら忘れてしまった。
それはのび太だけではなく、彼より離れていた出木杉と静香も同様だった。
ゴミ袋から「進化した」巨大ドブネズミの姿に心を奪われ、その場に立ちすくんでいる。
まるでポケモンのようだ。
ゲームに登場するモンスターのようだ。
しかし此処は現実であり、ポケモンなど存在する筈がない。
理解出来ない情報の波に押し流され、彼らは硬直した。
だが、彼らの都合などゴミ袋……いや、ドブネズミに進化したゴミ袋には関係無い。
目の前に居る外敵、野比のび太を見据えると、大きな足音を立てて再び走り出した。
「あっ、うわああああああっっっ!!」
小さなゴミ袋なら襲われても大丈夫だと思っていたのび太であるが、あれほどの大きさとなれば話は違う。
襲われたらひとたまりもない。
あれの迫力と比べたらまだ野生のクマの方がマシだ。
命の危機を感じた彼は踵を返し、全速力で逃げようとする。
しかし、その途中に小石につまずき、転倒してしまった。
膝の擦り傷が痛むが、もはやそんなことを気にする余裕すら無い。
ドブネズミは二足歩行で急迫し、腰を抜かしたのび太を近距離から見下ろした。
「のび太君!」
「のび太さん!」
二人の友人が彼を呼び掛けるが、その声は何の意味も成さない。
「あわわわわわわわ……!」
歯をガチガチと打ち鳴らし、のび太は巨大ドブネズミの醜悪な姿を見上げる。
その顔は怒りに満ちており、狂気さえ溢れ出ていた。
食べられる、殺される、引きちぎられる……
圧倒的な威圧感が彼の身にのしかかり、多大なる死の恐怖を与える。
彼の怯える姿を見て楽しむかのように、ドブネズミは嘲笑を浮かべていた。
ドブネズミは彼を殴打する為、その拳を大きく振り上げた。
「ド、ドラえもぉぉぉぉん!!」
助けを求める叫びを上げるが、その名の持ち主は此処に居ない。
故に、彼に残された道はこのまま殴り殺されることだけだった。
覚悟を決めることも出来ず、のび太は目を閉じる。
そして次の瞬間―
ドブネズミの悲鳴が上がった。
……何が起こったのか分からなかった。
のび太はもちろん、出木杉も静香も。
ただ彼が目を開けたその時、少女が居た。
白を基調とした涼しげな服装の、曲がり角で接触したあの可憐な少女が。
そして信じられないことに、彼女の傍らにイタチが仁王立ちしていた。
ただのイタチではない。
それはゲームソフト、ポケットモンスターのユーザーであるのび太にとって非常に馴れ親しんだイタチであるが、現実には存在する筈のない生き物。
「バ、バクフーン……!?」
それが、イタチの名前だ。
ポケットモンスターに登場するモンスター、ポケモンの一匹。
のび太達は絶句する。
存在する筈のない生き物が、この地球上に現れてしまったのだ。
世界は歪んでいた。
それは、のび太達の平穏が終焉を迎えた瞬間であった―。
投下終了
これからは早くて二週に一回くらいの投下ペースになると思います。
GJ 続きが楽しみだ
GJ!出木杉のキャラww
乙、あれか、もしもボックスのせいか
乙。
ダストダスこえぇ((゚Д゚;))
てか出来杉の好青年キャラが崩壊ww
保守
明日か明後日あたり投下します
では投下します
出会う筈のない者達。
存在する筈のない生物。
それが今、のび太達の前に姿を現し、彼らと同じように呼吸をし、生きている。
「バ、バクフーンだ…… ななななんでポ、ポケモンが居るの……?」
尻餅をついた体制のままガタガタと全身を震わせる野比のび太。
その問いは目の前に佇む少女へ向けられた物であろう。
しかし、彼女は彼の方へ振り向こうとすらせず、ただ真っ直ぐ巨大ドブネズミの姿を見据えていた。
「……このポケモン、ダストダスっていうの?」
「えっ?」
「…そう…… でもグニョグニョしてて気持ち悪いし臭いし、なんなのもう」
少女は何かに質問し、そして何かに応答される。
最初自分に質しているのかと反応したのび太だが、彼女の話している相手は彼ではないようだ。
「なんで進化してるのか知らないけど…… まあ、いいわ」
彼女の傍らに立つ「ポケモン」の「バクフーン」が身構え、戦闘体制に入る。
のび太はその光景に目を奪われ、この場から立ち退くことも忘れてしまった。
するとのび太から標的を変換したのか、巨大ドブネズミが物凄い形相で少女の顔を睨んできた。
「なんかムカつくっていうか、近づきたくない顔ね。本当にあれポケモンなの?」
グロテスクなドブネズミの外見を見て、少女は露骨に嫌悪感を露にする。
独語ではないその言葉は他の誰かに向けられていることに間違いないのだが、その誰かの姿はどこにも見当たらない。
(誰と話してるんだろう?)
何故ポケモンが此処に居るのかという疑問の他にも、この場所には様々な疑問が絶えなかった。
その時、
「あっ、く、来るよっ!」
ドブネズミが活動を再開し、大きな足音を立てて彼女の方へ走ってくる。
なんという威圧感。
接触すればまず命は無いだろうその怪物を目にして全身の筋肉が凍てつくのび太だが、彼より小さな少女は冷静だった。
微かに笑みを浮かべてすらいる。
「バクフーン、火炎車」
傍らのイタチの背中に灼熱の炎が吹き出し、周囲の気温を上昇させる。
次の瞬間、イタチの全身はその炎によって包まれた。
そして、襲い来るドブネズミに向かって真っ正面から突撃する。
「ギョエアァァァァァァァァっっ!!」
断末魔のような叫びが山中に響き渡る。
ドブネズミから発せられた悲鳴である。
鼓膜への被害は甚大であり、のび太と少女と後方で状況を見守る出木杉と静香は堪らず耳を塞いだ。
「―ッ……! なに今の叫び?」
地面にうずくまってもがき苦しんでいるドブネズミの姿を見下ろし、少女は両耳から手を離す。
彼女にはどうでもいい話だが、背後では耳を塞ぐのが皆より遅れたのび太が地に這いつくばり、同じように苦しんでいた。
「……急所に当たったみたいね。しかも火傷状態。もうボール投げても大丈夫そう」
「ああああっ! 頭が割れるぅぅっ!」
「ヘビーボールは、と……」
「痛いよぉぉっっ! 死ぬぅぅ…… 誰か助けてぇぇ!」
左肩に提げていた鞄の中から黒いボールを一つ取り出し、再び視線をドブネズミに向ける少女。
しかし、どうしても背後から聴こえる雑音が耳に触った。
「うるさいわね! さっきからジタバタジタバタっ! あんな叫び声聴いたくらいで死ぬわけないでしょ。邪魔だから黙ってて!」
「うっ…… うっ、うん……」
度重なる状況の変化とあの悲鳴が重なり、どうやらのび太の頭は軽いパニック症状を引き起こしてしまったらしい。
少女の声によって意識が現実に戻され、再び彼はその「ありえないこと」に目を見張った。
「……ったく、さっさと捕まえよ」
右手に握った黒いボールを、少女は軽いスナップを掛けて投げる。
それは美しい放物線を描き、寸分の狂いもなくドブネズミの額部分に命中した。
「吸い込まれた……」
ボールの何十倍もの体積を持つドブネズミの体は、瞬く間にボールの中へと収納されていく。
するとその蓋が閉められ、ボールは大きな振動を始めた。
「1、2、3、カチッと……」
少女がそう言ったように、ドブネズミを収納したボールは三回ほど揺れるとカチッと音を立て、その動きを止めた。
「ダストダス捕獲。案外楽に済んだわね」
ボールを拾い上げ、即行で鞄の中へ放り込んだ少女はまた誰かに言った。
もしかしてバクフーンに話しているのかな?と考えるのび太だが、当のイタチの表情を見る限りそうではなさそうだ。
「のび太さん!」
「大丈夫かい、のび太君」
脅威が消えたことで安心したのか、今まで遠方で待機していた二人が彼の元へ駆け寄る。
立ち上がったのび太は大丈夫だと返事をするより先に、目の前に居る金色の眼の少女へ問い掛けた。
「あの…… 君の隣に居るのって、ポケモンだよね?」
「そう。バクフーンよ」
少女は即答する。
「じゃああのゴミ袋とドブネズミも……」
「ええ、ヤブクロンもダストダスもポケモンよ」
何事もなく彼女は言った。
どうやらあのゴミ袋のような生き物をヤブクロンといい、それが進化したドブネズミをダストダスというらしい。
だがそんなことは今はどうでも良かった。
最も気になるのはあれがポケモンであるということ。
そして、
「なんでポケモンが現実に居るんだ……?」
のび太に代わって今度は後ろから出木杉が質疑を掛ける。
ポケモン…… 即ちポケットモンスターはゲームの中に存在する架空の生命体であり、現実の世界に存在する筈がないのだ。
源静香もまた、同じ疑問を抱えていた。
そして、もう一つ気になる疑問を彼女がぶつける。
「貴方は何者なの? もしかしてポケモントレーナーとか……?」
現実には存在する筈のない生物「ポケモン」を操り、彼女は同じ「ポケモン」と戦い、倒してみせた。
それもまたゲームに登場する存在、ポケモントレーナーのようにだ。
到底信じられない話だが、実際に目で見たという事実がその説得力を異常に高めていた。
問われた少女は即答には至らず、しばしの間黙り込んでしまった。
そして数拍の間を置いて、彼女は言う。
「お前達には関係ないことよ。今見たことも全部忘れなさい」
「そうはいかないよ」
「何か知ってるんでしょ? なんでポケモンが居るのか教えてよ!」
即行で出木杉とのび太が反発する。
あれほどの衝撃を受けておきながら、今見たこと全てをすんなりと忘れられるわけがない。
彼らが大きな好奇心に駆られるのも不思議ではないだろう。
ただ、問い詰める彼らの口は少女にとって鬱陶しいだけだった。
「うるさいなぁもう! ちゃんと説明しなきゃダメ!?」
「うん!」
「詳しく説明してくれないかな?」
眉間にしわを寄せて放たれる怒気にも、少年達は怯まない。
だがそれでも少女は二人を突き放した。
「嫌っ! 特にそのメガネがムカつくから説明しない!」
「えっ? 僕!?」
「のび太君、ザマァ……」
よほど話したくないのだろうか、彼女はただそれだけの理由で説明を拒否した。
好奇心を折られたことに落ち込む出木杉であったが、何故か異性から嫌われる恋敵の姿に優越感を感じていた。
それから彼女は徹底的に無視を決め込み、いかなる問いにも答えることはなかった。
「行くわよバクフーン。まだこの辺りにはポケモンが居るみたいだし」
踵を返し、傍らのイタチに呼び掛ける。
どこかへ移動するのだろう。
だが、のび太はそのまま行かせる気にはならなかった。
「待って!」
せめてポケモンがこの世界に居る理由だけでも聞きたい。
その意図で駆け寄り、のび太は彼女の肩を掴んだ。
しかしその手は素早く払いのけられ、答えさせるどころか、彼女により拒絶されるきっかけとなってしまった。
「鬱陶しいって言ってるでしょ! バクフーン、コイツもう燃やしていいよ!」
「ちょっ、それは許して……」
相当気が立っているのか、この時の彼女はまんざら脅しで言ったわけでもなさそうだ。
表情から本気度を察し、我が身を守る為に頭を下げるのび太。
見ればバクフーンが「それはしないよ」と、首を横に振って分かりやすくジェスチャーしていた。
少年はホッと胸を撫で下ろす。
すると彼の耳に、と言うより脳内に少女のではない声が入ってきた。
『話しても良かろう。ポケモンに命まで奪われかけたのだからな』
「だ、誰?」
聴覚を伝わず脳内に直接響く声。
精神感応、テレパシーと呼ばれるものか。
それが突然、のび太達三人と少女の脳に掛けられたのである。
今まで経験したことのない奇妙な感覚に困惑する三人を他所に、少女は別の意味で困惑していた。
「ホウオウ……」
『この世界に来てからお前は人と関わらなさすぎている。良い機会だ。説明してやれ』
「でもコイツら鬱陶しいのよ!」
『説明してやればこの少年らも黙る。お前は少し苛立ち過ぎだ』
「お母さんみたいなこと言って…… 分かったわよ」
『その後でドラモーンについて質してみろ。目撃情報はこの町に集中していた筈だ』
「うん。コイツらが知ってるとは思えないけど……」
テレパシーと会話し、そして態度を変える少女。
すると、今度は彼女の方から三人の元へ歩み寄ってきた。
「…良い? まずなんでこの世界にポケモンが居るかって話だけど」
「うん」
相槌を打ち、三人は立ったまま姿勢を正す。
彼女が自分達の想像より遥かに重大な話しをすることを察したからである。
その場が自然の静けさを取り戻したところで、少女は口を開いた。
その時、
「ジャイアアアァァァァァァン!!」
人間の叫び声が、四人の鼓膜に響いた。
その瞬間、大きな目を尖らせ、少女は戦闘的な目付きへと変化させる。
「ねぇ今の声!?」
「スネ夫さんの声だわ!」
特徴的な声色だ。長い付き合いである三人にはその声の主を瞬時に特定するのは容易だった。
『何者かがポケモンに襲われたようだな』
「みたいね…… なんでこんな山に何人も人が居るのやら」
その場からいち早く動き出したのはのび太達三人ではなく、バクフーンと少女だった。
声の方向に向かって走り出し、両者は茂みの中へ消えていく。
「僕達も行ってみよう!」
「うん」
「私も」
スネ夫とジャイアンの存在をすっかり忘れていたことに、のび太は己を責める。
理由はまだ分からないが、この山には猛獣より恐ろしい生き物が存在しているのだ。
もし、彼らがあのドブネズミのような生き物に襲われたのだとしたら……
ゴクリ、と息を呑む。
到底考えたくはなかった。
茂みの中から踏み出した時、彼らの目に飛び込んできたのは最悪に近い光景だった。
オレンジ色のTシャツを着た大柄な少年が、腹部から血を垂れ流しながら仰向けに倒れている。
そして青ざめた顔で恐怖に震える小柄なセミリーゼントの少年の姿を、彼らは確認した。
「た、助けて! 助けてぇぇっ!」
「スネ夫!」
「武さん!」
セミリーゼントの少年、骨川スネ夫は無事な様子だが、大柄な少年、剛田武ことジャイアンには意識が無い。
彼に重傷を負わせたと思われる怪物― 全長五十センチ近くはあろうかという巨大なハチが三匹、彼らの周りを飛び回っていた。
「あれって……」
ジャイアンに重傷を負わせたそれもまた、現実に存在する筈のない生命体であった。
両腕に槍のような武器を持つ、ポケットモンスター。
のび太よりも先に、出木杉がその名を呼称した。
「スピアー!?」
ダストダスという名のドブネズミとは違い、彼らにも馴染みのある姿だ。
あまりにも非現実的なその状況に、スネ夫を含む彼らは動揺を露にする。
しかし、バクフーンと共に居る少女だけは、そこにポケモンが存在していることをさも当たり前のことのように受け取っていた。
「ビードルから進化したのかしら?」
『虫ポケモンは進化が早い。不思議ではない話だ』
「そうね…… とりあえずあのままにしておけない。バクフーン、助けてあげて」
少女の指示を受け、巨大バチ達に囲まれたスネ夫とジャイアンの前に、一瞬にして一匹のイタチが姿を現す。
「ま、また出たぁぁぁっ!?」
命の危機に瀕したことで半ば錯乱状態にあったスネ夫は、またしても現れた「ポケモン」の姿を目の前にし、さらなる恐怖によって支配される。
だがイタチのようなポケモン、バクフーンの敵意は彼ではなく、彼らを襲うハチに向けられていた。
『木々への被害は頭に入れているのか?』
「分かってる。火炎放射は使うなって言うんでしょ? 大丈夫、あのくらいの虫タイプなら……
バクフーン、火炎車!」
本気になって戦えば、バクフーンの力で山の自然を破壊し尽くしてしまうこともありえる。
それを恐れた少女は低威力の技での攻撃を開始する。
―だが、それだけで十分だった。
たった数十秒にして、炎の車と化したイタチは三匹のハチの意識を奪ってしまった。
「す、凄い……!」
レベルそのものが違う。
バクフーンの力を前に慄然とし、同時に一同は現実に見るポケモン同士の戦いに興奮を覚えた。
(夢じゃないよね、コレ……)
のび太は頬をつねってみる。
だが、痛覚は問題無く働いていた。
紛れもなく現実なのだ。
自分達が今見ているものは。
「後はモンスターボールを投げて……」
意識を失ったハチ達に向かって、少女は鞄から取り出した三個のボールを一つずつ投げつける。
それぞれハチ達に命中したボールは、ドブネズミの時と同じようにその体を収納すると、すぐに動きを停止した。
「ふぅ…… こんな山にポケモンが四匹も居たなんて……」
一連の流れを終えた少女はボールを拾い上げながら独語する。
しかし次に彼女を待っていたのは静寂ではなく、動騒であった。
「ジャイアァァァン!」
「しっかりして武さん!」
血を垂れ流しながら仰向けに倒れている大柄な少年の元に、三人の少年と一人の少女が集まって叫んでいる。
役目を果たしたバクフーンを、スピアー達に投げつけたボールと同じ形状をしたボールの中に収め、謎多き少女は動騒を起こす少年少女の方へ目を向けた。
『あれでは命を落とす。虹色の翼を使ってやれ』
「分かってるわよ。全く、どうして今日はこんなに人と……」
脳に響くテレパシーに受け答え、少女は集る人混みをかき分けながらゆっくりと仰向けの少年に歩み寄る。
すると、ボールが入っているのと同じ鞄の中から、色鮮やかな何かの羽根を一枚ほど取り出した。
「ジャ、ジャイアン……」
「治療してあげるからそこ退いて」
「君は……」
「邪魔」
「う、うん」
負傷者と最も近い位置に寄っていたセミリーゼントの少年を眼力で退かし、少女は負傷者の腹部に開いた傷口へ先ほど取り出した羽根をかざす。
刹那、その羽根は七色の目映い光を放ち、一同の視界に広がっていった―。
光が消え、彼らの視力が回復を果たす。
すると「ううっ」と呻き声を漏らしながら起き上がる、彼らのガキ大将の姿を認めた。
「俺は何をしてたんだっけ……? 確かその辺にあった木を蹴ってみたら、スピアーみたいなハチが出てきて……」
「ジャイアン!」
「良かった! 生き返ったんだね!」
「良かったわ、武さん!」
傷口は始めから無かったかのように塞がれ、彼は意識を取り戻した。
横暴な彼を普段好んでこそいないが、友達である彼が死ななくて何よりだ。
大柄な少年の復活を、少年少女は大いに喜ぶ。
すると彼らの内の一人、セミリーゼントの小柄な少年が、名も知らぬ少女に向かって頭を下げた。
「ありがとう!」
「えっ?」
「助けてくれてありがとう!」
「スネ夫がお礼言うなんて……」
普段ひねくれた性格である彼が、人に対し素直に頭を下げることなどそう多くはない。
ポケモンが現実世界に居る理由と、そのポケモンを扱う少女の素性も気になるところではあるが、スネ夫はまず最初に友と自分の命を救ってくれたことに礼を述べるのであった―。
投下終了
ダストダスファンにはスミマセン
乙、出木杉のキャラがもうw
てかジャイアン自業自得なんじゃねww
乙
のび太の手持ちin日本誕生
レックウザ(ドラコ)
ギャロップ(ペガ)
グラエナ(グリ)
マンムー(擬装マンモス)
ネンドール(土偶)
ピチュー(冒頭のハムスター)
!ninja
保守
明日あたり投下します
お、楽しみ
お待たせしました。
投下します
午後三時の太陽が地表を照りつける。
勿論、その範囲は○×小学校の裏山にも及んでいた。
「……ったく、なんでここはこんなに暑いのよ!」
『どうやらこの世界では温暖化が著しく進行しているらしい。乗用車の利用者が多いのでは仕方あるまい』
「炎タイプのポケモンは良いわね。暑さに強くて」
涼しげな印象を受ける白い服装を纏った一人の少女が、その気温の高さに悪態をつきながら山道を歩き進んでいる。
周囲の木々が日光の陰になっている為、この場所は幾分かマシな部類ではあるが、彼女にとっては何の涼しさも感じさせてくれなかった。
……しかも、隣を並び歩いている余計な人間達の存在が、元々高いこの気温にさらなる上乗せをしていた。
「……で? お前達はどこまで着いてくるの?」
「君から現実にポケモンが存在しているわけを聞くまでかな?」
やや冷ややかな眼差しを覗かせて周りに居る五人の少年少女へ問うと、目鼻口整った顔立ちの美少年が代表して答えてきた。
ダストダスとスピアー達の捕獲を完了してから、彼らは彼女の歩みにこうしてずっと着いてきている。
その理由が分からないことはないが、彼女にとっては目障りであった。
『大人しく説明してやれば済むことだ』
「分かってるわよ。ただちょっと説明の仕方を考えているだけ。どう言えば分かるか……」
『確かに、簡単に説明出来る話ではないからな。説明したとて到底信じれるものでもない』
「私達の世界とこの世界が繋がっちゃったなんてね…… そんなこと説明したらなんか私がイタイ子みたいだし」
あえて周囲の五人に聞き取りにくい声量で、少女は脳に直接響く男の声に応答する。
「ねえ!」
その様子を見かねてか今度は先ほどの美少年とは正反対な、間の抜けた顔立ちの少年が横方から話しかけてきた。
「さっき頭に聴こえた変な声って誰なの? 今もその人と話しているんでしょ?」
『貴様、変な声と言ったな?』
「そうそう、この声!」
間抜けな眼鏡猿に変な声呼ばわりされたことが不愉快だったのか、やや怒気のこもった声が唐突に彼の脳に響く。
それを指差すようにして、少年は質問した。
「人じゃないわ」
はっきりとした口で、少女は答える。
「その声の主はポケモン。このモンスターボール…… ゴールドボールに入ってるポケモンのテレパシーよ」
ペンダントのようにして首から下げられた手のひらサイズの玉を掴み、少女は彼らにその存在を強調する。
全体が金色の塗装を施されたその玉は、よく見れば先に彼女がダストダス達へと投げつけたボールと同じ形状をしていた。
ただ、その名を聞いた途端に大柄なゴリラのような少年と小柄なキツネ顔の少年が、何故か肩を震わせて笑い出した。
「ゴールドボールって……」
「キンタマじゃね?」
「う、うるさいわね!」
『その名の由来は形として他にある。妙な誤解をするようであれば…… 貴様らの焼却をバクフーンにでも頼むか』
「「すみませんでした!」」
姿の見えぬ声からあからさまな殺気を感じた二人の少年は、即効で頭を下げる。
その傍ら、間抜け面な少年と爽やかな美少年は二人と同じことを考えていた自分の品性の無さに(特に美少年が)絶望していた。
「あ、あの…… ポケモンっていうと、名前を教えてもらえないでしょうか?」
唯一健全な心の持ち主である少女だけは、その殺気の対象外であったと言える。
ピンク色のワンピースが似合う彼女は敬語を交え、金色のボールを見ながら尋ねた。
ポケモンの名前ならば大抵は分かる。彼女を含む、ここに居る全員はポケットモンスターのプレイヤーなのだから。
すると、彼女の問いに対し金色のボールではなくその持ち主が言った。
「名前聞くんだったらお前達から先に名乗ったらどうなの? さっきから一方的に質問攻めしてきて」
「あっ」
「そういえば自己紹介もしてなかったわ。ごめんなさい」
人のことを聞く前に自分のことを話すのが礼儀というものだ。彼女の指摘はもっともであり、反論の余地はなかった。
好奇心のあまり、初対面の者への礼儀を忘れてしまっていたのだ。
「はい、じゃあお前から」
少女は歩みを止め、五人を一列に並べるとピンク色のワンピースを着た少女を指差して自己紹介を促す。
「源静香、十一歳よ」
「次、そこの優男みたいな奴」
「出木杉英才。英才と書いてヒデトシと読む。あと、僕たちの歳はみんな一緒だよ」
「あっそう。次」
「ジャイアンだ!」
「名前なのそれ? …次」
「骨川スn「次、メガネ!」
「僕、野比のび太」
「とばされた…… スルーされた……」
あったのかどうかも分からないプライドを傷つけられた者も居る中、五人による簡単な自己紹介が終了する。
個性的な名前、というのが少女の感想だ。源静香や明らかにニックネームであるジャイアンは良いとして、骨川や野比のび太、出木杉英才などそうザラにある名ではない。
特に出木杉という苗字が引っ掛かる。
お前らは一族代代デキているのか、と。
……まあそんなことはどうでも良い。
彼女はただ一方的に質問攻めを喰らうことが気に入らなかったから名乗らせただけであり、彼らの名前など特に覚える気はなかった。
「教えたよ。君達の名前も教えて」
眼鏡の間抜け面、野比のび太と名乗った少年が彼女の名を問う。
『良かろう』
名前を知ってどうするのかと出かかった少女の声を制し、金色のボールから送られたテレパシーが六人の脳を過った。
「ヨカロウ? そんなポケモン居たっけ?」
『貴様、ふざけているのか?』
「すみません、ふざけなんかいません……」
真剣なボケをかましたのび太の脳に、冗談とは思えない迫力が伝わった。
まるで雷のような、いや、人の上に立つ者のような威厳に満ちた声だ。
『我が名はホウオウ。それだけ言えば貴様らには分かるだろう』
「「ホウオウ!?」」
名乗られた思いがけない名前を聞き、五人は驚愕に目を見開く。
ホウオウ――と言えばポケットモンスター金バージョンと、そのリメイク作であるハートゴールドバージョンのパッケージを飾るポケモンだ。
伝説のポケモンと呼ばれており、能力値も通常のポケモンを凌駕している。
「ブースターと同等の攻撃力と、プラスルより遅い素早さと、四倍弱点持ちだけどルギア並の特防のあれか……」
ゲーム上でのその強さを確認するように、出木杉英才がぶつぶつと本人に聴こえない声で呟く。
だがそんな夢も希望もないような呟きを他所に、次は少女の自己紹介の番となった。
「私の名前はツバサ。それだけ」
「えっ?」
「おいおい、フルネーム名乗ろうぜ。他にもあんたが何者なんだとかよ」
「ニックネーム名乗った君が言っても説得力が……」
あまりにも短く、そして素っ気ない自己紹介であった。
始めに名を問うたのはのび太達であるので、深くは言及出来ない。
だが紹介は詳しくしてほしかったというのが本音である。
「なに? 名前教えたんだからもう良いでしょ」
「そりゃあ良いけど……」
「ツバサさんっていうの? 可愛い名前ね」
名乗り終えたと同時に少女、ツバサはそっぽを向くように踵を返し、歩みを再開した。
本当は名乗りたくなかったのだろう。一人その心境を察した静香が彼女の名前を肯定的に受け入れるが、彼女は何故か機嫌を悪くしているようだった。
『何を苛立っている?』
「別に……」
『そういえば、お前が自分から名を名乗ったのは初めてか。なるほどな……』
「ホウオウ、ここら辺だよね?」
余計と判断した感情を受け流し、ツバサは草木の茂みの前で立ち止まる。
後ろから着いてくる五人の少年少女も同じ場所で立ち止まった。
「…まだ着いてくるの?」
「ポケモンが現実に居るわけを知りたいからね」
「知ってどうするのよ。本当この世界の人は分からない」
案の定の答えを返してくる少年達に半ば呆れながら、ツバサは鞄の中を漁る。
そして数秒後、取り出した右手には二枚の羽根が握られていた。
七色の色彩が美しい、宝物のような羽根だ。
スピアーに刺されたジャイアンの傷口を塞ぎ、こうして彼を元気な姿に戻したのも、その虹色の羽根だった。
『確認した。丁度五メートル前、そこの茂みの中に歪みはある』
「うん…… バクフーン、お願い」
虹色の羽根を持った手とは反対の手を使い、ツバサは赤と白のツートンカラーのボールを取り出す。
中心部にある開閉スイッチを押すと、目映い光と共に炎のポケモン、バクフーンが出現した。
「居合い切りでそこら辺の草むらを切って」
主の指示に従い、バクフーンは右腕を剣のように重く、鋭く横薙ぎに払う。
すると、目の前にあった草木の茂みは一閃にして消滅してしまった。
そして先ほどまで茂みに隠れていた空間に目的の物を見つけ、彼女は微笑する。
「あった、次元の歪み」
「ジゲンノヒズミ?」
『何も無い筈の空間に、四十センチほどの大きさの穴が開いているだろう? 我々はそれを次元の歪みと呼称している』
彼女の視線の先にのび太達が目を向けると、テレパシーの示す通り直径四十センチメートルほど開いた穴が見えた。
中心から時計回りに渦を巻いている漆黒の穴は、彼らが今まで見たことのない異様な物体だった。
「ほ、本当だ……!」
「ブラックホールみたい……」
神秘的とも言えるが同時に恐怖心を抱く。
何も無い筈の空間に開いている穴は、出木杉が比喩した通りブラックホールのようであった。
勿論、何かを物理的に吸い込もうとする力は感じない。あえて言うなら彼らの心だろうか。
ポケモンに続いて幻想的なものを現実世界で確認した彼らは、驚きに目を見張った。
その心情を考慮することもなく、ツバサは穴を指差しながら言う。
「この穴の向こう側にあるのが私達の住む世界。お前達の言葉で言う「ポケモンの世界」って奴ね」
「穴の向こう側……?」
「そう、この穴は簡単に言えば私達の世界とお前達の世界を繋ぐトンネルのような物よ。
この世界にポケモンが居るのは、野生のポケモンがコレを通じて私達の世界から迷い込んできたから」
「そんなことが……」
「えっ? どういうこと?」
彼女の言葉は紛れもなく彼らが待ち望んでいた「ポケモンがこの世界に存在する理由」の説明であった。
しかしその投げやりな口調からは要点を抜き取りにくく、出木杉以外の四人にはそれだけで理解することは出来なかった。
『説明が雑過ぎる』
「じっくり説明するの? めんどくさいったらもう……」
『全てを話す必要もないが、あの説明では理解し難い。歪みの補修後に詳しく説明してやれ』
「もう、分かったわよ……」
ホウオウには敵わないと呟いた後、ツバサは二枚の羽根を穴の中に入れ込む。
そして次の瞬間、ジャイアンの傷を癒した時のように、強烈な白い光が一同の瞳孔に突き刺さった。
一同の視力が正常さを取り戻すと、彼らの目には先ほどまであった漆黒の穴は見えなくなっていた。
ただの空間であり、そこには何も無い。
「補修おしまい…… バクフーン、お疲れ」
一通りの作業を終えたツバサはモンスターボールの開閉スイッチを押し、貢献したポケモンを中へ還す。
その彼女の表情からは微弱ながら脱力感が見受けられた。
「あの穴は?」
「補修したわ。そのまま放置しておくとまたポケモン達が迷い込んでくるし、世界が歪むもの」
「迷い込んでくる? 世界が歪む?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら必死に彼女の説明を理解しようとする野比のび太。
だが彼の理解力の低さ故に、その努力が報われることはなかった。
いや、彼だけでなく出木杉以外の四人は皆、頭脳明晰な静香ですら理解しきれていない様子である。
見かねたツバサは苛立ちをさらに募らせる。
「ええい説明しにくい! 何か書くもの無い? ペンでも紙でも良いから寄越しなさい!」
口で説明するのが難しいのなら、文字や図で説明してみれば良い。
そう判断するツバサだが、何よりも頭に降り注ぐ太陽の光が気になった。
「レポート用紙と鉛筆なら持っているけど……」
「やっぱ良い! ここ暑いし、どこか別の涼しいところで説明するわ」
彼女の言葉からそんなに暑いか?と大柄な少年が小柄の少年に意見を求め、別にと返される。
木々の日陰になっている為、体感温度はそれほど高くない筈だ。
よほど彼女が高気温に弱いのか。はては耐性が無いだけなのだろうか。
「帽子までしっかり被って涼しそうな格好してるのに……」
「炎のポケモンと居るくせに……」
バクフーン、さらには伝説の炎ポケモンのホウオウの主たる彼女が暑さに弱いとは、どうも違和感を禁じえなかった。
暑がり寒がりは人それぞれ個人差のあるものではあるが。
「涼しいところでって言っても、ここより涼しいところはあまり無いような……」
「なら、僕の家にでも来ない?」
変える場所の具体案を述べたのは、眼鏡を掛けた少年。
野比のび太があろうことか、同世代の異性を自宅に招くと言ったのだ。
それを聞いて至って平常心である他の三人とは違い、出木杉英才はただ一人驚愕を露にしていた。
(のび太君め、この僕の恋敵だけのことはある。女の子への対応に慣れている……!)
他の同級生より早熟な彼は何故か賞賛の声を心の中で口漏らす。
積極性が自分以上だ。
今、出木杉英才は確認した。
野比のび太は俗に言う一級フラグ建築士。
即ち、己に匹敵する最強のライバルであると。
「おーい! 行かねぇのか出木杉〜?」
遠方からのガキ大将の声が彼の意識を覚醒させる。
どうやら物思いにふけている間に、皆でのび太の家へ移動することに決まったようだ。
投下終了
次回も説明臭くなると思います
デキスギwwwww
てか、スネオとかキンタマとか細かいとこが面白いわww
スピアーとか、どうやって40センチの穴から来てるんだ…ビードルで来たのかな
おつー
こんなスレがあったのか・・・
したらばには避難所もあるで
投下します
直射日光を避けている分、室内が野外よりも居心地の良い空間であることは確かであった。
さらにのび太の部屋には昨日から扇風機を設置している為、その涼しさは学校の裏山の比ではない。
のび太が子供一人の部屋に入れる来客としては些か多い人数の少年少女を迎え入れると、彼らはそれぞれ見つけたスペースに腰を下ろした。
「ふぁ〜…… 家の中は快適だぁ……」
全身の力が抜けたような気の無い声を漏らし、のび太は畳の上に尻を着けながら背筋を伸ばす。
そんなリラックスした状態の彼に高圧的な口調で喋り掛けるのが、金色の瞳の少女だった。
「扇風機だけ? クーラーとか無いの?」
「良いじゃん良いじゃん、扇風機だけで十分だよ」
クーラーの設置は何度も親にせがんだものだが、経済的な問題で断念したというのが正直な話だ。
しかし日が沈み始めているこの時刻、言葉通り扇風機だけで十分な気温ではあった。
少なくとも、のび太達には。
「……まあ、いいわ。さっさと説明するからちゃんと聞いてよね」
「うん」
まだ冷房が不十分だと言いたげだが、これ以上はどうしようもないというこの家の事情を察し、ツバサは面倒事を済ませようと説明を始める。その右手には出木杉から借りた鉛筆を持ち、左手は同じく彼から借りたレポート用紙を床に押さえていた。
ポケモンがこの現実の世界に存在している理由――。
衝撃的な発言を皆が予期している為か、場の空気は緊張感に包まれた。
しかし、その緊張感は突如無造作に開けられた扉によって断ち切られる。
ピンク色の着衣と白いエプロンを纏った成人女性が、盆を片手に部屋の中へ入室してきたのだ。
「お飲み物持ってきましたよ」
「ママっ!」
「「ありがとうございます」」
野比玉子。野比のび太の実の母親である。
夏場の来客に対する対応としては素晴らしいものではあったが、彼女は空気が読めない。いや、読まないのだろう。
盆の上に乗せた六つのガラスコップを息子と日頃仲の良い客人に差し出した後、日頃見慣れない少女の姿を見て母は言った。
「あら、はじめまして。のび太が迷惑掛けてない?」
「あっ、う、うん……」
「頭も顔も悪い子だけど仲良くしてあげてね」
息子に新しい友達が出来たと思ったのか、母の機嫌は上々であった。
先までのび太達には強気であった少女だが、彼女に対してはトーンを落としたぎこちない対応をする。
彼女の手から氷入りのオレンジジュースを受け取りながら、少女はありがとう……とまたぎこちなく頭を下げた。
「もう良いよママ、出てって!」
「なに親に向かってその態度っ、大体貴方宿題はどう……」
冷たい飲み物を届けてくれたことは嬉しいが、今この場に彼女の存在は邪魔だ。
のび太は追い出すように母を部屋の外へ返し、勢い良く扉を閉めた。
気を取り直して床に座り、説明者の方へ向き直ると、そこには満面の笑みを浮かべながらガラスコップをすする少女の姿があった。
「お前のお母さん…… お前と違って良い人ね」
相当喉が渇いていたのか、はては好物なのか、少女は幸せそうな顔でオレンジジュースを飲んでいる。
その姿を見るなり、しばしのび太は茫然とした。
「……何よ?」
「あっ、いやなんでも……」
「なんでもないよ!」
「なんでスネ夫が反応するんだよ」
彼が茫然とした理由を共有するのは、彼と同じ方向から彼女の顔を見ていた骨川スネ夫ただ一人だった。
「な、なんだよ出木杉? なにニヤニヤこっち見てるんだよ」
「別に…… まあ、頑張りたまえ」
強がって感情を見せないように振る舞っているが、スネ夫が何を考えているのかのび太にはよく分かった。
源静香がそこに居なければ、自分も同じ気持ちになっていたかもしれないからだ。不覚である。
(笑うとやっぱ可愛いなぁ…… 笑わなくてもだけど)
あの笑顔を見ることが出来ただけ、ここは母に感謝するべきだろう。
しかしオレンジジュースを飲み干した頃には、少女の表情は常の凛としたものに戻っていた。
『ツバサが説明する。聞き逃さぬよう聴いておけ』
「う、うん」
「はい」
その声が脳に響いた者はのび太とスネ夫の二人だけだ。
気のせいか声の主の機嫌は良ろしくない様子であった。
「山でも言ったけど、ポケモンがこの世界に存在しているのはお前達も見た黒い穴…… 次元の歪みをポケモンが通ってきたからよ」
胸元のボールとは違い、ツバサはジュース効果で機嫌を良くしたらしい。当初こそ詳細全てを語る気はなかったが、一から教えるよう方針を変えた。
四人の少年と一人の少女は正座で口をつぐみ、神経を研いで説明を受ける。
「だけど、それだけじゃ分かりづらいでしょうから紙に描いて説明してあげるわ」
ガラスコップを置いた手で再び鉛筆を拾い上げ、ツバサはレポート用紙の端にいくつもの円を描く。
「信じられない話でしょうけど、お前達が住んでいるこの世界の他にも、色々な世界が無限に存在しているの」
「えっ?」
「異世界…… つまりパラレルワールドというものが実在するってことかい?」
「大体そんな感じ。具体的に言えば動物が人間を支配している世界とか、魔法使いが空を飛び回っている世界とか……
私達の世界やお前達の世界もその内の一つ」
レポート用紙の端を小さな円で埋めたところで、彼女は今度は中心部に大きな円を描く。
そしてそれを指差して言った。
「これがお前達の世界」
指差した円の隣に、もう一つ同じ大きさの円を描く。
「そしてこれが私達の世界。お前達から見ればポケモンの世界っていう世界」
彼女の説明に頷きながら、一同はレポート用紙に目を見張る。
今のところ、のび太は難なく話に着いてこれていた。
パラレルワールド諸々の話ならばドラえもんの秘密道具「もしもボックス」が体現している為、今さらこの世界とは違う世界が存在することに驚く理由が無いのだ。
「お前達の世界と私達の世界…… この二つの世界は元々別々の次元に存在していて、普通なら何も関わることはなかった」
鉛筆を走らせ、ツバサは二つの円の間に数本のラインを引く。
そして次は彼女ではなく威厳ある低い声が代わって説明した。
『しかし何かの拍子に次元が歪み、二つの間を隔てる空間に穴が開いてしまった』
「それが、裏山にあったアレか……」
「うん、そういうこと。そしてその穴を通って私達の世界からポケモンが迷い込んじゃったってわけ。穴は小さくて人間の大人くらいの大きさじゃあ通れないけど、ビードルや小さな子供なら楽に通れるから」
理解の早い出木杉を中心に話は進んでいくが、彼を中心にしては理解しにくい内容であった。
案の定、ポケモンに殺されかけたオレンジ色の少年が眉をしかめる。
「ゴチャゴチャしてて何言ってんのかわかんねぇぞ……」
「まとめて言うと、ポケモンの世界はゲームの中だけでなく僕達の世界とは別の場所に実在していて、よく分からないけど何かが原因でそのポケモン世界と僕達の世界が繋がってしまったってことだよ。
裏山にあったあの穴はそのトンネルみたいな物で、ポケモン達はそこを通って僕達の世界に来てしまった」
「要するにキシリトールは歯に良いってことか」
「歯は大切にしないとね! ……ってどうしてそうなった!?」
国語の授業のような長い説明に耐えかねてか、元々体育系である天下のガキ大将は冗談を込めてボケをかましてみる。
出木杉が乗りツッコミをしてくれたことは嬉しい誤算ではあったが、何故かツバサが渋い顔をして俯いていた。
おそらく彼女は今、金色のモンスターボールから歯磨きの大切さについてテレパシーによる説教を受けていることだろう。
「……とにかく、私達の世界からたくさんのポケモンがこの世界に迷い込んできたってこと! もう説明終わるわよ、良い?」
「ちょっと待って!」
一から十まででなく、一から七ぐらいまで説明したところで気を悪くしたツバサは床を立つ。
だが、野比のび太が呼び止めた。
「ツバサちゃん、君は何なの? 君もポケモンの世界から来たの?」
ポケモンと自分達の世界が繋がってしまったと聞いて、のび太の頭に過った疑問だ。
彼女はポケモンの世界のことを「私達の世界」と言っていた。
「……そうよ。私の名前はヒビキ・ツバサ。この世界に迷い込んだポケモンを捕獲して、私達の世界に返す為に来たポケモントレーナーよ」
確認を取る為の質問に答えてくれたことで、のび太達には彼女の素性がおおよそはっきりした。
だが、彼らの中の数人にはその自己紹介の内に引っ掛かるものがあった。
「ヒビキ……?」
今彼女が名乗った苗字は、どこかで聞いたことがあった。
ホウオウをモンスターボールに入れているところからもしやとは思うが……
だが、確証は得られない。
彼女の名前や身なり、容姿はハートゴールド、ソウルシルバーにおける主人公のグラフィックとは明らかに異なっているのだ。
「迷い込んできたポケモンを捕まえて返す為? なんで? 本物のポケモンが僕達の世界に来てくれたら嬉しいけどなぁ…… スピアーやダストダスみたいなのは怖いけど」
のび太だけは彼女のフルネームを聞いても何も思わず、ただその行動目的だけを気にしていた。
この世界におけるポケモンの顕現を肯定するような彼の発言に、ツバサは「馬鹿ね」と冷たく返す。
「基本的にどのポケモンも相手側から何かしない限りは大人しいけど、ダストダスみたいに慣れない環境のせいで暴走することもある」
『さらにポケモンが自然界に降り立てば、人間を除く動物達はたちまち絶滅することとなる。生態系は確実に崩壊の道を辿るだろう』
「それに、本来居る筈のない世界にポケモンが居ると、次元そのものが歪むの。放っておけば私達の世界や他の異世界までおかしくなるんだって」
「歪む?」
あるべき場所に返さなければ大惨事が巻き起こることになる。
SF映画でありがちな話であるからか、不思議とのび太達は彼女らの説明に集中して聞けていた。
『ツバサのバクフーンまでのレベルのポケモンならば歪みは発生せずに済むが、その数が十にも百にも上れば話は変わる。
早急に捕獲し、我々の世界へ返さねば次元中に悪影響を及ぼしかねない』
「それを防ぐ為に私達はこの世界へ来たってわけ」
「……ってことは、君達は僕達の世界を守りに来てくれたってこと?」
『そうとも言えるな』
のび太のような少年には難しいことはさっぱり分からないが、この世界に迷い込んできてしまったポケモンを放っておくと大変なことになる、ということは理解出来た。
彼女らはその大変なことが起こらないようにする為に、ポケモンの世界から彼らの世界へと舞い降りたのである。
「じゃあ君はそんなことをたった一人で?」
「そうよ。まあホウオウに色々手伝ってもらってることもあるけど」
大人の手も借りず、自分達と同じ年頃の少女がそのような大役を買って出ていると言うのだ。
「次元の歪みの大きさはお前達が見た通り小さくて、とても大人が入れる大きさじゃない。だからその役目は私が適任なんだってさ」
『うむ』
小さい穴を通って世界と世界の間を往き来する為には、その者の体長もある程度制限されるということだ。
少女の足の先から頭の頂まで見上げたところで、出木杉が思わず薄ら笑いを浮かべる。
「ツバサちゃん、色々小さいもんね」
「余計なお世話よ!」
彼の暴言を受け、ツバサは目尻をつり上げる。
彼女は色々小さいことを気にしているのだろう。それを分かっている上で、あえて出木杉はそのような無神経な発言をしたのだ。
人それをセクシャルハラスメントと呼ぶ。
幸いにも他の四人には彼女の色々小さいものが身長以外に思い当たらなかったようだ。
「もう良いわね? 説明はこれまで。
そもそもなんで次元の歪みが生じたのかとかは私にも分からないから質問しないでよ」
「う、うん」
「何となくだが分かったぜ!」
「詳しく教えてくれてありがとう」
ツバサによる説明の時間が終了したところで、その場の緊張感はたちまち消え去り、五人の少年少女は楽な体制に戻った。
この時、彼らの中にはある決意が芽生えていた。
野比のび太が代表してその決意を公言しようと畳を立つと、彼より先にツバサが口を開いた。
「お前達、ドラーモンって知ってる?」
数瞬、空気の流れが停止する。
その言葉が彼女から五人へ向けられた質問だと知るまでは時間が掛からなかった。
『ドラモーンではなかったか?』
「そうだった? ドラモンとも聞いたような気がするし……」
「……ドラえもんのこと言ってるの?」
「そうそんな名前っ!」
思わぬ状況でその名前が出るものだ。
控えめに吐き出されたスネ夫の声に彼女は納得したような、もやもやしたものが吹き飛んだような清々しい顔で応える。
「お前達、そのドラえもんっていう奴のこと知ってるの?」
「いや、知ってるも何も…… ねぇジャイアン?」
「ああ、なあのび太?」
一体何故彼女が突然あの青色の自称猫型ロボットのことを質すのかは分からないが、彼らは皆ドラえもんの名を知っていることに変わりはない。
知っているどころか彼は友達。
野比のび太にとっては同居人でもあるのだ。
のび太自身の口から教えると、彼女は目を驚きに目を見開いた。
「えっ? ドラーモン、じゃなくてドラえもんはこの家に住んでるの!?」
「う、うん。そうだけどドラえもんに何か用があるの?」
予想もしていなかった彼女の反応に戸惑いつつ、のび太は疑問に思ったことを口に出す。
すると、彼女は嬉々として答えた。
「この町に来る途中で聞いた話なんだけど、ドラえもんっていうのはどんなことでも出来るロボットなのよね?」
「まあ一応……」
「次元の歪みの補修、っていうより修復作業を頼みたいのよ。虹色の羽根を使えば補修は出来るけど完全には修復出来ないから」
『噂によれば新しい世界を創造することも可能だという話ではないか。それが本当なら歪みの修復など容易いだろう?』
「ドラえもんなら出来ると思うけど……」
彼女の強い調子に圧され、のび太の口調は尻下がりにしぼんでいく。
対照的に、彼女は喜びを露にして胸元に下げた金色のボールへと語り掛けた。
「捜し出す手間が省けたわね、ホウオウ」
『よもやこうも簡単にたどり着けるとは。ドラモーンの力を借りることで、この問題も早急に解決されることだろう』
……何か、ドラえもんという存在を偉く過大評価されているような気がする。
二人は彼のことをどんな願いも叶えてくれる神様とでも思っているのだろうか?
それも間違いではないが、のび太にはどこか違う気がした。
神の如き力を持っているが、肝心な部分が抜けているというのがあの青い友達なのだ。
「それで、ドラえもんは今ここに居ないみたいだけどいつ帰ってくるの?」
「あ、ああ…… さあいつになるかなぁ……?」
「なに? 分からないの?」
「ご、ごめん。そのうち帰ってくると思うけど……」
ただいま彼は定期健康診断の為、本来の居場所である二十二世紀の未来に居る。
この時代に帰還するのはいつになるかまでは、のび太も詳しく聞かされていなかった。
頼りない彼の態度にツバサは軽く柳眉を逆立てる。
この数分間、彼女はどれだけ多く感情を変化させたのだろうかと一同は振り返るが、中々思い出すことは出来なかった。
「まあ…… 帰ってきたら連絡でも寄越して」
「待って!」
踵を返し、ツバサが部屋を立ち去るべく扉を開いたところで、背後からの耳当たりの悪い声によって彼女は呼び止められる。
そちらに目先を向けると、畳の上に彼女と前髪の尖ったセミリーゼントヘアーの少年が佇んでいた。
「どこ行くの?」
「ポケモンの捕獲と歪みの補修よ」
『理由は不明確だが、この東京という町には他の町とは比較にならないほど多く次元の歪みが確認されている。当然だろう?』
突き放すような冷たい口調で、その言葉がスネ夫の胸に響く。
そして彼の決意はより一層固まった。
「ツバサちゃん一人でやるの?」
「今までだってそうだし、ホウオウも居る。……ていうか、なんでお前がそんなことを気にするのよ」
「手伝いたいと思ったからさ!」
裏山で出会った時見せた鬱陶しがるような素振りを受けても、スネ夫は一歩も下がらず言う。
それと同時に今まで周囲で座っていた三人の少年と一人の少女が一斉に立ち上がった。
「俺も手伝うぜ! そんな面白そうな話聞いて大人しくしている俺様じゃねぇ」
「僕も手伝うよ。そんなの一人じゃ大変でしょ?」
「私も同じ気持ちだわ」
「自慢じゃないが僕はポケモンのゲームでは負けたことがない。君の助けになれる筈だ」
スネ夫に続き、ジャイアン、のび太、静香、出木杉の順に思いを告げる。
ポケモンがこの世界に存在する理由と存在する際に生じる害を知った今、彼らは明日からも普段通り平穏な日々を送る気にはなれなかった。
それぞれ個性的な性格であるが、彼らは共通して人一倍の正義感というものを持っているのだ。
「な、なんなのお前達……?」
彼らの動きは予想を大きく裏切り、ツバサの精神に揺さぶりを掛けた。
それに構わず、セミリーゼントの少年が今再び頼み込む。
「手伝わせてよ。一人より六人の方が楽でしょ? ドラえもんが加われば七人だ」
「そんなことしたって見返りは何も無いわよ。お前に特は……」
「君の助けになれれば、それが僕にとって一番のお特さ」
「スネ夫……」
「君もフラグ建築士だったのか……」
半端な気持ちではなく、スネ夫を始め彼らは皆強固な意志を黒い瞳に覗かせている。
金色の瞳の少女はたじろぎ、彼女の瞳と同じ色をしたモンスターボールに対し小声で呟いた。
「貴方が詳しく説明してやれって言うから、面倒なことになっちゃったじゃない……」
『母方の言い付けより、我は保護者としてお前に赤の他人との対話を経験させたかっただけに過ぎん。予想外な事態ではあるがな』
「もう……」
よくも余計なことを言い付けてくれた。
悪態をつきながら、ツバサは顔を上げて五人の少年少女と向き直る。皆真剣な眼差しで彼女の目を見つめていた。
「……良いわ。でも条件」
「良いの!?」
「条件って?」
彼らの言う通り、迷い込んだポケモン達の捕獲と次元の歪みの補修という作業は、少女一人の身ではやや厳しいものがある。
見返り無しで手伝ってくれるならば、それはありがたく受け入れても良かった。
だが彼らは「手伝い」と簡単に言うが、実際問題この作業は危険を多く伴うものだ。
人を超えたポケットモンスターという怪物を相手にする活動なのだから、支局当然な話である。
仮に彼らがポケモンに襲われて命を落としたとしても、彼女には何の責任も取れないのだ。
故に、彼らにはある程度の能力が求められた。
ポケモントレーナーとしての能力が。
「これ、モンスターボール。お前達に預けておくわ。はい」
「おっと」
五人の中で最も知性が優れていると思われる顔作りの良い少年に、赤と白のツートンカラーのボールを投げ渡す。
「その中に入っているポケモンを何日かけてもいいから進化させて。それが出来たら手伝うのも認めてあげる」
詳しいことは話さず、ツバサは部屋の扉を全開にし、廊下へ足を踏み出す。
既に少年少女の興味は美少年が抱えているモンスターボールに注がれていた。
「この世界にはコンピューターゲームのポケモンバトルっていうお遊びがあるみたいだけど、実際にやるポケモンバトルはそんな簡単なものじゃないからね」
『我々を手伝うと言うならば、覚悟以上に相応の腕前が必要だということだ』
言いながら、ゴールドボールを首元からペンダントのように吊り下げたツバサは、階段を一段ずつ下っていく。
玄関までの道中で家主と出会すと、彼女は慣れない動作で会釈し、そのままドア口から立ち去っていった――。
部屋の中に取り残される形となった五人。
出木杉は初めて味わう本物のモンスターボールの感触に、軽い興奮状態へと陥っていた。
大人気ゲームソフト、ポケットモンスターが現実の世界で……
しかも、それが今手の内に居るというのだ。
実年齢より精神年齢の高い彼にとっても、それは興味以上の対象であった。
「出してみろよ」
「分かってる……」
ジャイアンに催促され、出木杉はボールの中心部のスイッチを押す。
上下に開いた口の中から、目映い光と共に夢の生命体が放たれた。
「コココココココココ……」
色鮮やかな赤い鱗に、ナマズのような長い髭。
見るからに水中を生息地としていると思われるその外見は、ナマズと言うよりコイと称した方が近いだろうか。
魚類よろしくまぶたの無い目を天井に向けてビチビチと音を鳴らしながら跳ね続ける姿は、お世辞にも格好の良いものとは言えなかった。
そのコイ――はポケモンの一種であり、本来この世界に存在する筈のない生き物である。
しかし、どうしてだろう。
どうしてこう何一つ夢も希望も沸き上がってこないのだろうか。
「コイキングじゃん……」
このポケモンの名を、彼らは皆存じていた。それもその筈、このコイキングという間抜けの代名詞とも言えるポケモンは、彼らが知っているポケットモンスターシリーズの全てに登場する存在なのだから。
だからこそ、現実世界にてその姿を認めた時の失望感は言いようにないものとなった。
「確か、この子を進化させないといけないって言ってたわよね?」
「とてもじゃないけど夏休み中には終わりそうにないな……」
ただ二人、頭の良い出木杉と静香は気づく。
あの少女、ツバサは遠回しに自分達に「これ以上関わるな」と言っているのだと。
それは彼らの善意による協力への拒絶であった。
投下終了
本格的に物語が始まるのは次回からになります
おつー
(´・ω・`)つ[ふしぎなアメ]
乙、ドラーモンとか懐かしいなww
シリアスな話中になんでキシリトールの話がwwww
小学生では色々小さいのは仕方ないだろ・・・w
age
保守
捕手
地震心配・・作者さん無事ですか?
静岡県民なので今のところは……
この土日の間に投下したいですが、遅れるかもわかりません。
ああ、無事でよかったです・・
楽しみにしていますので、無理はなさらないで下さいね
ありがとうございます…
それでは投下します
日が沈み、月が昇り、夜が始まる。
各自の門限により出木杉達はそれぞれの家に帰宅し、彼らと入れ替わるようにのび太の父、のび助が仕事から帰ってきた。
程なくして食卓に夕食が並べられ、野比一家は集結する。
居候のドラえもんは居ないが、一人よりも三人の方が心地良い。
その上母親の手料理の味は申し分ないものだというのに、何故だか箸は進まなかった。
「どうしたのび太? どこか具合でも悪いのか?」
いつもより食欲の見えない息子を心配したのか、のび助がのび太の体調を伺う。
「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけ……」
のび太は食欲が無いわけではない。
言葉通り、箸を持つ指を動かすよりも思考を動かすことの方に徹していただけだ。
この世界に、ポケモンが存在する。
まるで人が作った漫画や小説のような非現実的な話である。
もし存在その物が非現実の塊であるあの猫型ロボットと出会っていなければ、そういった事実を混乱せず聞き入れることは難しかったかもしれない。
逆に彼のおかげで現時点で思考を整理することが出来たと言えた。
考えることはまだ山積みだが、とりあえず今は食事を取ることが先決だ。
箸で掴んだ食べ物を口の中に放り込み、細かく噛み砕いて喉へ通す。
美味である。平凡な家庭の味であるが、のび太はその平凡こそが最も自分の舌に合っていると感じていた。
また次の料理を見据え、身を乗り出してそれに箸を伸ばす。
するとその時、突然彼の目の前から光が消えた――。
天井から部屋を照らしていた電灯が、不意に機能を停止したのだ。
「うわ、真っ暗だ」
「また停電? 電気なんかあまり使ってないのに、おかしいわねぇ……」
母、玉子が冷静に停電の発生を把握する。
彼女が言葉の頭に「また」を付けたのは、のび太が空き地へ向かう直前にも同じように停電が起きたからだ。
「配線が切れてるんじゃないか?」
「そうなのかしら…… のび太、ちょっと見てきて」
「ええっ? 僕が?」
「このままじゃ、ご飯食べられないでしょう? 懐中電灯なら玄関の所にあるから」
「はーい……」
暗闇の中でも簡単に意志疎通が行えるのは親子としての長い付き合い故か。
気が乗らないものの、家内における自分の立場をわきまえ、のび太は懐中電灯を取るべく玄関へと向かった。
電気を供給する配線を調べる為、のび太は一人脚立に上がり、一階の天井裏を覗き見る。
懐中電灯からの光によって、その状況をはっきりと確認することが出来た。
「あれ? 意外にきれいだ……」
天井裏など元々、掃除の行き届かない場所である。
辺りには大量の蜘蛛の巣が張り巡らされ、害虫やネズミなどの住み処となっていることだと予想していたのび太は期待を見事に裏切られてしまった。
衛生的とまでは言えないが、懐中電灯の光が及ぶところに目立った汚れは見えない。
自分の部屋と比較しても大差無いように見えた。
少なくとも、放置したままの状態であればここまでにはならない。
自分の知らない時に誰かが清掃したものと考えるのが妥当だろう。
(ママが掃除したのかな……?)
一体誰がこの天井裏を清掃したのか、それを考えながら懐中電灯を配線へと回していくと、彼の視界に一瞬だけ黄色い「何か」が映った。
「えっ?」
思わずのび太は声を漏らす。
流れ作業のように見回していた為、うっかり見送ってしまった。
しかし――
今、信じられないモノを見てしまった気がする。
じっくりと確認したわけではないが、彼の五感がそう訴え掛けていた。
黄色い物体が見えた……
どうして黄色?
家内に電気を供給する配線の色は黒であり、背景の色は木造建築をそのままにした茶色である。そこに黄色が交わる筈がないのだ。
懐中電灯の有効範囲外から、ガタッと何かが動いたような物音が聴こえる。
例の物体を見た方向だ。
「……ネズミ?」
青き親友が憎悪を抱くほど嫌う存在の姿が脳裏を過る。
一瞬だけ見えたその物体は小動物のような大きさで、床下や天井裏、屋根裏などを生息地としているあたりもネズミと疑わしい。
だが、のび太は即座に否定する。
ハムスターならばともかく、色鮮やかな黄色のネズミなど見覚えが無いからだ。
推測するよりも実際に目で見た方が早い。
好奇心に駆られ、のび太はおそるおそる懐中電灯を動かした。
その光が再び黄色い物体を捉えたところで、彼は直ちに腕を止める。
目を見開いて凝視する。
そして彼は正体を特定した。
一言で言えば、それはネズミだった。
しかし、ネズミはネズミでも、家庭から嫌われるだけのただのネズミではない。
黄色いネズミ―― もちろんハムスターでもない。
確かにネズミではあるのだが、大きさは同類と比べれると随分と大きい。
ネズミと言うよりも、子ウサギに近い大きさである。
しかし、それでもそこに居たのは間違いなくネズミだった。
黄色い体に、黒が混じった大きな耳。
太く短い尻尾もまた、黒い体毛に覆われている。
外見の中で目を引き付けるのは、愛くるしい円らな瞳と赤い頬。
誰も見たことは無いが、多くの子供達は知っている。
架空の生命体、ポケットモンスターの一匹なのだから。
「ピ…… ピピ、ピチュー!?」
懐中電灯の光が捉えたのは、現実の世界には存在しえない生き物だった。
驚愕を露にしたのび太の叫び声が天井裏の世界に響き渡る。別室に居る両親の耳にも届く声量であった。
「どうしたののび太?」
「だ、大丈夫だよっ!」
この黄色いネズミを見せるわけにはいかない。
何事かと心配する母の声に応答し、その間に平静を取り戻す。
「……君、ピチューだよね?」
「ピッ?」
のび太がピチューと呼ぶ黄色いネズミは首を傾げながら、天井裏に上半身だけ出した格好の彼の姿を見つめる。
鳴き声までもテレビアニメで見るポケットモンスターと全く同じだ。
「じゃあもしかして、停電を起こしたのは……」
尋ねるまでもない話である。
停電は間違いなく、コイツの仕業だ。
とりあえず両親にはネズミが配線をかじっていたとでも報告しておけば良いが、さてどうしよう?
ポケモンがこの世界に存在していることは知っているが、この家に存在しているということは疑いもしなかった。
「一体いつから…… まあ、いいか」
深く考えなければならない状況とは思うが、のび太は考えることをやめた。自分だけで物事を考えることに限界を感じたからだ。
それと、この愛らしいぬいぐるみのような生き物を目にしている間は、余計なことを考えたくないという思いが強かった。
「そんなところに居ないでさ。こっちにおいでよ」
ダストダスやスピアーとは違い、このポケモンには人の心に癒しを与える可愛らしさがある。
たちまちのび太の中から警戒心が消え去り、彼は黄色いネズミ――ピチューの元へ両手を差し伸ばした。
相手は四足で駆け出す。
しかしその小柄な体は、のび太の手によって受け止められることはなかった。
「へぶっ!?」
のび太の両手を飛び越え、ピチューは助走の勢いを殺すことなく彼の顔面に体当たりしたのだ。
バランスを崩し、危うく脚立の上から転げ落ちそうになるのび太。
その様子を面白がり、黄色いネズミは盛大に笑う。
体制を立て直し、再び懐中電灯と両目を前方に向ける。
ただのネズミならばともかく、ピチューというネズミはポケモンの一種だ。人間の言葉なら理解してくれる筈だと判断し、のび太は面と向かって喋り掛けた。
「いきなり痛いじゃないか! ……って、うわっ?」
のび太の声を無視し、ピチューは再び彼の元へ飛び掛かる。
しかし先のように体当たりすることはせず、彼の頭の上へと足を着けるだけだった。
飛び掛かると言うよりも、飛び乗ったと言うべきだろう。
のび太の頭の上に乗ったピチューは、彼の髪を引っ張るなり暴れ始めた。
「い、痛いよっ! それに重いから……」
人間に対する好奇心か、あるいはのび太が舐められているだけなのか。
ピチューからはなまじ邪気を感じないだけに、厳しく当たることも出来なかった。
街灯だけが明るみとなる暗闇の道路。
炎の力を司るポケモンが、一騎当千の活躍で五匹の小動物を一掃する。
戦いを終えた後は傍に居る人間、ポケモントレーナーの役目だ。ほぼ瀕死状態となった小動物、コラッタ達の元へ金色の瞳の少女がゆっくりと歩み寄る。
「ネズミポケモンは夜行性だから、随分と派手に動き回ってくれたわね」
『誰にも見つかることがなかったのは僥幸であろう』
「そうね」
左肩から提げた鞄の中に手を入れ、少女は一つずつ空のボール――捕獲用のモンスターボールを取り出していく。
そしてすぐさまそれを動けないコラッタ達に向かって投げつけた。
「……流石に今日はちょっと疲れたな……」
五匹全ての捕獲が完了した後で、彼女は気の抜けた呟く。
危険が多い深夜0時の夜道を十一歳の少女が一人で歩き回っているということ自体、この世界では異常である。警察官がパトロールに回っていれば、直ちに彼女は補導されていただろう。
しかし彼女、ツバサにとって暗い夜道など恐るに足らず、寧ろ涼しい上静かで居心地が良いとさえ感じていた。
「……それにしても、なんだってこの町はこんなにポケモンが多いのよ」
『今日、いや、昨日捕獲した数の十倍はこの町に存在しているようだな。確かに他の町とは比較にならぬほどの数だ』
「十倍も!? 昨日の数だけでも他の町より多かったのに……」
端から見れば怪しい独語にしか見えないが、ツバサには話し相手が居た。
胸元にぶら下げた金色のモンスターボールがそれである。
モンスターから送られるテレパシーを聞き取り、彼女はその内容に衝撃を受ける。
「どうしてそんな数のポケモンがこの町に集中しているの?」
『次元の歪みが多数存在するから多数のポケモンが迷い込んでしまったのか、多数のポケモンが迷い込んでしまったから多数の次元の歪みが生まれてしまったのか……
我にも解らぬが、少なくとも自然的なものではないようだ』
「人為的だってこと?」
『この町に居る何者かがポケモン達を呼び込んでいると考えれば、つじつまが合う』
厳格な父のような重く淡々とした口調は、言葉の上に強い説得力を乗せていた。
故に、彼の意見は当てに出来る。
「誰かって何? もしかして……」
ツバサはこの世界を訪れてからたった一人とポケモン達だけで一ヶ月ほど旅を続けてきた。だからこそ、この町における異常な事態がどうにも気に掛かっている。
彼女の疑問に、金色のモンスターボールは曖昧な返答を寄越す。
『おそらくはこの世界と我々の世界の次元を繋げた張本人だろう。確証は無いが……』
「ただの人間が次元に穴を開けることなんて出来るの?」
『ポケモンの力を使えば容易いことだ。しかしそれはこの世界からでなければならぬ。我々の世界から異世界への扉を開くという行為は、「空間の神」でなければ理論上不可能なことだ』
話の複雑さを理解したところで、ツバサは彼の言葉を要約する。
「つまり私達が来るずっと前からこの世界にはポケモントレーナーが存在していて、私達の世界とこの世界が繋がったのは元々そいつの仕業だって言うの?」
『そしてその者は今、この町に居る。定期的に次元の歪みを生み出しては多数のポケモン達を呼び込んでいるようだ』
言っていることが無茶苦茶だ。
そもそもどうしてポケモンの居ないこの世界に、以前からポケモントレーナーが存在していたのかという疑問が残っている。
次元の歪みを通じなければ二つの世界を行き来することは不可能だというのに。
「色々考える余地はありそうね。面倒なことになりそう……」
『なおのことドラエ・モーンの協力が必要になったか』
「ドラえもんよドラえもん。マリル型宇宙人の」
『タヌキ型ロボットと聞いたが?』
「……どっちでも良いじゃない。でも確かに、私達だけじゃ厳しい戦いになるかもしれないわね」
自分は一人では解決出来ない問題と直面したのかもしれない。
だからこそ強力な助っ人の存在を欲しているのだが、彼女の頭に昨日会った少年少女の姿は無かった。
投下終了
コイキングの行方は後ほど
乙です
いや、その「空間の神」の仕業と考えるのが一番自然な気が・・
保守
他の読者は無事なんだろうか
ノ
ネットできないだけで無事って人もきっといる!!
保守
age
178 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 01:30:33.21 ID:Ad0OZyRXO
投下させていただきます。オリジナル主人公のストーリーですので嫌いな方は見ない方が良いと思います。
179 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 01:31:52.46 ID:Ad0OZyRXO
「おい、のび太!! 今日の放課後 空き地に集合だぞ!! ポケモン忘れんなよ!!」
「今日こそ1勝くらいしろよ〜」
学校のガキ大将 ジャイアンとその友達のスネ夫がのび太に集合をかける。
「わかったよ!!」
それにのび太は大きく答えてからランドセルを背負って家に帰る。
「のび太君、今日も空き地かい?」
青いタヌキの様な未来のネコ型ロボット、ドラえもんはDSを片手にのび太の部屋で待ち構えていた
「うん、ドラえもんも行くでしょ?」
「もちろんだよ!!」
ドラえもんはのび太にDSを手渡し、のび太と一緒に部屋を飛び出した。
「のび太君、今日は勝ちなよ?」
「わかってるよ!!」
のび太達が空き地に集まる理由、それはポケットモンスター・ブラック、ホワイトで対戦する為だ
「いっつも全戦全敗だからね、今日は勝ちたいよ」
ちなみに集まっている面子はのび太、ドラえもん、静香、スネ夫、ジャイアン、出木杉、そして咲兎(さくと)
咲兎って誰? と思ったでしょうが気にしないでください、後に説明します。
180 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 01:32:41.45 ID:Ad0OZyRXO
「皆〜お待たせ!!」
空き地に集まっている何時ものメンバー
「のび太! 遅いぞ!」
既にスネ夫と対戦を初めているジャイアンはのび太を軽く怒鳴る
「ごめんごめん……あれ? 咲兎君は?」
「咲兎は少し遅れるってよ」
「そうなんだ、よし!! 出木杉君、勝負だ!!」
のび太は静香と話していた出木杉にDSを突き出す。
「いいよ、新しいポケモンを試してみたかったんだ」
出木杉もDSを取り出す。
「じゃあドラちゃん、相手してくれる?」
「もちろんだよ。」
そして、のび太と出木杉の対決が始まる!!
「いくよ!!」
「いざ勝負!!」
181 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 01:33:24.23 ID:Ad0OZyRXO
のび太達の間での暗黙のルールがある。
3対3のシングルマッチ
伝説のポケモンは1匹のみ同じポケモンは使ってはいけない。
のび太のポケモンは自前のダイヤモンドからエンペルト
出木杉はトゲキッス
「初めて出木杉が使うポケモンだね……でも、僕には関係無いよ!!」
エンペルトのハイドロカノン!!
トゲキッスの体力は3分の1くらいに削られてしまった。
トゲキッスの電磁波!!
エンペルトは麻痺してしまった。
「よし! 次の攻撃で倒すぞ!」
「ふふふ……それはどうかな?」
トゲキッスのエアスラッシュ!!
そこまで大きなダメージは無い
「エンペルトは硬いんだ!」
「もちろん知ってるよ」
エンペルトは怯んだ!!
182 :
草薙 ◆ILoveYOuIM :2011/03/20(日) 08:56:45.04 ID:hRLv8d520
「ちっ、運のいい奴め!」
「さあ、また僕の攻撃だよ」
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
「くそっ、くそっ」
目を開かせて悔しがるのび太。
「まずい、のび太君ったら冷静さを失ってる」
「落ちついてのび太さん!」
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
「ちくしょう!どうして僕がお前みたいな奴に……」
「ふふふ……」
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは麻痺して動けない!!
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
「やめろよ……もうやめてよ!」
「うっひゃっはっはっは」
泣き叫ぶのび太に対し奇怪な笑い声をあげる出来杉。
183 :
草薙 ◆ILoveYOuIM :2011/03/20(日) 09:04:27.03 ID:hRLv8d520
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
トゲキッスのエアスラッシュ!!
エンペルトは麻痺して動けない!!
「出来杉の奴……特攻を最低値にしてるんだ」
「ひどい、とどめを指さずに楽しんでるよ!」
「やめて、英才さん!」
「これじゃあ、なぶり殺しだ!」
「まだだ……本当のお楽しみはこれからさ!」
トゲキッスのメロメロ!!
「そこまでだ!」
そのとき、公衆トイレから半裸の男が飛び出してきた!
鹿児島育ちの咲兎だ!
「波ーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ボンッ!!
咲人は手から気孔波を繰り出して出来杉のDSを手ごと爆散させた。
◆ILoveYOuIM (#xjqWkCu5)
185 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 22:49:52.83 ID:Ad0OZyRXO
「運がいいな……だけど次は!!」
エアスラッシュ!!
エンペルトは怯んだ!!
「つっ……次は!!」
エアスラッシュ!!
エンペルトは麻痺して動けない!!
「…………」
エアスラッシュ!!
急所に当たった!! エンペルトは倒れた!!
「くそっ!」
次の のび太のポケモンはエレキブル
「今度はそうはいかないよ!!」
エレキブルの雷パンチ!!
効果抜群!! トゲキッスは倒れた
「次はこいつだよ」
次の出木杉のポケモンはポリゴンZ
エレキブルのクロスチョップ!!
急所に当たった!! 効果は抜群だ!!
186 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 22:50:30.66 ID:Ad0OZyRXO
「あれ? なんで耐えれたの?」
「気合いの襷さ」
ポリゴンZの破壊光線!
エレキブルは倒れた!
「これが僕の切り札だ!!」
のび太の切り札、それは
「行け!! エンテェェイ!!」
赤いたてがみの様々な意味で有名なポケモン エンテイだ、ちなみに色違いのでは無い
「…………」
出木杉は一瞬 固まった
「ふっふっふ、どうやら驚いて声も出ないようだね」
そして、出木杉とのび太の後ろでジャイアンとスネ夫は笑っていた
「……うん」
出木杉は優しく微笑んだ、優しい彼にはのび太の純粋な気持ちを笑う事は出来なかった。
エンテイの炎の牙!
ポリゴンZは倒れた
187 :
草薙 ◆7URfw5wlqw :2011/03/20(日) 22:51:08.86 ID:Ad0OZyRXO
「よし!! これでお互いに残り1体だ」
「最後のポケモンはこいつだ!」
出木杉の最後のポケモンは3犬でかなりの人気を誇る伝説のポケモン スイクン!!
(まずいな……スイクンに炎の牙はあんまり効かないし……)
素早さならばエンテイの方が上、のび太が選んだ技は
「いっけぇぇ!! 破壊光線!!」
…………スイクンのHPはあまり減らなかった。
スイクンの波乗り!
エンテイは倒れた!
「…………」
のび太はショックで軽く放心していた。
「野比君……今のはギガインパクトの方がまだよかったと思うよ。」
(だからエンテイはやめてた方が良いって言ったのに……)
ドラえもんは呆れながらのび太を見ていた。
「皆、ごめん! 遅れちゃった!!」
そんなタイミングで空き地にやってきた男
>>188 酉解析してる俺かっこいいとでも思ってんの?
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嵐には「死あるのみ」ってコ・ト・ネ◆∀∀∀
194 :
名無しさん、君に決めた!:2011/03/21(月) 12:33:12.47 ID:4V6QF5NrO
草薙氏乙
それでは自分も投下します
「Zzz……」
夏場であろうと、セミがどれだけ鳴き続けようと、気温が三十度を超えようと、野比のび太の布団は変わらない。
いつもと変わらず、十時間を上回る睡眠時間である。
学校が休みとは言え、いや、休みだからこそ睡眠に時間を費やすのは非効率的であるという考えは爬虫類の毛ほども無い。
趣味は寝ること。それが野比のび太だ。
しかし今朝―― もとい今昼ではその趣味を妨げる存在があった。
「へぇあっっ!?」
布団を蹴り飛ばしながら安らかに眠るのび太の腹に、何か重いモノがのし掛かった。
不意に与えられた苦痛に彼は開眼し、枕元に置いた眼鏡を掛ける。そして仰向けた体制のまま自らの腹部に目を下ろした。
――そこには彼の腹をトランポリンのように見立てて跳び跳ねる、黄色い小動物の姿があった。
「ピ、ピチュー…… いっ、痛いよ……」
小動物と言うよりも小悪魔と言うべきか。のび太の苦悶の表情を楽しむように、不敵な笑みを浮かべていた。
飽きるまでのし掛かった後、ピチューと呼ばれた黄色い小動物は彼の手によって退けられる。
深く息を吐き、のび太は呼吸と精神の安定を整える。
すると、部屋の中に存在する第三者の声が聴こえてきた。
「…スー……スー……」
言葉ではなく、寝息である。自分やジャイアンのような汚ならしいいびきではなく、透き通るような寝息。
のび太は既に覚醒を促されている為、その正体は彼ではない。
――誰っ!?
まさか彼が、ドラえもんが帰ってきたとでも言うのか。
だがドラえもんはこのような綺麗な寝息をたてることはない。
(強盗!? うちに盗る物なんて無いよ!?)
一体どうして強盗が彼の部屋で眠るのか、いや、眠るわけがない。即ち、この寝息の正体は強盗ではない。
しかし、頭脳の弱い彼がその結論に行き着くことはなかった。
冷や汗を垂れ流しながら、彼は恐る恐る寝息の正体へと目を向けた。
そこに居たのは――
そこに居たのも、小動物であった。
小動物のような、少女である。
畳の上に座りながら、壁に身を預けて眠っている。
昨日出会って別れたばかりの、白い帽子を目深に被った華奢な少女の姿がそこにあった。
「つ、つつつつツバサちゃん!?」
落ち着き始めたのび太の精神は再び乱れ、彼はその場から全速力で遠ざかり、その勢いで後方の壁に頭を打つ。
だがそんな痛みなど気にしてられない。
一体何故!
彼女がここに居て!
僕の部屋で!
眠っているのか!?
この状況への解釈が間に合わず、彼はツッコみたくてもツッコめない。
そんな心情をないがしろに、彼の脳に落ち着いた低い声が響いてきた。
『この家に伺ったところ貴様が中々起きぬから、起きるまで昨日の疲れを癒すべく彼女には眠らせてもらった。
しかし一体何故そうも驚く?』
「いや、普通驚くでしょう」
目が覚めたら隣で女の子が寝ていたら、誰だって驚く。寧ろやましいことを一切考えなかった聖人ぶりを賞賛してほしいぐらいだ。
『ツバサ、ノビノビーターが起きたぞ』
「野比のび太だよ」
「…う…んんっ…… ノビッター起きた?」
「のび太だよ。ツイッターみたいに言わないで」
自己紹介をした筈だというのにわざとなのか、覚えていないだけのか、おそらく前者だろう。
開いた目を右手で擦り、同じ手で大きなあくびを塞ぐ。
ごく自然的なその仕草を、見事に眠気が吹き飛んだのび太は小刻みに瞬きしながら見つめていた。
「な、なんで僕の部屋に?」
色々言いたいことはあるが、最も問いたい話を先に掛ける。
『ドラえもんの帰宅を確認しに参った』
「ドラーモンよドラーモン。……あれ、合ってた」
「…………………」
脳内の思考が激しく乱れたのび太とは対象的に、冷静な答えを返す金色のモンスターボール。
どうやらようやく青き友の名を覚えてくれたようだ。
「……あのさ、君の名前って確かホウオウだったよね?」
『いかにも』
「伝説のポケモンの、「あの」ホウオウなんだよね?」
『二度も名乗らす気か?』
「いやあ、その……」
金色のモンスターボールの中に居るポケモンの名を、のび太は再確認する。
確かにホウオウと言った。
彼もよく知る伝説のポケモンのホウオウだと。
それにしてはなんというか――
「なんか、人間みたいだなぁ……」
姿こそボールの中にあり、その目で直接拝むことは出来ないが、伝説のポケモンは人間と同じような感情を持ち、テレパシーを介して話してくる。
どうにものび太の中でのホウオウのイメージとはそぐわないものがあった。
そんな彼の心情を悟ってか、金色のモンスターボールは相も変わらぬ固い口調で語る。
『二十年以上もの時を人のポケモンとして過ごしていればこうもなる』
「二十年も!? ツ、ツバサちゃんいくつなの?」
「お前と同じ十一よ。変な勘違いしないでくれる?」
「だ、だよね…… ははっ」
ホウオウの言葉を「二十年以上もの時をツバサのポケモンとして過ごしてきた」という意味で解釈したのび太は一瞬背筋が凍りつき、しかし彼女からの訂正によってすぐに安堵する。
「……私とホウオウがトレーナーと手持ちポケモンとして組んだのは一年前。二十年以上一緒に居たっていうトレーナーは、私じゃなくて私の親父よ」
「そうなんだ……」
彼女の言葉を流し気味に聞き取るのび太だが、とりあえず彼女が見た目通り自分と同い年であることが分かった。
今はそれだけ分かれば十分である。
「……まあ、そんなことはどうでもいいわ。ドラえもんは帰ってきてるの?」
本題に戻ると言わんばかりに話を切り返し、ツバサはのび太に問い質す。
彼女の強い眼力に気圧されながらも彼は素直に答える。
「見た通りだよ。帰ってない」
「いつ帰るの?」
「わからないよ。連絡もないんだし」
「なら、お前から連絡を取れば良いじゃない」
「そんな無茶苦茶な……」
彼女には説明していないが、ドラえもんは今この時間軸ではなく、百年以上未来の世界に存在している。
無論電話など通じるはずがなく、連絡を取る手段は皆無…… であると思っていた。
「そうだ! アレがあった」
のび太は思い出す。
彼が帰ってくるのかは分からないが、連絡を取るだけならば可能かもしれない。
ちょっと待って、とその場に言い残し、パジャマ姿のままのび太は立ち上がる。
そしてすぐ側にあるドラえもんの寝床―― 「押し入れ」を開け、彼はその中から白い布切れのような何かを取り出した。
「何それ?」
「スペアポケット〜!」
どんな願いも叶えてくれる可能性を秘めた、夢のアイテム。
ドラえもんの片割れとも言える四次元ポケットのスペアポケットを、のび太は堂々とツバサの目の前に広げた。
その瞬間、彼女の顔面に赤らみが生じる。
まれに源静香もこの白い布切れのような何かを見た際には、そのような反応を寄越すことがある。
「そんなモノ見せないでよ汚いっ! 変態っ! 馬鹿じゃないの!?」
「これパンツじゃないよっ!? ちょっと汚いけどパンツじゃないし、だからDS投げないで! お願いだからそれだけは投げな…… へぶしっ!?」
あらぬ誤解とはなんと悲しきものか。
確かにこの白い布切れのような形は一見するとそのように見えてしまう。
そんなモノを大々的におっぴろげてしまった己の判断ミスだ。
この悲劇は二度と繰り返してはならない。
そう心に誓ったのび太は、宝物のニンテンドーDSと共に崩れ落ちた。
「……なにもあそこまで怒らなくても……」
『彼女はそういったことに関しては一切容赦が無い。肝に命じておけ』
「勝手に勘違いしたのはあっちなのに……」
「紛らわしい物出したからよ……」
数分後、彼女の誤解は無事に解けた。
しかし投げられたDSがぶつかったのび太の額には、うっすらと青アザが浮かんでいた。
さすがにやり過ぎたと反省しているのか、頭こそ下げないものの彼女の語尾に普段の力は無かった。
「……タイムテレビは、と……」
気を取り直し、のび太は白い布切れのようなもの改めスペアポケットの中に手を入れる。
目当ての物を掴み取ると、ゆっくりとそれを引き抜いた。
ポケットの何番もの質量を持つ、小型液晶テレビのような機械だ。
一連の動作を、ツバサは目を見開いて眺めていた。
「これはタイムテレビっていってね、好きな時代を見ることが出来るんだ。未来に居るドラえもんとも連絡が取れるよ」
「アバウトな説明ね。ていうかドラえもんが未来に居るって初めて聞いたわ」
『異なった時間軸の世界を容易く行き来するとは…… ドラえもんとは、噂通り神に等しき力を持っているようだ』
「はは……」
画面を操作するキーボードを適当に叩き、のび太は持ち前の勘で定めた電源ボタンを入力する。
「えっと、ドラえもんとの連絡は…… あれ? ドラえもんさんからメッセージが届いていますって?」
画面に現れた文字によると、こちらが連絡を取ろうとする以前からあちら側からこちらに連絡を寄越そうとしていたらしい。
いつの間にか頭の上に乗っていたピチューと共に、のび太はそのメッセージを読み上げる。
《健康診断は終わったよ。だけど超空間が工事中で通行止めになっているみたいで、そっちに帰るまでまだしばらく掛かりそう。
宿題は忘れずにやってね。 ドラえもんより》
超空間―― タイムマシンで時間を移動する時に通る、あの不可思議な空間のことだ。
そこが工事中で通行止めになっている。確かにそう書かれていた。
……結論から言うと、最後に書かれていた通りドラえもんはまだしばらくこの時代には帰れないということだ。
「直接話せないかな? ……駄目だ、圏外って出てくる」
タイムマシンもタイムテレビも通じないとは、これまで一度もなかったことだ。
一体どうして? と疑問が過る彼の脳に、状況を察したホウオウのテレパシーが響く。
『次元に広がった歪みが、時間を越える超空間にも影響を与えてしまったか……』
「それってマズくない?」
『既に時間の神が修復に動いているだろうが、直ちに歪みの元を叩かねば……』
「取り返しのつかないことになるわね」
テレパシーはのび太の脳にも通じているようだが、ホウオウ自身から向けられたのはあくまでツバサの方だ。
彼をないがしろにして、深刻そうな調子の声が部屋に走る。
「原因が分かるの?」
「本来存在しちゃいけないこの世界にポケモンが存在することで、次元そのものに歪みを与えてしまうって昨日説明したでしょう?」
『故に超空間は歪んだ』
「それが原因よ」
「じゃあ…… このままじゃドラえもんは帰ってこれないの?」
『うむ。無理にでもこの時代へ移動しようとすれば超空間の歪みに巻き込まれ、異次元の世界まで飛ばされてしまうだろう』
冷静な二人の言葉がのび太に対してはとてつもない重さを発揮した。
――ドラえもんが、帰ってこれない。
このままでは、もう二度と彼と会えないというのだ。
「…さてと、行くわよホウオウ」
畳の上から立ち上がり、首元から金色のモンスターボールを下げた少女は踵を返す。
頭に黄色い小動物を乗せたのび太は、彼女の背中に制止を呼び掛けた。
「どこに行くの?」
「決まっているでしょう。ポケモンの捕獲よ。とりあえず歪みの元をどうにかしないと」
「僕も行くよ!」
力強く、のび太は言い放つ。
振り向いたツバサの視線は一度彼の顔に当てられた後、頭の上の黄色い物体に止まった。
「……忘れてた」
「へ?」
のび太が言い放った言葉とは全く関係のない、ツバサの返事であった。
のび太の元へ近寄り、彼女は彼の頭の上に乗っている物体を間近で見上げる。
「そいつ、どうしたのよ?」
「どうしたって?」
「いつ、どこで捕まえたのかって聞いてるの」
今まで注目していなかった黄色い物体、ピチューについて彼に問う。
すると次の瞬間、彼女にとって思いもよらない答えが返ってきた。
「つ、捕まえたわけじゃないよ。昨日の夜、天井裏に居たところを見つけて…… それからなんかなつかれちゃったみたいで……」
「なつかれた!?」
「う、うん、多分。痛いよピチュー、髪引っ張らないで……」
普通、野生のポケモンはたとえ小さくても同族以外には気を許さず、自分から牙を剥くことがなくともなつくことはあり得ない。
一度モンスターボールに収められることで人を認め、共に生きることで理解を示し、共に力を振るうことでさらなる絆が生まれ、はじめて分かり合うことが出来る。
それが彼女の住む世界での常識だ。
しかし、彼はモンスターボールで捕まえることもなければ共に生きた時間も皆無であり、共に力を振るったわけでもなく「なつかれた」のだ。
のび太には知る由も無いが、彼はポケモン世界の常識を逸したことを成し遂げてしまったのだ。
ツバサ達にとってそれは驚愕に値することだった。
「ホウオウ、もしかしてこいつ……」
『人よりなつかれ易い、ポケモンを惹き寄せる体質か。我も薄々感じてはいたが、よもやお前の父と同じ才能を持つ者がこの世界に居たとは……』
「親父と……」
ぶつぶつと独語のようなやり取りで、ツバサとホウオウは意思の疎通を行う。
一体何に驚いているのか分からない当の本人は、頭の上で暴れるネズミポケモンの体重に悩まされていた。
ツバサは顔を上げ、語尾の強い口調で問う。
「お前、ノビッタって言ったわね?」
「のび太だよ」
「昨日言ってたけど、本当に私の手伝いをする気?」
「もちろん!」
強い決意に満ちた眼差しのまま、彼は勢い良く頷く。
期待通りの返事が来てくれたことに、ツバサは微かに頬を緩めた。
『ツバサ、まさかこの男を……』
「親父と同じ才能があるんでしょう? なら、ポケモンの扱いもきっと上手い筈よ。ムカつくけどアイツ凄い強さだったから」
『しかしそれは……』
「大丈夫よ。こいつやる気満々だし」
肩に提げた鞄の中から、ツバサは赤と白のボールを掴み取り、のび太の前に出す。その形状、その色は彼にとって慣れ親しんだものであった。
「これ、モンスターボールじゃ……」
「そうよ、空のモンスターボール。この中にそのピチューを入れたらさっさと出掛けるわよ」
「出掛ける?」
頭の上のピチューと一緒に、眼鏡の少年は首を傾げる。
早くしろ、と催促するようにツバサは彼の胸にボールを突き付けた。
「手伝うんでしょう? だったら私に着いてきなさい」
「え…… ええっ!?」
眼鏡の下の両目を丸くし、遅れて驚きの声を上げる。
先に共に行くことを頼んだのは自分だ。
しかし昨日同じ頼みに対し拒否に近い条件を出されたばかりだというのに、一体どういう風の吹き回しなのか。
ともあれのび太にとって、彼女が自分を受け入れてくれたことは嬉しい誤算であった。
次第に喜びが込み上がっていき、彼の顔に満面の笑みが浮かぶ。
「うん!」
野比のび太とヒビキ・ツバサ。
世界を越えた二人がポケモントレーナーとしてコンビを組んだ瞬間だった――。
投下終了。
ポケモントレーナーのび太誕生。
前回で空間の神を疑わなかった理由は後ほど明かします。
乙(´ω`)
乙。のび太ツイッター知ってるのかww
しかし、ポケットがそう見えるって発想はなかったww
保守
>>208 ブリキの迷宮あたりで静香がスペアポケットをパンツと間違えるシーンがあった
そして保守
>>210 へえ、サンクス。てか末尾iって何で書き込んだら出せるんだ?
そして保守
iphoneじゃね
>>210 思い付きの小ネタです
それでは投下します。割と長めです
度々乗用車が過ぎ去る道路の脇。
人通りは少ない。
真夏の太陽が照らすその道を、少女と少年の二人が歩いている。
二人が歩いていると言っても並列して仲良く歩いているわけではなく、少女を先頭に、少年が後を追い掛けるような体制であった。
「あの〜、ピチューさん? 頭の上でドングリを食べるのはやめてくれないかなぁ……」
家を出る前から進行形で頭の上でくつろいでいる小動物――もとい小ポケモンに、少年のび太は控えめに申し立てる。
ピチューが食しているドングリは、昨日学校の裏山で拾ってきた物だ。拾ってきた理由としては出木杉と静香との自由研究が退屈この上なかったから、という単純なものである。
それを気に入ってくれて、美味しくいただいてくれる分には何の文句も無い。
頭の上に乗るのももう慣れた。
しかし、頭の上で食べ物を食されることだけは慣れようにもない。
「食べカスが髪の毛に入るんだよね。食べるなら下に降りて…… ってててて! だから引っ張らないでって!」
わざとか、ピチューはのび太が困る様子を面白がっているように思える。ピチューにとってこれは意地悪をしているのではなく、じゃれているだけなのだろう。
そう思うとのび太には頭の上の小ポケモンを憎む気持ちにはなれなかった。
背後で何やら騒がしい眼鏡の少年を他所に、少女ツバサは先頭を歩いている。
すると、脳内に直接重く低い声が響いてきた。
『本当に良かったのか? あの程度の者を受け入れて』
「少しでも戦力になりそうなら、一人より二人の方が良いでしょ?」
『あの様子では足手まといになるだけだと思うが』
「モンスターボールも無しに野生のポケモンをなつかせる才能は、どこかで役に立つと思う」
当人の顔を見ずに、ツバサと金色のモンスターボール、ホウオウは彼についての意見を交換し合う。
彼女は肯定的であるが、どうもホウオウは否定的である。確かに野比のび太という少年は頼り甲斐の無い、見るからにいじめられっ子の人間だ。この場合、ホウオウの意見の方が正しいと言えた。
「まあ力が弱かったら修行させれば良いし、多分大丈夫よ」
『多分では困るのだが……』
「心配性ね、ホウオウは」
消極的なその意見はまるで我が子を想う父親のようである。
嫌いではないが、積極的な彼女とは馬が合わないところがあった。
「それにしても暑い…… 昨日より暑いんじゃないのこれ」
白い帽子を被った頭の上から照りつける日光に、堪らずツバサは悪態をつく。
彼女はもちろん、のび太もこの気温には我慢ならなかった。
「ちょっとノビルタ・ノビーテル! ここで待ってるから自販機に行って飲み物買ってきて」
「野比のび太だよ。どうアレンジしたらそうなるの。
自販機? でもお金が……」
「何? 財布持ってきてないのお前。……仕方ないわね、これ使いなさい」
肩から提げた鞄の中から財布と思わしき赤茶色の物体を取り出し、彼女はのび太に向かってそれを投げつける。
「お前の分も買ってきて良いから。だけど一円でも奪ったら…… 燃やす!」
「う、奪わないよ人のお金なんて。でもありがとう」
「……長丁場になるから。脱水症状にでもなられたら困るのよ。早く買ってきて」
「うん」
雑用に慣れていると言ったところか、ツバサの注文から行動するまでに掛けた時間は思いの外早かった。
どうやら野比のび太という男、プライドの欠片も無いらしい。
数分後、意外と近場にあった自動販売機から、のび太は自分用とツバサ用の飲み物を購入する。
ラベルに「健康美茶」と書かれたペットボトルを両手に、彼は彼女の待つ場所へと駆けていく。手に持った二本のペットボトルは、気のせいか温く感じた。
しかし出迎える彼女の態度は決して温かくなかった。
「遅いっ! もう喉からからよ!」
「ご、ごめん」
随分と早く帰ってきた筈なのだが…… と心で思っても口では言わないのび太。
自販機は近場にあったのだが、肝心の彼の足が遅すぎたのだろう。
だがそれ以上彼を責める利点が無いと判断したらしく、ツバサはさっさと彼の手から財布とペットボトルを回収した。
「お茶にしたの?」
「好みがわからなかったから……」
「ふーん」
本当はジュースが良かったのだろう。ペットボトルを見つめる彼女の目は嬉しそうとは言えず、しかし冷めているわけでもなかった。
申し訳ないと思う半面、それなら注文を言ってくれれば良いのにと反発したい気持ちが宿るのび太。
そんな彼の気持ちを無視してツバサは時計回りの反対方向にフタを回し、ペットボトルの口を開ける。
そして渇いた喉を一瞬で潤すであろう冷たいお茶を、彼女自身の小さな口へと流し込んだ。
その時である。
「うう゛っっ!?」
口に入れたお茶を逆流させて噴き出し、その口を抑えて地にしゃがみ込む。
いや、悶え苦しむようにうずくまった。
何事かとのび太は血相を変え、彼女の元へと慌て駆け寄る。
まさか、このお茶には即効性の猛毒が盛られていたのか!?
そういったまずあり得ないことを考えてしまうほど、お茶を飲んだ彼女の反応は異常だった。
うずくまりながら十数回ほど咳を込み、呼吸を落ち着かせようと深く息を吸う。
そんな彼女に何か自分が出来ることはないかと考えた末、のび太は彼女の背中を擦ってあげることに決めた。
しかし親切心から来る彼の右手は、弱々しい彼女の震え声によって制止させられる。
「お、お前…… なんでホットドリンクなんて持ってくるのよ……」
「ホット? ホットって、ええっ!?」
「…こんなに暑いのにお…お前は……! ホウオウ…… コイツもう燃やしてやる…… ていうか消し炭にして……」
顔を上げ、のび太を睨み付ける金色の瞳には微かに涙が溜まっていた。彼女は相当な猫舌のようだ。
「ちょ、ちょっと待って! こんな暑いのに熱い飲み物売ってる自販機が悪いんじゃ……」
「確認すれば良いじゃない! どうやったら間違えるのよ馬鹿っ! だいたい手に握ればわかるでしょ!」
「君だって飲むまで間違えてたんじゃないか……」
どっちもどっちと言うか、誤ってホットドリンクを購入した野比のび太も、それを確認せず飲んだツバサも、全く気付かなかった二人があまりに間抜けだったと言うしかない。
第三者としてホウオウは、二人の情けない喧嘩の行方を金色のモンスターボールの中から静観していた。
しかし、彼らの愚かなやり取りは途中のまま放棄されることとなる。
『ツバサ、来るぞ』
二人の脳内に、ホウオウからのテレパシーが介入する。
その瞬間、ツバサの表情が普段の凛としたものへと変わった。
「来るって、何が?」
「ポケモンよ。まさかあっちから来てくれるなんてね。捜す手間が省けた!」
いつの間にか手に握っていた赤と白のボールを放り投げ、ツバサは自らのポケモンを繰り出して待機させる。
光と共に現れたのはバクフーンではなく、青色の――ウサギのような長い耳と水玉模様が特徴的な、丸々とした可愛らしいポケモンだった。
「雑巾……?」
「お前、後で死刑ね」
「ゴメンナサイユルシテクダサイ」
「……いつも洗ってるから臭わないわよ」
そのポケモンの名はマリルリ。ゲームの中ではのび太も見覚えのある姿だ。
因みに彼が雑巾と口漏らしてしまった理由はゲームの通信対戦でマリルリの進化前のポケモン、マリルを使う際、いつもスネ夫とジャイアンが揃って「お前雑巾なんか使ってんの?」と聞いてくるからだ。
マリルが雑巾と呼ばれる理由は…… ゲームをプレイしなければわからない。
実際、その理由を知った時のび太は大きなショックを受けたものだ。
まあ、そんな話はどうでも良い。
ツバサの死刑発言が冗談とは思えない迫力を持っていたので、これからは軽率な発言は控えるようにすると心に決めた。
「ピチューと一緒に見ておきなさい。お前にポケモンバトルっていうのを教えてあげる」
「うん。だから髪引っ張るのやめてピチュー……」
頭の上に座る黄色の存在が、今一つのび太の心に緊張感を与えてくれない。
だが彼の調子に合わせてくれるほど、これから起こる動騒は優しくなかった。
「来たわね……」
土煙を巻き上げながら、敵はこちらへ向かって来る。
一匹、二匹、……ざっと見た程度で六匹の野生のポケモンが、全速力で走っている。
「あれは……」
「ゴマゾウ…… と真ん中に居るのはドンファンね」
地響きが鳴り響くほどの重量感で疾走する六つの影は、ここへ来るまでに何人もの人々の目に映ったことだろう。
出来ることなら土煙で姿が見えなかった、ということになってほしいものだ。
ピチューくらいの大きさなら良く出来たぬいぐるみということにして誤魔化せるが、アレは厳し過ぎる。
『気を引き締めろ。彼らはこちらに敵意を持っている』
「ええ、間違いなく誰かの指示で動いているわね…… でも!」
直線的に疾走する群衆に対して、ツバサのマリルリは果敢に飛び掛かっていく。
見るからに数は向こうの方が上。
しかし、タイプ相性では地面タイプより水タイプのマリルリが有利だ。
「親玉から潰して! 滝登り!」
滝を登る魚の如く、青色のポケモンは物凄い勢いで突進し、ゴマゾウ達のリーダーであろうドンファンに先手の一撃を喰らわせる。
見た目に似合わないパワフルな攻撃だ。
ゴマゾウ達に囲まれながらもマリルリは、一匹ずつ彼らを文字通り「殴り」倒していく。
「ジャイアンみたい……」
「ポケモンに送る命令は適度な回数に。あまりマメに命令するとガチガチになりすぎて、素早い動きが出来なくなるから。
必要な命令だけ、必要なタイミングに送るの」
「えっ?」
戦闘の最中、不意に語り始めたツバサの様子にのび太は意表を突かれる。
「手伝うって言ったわよね? お前もある程度戦えないと困るから、実戦しながら教えてあげようって言ってるの」
「ああ、なるほど」
『よく聞いておけ。貴様の知るポケモンバトルと現実とでは、根本的にやり方が異なるのだからな』
実戦を通じてポケモンバトルの術を教えてくれるのはのび太としても分かりやすく、そして必要なことであった。
彼女の説明は相変わらずぶっきらぼうだったが、彼の集中力が普段の何倍も働き、学校の授業よりも頭に入れることが出来た。
「……それと、この世界ではレベルの高すぎるポケモンは出しちゃダメ。大体レベルは50以下。それ以上のポケモンがこの世界に出るとその一匹だけで次元の歪みへの影響が強くなって、取り返しのつかないことになるから」
『本来存在する筈の無い世界に存在することで歪みは生じる。ポケモンそのものの力が大きければ、次元に与える歪みもそれだけ大きくなるのだ』
「だから私もこの世界ではホウオウを出したことは無いわ。ホウオウが存在するだけで次元が消滅するぐらいの歪みが生まれるから」
「やっぱホウオウって凄いんだぁ……」
『賞賛するほどのものではない』
戦闘の基本を教わった後、のび太はそういった「この世界でポケモンを扱う際の決まり事」を教授される。
戦闘に生かせる話ではないが、何よりも大事なことだとツバサは付け足した。
「まあ、お前じゃ頑張ってもレベル50以上まで鍛えられないと思うけど」
「それは酷い……」
「そろそろね。マリルリ、水の波動!」
話している間にも進行していた戦闘は、既に締めの段階へと移行していた。
トレーナー直々に下された指示を受け、マリルリの口から放たれた水の砲撃は残された最後の一匹、ドンファンに命中し、その身を沈黙させた。
これによって五匹のゴマゾウと一匹のドンファンは全て行動不能となる。
最後はモンスターボールで捕獲するだけだ。
「それで、モンスターボールはポケモンの真ん中辺を狙って投げる。尻尾とか耳とかに当てても反応しないから気をつけて。あと弱すぎてもダメ。強く、スピードを付けて…… 投げる!」
説明しながら、手慣れた動作で一連の流れを済ませる。
ツバサは五匹のポケモンを捕獲し終えた後、一匹のゴマゾウだけをその場に残した。
すると、傍らに立つ眼鏡の少年に一つのモンスターボールを手渡した。
「これは?」
「習うより慣れる。最後の一匹はお前が捕まえて」
「あっ、うん」
口で説明したら後は実践あるのみだ。
これでトレーナーの基本動作は人通り話したことになり、ツバサは次の予定を考える。
時間にはそれほど余裕が無い。のび太の育成には長時間も掛けていられないのだ。
出来るだけ早く戦力になってもらわないと……
「……って、お前……」
いや、彼はそんな次元ではない。
今後の予定とか、そんなことを考えている場合ではなかったのだ。
ツバサは想定外な事態に動揺することはなかったが、代わりに呆れと怒りを抱いた。
「なんで動けないポケモンにボールを当てられないのよ!」
信じられない。
ボールが当たっても反応しないことがあるから気をつけろと先は言った。
しかし野比のび太という男は、ボールを当てることすら出来ないのだ。
それも、止まった的に。
『……やはり彼では役不足では……』
「……ホウオウ、貴方が正しかったわ」
外す、外す、とにかく外す。
特別速いスピードで投げているわけでもなく、緩い放物線を描いて明後日の方向へとモンスターボールは消えていく。
ノーコンの軟投派か。
肩でも壊しているのか。
少し肘を下げてみようか。
いっそ左で投げてみろ。
色々と横から指導してみるツバサであったが、のび太の投げたボールが行動不能状態のゴマゾウを捉えることはなかった。
自分が外したボールを自分で拾いに行く姿はなんとも虚しい。
「む、無理だ……」
「……仕方ない。直接当てに行って」
この際投げ当てるのは諦めた。
直接手に持ったボールを当てるだけでも捕獲は出来る。危険度や手間を考えれば投げた方が良いのは間違いないが、当てられないのだから仕方ない。
数歩歩いて、のび太は恐る恐るゴマゾウの額にボールを当てる。
そしてようやく捕獲が完了したわけだが、彼女とは共に喜び合える筈が無かった。
「六歳の子供でもポケモンを捕まえることは出来るのに、お前と来たら……」
「ごめん…… 自分でもこんなに外すと思わなかった」
誰だって近距離から止まった的に一回も命中させられないなどとは思わない。
この先大丈夫なのかとツバサの頭に不安が過った瞬間だった。
「……いいわ。とりあえずそのゴマゾウは貴方のポケモンにして。ピチューだけじゃ地面タイプに勝てない」
「う、うん、ありがとう。よろしくねゴマゾウ」
何がありがとうだ。
しかし自分のポケモンとなったと聞かされてすぐによろしくと言える純真な心はポケモントレーナーに向いている。
彼に才能があることは間違いではないだろう。……間違いでは困る。
『お前は修行させると言ったが、アレをどう鍛えると…… むっ?』
「それは、一度レッドの所にでも置いてきて…… どうしたの?」
脳内に響くテレパシーが突然区切りを入れる。何かに気づいたようなホウオウの様子だ。
すると次は、同じ声色の叫び声が聴こえてきた。
『伏せろっ!』
「えっ……?」
それはホウオウからツバサに対する警報だった。
何故そんなことを言うのか考えるより早く、言われた通り身を伏せようとするツバサだが、時は既に遅し。
唐突に背後に現れた気配が、彼女の後頭部を強く殴打した。
「ツバサちゃん!?」
のび太が気付いた頃には彼女の身はうつ伏せに叩き付けられていた。
見れば彼女が居た場所の後ろの地面に穴が空いている。
そしてその横には七匹目の野生ポケモン、ゴマゾウの姿があった。
「まだ居たのか!」
攻撃技、穴を掘るを使ったのだ。
それによって地中に身を隠し、隙を見て彼女を襲った。
敵は六匹ではなく、七匹だったのだ。
「このヤローッ!」
なんて卑怯な奴だ。
骨川スネ夫のような歪んだ笑みを浮かべるそのゴマゾウの顔に、のび太は虫酸が走った。
「いけ、ピチュー! 10万ボルトだ!」
「ピッ?」
「えっ、無理? なら電気ショックだ!」
頭の上のポケモンを戦わせる時が来た。
気を取り直し、のび太は初めて命令を送る。
ピチューは意外にも素直に従い、頭の上から飛び上がると即座にその名の技を放った。
しかし、電気技の直撃を受けた筈のゴマゾウは平然としており、ダメージは全く見受けられなかった。
「な、なんで?」
『ゴマゾウは地面タイプだ。後は分かるだろう』
「どういうこと?」
『……地面は水に弱いが、電気技は効かぬ。教える必要も無いほどの基本中の基本だぞ』
「あっ、そうか…… わっ! ピチュー!」
基本中の基本を真剣に考えている間にも戦闘は動き、ゴマゾウの体当りがピチューを突き飛ばす。
大ダメージではないが軽微でもない。同じ攻撃を三発も浴びればたちまち瀕死となるだろう。
「電気ショック以外に使える技はあるのかな…… ハイドロポンプでも使えれば良いのに」
ピチューが覚える技と言えば電気技以外に思い付かない。
しかし敵は電気無効の地面タイプだ。
地面は水に弱い。
ツバサのマリルリに手を貸してもらいたいところだが、マリルリは今彼女の体の様子を伺っている為、そんな頼みは出来ない。
「水があれば……水があれば……水が……」
どこかに水が無いかと戦闘をそっちのけて辺りを見回す。
すると思わぬ所に―― 彼の右手にそれは握られていた。
「水が無いなら、お茶を使えば良いじゃない」
自動販売機で自分用に購入したお茶だ。間違いなくそれは水の類いである。
多少温かくても水は水だ。
「これを浴びせれば大ダメージだ!」
根拠は無い。だがやってみる価値はある。
地面タイプは水タイプに弱いのならお茶を浴びせればダメージを与えられる筈だという単純な思考が、その策を編み出した。
そうと決まればさっそくフタを開けて――
フタを開けてみたは良いが、どうやってこれを浴びせようか?
近づいてぶっかけてみようか。いや、近づく前に殴られる。
なら投げてみよう。
しかし、自分は止まった的にすらモンスターボールを当てられない人間だ。
ペットボトルを投げて、中の液体を浴びせるなどという高度な芸当が出来るのだろうか?
……出来なくても、やるしかない。
「ピチュー、離れて! くらえゴマゾーッ!」
秘技、ペットボトル投げ!
350ミリリットル満杯に入ったそれはのび太の手元から離れ、透き通った茶色の液体を放出しながら敵の姿を狙って向かっていく。
手応えは…… 無い!
止まった的にすら当てられないコントロールは肝心な舞台でも存分に発揮され、ペットボトルはしあさっての方向へと飛んでいく。
やはり、ダメか……
ここで命中させたら最早奇跡の域だ。奇跡は起きないから奇跡と呼ばれるのである。
しかし投擲主が諦めかけたその時、救世主が現れた。
成り行きでのび太のパートナーポケモンとなった黄色い電気ネズミ、ピチューである。
「ピチュー!?」
トレーナーのミスはポケモンがカバーする。
トレーナーとポケモンという関係だったのかすら怪しいのび太とピチューだが、ピチューの方は彼を信用していないわけではなかった。
体の何倍もの高さまで跳躍すると、空中よりピチューはのび太が投げたペットボトルを尻尾を使って打ち返した。
打ち返した打球…… もとい打ペットボトルのスピードと精度はのび太の投擲よりも格段に高く、一瞬にして動き回るゴマゾウの額へと命中させた。
そして中の液体が、少量ながら頭の上へと振りかかる。
次の瞬間、ゴマゾウの動きに異変が起きた。
「やった! 効果抜群だ!」
ゴマゾウ自体のレベルが低かったのであろう。ただのお茶でもダメージはあり、敵はそれを飲んだツバサのように苦しみ出した。
「よし、とどめの電気ショックだ!」
地面に電気は効かないが、水は電気を通す筈。
それは彼の思い付きであったが、お茶を浴びたゴマゾウに喰らわせた電気ショックは間違いなくダメージを与えた。
ピチューが攻撃を止めると黒焦げとなったゴマゾウは動きを停止し、完全に沈黙した。
とても正攻法とは言い難い戦い方だが、のび太は初めての戦闘で、ピチューを使って敵を倒したのだ。
その喜びは何にも変えられないものがある。
しかし、ピチューと喜びを分かち合うより先に気にすべきことがあった。
「ツバサちゃんは……」
あのゴマゾウに後頭部を殴打された彼女の身だ。
のび太は頭の上に乗り込んだピチューの体重を気にする間もなく、急いで彼女の元へと駆け寄った。
「大丈夫……?」
「電気タイプを使って地面タイプを倒すなんて…… 最初のバトルでそんなことが出来るなんて思わなかったわ」
「えっ?」
心配そうな面持ちで見下ろすマリルリとのび太を横にツバサは立ち上がり、服に付着した砂ぼこりを叩き落とす。
あれだけ強く殴打されたというのに、何事もなかったかのようにだ。
「え、ええっ?」
「私は大丈夫よ。心配かけてごめんねマリルリ」
「ツバサちゃんゾンビ!?」
「失礼ね! そんなわけないじゃない。ホウオウが守ってくれたのよ」
『我がこの中からリフレクターを張り、彼女への衝撃を和らげたのだ。貴様が初めて彼女と接触した時にも使っている』
そういえば、とのび太は思い出す。
街角で初めて彼女と接触―― 衝突した時も、自分の身は吹き飛んだが彼女はビクともしなかった。
あの時も金色のモンスターボールからホウオウが咄嗟にリフレクターを張って、衝撃を和らげていたのだ。
『傷付き易い人間の体で危険な戦場へは送りたくないからな。ボールから出られないならばこの程度のこと』
「今みたいに何度か助けられているわね。因みに動けたのに戦いに行かなかったのは、お前がどれだけ戦えるか見てみたかったから。
手も足も出ないようならこれから先も足手まといになるだけだし、手伝いなんかさせないつもりだったわ」
「そ、そうなんだ……」
あの時の怒りを返してほしいところだ。試されていたというのは能天気なのび太といえ、流石に気分が悪い。
「それで…… 僕はどうだったの?」
「善戦すれば良いぐらいにしか思ってなかったから、正直勝てるとは思わなかった。期待以上よ、お前の実力は。もちろん合格」
「本当? やったー!」
ここで失格と言われようものならしばらくまともに眠れなかったかもしれない。
テストで良い点数を取ると、こういう気分になるのだろう。
これからは授業ノートへの落書きは半分ぐらいにしよう。彼の中で大きな変化が起こった瞬間である。
しかし自信に溢れた彼の心境に、彼女はあえて水を注した。
「因みに、その期待はこのくらい」
「ちっさぁ!?」
人差し指と親指で象った蟻ほどの大きさを表現し、ツバサは真顔でそれを向ける。
苦笑すら漏らしていないところから、彼女が本気でこれまでその程度の期待しかしていなかったことが分かった。
「まあ、その場にある物でバトルを組み立てるっていう発想は悪くなかったわ」
『うむ。才能があることは間違いない』
「僕は期待されてないんだ…… 期待されてないんだ…… 期待されない人生なんて、ケチャップの無いオムライスみたいなもんじゃないか……」
「無くてもやっていけるってことね。良いじゃない。変なプライドなんか無い方がマシよ」
『お前が言うか……』
彼女らが入れたフォローは果たして耳に入っているのだろうか。
ブラックな精神状態が元に戻るのには三分と掛からなかったが、軽くショックを受けたことに違いはなかった。
「そういえばさ、ツバサちゃんって……」
「何?」
落ち着きを取り戻した頃、のび太は今の彼女の姿に気付く。
その視線は、彼女の頭に向けられていた。
「変わった髪型してるんだね」
「――ッ!?」
まさか、と慌てた形相で彼女は頭の上に手を伸ばす。
彼に言われるまで気付かなかった。
「無い……」
普段着用している白い帽子が、本来あるべき場所に無いのだ。
一体どこへ、どうして……
「帽子ならあそこにあるよ。ゴマゾウに飛ばされちゃったんだね」
「………………!」
のび太に指し示された方に落ちていた帽子を拾い上げ、汚れを気にする前にそれを深く被る。
異様な様子。
まるで、いち早く髪の毛を隠そうとしているようだった。
「……見た?」
「うん見たけど…… それがどうかしたの?」
「なら忘れて…… この髪型はどうやっても治せないから」
髪の毛を彼の前に露出させたことを恥ずかしがっているのだろうか。
彼女が頼み事をしているのだから大人しく従う気だが、その理由が解せなかった。
「隠す必要なんてないと思うけどなぁ…… 漫画の主人公みたいでカッコいいじゃない」
「………………黙って」
「ほら、前髪のてっぺんが尖っててさ。ポケモンでもハートゴールドの主人公みたいで」
「黙れッ!」
「――!?」
ただ、見たままの感想を言っただけだ。
それも、貶しているわけではなくカッコいいと褒めているのだ。
しかし、彼女の目は震えていた。
怒りの色を浮かべて、震えていた。
「もし…… お前に世界の誰よりも嫌いな奴が居て…… 自分がそいつと誰よりも似ているって言われたら?」
「えっ?」
「世界で一番嫌いな奴が、自分と性格も雰囲気も似ているって言われたら、お前はどうする?」
「…………………」
「そいつが自分よりずっと早く生まれていて、周りの皆がそいつのことをカッコいいって尊敬していたら、お前はどうする?」
「……よく、わからない……」
「……そうよね。取り乱して悪かったわ。今のは忘れて。ただこの髪型が私が大嫌いな奴の髪型と似ているから、ムカついているだけ」
帽子を上から押さえつけながら、ツバサはのび太の横を通りすぎていく。
ただのコンプレックスとは思えない。
あの髪型は、彼女にとって彼女にだけ感じるものがあるのだろう。
今ののび太にはそこまでしか分からなかった。
「まだここら辺にはたくさん野生のポケモンが居るわ。早く行くわよ、ノビット!」
「だからのび太だって。あと速いよ、待って!」
気になることがある。
だが、のび太も説明を省いてしまった。よくわからないと言ったことだ。
そもそも自分には世界一嫌いな人なんて居ないから、その人を嫌うこと自体がよくわからない、という意味でわからないと言ったのだ。
『彼女自身の問題だ。お前が気にする必要は何も無い』
「ホウオウ……」
「何? ホウオウが何か言ったの」
「いや何も。ホウオウが戦うとこを見たいなぁ……って」
「聞いてなかったの? ホウオウがこの世界で戦いなんかしたら、次元の歪みが一気に膨れ上がって、この世界そのものが吹き飛ぶのよ」
「それは大変だ……」
ドラえもんが居れば、そういった心の問題というものも解決出来るかもしれない。
しかし彼とは連絡すらつかない状況であり、ホウオウの言う通り彼女自身が解決するしかない問題なのだろう。
無力だな、とのび太は自己嫌悪に浸った。
規制で遅れましたが投下終了です。
今回は色々と伏線を張りました。
「傷つきやすい人間の体で〜」
ってQBかw
あ、忘れてた乙です
乙。コトネのあの発言には俺もショックだったなぁww
てかのび太の名前まともに呼ぶ気ねーなwwもうわざとだろww
乙!すっげえ戦法・・まあリアルだと実際こんなモンなのかな、案外
マリルなんで雑巾なんだ?
238 :
名無しさん、君に決めた!:2011/04/08(金) 00:15:20.05 ID:2gN0/5vT0
乙 アニメのイワークを思い出した
乙ー
面白い
>>237 HGSSでコトネが…おっと、誰か来たようだ
この物語はホウオウと契約してポケモントレーナーになる話ではありませんw
それでは書き溜まったので投下します。
都心部から外れた人の寄り付かないような場所に、その廃ビルはあった。
いや、廃ビルと呼ぶには些か豪勢な造りであるか。
装飾を施された天井には照明としてシャンデリアが吊り下げられ、床には白い竜のような絵画が描かれたカーペットが敷かれている。
その部屋の中心部―― 王座のような椅子の上に、青年は腰掛けていた。
彼の目の前に浮かぶ浅緑色の妖精が、申し訳なさそうに目尻を下げて報告する。
『送りつけたポケモン達は、例のポケモントレーナーによって捕獲されてしまいました……』
口から放つ言葉とは違い、妖精の声は脳髄に直接響くものだ。精神感応、またはテレパシーと呼ばれるコミュニケーション方法である。
妖精はこの世界に居る筈の無い知的生命体、ポケットモンスター、縮めてポケモンという名の存在だ。
話す青年は容姿から見てニンゲンであることは疑いようも無い。
ポケモンとニンゲン。言語の違う異種同士の対話など、テレパシー無くして実現は不可能である。
妖精は、それを実現出来る数少ないポケモンの一匹であった。
中性的な、と言うよりは少女めいた声色のテレパシーを受け取り、座椅子の上の青年は「そうか……」と短く応える。
「監視ご苦労様。しばらく休んでくれ、セレビィ」
『マスターは今後、あのトレーナーをどのようにするおつもりで?』
「それは彼女次第さ。でも私達の計画にとって厄介な存在であり続けるのなら、相応の処置を取らなければいけないね」
座椅子から立ち上がり、青年は窓口に映る外の景色に目を向ける。
――彼らの世界とは違った景色。
風情の欠片も無いが、彼らにとっては新鮮味のある眺めとして映った。
「たった一人でこんな世界にまでやって来るとはよほどの物好きか、親の教育がなっていないんだろうね」
『未だ次元の歪みの補修を続けています』
「大人しく「空間の神」の降臨を待てば良いものを。全く余計なことして…… 困った子だよ」
呆れを表す溜め息を漏らし、青年は外の景色から視線を逸らす。
次に彼の目が向けられたのは、先ほどからどうも落ち着きの無い妖精の姿であった。
「そう心配そうな目で見ないでくれ。計画は必ず成功する」
『……私もマスターを信じています。成功させましょう。どんな敵が立ち塞がろうとも……』
妖精と呼ぶに相応しい小さな体を、青年は優しくその腕で抱きしめる。
対話だけでなく、彼らは身体同士で触れ合うことで相互を理解することが出来ていた――。
時刻は午前八時。
ゴマゾウを捕まえた日から一日が過ぎ、実家にて野比のび太は綻んだ面持ちで玄関先へと向かう。
「骨川さんの家に迷惑の無いようにね」
「わかってるって」
「本当に手ぶらで良いの?」
「うん! じゃあ行ってきまーす」
挨拶を交わし、母からの見送りの言葉を聞かずしてドアを開け、のび太は勢い良く表の世界へ飛び出していく。
昨日、母には「明日スネ夫のとこの別荘に行ってくるね!」と言っている。
しかし、彼の行く先は骨川スネ夫とは一切の関わりも無く、実際のところそれは口実に過ぎなかった。
いつもより体が軽く感じるほど、今ののび太は気分が良い。
勿論、それには理由があった。
これからポケモンの世界に行けるのだ!
昨日の話である。
この練馬区を中心に東京都内を周り、のび太とツバサは協力し合いながら順調に野生ポケモンの捕獲、そして次元の歪みの補修作業を続けていた。
いや、協力し合っていたというのはあくまでのび太だけの認識である。
客観的に見れば彼は何度も窮地に立たされており、ツバサのサポートが無ければ五回は重症を負わされていたことだろう。
だが彼が電気タイプの小ポケモン、ピチューを使ってゴマゾウを倒したことは間違いない。
今の実力では単なる足手まといであるが、今後の伸びしろに期待出来ないわけではないと判断したツバサは、一日の作業の終了を告げた後でこう言った。
「明日、お前を私達の世界に連れていく」
ポケモントレーナーとしてまだまだ初心者である彼には、一度本場で修行を積む必要があるという彼女の思惑である。
「楽しみだなぁ…… ポケモンの世界へ行けるんだ!」
遊び目的で行くわけではないことは、無論彼とて熟知している。
しかし、今まで憧れでしかなかったポケモンの世界へとこの足を踏み入れることが出来るのだから、少年心に期待感を抱かずにはいられなかった。
「お待たせ!」
ツバサが指定した時間通り、のび太は待ち合わせの場所に到着する。
普段はジャイアン達と遊ぶ為に使っている、名前も無い空き地だ。
ツバサはそこで待っていると言い、昨日同じ場所で別れた。
そしてその言葉通り、この時刻に彼女の姿はあった。
「寝坊はしなかったみたいね」
「楽しみなことがあると早く起きれちゃうんだ」
「……遠足じゃないのよ」
「わかってるって」
のび太の到着を認めるなり彼女は腰掛けていた土管の上から飛び降り、胸元に下げた金色のボールに話し掛ける。
「ここで良いのね?」
『うむ。やはりこの辺りの次元は丁度ワカバタウンにつながっているようだ』
「よし、じゃあ早速……」
ツバサはホウオウから指定された――のび太側から見れば土管の裏側になっている場所へと移動する。のび太はきょとんとした表情を浮かべ、その後を追う。
「そこに何かあるの?」
「いいから見てて。ホウオウ、お願い」
『うむ』
ホウオウの本体が宿る金色のボールを、両手で抱きしめるように握り、ツバサはそれを前方に突き出す。
すると、突如として彼女の手の中から目映い光が閃いた。
ほんの半瞬の出来事であったが、光の根源はのび太にも分かる。
彼女が両手に握っている金色のモンスターボールだ。
「ねぇ今の……」
「注目するのはこっちじゃない。あっち」
「あっ……」
ボールの中に居るホウオウが何かしたのかと質そうとするのび太だが、彼女が指差す方向にあるモノを見て、その質問を取り止める。
昨日は何度も見ているそれは、何も無い筈の空間に広がる小さな穴だ。
次元の歪み。彼女が指差す方向には、一件の源とも言うべきモノが存在していた。
「ど、どうして次元の歪みが?」
「ホウオウに作ってもらったのよ。ホウオウの力ならボールの中からでも次元の歪みを生むことが出来る」
「なんで作るのさ?」
次元の歪みを補修する為にこの世界を旅回っている彼女が次元の歪みを生むなど、目的と行動が矛盾しているのではないか。単純な頭脳を持つのび太の素朴な疑問である。
ツバサはそんな彼の疑問に「は?」と、呆れ顔で応対する。
「お前を私達の世界に連れていく為に決まってるでしょ」
『異世界間を往き来する為には次元空間に歪みを生じさせる他に方法は無い。当然のことだ』
「そうか、この世界に来た野生ポケモンみたいに、僕も次元の歪みを通って君達の世界に行くのか!」
「そういうこと」
「始めからそう言ってくれれば良いのに……」
「そんなの時間の無駄よ。昨日お前を私達の世界に連れていくって言ったんだから、説明しなくても察して」
そうと言ってものび太も人間だ。
ああも露骨に呆れ顔を見せられては良い気持ちにはならない。
まあ呆れ顔も中々可愛かったし、この際我慢するかと自分らしさで気を持ち直し、彼は生じた歪みの元に視線を戻した。
「じゃああの中に入るとポケモンの世界に行けるのか」
「そう、あの歪みは私達の世界へ行く為のトンネルになっているってわけ」
「でも、どうせならわざわざ自分で歪みを作らなくても、その辺で見つけた歪みから行けば良いんじゃ……」
「馬鹿ね、私達の世界ってとても広いのよ。歪みの先にあったのが海のど真ん中でした、なんて言ったら話にならないじゃない」
つまり歪みの先はポケモンの世界であることは確定していても、そこがどこにあるのか厳密には分からないということだ。
のび太はそれを「行き先が無茶苦茶などこでもドア」のような物と捉え、彼なりに分かりやすく解釈する。
確かにドアをくぐった先が太平洋のど真ん中だとしたら、確かにそれはもう話にならない。迂闊に間違うことは出来ないということだ。
「……だから、ホウオウに安全な場所へ行ける歪みを作ってもらったってわけ」
『この場所に歪みを作ればその先は彼女の故郷、「ワカバタウン」となる』
「ワカバタウン!?」
具体的な行き先を聞かされ、のび太は過剰に反応する。
ワカバタウンとは彼がプレイに没頭しているゲーム、ハートゴールドに登場する架空の町の一つであり、物語の出発点と設定されている町だ。
故に、彼にとってゲーム中で最も馴染みのある町だった。
「じゃあ僕達これからワカバタウンに行くんだね?」
「そう……だけどなんでそんなに嬉しそうなのよ」
意識せずとも頬が緩んでしまったようだが、それを指摘されても直すことは無い。
のび太は嬉々たる心情を堂々と露にしていた。
「お前、遊びに行くと思っているんじゃないでしょうね?」
「僕が強くなる為に行くってことはわかってるよ。だけど今から僕が知ってるポケモンの世界に行けると思うと、なんかこう…… わくわくするんだ!」
「変な奴……」
元々ポケモンが存在することが当たり前の世界に住むツバサには、彼のポケモン世界に対する思いは理解出来ないようだ。彼の笑みを気味悪がるように、彼女は冷めた瞳を覗かせていた。
ツバサは視線の先を次元の歪みへと移すと、それに向かって一歩ずつ前進し始める。
約直径四十センチの歪みの高さは、彼女の胸元程度の位置にあった。
「まず私が先に入るから、お前はその後に続いて」
「うん!」
穴のような形をした歪みの中に手を入れ、ツバサは異常の有無を確かめる。
――異常は無い。
だが足から入るには、どうにも彼女の身長的に難しい高さだ。
故に足ではなく頭から入ろうと決めた時、彼女はハッと何かに気づいたようにその場から後退した。
「どうしたの?」
「やっぱりお前から先に入って」
「えっ? なんで……」
「良いから先入って」
「うわっ!」
突然口調を強め、のび太の背中を叩いて彼女は催促する。
歪みの中が危険なようには見えなかったので、安全面を考えて自分を先に入れたがっているわけではなさそうだ。
(なんでだろう? まっ、良いけど)
何か言えない理由があるのかなと察し、のび太は躊躇い無く頭から歪みの中へと突っ込んでいった。
その尻を彼女側に突き出した体制で。
――お世辞にも良い格好とは言えない。
ましてや年頃の少女にとって、そんな格好は他人の目に見せれるものではない。
彼女が自分より先に彼を入れたがっていたのはその為である。
「早くしなさいよ」
「わわっ、お… 落ちるぅ!」
歪みの向こう側からゴチンッと、鈍い音が微かに聴こえた。
ワカバタウン全面に広がる芝生は柔らかいので、もし着地に失敗したとしても怪我をすることまでは無いだろう。
のび太と自分の痛みを気に掛けることもなく、背後に人影が無いことを確認した後で、ツバサも続いて歪みの中へと飛び込んでいった――。
投下終了です。
一連の事件における重要人物の登場。
次回はジャイアン&スネ夫視点の話にする予定。
乙です
乙。さあいよいよ始まってきた感が出てきた
今更だが乙!ツバサかわいいなw
(´・ω・`)乙
ツバサかわえぇ…
ハァハァ…
テンプレなオリキャラですが、ありがとうございます。
それでは投下します
のび太達の住まう町、練馬区からバスで六十分ほど離れた場所――。
田舎道を越えた先に、自然に溢れる高山はあった。
作業的に進行する一台のバスは人気の無いバス停に停車し、二人の少年が中から降りてくる。
剛田武、骨川スネ夫。それが少年らの名前である。
目的地へと到着した二人はリュックサックを背負いながら、立ち止まることもせず真っ直ぐ歩き進んでいく。その視線の先には、やはり草木生い茂る山の姿があった。
「スネ夫、準備は出来てるな?」
「当然さ。僕は昨日の間にスネ吉兄さんから強力な武器を取り寄せていたんだ。君こそどうなんだい?」
「俺か? 俺の武器はこの拳だけだぜ」
「頼もしい限りだよ全く……」
山の中へ入ると、二人は登頂を始めるわけでもなく辺りを歩き回っていく。彼らの興味は山の頂上には無い。
期待感に溢れた口元の綻びは、この山に生息しているであろうある生命体の存在によるものだった。
二人がこの山を訪れたのには無論理由がある。
単刀直入に述べるなら、それは「ポケモンの捕獲」だ。
野生のポケモンを自力で捕獲し、一昨日出会った少女に事件への関わりを許可してもらう。
それならばコイキングを進化させるよりもやり甲斐がある上、彼女も認めてくれる筈だというスネ夫の魂胆だ。
いや、やり甲斐の有無は言い訳であり、短期間でコイキングを進化させることなど不可能だと判断したというのが本音だ。
「楽しみだぜ、どんなポケモンが居るかな?」
彼らは明確な野生ポケモンの所在を掴んでいるわけではない。ただこの山は学校の裏山以上に緑豊かな為、生息している確率が高いと推測しただけに過ぎない。
だが、二人は確実にここにポケモンが居ることを前提に歩き回っていた。
「やっぱり捕まえるなら強いポケモンだよね。そうすれば育てなくてもすぐにツバサちゃんの力になれるし」
「……スネ夫、やる気満々だな」
この手の厄介事には基本的に首を突っ込みたがらない筈の、らしからぬ友の様子にジャイアンは妙な引っ掛かりを覚える。
確かに、ポケモンが現実に居ると知って動かないほど彼は無気力的な人間ではない。
だが、バスの中でもそうだったが、彼が常に「ツバサちゃんの手伝い」や「あの子の助けに」などと自分ではなく、他人の名前を出して話していたのがどうにも気に掛かっている。
いつからコイツは他人の為に頑張るような奴になったんだと、まるで人が変わったような模範少年ぶりにジャイアンは戸惑っているのだ。
(そうか……!)
不意に、ある仮説がジャイアンの脳裏に立てられる。
……確かにこれはありえるかもしれない。
あの少女の容姿はドラマの子役としてテレビに出演しても申し分無いほどの物だったし、171キロの快速球が彼のストライクゾーンを抉ったとて不思議ではない。寧ろ、健全な男子小学生として当然な心理と言えた。
「そうか、そうなんだなスネ夫……」
「ん? 僕がどうかしたの?」
「頑張れよ。なんであんなキツそうな性格の子が良いのか分からねぇが、心の友として応援するぜ」
「な、ななな何のことかなぁ?」
明らかに動揺している。
なあに、恥ずかしがることはねぇ。
俺は人の恋路を冷やかすようなちっせぇ男じゃねぇし、お前の気持ちが分からんでもない。
「決まってるだろうがよ。要するにあの子が好きなんだろ?」
「そ、そそそそそそんなことないですよ! ああいう言葉にトゲがあるけどそれだけじゃないような女の子は、大好物です。……って何言ってるんだスネ夫! 落ち着け、僕は紳士な筈だ!」
「変態という名のな」
「そうだ! 僕は紳士だ。ダンディーでクールなナイスガイなんだ。どんなにツンツンしようと、僕の甘いマスクの前にはイチコロさ。いや、デレデレさ」
「ま、まあ頑張れよ。確かに結構可愛いもんな」
スネ夫自身はジャイアンの問いを否定しているつもりなのだろうが、どう聞いても全力で肯定している。
何故そうも動揺する必要があるのか理解出来ないジャイアンは一歩大人になり、そんな彼の挙動を冷静に対処した。
心の中で「コイツ気持ち悪っ!」と思ってしまったのは黙っておく。
ジャイアンはガキ大将。機嫌さえ悪くなければ友情に熱く、誰よりも友達を大切にする男なのだ。
……ただし、野比のび太は除いて。
――野比のび太は次元の歪みを越え、世界の壁をも超越していた。
今彼が踏みしめている緑色の芝生もまた、彼が本来居るべき場所には存在しえないものである。
ここはワカバタウン。始まりを告げる風が吹く町。
とうとう自分は夢にまで見たポケモンの世界にやって来たのだ。
見渡す度に映る新しい風景の全てが、のび太の心に感動を与えてくれた。
天上から照らす日光は暖かく、北から吹く風は露出した肌を涼ませる。
季節はここも同じ夏であろうに、しかし練馬区よりも遥かに居心地の良い場所であった。
「あぁ〜っ! やっぱりワカバタウンが一番ねぇ〜!」
翼を伸ばす小鳥よろしく、背中を伸ばす少女の姿はのびのびとしていた。
彼女の気持ちはよく分かる。
気温も、空気も、匂いも、全てにおいてこの町は練馬区を凌駕しており、いつまでもこの場に居たいとすら思わせるほどであった。
「僕達の世界に居た時より元気だね……」
「当たり前でしょ? 何だってあんな暑い所で元気にしてられるのよ」
ホットドリンクも飲めない猫舌は別として、彼女があちらの世界の気温を過剰に嫌っていたのは感覚的に仕方のないことなのだと思う。
この町の出身者であるツバサにとって三十度を超える気温など、地獄以外の何物でもなかっただろう。
故に、今の彼女の表情は活き活きとしており、声のトーンも高めであった。
「さて、とりあえずおじいちゃんの研究所に行った方が良いよね?」
『うむ。まずは捕獲した野生ポケモンを彼の元に預ける必要があるからな』
「おじいちゃんに会えるんだ〜。なんか凄く久しぶりな感じ」
『この頃連戦続きだったからな。ノビベルトの修行目的で来たが、お前もしばらく息抜きをすると良い』
「ノビベルトって誰よ。ノビタールよ、ノビタール」
「ねぇ…… もうわざとでしょ?」
今のホウオウのテレパシーは彼女にしか聞こえていないが、彼女の台詞からのび太はまた妙な名前で間違えられたのだと察した。そのネタは飽きたよ、と言わんばかりにのび太は呆れ顔でツッコミを入れる。
そして今度はお返しに――
「これからどこ行くの? ツバ九郎ちゃん」
「何ですって?」
『貴様、図に乗るのも大概にしろ!』
「ちょっ、ホウオウそんな怒らないでって……」
たまには逆の立場を思い知らせてやると、軽い気持ちで彼女の名前を間違えてみたのだが、予想以上に彼女らの反応は大きかった。
特にホウオウのテレパシーはまるで魔王の唸りのように聴こえるほど恐ろしく感じたものだ。
「理不尽だよぉ……」
ボソッと小声で呟くのび太。
二人は揃って自分の名前を故意に間違えるくせに、自分が故意に彼女の名を間違えるとこれだ。
いじけるように小さくなっていく背中を見て、流石に可哀想に思ったのか、ツバサは胸元の金色のモンスターボールに語り掛けた。
「いくらなんでも間違えすぎよホウオウ。私はわざとだけど、貴方は本気で間違えているでしょ……」
『人間とは、何故個体それぞれに名を付けたがるのだろうか』
「野比のび太を覚えられなくてどんな名前なら覚えられるのよ貴方」
『忘れたとて都合が悪くなることは無い。我が覚える人間の名はお前と、お前を取り巻く者だけだ』
「なら、尚更覚えてよ……」
人の名前を覚えない伝説のポケモンがここに居る。
彼女は故意でも、ホウオウはこれまで本気で彼の名を間違えていたようだ。
後にそのことを聞かされ、少しだけのび太の心は楽になった。
ワカバタウンはこのポケモンの世界、もっと絞ればジョウト地方で最も空気の新鮮な町だ。それは他の町と比べて極端に人工物が少ないことが影響している。
とは言っても人口の絶対数はそれほど少なくなく、ツバサがすれ違う度に挨拶を交わしてくる住人は多かった。
住人の皆が彼女と顔見知りである様子に、のび太は素朴な疑問を抱く。
「ツバサちゃんって人気者なの?」
「ただちょっと親が有名なだけよ。家のおじいちゃんは地方でも有名なポケモン博士で、お母さんはその助手」
『そして父親はポケモンリーグの元チャンピオンだ』
「それは凄い……って、ええっ!?」
彼女とホウオウが語る彼女の家系に、元は軽く流そうとしていたのび太が過剰に反応し、驚愕の表情を浮かべる。
――頭の中で一度整理する必要がある。
彼女の名前はツバサで、苗字はヒビキ。
出身地はこのワカバタウンで、祖父は有名なポケモン博士。母はその助手。
そしてホウオウが誇らしげに語った、父親はポケモンリーグの元チャンピオンだという説明。
……なんだか分かりそうで分からなくなってきた。
とりあえず、一つだけ確定情報がある。
のび太は思い切って本人に問うことにした。
「ツバサちゃんのおじいちゃんの名前って…… もしかしてウツギ博士?」
「そうよ。お前達の世界にあるゲームにも出てきたでしょ。あれと同じよ」
彼女の返答は実にあっさりとしていた。
しかし、のび太からすればそれは衝撃発言であり、驚かずにはいられなかった。
ポケットモンスター・ハートゴールドでは、主人公に最初のポケモンを渡す役割を担っている重要人物の一人。
陰も頭も薄い彼がこの少女の祖父で、彼の孫娘がこの少女だと言うのだ。
「似てなさすぎるでしょ……」
面影の欠片も見当たらない。
まず最初にのび太が感じたのは、同じ血縁関係とは思えない彼と彼女の容姿と性格だ。
おそらく彼女は母親か、父親に似ているのだろう。そうでなければ納得出来ない。
ゲームではウツギ博士の孫娘など登場しないことから、このポケモンの世界が必ずしもゲームと同じではないことは分かる。
ここはあくまでポケモンの世界であり、ゲームの世界ではないのだ。
しかし自分が知る人物と彼女にそんな関係があることを知って、のび太は何とも表現し難い気分に陥った。
「ウツギ博士がおじいちゃんってことは、ウツギ博士の子供がツバサちゃんのパパかママってことになるのか……」
「何当たり前のこと言って。……ウツギおじいちゃんは私のお母さんの父親よ」
「うげっ!?」
またしても、彼女はのび太にとって衝撃的な告白をしてしまった。
ウツギ博士に娘が居ることを、ハートゴールドを男主人公としてプレイしていたのび太には自然的に認識されていた。
もし、それがこの世界にも共通していることなのだとすれば、彼女の母親は――。
「ま、まさかね……」
ゲームの中ではウツギ博士の娘の年齢は約十歳。のび太やツバサと同じぐらいの年齢なのだ。そんな子が母親なわけがない。
しかし、あの少女と見比べれば確かに似ているかもしれない。
いや、顔の形など、目付き以外は瓜二つだ。意識すれば意識するほど、のび太にはそう思えてならなかった。
「着いたわよ。何ボーッとしているの」
「あっ、うん」
直接会えばすぐに解決するであろう疑問を一人抱え込んでいる間に、彼らは到着した。
ウツギポケモン研究所。
ゲームで親しみのある大きな建造物が、二人の目の前にあった。
「凄い…… スネ夫の家より大きいかも」
豪邸と言えるほど民家の基準を上回る研究所の姿は、のび太の目を大きく見開かせるものがあった。
呆然と立ちすくむ彼を置いて、ツバサはガラス張りの扉の前に足を運び、傍らに装着されたインターフォンのスイッチを押す。
すると、機器を通して若い女性の声が聴こえてきた。
《どちら様のお宅で?》
「あっ、お母さん。私」
《えっ? ツバサ!? 帰ってたんだ!》
「うん、ちょっと用事があって」
ツバサの声を聞いた瞬間、女性の声は驚きの色を浮かべ、慌てたような調子に変化する。
すると、ガラス張りの扉が左右に開き、研究所の内部が二人の視界に開放される。
コンピューターや書棚が並ぶ景色も無論気にはなったが、最ものび太の視線が強く注がれていたのは、研究所の奥からこちらに向かって歩み寄ってくる一人の女性であった。
二つに束ねられた髪の色は薄い茶色。
筋の通った鼻の形に、左右の均整が取れた輪郭。
そしてあどけなさの残る大きな瞳は、実年齢以上の若さを醸し出している。
服装は研究者の白衣を着用しており、一目見るだけで「美人」という枠に収められるだろうその容姿は、ツバサの母親と言われれば即刻納得してしまうところである。
……やはり、そうなのだろう。
イメージしていた姿よりも大きく、少女かと思っていた体は立派な女性である。
しかしそれは間違いなく、のび太の疑念に残る少女と一致していた。
「ただいま」
「お帰りツバサ。それと……」
玄関口に立つツバサの姿を確認した際に見せた頬の緩みは、我が子の帰りを認めた母親のそれである。
やっぱり彼女のママは―― と確信するのび太の方に、童顔の女性は目を寄越す。
「そちらは?」
「あっ、ええと……」
「ああ、コレのこと? 向こうの世界で出会ったの。名前は野比のび太」
「う、うん。こんにちは!」
「おはよう、のび太君」
彼女の瞳に映る自分の顔は何故か緊張に引きつっていた。
朝だというのに元気良くこんにちはと言ってしまった。これは恥ずかしい。
間近で見れば見るほど、彼女が綺麗な人だなぁ、と意識してしまうのだ。
「ツバサの母、コトネと言います。娘が迷惑かけてない?」
「い、いえ、そんなことないですよ。僕の方こそ迷惑かけちゃってます」
「そうね、分かってるじゃない」
予想通り、彼女の名前はコトネと言うようだ。
しかし予想以上である。
ゲームのグラフィックや公式イラストで見た彼女よりも、目の前に居る女性は格段に美しい。
大人に成長すればここまでなるものなのかと、のび太は一人感激に浸っていた。
「まあ立ち話もなんだし、どうぞ上がってください」
「は、はい」
「さっきからぎこちない。変な奴……」
コトネの温かな笑みで迎え入れられ、のび太はツバサの後に続いて研究所の中に入っていく。
もしかしたらこの世界は、ハートゴールドの十年以上先の世界なのかもしれない。
ゲームで馴染みある人物の成長に、のび太はそんな疑問を持った。
後程知るが、実際はその通りである。
ここは彼らの知るポケットモンスター・ハートゴールド、ソウルシルバーの世界から二十三年もの時を経た誰も知らない未来の世界。
ヒロインは既婚者であり、一児の母であった――。
投下終了
オリジナル設定が増えていきます
乙です
ツバクローとかなついなw
保守あげ
初代しかいらなかったよね
よくてドラーモンまで
譲歩して3世代作者まで
だめやん
272 :
名無しさん、君に決めた!:2011/04/30(土) 19:40:44.57 ID:x3O2yNtX0
3世代作者?
3世代作者って誰だ
乙
23年後ってことは、コトネは三十路を越え…
うわなにするやめ(ry
乙
そのうちちゃんとのび太の名前を呼んで、合ってるでしょう?ってやるんですね
父親はアレか、なんかめっちゃ恨まれてる人か…
今作では原作ポケキャラのイメージ崩すことにならないように努めたいところです。
それでは投下します
鞄を裏返すと、その中から赤と白のツートンカラーのボールが一つ、また一つとなだれ込むようにテーブルの上へと溢れ落ちていく。
やがてその数は二桁を超え、百近くまでたどり着いたところでボールの放出は止まった。
のび太は目を丸くする。どう見ても鞄のサイズを上回っている数のモンスターボールが、その鞄一つの中に入っていたのだ。
「何を驚いているのよ」
「な、なんでそんなにたくさんボールがあるのかなって……」
「野生ポケモンを捕まえたからに決まってるでしょ?」
「いやそうじゃなくて、そんなにたくさんのボールがその鞄の中に入ってるのが……」
この世界では常識的に行われることをのび太だけがあり得ないこととして認識している為、ズレが生じた。
彼が異世界の住人であることを理解しているコトネがそのズレを納得し、彼の疑問に柔和な口で答える。
「その鞄は四次元バッグって言ってね、量も大きさも関係無く中に入れられるようになっているの」
「へぇ〜、そうなんですか」
「お前だって四次元ポケット持ってたじゃない」
「まあ、あれは元々ドラえもんの物だから、本当は僕達の世界には無い物なんだ」
「ふ〜ん…… しょぼい科学力なのね、お前達の世界は」
「なんか嫌な言い方……」
顔つきはまさに親子だと疑いようの無い二人だが、話す言葉の雰囲気と言うのか、口調そのものに大きな違いがあるように思える。
どの言葉にもトゲがあるツバサとは対象的に、コトネには人を安心させるような柔らかさがあるのだ。
のび太のイメージ的にはゲームの彼女に年相応の大人らしさを合わせた感覚である。
「おっ! 帰ってたんだ。お帰りツバサ」
部屋の奥から一人の男が歩いてくる。
後退した頭髪に縁の丸い眼鏡、口元に薄い無精髭を生やした白衣の彼は、多少ゲームと違う容姿であってもすぐに誰なのか分かった。
ウツギ博士。やや老けているようだが、ゲームにも登場したポケモン研究者である。
「もう終わったのかい?」
「ちょっと厄介なことになるから一旦戻ってきたの。コレの修行もここでやりたいし」
「コレ? あ、ああ」
今研究所に居るのがツバサとコトネだけだと思っていたウツギは、彼女が親指で指差した眼鏡の少年の姿に気づいて驚く。
しかしすぐに相手の緊張をほどかせるような笑みを浮かべ、挨拶する。
「はじめまして。僕はウツギ、ツバサの祖父で、ここの責任者です」
「野比のび太です。ツバサちゃんを手伝いたくて、強くなる為に来ました」
一児の祖父と言うには目付きも喋りも若く、年齢ほどの貫禄は見受けられない。ゲームでも地味な印象はあったが、ここでもそのようだ。
事の素性をおおよそ理解したウツギは視線をのび太から孫娘に移し、にやついた表情で彼女に言った。
「全部一人でやるって言わなかったけ?」
「状況が変わったの。雑用をこなせる奴くらい必要になったのよ」
「はは、やっぱり一人じゃ難しいもんね。それで良いと思うよ」
「……なんかむかつく」
「まあ何にしても短期間でこんなに捕まえたのは凄いよ。ポケモンの捕獲はお父さんより上手いんじゃないかな」
「……………………」
思わぬところで父親と比較された瞬間、ツバサの表情に嫌悪の色が浮かび上がる。事情を知らないのび太にすら気づくほど露骨な変化だった。
『ウツギ、捕獲したポケモンだが、元の生息地を調べることは出来るか?』
「うーん…… 時間は掛かるけどなんとか出来るかな」
『出来る限り野生に還してほしい。無論、全ての次元の歪みを補修した後でだが』
「分かった。じゃあ僕はここで調べているから、君達は家で休んでなよ。仕事始めてまだ二時間ぐらいだけど、コトネもあがって良いよ」
唐突にボールの中から割り込んだホウオウのフォローによってツバサの表情がそれ以上悪くなることはなかったが、やはり上機嫌とは言い難い。
脱いだ白衣を折り畳みながら、彼女の母が耳に囁くように言う。
「……お父さん」
「あっ…… まだ憎んでいるのか……」
コトネの重い口調の裏には悲しみの影が垣間見える。
この場の空気までは重くせまいと、子供達の方へ振り向いた彼女の顔は笑んでいた。
「じゃあ家に帰ろ。色々向こうの話も聞きたいし、のび太君がどんな子なのか知りたいな」
「コレなら見た通りの奴よ。ノロマでどんくさい」
「ちょ、そんな言い方しなくても……」
『全くだ』
「二人して酷くない? もう……」
初対面の者を相手にマイナスイメージだけを植え付けようとするのは如何なものか。確かに本当のことではあるが、もっと良いことを話してくれても……と思いながら、のび太はヒビキ親子と共に研究所を出て行った――。
研究所から数百メートル離れた場所にあるというヒビキ家を目指す道中、朝の眠りからようやく覚めたピチューが自らの意思でモンスターボールを飛び出し、のび太の頭上までよじ登る。
それが自分の世界で捕まえたポケモンであると教えると、コトネは驚きに目を見開いた。
「へぇ〜、初めて出会ったポケモンをそんなになつかせちゃったんだ」
「なついてると言うのかはよくわからないですけど…… 痛っ! だから痛いってピチュー」
「あはは、そうやってピチューが構ってほしがっているのは貴方になついている証拠よ」
出会ったばかりの野生ポケモンを手懐けるなど、早々新米のポケモントレーナーに出来ることではない。いや、熟練者にも簡単には出来ないことだ。天性の才能と言っても大げさではない。
「優しい心の持ち主なのね、のび太君って」
「いやぁ、そうですかね〜」
「舐められてるだけなんじゃないの」
「ムッ」
コトネから褒められたことで気を良くした彼の耳に、空気を読まないツバサの冷めた声が突き刺さる。
反論が出来ないのが悔しい。
確かにこのピチューはのび太のことを自分のトレーナーとしてではなく、友達として接している。のび太はそれで構わないと思っているが、ピチューが彼を軽く見ていることは否定出来なかった。
しかし、彼女とて初めてポケモンを持った時は舐められていたのではなかろうか。のび太が見つけた言い返しの言葉を、彼女の母親が話す。
「あら、貴方なんか最初ヒノアラシを貰った時、何度も指を噛まれて泣きわめいてたじゃない。苦労したわねぇ〜」
「な、泣いてなんかないっ!」
「へぇ〜、じゃあ挨拶に体当たりされただけの僕の方がまだマシじゃん」
『うむ。確かにポケモンと心を通わす能力はお前の方が上だ』
「ツバサはポケモンバトル以前に、ヒノアラシをなつかせるまでに時間が掛かったものね。初めてのバトルなんて全然言うこと聞いてくれなくて、私のところに泣きついて……」
「泣きついてないっ! て言うかいつの話よそれ!」
過去には触れてほしくないと、これから先何を口走るか分からないコトネにストップを掛けるべくツバサは立ち回る。
流石は母親である。自分を相手にする時には見せなかった彼女の慌てた様子が、のび太にはとても新鮮に映った。
(やっぱり同い年なんだなぁ……)
今までのび太の前では冷静な態度を取り続けていた彼女だが、そこのところは彼と同じだ。
そして彼女にもポケモンを上手く扱えなかった時代があったことを知って、胸の内で安堵する自分が居た。
「あれあれ! あれが私達の家」
「僕のより立派な家だなぁ」
大きさはどこにでもあるような平凡な民家だが、のび太の住まうそれよりも綺麗で、新築の家なのかと疑わせるほどであった。
「お前の家が汚ないだけなんじゃないの。ワカバタウンの民家はどれもこんな物よ」
「こら、口が悪い娘でごめんねのび太君」
「いえいえ、本当のことですし」
自分の家に誇りの無いのび太はその言葉通り、特に頭に来るものは無かったようだ。
しかし、人によれば喧嘩にもなりかねない彼女の無神経な発言にコトネは頭を下げた。
ヒビキ家の中は外見の印象通り居心地が良くなり過ぎないほど、程度良く掃除が行き届いていた。
「おじゃましまーす」
のび太は玄関にて靴を脱ぎ、先行するツバサに続いて足を一歩前に踏み出すと、奥の方に見える二つの青い何かが彼らの元へ近づいてきた。
大きさは非常に小さい。ポケモン――マリルリの進化前の進化前、ルリリだ!とのび太は二匹の姿に思い出す。
二匹のルリリは先端の丸い尻尾をバネのように扱って高く跳び跳ねると、ツバサの胸に向かって一直線に飛び込んでいった。
「ただいまルル、リリ!」
彼女の帰宅をずっと待っていたかのように、今再会した二匹の顔には満面の笑みが広がっていた。ツバサは優しく笑顔で応え、のび太も釣られて笑った。それほど二匹が嬉々としていたのだ。
「重いってばこらっ」
「二人とも久しぶりにツバサと会えて喜んでいるのね」
「コトネさんのポケモンですか?」
「ええ。ルルとリリって言うの」
「うーん…… どっちがどっちだぁ?」
「ほら、あっちの水玉模様が大きい方がルルで、あっちがリリ。ルルは男の子でリリが女の子よ」
「……全然わかんない……」
「みんなそう言うのよね〜。長く付き合ってないと分からないのかしら」
二人の視線を浴びながらツバサと二匹のルリリは楽しげにじゃれ合う。
見ていて心温まる光景だ。やっぱりポケモンは可愛いなぁ、とのび太はありのままの感想を抱く。男子である以上可愛さより格好良さを偏重する彼ではあるが、力が無くてもああいったポケモンも悪くないと意識を変えた瞬間であった。
すると二匹が現れた方向から今度は一匹のポケモンが―― ルリリより一回りも二回りも大きな、長耳の青いポケモンが歩み寄ってきた。
ゲームだけでなく、現実でツバサが使うポケモンとしても見覚えがある。
マリルリだ。ルリリの進化形態、マリルのさらなる進化形態である。青い肌の上から、その生き物は白いエプロンを纏っていた。
「なんか凄い……」
「お留守番ありがとうルリジロー。家の掃除までしてくれたんだね」
「久しぶりルリジロー」
ヒビキ親子からルリジローと呼ばれた家庭的なマリルリは二人の帰宅をルリリほどではないが喜び、すると何かを言いたげな目でツバサの顔を見上げた。
気づいた彼女は一つのモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。光と共に現れたのもまた同種のポケモン、マリルリであった。
「お母さんのマリルリ、結構役に立ったよ」
「でしょう? レベルも高過ぎないし良いと思ったのよ」
ツバサが出したマリルリとルリジローは互いの微笑みを確認し合う。二匹のマリルリと二匹のルリリが揃う光景に、のび太はある疑問を抱いた。
「もしかして、ここのみんなは家族なんですか?」
「そうよ。マリルリがお母さんでルリジローがお父さん、ルルが長男でリリが長女。四人家族なの」
「ニックネーム一人だけ無いんだ…… でもルリリ達ママに会えて喜んでる」
一軒の家に家族が二組。もしかして自分は一人だけ浮いているのかもしれないと、のび太は軽い疎外感に苛まれた。
しかし、それは頭上に座る黄色い電気ネズミの手によって掻き消される。またしても髪を引っ張り、あまつさえ数本引っこ抜かれてしまったのだ。
「もう! いい加減にしてよピチュー!」
「その子、貴方と遊びたがっているんじゃないかな」
「えっ? そうなのピチュー」
人間で言えばピチューはまだ幼い子供だ。丁度感情表現が不器用な年頃なのだろう。
コトネの推測からのび太が問うと、ピチューはしばしの沈黙を空けて頷いた。勿論、頭の上に居る為のび太には見えていないが。
「そうだツバサ、ルルとリリを連れて外でのび太君とピチューと遊んできたら? 親睦を深める良い機会でしょ」
「ええ!? ルルとリリは良いけどなんでコレなんかと……」
「なんか僕の言われ方が段々酷くなってる……」
「コレって言わないの。のび太君ごめんね。こんな子とじゃ貴方も嫌よね」
「僕? 僕は全然良いですよ」
「ありがと。心が広いのねのび太君は。
……ツバサ、貴方はそんな人付き合いじゃその内周りから取り残されるよ?」
「分かったよ……」
乗り気には見えないが、口ほど嫌がっているようにも見えない。
特別のび太のことを嫌っているわけではないし、彼女自身、久しぶりに自由な時間を過ごしたい気持ちがあるのだろう。
二匹のルリリを抱き抱える少女を中心に、三人の脳にテレパシーの低い声が介入する。
『ツバサ、我は母方と話がしたい』
「話?」
『詳しく報告せねばならぬことがあるからな』
「そうね。ついでにしばらくアレの面倒を見てくれって頼んでおいて」
『承知した。お前も気分転換してくると良い』
「ありがとホウオウ。じゃあお母さん、このボールよろしくね」
「はい」
ペンダントのように首から吊り下げた金色のモンスターボールを外し、ツバサは母の手に渡す。
コトネを母とするなら、ホウオウもまた彼女にとって特別な存在なのだろう。自分と話している時とコトネやホウオウと話している時のツバサの態度を比べて、のび太はそう感じた。
自分も家族と同じように接してくれて良いのになぁとは思うが。
(そう言えば、ツバサちゃんのパパが居ないなぁ…… 仕事に行ってるのかな)
この家の中で彼女らの帰宅を待っていたのはマリルリとルリリ達だけのようであり、彼女の父親、即ちコトネの夫の姿は見えない。
こんな美人と結婚出来る幸せ者はどこの誰かとその面を拝んでみたい気もするが、今は諦めることにした。
「どうせ美形なんだろうなぁ……」
美形とは程遠い顔立ちの少年が儚げに呟く。
いかんともし難い喪失感を覚え、自分が出木杉のような美少年に生まれなかったことを少しばかり憎んだ。
しかし、自分にも美人の嫁さんを迎える未来がある。少なくともドラえもんが見せてくれた未来はその筈だ。
――よし、頑張るぞ!
いずれ来る幸福な未来を信じ、のび太はツバサとルリリ達と共に表へ飛び出した。
市街から遠く離れた森林地帯に、名前も無い湖がある。
出木杉英才と源静香は二人、コイキングを連れてこの場所を訪れていた。人目に付かないこの湖ならば他所より育成がしやすいと判断したのである。
しかし、人目に付かないとは言えここはただの湖だ。ポケモン育成に必要な野生ポケモンが生息しているのかも分からない。
「だけどここで進化出来るのかしら……」
「勿論あてが無いわけじゃないよ。僕にちょっと考えがあってね」
出木杉英才はその名の通り出来すぎた天才であり、無策でコイキングを進化させようなどと愚行を働く人間ではない。
上手くいくかどうかまでは分からないが、あてはいくつもある。
「とは言っても野生のポケモンなんてそう何匹も居るものじゃないし、普通にレベルを上げて進化させることはまあ出来ないだろうね」
「他に方法があるの?」
「うん。イメージトレーニングだ」
戦闘による経験値の入手は最初から視野に無く、出木杉は別の方法を考えていた。
既にモンスターボールから放しているコイキングは水面から顔を出しており、彼はそれと向かい合う。
お互い信頼し合う仲とは言えないが、コイキング自身にも進化したいという強い意志がみなぎっているようであり、やる気は満々だ。
「コイキング、イメージするんだ。進化して物凄い力を手に入れた自分の姿を。心の底から強くなりたいと願うんだ」
「コココ……」
精神論は彼の主義ではないが、一パーセントでも確率があれば実践しない手は無い。
どんな手を使ってでもコイキングさえ進化させれば、少なくとも自分がポケモントレーナーになるべき存在であることを証明出来る。
丁度静香も見ているので、上手くいけば彼女に好印象を与える筈だ。
一人で戦っているツバサを手伝いたいという気持ちも勿論あるが、彼を突き動かす最も大きな理由はやはり静香に格好の良いところを見せたいという純粋な野心にあった。
「瞳を閉じて雑念を捨てて、ひたすら念じるんだ。大丈夫、君は強いポケモンだ」
「頑張ってコイちゃん!」
意志だけで成し遂げられないことは山ほどある。だが、意志が弱ければ何も始まらないのも確かだ。
常識を超えた存在であるポケモンなら、不可能は無い筈。
まずはその可能性を信じよう。
それが彼らの修行の始まりだった。
投下終了
予定より展開を進められなかった……
次回はもう少し動かします
乙
避難所の方の名前になってるww
ところで、ずっと末尾Qだけど規制未だに解けないの?
>>290 指摘されるまで気づかなかったw 勢いでGTにしてしまった。
規制は…… よく分かりません
乙。野心家な出来杉も斬新でいいなw
コイキング頑張れ
ルルとリリかわええな
期待の保守
ありがとうございます。
それでは投下します
のび太達の住まう町と同じように、このワカバタウンにも公園があると言う。
そこを目的地とし、のび太とツバサは並列して歩いていた。後を二匹のルリリ達が尻尾を使って跳び跳ねながら追い掛け、一匹のピチューは少年の頭上でうたた寝している。
元々ネズミポケモンは夜行性で、その上ピチューはツバサのルリリ達のように人の暮らしには慣れていない。
涼しい空気も相まって、その目蓋に睡魔が襲い掛かるのも不思議ではなかった。
だが、頭の上で眠るのは勘弁してほしいというのがのび太の切実な願いである。
「お前、そろそろ首痛めるわよ」
「もう痛めてるよ……」
「ならボールに入れるか、やめなさいって言えば良い」
「そんなこと言ってもなぁ…… ボールに戻しても勝手に出てくるし、気づいたら頭の上に乗っているんだ」
「……お前は甘やかし過ぎ。しっかりとしつけをしないから舐められるのよ」
「はは、だよね……」
先輩ポケモントレーナーからの有り難いお言葉として受け取っておく。
だが、これほどまで気持ち良さそうに眠っているピチューを起こしてしまうのも気が退ける。彼自身よく眠る人間であり、ピチューに同情する部分があるのだ。
結局、彼は頭に小動物の体重を抱えながら歩き続けることにした。
公園の位置はツバサの実家からさほど距離もなく、現在地からも様子を伺うことが出来る。
その短い道のりの中で、二人は芝生の道に立つ一人の青年を見つけた。
「あっ!」
「あの人は…… ぐふっ!?」
思わず二人は足を止める。すると、止まりきれなかった二匹のルリリが勢い余ってのび太の背中に激突した。
二匹が二匹仲良く微笑ましいものだ。のび太は背中を擦りながら顔を上げ、気を取り直して前方を向く。
青年と顔を合わせ、目付きを尖らせるツバサの姿があった。
(ライバルだ……!)
赤色の長髪。
引き締まった顔立ちに、獣のような鋭い眼光。
ゲームの登場人物として見た彼は少年であったが、目の前に居る彼は立派な男性の姿であり、何より色鮮やかな赤色の髪は人目を引く存在感を発揮していた。
「帰っていたのか」
青年の一声である。
その声が向かう先はのび太ではなく、ツバサであった。
「……おめおめと何しに来たのよ、チャンピオン」
青年の外見の迫力に臆することもなく、若干十一歳の少女は挑発的な言動を見せる。
「ふっ、お前にそう言われると皮肉に聞こえる」
青年は鼻で笑い、挑発を受け流す。
悪人顔と言える顔つきである彼だが、性格は思ったよりも落ち着いているようだ。
「一年ぶりか。背は全く伸びてないな」
「伸びてるわよ…… で? 本当に何しに来たのよ。あんたほどの大物がこんな田舎にさ」
「お前とお前の母親に伝えたい情報があってな……」
のび太をないがしろに、二人の会話は進行していく。
気分的には嬉しくないが、自分が割って入れる話題でないと察し、のび太は静観を決める。
青年は数拍の間を置き、少女の瞳を真っ直ぐに見据える。
そして直後、彼女にとって衝撃的な発言を言い放った。
「お前の親父が見つかったらしい」
「――ッ!」
はっきりと、彼女の表情に変化が起こった。半瞬の間だけだが驚愕に金色の目を見開いたのだ。
しかしすぐに常の表情に戻り、青年と対峙する。
「それが……どうしたのよ」
「実際に会ったわけじゃないが、オーレ地方に居ると聞いた」
「だからどうしたって言うのよ」
「……会いに行ってやったらどうだ? いくらあの男でも、娘の呼び掛けには応えるだろ」
青年が喋れば喋るほどツバサの声に苛立ちの色が強く含まれていき、それと同調するように青年の目付きが厳しくなる。
苛立ちを隠しきれなくなった彼女が柳眉を逆立て、肩を震わせた。
「ふざけないでよ! アイツは家族を捨てたのよ!? お母さんのことなんか考えもしないで、勝手に家を出て!
会いに行ってやれって? 冗談じゃないわ! オーレでもどこでも、親父なんて道端で干からびて死ねばいい!」
「ツバサ!」
怒りの形相で吐き出された暴言に対し青年は強く反応し、彼女の両肩に掴み掛かる。
だがその行動は彼女の怒りを煽るだけだった。
「親父に捨てられた子供の気持ちは、あんたにだって分かるでしょ? 家族より冒険を優先するような奴に、何でわざわざ会いに行ってやらなきゃいけないのよ!」
「お前がアイツを憎む気持ちは分かる。だが自分の親も信じられなくて誰を信じるんだ! アイツはお前達のことを……」
「あんな奴もう親でも何でもない! 顔も見たくないわ!」
青年の手を払い除け、ツバサは彼の横を通り過ぎていく。
「行くよノビタ」
「あっ…… うん……」
遠ざかっていく小柄な体を二匹のルリリが追い掛ける。
しかしのび太にはただ呆然と眺めることしか出来なかった――。
「…そう…… あの子はまだ憎んでいるのね……」
ヒビキ家のダイニングルームでは、テーブルに置かれた金色のモンスターボールと昼食の用意をする主婦の対談が行われていた。
この世界であればホウオウがボールから顕現しても次元を歪めることはない。しかしサイズ的な問題もあり、基本的にはボールの中に収まっていた。
そんなホウオウが今、ヒビキ家の主婦、コトネの頭脳にテレパシーを送っている。ホウオウにとって彼女は、気を許すことが出来る数少ない人間の一人であった。
『うむ…… やはり本当のことを話す時が来たのではないか?』
「それは駄目よ。今のタイミングで話したら、きっとあの子は自分を責めてしまう。自分は何も知らなかった、てね…… 下手をするとあの子の未来は狂ってしまう。それはあの人にとっても一番嫌なことじゃない?」
『しかし……』
「大丈夫よ。私はちょっと寂しいけど…… あの人は自分から憎まれることを選んだ。いつかあの子が自分でそれを知るまで…… その時まで我慢するしかないよ、ホウオウ。それが一番良いってあの人は考えている」
『……長年共に過ごしていたが、やはりあの男の考え方というものは解せない』
ふふっ、と笑みを溢し、向かい側の椅子から立ち上がったコトネは、エプロンを纏ってキッチンに向かう。
そして振り向き様に言った。
「それで正解よ。同じ人間でも分からないような考え方をするからね、ゴールドって人は」
……母は強し、という格言が人間にはある。
ポケモントレーナーとポケモンが心を通わせるのとはまた違った意味で、彼女とあの男は通じ合っているのだろう。
しかし、あの男とツバサはどうなのだろうか?
通じ合うことを断ち切られた今、二人はこのまま擦れ違い続けることになる。
今はただ、彼女の憎しみに愛が含まれていることを信じるばかりであった。
山の中でポケモンの捜索を始めてから早二時間。
ポケモンのポの字すら見つかる気配が無いまま、ジャイアンとスネ夫は木陰で休憩を取っていた。
「くそ〜…… 全然見つかんねぇなぁ。ツバサはどうやって見つけてんだぁ?」
「さあ…… ホウオウが何とかしてるんじゃないのかな」
野生ポケモンを自分達の手で捕らえる為にこの山を訪れたのだが、発見すら出来ないのでは始まりもしない。
半ば諦めたような気の無い顔をするジャイアンとは違い、スネ夫はそれでも希望を失わなかった。
(これだけ広い山なんだ。絶対どこかに居る筈……)
見つけ次第即座に攻撃出来るよう、スネ夫の両手には黒く光る物々しい物体が抱えられていた。
野生ポケモンと戦う為に従兄のスネ吉から授かった、BBエアマシンガン。
見た目は本物のマシンガンの形を模しているが、重量はスネ夫の両手で扱える程度に軽く、勿論中に詰め込まれているのは実弾ではなくBB弾だ。
しかし一般的に玩具として販売されているエアガンよりも全てにおいて高いスペックを誇っている。町中で発砲すれば法に触れるほどの破壊力を秘めており、スネ吉いわく「使ったらバラバラにして捨ててくれ。あと感想もよろしく」だそうだ。
スネ夫は彼に感謝している。これさえあれば力の弱い自分でもポケモンと戦うことが出来るのだから。
「おい、スネ夫」
休憩の最中、不意にジャイアンが呼び掛けてきた。
捜索を再開すると言うのだろう。スネ夫は後に続く言葉を予想する。
しかし、その予想は外れる。予想よりも優しい現実が、そこにあったのだ。
「あれ…… ポケモンじゃねぇのか?」
「あっ…… 本当だ!」
ジャイアンが指差した十メートルぐらい前の方向には、一本の大木が佇んでいた。
枝の上から、リスでも猿でもない緑色の生物が二人の姿を見下ろしている。好奇心か警戒心か、その体制のまま微動だにしなかった。
二人は視線を返しながら一歩ずつ前進していく。そうしていく間に、彼らはその緑色の生物がポケモンであることを確認した。
「キモリだ!」
「すげぇ!」
爬虫類にも似た容貌だが、そのポケモンは二足歩行で木の枝の上に佇んでいる。
ポケモンのゲームを通算で何百時間もプレイしている彼らには、姿を確認すると同時に名前を当てはめることが容易だった。
スネ夫もジャイアンも間違っていなかった。野生ポケモンはこの山に生息していたのだ――。
投下終了
次回はジャイアン&スネ夫メインの話になります
乙
ホウエン勢もやってきてるのか
乙!のび太ならエアガンの扱いとか上手そうなんだがスネ夫に扱えるのかな
つーか、ツバサの恨んでる相手は予想通りだが、なんか新たな伏線出てきたな
ライバルは名前何だろう、シルバーかな
つーかチャンピオンになれたのかよあいつww
懐かしいなBB弾
地元では流行りすぎて道という道のそこら中に落ちてたわww
昨日の内に間に合わせたかったですが、今推敲が終わったので投下します
今回は少しギャグ展開というかカオスなことになります
正午を過ぎた時刻。場所は始まりを告げる北風の吹く町、ワカバタウン。
そこにある一軒の民家では、家族と来客を交えて昼食を楽しんでいた。
「うまいっ!」
育ち盛りの少年、野比のび太は料理におけるこの家の主婦の腕前に感服する。
一口食すだけでも、思わず声を上げてしまった。世辞ではなく、彼はただ純粋にこれを美味と認定したのだ。
それは来客である彼でなくとも、主婦の娘であるツバサにとっても同じだった。
のび太のように声を上げるわけではないが、箸を進める彼女の顔には笑みが浮かんでいる。
「やっぱりお母さんの料理が一番ね。向こうのコンビニ弁当よりずっと美味しい」
「あらそう? 貴方は小さいんだからもっと食べて良いのよ」
『いや、肉体的な成長を今遂げてしまうのは喜ばしくない。次元の歪みを通り抜けることが出来なくなるからな』
「あっ、それもそうね。でも大丈夫よ。突然のび太君より大きくなるなんてないだろうし」
「……なんかムカつく」
冷静に自分のコンプレックスを突かれた、ような気がする。「自分だってあんまり大きくないくせに……」と、母親の胸部に目を落としながら心中でそう呟くツバサだが、口に出すと後が怖いのでそこまでにしておく。
まあ、その程度のことは今はどうでも良い。どうでも良いのだ。
今この場には、彼女にとってどうしても納得出来ないものがあった。
しかし、何故か母もホウオウも説明してくれないし、のび太も気まずそうな顔を窓側に向けているだけだ。
そろそろ聞いてもいいだろうか。
いや、聞くしかない。
「ねぇお母さん、なんで……」
「ん? なに?」
何か問題でもと問い返しかねないほどの涼しい顔を母は娘の前に覗かせる。
それが一層不愉快さを増大させた。
「なんで……」
母は彼女の隣側に腰掛けており、向かい側にはテーブルを挟んでのび太が居る。
彼女が問い質したくて堪らない存在は、彼の隣―― さも家族の一員のように場に溶け込みながら、無言で昼食を頬張っている赤髪の青年であった。
「なんでこの人が居るのよ!?」
青年を指差し、かっと目を見開いて母に問う。彼女とはなるべく目を合わせないように、青年の隣に座っているのび太はやはり窓の外の景色を眺めていた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってない! 家帰ったら当たり前のようにここに居て、当たり前のようにテレビ見ながら今だって当たり前のようにご飯食べてる!」
「ツッコミの隙さえ無かったって? あはは」
「あはは、じゃない! いつから家族になったのよこの人は!」
彼と喧嘩に近い騒ぎを起こしてから、そう時間は経っていない。その為か、ツバサは彼とは顔を合わせたくないという気持ちが強かった。
しかし彼は彼女に指差されることをコイキングの跳ねる程度にも感じていないのか、黙々と人の家の料理を食べ進め、そして箸を置いて飲料水の入ったガラスコップを手に取った。
それを飲み干した後、彼はコップをテーブルの上に戻し、鋭い眼差しをツバサの元へと向けた。
「たった今、俺はヒビキ・シルバーとなった」
ようやく放った発言は彼女にとって衝撃的でも何でもなく、ただ笑うことも出来なかった。
「……その顔で冗談言うのやめてくれる? 内容もすっごい腹立つ」
「そいつは悪かった」
大して悪びれた様子も無く、彼は中身の無い言葉を返す。そのやり取りの何が面白かったのか、ツバサの隣で母は腹を抱えていた。
「あはは、シルバー君も冗談言う人になったのね。今のは確かに寒かったよ」
「……満更ではなかったが……」
「ん?」
「いや、何でもない」
一同の聴覚では拾えない声量で何かを呟いた後、赤髪の青年は再び箸を取り、昼食を口に入れる。
横ではのび太が「名前、シルバーっていうのか……」と独語していたが、特に気にすることでもない。
「シルバー君はお客さんよ。貴方達が帰る前に来て、土産物だってコレを持ってきてくれたの」
「セキエイ名物セキエイせんべい? またつまらない物を……」
『つまらぬと言うな。我々ポケモンにとってそれは食の充実に繋がる』
「美味しいおやつってことね。普通に言ってよホウオウ」
母が掴んだ緑色の四角い箱を眺め、ツバサは軽くため息を吐く。
……調子が狂う。
お母さんやシルバーと話す時はいつもそうだ。
《発見されたポケモンが千種類を超えた今、人類は彼らとの共存意識をより高めていかなければなりません――》
食卓の前にあるテレビモニターから報道番組の音声が聞こえてくる。
自分から振ったものだが、赤髪の青年から話題を逸らしたくなったツバサはその報道内容について母に尋ねる。
「ポケモン、千種類超えたんだ……」
「そう、貴方が向こうの世界に居る間にね。お父……お爺ちゃんはポケモンのタマゴが専門分野だから良いけど、オーキドさんの所は大忙しだって」
「どんどん増えているわね」
「だが新しいポケモンが増えれば増えるほど、人間とポケモンとの関係は難しくなっていく」
赤髪の青年の元に視線が集まる。
口を挟めないが耳は傾けているのび太を尻目に、三人は社会的な問題について語り合う。
「その分だけポケモンを使った犯罪行為や争い、そして歪んだポケモントレーナーは増えていくだろうな」
「ポケモンリーグはどう対策を?」
「ポケモン学校教育の義務化が提案されている。今のように十歳になったら旅に出て良い、という形ではなくなるだろうな」
「子供はきちんとした教育を受けなきゃポケモンを扱うのも駄目、とかなりそう?」
「それは分からない。だがポケモンの悪用を無くす為には現状の浅すぎる教育方針では不足している。それは確かだ」
『ポケモンと人間が共存する世界もまた、次の世代へと移行を始めたのか……』
のび太達の世界が多々なる課題を抱えているのと同じように、この世界にも課題があるのだ。
聞いているだけだが、のび太には三人の会話からそれを理解することが出来た。
政治的な話には全く着いて行けそうにはないが、ただ彼はポケモンの種類が千を超えたという話に驚愕する。
「まあ、その件に関しては俺よりオーキドが詳しい。生憎俺は議員じゃないんでな」
「あっ、そういえばシルバーさん……はポケモンリーグのチャンピオンなんですか?」
突然三人の中に入り込んできた隣の少年に赤髪の青年、シルバーは視線を移す。すると、短く「一応な」とやや不快そうに曖昧に答えた。
「へぇ〜! そうなんですか」
「のび太君運が良いわね。この世界に来て早々にチャンピオンと会えるなんて」
「ん? そうか、コイツが異世界の協力者って奴か。妙な格好をしているわけだ」
目を輝かせて見上げてくる少年の澄んだ心を前にして、シルバーはにわかに頬を緩める。誰でも尊敬を受ければ悪い気はしないものだ。
だが、彼は己のことを優しい大人だとは思っていない。客観的に見てもその目付きが示す通り、気性は穏やかな人間ではなかった。
「お前、覚悟は出来ているのか?」
「はい、もちろんです!」
「ツバサの足引っ張るなよ。それとポケモンを扱うからには迷うな。トレーナーの精神状態はポケモンにも影響されるんだからな」
「はい!」
「途中で投げ出すのも駄目だ。やるからには最後までやり通せ。命を捨てる覚悟で」
「それは…… わかりました!」
駆け出しの新米トレーナーに対する無愛想なチャンピオンなりのアドバイスだろう。
……人というものは本当に変わるものだ。
今ののび太ぐらいの年齢の彼を知っているコトネには、現在の彼を見て感慨深いものを抱かずにはいられなかった。
一旦ここで投下を中断します
後半はジャイアン視点。二時間後ぐらいに再開します
再開します
――キモリ、森トカゲポケモン。
タイプは草、生息地は森林地帯を主とする。
ゲームでは主人公が最初に手に入れるポケモンの一匹、俗称「御三家ポケモン」に含まれている。
草タイプという属性は基本的に弱小と罵られているが、このポケモンは別だ。
捕獲すれば戦力として申し分ない働きを期待出来る。
「よっしゃ、じゃあとっ捕まえるか」
木の枝の上からこちらに警戒の目を向けている緑色の姿を見上げ、ジャイアンは指を鳴らしながら言う。
すると、小柄なセミリーゼントの少年――スネ夫が彼の肩を掴んできた。
「なんだよ?」
「じゃんけんしようよ。どっちがアイツを捕まえるか決めよう」
スネ夫はいつに無く強気な視線をガキ大将に覗かせる。
ジャイアンは普段なら、強引に「俺がやる!」と言っては人の言葉など聞く耳すら持たないところだ。
しかし、スネ夫の決意に満ちた力強い眼差しを見て何も感じないほど、彼は非情な男ではなかった。
「良いぜ」と短く応じ、そして掛け声を放つ。
「最初はグー!」
「じゃんけん……」
「「ポンっ!」」
ジャイアンの手が象ったのはハサミの形、チョキ。
スネ夫の手が象ったのは紙の形、パー。
よって、キモリへの挑戦権はジャイアンが手にすることとなった。
「悪く思うなよスネ夫」
「……まあ良いや。コレ使う?」
「いらねぇ。言っただろ? 俺の武器は拳だけだってよ」
「そうかい」
両手に抱えたBBエアマシンガンの光沢が、今は虚しく映った。
それでもじゃんけんによる公平な結果だ。そのところはスネ夫も理解していた。
「まあヤバくなったら手を貸すよ。頑張って捕まえるんだね」
「へっ、お前に出番はやらねぇよ」
屈伸運動をしながらもキモリから目を離さず、己の体を戦闘用に仕上げていく。
相手として不足は無い。そしてこちらにも不足は無い筈だ。
「俺は毎日トレーニングを欠かしたことはねぇ。一ヶ月前、遂にげんこつげんごろうを倒したんだ。相手がポケモンだろうが……」
足元の小石を拾い上げ、手の中でそれを弄ぶ。
未知なる敵が相手ということに、少なからず緊張はある。
だが、絶対に負けないという自信はあった。
「ギタギタにしてやるぜ!」
野球の投手として培った強肩で、ジャイアンは思い切り小石を投げる。
狙いをつけられた小石はキモリの乗る木枝を貫く。それが、戦闘開始の合図だった。
「来いっ!」
木の上から引き摺り下ろされる形となったキモリは地に足を付けた瞬間、ジャイアンを敵と断定する。
人を超えた跳躍力で飛び上がると、彼の頭上から緑色の尻尾を振り下ろす。ジャイアンは両腕を交差させて防壁を作り、その攻撃を防御する。
(痺れる……!)
一撃が重い。彼が今まで戦ってきた相手の中で、キモリは間違いなく最強の力を持っている。
しかし、それで怯むガキ大将ではない。
跳躍から着地までの隙を狙い、ジャイアンは足払いを掛ける。キモリは体制を崩すものの転倒には至らず、両手で受け身を取ると再び尾を使った打撃攻撃を仕掛けてきた。
「ハァッッ!」
横薙ぎに払った尾の打撃を身を屈めてかわし、ジャイアンはカウンターの要領で拳を突き出す。
見た目の体型に反した俊敏な動きにキモリは驚き、それが一瞬の隙を生み出した。
ジャイアンの拳は腹部を捉え、緑色の姿を三メートル前方まで突き飛ばした。
「やった!」
「へっ……」
感触は確かだ。後方で彼らの戦闘を見守るスネ夫は歓喜の声を上げ、ジャイアンは唇をつり上げる。
今の一撃でノックアウト出来たとは思わない。だが、ダメージを与えたという確信はあった。
それでも、立ち上がる爬虫類めいたキモリの顔には微笑が浮かんでいた。
「おもしれぇ…… まだまだやってくれるみたいだな!」
ジャイアンの、人間の力を侮っていたのだろう。今のキモリの目は彼と同じで、好敵手と張り合う者のそれだった。
ザッと音を鳴らし、キモリは地を蹴る。次の瞬間、その姿はジャイアンの背後にあった。
「速い!」
物凄いスピードだ。素早く敵の殺気を読み取った彼は身を翻し、攻撃の回避を目論んだものの、その頬には一線の切り傷が刻まれていた。
「スピードはお前が上だな。けどなぁ!」
ゲームで知るステータス通り、キモリが秀でているのは素早さだ。
反撃に繰り出されたジャイアンの蹴りを容易くかわしてみせると、彼の土手っ腹に向かって一直線に飛び込んできた。
しかし、進行はそこで食い止められる。
ジャイアンの両手がキモリの体を受け止め、がっしりと固定したのだ。
「パワーは俺様だ!」
敵の顔面に対して渾身の頭突きを食らわせると、ジャイアンは投球の如く緑色の身を投げ飛ばした。
大木の側面に叩きつけられる予定であったキモリの体だが、空中で高速回転することで体制を立て直し無事に着地を果たす。やはりその顔には笑みが浮かんでいた。
「なんだよ? 余裕だって言いたそうだな」
軽く腰を落とし、すぐにでも行動可能な構えを取り、ジャイアンは言った。攻撃を受けているというのにキモリの表情には妙に余裕があり、それが解せなかったのだ。
キモリは右腕で顔に付着した泥を拭き取ると、戦闘の構えも取らず彼の姿を見上げる。
「まだまだ本気ではない」そう言っているようにジャイアンは感じた。
ならば、本気を出させるだけだ。
「薄ら笑いもそこまでだぜ。俺だってまだ本気じゃねぇんだ」
ジャイアンの言葉に、キモリは「ほう……」と感心げに吐くように口を開ける。
すると、その顔に笑みが消えた。寧ろ、集中力の上昇を表すような引き締まった顔に変化していた。
「準備体操は終わりだ…… 行くぜ、キモリ!」
先に動いたのはジャイアン。地を駆け、力を込めた拳を上から振り下ろす。
感触は―― 無い。
既に緑色のポケモンは彼の背後から狙いをつけていた。
「オリヤァァッッ!」
横薙ぎに払いに来るキモリの尾に対し、ジャイアンは拳で応戦する。
二つの力は中心の空間で衝突し、両者の体を激震させる。
力に差は無いということか。予想以上のキモリのパワーに、ジャイアンは内心では驚いていた。
その後も繰り返される拳と尻尾のぶつかり合いは打撃音と土煙を周囲に巻き起こし、一人と一匹の激闘を派手に演出する。
もしこの光景をツバサが目にしたなら、彼女はおそらく生身でポケモンと互角に渡り合う彼を新種のポケモンと断定し、捕獲しに掛かっていたかもしれない。それほど彼らの戦闘は白熱を極めていた。
戦闘開始から三十分が経過。
力の拮抗した彼らの戦闘に、とうとう変化が訪れようとしていた。
バキッ!と音を鳴らし、ジャイアンの拳がキモリの左頬を打つ。
キモリの尻尾がお返しとばかりに彼の左脇腹へと叩き込まれる。
キモリは自慢のスピードを殺したノーガードの殴り合いをしているが、単純な力勝負でも完全に互角であった。
いや、長期戦になればなるほど、基礎体力が上回るキモリの方が優勢になっている。
「だあっっ!」
右腕を引き、ジャイアンは右足を使った蹴りを敵に掛ける。
蹴りは単純に拳よりも威力が高い。
しかし、直撃を受けなければダメージにならないのは当然だ。
蹴りの瞬間キモリはバックステップを踏み、彼の一撃を空振りにせしめた。
(くそ……!)
人間の拳は決定打になり難いと判断し、ノーガードで応戦。
蹴りは威力こそあるが振りが大きい為、余裕を持って回避行動に転じる。
キモリというポケモンは、頭脳を用いて戦闘を行っていた。
「うっっ――!?」
この状況における蹴りの空振りは大きな隙を生む。無論、キモリはそれを逃さなかった。
尻尾を使った叩く攻撃は彼の頬を打ち付け、彼を転倒させる。戦況が互角から、はっきりとキモリが優勢となった瞬間であった。
「ジャイアン!」
友が身を案じ、声を掛ける。
彼があくまで一対一の戦いに拘るのだろうと始めから思っていた友は、これまで一度足りともこの戦闘に手を出してはいない。
しかし、彼に命の危険が及ぶと言うのなら話は別だ。
骨川スネ夫は元来臆病者であるが、今は従兄力作の強力な武器がある。いざとなれば戦う勇気が、この時はあった。
「うう……! ぐあっっ!」
仰向けに倒れた体制から立ち上がろうとするジャイアンに、キモリは追い打ちのように叩く攻撃を掛ける。
――勝負は決したか。
キモリが敵の意識を奪う止めの一撃に入ろうとしたその時、彼らの間を一発の銃弾が横切った。
「……スネ夫……!」
「バトンタッチだ。キモリ、次は僕が相手だ!」
キモリは予想よりも強い。
だが、スネ夫の両手には見ての通り強力な武器が抱えられている。
勝率は百に等しい。その自信が彼にはあった。
しかし――
「くそっ! このっ、このっ!」
マシンガンの名に相応しく、何発ものBB弾が高速の連射を見せている。
しかし、その弾が一発として緑色の姿を捉えることはなかった。
――速い、速すぎる。
天才射撃主野比のび太ほど、スネ夫は銃の扱いに長けていない。だが下手というわけでもないというのが客観的な分析だ。
問題はキモリのスピードである。
視界の端から端まで瞬く間に移動してみせるそのスピードは、彼の動体視力で追える限界であった。
目では追えても体が追い付かないのだ。
(くそ……! ジャイアンはなんて化け物と戦っていたんだ!)
ポケモンの力を根本的に見くびっていた。
レベルの低そうなあのキモリですら、生身の人間では対処しようにもない。
戦うことで初めて、スネ夫はポケモンとジャイアンの恐ろしさを身に染みて痛感するのであった。
――それでも!
「ツバサちゃんの為にも……負けてたまるかぁぁっ!」
彼には負けられない理由がある。ポケモンを捕まえねばならぬ理由がある。
咆哮が戦闘に影響を与えたのか否か、絶え間無く放たれたBB弾の数発が、遂にキモリの姿を捉えた。
心の中でガッツポーズを取るスネ夫。
しかし、命中したBB弾はほんの僅か。
大した成果を得られることもなく、キモリは反撃すべく彼の元へと飛び掛かってきた。
「まだだ!」
怯まず、スネ夫はカチッともう一度引き金を振り絞る。
しかし、銃口からは何も放たれなかった。
「弾切れ!?」
表情は一変して青ざめる。
刹那、BBエアマシンガンはキモリの尻尾によって叩き落とされた。
だが、それで済む筈がない。
次の狙いは無論、スネ夫自身であった。
「うわあああ!!」
身の危険が迫り、スネ夫は悲鳴を上げる。
しかし、キモリの尻尾が彼を殴打する前に、横方からの拳がキモリの体を殴打し突き飛ばした。
見れば、そこには傷だらけのガキ大将の姿があった。
「ジャイアン!」
英雄の登場を喜ぶようにスネ夫は彼の名を呼ぶ。だが、ガキ大将の注意は緑色のポケモンの姿だけに張り付いていた。
「キモリは強い奴だ…… げんごろうや母ちゃんよりも、誰よりもなぁっ!」
鬼の形相。ジャイアンの目には今までスネ夫が見たことが無いほど熱い炎が燃え上がっていた。
キモリに向かって駆け出し、殴り合いの激闘が再会される。
キモリを倒せるのは、彼だけだ。
そこに付け入る隙など、スネ夫には無かった。
……似たような状況を、コミックか何かで見た覚えがある。
そうだ、あれだ。
「頑張れジャイアン、君がナンバーワンだ」
今まで彼の腰巾着として生きてきた、その生き方は間違いではなかったと信じたい。
この先も彼を嫌うようなことは幾度もあるだろうが、スネ夫は誇りに思う。
彼が自分の友であること、自分達のガキ大将であることを。
投下終了
本作のジャイアンの戦闘力は原作の五割増し程度です
乙。俺もなんか規制じゃないはずなのに携帯から書き込めないから末尾Qで
キモリが現実にいたらどのくらい強いのかが分からないが、多分ジャイアンは凄いんだろう
というか格闘を30分とかスタミナ持たねぇww
ジャイアンしんじゃいやん
キモリが低レベルなら人間でも・・・
描写からするとはたくぐらいの技しかなさそうだが
何のマンガが元ネタか分からなくて寂しい俺が通りますよっと
どうみてもドラえもんです
本当にありがとうございました
328 :
名無しさん、君に決めた!:2011/05/30(月) 01:37:36.32 ID:Oz99zl7I0
>>327 326が言ってるのは最後のスネ夫のセリフの元ネタの事じゃないかな
ちなみにドラゴンボールのベジータが元ネタだけど。
LV6で「すいとる」覚えるはずだがその描写が無かったという事は恐らくLV5以下か
単に使わなかっただけかもしれないが(´・ω・`)
・LV5
・素早さV
・性格補整有り
と仮定して実数値は14
まさかの努力値MAXでも17
実数値100もあれば軽く音速の域か
「ポケモンのちからってすげー!!」
>>328 それを聞いてた。ベジータなのか、サンクス
キモリ「こんな筋肉ダルマのエネルギーなんざ吸い取りたくないです」
あくまでキモリのスピード描写はジャイアン視点なのでw
それでは投下します
帽子を深く締め直し、ツバサは玄関にて靴を履く。
家の内側へ振り向くと、彼女を見送ろうとする母と二匹のルリリ、リーグチャンピオン、そして眼鏡の少年の姿があった。
「もう行っちゃうの? もう少し居ても良いのよ」
「ううん。こうしてる間にも向こうの世界にたくさんの野生ポケモンが迷い込んでいるから……」
『しかし良い休暇になった。感謝する』
「どういたしまして。貴方達の家はここなんだから、いつでも帰ってきて」
家族同士、隔たりの無い口で交わし合う言葉には温かみが感じられる。ツバサに至っては、悲しむように視線を落とす二匹のルリリに向けている今の笑顔こそが本当の彼女なのだろう。
そう思うとまだ他人に過ぎないのび太には、一抹の寂しさを禁じえなかった。
「のび太」
そんな彼女から、彼は指名を受ける。
正しい名で呼んでくれたことに何故か違和感を抱くのび太だが、いずれ慣れるだろう。それよりも家族を相手にする時と比べ、声質がやや低いのが気になった。
「なに?」
「さっき話したけど、お前の修行はお母さんがつけてくれるから」
「うん。だけど君も居てくれないんだ」
「当たり前でしょ? お前の修行つけている間、誰が次元の補修をするのよ」
「まあ、そうだけど……」
ツバサは彼にこの世界で修行をさせるとは言ったが、彼女がそれをつけるとは言っていない。元々彼の修行は母に頼むつもりだったのだろう。その母から二つ返事で了承が貰えた為、こうして心置きなく仕事に戻れると言ったところか。
のび太としてもコトネから指導を受けることが出来るのは一向に構わない。寧ろ大歓迎だ。彼女ほど美人で、しかも優しそうな人に修行を付けてもらえるのなら心が踊る。
これからのことを思うとにわかに笑みが溢れてしまう。彼の分かりやすすぎる表情の変化を読み取ったツバサは、母達に聞こえない声で囁いた。
「……鬼のように恐ろしいから覚悟しなさい」
「えっ?」
「まあ、死なないようにね」
「………………………」
彼女の発言にまさかあの人に限ってとのび太は笑い飛ばそうとするが、そこで思考を止める。
ああいう人こそ怖かったりするものだ。いや、その方が自然である。内面まで柔和で優しい人間だとすれば、その方が不自然だ。
人間誰しも腹黒い部分はある。十一年というのび太の人生における教訓であった。
「ちょっと」
いつになく真剣な眼差しで正面を見つめるのび太の胸を、ツバサが右手で小突く。ハッと我に帰るのび太。
「なに本気にしてるのよ。冗談に決まっているじゃない。本当は見た通りの人よお母さんは。優しすぎるってぐらい……」
「は、ははは…… そうだよね。いやあ、完璧で素敵な人なんだなぁ」
「だから……」
コトネは見た目通りで、のび太がこれまで接した通りの人格であるとツバサは説明する。
しかし、彼女が言いたいのは母親の自慢などではない。本題は次の言葉であった。
「変なことしたら死刑だから」
「……はい、分かりました。分かりましたからどうかその笑ってるのに笑ってない目はやめて……」
頬は弛緩しているが、彼女の特徴である綺麗な金色の瞳は冷徹で、威圧感のようなものを放っている。近距離から上目遣いを受けているというのにこの悪寒は何だと言うのか。
『我からも釘を刺しておく。如何なる理由か知らぬが、何故か貴様は信用ならん』
「ええ? ツバサちゃんが部屋で寝てた時も手を出さなかったのに、それはないよぅ……」
「なんかメガネがいやらしいのよねなんか」
「それは酷い……」
「初めて会った時もなんかその……目付きが」
「それは…… そうかも」
「やっぱりそうだったのね! 倒れながらずっと下からチラチラ見てて、この中がスパッツで残念そうな顔してたからすぐ分かったわ!」
「あれは事故だよ! わざとじゃないんだ!」
あの時は無表情だったが、内心ではそんなことを思っていたのか。
白を基調とした涼しげな――ワンピースを着た彼女はこの場で怒りを露にする。
スパッツ履いてたんだから良いじゃないか。確かに残念そうな顔してたかもしれないけど…… って、どうしてこんな話になったんだろう?
助けを求めるべく横目を大人達に向けるが、コトネは何が面白いのかこちらにその眩しい笑顔を輝かせている。対照的に赤髪の青年はどうでも良さそうな冷めた目でこちらを見つめていた。
赤髪の青年と目が合うと多少同情してくれたのか、一息ため息をついた後、彼女の怒りを鎮めに動いた。
「何を怒っているか知らないが、別れ際に痴話喧嘩はどうかと思う」
「ち、痴話喧嘩って何よ!」
「あはは、仲良くしているみたいで結構。でもしばらく顔を合わせないんだから、のび太君にとってもっと良い話をしてあげたら?」
「……もう」
赤髪の青年に茶化されたことで彼女自身も自分が何故突然この話を振って、何故怒り出したのか分からなくなったのだろう。呆気なく怒りを鎮める様子は決まりが悪そうだった。
さて、本当にどうしてあんな話になってしまったのだろうか。確か元は…… そう! コトネに変なことはするなって話だった。
野比のび太は源静香にも時折「エッチ!」などという言葉で罵られている健全な男子であるが、断じて変態ではない。それは彼自身は勿論、彼の友人であるドラえもんも共通の認識だった。
――しかし。
自分に対して冷たい態度しか取らなかった出会った当初の彼女を振り返れば、このようなことで罵声を浴びせられるだけ関係は良くなっているのかもしれない。
彼女の家族には到底及ばないだろうが、友達に近い関係になれたのは嬉しくもあった。
「……のび太」
落ち着いた凛とした声で、彼女が呼び掛ける。一呼吸を置いたことから、今度は真剣な話であると伺える。
「……正直、お前達に手伝ってくれるって言われた時は……ちょっと嬉しかった」
「えっ?」
「……だけど、これは中途半端な気持ちでやってほしくない」
危険な仕事だから、とその語尾に続く。
ちょっと嬉しかったと聞いて、のび太の気持ちも嬉しくなる。いや、彼女が自分達の善意を受け取めてくれていたことを知って安心したのだ。
だから…… と彼女は言う。
「ここで一人前……とは言わないけど、強くなって戦えるようになって」
「うん。約束する」
力強く、のび太は頷いた。その答えに関心を示したのか、赤髪の青年が声を掛ける。
「コトネの言うこと聞けよ。話の途中で寝るとかしたら上から破壊光線が来ると思え」
「ははは…… はい。本気で頑張ります」
「急ぎすぎないでね。ポケモン持ったのだってついこの前なんだから、まずは基本から丁寧に染み込ませないと。修行は明日から、ばりばりやってくよ」
「はい!」
二人の大人の目は、今日初めて出会った少年に対するそれではなかった。
彼に期待するような、そういった目。
やる気がこみ上がってくる。本当の始まりはここだったのだ。
「それじゃあ、私は行くから。お母さんもシルバーもルルとリリもまたね」
「行ってらっしゃい。ホウオウ、頼んだよ」
『承知した』
「無理しない程度に頑張れよ」
「……うん」
二人と二匹に見送られ、ツバサは右手を伸ばしドアを開く。
するとそこで、ふと思い出したように彼女は振り向いた。
「そうだ、のび太」
「まだ何かあるの?」
不快ではないが、大切な話はタイミング良く話してもらいたいところだ。
「修行期間はこの家で過ごして良いけど、二階にある私の部屋には入らないでよ」
「う、うん」
異性を自分の部屋に入れたくない、という気持ちは分からなくもない。理解は出来るが、それ以上に入ったら何をされるか分からないという無言の圧力があった。
「行こ、ホウオウ」
『うむ』
ツバサは踵を返すと、今度こそ屋外へと旅立った――。
『なんだよ、素早さVなだけで他の平均たった12とかなめてんのかコイツ』
初めてこの世に生を受けた時、耳に入ってきた言葉がそれだった。
生まれたばかりのことなのに、記憶は何故だか鮮明に残っている。
『これじゃ使い物にならんな。ポイしよポイ』
まだ何も分からなかった。自分が何者であるのか、目の前に居る生き物が何であるのか。
ただ、生まれて初めて目にした自分以外の生き物を、オレは本能的に「親」だと認識した。
『だから着いて来るなよ。これから新しいタマゴ孵化させるんだからあっち行け』
その時も何を言っているのか理解出来なかった。分かるのは相手が鬱陶しがっていたということぐらいだ。
だが、オレはそれでも下がらなかった。オレにとってその生き物はたった一つの「親」なのだから、当然のことだ。
『あー? しつけぇよお前。行け、メタング、そいつを黙らせろ』
――何故?
ただオレは、自分の親に着いていこうとしただけなのに。
自分が何者なのか、何の為に生きれば良いのか聞きたかっただけなのに。
何故―― 痛い思いをしなきゃならない?
後にキモリは知った。自分が親だと認識したのはニンゲンという別種の生き物で、しかしポケモントレーナーという意味では本当に親と呼べる存在であったことを。
そして、自分はその「親」に捨てられたのだと。
年月を経た今でもまだ、煮え切らない思いは残っている。しかしニンゲンという生き物を恨む気持ちにはなれなかった。何故だかは分からない。分からないが……
学習すればするほど、自分はニンゲンという存在に惹かれてしまっていた。ニンゲンらが行うポケモンバトルという競技にも憧れている。
だからか、自分が求めるモノを探す為、旅を始めたのは。
そして、気づいた頃にはここに居た。
どこを向いてもポケモンバトルなど行われていない、この不可思議な世界に。
「まだまだだぜ!」
――不可思議と言えばこのニンゲンだ。
ポケモンである自分と、何故か素手で張り合っている。ポケモンバトルはポケモン同士が戦うものであり、コレはどう考えても違う。
しかし、胸の内から沸き上がるこの高揚は何だろう?
奇妙なニンゲンとの戦いの中で、キモリには自分が求めていたモノがここにあるとすら感じ始めていた。
彼との戦いが楽しい。
「すいとる」を使えばニンゲンなど楽に倒せる。だがそれはあまりに惜しい。
体と体でぶつかり合ってこそ、この戦いに意義を感じるのだ。
「ちぇああっっ!」
彼の右腕がキモリの頬を打つと、キモリは素早く反転し、尻尾で叩く一撃を喰らわせる。
「…ハァ……ハァ…… くっ、ふふ、はははは……」
身体中があざに覆われ、既に彼は立っていることもままならない筈だ。
しかし、何故か笑っている。彼もまたキモリと同じ心境なのだ。
「た……楽しいな、キモリ…… てか、お前ホント強ぇ……」
「……………………」
己の力の無さが理由で捨てられた過去があるキモリにとって、そんな彼の言葉は純粋に嬉しかった。
自分は強いのだろうか。
いや、弱いに決まっている。本当に強ければ今頃、自分は「親」と共に世界を旅回っている筈なのだ。
強い、と言うのはあくまで彼の個人的な見立てであり、客観的に自分は弱者の部類である。
だが、それでも嬉しい。
生まれて初めて、他の誰かに自分の存在が認められたのだ。これが嬉しくない筈がない。
「どうだキモリ。俺のポケモンになってくれねぇか?」
息を切らしながら、力を感じない声で彼は勧誘する。彼のポケモンになるということは、彼が自分のトレーナーになるということになる。
言語が違えど拳で語り合った仲である。キモリにとっても彼は信頼出来るニンゲンだと認識されていた。
「俺と一緒に戦ってくれねぇか? そうすりゃあもっと楽しい戦いが出来るぜ」
追い撃ちに彼は言った。
戦闘の最中から決意が固まっていたキモリにとって、それは待ち兼ねた言葉だった。
――ここにある。
オレが求めていたモノは、ここにあったのだ。
キモリは無言で、しかし力強く頷いた。
「よっしゃ、俺の名前はジャイアンだ。これからよろしくな。……でも、この戦いは別だ!」
そう、今は全く別の話だ。
いつの間にか目的の為の手段が目的となり、ジャイアンはキモリとの戦いに執着していた。
来い、と言うようにキモリが身構えると、ジャイアンは小柄な少年による声援を受けながら飛び掛かっていった――。
昼下がりの空から、ツバサは妙なモノを見つけた。
それは飛行ポケモンであるヨルノズクに乗って、空から野生ポケモンを捜し回っていた時のことだ。
「あれって……」
場所はホウオウが野生ポケモンの気配があると言っていた高山。
その地面の上に一人の少年と一匹の緑色の生き物が、隣り合って仰向けに倒れている。
祖父の資料で見た覚えがある。あれは森トカゲポケモン、キモリというポケモンだ。ジョウト地方には生息しないポケモンなので、実際に彼女が目に掛かるのは初めてだ。
しかし、そんな情報は今は後回しにして良い。
最も注目すべきはそのポケモンが息を切らして倒れていること。隣で同様に倒れている少年が、のび太と同じように自分を手伝いたいと言ってくれた少年の一人だったことだ。
名前は覚えている。ニックネームだとは思うが、彼はジャイアンと名乗っていた。
木の陰ではセミリーゼントヘアーの少年が一人と一匹の様子を笑みながら眺めている。彼の名は骨…… 誰だったか? 最初に手伝いたいと言ったのは彼だったと思うが、何故か名前が思い出せない。
セミリーゼントは無傷だが、キモリもジャイアンも揃って傷だらけで、戦闘の後のような姿をしている。
まさか生身でポケモンと戦闘を!?
「何しでかしたのよアイツら…… ヨルノズク、あそこに降りて」
そこに野生ポケモンの存在を確認したというのもあるが、ツバサは二人の少年が自分の知らないところで何をしていたのか興味があった。彼女の指示を受け、黒と茶色の鳥ポケモンは降下していく。
ある程度の高度まで下がったところで、ツバサはワンピースの裾が翻ることも構わず地に飛び降りる。と、彼女の存在に気づいた二人がそれぞれの視線を向けた。
「よう…… 遅かったじゃねぇか……」
「くそっ、スパッツなんて大嫌いだ……」
大柄な少年はくたびれた声で、小柄な少年は周囲に聞こえない声で彼女を迎える。
緑色の森トカゲポケモンは彼女を警戒することも出来ないかのように、仰向けの体制のまま動かなかった。
一同の様子を見回した後、ツバサは最も興味のある大柄な少年の元へと歩み寄る。
「何してたのよ、お前達」
「見て分かるだろ……? 戦ってたんだよ、コイツと」
「はあっ?」
冗談で言っているのだとしたら全く面白くない返答に、ツバサはやや怒気の混じった声で聞き返す。
「殴り合って戦って…… 俺もコイツもズタボロよぉ」
「本当に戦ってたの? 生身でキモリと?」
「ああ…… この手でポケモン倒す力があれば、あんたにも認めてもらえるんじゃないかってな」
生身でポケモンと戦う人間というのは彼女の世界でも非常に稀な存在だ。そんな人間離れした真似はよほど腕の立つ格闘家か、ただの馬鹿しか居ない。となれば、彼は後者に決まっている。
「……馬鹿じゃないの」
「サンキュー」
「褒めてないから」
のび太も馬鹿だが、この男は違う意味で馬鹿だ。予想もしなかったことをやらかしてくれる。
横目を小柄な少年に向け、彼にも問い質す。
「お前も?」
「僕はこの武器を持って戦ったんだけどね、勝負にならなかったよ」
「そんなオモチャでポケモンを倒せると思ってたの? 馬鹿なの? 死にたいの?」
「……ごめん」
まだ静かであるものの、彼女の声に含まれていた激怒を敏感に感じ取ったセミリーゼントの少年は深々と頭を下げる。
しかし「だけど……」と彼は続けた。
「二人で野生のポケモンを捕まえて自分のポケモンにすれば、僕達も戦えるようになるし君に認めてもらえるんじゃないかって…… 本気で助けになりたいんだ。僕達は君の」
「……コイキングは?」
「出木杉が持ってる。……本当にごめん。勝手なことして……」
普段同級生相手に面と向かって謝ることをしない彼が、何度も繰り返して頭を下げている。ジャイアンはその異様な光景から彼の心情を悟ったが、勿論ツバサには分かる筈も無い。
ツバサはため息を吐くと、胸元に下げた金色のモンスターボールに愚痴を溢す。
「信じられない。コイツら……」
『己には考えられぬことを他者は平然と行う。感情の生き物とはそういうものだ』
「だけど…… もう!」
左肩に提げた四次元バッグから赤と白のモンスターボールを取り出し、ツバサはジャイアンとキモリの居る方向へ体を向ける。
「受け取りなさい!」
「ぶほっ!?」
展開された無防備な土手っ腹に、彼女が投げたボールが直撃する。この疲弊した体の上、仰向けの体制では受け取りようにもなかった。
「ゲホッ、もっと優しく渡してくれよ」
「勝手に戦って勝手にボロボロになったくせに。言っておくけど今度は治療してあげないからね!」
「勝手なことしたのは悪かったよ…… けど、これどうすんだ?」
片腕を伸ばして地に転がったボールを掴み、ジャイアンは彼女の姿を見上げながら問う。
決まっているでしょ、と返す。
「そいつを捕まえて、お前のポケモンにしなさい。なんかなついてるみたいだし…… ポケモン持たせないと危なっかしくて!」
「えっ……? じゃあ俺……」
「ジャイアン、やったじゃん!」
彼女の言葉の意味をすぐに飲み込めなかったジャイアンと、すぐに飲み込めた彼の友人。その違いは体の疲弊具合が左右していたのだろう。
遅れて、ジャイアンの顔に笑みが宿る。その横でキモリが右手を差し出した。
がっしりと、コンビ結成の握手を交わす。キモリも彼を自分のトレーナーとして相応しい人材であることを認めたのだ。
「ありがとな…… なんだかんだで良い奴じゃねぇかあんた」
「勘違いしないでよ。ポケモン持たせなかったらお前また生身で野生ポケモンと戦うんでしょ? それじゃあ仕方ないじゃない。
……言っとくけど、バトルの実力があるのかどうかも分からないお前をトレーナーとして認めたわけじゃないからね。そこは覚えておいて」
生身でポケモンに挑んだ結果命でも落とそうものなら、間接的に自分が殺したことになる。それは御免だ。
危険には変わらないが、生身で戦わせるぐらいならここで大人しく身を退いて彼をポケモントレーナーにした方が正しい選択と言えた。
だが、彼女の台詞から小柄なセミリーゼントは何か勘違いをしたようだ。
「これは良いデレ……」
「ん、なんか言った?」
「いや、僕にもモンスターボールくれないかなって」
「あげるわけないじゃない……って言いたいところだけど、お前も危なっかしい」
不本意だが、やむを得ない。
彼らはツバサにとって卑怯だった。
こんなことをされれば、後は思い通りにするしか方法が無い。
「モンスターボール十個ぐらいあげるからお前も捕まえてきなさい。これからの行動はそいつと一緒にしなさいよ」
「ありがとう!」
「……ホントお前達は……」
渋々と言った形でツバサは彼にもモンスターボールを渡す。すると彼は、ジャイアン以上の喜びを露にして辺りを駆け回った。
卑怯だ。卑怯すぎる。
不愉快そうに何度も吐くと、脳内にテレパシーの声が入り込んできた。
『……言葉の割には機嫌が良いようだが』
「――ッ! 嬉しくないっ! 仲間が増えて嬉しくなんか……って何言わせるのよホウオウ!」
『ツバサ…… お前、本当は……』
「………………………」
ホウオウの発言に対し、酷く動揺を表していた。
今まで、彼女は人付き合いというものを毛嫌いしていた筈だ。
『そうか……』
ホウオウは読み取った。たった数日で起こった彼女の変化を。
現在の手持ち
のび太
ピチュー Lv12
ゴマゾウ Lv10
出木杉
コイキング(借) Lv10
ジャイアン
キモリ Lv15
スネ夫
無し
静香
無し
ツバサ
バクフーン Lv39
マリルリ Lv33
ヨルノズク Lv30
投下終了
次回は出木杉視点予定
まさかすぐにキモリ進化しちゃうの?
つかまえたばっかで
あ、何はともあれ乙です!
乙カレー
キモリのレベルが意外と高いな
コイキングのレベルを10上げられれば3人の中では出木杉がやや有利そうだな・・・
いやいやピチューはなついてるから…
乙っす。15レベルとやりあったジャイアンすげえええええ
しかしなんというスパッツ回ww
353 :
名無しさん、君に決めた!:2011/06/06(月) 08:30:18.47 ID:wGViKo7CO
そりゃあ最初にポケモン貰えるツバサは肉弾戦なんてしたことないわな…
出木杉はあのメンタルトレーニングみたいなの順調なのかね
ポケモンアニメのパラスみたいな方法で稽古つけられるかな
>>354 懐かしいwwリザード倒して進化したやつかww
保守
「ユキチカの時給がビミョー」といってるようなものだ
保守
今度こそ…… 今度こそ静香ちゃんを白くしてみせる!
それでは推敲が終わったので投下します。
日は沈み、時刻は午後九時。
夕食を食べたのび太はコトネに「明日は修行だから早めに寝た方が良い」と促され、早くも床に着こうとしていた。
しかし、その時彼は思う。
「どこで寝れば良いですか?」
彼はこの家の住人ではない。ここに居る者でそれを決める権利があるのはコトネ一人だけだった。
その問いに、彼女はしばしの間を置いて答える。
「二階のツバサの部屋になるかしら」
「えっ?」
「他の部屋は散らかってるし、うん、やっぱりあの子の部屋になるね。片付けておくんだった……」
特に問題な発言をしたつもりもなく、コトネは平時と何ら変わりない調子で言った。
だが、のび太にとっては問題大有りだ。
「で、でも…… ツバサちゃんに入るなって言われましたよ」
「別にベッド貸してもらうだけなんだから良いんじゃない? 私からは黙っておくから、今日はあの子の部屋で寝て」
「は、はあ……」
流石は実の母親か、のび太が全く逆らえなかったツバサを相手に当然のように逆らえる。
しかし、許可が下りたとはいえ後ろめたい気持ちはある。本当に彼女が黙っていてくれるのかという疑念もあった。
散らかっている部屋で寝ることも出来るが、何となくコトネに逆らうことが恐ろしく感じたので大人しく従うことにした。
――本当に、ベッドを借りるだけのつもりだったのだ。
階段を上ってすぐ近くにあるツバサの部屋。
そのドアノブに手を掛け、のび太は前から後ろへと引く。
目の前に広がるのはエデンの花園―― もとい、少女が生活していた部屋の中。
そこは予想通り、彼の部屋とは比べるのもおこがましいほど整理されていた。
彼の部屋と同じように机が一台。大きく違うのは敷き布団ではなくベッドがあるところと、ぬいぐるみ他可愛らしいポケモングッズが並び立っているところだ。
イメージ通り綺麗に整理された部屋だが、イメージしたよりも女の子らしい模様だった。
「結構可愛い部屋だなぁ…… ん?」
室内を見回していくと、机に置かれた「何か」に目が留まった。
その何か―― ケースに入れて飾られた一枚の写真を、のび太は拾い上げる。
他人のプライベートを覗くのは主義ではない。彼にとってそれは何気ない動作に過ぎなかったし、一目見た後はすぐに机に戻すつもりだった。
しかし、張り付いた視線が簡単に逸らされることはなかった。
十人以上の人とポケモンの姿が写る、集合写真――。
その中には今よりも若いコトネやウツギ、シルバーの姿がある。ということは、この写真は何年か前に撮られたものなのだろう。
「ホウオウ……」
七色の翼を持つ巨鳥が翼を折り畳み、人々の背後で謙虚な姿勢で座っている。その背中には、五歳ぐらいの幼い少女が乗っていた。
年相応の無邪気な笑みを浮かべている彼女の瞳は金色。黒く肩まで掛かる長さの髪は、前髪だけ跳ねている。のび太は一目で分かった。
「この子はツバサちゃんだよね? こんな顔してたんだ……」
五歳児と考えれば当然だが、写真の少女はカメラ目線で、見ている方にも元気を与える楽しそうな顔をしていた。
そしてのび太が移した次の視線には、彼女の隣でその頭に手を置いている青年の姿があった。
彼もまた金色の瞳を持ち、彼女と同じで前髪が跳ねている。
「この人は…… そうだ! 主人公だ!」
立ち位置から考えるに、おそらく彼こそがツバサの父親であり、コトネの夫なのだろう。
大人である以上、ハートゴールドの主人公と比較して完成された体つきをしているが、その容貌や雰囲気からのび太は悟った。
そうだったのか。
まるで探していたパズルのピースが見つかったかのように、これまで抱えられていた疑問の一つが解決された。
しかし、彼がツバサの父親であるということは、彼がツバサから相当に恨まれていることにもなる。彼女が言っていた「世界一嫌いな人」というのも、彼女のシルバーとのやり取りから察して彼のことに間違いない。
一体どうして?
この人は彼女に何をした?
子が父を憎むことすらのび太には考えられない。相手がゲームで自分が動かしていたキャラクターと知って、彼には他人事とは思えなかった。
「パパに撫でられて、こんなに嬉しそうにしてるのに……」
写真を見る限り、彼女が父親を憎んでいるなどとは冗談でも言えない。この写真の時代から現在に至るまでの間に何かあったとしか考えられなかった。
「……明日、コトネさんに聞いてみよう」
家族の問題はあくまで家族の問題だ。そこに自分が干渉する余地が無いとしても、のび太は何かしたかった。
親父なんて死んでしまえと言っていた、あの時の彼女の顔を。
――早朝。
湖の前、出木杉と静香はこの日もコイキングのイメージトレーニングに励んでいた。
「ごめんね静香ちゃん。こんな朝早くから付き合ってもらって」
「良いのよ。今朝は私からお願いしたんだから」
「ありがとう。さて、今日も頑張ろう、コイキング」
二人の人間の視線を浴び、赤色のコイは水面から顔を出した体制のまま力強く頷く。
昨日のモチベーションを保ってくれていることが、一先ず出木杉には安心出来た。
昨日のトレーニングの成果はまだ分からない。結論を出すのは早い、と言うのが正しいか。
だが、出木杉には感触があった。彼にしか分からないような微々たる変化だが、コイキングの瞳に竜のような力が見え始めたのだ。それは感覚的なもので、上手く表現することは出来ない。
しかし、出木杉はコイキングが変化していることを確信していた。
「早朝の方が周りが静かな分、集中力を高めやすい。とにかく強くイメージするんだ。とてつもない力で敵を凪ぎ払っていく、青い竜の姿を……」
彼は知りえないことだが、実際にツバサの世界ではレベル上げではなく、イメージトレーニングによってポケモンが進化した例が報告されている。
かつてセキエイリーグの四天王を務めていたドラゴン使いの男は、本来レベル55で進化する筈のポケモンを、40以下のレベルで進化させたという――余談がある。実例がある以上、彼の着目点は間違いではなかった。
しかし、イメージでの進化にはそのポケモンの気力はもちろん、トレーナーによる精神面のサポートが要求される。中々進化出来ないことでポケモンの心が折れてしまったら最後、それは一気に不可能となる。
「君は強くなれる。自分を信じて!」
「そうよ、頑張って、コイちゃん」
二人の応援を力に、コイキングは脳内のイメージを強める。
それと同時に、ある種の感情が芽生えた。
コイキングはその非力さと情けない顔立ちから、今までニンゲンと出会う度に罵られては捨てられてきた。
――何故、自分はこんな姿で生まれてしまったのだろう?
自分も他のポケモンのようにニンゲンと共に冒険して、戦いたかった。
しかしこの姿を受け入れてくれる者は皆無だった。
仕方がない。
それがコイキングの運命なんだと思った。
諦めていたのだ。
しかし、二人は違う。
二人は諦めることなく、自分を進化させる為にこんなにも頑張ってくれている。コイキングは生まれて初めて、ニンゲンから相手にされているのだ。
――応えたい。
――進化したい。
強く、強く念じたその時だった。
少年と少女の姿が、視界から吹き飛んだ。
今のは何だ?
突如目の前で起こった爆発に吹き飛ばされ、地を転がった出木杉は膝の痛みを堪えながら立ち上がる。あの爆発で擦り傷程度で済んだのは不幸中の幸いか。
ただ、それよりも同じ爆発に吹き飛ばされたであろう静香の身が心配だ。
「静香ちゃん!」
慌てて駆け出し、彼女の名を呼ぶ。すると、「大丈夫……」と力の弱い声が返ってきた。
「無理しないで、そこでじっとしてて」
「…ご……ごめんなさい…… 背中打ってしまって……」
長年彼女のことを見続けていた出木杉だ。彼女が今大丈夫でないことぐらい、返事を聞けばすぐに分かった。
彼の言葉に従い、静香は仰向けのまま動きを止める。空を向いた視線の先に、彼女は緑色の何かを見つけた。
「出木杉さん…… あ、あれ……」
「上に何か居るの? ――ッ!」
彼女の視線に自分の視線を合わせる為、出木杉は天を仰ぐ。
緑色の、ポケモンが居た。
背中に虫のような小さな羽を生やした、割合大きな頭の、妖精を彷彿させるポケモンが。
それはポケモンのゲームですら入手が極めて困難な、「幻」と呼ばれる一匹だった。
「…セレ……ビィ……!」
神々しく目映い光を放つその姿に、出木杉と静香は驚愕する。
幻のポケモンまでこの世界に迷い込んできたのか?
ツバサはそのことを知っているのか?
会える筈がないと思っていたポケモンの出現に、二人はただ驚愕せずにはいられなかった。
緑色のポケモン――セレビィは大きな瞳に睨みを効かせ、殺意にも近いあからさまな敵意を向けている。先の爆発もあのポケモンの仕業だろうと分かった。
「――っ! 静香ちゃん!」
そうなれば、また攻撃を仕掛けてくる確率が高い。急いで彼女の体を抱え上げると、出木杉は極力震動を与えないように走り出した。
案の定、先まで二人が居た場所に爆発が起こる。如何なる理由かは分からないが、セレビィが二人を狙っていることは確定的だった。
(どうする? コイキングじゃあんなポケモンに勝てるわけがない…… 静香ちゃんを抱えた僕の足で逃げ切れるか? いや、無理だ)
「出木杉さん……」
「ん?」
「私を下ろして、貴方だけでも逃げて」
「冗談じゃない! そんなこと出来ないよ」
相手が幻のポケモンといえど、出木杉は足の速さに自信がある。確かに静香を下ろして全速力で逃げれば、彼女を犠牲にして自分だけ助かる可能性はほんの僅かだがあるかもしれない。
しかし、彼にそんなことを出来る筈がない。逆に自分が犠牲となって静香だけを逃がしたいぐらいだ。
「これは無理ゲーかな……」
あんなポケモンに敵意を向けられた時点で、どう足掻いても振り切ることは出来ない。
奇跡を信じるというのは主義に反するが、今はそうするしか彼らに打つ手は無かった。
すると、二人の前に再び緑色のポケモンが現れる。
彼らの逃げ足に一瞬で追い付くと、そのまま回り込んできたのだ。
「くっ……!」
あれはエナジーボールか、セレビィの右手から緑色の光弾が浮き出ている。ポケモンなら耐えられるかもしれないが、生憎二人はひ弱な人間の肉体だ。直撃を受ければどうなるか知りたくもない。
――刹那、上空から落下してきた何者かがセレビィの頭に打撃を与えた。
それによって狙いが外れ、放たれた緑色の光弾はしあさっての方向に消えていく。
自分達の身を救ってくれた救世主の姿に、出木杉は名を叫ぶ。
「コイキング!」
地上では跳ねることしか出来ない弱きポケモン。
それが二人の元に駆けつけ、セレビィに挑んだのだ。
勇敢、ではなく無謀だ。みすみす倒されに行くだけである。
しかし何故か、今は何故だか出木杉はこの状況を打破してくれるに違いないと信じていた。
コイキングなら。
今のコイキングならやってくれると。
そしてその思いが――
秘めたる力を目覚めさせる。
何かが弾けた。
ありとあらゆる法則が乱れていくような表現し難い感覚だ。
コイキングの赤いウロコが飛び散り、その全身に白い光が集束していく。
光は徐々に拡大し、中国の竜のようなシルエットを浮き上がらせる。
主の危機。この状況で目覚めたのだ。
凶悪ポケモン、ギャラドスに。
「出木杉さん!」
「やった!」
出木杉と静香は互いに歓喜の笑みを見合わせ、そしてセレビィを睨む竜の、その頼もしき背中を眺める。
負ける気がしない。たとえ相手が誰であっても。
「行け、ギャラドス!」
コイキングの時とは比較にもならない迫力ある鳴き声を上げ、ギャラドスは巨大な尾を乱暴に振り回す。
セレビィは数回の振りは回避するが、全て避けきることは叶わなかった。
野球のバッティングよろしく緑色のポケモンは、ギャラドスの尾によって上空へと弾き飛ばされる。
空中で体制を立て直したセレビィは、打ち付けられた右頬を右手で擦る。すると、青アザになっていた箇所がみるみる健康的な色に戻っていった。
その様からダメージを自分の力で回復するポケモンの技、「自己再生」を使ったのだと出木杉は察した。
セレビィの形相が先ほどよりも険しくなる。はっきりと憤怒の念が読み取れた。
『この……ニンゲンの操り人形が……!』
ギャラドスに向けて放たれたであろう言葉が、出木杉と静香の脳に響く。
少女めいた高い声質だ。
「今の……」
「セレビィの声?」
この場所にある人間の姿は二人だけだ。彼らはすぐにその声の主を特定する。
ホウオウと同じで、セレビィは意思をテレパシーにして発信することが出来るのだろう。
『ポケモンがニンゲンの味方をするなんて…… お前は!』
風を切り、緑色の妖精はギャラドス目掛けて降下していく。
その口振りから、何らかの理由で人間を嫌悪していることが分かる。だが、出木杉にも静香にも、あのポケモンに恨まれる覚えは無かった。
無論、無抵抗でやられる気などありはしない。
「迎え撃てギャラドス!」
急迫してくる敵に対し、青色の竜は雄叫びを上げて待ち構える。
その瞬間。
二匹の間に、アンノウンが出現した。
「今度は何だ……?」
先まで、そこに何かが存在している気配は無かった。
不意に現れ、二匹の間に割り込んできたのだ。
「ポケモン……?」
「あれは……エルレイドだ!」
白と緑の、細身の体つきをしている。
出木杉がエルレイドと呼んだその生命体は、立ち塞がるようにセレビィと向かい合う。
そして、驚くべきはそこに居るのがポケモンだけではないことだ。
黒いスーツを着こなした、百八十センチに及ぶ長身の青年。
ポケモンを操る人間が、そこに居たのだ。
ツバサではない、ポケモントレーナーが。
『マスター……!』
緑色の妖精も目を見開く。
しかし、こちらは出木杉達とは違う理由で驚いているのだろう。
青年は特徴的な赤紫色の髪を掻き上げ、妖精と向かって口を開く。
「もうそこまでで良いよ。コイキングは進化してしまったんだ」
『も、申し訳ございません……!』
「君が謝ることはないよ。私の方こそ君だけを行かして悪かった。さあ、こっちにおいで」
青年が両手を広げると、緑色の妖精はゆらゆらと浮遊しながら彼の胸に飛び込んでいく。
その小さな体を抱き締めながら、青年は出木杉達の居る方向へと振り向く。それによって、彼の容姿を確認することが出来た。
目、鼻、口、輪郭。それぞれ完璧なまでに均整が取れている形は、一目見ただけでも彼を美青年だと識別出来る。長身で脚も長く、その上細身な体型と来れば、ファッション雑誌のモデルか何かではないかと疑いもする。
それは、奇妙な遭遇だった。
二人が見とれるように茫然としていると、青年は整った口から声を発する。
「失礼したね。怪我は無いかい?」
「貴方は…… どうして貴方はポケモンを持っているのですか!?」
青年の問いに律儀に答える余裕は出木杉には無かった。
彼はエルレイドというポケモン、そしてセレビィも彼のポケモンだとすれば、彼がポケモントレーナーということになる。
ツバサはこの世界に居るポケモントレーナーは自分一人だと言っていた。しかし、彼がポケモントレーナーだとすれば、その言葉に矛盾が生じる。
「そう驚くことかな? 君だってポケモンを持っているじゃない」
ふっと微笑を返し、青年も出木杉の問いに答えない。
「この世界にポケモントレーナーが生まれてほしくなかったから、セレビィに阻止を頼んだというのにね…… どこの世界にも、愚か者は居るものだ」
妖精の頭を撫でながら、青年は落胆したような口調で言う。
その言葉から、出木杉には彼がこの世界の人間でないことを確信した。
やはり、あり得ない……
彼がツバサのようにポケモンの世界から来訪したとすれば、この世界とポケモンの世界を繋ぐ次元の歪みを介したということになる。
彼は大人で、しかもこの長身だ。どのように考えても、歪みを介せる大きさではない。
「私とセレビィが君にとって敵なのかどうかということより、私がどうやってこの世界に来たかの方が気になる様子だね。能天気なのか冷静なのか……」
思考が表情に出てしまっていたのか、青年は出木杉の心を呼んだかのように言った。
確かに…… おっしゃる通りだ。
「……貴方は何者なんですか?」
両腕に抱えた静香と顔を見合わせた後、数拍の間を空けて出木杉が問い質す。
隣に立つギャラドスの警戒の目などものともせず、青年は軽い調子で返した。
「申し遅れたね。私は君が思っている通り、ポケモン世界の住人だよ。そしてこの子はセレビィ、私の可愛い友達だ」
続いてエルレイドの紹介をしようとすると、出木杉が「それは良い」と遮る。
聞きたかったのは彼がポケモン世界から来たこと。それと……
「私達はそのセレビィに襲われました。貴方の指示じゃないんですか?」
出木杉の言葉を静香が代弁する。
自分達を攻撃したセレビィには敵意――いや、殺意があった。誤魔化すことが出来ないほどの。
「この世界に新たなポケモントレーナーが生まれるのは面白くないのでね。邪魔させてもらおうとしたんだ」
「面白くない?」
「そう……」
自分がセレビィに指示したこと。自分が彼らに危害を与えようとしたことを、彼は肯定する。
次の瞬間、彼の唇が歪む。
「私の計画の障害となるモノは、誰であろうと排除しないとね」
「「――ッ!」」
二人の背筋に悪寒が走る。
彼の凍りつくような冷たい声が、自然と二人に恐怖心を与えた。
(この人は……一体……)
分かることは彼がツバサとは違うということ、敵であるということだ。
青年はエルレイドの肩を掴み、再び微笑を浮かべる。
「君とはまた会いそうだ。精々この先ポケモントレーナーとして頑張るんだね」
言い残し、彼とポケモンの姿は一瞬にして消え去っていった――。
投下終了
進化のシーンはアニメ的に盛り上げようと思ったが中々上手くいかなかった
乙。コトネさんどんな神経してんだ…w
進化のシーン熱かったぜ
投下乙
セレビィが悪役側(?)とは・・・ホウオウと違って普通に活動できるのな
オリキャラか?セレビィ持ってるなら進化したばっかのギャラドスも倒せるだろうに…
なんかコイキングのうちに倒さなきゃならない理由とかあったのかな
あ、乙です
ドラえもんにピカチュウやマリルを手持ちにさせてみたい。
あおダヌキポケモンはいないな
メガネザルポケモンもいないぜ
こだわりメガネかけたナマケロでいいよ
ひでえw
ピチューのポジション、ナマケロにしても良かったかもw
それでは投下します
「セレビィを使うポケモントレーナーですって!?」
ツバサはその場所の騒ぎを嗅ぎ付けたホウオウの指示によって、出木杉達の居る湖へと赴いていた。
青色の竜――ギャラドスが首を突き出した湖の前で、彼女は驚きの声を上げる。
腕に抱えた静香の体を地に降ろすと、出木杉は神妙な顔つきで問うた。
「やっぱり、君も知らないのかい?」
「知るわけないじゃない! この世界には私以外のトレーナーは居ない筈よ……」
ツバサも知らないあの赤紫色の髪の青年。イレギュラーな存在とでも言うのだろうか。
「だけど私達はそのセレビィに攻撃を受けたわ」
「……………………」
二人から幻のポケモンに襲撃されたと聞いて、最初はツバサには信じられなかった。
しかし、負傷した静香の姿を見れば、最早信じるしかあるまい。
先日のび太をポケモン世界に送ったばかりだというのに……
問題が絶えない。いや、タイミングが悪すぎだ。
『セレビィを使う男か……』
一同の脳に、ホウオウの呟きが響く。
ツバサには意味深な色が含まれているように感じた。
「ホウオウは知っているの?」
自分とは比較にならないほどの膨大な情報量を持つ金色のモンスターボールに、ツバサは意見を求める。
『……知っている、と言えば知っているかもしれぬが……この目で確かめぬ限りは何も言えん』
「曖昧ね」
『……だが、確実なことが一つある』
ホウオウのテレパシーを受信した一人の少年と二人の少女の間に、張りつめた空気が流れる。
二人はともかく、ツバサには分かる。
自分以外のポケモントレーナーの存在があると聞かされた時から、彼女もまたそうではないかと疑っていたからだ。
『その男は、今回の事件の黒幕だ』
芝生と草花が北風に揺らされ、静かな時間が過ぎていく。
――それは、別れの日だった。
場所は彼女らの故郷、ワカバタウン。時は今より五年前。
「……行くのね」
囁くような声で、コトネは問うた。
凛とした大きな背中が、そんな彼女の言葉を正面から受け止める。
「遅かれ早かれ、誰かがやらなくちゃいけないことだからな……」
数拍の間を置いて、重い覚悟を乗せた青年の言葉が返ってくる。
コトネには胸の奥から込み上がってくる感情を制御しきれなかった。制御しきれなかったが、表面上はまだ笑おうとする自分が居ることに、彼女は気づいていた。
彼にも気づかれたかもしれない。しかし、そのことに対し彼が何かを問うことはなかった。
「俺にもしものことがあったら、ツバサのことは任せたよ」
「ダメ、絶対に帰ってきて」
「手厳しいお言葉で……」
はは、と軽く頬を緩め、青年は振り向く。
金色の瞳、跳ねた前髪。
昔から変わらない、強い意志の見える顔つき。
――もう、会えないかもしれないんだ。
ふと、コトネの表情に陰りが差す。それを察した彼は安心を促すべく彼女に微笑みかけた。
「心配するなって。俺はジョウト最強のポケモントレーナーなんだからさ。そうだろう?」
「でも……これから戦いに行く相手は、今まで戦ったどんな相手よりも恐ろしい敵なんでしょう?」
「……確かにロケット団やワタルさんやレッドさんよりも、誰よりも強大で恐ろしい敵だけど……」
頭を掻きながら、青年は次に自分が話す言葉を考える。妻の不安を煽るようなことは言いたくないのだろう。
だが、彼は呆れるほどに正直な男だ。問いに答える際は、決して嘘をつかない。
「でも、戦いに行くのは俺だけじゃない。シルバー達やコイツらも居れば、なんたってホウオウが着いているんだ。なっ?」
『……勝算は無い』
「そこは「任せてくれ」とか言ってくれよ」
青年の隣に立っていた虹色の鳥ポケモンが、深刻げな調子でテレパシーを放つ。
人間で言う「空気を読む」ことが出来ないのか、青年と同じで正直すぎる言葉だった。
「まあ、とにかくみんな居るから大丈夫さ」
踵を返し、青年は虹色のポケモンの背中に乗り込む。その一連の動作が、コトネには一時間にも長く感じた。
「またな……」
「待って!」
事情は分かっているのに。
覚悟を決めていた筈なのに。
気づけば彼女は、彼を呼び止める声を上げていた。
しかし、彼を乗せた虹色のポケモンは一瞬にして空高く舞い上がり、この町から飛び去っていく。
遠ざかっていく青年の背中が、どこか幻のように映った。
――あの時から五年経った今でさえ、コトネは一度として忘れたことはない。
それは誰にも……娘のツバサにすら打ち明けたことのない、彼女だけの大切な記憶だった。
彼女には誰に問われても教えることが出来ない理由があるのだ。
しかし、とうとう話す時が来たのかもしれない。
それが今、この時であった。
それは朝、野比のび太に初めて修行をつけた日のことだった。
自分と彼との一対一のポケモンバトル。
彼の現在の実力を見極める為に、まずは実際に戦ってみることから始めるべきだと考えたのだ。
――結果は、思った通りコトネの完勝。
バトルでは彼の手持ちポケモンのレベルに合わせたルリリなどの弱いポケモンを使用したのだが、やはり熟練者と初心者の間には大きな実力差があった。
しかし、彼の実力はよく分かった。
一言で言えば、彼は非凡だ。非凡なバトルセンスを持っている。
あちらの世界でツバサから色々教わったとは聞いていたが、戦ってみてコトネには、彼が本当にポケモンを持ってまだ数日しか経っていないトレーナーとは思えなかった。
ポケモンバトルはポケモンとトレーナーの意志疎通がものを言う。日数を考えれば、勝負にすらならないのが普通なのだ。
昔、まだ幼かったとはいえ、ツバサが貰ったばかりのヒノアラシを上手く扱えなかったことを思い出す。
当時の彼女と比較すれば、のび太という少年は優秀な部類だ。
「はい、元気の欠片。ゴマゾウとピチューに使ってあげて」
「ありがとうございます。やっぱ強いですねコトネさんは……」
「のび太君も筋が良いわね。びっくりしちゃった」
「いやあ…… そんなことないですよ」
他に人気の無い草むらの中、二人は手頃な場所に腰を下ろす。
バトルを終えたところで、この日初めて休憩時間を儲けることにした。
「ツバサちゃんも強くてママもこんなに強くて、きっとパパも、凄く強いんですよね?」
手に持った元気の欠片でゴマゾウを治療しながら、のび太が確認するような口調で質してきた。思いがけない人物の話を振られ、コトネは遅れてその問いに答える。
「そうね。凄く強くて真面目で、でも、どこか抜けてて…… 丁度のび太君みたいな人よ」
「いえ…… 僕は弱いし真面目じゃないですよ。おまけにドジでマヌケだし……」
「私にはそう見えないけどなぁ」
唐突に彼の話を切り出したのび太の声には、躊躇うような重々しさがあった。言いにくいことを話そうとする様は、テストで0点を取ってしまった子供のようにも見える。
コトネには分かった。彼が話したいこと。本当に問いたいことが。
「ゴールドのことが知りたいのね」
「ゴールド……?」
「私の夫の名前。気になるの? どうしてツバサはあの人のことを憎んでいるのかって」
「はい…… どうしても気になって……」
それがただ気になるから、という好奇心が働いただけの質問でないことをコトネは見抜いていた。
聞いて終わりではなく、彼はそれを聞いた上で解決したいと考えているのだろう。
正義感の強い、とても良い子に育てられたのねと、コトネは会ったことのない彼の母親に敬意を払った。
「ツバサちゃんの部屋で見ちゃったんです。パパに撫でられてとっても嬉しそうにしているあの子の写真を…… あれを見たら、あの子があんなに憎んでいるのが信じられなくて……」
「知っても、良いことはないよ?」
「それでも知りたいです。出来れば、なんとかしたいんです!」
眼鏡の奥に見える眼差しは強固で、容姿に似つかない強い意志を放っている。
彼の言葉は本気だ。
「……あの子ったら、良い友達を作ったものね……」
「えっ?」
彼に聞こえない声でコトネは呟く。自然と口元がほころび、微笑が浮かんでしまった。
そしてあの子に旅をさせて良かったと、彼女はさらに呟いた。
「ふふ、良いわ。言えないことは言わないけど、言えるところまで詳しく話すね」
そう、「あのこと」は伏せた上で。
「ありがとうございます!」
回復を済ませたゴマゾウとピチューを両脇に、のび太は瞳を輝かせて頭を下げる。
そう純真な顔をしてくれると、話す方も話しやすいものだ。
可能な限り、口に出したくはなかった。
しかし彼は特別だ。
彼だけは話すに価する者だと確信したからこそ、彼女は重い口を開いたのだ。
「五年前……」
背中から頭上までよじ登ってくるピチューの体重を無視しながら、のび太は息を呑んでその言葉に耳を傾けていた。
「五年前、あの人は旅に出た」
「旅?」
「そう、ツバサが六歳の誕生日を迎える前の日にね、ワカバタウンを去っていったの。あの子に何も言わずに……」
旅――と言うと、のび太はポケモンリーグに向かう為、ジムバッジを集めに行く旅を真っ先に思い浮かべる。ポケモンのゲームで言えば、冒険とも言い換えれるそれこそが「旅」であるからだ。
しかし、彼女の夫は元リーグチャンピオンと聞いている。何故その期に及んで旅に出る必要があるのか。
「家出……?」
「違う違う。野生ポケモンを救う旅よ」
のび太の推測を軽く否定され、彼女は言った。
「この世界にはね、年ごとにどんどん新しいポケモンが増えているの」
「千匹まで増えたんでしたっけ?」
「うん。でもポケモンが増えれば増えるほど、ポケモンに関わった犯罪も増えている」
昨日家で、ツバサやシルバーも交えて話していたことだ。この世界の住人でないのび太にとってその話は蚊帳の外だと思っていたが、ある程度の会話は聞いていた。
「のび太君、個体値って知ってる?」
「えっ?」
唐突なコトネの質問である。
個体値――聞き覚えのある言葉だ。確かポケモンの用語で、スネ夫が説明してくれたような……
「ポケモンはね、同じ種類で同じレベルでも、能力の強弱に差が出ることがあるの。運動神経が良い悪いとか、頭が良い悪いとか、人間にもあるでしょ? 簡単に言うとポケモンのバトルの才能、それを「個体値」って言うの」
「そうだ! 確かそんなの!」
コトネの説明により、のび太は思い出した。同時に、スネ夫とジャイアンがゲームで同じポケモンを何度も捕まえる作業をしていたことを、彼は思い出した。
「個体値は優秀なら優秀なほど強いポケモンだって言われている。もちろん、たくさん努力をすればそうでもなくなるんだけどね。
……だけど、やっぱり才能の無いポケモンより才能のあるポケモンが良いじゃない。ポケモントレーナーはポケモンバトルをするんだから」
優秀な個体と平凡な個体の二匹がそこに居るとしたら、ポケモントレーナーなら間違いなく優秀な個体を選ぶだろう。何故なら、より強い力を期待出来るからだ。
「そんな考えを持つ人が、自分のポケモンに何十個もタマゴを産ませているの」
「それって……」
「あ、ごめん。端折り過ぎたね。ポケモンがタマゴを産むって言うのは……」
「知ってます。すみません、そのまま続けて下さい」
「ありがとう。助かるわ」
知っている情報をわざわざ説明させる必要も無い。ポケモンが動物と同じようにタマゴを産むことは、のび太にもゲームを通じて既知の情報であった。
「野生で捕まえるより、タマゴを産ませた方が多くのポケモンが手に入るからね。そしてタマゴから孵った何十匹ものポケモンの中から、一番優秀な個体を厳選する。それが若い子達の間で広まっているの……」
ポケモンの孵化厳選――。
のび太はゲームでもしたことはないが、ジャイアン達にはポケモンの基本作業として広まっているのだろう。
ゲームだから良いとしても、リアルの世界でもそのようなことが行われていると聞いて、のび太はポケモンの命を軽視しているように感じ、あまり良い気はしなかった。
寧ろ、嫌悪感を抱く。
「産まれたポケモンをそのトレーナーがちゃんと面倒を見るなら問題無いんだけれど、そうじゃないの」
コトネの顔が強張る。はっきりと怒りの成分が含まれていた。
「優秀な個体以外の産まれたポケモン達は、そのトレーナーにどうされると思う?」
「もしかして……」
「そう、バトルに使えないと判断されて、その場で捨てられるわ。ゴミのようにね……」
「そんなっ!」
理不尽過ぎる。それではまるで、ポケモンが戦いの道具ではないか。
強くないからと、生まれて間もない命が野生に捨てられる。
その光景を想像しただけで、のび太の背筋は凍りついた。
「捨てられたポケモン達はまだ赤ちゃんで、野生で生き残る力も無い。その多くは…… 命を落としているわ」
「酷い! そんなの酷すぎます!」
「北の方はもっと悲惨なことになっているわ。ズイタウンっていう小さな町なんだけど、そこはガバイトやガブリアスの巣窟に成り果てていて……
今はそこの地方のチャンピオンがなんとか沈静化させたみたいだけど、放たれたポケモンが、そこの生態系を破壊してしまうことがあるの」
「……………………」
知りたくなかった、ポケモン世界の暗黒の部分を知ってしまった気がする。
それは自分の憧れを打ち砕かれたことを意味するが、のび太はただ虚しさを感じるだけではなかった。
「それはほんの一例。まだ他にもポケモンに関する事件はたくさんあるわ」
「そうか、ポケモンを救う旅って……」
彼女に具体例を話されたことで、のび太は理解した。
「そう、人のせいで苦しんでいるポケモン達を救済する旅のことよ」
「良い人じゃないですか! なのにどうしてツバサちゃんは……」
口だけでは何とでも言えるが、実際に善意で行動出来る人間は稀少だ。聞く限り、彼女の夫は見本になるべき人格者である。
故に、実の娘に憎まれるのはお門違いに思えた。
「それはきっと……帰って来ないからじゃないかな」
「えっ?」
「旅立ってから一度も、あの人は家に帰るどころか連絡すら寄越してこないから…… だから、怒っているんだと思う」
五年間。
ずっと。
一度も。
連絡も。
ナシ。
……確かにそれは酷いもんだなと思う。別れの言葉すら聞かなかったのなら尚のこと。
「あの子はお父さんが大好きでね、いつも一緒に居て離れなかったの。友達も作らないで、家族だけがあの子の世界だった……」
今の彼女からはにわかに信じがたい過去の彼女の話を、コトネは語り出す。
「だから黙って旅に出たことを、凄く悲しんでいた。そして一度も帰って来ないことに、ある日あの子は怒った。
「お父さんは家族のことよりポケモンの方が大切なんだ! 私達のことなんかどうでも良いって思っているんだ! 何にも考えてないんだ!」ってね……」
「……………………」
「あの子の世界を壊した彼を、あの子は憎んでいるんだと思う」
夫が娘に憎まれていることが、彼女にも辛くない筈がない。しかしそう語る口は落ち着いており、常に冷静だった。
「裏切られたって思われても仕方ないよね。連絡も寄越さないんだし、家族に関心が無いって思われても自業自得よ」
「…辛く……ないんですか?」
「私は大丈夫よ。あの人は必ず帰って来るって信じているし、その時はツバサもあの人を許してくれるって信じてる。だからね、今は憎んでいて良いと思っているの」
「どうして?」
「あの人を憎めば憎むほど、あの子の世界は広がっていく。貴方達の世界に行って初めて友達が出来たのも、そのおかげもあるんじゃないかって思うの」
「友達……って僕がですか?」
「えっ? もうそれ以上の関係? お母さんは許しますよ」
「いやいやいや……」
どこまで本気か分からないその笑えない冗談に、のび太は困惑する。
っていうか許すの!?
そんなんで良いの!?
色々突っ込みたいことはあるが、今はその時ではないと悟った。
「友達かぁ…… そう思ってるのかな、ツバサちゃんの方は……」
「多分、思ってないんじゃないかな」
「え゛っ?」
娘に友達が出来たと言っておきながら、彼女の方はそう思っていないとも言う母上殿。
話す言葉には一貫性が無い。のび太はまたしても意表を突かれてしまった。
しかし、次の言葉でその意味を理解する。
「あの子は昔から、人付き合いとか自分の気持ちを伝えるのが下手で、あの子自身も自分の気持ちをよくわかっていないと思うの。だから今は、貴方のことは部下みたいに思っているんじゃない?」
「部下ですか……」
「でも、私には友達に見えるわ。あの子があんなに話す同世代の子なんて、他にいなかったから」
ツバサのことを誰よりも見ていた母親だからこそ、その言葉が言えるのだろう。
のび太は初めて彼女の本当の顔を知った気がした。
「のび太君」
「はい」
「あんな娘だけど、友達になってくれないかな?」
「良いですよ」
即答であった。
あまりの早さに今度はコトネが意表を突かれ、目を開閉させる。
「い、良いの?」
「友達になるって、お願いするようなオーバーなことですか?」
「そう言えば……そうよね。あはは、ダメだな私。やっぱり馬鹿親だぁ」
次に彼女と会う時は、見方を変えてみよう。
突き放すような態度は、もしかしたら照れ隠しなのかもしれない。
それと同じで、父親を憎む言葉も彼女の本当の言葉ではないのかもしれないと、この時のび太は思った。
「……さて、休憩長引いちゃったね。次は基本動作の確認、行ってみようか」
「はい! ピチュー、そこ降りて。ゴマゾウも頑張ろう」
予定より長くなった休憩時間は終わり、修行が再開する。
疲れが取れたと言うよりは、心の中がスッキリしたと言うような、そんな時間だった。
――場所はポケモンの存在する筈のないのび太達の世界に戻る。
ツバサが差し出した虹色の羽根の輝きによって、静香の怪我が一瞬にして完治する。
静香は自分の足で立ち上がり、礼儀正しく礼を言った。
「ありがとうツバサさん」
「お前の怪我は私のせいでもあるんだし、このくらい…… それより、アイツどうやってコイキングを進化させたの?」
「ちょっとメンタルトレーニングみたいなことで…… 私と出木杉さんが危なくなったところで、進化したの」
「そんなトレーニングが……」
ツバサはよもや本当に進化させるとは思っていなかったらしく、それを聞いて驚くと同時に感心げな顔をした。
彼女にもその発想は無かったのだ。
「静香ちゃんも協力してくれたんだ。だから僕達は二人でコイキングを進化させたってことになるよね? もちろん、コイキング自身の頑張りが一番だけど」
天才――。どの世界にもそういった人間は居るものだ。
静香はともかくとして、出木杉英才という男になら安心して頼むことが出来る。ツバサはそう判断した。
「それじゃあ、約束通り僕達にも手伝わせてもらうよ」
「ええ、まずはモンスターボール十個ぐらいあげるから、それで野生ポケモンを捕まえてもらうわ」
強引な方法で認めざるを得なかったジャイアン達とは違い、彼らは正統な方法でポケモントレーナーになるべき能力の高さを証明した。
ツバサには拒否する理由が無かった。
しかし、
「私は良いわ。…私じゃ戦えそうにないから、戦うこと以外で手伝うことにするわ」
「そう」
「静香ちゃん?」
出木杉と同じように彼女からモンスターボールを譲渡されようとしたところ、静香は丁重にそれを断った。
「怖いの?」
「私にはちょっと無理そう。戦う他にも出来ることはあると思うから…… ダメかしら?」
直接ポケモンの攻撃を受け、負傷を負った彼女だ。野生ポケモンに対し恐怖心を感じるのは何らおかしくない。寧ろ正常である。
無鉄砲な男連中と違って、コイツは冷静だ。
昨日、危険を省みず素手でポケモンと渡り合った愚か者と出会ったばかりだということも相まり、ツバサは彼女の考えを肯定的に受け止めた。
「どうする?」
『お前が決めれば良い。助手的な存在も不要ではないと、我は思うがな』
「私も同感。じゃあそれで良いわ」
「ありがとう!」
「……なんでお前が礼を言うのよ」
頼んだわけでもないのに手伝いたがり、手伝って良いと言われれば、自分に利益は無いのに喜ぶ。
確かにこの世界の住人に関係が無いわけではないが、何故こうも危険なことに首を突っ込みたがるのか?
ツバサには分からなかった。
それが分かれば、父を憎むこともなかったかもしれない。
ただ、嬉しかった。
自分の周りにこうして仲間が出来たことが。
しかしそれを口に出すには、彼女はあまりに不器用だった。
投下終了
コトネの回想のアレは後に大きくストーリーに関わっていきます。
今後しばらく出木杉達の出番はありません
乙。
そういえば今更だけどドラえもんいつ帰って来るんだ?
399 :
スノービッツ ◆O0HAXVlilk :2011/06/23(木) 02:19:17.61 ID:2/4zS7Ao0
そんなに自分の作った小説を見てもらいたいなら、それ専用のサイトでやればいいものを。
ガキが作ったこんなゴミスレで自慢してもねぇ・・・・。ただのヒマ潰しにしてもだよ。
ちょっと低学歴丸出しって感じですな。 (^^;)
貴様は気に食わんがその意見には同意してやろう
はっきり言ってつまらん
>>399お前だけだよ頭弱いの自分で曝してんのは
いつ主が自慢したのか是非教えてもらいたいわ
リアル友達いないからってこんな所で嫉妬するのもほどほどにね^^
>>400そう思うお前は何故来たし
多くの人が面白いと思ってコメント書いたりしなきゃここまで続かないからね
自分が浮いてるって事が分かったら黙って回れ右だ
投下乙
次はのび太の修行かそれとも蛇イアンたちかな
投下乙
助手を置くのか、その発想はなかったな
>>402 蛇イアンってwwワロタww
今更だが、ゲームの方でも、
ゴールド、シルバー、コトネって、
一番普通の名前のはずなのにコトネが一番名前的に浮いてるよな
HGSSの連中じゃ名前が色じゃないからか
RSならハルカ、DPにはヒカリコウキジュンがいるからそこで出たら浮かなかったかな
>>405 ハルカも今思うと浮いてたのかなと思ったが、そこはミツルがいたか
なんか毒タイプスレでドラえもんの話題が出てて吹いた
保守
期待!保守
ドラえもん×ポケモンって発想面白いよな
ドラえもんの組み合わせは無限だから
2chだけでもいろいろあるよ
413 :
名無しさん、君に決めた!:2011/07/07(木) 20:38:11.78 ID:hqPU6r9G0
保守
投下します
ポケモントレーナー。
十歳になった少年少女にはそれぞれポケモントレーナーとして各地を旅回る資格が与えられている。
いや、与えられていたと言うべきか。
ポケモンの種類が増えれば、ポケモンを悪用する人間も増えていく。それはかつてこのカントー地方や、隣のジョウト地方を荒らし回っていた「ロケット団」のような組織が、またいつどこで現れるかわからないということでもある。
そのような組織は力を付ける前にポケモンリーグの四天王や、国際警察によって徹底的に討滅されている。その為、一時期よりかは治安は良化していると言えるだろう。
不安視されているのはそういった存在よりも、十歳になって旅立つ少年少女達が、彼らから悪影響を受けてしまうのではないか?という部分にあった。
旅をすれば当然、多くの人々と出会う。それが皆親切で善良な者であれば何ら問題は無いのだが、全てがそうとは限らないのが現実だ。
ポケモンを悪用する人間、間違った扱い方をする人間はどこにでも存在する。
多感な少年少女達は周囲の影響を受けやすく、彼らの成長に害が生じる恐れがある。
国会ではこれに対し学校教育の充実化や現制度の見直し、ポケモンジムの強化などが提案されている。
その推進派の中心人物が、オーキド・グリーンであった。
――場所はマサラタウン。白は永遠の色。
穏やかな町で一際目立つオーキドポケモン研究所では、主人の出勤を見送るロングヘアーの女性の姿があった。
主人が巨大な翼を持つ鳥ポケモン、ピジョットに乗って飛び立つと、彼女はふっと微笑んで研究所に戻る。
オーキドの名を継ぐ彼は、国会議員となった今でさえ研究所を管理している立場だが、職業柄多忙で留守が多い為、妻である彼女がほとんど研究所の主を任されていた。
まあ、やることと言えばそれほど多くなく、精々主人の書いた書斎をまとめることや、新人トレーナーにパートナーポケモンを渡すことぐらいだ。
未だ生態に多くの謎を持つポケモンだが、生憎彼女には主人のような教養は無い。研究に関しては主人の専門分野であり、あくまで彼女は彼を補佐する立場だった。
故に、彼が居ない間は仕事があまり無い。
率直に言えばとてもヒマであった。
そして今年十一歳になった一人息子は現在ジムバッジ収集の旅に出ている。
主人と息子が不在な為、朝方は近所の人々と何事もない世間話をするのが彼女の日課だった。
しかし、この日の朝はいつもとは違った。
昨日、彼女の元に電話が来たのだ。
「明日、のび太君を連れていきます」と。
面白い内容だった。
電話の相手は彼女より三つほど年下で、二十年ほど前から付き合っている気の置けない友人だ。
その友人が今日、ノビノビタという違う世界の少年を連れてくると言ったのだ。
「そろそろかな? 早く来ないかなぁ……」
散らかった研究室を掃除しながら、彼女は落ち着かない様子で友人の来訪を待つ。
そう言えば、直接会うのは随分久しぶりな気がする。電話はよくしているけど。
――ピンポーン、と呼び鈴が鳴る。
その瞬間、彼女は慌ただしい足取りで玄関先まで迎えに行った。
今時珍しい手動式のドアを開き、彼女は来客と向き合う。
一人は童顔の女性。
もう一人は眼鏡を掛けた少年。
昨日の電話通り、彼女は来たのだ。
「お邪魔します、リーフさん」
「お、お邪魔しますっ」
「コトネ! 久しぶり〜!」
コトネとの修行から一週間が経過し、のび太は順調に腕を磨いていた。
もちろん、二人がジョウト地方から遥々この町を訪れたのには理由があった。
それは新たなポケモンの入手。
のび太のポケモンはピチュー、ゴマゾウの二匹のみ。一般的に、実戦には最低でも三匹のポケモンが必要とされている。故に、二人はこのオーキドポケモン研究所を訪れたのだ。
新たなポケモンの入手は、もちろん野生ポケモンを捕獲することによっても可能である。しかし、ワカバタウン近辺に生息するポケモンは基本的に弱く、かといってのび太の技量ではレベルの高いポケモンを扱えない。捕獲したとしてもまともに命令を聞いてくれないだろう。
その点、ワニノコなど研究所で貰えるポケモンの方が彼には合っている。
生憎、今のウツギポケモン研究所にはそういったポケモンが用意されていない。先日新人トレーナーが旅立ったばかりなのだ。
故に、コトネは親しい関係にあるオーキドと連絡を取り、のび太のポケモンを受け取りにここへ来た。
「ポケモンは用意出来てます?」
「もちろん! ヒトカゲ、フシギダネ、ゼニガメ、みんな元気なポケモンよ」
玄関から入室した二人は、オーキドに案内されながら歩き進む。
研究所の内装はウツギポケモン研究所とさほど変わりない。のび太はそんな感想を抱いた。
「はじめまして、私はリーフ。コトネとは友達で、一応この研究所を任されているわ」
「あっ、野比のび太です」
三匹のポケモンが用意された研究室に移動すると、遅れてオーキド……オーキド・リーフが自己紹介をする。それに応じて、思い出したようにのび太も名乗った。
「聞いたわよ? ツバサちゃんが今頑張っている世界の子で、彼女を手伝う為に修行しに来たんでしょう?」
「は、はい。助けになりたくて……」
事件を解決しなければドラえもんも帰れない、という話はややこしくなるので黙っておく。
言うと、リーフは整った顔をにやけさせた。
「イイ男ね〜。他人の為に頑張れる子なんて、うちの子にも見習ってほしいぐらいよ」
「僕達の世界のことですから」
「謙虚なところも良いわぁ。お姉さん気に入っちゃった」
年齢的に「お姉さん」と呼ぶには非常に微妙だが、幸いにもその容姿はコトネと同様、二十代で通用するほど若々しい。
誰かと出会う度に、どうしてこの世界は美形ばかりなのかと常々のび太は軽い嫉妬心と劣等感を抱く。ウツギおじいちゃんだけが良心である。
(おじいちゃんと言えばオーキド博士が居ないなぁ。どうしたんだろう?)
容姿に関係無く、良い人そうだなという印象は受ける。本当にこの世界に悪人は居るのかと疑うほど、のび太の巡り合わせは良かった。
(この人はリーフグリーンの主人公かな? 女の子の……)
「それじゃあポケモンを出すわ。じっくり選んでね」
「あっ、はい」
リーフはテーブルに置かれた三つのモンスターボールを取り、一つずつ開閉スイッチを押していく。
新人向けだが力の強いポケモン、御三家と呼ばれる三匹が解き放たれ、次々とのび太の前に姿を現す。
物言いたげにじっと彼の顔を見つめているのはトカゲポケモン、ヒトカゲ。
眠たそうに目をしばたかせているのは種ポケモン、フシギダネ。
シャドーボクシングで存在をアピールしているのが亀の子ポケモン、ゼニガメ。
三匹とも、ゲームの世界では親しみのあるポケモンだ。
「可愛いなぁ〜。どれにしよう?」
「貴方なら、きっとみんな気に入ってくれると思うわ」
見知ったポケモンなだけに、のび太は選択を迷う。フシギダネとは性格的に気が合いそうだ。ゼニガメは見るからに元気一杯だ。ヒトカゲは……
ただじっと、彼を見つめ続けている。
「凄い視線ね〜」
「よほど冒険がしたいのね」
目と目が交錯すれば離れない。一人と一匹は互いに見つめ合いながら一歩も動かなかった。
――なんだろう、この気持ち?
どうする?ア○フル……のコマーシャルが一瞬脳裏を過る。このヒトカゲからは並々ならぬ熱意が感じられた。
「僕と行きたい?」
のび太の問いに、ヒトカゲは躊躇いなく首肯する。
すると、横合いからコトネの意見が耳に入ってきた。
「のび太君のポケモンはピチューとゴマゾウだから、草タイプにちょっと弱いかもしれないね。だから炎タイプのヒトカゲは結構相性が良いんじゃないかな? ヒトカゲが苦手な水タイプはピチューでカバー出来るし」
「でも地面に弱くならない?」
「なら、三匹ともいただくというのはどうですかリーフさん?」
「新人トレーナーにあげるポケモンは一匹だけ。特別扱いはしないわ」
「もう、ケチ……」
何とも参考にし難い二人の賑やかな会話が、どうにも鬱陶しく感じたのは気のせいか。
タイプ相性というのはコトネに教え込まれた。今でも勉強中だが、それがパーティの編成に重要なことだというのはよく分かる。
だが、ヒトカゲにはそんな理屈めいたことよりも特別に感じるものがあった。
――それは言葉に出来ない頼もしさ。
このヒトカゲの顔つきには、彼が期待せずにはいられない力強さを感じた。
あまりに抽象的なものだが、彼にはそれだけで十分だった。
「僕、ヒトカゲにします!」
かくして、のび太の三匹目のポケモンが決定した。その決断にゼニガメは肩を落とし、フシギダネはどうでも良さげに欠伸を上げ、そしてヒトカゲは歓喜の笑みを浮かべた。
「……のび太君、ちょっと外で待ってて」
「手持ちのみんなとヒトカゲとで挨拶させてきたら?」
「はい!」
この研究所を訪れた用件はポケモンの譲渡であり、それ以上は何も無い。
だがそれはあくまでのび太の話であり、コトネとリーフにとっては違う。特にリーフから彼女には話したいこと、聞きたいことが個人的にあった。
コトネはのび太を追い出すような形で研究所から出し、それを確認した後でリーフと向き合う。
「これからのび太君をトキワシティに送らなくちゃいけないから、長話は出来ませんけど……」
「レッドのとこに行くのね。本格的に経験を積ませる気かしら?」
「はい。あの子は自分では気づいてないけど、物凄い才能を持っている。基礎は大丈夫そうだから、私より専門の人に教えてもらった方が良いんじゃないかなって」
二人だけとなった研究室の中に、静かな会話が繰り広げられる。
二人とも柔らかい口調であったが、直後、リーフは真剣な目付きに変わった。
「確かにそうね…… レッドやグリーンや貴方の旦那の十歳の頃を見てきたから言えるけど、本当にあの子は相当な大器だと思うわ」
でもね……と、溜め息を交えた声で彼女は続ける。
「でもね…… あの子は別の世界の人間なのよ? 事件が解決したら、ポケモントレーナーではいられなくなる」
「もったいないですよね、やっぱり」
「……コトネ、論点そこじゃない」
「あれ?」
噛み合わない会話に呆れ、相変わらずどこか抜けている後輩を前にリーフはまた溜め息をつく。
野比のび太の前では黙っていたが、この場でははっきり言わせてもらうことにしよう。
「……すぐにポケモントレーナーをやめなくちゃいけない子に、なんでポケモンを持たせたの?」
「……………………」
「良い? あの子とポケモンはずっと一緒には居られない。どうやっても別れなくちゃならないのよ? それがあの子達にどんな思いをさせることになるのかわかってる?」
別れというものは辛く、悲しい。
リーフの指摘は、今回の事件が解決した後に向いていた。
今のび太の手持ちには三匹のポケモンが居る。おそらくこれからの戦いで彼らは絆を深め、限りなく家族に近い存在となるだろう。
しかし、彼とポケモンでは住む世界が違う。事件を解決した後はポケモンはこの世界に帰らなければならなくなり、つまり、のび太は絆を深めたポケモン達と別れなければならなくなるのだ。
辛く悲しい別れは、彼にとって規定事項である。彼だけではない。彼の手持ちとなって戦うポケモン達も、彼と別れる際には涙を流すに違いない。
「……そんな思いをさせるくらいなら、ツバサちゃんの手伝いはうちの子にさせても良かったのよ? 今からでも別に……」
「ツバサが断りますよ」
「でもねぇ……」
リーフの息子は一年前からジムバッジ収集の旅に出ており、先日六つ目のバッジを手に入れたという連絡が来たことから、実力は折り紙付きだ。
わざわざのび太達に嫌な思いをさせなくても、ツバサを助ける方法はいくらでもあるのだ。
「ツバサにとって、のび太君は初めて出来た友達ですから……」
「えっ?」
「だから出来れば一緒に居させてあげたいんです。傲慢かもしれませんが」
「……親馬鹿……」
もとい、馬鹿親だ。
しかし彼女の言う通り、ツバサは初めて出来た友達である彼といずれ別れなければならない時が来る。
その時、彼女はどんな顔をするだろうか?
その時まで長く一緒に居させたい、そういうことね……
「本当に娘が可愛いくて仕方ないのね貴方は……」
娘にとってはそれで良くても、のび太とポケモン達にとってどうなのか。それで良いものなのか?
リーフはもう一度訂正する。
彼女は親馬鹿でも馬鹿親でもない。
ただの馬鹿だと。
しかしそれを口に出したら彼女は誉め言葉として受け取りかねない。コトネとはそういう女だ。
「……後で謝りなさいよ」
「もちろんですよ」
後のことを考えているのかいないのか、ともかく呆れずにはいられなかった。
事件を解決した後も、彼がツバサやポケモンと別れなくて済む方法があれば良いが……
主人が帰ったら聞いてみよう。多分無いだろうとは思うけど。
この時―― リーフは思いもしなかった。
解決を前提に考えていた今回の事件の裏には強大な「何か」が潜んでいることを。
リーフだけでなく、コトネもシルバーも、のび太もツバサも、さらにはホウオウでさえも気づいていなかった。
やがて次元そのものを巻き込んだ未曾有の戦乱を引き起こす存在が、静かに移動を始めたことを――。
投稿乙です
今回もネタに笑いながら深く読ませて頂きましたw
さるさんで遅れましたが投下終了です
まったりな展開が続くのはすみません
426 :
名無しさん、君に決めた!:2011/07/09(土) 19:11:19.06 ID:gKLbWEXsO
アイフル懐かしいw
久々にきたら投下されてる
やっぱり御三家がいなきゃ始まらないか
しかしリザードンになるまで一緒にいられるだろうか
面白かったw
ヒトカゲ選んだのはやっぱ主人公としては王道かなぁ
でもたしかに解決後はそりゃあね
リーフきたああああ
ほしゅ
hosyu
期待
433 :
名無しさん、君に決めた!:2011/07/29(金) 16:32:04.93 ID:5OQyJ/HNO
期待age
8月も保守
時間がかかりましたが投下します
野比のび太は着実に腕を上げてきた。その「上げてきた」というのはあくまで初歩的なポケモンバトルの基礎を教え込まれた程度に過ぎないが、次のステップへと移行するレベルには達している――というのが、コトネの見解である。
故に、彼女はのび太と共にここを訪れたのだ。
緑の町、トキワシティを。
「……あの、ワカバタウンに帰るんじゃないんですか?」
「いいえ、まだよ。貴方に会わせたい人が居るの」
「会わせたい人?」
「そう、貴方の新しい先生よ」
言って、首を傾げるのび太に微笑む。
街を歩きながら、コトネは彼に旨を伝えた。
ある程度の基礎を覚えた今、これからは実戦レベルへと鍛えていくと。
その為にこれからポケモンジムへと向かうことを。
「ジム!?」
「ええ、この町のジムリーダーとはちょっとした知り合いで、これからの修行はその人に任せたいと思うの」
「え〜……」
悪く言えば、丸投げだ。
だが、コトネは十年以上前に現役を引退した身であり、実戦に適した指導には自信が無かった。
そんな自分の指導を受けるよりも、その道のプロフェッショナルに指導を受けた方が効率的だと判断したのである。
合理的な理由だが、説明されるのび太の顔は不服そうに見えた。彼としては指導者は彼女のままが良かったのだろう。
「この町のジムリーダーはただ強いだけじゃなくて、教えるのも本当に上手いって評判なのよ」
「そうですか……」
「のび太君もきっと凄い強さになれるわ」
トキワジムに現ジムリーダーが就任したのは今から約五年前。丁度前ジムリーダーが引退を表明した次の日のことだった。
前ジムリーダーの名はオーキド・グリーン。ポケモンの権威、オーキド・ユキナリの孫に当たり、元セキエイリーグチャンピオンの経歴を持つ男だ。
その実力はカントージムリーダーの中でも圧倒的に高く、他の地方と比較してもトップクラスに立つほどだった。
現ジムリーダーは正式な試験を受けておらず、その前ジムリーダーの推薦を受けての就任となっている。
だが、元より試験など必要無かった。
試験が無くとも既に説明不要の最強トレーナーとして名が通っており、就任前から人々に親しまれていたからだ。
コトネが説明すると、のび太は違和感を覚えたように顔をしかめる。
「ジムリーダーなのに、最強なんですか?」
「ええ、あの人は誰よりも強いトレーナーよ。こう言ってはいけないけど、今のチャンピオンのシルバー君よりもね」
「変なの」
町の中で最も強いポケモントレーナーがジムリーダーであり、その上に立つ四人の最強トレーナー達を総称して四天王と呼ばれている。
チャンピオンというのは、その四天王を四人とも実力で倒した者のことを言う。
普通なら、チャンピオンより強いジムリーダーなど存在しない筈なのだ。のび太が納得出来ない気持ちはよく判る。
「まあ、彼も元々チャンピオンだったんだけど、色々あってね……」
さて、アポを取ってはいるが、果たして彼はこの子を気に入ってくれるだろうか。
……気に入ってくれないとは思えない。
元々彼は面倒見の良い性格だし、子供は大好きだ。
もちろん、健全な意味で――。
《トキワシティジムリーダー・レッド。命を賭けて、かかって来い》
本来ジムリーダーの紹介を書かれている筈の看板には、筆の文字でそう書かれている。
コトネに連れられてジムの前に着いた時、それを見てのび太は目を見開いた。
トキワシティジムリーダー・レッド。
ジムリーダー・レッド。
レッド……
レッド?
「レッドぉ!?」
記憶の中に、赤帽子の少年の姿がよみがえる。
レッドという名はコトネと同じく、ポケモンのゲームのプレイヤーとして記憶にある。
ただ、その名前は特に印象深く刻まれていた。
(もしかして……)
自分最強のポケモン、ホウオウを用いても一瞬で片付けられてしまった相手。
ゲームのラスボスとして辛酸を舐めさせられた相手。
ある意味トラウマの一種であるその名前が、ジムリーダーの名前として今目に映っている。
「彼のこと、知ってるの?」
「えっ、いや、まあ、はい……」
「ああ、私達の世界がコンピューターゲームになっているっていうアレね。本当に不思議よね〜」
「ですよね……」
並行世界というものは確かに不思議だ。
のび太達にとってはゲームの登場人物に過ぎなかった彼女らがこうして三次元の人間として生きており、逆を言えば三次元の人間がゲームの世界の人物となっている。
ひょっとしたら僕達が漫画やアニメの登場人物として生きている世界もどこかにあるのかもしれない。オカルトな話である。
「着いてきて」
「はい」
想像は膨らむが、今は現実が大事だ。
自動ドアが左右に開くと、のび太はコトネの後に続いて中へ入る。
すると、黒縁眼鏡をかけたスーツ姿の男が二人を出迎えた。
「元気しとぉや未来のチャンピオン! ……ってあれ? コトネじゃないか」
「こんにちは。レッドさんは居ますか?」
「おう、呼んでくるか?」
「お願いします」
コトネという人物は相当顔が広いようだ。そしてこの男もゲームで見た記憶がある。イメージ通りなんとも暑苦しそうだ。
彼女に頼まれた彼は奥の方へと消えていき、三分ほど経ってまた戻ってくる。その後ろから、赤いジャケットを着た黒髪の青年が着いてきた。
「来たか、コトネ」
「お久しぶりです」
「そいつが噂の?」
「はい!」
軽くコトネと挨拶を交わすと、青年は覗き込むようにのび太と目を合わせる。
真紅の瞳からは意志の強さが伺えた。
「あっ、野比のび太です」
「どうも。僕はレッド、よろしく」
互いに名乗り、握手を交わす。
間近で見れば、やはりあのラスボスと同じ顔をしていた。
「話は聞いているよ。大変なんだってな、お前の世界」
「はい……」
「だけど戦っているのは別世界の住人である彼女だけ。自分は何もしないのが嫌で、彼女の助けになりたいってところか?」
「は、はい」
まるで心の中を覗かれているかのように的確で、簡潔だった。
「……覚悟はあるな?」
生半可な気持ちで彼女を手伝おうと言うのなら、足手まといになるだけだ。もう何度も訊かれた話に、のび太は力強く応えた。
「はい!」
良い返事だ、と青年は返す。
コトネの方に目線を映すと、彼はふっと唇を弛緩させる。
「良いよ、この子のことはこれから僕が面倒を見てやる。君の言っていた通り、見所がありそうだ」
「お願いします」
まるで我が子の勉学を塾講師に一任するように、というのがこれに似合う表現か。
コトネは会釈し、のび太の肩に手を置く。
「レッドさんはジムリーダーで、先生としての腕は私なんかよりずっと上だから、彼の言うことを聞けば間違いないわ」
「コトネさんは?」
「私はマサラタウンでリーフさんと話でもしているわ。夕方の五時頃になったら迎えに行くから、頑張ってね」
レッドという男にはよほど絶大な信頼を置いているのだろう。コトネの顔には全くと言って不安の色が見えなかった。
ほどなくしてコトネは去り、その場にはのび太とレッド、スーツを着た黒縁眼鏡の男が残る。
「さて、早速始めるか。着いてきてくれ」
「はい」
ジムの奥に向かって歩いていく青年の背中を、のび太は小走りで追い掛ける。
(コトネさんより厳しいんだろうなぁ……)
今後のことを思うと期待よりも不安が強まっていく。レベルアップの為に厳しい指導を受けるのは当前だと熟知してはいるものの、やはり自分への甘さが抜けきれていなかった。
だが、それら全てのものと向き合う心をひっくるめて「覚悟」と呼ぶのだ。レッドはそのつもりで問うたのだろうと、この時のび太は悟った。
レッド……元リーグチャンピオンで、現トキワジムリーダー。
その背中を瞳に映している間、のび太には何かが引っ掛かった。
(なんでだろう……)
ゲームの画面で見た時は、何も感じなかった筈だ。しかし、彼と直接会った今、頭の中で何かが引っ掛かっている。言葉に出来ない何かが。
(この人とはどこかで……)
それがどこなのかは判らない。
ただそういう気がするだけなのかもしれない。
しかし、記憶の端では――
(どこかで、会ったことが……)
初めて会った筈が、初めての気がしない。かと言って、特別懐かしい感じがするわけでもない。
ただ、どこかで。
それが過去とは限らないがどこかで、レッドという人物と会った気がするのだ。
「……のび太」
不意に、先行する青年から呼び掛けられる。
「お前とはどこかで会った気がするんだが、気のせいか?」
「えっ!?」
のび太の引っ掛かりは、彼のみならずレッドも感じていたようだ。しかし、どちらにも確信はなかった。
――彼らは知る筈がなかった。
次元を越えた先にある無数の世界のどこかで、野比のび太とレッドという二人の男が、異世界の同一人物に影響を及ぼすほど強い関わりを持ってしまったことを。
その世界の二人は互いに「敵」という立場で、己の信念を賭けてぶつかり合った関係であることを。
それはこの世界には何の意味もなさない、知る必要のない物語だった。
投下終了。待たせた割に投下量少なくてすみません
今回は避難所で連載中の作品の内容を小出しにしましたが、この作品では大した意味はありません
やっときたああああああ
激しく乙&GJ!
常盤ジムがレッドとな
グリーンはじじいの後を継いで研究職あたりに付いたのだろうか
乙
避難所の小説も平行世界なわけだな
ジム戦に命賭けたくねーよww
保守
投下します
相変わらずローペースです
嵐が過ぎ去った後のように荒廃した地に、三人の青年と瀕死のポケモン達の姿があった。
赤髪の青年は上着の胸元に真っ赤な血の色を滲ませ、片膝をつきながらその箇所を押さえている。
赤帽子の青年は力尽きた全身の筋肉に従い、仰向けになって倒れている。
そして金色の瞳を持つ青年は、二人より十メートル前方の場所より彼らに顔を向けて立っていた。
「……ありがとう……」
金色の瞳の青年の言葉だ。
「二人が手伝ってくれなかったら、ここまでたどり着けなかった……」
青年はふっと柔和な笑みを浮かべる。対する赤髪の青年は呼吸を荒げながら、赤帽子の青年は耳だけを傾けて次の言葉を聞き取った。
「……もう、良い……」
とてつもなく残酷で、重い一言。
返す言葉すら、二人の青年には見つからなかった。
「後は俺に任せて」
「ゴールド……!」
赤髪の青年が、悟りきった顔をしている青年の名を叫ぶ。すると、彼はまた微笑を浮かべた。
「シルバー、俺には妻と娘が居る。俺が帰ってこなかったら、二人のことを見てもらっても良いか?」
「お前……」
金眼の青年は言葉の対象を赤帽子の青年に移す。
「レッドさん」
「……何だ……?」
「山に引きこもるのは、やめましょう」
提案する口調で放たれたその言葉に、赤帽子の青年は無言を返す。金眼の青年は笑みの中に微量の厳しさを込めた口で言った。
「こんな不完全な世界だけど、良いところもある。まだまだ捨てたものじゃないと、俺は信じている。だから貴方も……」
「……オレに何が出来る……」
「次の世代を生きる子供達に、ポケモンの正しい扱い方を教えるとか」
「……悪くない……」
「俺達が思っているよりもきっと簡単なんですよ、この世界は」
金眼の青年の言葉には、強い説得力が込められていた。聞いて、ゆっくりとまぶたを閉じた赤帽子の青年の目に一滴の涙が輝いた。
数拍の間を取り、金眼の青年は文字通り人ならざるモノに呼び掛けた。
「……長い付き合いだったな、ホウオウ。これからは自由だ。昔みたいに空を飛び回っていても構わない。でも、出来れば……ツバサの傍に居てやってほしい」
『承知した……』
激戦によって戦う力を失った七色の翼は、彼の頼みに即応する。ただ、その後に条件を付けた。
必ず帰って来いと。
彼の背中が二人とポケモン達の目から遠ざかっていく。
あの男は行ってしまう。
決着をつける為に。
振り向き様、金眼の青年は清らかな顔で言った。
「みんなと会えて、俺は幸せだった――」
そして、青年は闇に消えた。
――あの日までオレには何も無かった。
ポケモンバトルを行うだけの人生で、目的すら見出だせず戦い続けていた。
戦うことが嫌になって。
それでもやめられず。
三十路を過ぎた今になってようやく、自分が生きていることに充実感を覚えるようになれた。
あの男がオレを導いてくれたんだ。
ヒビキ・ゴールド――。
もし奴と出会うことがなかったらオレは自棄になって、この世界の全てを壊そうとしていたかもしれない。
「……恩は娘に返すぞ、ゴールド」
今オレはお前に言われた通り、次の世代を生きる子供達にポケモンの正しい扱い方を教える仕事をしている。リーグチャンピオンではなく、ジムリーダーとしてだ。
子供は素直で好きだ。
元リーグチャンピオンの経歴を知ってか、オレの教えを忠実に守ってくれる。
「リーダー! ちょっと来てください!」
今日もジムの中ではオレの名を呼ぶ生徒(ジムトレーナー)達の声が飛び交っている。わからないことは迷わず聞きに来てほしい。彼らの為なら何でもしてあげられる自信があった。
トキワジムでは数十人の少年少女達がジムリーダーに教えを乞い、通っていた。時にその場がポケモンジムだということも忘れ、ポケモンのトレーナーズスクールと錯覚するほど、ここの教育は充実しているのだ。
元々正しい心を持ったポケモントレーナーを育成するというのがジムリーダー本来の役目だ。ポケモンリーグ協会はもちろん、技術よりも精神の育成に力を入れるトキワジムの方針は、少年少女達の親御にもすこぶる評判が良かった。
しかし、このジムには一点の欠点があった。
野比のび太(十一歳)にとっての欠点が。
「……気まずい……」
レッドの生徒達、即ちトキワジムトレーナー達は皆、見るからに十歳未満の幼年、幼女ばかりであった。その中にのび太が馴染めるわけがない。まるで水に浮いた油のようだった。
幼きジムトレーナー達はのび太と隣に立つレッドを囲う形で、その場に集合している。彼らの無垢な眼差しに、のび太は少しばかり痛みを覚えた。
「今日から新しく入門した、野比のび太君だ。わからないことは教えてあげるように」
「「はーーい!」」
レッドから紹介され、一同はその年代独特の返事を送る。
「よ、よろしく……」
レッドからマンツーマンで指導を受けるものだと思っていたばかりに、のび太は動揺を隠せなかった。
彼はこれから、幼年幼女に混じってポケモンバトルを学ぶのだ。
トキワジムの一日は、のび太の世界での学校生活に通ずるものがあった。
ジムの開放は午前九時から午後の五時まで。学校ではないので、それより遅く行くことも早く帰ることも可能だ。
レッドがジムトレーナーを相手にする指導は、ポケモンバトルに必要なことだけでなく、ポケモンと心を通わせることの大切さや、道徳の勉強などの今後生きていく為に必要な「授業」であった。
国語や算数の授業とは違う為、頭の悪いのび太でも理解することが出来る。
全体的に技術的なことよりも精神的なことを教え込まれることが多い。
午後になるとジムの敷地内での自由行動が認められ、「遊び」の時間となっている。ジムトレーナー同士でバトルするのも良し、ジムリーダーと戦うのも良し、ポケモンと遊ぶのも良し、という自由な時間だ。
厳しい修行を覚悟し、それを望んですらいたのび太はこの時間、失望と拍子抜けせずには居られなかった。
こんなんで強くなれるのか、というのが入門一日目の感想だ。確かにここに居ればポケモンの正しい扱い方を覚えることが出来るが、それがバトルの実力に関係するとは思えなかった。
午後の四時頃。のび太はジムの裏にある芝生の広場で仰向けになっていた。その両脇ではピチュー、ゴマゾウ、ヒトカゲが彼と同じように寝そべっている。
ヒトカゲとはこの一日である程度打ち解けることが出来た。ツバサやホウオウの言う通り、自分はポケモンからなつかれやすい体質なのかもしれない。
「大丈夫かな、ツバサちゃん……」
遠くに映るやや赤みを帯びた空。そこに白い帽子を被った金色の瞳の少女の顔が浮かび上がる。
彼女の力になる為にこの世界に来たのだが、まだその域に達するほど強くなってはいない。
レッドの元で鍛えれば強くなるとコトネは言っていたが、今日のような流れではその見込みは無さそうだ。
技術的な要素はコトネから教わったような基礎部分しかなく、新たに耳に入った教えがないからだ。
教える対象が小学校低学年のような子供達なのだから、仕方のないところではあるが……
(コトネさんはどうしてこんなところに……)
この分なら、コトネと一対一の指導を受けていた方が技術は向上したし、力も付いた。それを思えば、トキワジムの一日は何と無意義なものか。
「そんなところに居たのか」
心地の良い眠りにつこうとしたその時、のび太の耳に男の声が入り込む。
赤い瞳の青年――トキワジムリーダーの声だった。
「悪いな、今日はいつもより忙しくてな。お前の面倒を見てやる時間が取れなかった」
「良いですよ。レッドさんに教えてもらいたい気持ちは、あの子達の方が強いだろうし……」
「不満そうだな。気に入らないか? 僕の指導が」
「そんなことはないですけど……」
そう、確かにそんなことはない。レッドの指導は分かりやすく、学校の先生よりも頭に入りやすい。のび太は決して彼のことが気に入らないわけではなかった。
「不満なのはそうですけど」
「だろうな。今日はお前の望みに応えてやることが何一つ出来なかった」
不貞腐れるように、のび太は寝返りを打つ。その瞬間、ゴマゾウの短い悲鳴が聞こえた。慌てて起き上がると、どうやら背中で踏んづけてしまったようだ。
「ご、ごめんゴマゾウ! 大丈夫?」
気持ち良く眠っていたところを起こしてしまったようだが、ゴマゾウに怪我は無さそうだ。ポケモンなのだから当然であるが。
「一、二、三…… 全部で三匹か、お前のポケモンは」
「はい。ピチューとゴマゾウは向こうの世界で出会って、ヒトカゲとは今日マサラタウンの研究所で出会いました」
「ほう……」
すっかりのび太に気を許している様子のポケモン達に、レッドは感心げな顔をする。
「リーフからヒトカゲを貰ったのか。…何だか懐かしいな……」
「レッドさんも、あそこでポケモンを貰ったんですか?」
「昔、十歳の頃な。旅立ちの日、僕はオーキド・ユキナリ博士からポケモンを貰った」
「どのポケモンを?」
特に興味があったわけではないが、無言でまた寝るのも気まずいので、のび太は質問をした。
応じるレッドのどこか寂しそうな瞳に気づかずに。
「僕の時はヒトカゲもゼニガメもフシギダネも選べなかった。スクールでの成績が良かったからって博士が奮発して、僕の為にイーブイという珍しいポケモンを用意してくれたんだ」
「へぇ〜……」
最初に貰える三匹よりも高い戦闘能力を持つポケモン、イーブイ。それが、レッドのパートナーとなるポケモンだったと言う。
だが、その話には続きがあった。
「ふふ、でも僕がイーブイのモンスターボールを取ろうとした時、横からアイツが奪い取ってきたんだよな」
「えっ? 奪い取ってきた?」
「グリーンっていうオレと同期の奴がな。あの時のアイツは本当にムカついた。スクールの成績は僕より下だったくせに、まったく……」
軽く笑んで語るレッドだが、内容は笑い話では済まない。グリーンという奴は、まるでジャイアンみたいな奴だとのび太は思う。
「僕は一歩退いて大人しくアイツに譲ってやったわけなんだが、そのせいで研究所で貰えるポケモンが居なくなってしまってね」
「それで、どうしたんですか?」
最初はそれほど関心があったわけではないが、気づけばのび太はレッドの話に聞き入っていた。
レッドは頬を緩め、答える。
「仕方ないからその辺に居たピカチュウを捕まえてきた」
「へ?」
「ピカチュウはマサラには生息しない筈なんだが、トキワの森から迷い込んで来ていたんだ。思えば運命的な出会いだった」
「ピカチュウ、ですか……」
「そう。僕の最初のポケモンは道端で捕まえたピカチュウだ。純粋な野生ポケモンだから手懐けるまで時間がかかったよ、ホント」
ヒトカゲでもフシギダネでもゼニガメでもなく、パートナーはピカチュウ。
……似たような話をどこかで聞いたことがある。そうだ、ポケモンのアニメだ。
「お前のそのピチューも純粋な野生ポケモンだったんだろう? 短期間でどうやってそこまで手懐けた?」
今度はレッドが質問をしてきた。のび太は一瞬返答に困ったがありのまま、正直に答えることにした。
「どうやってってほど、大したことはしてないんですけど……」
「このゆとりめ。羨ましい才能だ」
ポケモンを持ったことがない者が純粋な野生ポケモンを手懐けるには、大したことをしなければならないのが普通だ。戦いの中で認め合ったり、共に生活する内に気を許すようになったり、時には殴り合ったりして相互理解を果たす者も居る。
のび太はその過程をショートカットして、あっさりとポケモンを手懐けることが出来る才能の持ち主だ。
「この世界に居る全ての人間にお前のような才能があれば良いのにな……」
「ん? 何か言いました?」
「……いや、年寄りの独り言さ」
午後四時から五時にかけて、日没の速度は増していく。 そろそろジムは閉まり、コトネが迎えに来てくれることだろう。
芝生の上で眠るポケモン達の幸せそうな寝顔を見ればのび太には彼らを起こすことが出来ず、そのままモンスターボールに戻すことにした。
「もう時間か。つまらない昔話に付き合わせてしまったな」
「いえ、面白かったですよ」
全く関係のない話なのだが、彼には何故か他人事のように聞こえなかった。
それはレッドが今日初めて出会った男と思えない理由と同じものであることを、のび太は知らなかった。
。
「のび太、この際お前には僕を超えてもらいたい」
広場からトキワジムへと向かう道中にて、不意にレッドがそう言った。
「お前なら出来る。そしてどうか一つ、僕の頼みを聞いてほしい」
「頼みですか?」
その頼みというものに、のび太はとてつもなく重い何かを予感した。
レッドは足を止め、後ろに着く彼の方に振り向く。
「あの子を……ツバサを助けてやってくれ」
深刻げに吐かれたその言葉。
大変な仕事をしているとは思うが、彼女が助けを求めるほど危機的な状況に瀕しているわけではない。共に活動してみて、彼女からは余裕すら伺えたものだ。
だが、のび太は次の言葉を聞いてその頼みの真の意味を理解する。
「あの子は強い。よほどのことがない限り窮地に立たせられることはないだろう。だが、一人で戦い続ければいずれ限界が来る…… 肉体的にではなく、精神的に」
まるで自らの体験論を語るかのように、レッドの言葉には強い説得力が含まれていた。
「コトネは苦しくなったら帰ってくるように言ったようだが、あの子はああ見えて責任感の強い性格だ。目的を果たすまで戦い続けるだろう。
……ホウオウやポケモン達が着いていても、何がきっかけで壊れてしまうか判らない。人間は思っているより脆い生き物なんだ……」
「レッドさん……」
「……ふっ、なんてな。時間はかかるがそれほど大変な仕事じゃない。ただ孤独は寂しいだろうから、出来るだけ傍に居て、あの子を助けてやってほしい。コトネから聞いたが、お前はあの子の友達なんだろう?」
レッドという男がツバサとどのような関係にあるのかは判らない。だが、彼が彼女のことを我が子のように大切に思う気持ちは、その表情からひしひしと伝わってきた。
「はい」とのび太は短く応える。
その後、彼は一つ気になる問いをかけた。
「でもどうして…… 貴方の言葉は重いんですか?」
言葉の一つ一つが重く、どうでも良い話も聞き流すことが出来ない。
のび太の問いに、レッドは答えることが出来なかった。
「リーダーさよなら〜!」
「おう、さようなら」
時刻は午後の五時。ジムは閉められ、幼きジムトレーナー達は迎えに来たそれぞれの保護者に連れられ、レッドに手を振りながら帰路に着く。
すると上空から茶色の鳥ポケモンが飛来し、ジムの前へと着陸した。ヨルノズクに乗ったコトネが、のび太を迎えに来たのだ。
「今日はありがとうございました」
「どうも。……とは言っても、彼に特別なことはまだ何も教えていないんだがな」
「そうなんですか……」
ヨルノズクの背から降りると、コトネは柔らかな顔つきでレッドと応対する。と、今度はのび太に顔を向けてきた。
「どうだった?」
「わかりやすかったですけど……」
コトネさんに教えてもらったことしか教えてもらえなかったので、ここに居た意味はあまりなかった、とはレッドの前では言いにくい。
だが、心配することはなかった。
「僕はジムリーダーで、ジムトレーナーみんなの面倒を見なきゃならないからな。のび太君だけを特別扱いには出来ない。だが、のび太君さえ良ければジムを閉めた後……今から、マンツーマンで指導してやっても良いぞ?」
レッドとの修行。
それはこれから始まるのだ。
願ってもないその提案に、のび太は強く頷いた。
投下終了
次回はのび太の世界、出木杉視点になります
461 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/14(日) 02:04:19.09 ID:veaJaGZ90
次何時?
,, -―-、
/ ヽ
/ ̄ ̄/ /i⌒ヽ、| オエーー!!!!
/ (゜)/ / /
/ ト、.,../ ,ー-、
=彳 \\‘゚。、` ヽ。、o
/ \\゚。、。、o
/ /⌒ ヽ ヽU o
/ │ `ヽU ∴l
│ │ U :l
|:!
U
_ U ∴ ol
/ /∴ U :l
| | U o∴。l
| | : ∴ ol ゴクゴク!!!!
| ∨∴ U∴U
∧ ∨U o∴ l
/ \ ∨∴ oUl _ノ!
| (゚ ) Y ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_ ノ
|  ̄ ̄ ̄| ̄
》 }
/ /
/ │
│ │
イーブイってことはピカチュウ版準拠か
HGSS世代ののび太はピカチュウ版プレイしていなさそうだが
乙。レッド、ゆとりって言葉の使い所間違ってないか?ww
しかし、トキワジムに挑戦に来るトレーナーは子供達の相手をまずしなきゃならんのかな。だとしたら大変だろうなww
皆さん、久し振りです。
色々なことがありまして長い間投下できない状況でした。
ゲームサロン板からこっちに移ったんですね。
それでは投下します。
のび太の七色の翼氏乙!
最終章『のび太の社会復帰』
豪華で堅牢な造りのレッドの王宮を前にして長身の美青年、
出木杉と小太りだが目に力のある青年のび太が相対する。
それをニヤニヤしながら見物するドラえもん。まず口を開いたのは出木杉だった。
「愚かなるのび太よ、よくワタルを倒してここまで来たな。
だが、お前の快進撃ももう終わりだ。この俺が相手だからな。
お前はドラえもんと俺がお前を更生させるために
この世界に招待したと勘違いしているようだが、
俺は違う、俺はドラえもんに協力するように見せかけて
実はこの世界を我がものにせんと、
企んでいた。レッドの代わりにお前を倒せばこの世界の王になれるらしいからな。
つまり、お前は俺が王になるための生贄なのだ」
出木杉は上機嫌に言い放つと、モンスターボールをなげる。そして現れたのは
鋼格闘ポケモンで二足歩行のポケモン、ルカリオだった。
ルカリオは登場してすぐに光の波動をドラえもんのポケット目がけて放った。
するとポケットは黒焦げになって剥がれおちた。
ドラえもんは意識を失ってその場に崩れおちる。
「出木杉君……いや、出木杉裏切ったな! ぐふっ!」
「なぜ、俺がお前のポケットを狙ったのか分かるな、
ジャイアンや先生の遺体をドラえもんはタイム風呂敷で
包んで復活させようとしたからだ」
一部始終を目の当たりにしたのび太は怒りを抑えられなかった。
「出木杉、お前だけは許さん! 今までレッドを倒すために戦ってきたが、
貴様はレッドより非道な人間だな」
のび太は出木杉に向かって怒りをぶつけた。
「何も知らない、お前に衝撃の事実を教えてやろう。
レッドはさっき俺が倒した。その代わりにルカリオ以外のポケモンが
戦闘不能になったがな。お前もワタルとのバトルでガブリアス一体になった。
つまり条件は同じだ。さっさと最後のバトルを始めよう」
「レッドを倒すとはなんて化け物だ。まあいい。ゆけ、ガブリアス」
のび太が投げたボールからガブリアスが飛び出す。ルカリオとガブリアス、
両者のポケモンがバトル前から火花を散らした。
今、この瞬間から両者の運命を賭けたラストバトルが始まる――。
「ガブリアス、地震!」
「ルカリオ、波動弾!」
先に動いたのは素早さで圧倒的に優るガブリアスであった。
地面が大きく揺れる。のび太自身も立ってはいられないほどの大きな揺れだ。
ルカリオは弱点を突かれて呻き声を上げてその場に倒れ、もはや戦闘不能だ。
しかし、ルカリオを倒された出木杉の顔はなぜか穏やかだった。
「のび太君、僕の負けだ。僕は本当はのび太君の更生を願っていた。
僕がわざと厳しい態度であたったのも全てはのび太君のためを思えばだった。
骨川家の地下で特訓に励んで君は実に精悍な顔つきになった。
今の君なら社会でもやっていけるだろう。さあ元の世界に戻ろう」
のび太は久し振りに出木杉の優しい顔を見て嬉しくなった。
(出木杉は僕のために厳しい態度でいたのか……)
のび太と出木杉とドラえもんの身体は優しい光に包まれて消えた。
のび太はふと、目が覚めると自分の部屋の畳の上に大の字になっていた。
まるで長い夢から覚めたような心地だ。はっとして上を見上げるとドラえもんと出木杉、
そしてジャイアン、スネ夫、静香がのび太を心配そうに見つめていた。
「大丈夫かい? のび太君」
出木杉が優しく声をかけた。それは元の優しい出木杉だった。
出来杉はのび太を本気で更生させるために厳しい口調でいたのだ。
それがはっきりとわかって嬉しかった。
「心配かけやがって、しばらく目を覚まさなかったからな」
次に声をかけたのはジャイアンだった。
ジャイアンは満身創痍といった感じで体中ボロボロで傷だらけだったが、
元気が良かった。皆無事だ。良かった。本当に―――。
「ふん! のび太。これに懲りてまともになるんだな」
スネ夫は言うことはきつかったが、本心ではのび太のことを思って言っているんだろう。
それも嬉しかった。
「のび太さん、本当に心配したのよ」
静香に至っては涙さえ浮かべていた。
のび太は本当に素晴らしい仲間達に支えられているとつくづく思った。
「のび太君、努力の甲斐あって少しは成長したようだね。本当に良かった。
これで僕の役目も終わりだ。さよなら―――」
ドラえもんはその言葉だけ残すと、机の引き出しを開けて未来の世界へと旅立って行った。
不思議と、のび太は悲しまなかった。
ドラえもんへの感謝の気持ちは計り知れない……。
その思いを胸にのび太は新たなる人生のスタートを切ったのだった。
END
投下終了です。
次回作予告
『ドラえもん、のび太とポケモンバトルロワイアル』
あらすじ。
ドラえもん主催、四十人のトレーナー達の生き残りを賭けたバトルロワイアル。
生き残るのはアデクか、シロナか、レッドか、出木杉か――。
のび太達や各地方のチャンピオン、四天王、ジムリーダークラスのトレーナーが参戦!
アダムスいたのか。久しぶり過ぎてあらすじ忘れたぞw
まあ次回作楽しみにするわ
END
アダムスです。
『のび太のポケモンバトルロワイアル』のプロットを作成している最中でして
バトルロワイアルに参加するポケモントレーナー四十人を考えているところです。
そこで皆さんに参加してほしいトレーナーを何人か募集します。
そのトレーナーはけっして粗末な扱いはせず、重要人物にすることを約束します。
皆さんお願いします。
>>472 すみません。あらすじは確か、のび太が空き地でワタルに勝利した後に
ドラえもんが現れてどこでもドアでレッドの王宮へとそんな感じだったような。
次回作は期待を裏切らないようにします。バトルロワイアルに参加するトレーナーを
募集しているのでお願いします。
クロツグ希望
>>474 出来ればかわいい女ジムリにも活躍してほしいし、
スズナとかアスナとかナタネとかエリカとかあたりから、全員は無理でも誰か出してくれると嬉しい。
全員が全員バトルで活躍しなくても、なんかやられシーンだとか人質(?)だとか、
もしくはエロでもヒロイン的位置でもいいんで自由に活躍させてほしい
ダイゴ・ワタル頼むわ
後あいつ頼む名前は一任するがDPの
『なんだってんだよー!』のひと
アダムス氏乙! ミツルかミナキをお願いします
ついでに投下します
青年は泣いていた。
浅緑色の妖精を抱きしめながら、ただ泣いていた。
「…ああ、どうして人はこんなにも愚かなんだ……どうしてポケモンはこんなにも哀れなんだ……!」
人に襲われ、傷だらけになりながらも必死で逃げ延びた妖精はたった一人、青年だけには気を許していた。唯一、自分に優しくしてくれたニンゲンだからだ。
『…………様……』
「……人はどうして……君達に優しく出来ないんだ……!」
青年も妖精も、涙を流している。
分かり合えないニンゲンとポケモン。
一方的な主従関係。
それが世界の実情。
変わらない歪んだ世界。
その全てを、彼らは憎んだ。
『…イ………キ様……』
「もう君をこんな目には合わせない! 僕達はずっと一緒だ!」
『……ありがとう……ございます……』
刹那、彼らの視界が歪んだ。緑の木々も草も湖も、何もかもが変化した。
妖精が意図して歪めたのだ。
『越えましょう、時を。行きましょう、平和な世界へ……』
「そうだ……行こう。私と君だけが幸せになれる世界へ」
時間を越えた先にある世界へ。
彼らが望んだのは平和的な共存だけだった。
自由で温かな、永遠な自由を願い……
青年と妖精は未知なる世界へと消えた――。
とある大草原は野生ポケモン達で溢れていた。
出木杉、ジャイアン、スネ夫、静香の四人はツバサの要請を受け、その場に赴いてはそれぞれ野生ポケモンの捕獲作業を行っている。
出木杉と静香の二人はペアを組んでいた。
「今だガーディ! 火炎車っ!」
出木杉の指示を受けた子犬のような赤いポケモンは全身に炎を纏い、敵の野生ポケモン――ニドラン♂に打撃を与える。
一撃は重く、まともに喰らったニドランは覚束ない足取りで立ち上がろうとするが、
「静香ちゃん!」
「任せて!」
出木杉の隣で出番を待っていた少女、源静香がすかさずモンスターボールを投擲する。
コントロールはどこぞの眼鏡猿とは比較にならない。美しい放物線を描いたモンスターボールはニドランの額に当たり、光と共にその姿を収める。
三回ほど暴れたが、すぐに動かなくなった。
「よし、流石静香ちゃんだ」
「出木杉さんも危なげなくて、カッコ良かったわ」
「いやあ、はは」
静香は拾い上げたモンスターボールを手提げの鞄に入れ、一連の作業を終了させる。
野生ポケモンの捕獲作業を始めてから数日が経ち、出木杉英才は順調に腕を上げていた。
捕まえた野生ポケモンは十匹以上。その中で手持ちポケモンとして戦力になっているポケモンは一匹。
たった今、ニドラン♂の捕獲に貢献したこのガーディだ。
捕まえた時からある程度レベルが高く、尚且つ人懐っこいこのポケモンは非常に扱いやすい。ギャラドスと共に、彼の手持ちポケモンとして働いてくれた。
「ガーディちゃんも凄いわ」
子犬ポケモンの名の通り、ガーディは他のどの野生ポケモンよりも人間を好んでくれる。
静香の手で頭を撫でられると、とても嬉しそうな顔を浮かべた。
(良いなぁ……)
人外と張り合う気はないが、出木杉はその様子を羨ましく思う。あのガーディが自分だったらと妄想すると、ニヤニヤが止まらない。出木杉英才は出来すぎていた。
「ツバサさんが言った通り、ここは野生ポケモンが多いね」
「広いし人も居ないし、ポケモンにとってとても住みやすい場所なんだろうね」
辺りを見回すと、視界の端から端まで緑が広がっている。都会から離れたこの場所は空気も良く、ポケモン以外にも野生動物の姿があちこちで見えた。
動物とポケモンは共生出来るのかな?と出木杉は不意に疑問を抱く。
……難しいか。野生は弱肉強食の世界。動物とポケモンとでは生存競争に圧倒的な差がつく。自分達の行動は、そうして生態系が乱れていくのを防ぐ意味もあるのだ。
「……次元の歪みは、日本の外にもあるのかな?」
「ここほどじゃないけど、あるんだって」
「なら、なおさら一人の女の子には厳しい作業だよね」
「そうね……」
自分達の世界に起きている異変に気づき、その為に行動が出来ている今は充実感を感じている。
だが、そもそも何故こんなことになってしまったのかがわからない。ツバサやホウオウもよくわからないと言っているが。
(次元が歪んだ原因を、多分あの人は知っている……)
手掛かりはある。コイキングをギャラドスに進化させたあの場所で出会った赤紫色の髪の青年だ。
彼からは怪しい臭いがしてならない。
――噂をすればなんとやら。
それはあまりに良すぎるタイミングだった。
挨拶は前回と同じ緑色のエネルギー弾。二度は浴びまいと出木杉と静香はバックステップを踏み、着弾点から逃れた。
「今の……」
「また会ったね!」
もう一度会いたいと思っていたところ、わざわざあちら側から出向いてくれて感謝だ。
エネルギー弾が飛来した方向に目を向けると、案の定、そこには浅緑色の妖精の姿があった。
だが、赤紫色の髪の青年は居ない。
「セレビィ!」
彼が名を呼ぶ間に、妖精は二発目のエネルギー弾をチャージし、発射する体制に入っていた。
出木杉は即座に攻撃技、火の粉をガーディに命じ、発射を阻止する。
「出木杉さん!」
「大丈夫、今度は勝てる!」
幻のポケモン、セレビィとは言え勝算はある。タイプ相性、そして己の才能だ。自他共に認める天才は、既にリアルポケモンバトルのノウハウを修めていた。
戦い方が単調なポケモンに負ける気などなかった。
「いけ、ガーディ!」
ガーディは天然の芝生を踏みしめ、浮遊する浅緑色のポケモンに飛び掛かる。敵は後退も左右にも退かず、意気揚々と応戦に出る。
だが、
「隙だらけだよ!」
セレビィが攻撃の体制に入るより早くガーディはその身に体当たりし、バランスを崩させる。ガーディの動きが予想よりも速かったことに驚いているようだった。
出木杉は唇を吊り上げる。やはりあのセレビィ、レベルはそれほど高くないようだ。
「一気に決めろ、火炎車だ!」
長期戦にすれば何をしてくるかわからないのが幻のポケモンだ。勝負を急ぎ、出木杉は草タイプに有効な炎技を命令する。
一撃、直撃を受けたセレビィが撥ね飛ばされる。
しかしフィニッシュに決める筈だった次の一撃は、突如現れた白いポケモンによって受け止められた。
――やはり、現れたか。
セレビィの身を庇うような位置には白いポケモン、エルレイドが。
傍らにはあの赤紫色の髪の青年の姿があった。
『マスター……!』
そして、セレビィのテレパシーが脳内に響く。
「よしよし、酷い目にあったね。遅れてゴメンよセレビィ」
幼い子供をあやすように、青年は妖精の体を両腕で抱きしめる。すると、その両目を睨むようにして出木杉の元に向けてきた。
「君には情というものがないのかい? か弱い生き物をこんなにして」
「先に仕掛けてきたのはセレビィの方です」
彼と対峙するのは二度目だが、出木杉の口に遠慮はなかった。
色々聞きたいことがある。だが、多くのことは聞けない。
「……貴方は、セレビィのトレーナーですね?」
「トレーナー? …ふっ、君と一緒にしないでくれ。私とセレビィはそんな関係ではないよ。あえて言えば「友達」かな?」
「なら、今すぐその友達に人を襲うのはやめるように言ってください」
「それは無理な相談だね」
腕の中の妖精の頭を撫でながら、赤紫色の髪の青年は微笑を浮かべる。
すると妖精に向けるそれとは変わり、冷酷に徹した眼差しを出木杉に向けて言った。
「君は私にとってとても邪魔な「敵」なのだから……」
「やっぱり、貴方は敵でしたか」
前回会った時とは違って、今回の彼は言うことがわかりやすい。
ホウオウの言う通り、彼こそが事件の黒幕に違いない。具体的に彼が何をしたのかも聞きたいところだが、それを今聞く必要はない。
ここで彼を倒し、その後で聞けば良いからだ。
「出木杉さん……」
源静香が心配そうな表情を覗かせる。うん、そんな君の顔も素敵だ。
「見てなって。トレーナー戦は初めてだけど、あんな人ぐらい僕の相手じゃない」
「……頑張って、出木杉さん」
愛しの少女の応援は、これ以上ないほど力になる。その一言で出木杉のテンションは最高潮に達した。
「よし、本気でいきますよ!」
「その自信はどこから来るのやら……期待させてもらうよ、少年」
エルレイドとガーディは適度な距離に立ち、互いを睨み合う。
張り詰めた空気の中、二匹の力は衝突した――。
アスファルトを照りつける太陽の下、少女はアイスクリームを片手に道端のベンチに腰掛けていた。
夏と言えば暑い。暑いと言えば冷たい物。冷たい物と言えばアイスクリーム。三十度を超える高気温を凌ぐ方法はこれしかなかった。
『三本目……あまり甘い物を摂りすぎるでない』
「…ん、いいじゃない。これでも食べてないとやってられないんだから」
暑いのは苦手だ。でも、炎ポケモンは好き。口には出さないがもちろんホウオウのことも大好きだ。
そのホウオウから糖分の摂りすぎを指摘されたわけだが、彼女にも譲れないものがある。甘い物と言うよりは、冷たい物を摂らなければやってられない。
これは体調管理の一環なのだ、と少女――ツバサは自分に言い聞かせる。
「……出木杉達、上手くやってるかな?」
『過剰な信頼は置かぬ方が良い』
「そうね……」
今頃彼らはホウオウが指した野生ポケモンが密集している場所に遠征しているところだろう。
しかし、彼女は彼らに同行しているわけではなかった。
彼女は単独で、この練馬区周辺を徘徊していた。
テレパシーの声が不意に呼び掛けてくる。
『ツバサ』
「ん? なに?」
『……いや、何でもない』
「なにそれ? 凄く気になるんだけど」
金色のモンスターボールが何かを言いかけては手前で止める。テレパシーを使えるとはいえ、ホウオウは口数の多い性格ではない。
だからこそ、ツバサには彼が何を話そうとしたのか余計に気になった。
「変なホウオウ……」
思えば、最近ホウオウの様子が変だ。
出木杉英才と源静香から「もう一人のポケモントレーナー」の話を聞いた時から、考え事をしている時間が増えた気がする。
今のように一度言いかけてやめる、ということもしばしばあった。
しかし、今回には続きがあった。
『やはり、話すか……』
途中で閉めた口を、再び開ける。
重大な話をするのだろうということは容易に予想ついた。
『ツバサは《霊竜》を知っているか?』
聞き慣れない専門用語のような単語だった。ツバサは当然のように「知らない」と返す。
『……知らぬなら良い。今のは忘れてくれ』
「余計気になるじゃない。最後まで話してよ」
『……本当に、知らぬならそれで良いのだ。今はまだ知る必要のないことだからな』
「今は?」
『時が来れば話す。それほどお前の人生にとって重大な話だと思って良い』
「……あっそ」
ツバサはホウオウと家族同然の時間を過ごしてきた。お互いわかり合えているつもりだが、時々ホウオウの考えていることがわからない時がある。
まあ、いつか話してくれるならそれで良いか。
切り替え、アイスクリームを食したツバサは次なる目的地へと向かった。
投下終了。次回は出木杉vs青年vs蛇イアン
激しく乙
>>474 ジェントルマンのカーネル
ベテラントレーナーのタイガ
ファクトリーヘッドのネジキ
ステージマドンナのケイト
を希望してみる
のび太と七色の翼氏乙!
皆さん、ありがとうございます。おかげで参戦トレーナーが決まりました。
それでは投下します。
参戦トレーナー、のび太達5名
野比のび太、出木杉英才、骨川スネ夫、剛田武、源静香
カントー地方出身7名
レッド、ワタル、カツラ、マチス、サカキ、キョウ、エリカ
ジョート地方出身5名
ハヤト、ツクシ、マツバ、ミカン、イブキ
ホウエン地方出身9名
トウキ、センリ、ナギ、カゲツ、ゲンジ、ダイゴ、ミツル、リラ、アスナ
シンオウ地方出身8名
ヒョウタ、マキシ、デンジ、リョウ、スズナ、オーバ、シロナ、クロツグ
イッシュ地方出身6名
チェレン、カミツレ、レンブ、アデク、ギーマ、N
以上40名、それに加えてドラえもんの用意したトレーナー、タイガ
『のび太のポケモンバトルロワイアル』
第一話『10数年後のみんな』
夜、夕闇で包まれる時間帯、
周りの住宅と比較にならないほどの一軒の豪華な邸宅で
四人の若者は揚々と仲間内だけでパーティを盛大に開いていた。
「やあ、諸君! 今夜はじゃんじゃん飲もう!
のび太の日本フェザー級タイトル5度目の防衛と
ジャイアンの大関昇進を祝って乾杯!」
まず口を開いたのはこの邸宅に住んでいる骨川スネ夫。
とんがった口がトレードマークで若くして会社社長をしている。
「今回の相手は強かった。本当に危なかったよ」
そう語るのはボクシング、日本フェザー級チャンピオン野比のび太。
シャツ姿からでも分かる。のび太は上半身の筋肉がものすごく、まさに鋼の肉体だ。
のび太は子供の時は頭脳も運動能力も低かった。
それがあるきっかけで視力が良くなり、鋼の肉体を獲得したのである。
そのきっかけとはドラえもんが未来に帰ったことが原因だ。
ドラえもんがいる内はドラえもんに頼り切りでいた。
しかし、ドラえもんがのび太を見限って未来に帰った後、
自分で物事を考えなければならず、
その結果、のび太の頭脳と運動能力は飛躍的に上昇した。
「のび太も、よく成長したよな。昔ののび太とは大違いだ。
まあのび太も今では日本チャンピオン、俺様も大関だ」
見違えるのび太の成長に感心しているのは昔、
のび太を苛めていたガキ大将ジャイアンだ。
彼も今では大相撲の力士で、しかも大関だ。
大関になるには関脇で三場所合計約35勝以上が条件で、
ジャイアンは11勝、12勝、14勝と
計37勝で申し分なく大関昇進を果たした。
190センチ、150キロの恵まれた体で
番付を一気に駆け上がっていったジャイアンだった。
「うん、のび太君はずいぶん変わったよ。
まさか日本チャンピオンになるとはね。
495 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/22(月) 13:40:02.19 ID:DQsYWpgRO
乙。漢字そのままに考えるとギラティナのことか…?
というか、あの男とセレビィ達はツバサ達のいないところを狙ってる気がするな
のび太君の素質ならいつでも世界を狙えるんじゃないか?」
評するのは出木杉英才。整った顔立ちをした美青年。
彼は非常に冷静で、聡明な青年だ。スネ夫の会社に所属していて
彼にいついかなる時でも適切なアドバイスをしている。
「皆、俺はまだまだだよ。
でも久し振りに皆とこうやって話すのは楽しいな。
皆といると10年以上も前に帰ったドラえもんのことを思い出すよ。
ドラえもんに会いたいなー」
のび太は本心からそう口にして思った。
(ドラえもんに会いたい……)
皆が一喜一憂していると、突然、皆の身体がまばゆい光を放ちながら、
足元から消え始めた。
(どういうことだ? まさかドラえもんの……)
のび太はそう考え始めたが、時すでに遅し、のび太の身体の全身が忽然と消えた。
第二話『絶望の再会』
のび太ははっと目が覚めた。まるで永い眠りから覚めた気分だった。
気がつくと、のび太の身体は汗びっしょりだ。
のび太はなぜか椅子に座っていた。しかも机もある。周りを見ようとすると
暗くてよく見えない。
(ここはどこだ? そして皆は?)
のび太はひどく動揺した。数分後、突然辺りが明るくなった。
すると何十人もの人間がのび太と同じように椅子に座っていた。
「ここは小学校の教室? 誰だこいつらは?」
動揺がさらに強まる。ここは学校の教室で、何十人もの人間がのび太と同じ状況だ。
それだけは分かった。しかし、どういうことだ。分からないことだらけだ。
しばらくして何ものかが教室に入ってきた。だが、それは人とは違う。
のび太はすぐに誰だか分かった。青い体色をした小さい身体、ドラえもんだ。
「ドラえもん! 俺、俺だよのび太だよ!」
のび太はドラえもんに向かって声を出した。だが、
「のび太か……話はあとでしよう。僕は忙しいんだ。
皆さん、こんばんわ! 僕はドラえもん。
これから皆さんに殺し合いをしてもらいまーす!」
このドラえもんの言葉に教室にいる皆は騒ぎ出した。
ほとんどの人はパニックに陥り、中には悲鳴を上げる者もいた。
「俺たちに殺し合いをしろだと! ふざけるな!」
一人の青年が立ち上がり、ドラえもんを一喝した。
のび太はその青年に見覚えがあった。ポケモンをプレイしたから分かる。
(あれはハヤトだ。それに周りの皆も見覚えのあるポケモントレーナーだ。
それにジャイアン、スネ夫、出木杉、静香もいるぞ)
ハヤトは立ち上がって、ドラえもんに向かって殴りかかった。
しかし、ドラえもんは動じずに何やら武器を取り出した。
「空気砲!」
ドラえもんの右腕に嵌められた武器から、超圧縮された空気の弾丸がハヤトの胸を貫いた。
「ぐはーっ! い、痛い! 誰か助け……」
ハヤトの胸からおびただしい量の血が流れ出し、ハヤトは倒れた。
ハヤトが死ぬまで、その一部始終を見ていた皆は閉口し、沈黙した。
「皆さーん! あまり出しゃばるとハヤトのようになりまーす!
それではこれから皆さんにポケモンを使ったバトルロワイアルをしてもらいます。
ただ人に攻撃してはいけません。紳士的、淑女的にお願いします。
相手のポケモンを攻撃して戦闘不能にしてもらいます。
そして最後の一人になった人が優勝です。
優勝した人の願いをなんでも叶えてあげます。
戦闘不能にされたポケモンのトレーナーは心臓に装着された特殊なナノカプセルが
開いて死にいたります。これから皆さんに一人ずつ、
ポケモンが入ったモンスターボール、コンパス、地図、ルールブック、
僅かな食糧が入ったモンスターボールが入ったデイバッグを配ります。
舞台はのび太が住んでいる町近辺に似せたパラレルワールドです。
定期的に禁止エリアの設置と死亡した人の名前を読み上げます。
ゲーム開始は皆さんが学校を出た30分後です。これで説明は以上です」
ドラえもんは顔色一つ変えずに説明をした。当然質問が飛び出した。
「持っていた私のポケモンが入ったモンスターボールがないんだけど」
質問したのは黄色い髪をして背が高くスタイルの良い女、カミツレだった。
連投規制に引っ掛かってしまった。
「あっ! 僕のもない!」
「俺のも」
「私のも!」
ポケモンの登場人物達は自分のポケモンが無くなっているのに大騒ぎだ。
のび太は元々持っているはずがないので、まったく動揺しなかったが、
ポケモントレーナー達にとっては死活問題だ。
「皆さんのポケモンは僕が取り上げました。
だから、僕のものになりました。優勝したら返してあげるかも」
ドラえもんがニヤニヤしながら答えると怒りを露わにする者が何人かいた。
「ふざけるな! 俺のポケモンを返せーっ!」
「そうだ。俺たちの大事なポケモンをよくもーっ!」
ドラえもんに殴りかかっていった4人はトウキとゲンジとオーバとマキシだった。
「空気砲!」
しかし、ドラえもんの空気砲で4人は胸を貫かれ、呆気なく死亡した。
「ドラちゃん! もうやめて!」
のび太の友人の源静香は立ち上がり、ドラえもんの足にすがり付いて泣き喚いた。
その静香に向かってドラえもんは容赦なく空気砲を向ける。
「しずちゃん! 駄目だ!
いくらすがりついた所で今のドラえもんは容赦はしない」
のび太は立ち上がって叫んだ。ジャイアン、スネ夫も立ち上がった。
「のび太……僕が未来の世界に帰った後に
優秀な人間になったお前が心底憎い!
だからお前の大事な者を奪ってやる! 空気砲!」
「のび太さん……わた……私……し……死ぬの……?」
静香の胸は空気砲で貫かれた。ドラえもんはさらに空気砲をのび太に向ける。
「しずちゃん! ええいっ! 俺は現役の日本チャンピオンだ!
俺は日本最強の男だ! 空気砲で俺の胸が貫けるか!」
のび太は静香を失くした怒りが抑えられず、なりふり構わず激昂した。
それを見ていた出木杉はついに椅子から立ち上がった。そして
素早くのび太とドラえもんの間に割って入った。代わりにドラえもんは
出木杉に空気砲が向けられる。それでも出木杉はまったく動じなかった。
「ドラえもん、これ以上人が死んじゃうのはまずくないかい?
もう6人も人が死んでいる。バトルロワイアルに支障が出るよ」
出木杉は冷静に言った。
「それもそうだな。バトルロワイアルでのび太を苦しめるのが目的だから
ここで死んでほしくない。思いっきり苦しませてからだ……。
のび太、割って入った出木杉の機転に感謝するんだな。
出木杉がいなかったら、ここで死んでいたぞ」
ドラえもんが言い放つ。その後、
残り34名のトレーナーはドラえもんからデイバッグを受け取り、
小学校を出て行った。そして30分後、
悪夢のような地獄のバトルロワイアルが開始された――。
――残り34名――
投下終了です。
505 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/22(月) 19:20:48.04 ID:DQsYWpgRO
テンポいいな。てかいきなり静香が消えるとか思い切ってるなあ
506 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/23(火) 00:24:48.17 ID:zZwttXmGO
乙。どうせならその30分の34人の過ごし方とか見たい
作戦練る奴とか別れの会話をする奴とか死んだ6人のこととかそれぞれの心情とか
アダムスと七色の翼の出来に嫉妬
クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶポケットモンスター
ルギアですね分かります
一度にたくさん投下すると連投規制に引っ掛かるので
前編と後編に分けました。それでは投下します。
第三話前編『それぞれのゆく道』
のび太の視点から
夜の小学校はとにかく暗いはずだが、
校庭のあちこちに明かりが灯されていた。
どうやら、ドラえもんの仕掛けらしい。のび太はそう思うことにした。
小学校の校庭で34名のトレーナーはそれぞれ親しいもの同士で
話しあっていた。のび太達4人も当然話し合いをする。
まず口を開いたのは天才の出木杉だった。
「さて、今後の方針だけど、今はそれぞれ別行動をしよう。
僕は一人でこのゲームの脱出方法を考える。
みんなと合流するのはそのあとだ」
出木杉は冷たい口調で言った。それにのび太は反対した。
「出木杉、みんなで脱出方法を考えた方が合理的だ。
いつもそうだけど、出木杉は何でも一人で抱え込む癖があるよ」
出木杉を子供の時から知っているのび太は出木杉の癖を良く知っている。
(今の出木杉は何か秘密を隠しているんじゃ……)
のび太はそう思った。途端に出木杉の表情が変わった。
いつも顔色一つ変えないのに今の出木杉は明らかに動揺している。
「ぼ、僕はドラえもんがああなった原因を知っている……。
10数年前、ドラえもんがのび太君を見限って未来の世界に帰る直前に僕は
ドラえもんと話をしたんだ。そして言ったんだ……ドラえもんに。
『落ちこぼれなのはのび太君じゃない、ドラえもん、君だ。
君はのび太君を甘やかし過ぎた。
君がいなくなればのび太君は優秀な人間になる』と……。
ドラえもんが帰った後にも話をした。どうやらドラえもんは
のび太君をまともにさせることに失敗した噂が広まり、
風評被害を受けてスクラップにされかけたらしい。
だから全部僕のせいだ。僕が余計なことを言ったばかりに
ドラえもんは逆恨みをしてこんなゲームを開いたんだ」
出木杉は震える声で信じられない衝撃の秘密を喋った。
のび太、スネ夫、ジャイアンはこの言葉に驚愕した。
「だから君達とは今は一緒にいられない。
再会するときはこのゲームの脱出する方法を見つけた時だ。
じゃあね」
のび太達は出木杉の悲壮な覚悟に何も話しかけられなかった。
そして出木杉は校庭から足早に去っていった。
「のび太、スネ夫! こうなったら、俺たちも別行動をしよう。
後で合流だ」
ジャイアンは強がりながら言った。
その言葉にのびとスネ夫も仕方なく従った。
カミツレ視点
校庭で4人の女ジムリーダーが交流を深めていた。30分後に
恐ろしいゲームが始まるというのに。
黄色い髪にヘッドホンを付けていて、スレンダーなカミツレは
交流と名ばかりの策略をねっていた。
カミツレに好感を持ったジムリーダーは髪が長くお嬢様のエリカ、
三つ編みツインテールのスズナ、そしてホウエン地方出身のアスナ。
(この三人を上手く利用して優勝できないかしら?)
カミツレは三人に見られないように邪悪な笑みを浮かべた。
カミツレはこのゲームに乗ることをとっくに決めていた。
なぜなら優勝したら何でも願いを叶えてくれるらしいからだ。
いつまでもジムリーダーのままでいたくない。カミツレは出世を望んでいた。
(四天王に……いや、チャンピオンになりたいわ)
頭の中でチャンピオンになっている自分を思い浮かべていると
気持がよくなるのであった。さて、この三人を上手く利用するには
三人の信用を得ることが先決だ。そのためには甘言、つまり甘い言葉で誘う。
「エリカ、スズナ、アスナ、良く聞いて、
私は一人でも多くの人をこのゲームから脱出させたいのよ。
そのための秘策が既にあるわ。どう? 私に付いてくる?」
くそすれ
もちろん嘘だ。だが、彼女達は今の状況に不安を抱いている。
だから効果てきめんのはずだ。
「さすがカミツレさん。私、カミツレさんに付いて行くわ」
真っ先にカミツレに付いてくる意志を示したのはエリカ。
「私も付いていく。カミツレさんクールだし、安心できそう」
「私も付いて行くわ」
そのあとにスズナとアスナも続いた。
(まったく、単純な子たちね。
よくそれでジムリーダーが務まるわね。
まあいいわ。その方が操りやすいしいいかも)
こうして女ジムリーダー四人は校庭から早々と立ち去って行った。
投下終了です。
後編は明日か明後日に投下します。
関係ない話だけど、
ポケモンと遊戯王カード両方趣味にしている人が多い気がする。
俺は昨日、遊戯王引退してトリシューラとか強欲で謙虚な壺とか
ほとんどのカードを売ってしまいました。
518 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/24(水) 12:41:11.84 ID:RmBo4+yLO
女達単純すぎワロタww
519 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/24(水) 12:55:51.43 ID:bUR8emFP0
ポケモン>>遊戯王だな
さすがカミツレさん!!悪いところも素敵です!!
ポケモンと遊戯王って流行った時期が重なってるからかね
全盛期にやってた層が今の大学生ぐらいか
521 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/24(水) 20:15:02.78 ID:yENHFiFF0
激しく
乙乙乙!
第三話『それぞれのゆく道』後編と第四話『優勝候補』を
これから投下します。
第三話『それぞれのゆく道』後編
30分近くになってどんどんトレーナーが校庭からいなくなってきた。
しかし、黄色い髪をした背がとても高い男、クロツグがまだいた。
恐怖のバトルロワイアルがもうすぐ始まるのに微動だにしない。
それもそのはず、クロツグはあらかじめ、
このバトルロワイアルが始まるのを知っていた。
つまり、ドラえもんの用意したトレーナーの一人である。
クロツグは携帯電話でドラえもんからの指令を待っていた。
ドラえもんからの着信があったのはクロツグ以外の全員がいなくなった後だった。
内容は『クロツグ、野比のび太の後を追え、そしてバトルに勝利するのだ。
野比のび太に勝利した後は好きにしていい。
なんならお前が優勝しても良いぞ』だった。
「ドラえもん様は野比のび太という青年に恨みをお持ちらしい」
クロツグはなぜのび太という青年に
ドラえもんが恨みを持っているのかが分からなかった。
(まあいい。自分は命令通りに動けばそれでいい)
クロツグは思った。地獄のバトルロワイアルに
クロツグはなぜか不思議と高揚感を覚えていた。
「俺がドラえもん様に渡されたポケモンはカイリュー。
もっとも得意とするポケモンだ」
クロツグの心が躍った。
同じカイリューの使い手であるカントー地方のワタルがいる。
だが、クロツグは自分の方がポケモントレーナーとして上だと自負している。
(ワタルともバトルしたい。それに我が宿敵、シロナ。
どちらがシンオウ最強か、思い知らせてやらなければな。
しかし、先にのび太とバトルすることが先だ。
ドラえもん様の命令には逆らえないからな)
クロツグは同じシンオウ地方出身のシロナをライバル視していた。
そしてクロツグはモンスターボールを投げ、
頑丈そうな羽が生え、巨大な体躯を持つドラゴンポケモン、
カイリューの背に乗り、大空へと消えていった。
クロツグが大空へと消えるわずか前の5分の間に
黒服で中年の男、サカキは一人の緑色の髪をしている少年ミツルを巧みな話術で
洗脳をしていた。ロケット団のボスであるサカキは話術に長けている。
ちょっとした会話で人間を自分の思う通りに洗脳出来ることがサカキの強みだ。
「ミツル君。みんなに苛められていたことを思い出しなさい。
君はいつも落ちこぼれトレーナーと罵られ、嘲笑れていた。
君をゴミのように踏みつけて苛めていたトレーナーの顔を思い出しなさい。
私以外の全てのトレーナーは君を心の中で蔑んでいる。だが、私は違う!
君に秘められている大いなる才能を見抜いている。
何かのきっかけさえあれば君は大成する。
私が保証しよう。ただし私の言うことを聞けばだが」
普通、こんな会話で洗脳される人間はいないだろうが、
サカキが言うと違ってくる。サカキの言葉は常人と比べて重みが違うらしい。
「初めてだよ。僕に才能があるなんて言ってくれたのは……。
僕、サカキさんについていくよ」
ミツルは簡単にサカキに従う姿勢を見せた。
(単純すぎる。この少年はよく今まで生きてこれたな……)
サカキは心の中で苦笑した。
しかし、残りの全トレーナーを洗脳することが出来るかもしれないとは思ってなかった。
洗脳出来るのは心の弱い者だけだ。
意志の強そうなアデクとかダイゴとかシロナなど、チャンピオン達は無理だろう。
サカキの能力にも限界があった。
(そういえば、死んだ6人は洗脳しやすそうだったな。
残念だ、私の手駒に出来たのに。ドラえもんとかいう青だぬきめ!
余計な事をしてくれた! だが、洗脳したい人間はいる。それは
ドラえもんとのび太という青年に割って入る程の勇気のある青年、出木杉だ。
あの青年を見る限り有能そうな人材だ。私の右腕に何としてでも欲しい)
サカキはあの教室で出木杉の能力を見抜いた。
人が有能か無能かを見分ける能力もサカキには備わっている。
「さあ出発しよう、ミツル君」
ミツルを従えてサカキは出発した。
第四話『優勝候補』
ベテラントレーナーのタイガは小学校の裏にある
ドラえもんが設置した本部で、主であるドラえもんを待っていた。
本部は地味で簡素な造りで中にはドラえもんが座る椅子と机、
それにモニターとコンピュータが設置されているだけだった。
クロツグ同様、タイガはあらかじめドラえもんに用意されたトレーナーだ。
しかし、クロツグとは違い、40名の中に含まれていない。
ドラえもんからの命令次第でバトルロワイアルに参戦する。
「早く、ドラえもん様がこないかな」
タイガがそう口ずさんでいると、ピンク色のドアが突然出現し、
ドアが開く、そしてタイガが待っていたドラえもんが現れる。
(何でもありだな。ドラえもん様は神か何かか?)
タイガはドラえもんの凄さを改めて思い知らされた。
「タイガ、待たせたな。もう出発してもいいぞ?
それとも、もう少し話でもするか? ベテランのお前に聞きたいこともあるしな。
お前に問う。優勝候補は誰だ?」
ドラえもんはタイガに質問した。
「そうですね……やはり本命はアデク、シロナ、ダイゴなどのチャンピオン勢。
その対抗馬にクロツグ、レッド、ワタル、リラ、
そしてドラえもん様が一目置く出木杉という青年でしょうね。
大穴を狙うならデンジ、レンブなどです」
タイガは冷静に分析した。
「さすが、タイガ……冷静な分析だな。僕は本命のダイゴに賭けることにする。
タイガ、僕の立場だったらお前は誰に賭ける?」
ドラえもんはダイゴに賭けると言いだした。
「俺っスか? 俺は大穴狙いなんでデンジに賭けます。
意外とチャンピオンクラスのトレーナーは序盤に消えるかもしれないので
ダイゴはやめておきます」
賭けるものがないのにこの二人は誰が優勝するか言い合っていた。
「タイガ、お前はやはりゲームが盛り上がる終盤に投入しよう。
お前が優勝してもいいぞ」
ニヤニヤしながらドラえもんはタイガに言った。
「同じ言葉をクロツグにも言ったようですね」
「よく気づいたな」
タイガとドラえもんはそんなたわいない話をしながら、モニターを見ていた。
投下終了です。
チャンピオンや四天王に対抗するために
サカキに巧みな話術による洗脳という能力を付けました。
530 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/25(木) 19:48:24.67 ID:Bptg54P50
>>529 乙!!
まあサカキ様なら洗脳しててもおかしくないな
続き楽しみにしてるわ
531 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/25(木) 19:49:31.15 ID:T+McCWSMO
乙
次いつー?
アダムス氏乙です。ミツルやっぱ敵サイドかー
それでは自分も投下します
緑色の芝生を踏み荒らす存在が二匹。出木杉のガーディと、青年のエルレイドである。
ゲームの知識により、出木杉は相手の方が上の能力であることを知っていた。
だが、ポケモンの能力とて勝敗を分かつ絶対条件ではない。出木杉にはもちろん勝算があった。
(僕は天才だ。ポケモンは向こうの方が強くても、トレーナーは僕の方が上だ!)
これまで自分に不可能はなかった。勝負事に関しても、彼は一度として負けたことがない。
得体の知れない人物が相手ということに不安要素はあるが、彼には負ける気がしなかった。
それが慢心と知らずに。
「ガーディ、睨み付ける」
相手の様子を窺うという意図で、出木杉はあえて攻撃技を避ける。技の効果によりエルレイドの防御力は下がるが、その程度のことに動じる相手ではなかった。
「影分身……」
相手もまた彼と同じ小手調べの段階なのか、それ相応の指示を送る。
総数十体もの分身が、ガーディの周囲を囲う。
「ふっ、ガーディ、かぎ分ける!」
かぎ分ける。それは相手の回避率を無視して技が命中するようにする技だ。ガーディは持ち前の嗅覚で分身の中からたった一体の本物を特定する。
すかさず出木杉は命令した。
「火炎車!」
炎を纏ったガーディによる体当たりを受け、白いポケモンは宙へと撥ね飛ばされる。が、そのまま宙返りし、こともなげに着地してみせた。
赤紫色の髪の青年が唇を吊り上げる。
「切り裂く」
一瞬で間合いを詰め、緑色の刃で攻撃を仕掛けてくる。ガーディは即座に左へ逃れ、ダメージをかすり傷程度に留めておく。
「迎え打て!」
再び火炎車を使い、反撃に出る。
敵も退かず、両腕の刃で打撃戦に応じる。
ガーディの頭がエルレイドの額を突き、エルレイドの刃がガーディの皮を掠る。その度に響く苛烈な衝突音は、周辺の野生動物を一気に退去させた。
「凄い……」
静香が感嘆げに呟く。初めて目にするポケモントレーナー同士によるポケモンバトルから、これまで見てきた野生ポケモンとの戦闘にはない魅力を感じたのだろう。
出木杉自身、この胸に沸き上がる高揚を抑えきれていなかった。
……だが、だからこそ悔しい。
二匹の技が衝突した瞬間、二匹の体は互いに距離を取る。
表情一つ変えずに構え直す敵のエルレイドとは対照的に、出木杉のガーディは息絶え絶えだ。
傍目には互角を演じているように見えようが、当人からしてみればその逆だった。
「……何故、真面目に戦わない!?」
怒気の混じった強い口調で出木杉は問うた。
余裕に満ちた表情や緊迫感を感じない戦いに、彼は敵が真面目に、本気で戦っていないことに気づいていた。
敵は至って冷静な調子で答える。
「戦闘を長引かせる為かな? 私とエルレイドが真面目に戦ってしまえば、君の正確な力量を測れないからね」
「なに? それは……」
「君を倒すのは簡単だが、それは私の目的ではないんだよ」
要するに出木杉英才は青年から格下に見られているということだ。
彼の中に苛立ちが募る。
この天才が、随分なめられたものだ。
「本気で戦った方が良いですよ。力量を測っている間にやられてしまいますから」
「ふふ、君がかい?」
「見くびるな…… いけ、ガーディ!」
戦闘は再開し、ガーディが敵のポケモンに飛びかかる。指示を聞くまでもなく、技は火炎車を発動していた。
しかし、その攻撃が敵の白い身体を捉えることはなかった。
「なに!?」
ガーディの視界に敵の姿はない。移動の形跡すら残さず、その背後に仁王立ちしていたのだ。
慌てて地を蹴り、ガーディは距離を取る。出木杉は激しく動揺した。
(み、見えなかった…… 僕の目にはエルレイドの動きが、見えなかった……)
あと寸秒で火炎車が直撃する、瞬間までははっきりとこの目で追えていた。しかし、気づいた頃にはエルレイドの姿はガーディの背後にあったのだ。
「驚くことはないよ。今のはテレポート、移動が見えなかったのは当然だよ」
「……っ! そうか」
「知識はあるようだけど実戦経験が大分不足しているね。正直言わせてもらうと、その程度の実力ではとても私の相手にはなれない」
「くっ……」
テレポートという技の存在は知っていたが、それをバトルに応用出来ることまでは知らなかった。おっしゃる通り実戦不足の弊害だ。だが、人に言われると一層腹が立つ。
熱くなりすぎた心を冷やしながら、出木杉は空のモンスターボールを取り出す。
「……戻れ、ガーディ」
まだ体力的に戦闘が可能である筈のガーディを、惜しみなくボールに戻した。静香は驚き、青年もまた意外そうな顔をする。
「出木杉さん!」
「おや、もう諦めたのかい?」
敵の実力を見誤っていた。静香の手前、浅はかに勝てると意気込んでいた自分を出木杉は愚かしく思う。
だが、勝負を捨てたわけではない。
目付きは鋭く尖り、ツバサに優男みたいな奴と言われたその顔が男らしく引き締まる。
「戦う者の目になったね。君も今まで真面目に戦っていなかったんじゃないのかい?」
「そうかもしれませんね。僕も自惚れていました」
「ここから見せるのが君の本当の実力……期待させてもらうよ」
「ええ…… いけ、ギャラドス!」
新たに繰り出されたモンスターボールから現れたのは、青色の巨竜。その体格は進化したての頃よりも一回り大きく、身体中から放つ威圧感も増大している。
出木杉がガーディを戻したのは、ガーディではエルレイドに勝てないと判断したに過ぎない。
先鋒の役目は終了した。ここからは大将の役目だ。
「ポケモンの少ないこの世界でよくそこまで育て上げた。君は天才だよ。その才能は私を遥かに凌駕しているだろう……」
ギャラドスを見上げる青年の顔は笑っていた。まるで出木杉が勝利する確率は一パーセントも無いと言わんばかりに。
腹立たしいが、出木杉には勝敗とは別に自分が育てた最高のポケモンが、彼にどこまで通用するのか試してみたい気持ちがあった。
「では見せてあげますよ。貴方を凌駕するこの僕の才能を!」
出木杉の中でかつてないほどのアドレナリンが分泌されている。
これがポケモンバトル!
この気持ちは戦う者にしか判らない。ゲームとは比較にならない楽しさだ。
「ギャラドス、竜の怒り!」
第二ラウンド。出木杉の真価が発揮される。
――戦闘は数分で終了した。
健闘したと言えば健闘したと言えよう。
だが、結局青年のエルレイドを瀕死に追い込むのは叶わなかった。
「静香ちゃん、ゴメン。相手の方が数段上を行っていたみたいだ」
「出木杉さん……」
敵のエルレイドにもいくつかの傷が見えるが、出木杉のギャラドスはそれ以上だ。あと一発でも攻撃を受ければ、その意識は吹き飛んでしまうだろう。
「他にポケモンは居ないのかな?」
「居ますけど、捕まえたての野生ポケモン……まともに言うことを聞いてくれませんよ」
「そうか、なら私の勝ちで良いんだね」
勝機は完全に無くなった。ギャラドスにとどめを刺すだけで、青年の完全勝利が決定する。しかし、出木杉は何故か悔しさを感じなかった。
やるだけやって負けた、ということに清々しさすら覚えている。
「どうします? 何故か知りませんが、僕達は貴方の邪魔なんでしょう。なら、殺してみますか?」
「いずれはそうするつもりだけど、今はまだ時ではないのでね。君も、もちろんそこに居る彼女も生かしておくよ」
『マスターに感謝しなさい』
今はまだという言葉は気になるが、命まで奪おうという気はないらしい。自分はともかく、静香の身の安全が判っただけで出木杉は安堵の息をついた。
「今日は君の実力を測りに来ただけだから勝ち負けはどうでもいいんだけど、決まりがつかないからね。ギャラドスの意識は貰っていくよ」
言って、エルレイドに攻撃の指示を送る。
エルレイドは右腕の刃を展開し、狙いを青色の巨竜に定める。そして駆け足で接近していく最中、突如横合いから現れた緑色の何かによって突き飛ばされた。
バランスを立て直し、エルレイドはその何かに目を移す。
長い首を持ち、スタイリッシュな細身の身体は緑色。両腕に付いている葉のような刃は、エルレイドの両腕にも似つく。
森トカゲポケモン、ジュプトル。それが、エルレイドを突き飛ばしたものの正体だった。
遅れて、オレンジ色のTシャツを着た大柄な少年が参上する。
「面白そうなことやってるじゃねぇか、出木杉よぉ」
「た、武君」
「武さん!」
剛田武、この場に呼ぶ者は居ないが、基本的にはジャイアンと呼ばれている。戦いに集中していた為出木杉は忘れていたが、彼とここには居ないスネ夫も、この大草原を訪れていたのだ。
「アイツか、この間お前が言ってたのは」
「うん……でも、彼は強い。僕達が勝てる相手じゃ……」
「ジャイアン様をなめんなよ。俺は天下無敵だ」
見計らっていたかのように絶妙なタイミングで現れた彼は、出木杉が敵わなかった赤紫色の髪の青年の姿を睨み付ける。その顔は自信満々だ。
(まさか……戦う気じゃ!?)
戦う気ならばやめておいた方が賢明だ。
この天才出木杉でも勝てなかった相手だ。君のような脳筋ゴリラでは一瞬で片付けられてしまう!と、言おうとした頃には彼は既に青年と対峙していた。
「君と会うのは初めてだね。名前は確か……」
『ジャイアンです。素手でキモリと戦っておりました』
「ふっ、それはそれは……」
浅緑色の妖精を撫でながら、何やら青年が呟いている。出木杉から彼の話は聞いていたが、ジャイアンが想像していたよりもずっと紳士的で、綺麗な顔をしている。
この手の男にはろくな奴が居ない、という偏見めいたものが彼の中にはあるが、今はそれが功を成していると言えるだろう。
「次は俺様が相手だ。勝負しろ!」
「威勢が良いね。彼よりは劣っているだろうけど、期待しているよ」
「へっ…… なめんな!」
軽いステップで大きく飛び上がり、ジュプトルはエルレイドに向かって猛進する。トレーナーの主義か、使用する技のほとんどが物理攻撃だった。
「電光石火!」
これまでの戦闘によってキモリからの進化を果たしているジュプトルは、攻撃力はもちろんスピードも上がっている。
物凄い速さで間合いを詰め、腕の刃で打撃を与えるジュプトル。
「思い知ったか。……なに!?」
直撃を受けた筈のエルレイドは、余裕綽々の表情を浮かべていた。
「ふっ……エルレイド、念力」
至近距離で敵に睨まれたジュプトルは、反撃によって吹っ飛ばされる。
ダメージは軽微。人をおちょくっているような弱い技だ。
「さあ、次の攻撃をどうぞ」
「この野郎……!」
言われるまでもなく、ジャイアンは攻撃の指示を送る。
叩く、吸い取る、電光石火、連続斬り、追い打ち――覚えている全ての技を仕掛けたが、ダメージらしいダメージは与えられなかった。
ジャイアンの顔が青ざめる。
「まだまだレベルが不足しているね。数値化すれば、そのジュプトルのレベルは20前後が良いところか」
「チッ」
「私のエルレイドのレベルは……38。君達が敵わないのは当然だよ」
戦闘経験に加え、圧倒的なレベルの差。ジャイアンにも出木杉にも、この戦いに勝てる要因は何も無かったのだ。
ジャイアンは既に戦意を失っていた。
「……さて、そろそろこのゲームも終わりだね」
愕然と佇むジャイアンとジュプトルを見据え、赤紫色の髪の青年は口を開く。それは彼がようやく発した「真面目な」攻撃の指示だった。
「エルレイド、炎のパンチ」
ドスンッという重く大きい衝撃音が響く。
前を見れば炎に覆われたエルレイドの拳が、ジュプトルの腹部にのめり込んでた。
既にジュプトルの目は白目を剥いている。
決着はたった一撃でついた。
「すまねぇ……」
全ては負ける戦いに駆り立ててしまったトレーナーの責任だ。青年には聞き取れない声で、ジャイアンはジュプトルに吐いた。
ジュプトルの瀕死を確認した青年はエルレイドを手元に呼び寄せ、出木杉と静香の居る方に顔を向ける。
「ただのトレーナーかと思ったら、君も中々の才能を持っているね」
一方的な戦いを演じていた割には、こちらの実力も賞賛する。一体彼は何をしたいのか、出木杉には理解しかねた。
「その分なら計画の邪魔になるどころか、計画の為に利用出来るかもしれない……」
青年の片手がエルレイドの肩を掴む。初めて会った時と同じように、テレポートでこの場から立ち去る気だ。出木杉にはすぐに判った。
「待て!」
彼は呼び止める。戦いには負けたが、何かを得たい。そう思ったからこそ、彼には訊きたいことがあった。
「貴方の目的は何なのですか? ……貴方は何故、この世界に居る!?」
「後の質問は話せば長くなるので答えられないよ。私の目的か……そうだね」
青年は出木杉、静香、ジャイアンの順に彼らの顔を見やり、一周して出木杉と向かい合う。
頬を緩め、意味深な口調で言った。
「……楽園の創造、かな」
「なに?」
「そう、楽園の創造だ。この世界に全ての野生ポケモンを移住させ、人の干渉を受けない、全ての野生ポケモンに永遠の幸福を約束する楽園……それを創造することが私の目的」
柔らかな手つきでセレビィの頬を擦りながら、彼は淡々と話した。
三人は絶句する。
そんな目的が達成されるとすれば、この世界は次元と共に崩壊してしまう。彼はポケモンの存在がこの世界に与える影響を知らないのか?
思い出したように、青年は言葉を繋げた。
「そうだ、あのおチビさんに伝えておいてくれないかな。そろそろ空間の神がお怒りになられるって」
「空間の神……?」
「これだけ次元空間が歪めば、神はきっと姿を現すだろう。その時こそが楽園誕生の瞬間……ふふっ、私は楽しみだ」
そう言い残し、青年は姿を消す。
ジャイアンはもちろん、静香にも最後の言葉の意味は判らなかっただろう。
しかしたった一人、出木杉だけは判った。彼の目的の根本、それを果たす為の手段が。
そして、それらが人類滅亡にまで関わる恐ろしい計画であることを、出木杉は理解した。
ツバサには早急に知らせなければならない。
彼の計画は何としてでも阻止しなければ!
投下終了
青年の名前はもうしばらく明かしません
乙。出木杉が傲慢かつ毒舌だなwww
スネ夫は何してたんだろ
のび太と七色の翼氏乙!
それでは投下します。
第五話『僅かな希望と新たな出会い』
バトルロワイアルの舞台はのび太の町全域に似せたパラレルワールド。
ただし、人は34名しかいない。
広大なフィールドで殺し合いが繰り広げられる。
のび太は30分後、学校の校庭から急いで身を隠せそうな場所に避難した。
避難した場所は学校の裏山だ。裏山なら他のトレーナーから見つからなそうだ。
のび太は頭をフル回転して思考を巡らせていた。
このゲームに乗っている人物は何人いるんだろう?
少なくともジャイアン、出木杉、スネ夫は乗らないであろう。
のび太はあることを思い出していた。
のび太の隣に座っていたカミツレのことである。
(カミツレはドラえもんがこのゲームの勝者に
何でも願いを叶えると言った瞬間に笑みを浮かべていた。
確かに浮かべていたと思う。それにカミツレだけじゃない、
他にも目の色を変えていた者がいたはず)
やはりこのゲームに乗ったトレーナーは少なくとも10人はいるはずだ。
いや、場合によってはそれ以上の人数かもしれない。
のび太はその思考力で常に最悪の事態も考えるように普段から心がけている。
出木杉にはやや劣るが、
ドラえもんが未来に帰ってから成長したのび太は知略にも長けている。
「希望が全くないわけじゃない。
上手く出木杉と合流できれば、
このゲームからの脱出を試みることができるかもしれない」
それに既に出木杉はこのゲームからの脱出方法を考えているかもしれない。
のび太は思った。そうだ、天才の出木杉がいれば怖いものなど何もない。
それほどまでに出木杉はのび太の心の支えになっていた。
この地獄のようなバトルロワイアルも
出木杉ならなんとかしてもらえるかもしれない。
さっきだって出木杉に助けてもらえたじゃないか、
のび太はそう思う内に安心感を得ることができた。
(そうだ出木杉さえいれば怖いものなしだ)
しかも今は夜、夜に裏山で身を隠すなんて考えるのは自分だけだろう。
のび太は安心して来ていた。ここで誰かと遭遇するなどあるはずがない。
そう思った矢先だった、のび太が木陰で休んでいると
山道に4人の女達が現れた。何やら話し声が聞こえている。
突如、山道は明りに照らされた。
どうやら電気タイプのポケモンを使って明るくしているらしい。
これは厄介だ。もしも自分の居場所がしれたら……。
(ええい、見つかるならこちらから姿を現してやる)
のび太は覚悟を決め、4人の女達の前に躍り出た。
その4人は髪の長いお嬢様風のエリカ、三つ編みのツインテールのスズナ、
赤い髪のアスナ、そして何とカミツレだった。
カミツレは電気タイプのエモンガの身体を発電させて山道を明るく保っていた。
「エリカ、スズナ、アスナ! 何でカミツレなんかと一緒にいるんだ。
カミツレはこのゲームに乗っている可能性が高い」
のび太は三人にカミツレの危険性を説明した。しかし返答は
「ばっかじゃない、カミツレさんがそんな人間なわけないわ」
「そうそうカミツレさんは私達女ジムリの憧れだわ。
で、何で私達の名前を知っているの? 超きもいんだけど」
「このおじさん超気持ち悪い。ナルシストっぽいし、
毎日自分の姿を鏡で確認してそう……」
ひどい言われようである。まだ20代なのにおじさん呼ばわり。
しかもナルシストだと?怒りたい気分を必死で抑えるのび太。
「まあまあみんな落ち着いて、
この人はバトルロワイアルに巻き込まれて疑心暗鬼に陥っているだけよ。
私は一人でも多くの人をこのゲームから脱出させたいのよ。
みんなは先に行ってて、私はこの人と少し話すわ」
カミツレはそういうと、エリカ、スズナ、
アスナはそれに従って先に山道を上り始めた。
三人の姿が見えなくなるとカミツレの表情が変わった。
「なぜ私がこのゲームに乗っていることがわかったの?」
「ドラえもんがゲームの勝者に何でも願いを叶えてやると言った途端、
お前は軽く笑みを浮かべた。それだけだ」
のび太はカミツレに負けないように冷静に言葉を返した。
「かなりの洞察力ね。
心の内が見えないように常にとりすました顔をしていたのに
ボロが出てしまったようね。そうよ。
私は何でも願いを叶えてやるとドラえもんが言った瞬間、
様々な欲望が頭の中を廻ったの。
優勝すればイッシュ地方チャンピオンにだって、いや、
世界の王にだってなれるわ」
カミツレは欲望を露わにした。
「そうだわ。ポケモンバトルをしましょ」
カミツレは言葉を続けた。のび太にポケモンバトルを仕掛ける気だ。
「駄目だ! ポケモンバトルをしたらどちらかは死ぬことになるぞ」
「あら、ごつい身体をしているのに胆が小さいわね。
ならあなたを直接攻撃するわ。エモンガ、電気ショック!」
エモンガは電流を発し、のび太に向けて放った。
電撃がのび太を襲う。
「ぐああっ! なんて威力だ!」
のび太の身体は電撃を受けて、簡単に地に伏した。
(このままじゃ、死んでしまう)
「早くポケモンを出しなさいよ。このままでは死ぬわよ?」
のび太はかなりのダメージを受けた。だが、ポケモンは出さない。
このゲームにはけっして乗りたくなかった。
「馬鹿な男ね! これで終わりよ! エモンガ、電気ショック!」
再び、人間にとっては凄まじい電撃がのび太を襲った。
しかし、その電撃は別のなにかが受けて、のび太は命拾いした。
その何かとは別のポケモンだった。
青い体色に頑丈そうな身体で道着を着たポケモン、ダゲキだ。
「誰なの!?」
カミツレは動揺した。
ダゲキと共に現れたのは褐色の肌に道着を着たイッシュ地方四天王のレンブだ。
レンブはのび太と同等の鋼のような肉体の持ち主だった。
「我は格闘のレンブ!
格闘で最強を目指す者なり! ダゲキ、ストーエッジ!」
レンブはそう言うなり、ダゲキにストーンエッジを命じた。
尖った岩が空中に出現し、エモンガの背中に突き刺さろうとするが、
「エモンガ! それをくらったら終わりよ!
絶対に避けなさいよ!」
間一髪、エモンガはぎりぎりでかわした。岩は空しくその場に落ちた。
「お主、ジムリーダーのカミツレだな……。
このゲームに乗ったと見える。なぜだ?」
「ドラえもんとかいう青だぬきが、
優勝したら何でも願いを叶えてやると言っていたじゃない」
「そうか。欲に目がくらんだか。許せぬ!
このまま我とポケモンバトルをするか?
それとも今なら特別に見逃しても良いぞ?」
レンブに欲に目がくらんだカミツレに見逃してやろうと言った。
「そうね。序盤で四天王を相手にするのはさすがにきついわね。
ここは引くとするわ。じゃあね、レンブ、
今度会うときは容赦はしないわよ」
それだけ言うとカミツレは去っていった。
投下終了です。
次回は『最強対最強! 夜中の頂上決戦』
乙の舞
556 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/28(日) 11:20:46.24 ID:WMTSrg1ZO
乙
女共が毒舌過ぎてのび太に同情した
投下します。
第六話『最強対最強! 夜中の頂上決戦』
夜、漆黒の闇がのび太の街全体を覆う。
それは文明が進んだ現代でも何ら変わらない。
しかし街灯などによって市街地では明かりが灯る。
夜の空き地に出木杉はいた。
堂々と空き地に積み上げられた土管に座って腕組みをしている。
どうすればこのゲームから脱出出来るか考えているのだ。
(僕達の身体に特殊なナノカプセルが入っていて、
ポケモンバトルに敗れると開いて死に至るのか……。
特殊なナノカプセルがどうやってポケモンバトルに敗れたものを感知出来るのかだ
やはり、電波か? そうなるとコンピュータか何かで読みとるのか?)
分からないことだらけだ。
ポケモンバトルを仕掛けられて拒否した場合はどうなるのかだけは
ルールブックに書いてあった。拒否し続けるとどうやら死に至るらしい。
出木杉程の有能な人間でも脱出方法を見つけるのは容易ではない。
そうこうするうちにかなりの時がたってしまった。
時計で確認したら夜の10時を回っていた。
そんな夜中に一人のマントをはおった男が出木杉の目の前に現れた。
「僕はツワブキダイゴ、ホウエン地方チャンピオンだ!
出木杉だな。あの教室でお前を見たとき、かなりのトレーナーだと思った。
殺し合いとかは別に純粋にポケモンバトルを願いたい! ゆけっ、メタグロス!」
ダイゴは四本の足に顔に十字の模様、スーパーコンピュータ以上の知能を持つ、
鋼、エスパータイプのメタグロス。
ダイゴははおっていたマントを脱ぎ、ポケモンバトルの態勢に入った。
殺気を帯びた目を出木杉に向ける。
「僕は出木杉英才。ダイゴさん、ポケモンバトルをするとどちらかは死ぬことになる。
それを承知でポケモンバトルを挑むということはこのゲームに乗ったな。
僕はこんな所で死ぬわけにはいかない。僕には守りたい者が三人もいる。
しょうがない、ポケモンバトルをしよう。いくんだ、ガブリアス!」
青色の体色の地面、ドラゴンタイプのガブリアスが、
出木杉が投げたモンスターボールから飛び出す。
「ガブリアス、地震だ!」
「メタグロス、電磁ふゆうだ!」
途端にメタグロスの体が宙に浮いた。信じられない。
ガブリアスの方が素早さで上回っているのに……。
(ゲームの世界じゃない、これが現実か……)
「馬鹿め! 弱点である地面タイプの技は電磁ふゆうで全て無効化される」
ダイゴはしてやったりという表情をした。
ダイゴのメタグロスはガブリアスの攻撃が届かないように空高くふゆうする。
メタグロスは完全に制空権を支配した。
「もうこの勝負はついたも同然だな。出木杉英才!
メタグロス、サイコキネシスで土管を持ちあげてガブリアスに落とせ!」
ダイゴの命令で、空き地の土管の一つが宙に浮き、ガブリアスの上から落とした、
土管がガブリアスにヒットし、ガブリアスはかなりのダメージを負ってしまった。
「ダイゴ、君のポケモントレーナーとしての資質がしれたよ。
こんな程度で優勝を目指すなんてね」
出木杉はガブリアスがピンチの時だっていうのに冷静にダイゴに語りかけた。
「何を強がりを! 俺はホウエン最強のトレーナー、
いや、世界最強のトレーナーだ。とどめだ! 最大最強!
究極奥儀、コメットパンチ!」
メタグロスは彗星のごとく激しいパンチをガブリアスに浴びせた。
だが、ガブリアスは倒れなかった。ふんばって堪えた。
「必殺のコメットパンチで倒れないだと!
なんて耐久力だ……もう一度コメットパンチだ!」
しかし、メタグロスは地面に勢いよく落下した。
まだ電磁ふゆうの効果は残っているはずなのに……。
「なぜだ!? まだ電磁ふゆうの効果は残っているはずなのに!」
「君は電磁ふゆうの力を使い過ぎだ。地面タイプの技を避けるのには
少しの力でいいのに、制空権を得たいがために空高くふゆうしてはまずいよ。
勝負あったね。ガブリアス、地震だ!」
地面が大きく揺れる。
地面タイプの技に弱く、落下した衝撃も加え、
メタグロスはこの一撃で戦闘不能になった。
ダイゴの視点
ダイゴはメタグロスの戦闘不能を見て、蒼白な表情をした。
それもそのはず、ポケモンバトルに負けた者は死ぬ――。
このゲームのルールだ。ダイゴは死ぬ間際、
走馬灯のようにたくさんのトレーナーを思い出した。
脳裏によぎるのは背負ったものの重さ――。
(僕はもうすぐ死ぬ……)
ダイゴはとても裕福な家に生まれた。何不自由ない生活。
さらに将来を嘱望されるポケモンバトルの非凡な才能。
ダイゴの父から幼いころより、ポケモンバトルの英才教育を施した。
『ダイゴ、お前を最強のトレーナーにするのが私の役目だ』
ダイゴは父からこの言葉を言われ続けた。
(ホウエン最強のトレーナーになったのに……。
世界は広い……所詮、僕はサル山の大将、井の中の蛙か……)
ダイゴは今、四天王の面々を思い出していた。ゲンジは死んだ。
せめてカゲツは生き残ってほしい。
「出木杉英才、僕の負けだ。僕はじき死ぬ」
「言い残す言葉はないかい?」
「ある! カゲツを頼む!」
ダイゴは土下座して、額を地面に付けた。
その途端にダイゴの呼吸は荒くなる。
「くる……苦しい……カゲツをたの……」
ガクッ!
ダイゴは出木杉の腕の中で息絶えた。
ツワブキダイゴ、パラレルワールドにて散る――。
――残り33人――
投下終了です。
565 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/29(月) 13:00:54.51 ID:cGMl2Vk/0
乙
566 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/29(月) 16:42:18.65 ID:k9XHBifbO
乙。電磁浮遊であまりに高く浮くと効果が短くなるって設定が面白いな
しかし真っ先にダイゴが消えちまうとは
醍醐さん原作の大木っぽいポジションだな
死んだ相手のポケモンは拾えるのだろうか
568 :
名無しさん、君に決めた!:2011/08/30(火) 10:27:38.24 ID:B3kLjLZbO
これ、ガブリアスは回復するの?
>>567 たしかに、これでメタグロスを手に入れないと、相手が減る以外に勝負する出木杉のメリットがないな
負けたら死ぬリスクを負ってバトルするんだし、勝てば周りに差をつけられるシステムじゃね?
>>567、
>>568 全然考えてなかった。作中で説明入れます。
戦闘終了後に勝利したトレーナーのポケモンは全回復確定として
死んだトレーナーのポケモン回収は止めましょう。
一人一体までしかポケモンを所有できないルールにしよう。
そうしないと一回も勝利してないチャンピオンと10連勝して
10体ポケモン手に入れたザコトレーナー(ミツルとか)じゃ
勝負にならないから。説明不足でした。
今後も何か気になったことはご指摘ください。
死んだ相手の持ち物ぐらいは拾えてもいいんじゃないかと
登場すればの話だけど
アダムス氏乙、ドラえもんの予想いきなり外れたか
自分も投下します
時刻は午後五時。
練馬区にある何の変哲もない空き地が、ツバサと出木杉達の待ち合わせ場所だった。
この場所は少年達の遊び場でもある。子供心をくすぐる何かがあるのか、特に理由はないがツバサもこの場所を気に入っていた。
普段はガキ大将の指定席となっている土管の上に、彼女は座っている。
すると、頭の中に報せが届いた。
『来たな』
ホウオウからのテレパシーだ。
顔を上げると、二人の少年と一人の少女が空き地に入ってきた。
「お待たせ」
「時間ぴったりね」
土管の上から飛び降りると、彼らがそのまま近づいてくる。ツバサは彼らの表情に元気がないことに気づいた。
「……どうしたの?」
出木杉や静香はともかく、いつもは馬鹿みたいに騒がしいジャイアンですら浮かない顔をしている。
ただ事ではないことを察し、彼女は問うた。
「実は……」
「その前に、これを」
「ああ、結構捕まえたわね」
出木杉が代表して話そうとした時、静香が遮って手提げの鞄を差し出してきた。
鞄の中には三十個近くのモンスターボールが入っている。全て彼ら三人が捕まえた野生ポケモンだ。
三人?
「そういえば、もう一人の奴はどうしたのよ? 骨なんとかって奴」
忘れかけていたが、大草原に行かせた人数は四人であったことを思い出す。
いつもジャイアンとつるんでいた彼の姿はここになく、何か不吉な予感を感じた。
出木杉が口を開く。
「それを含めて、話をしたい。よく聞いてくれ」
彼の目は真剣そのものだ。とてつもなく重い現実を伝えるような、そんな瞳。
息を呑んで、ツバサは彼の言葉を聞いた。
出木杉は話した。
大草原で捕獲作業をしていた際、以前も出会ったセレビィ使いのトレーナーと遭遇したこと。
自分とジャイアンが彼と戦ったこと。
その戦いに敗れたこと。
戦いが終わった後、彼が話したこと。
ツバサに伝えておくように言われた言葉。
そして、草原中をいくら捜しても、骨川スネ夫の姿がどこにもなかったことを。
出木杉はそれら全てのことを簡潔に、わかりやすく話した。
話している最中は黙って聞いていたツバサであったが、話を終えた瞬間、すぐに口を開いた。
「とりあえずスネ夫って奴は、そいつに拐われた可能性が高いわね」
「やっぱり君もそう思う?」
「私が着いておくべきだった……」
『我々が軽率だったな。しかし、その男の目的が気になる』
「全ての野生ポケモンを移住させて、人の干渉を受けない世界を創る……それって、この世界をポケモンが支配する世界に作り替えるってことでしょ?」
「多分……」
「そんなの不可能よ」
その目的が達成されるとすれば、この世界は確実に崩壊する。
元々ポケモンが存在しない筈の世界を、ポケモンが支配するのだ。次元の法則を徹底的に無視すれば、全てが歪んでしまう。
『だが、空間の神の力を使えば……』
「……そういうことね」
彼女の世界では空間の神と呼ばれている伝説中の伝説のポケモン、パルキア。
パルキアが居る空間は呼吸をするだけで安定すると言われている。
神は次元の狭間に住んでいると伝われているが、確かにこれだけ次元空間が歪めば、いずれ自分の居場所を侵されたことに憤怒し、元となった者の前に姿を現すだろう。
「やっと判ったわ。この辺りだけやけに野生ポケモンが多いわけが」
『全ては奴の仕業だったということか』
空間の神を捕らえ、その力でこの世界を「ポケモンが存在しても歪まない」世界に改変することが、彼の計画だと悟る。
それさえ出来れば、たとえこの世界に何億匹もの野生ポケモンが住み着いても世界は崩壊せずに済む。
しかし、モンスターボールも無いこの世界でそんな事態に陥ろうものなら、この世界は完全にポケモンの支配下となり、居場所を失った人類はそう遠くなく絶滅の刻が来るだろう。
『この街の周辺だけ異常に野生ポケモンが多いのは、奴が意図して次元の歪みを生み出し、我々の世界から呼び込んでいるが故……』
「なんてことを……」
以前もホウオウが言っていたが、事件の黒幕は出木杉の言うセレビィ使いだったというわけだ。しかも、その人物の目的が世界規模に巨大なものと来ている。
出木杉の顔を見ると、おそらく彼もこのことを知っているのだろう。他二人も彼から聞かされていると見える。
……出来ることなら三人を巻き込みたくない。
「…お前達は、これ以上関わらない方が良いわ」
「なにっ!?」
ツバサの予想通り、その言葉に最も強い反応を示したのはジャイアンだった。
「冗談じゃねぇっ! 世界が無くなるかもしれねぇし、あの野郎にスネ夫が拐われたかもしれねぇんだ! 俺はとことん戦うぜ、このジュプトルと!」
取り出した一つのモンスターボールを握り、彼は叫ぶ。
乗じるように、出木杉と静香が続いた。
「あの人は物凄い強さだった。いくら君でも一人じゃ無理だ。僕も行く!」
「私も、私に出来ることは何でもするわ!」
……どうしてコイツらはこうも。
ツバサが深いため息を吐くと、頭にテレパシーが響く。
『どうする?』
「判ってるくせに……」
どうせ、断っても彼らは着いてくるだろう。
おそらく彼が骨川スネ夫を拐った理由はそこにある。
特にポケモンバトルが次元空間に与える影響は凄まじいものだからだ。
「いいわ。でも途中で怪我しても殺されても責任は取らない。私もそんな余裕はないから」
「うん!」
変な気分だ。
一緒に戦っても役に立たないだろうに。
鬱陶しいだけなのに、迷惑に感じない。
ツバサは何故か、胸の内に温かいものを感じた。
「友達……」
「ん? 何か言ったか?」
「な、なんでもないっ!」
「なんか口が笑ってるよ?」
「気のせいよ、そんなの!」
嬉しいだなんて、認めない。認めたくない。
旅を、冒険をすることによって他者との輪が広がっていくことを認めてしまえば、あれだけ親父を、親父の全てを否定してきた自分自身を否定することになる。
私は旅が、冒険が大嫌いだ。
親父が大好きな冒険が大嫌いだ。
それを好きになってしまえば、冒険をして良かったと思ってしまえば、親父を認めることになる。
だから、私は……
『無理をするな』
「何よホウオウまで!」
『ただ、そう言っただけだ』
認めていることと言えば、昔親父と一緒に居たホウオウと、親父が結婚したお母さんのことが大好きなことだけだ。
私は親父を認めない。絶対にっ!
『むっ?』
不意に、ホウオウが何かに気づいたような声を出す。
ツバサが「どうしたの」と尋ねると、ホウオウは普段通り、冷静な口調で言った。
『野比のび太が来る』
「えっ!?」
それは、驚きに値する言葉だった。
十数日ほど前にポケモン世界へ送った野比のび太が、今この世界へ帰ろうとしていると言うのだ。
つまりそれは、その期間だけである程度の修行を済ませてきたということ。
「どうしたの、ツバサさん?」
「のび太が来るって」
「本当っ?」
彼がポケモン世界へ修行しに行っていたことは、彼ら三人と骨川スネ夫も知っている。彼らもツバサと同様の反応を寄越した。
『今歪みを開ける』
「ええ、お願い」
虹色の羽根の力で塞いだ次元の歪み――ここからワカバタウンへと通じる穴を、再びゴールドボールからホウオウの力で開く。
子供一人入るか入らないかの大きさのその穴から、ほどなくして少年の腕が伸びてくる。
「うわっ、なんかグロテスク……」
後ろの出木杉が見たまんまの感想を述べるが、他の者は無視する。ツバサもその様子を集中して眺めていた。
両腕の次は頭が突き出る。それから前転するように、少年の姿が飛び出した。
「あ〜どうもありがとう。最初来た穴が塞がれてたから、どうやって帰ろうかと……」
「のび太さん!」
「のび太!」
ポケモン世界から帰還した少年――野比のび太は頭を掻きながらへらへらと笑う。
彼の名を呼ぶ静香とジャイアンの声を聞いて、彼は不思議そうな顔をした。
「あれ? 静香ちゃんにジャイアン、出木杉君もどうしてここに?」
彼は三人がこの世界でツバサに協力していることを知らない。内二人とスネ夫がポケモントレーナーとなっていることも知らない。
彼からしてみれば何故この時間に彼らがこの場所に集まっているのか、状況を飲み込めないも仕方ないだろう。
「のび太……お前修行はどうしたのよ?」
「うん、レッドさんにもうこの辺で良いって言われて戻ってきたんだ。おっと」
まさか修行をサボってきたのかと疑いの目を向けるツバサだが、彼は当然のようにそう返してきた。
すると彼の懐から黄色い小動物のようなポケモンが飛び出し、彼の肩によじ登っていった。
ウサギのように長い両耳に赤い頬。愛くるしい粒羅な瞳はトレーナーから絶大な人気を誇るネズミポケモン、ピカチュウだった。
「だから重いって! ピチューの時は我慢出来たけど今はもう、く、首が……」
「ちゃんと進化させているところを見ると、真面目に修行していたみたいね」
『レッドに頼んだのか?』
「う、うん。そっちの方が良いって、コトネさんがね」
頭に乗っかっている体重五キロのピカチュウを両手を使って降ろし、のび太は一息つく。
彼の様子を一目見て、ツバサはもちろん出木杉達にも感じるものがあったようだ。
「のび太さん、なんだか顔つきが変わったね」
「そうかな?」
「うん、たくましくなったと言うか……」
「俺ほどじゃないがな。がはは」
相変わらずの間抜け面だが、どこか雰囲気のようなものが別物となっている。それはまだ漠然としているが……
「ありがとう、ツバサちゃん。あっちの世界に行ったおかげで、自分で言うのも何だけど随分強くなったと思う」
「そうね……今のお前なら少しは期待出来るかも」
少しどころではない。
向こうで何があったのか判らないが、この短期間では考えられないほど変化している。
戦ってみなくても判る。ツバサの予想を遥かに上回るレベルアップが。
『レッドの指導が奴に合っていたのか……』
「そうみたいね」
他の三人とは違い、彼は戦力として計算出来る。例のセレビィ使いと戦う為の戦力として。
じきに日が落ちようとしているこの時刻に五人の子供達が屋外に集まっているのは、世間的に良い話ではない。
のび太の計らいにより、ツバサ達五人は彼の自宅へと集まっていた。
彼の父はまだ帰宅していないらしく、母はのび太の帰宅と同時に買い物に出掛け、すれ違いとなる。
現在のび太家は彼ら五人しか居ない状態になっていた。
「そんなことが……」
のび太は出木杉から彼が居ない間にこの世界で起こった出来事を伝えられ、驚きを隠せなかった。
当然、セレビィ使いの目的が人類滅亡につながることも教えられている。一から十まで説明しなければ、彼は理解してくれないからだ。
理解したところ、のび太は結論を出す。
「……ということは、僕達がその人を倒せばいいんだよね?」
「そういうこと。お前にも手伝ってもらうわ」
「えっ」
「ええっ!?」
出木杉やジャイアンを相手にする時とは打って変わり、ツバサが自分から手伝ってもらうと言ったことに、彼ら一同は声を上げた。
「おいおいおい、俺達とは扱いが違うじゃねぇか!」
「当たり前でしょ? そいつはお前達と違って、本場の世界で鍛えてきたんだから」
「でもよ!」
「彼はのび太君だよ? 君は知らないだろうけど、あののび太君なんだよ?」
ポケモンの本場で専門の師匠からポケモンバトルを教わっているのだから、自己流で腕を磨いてきた彼らよりも上のレベルにあるのは当然だ。
しかし、素材は野比のび太である。
のび太が自分より上とは思えないのか、二人のポケモントレーナーは彼女に反発した。
「……だったら、戦ってみれば?」
口で言うのが面倒くさくなり、ツバサはそう提案する。
どちらが上か、実際に戦ってみるのが最も手っ取り早い。ジャイアンも出木杉もその提案に乗るが、勝手に話を進められたのび太は終始おどおどしていた。
『どこで戦うと言う。街中で戦わせる気か?』
「あっ、そうだ。ここじゃ戦いようがないわね」
『それに、ポケモンとポケモンの戦闘はただ存在するよりもこの世界の次元に大きな歪みを生じさせる。やむを得ない戦闘ならともかく、その程度の理由ならやめた方が賢明だ』
「そ、そうか……」
「まあ、それもそうだね」
必要か必要でないかと分別すれば、確かに必要でない戦闘だ。
二人はバツの悪そうな顔をしていたが、ホウオウには逆らえなかった。
横から明るい声でのび太が言う。
「戦える場所ならあるよ!」
言って立ち上がり、彼はツバサの横を通ると押し入れの中に手を伸ばす。
そして、中から取り出した白いモノを彼女らの前に広げた。
「きゃっ! パンツ!?」
……案の定、後ろで座っている静香がそれを誤認する。
危うくツバサもまた誤認しかけたが、彼女の反応の方が先であったが為に態度に表さずに済んだ。
それはのび太にとって幸いだったと言えよう。
「もう、静香ちゃん間違えるの二度目でしょ。スペアポケットだよ、ドラえもんの」
「戦える場所って……まさかその中に入って戦おうって言うのかい?」
「違うよ。……あった、壁紙ハウス〜!」
パンツもといスペアポケットの中に手を入れ、のび太はポケットの規格を遥かに上回る物体を取り出した。
四次元バッグなど、ツバサの世界では既に四次元空間を応用した製品が一般化されている為、彼女にとっては驚くに値しいことだった。
「そういやそんなのがあったな。確かそれって……」
「そう、壁に貼るとこの紙の中が家になるんだ。その中なら戦えるよ」
次元はどうなるかわからないけど、と続く彼の説明は何故か得意気だった。
全てはドラえもんの力だ。出来ればドラえもん本人を味方にしたかったところだ。
『新たな空間を創ることが出来るのか。やはりドラーモンは、神に等しき力を……』
「ドラえもんよドラえもん。もしかしたらその壁紙ハウスっていう家の中なら、次元は歪まないかもしれないわね」
確証はもちろんないが、ツバサは思いつきでそう言った。
だが、大柄の少年だけは真に受けてしまったようだ。
「よしのび太、そん中で戦おうぜ!」
「えー……」
「なんだよ! 文句あるのかよ!」
乗り気ではないのび太。先までは彼と戦いたがっていた出木杉までも呆れ顔を浮かべている。
そのやり取りを見て心が和んでいくのを、ツバサは認めなかった。
「ばっかみたい……」
――それは、突然の出来事だった。
賑やかなその部屋に、突如として四つの銅鐸が出現する。
いや、銅鐸と言うよりは銅で作られた鏡のような形だ。
銅の鏡、ドーミラー。
四匹のドーミラーがのび太の部屋に現れ、ツバサ達五人を取り囲む。
「な、なに?」
唐突な事態に驚きつつものび太とジャイアンは身構え、出木杉は静香の身を庇うような位置に回って立ち上がる。
ツバサは旋回する四匹の動きを凝視する。
刹那、ドーミラー達の目が妖しく光った。
「「うああっっ!」」
一同の悲鳴が耳に刺さる。
頭が痛い。これは神通力か。
「ホウオウ!」
ツバサは首に掛けていたゴールドボールを取り、天にかざすように振り上げる。
次の瞬間、ボールを中心に金色の光が広がっていき、一同の身を包んだ。
「痛みが……止んだ……?」
ボールの中に居るホウオウの力でドーミラーの神通力から解放させたのだ。
そこからのツバサの動きは目にも留まらぬ速さだった。
懐からモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出す。彼女が出したのは鋼タイプに相性の良いバクフーンだ。
「そんな子供騙しが……」
ボールから飛び出したバクフーンは彼女の指示を待つまでもなく動き出し、炎を纏った拳で一匹のドーミラーを殴り飛ばす。
「私に通用するかっ!」
残った三匹のドーミラーを、バクフーンは半瞬も経たず蹴散らしていく。エネルギーの波動で窓ガラスの何枚かが割れたことなど、今のツバサは気にもしなかった。
バクフーンの炎のパンチによって一掃されたドーミラー達の姿を見下ろす。
すると、彼らの身体を赤い光が包み込んだ。
それは、モンスターボールがポケモンを収める際に発する光線の色だった。
ツバサが無言で背後へ振り向くと、そこには……居た。
話に聞いた赤紫色の髪の青年が。
「私のドーミラーをたった一撃でここまで痛め付けるとは……」
「そいつらに指示を出したのはお前ね?」
「ふふっ、ご名答」
青年の肩には浅緑色の妖精、セレビィが乗っている。彼が肯定した通り、彼こそが四匹のドーミラーを動かした張本人である。
「初めまして、お嬢さん」
ごくり、と息を呑む音が聞こえる。数時間前彼と交戦した出木杉とジャイアンによるものだ。
ツバサと彼との間にも、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「……その瞳……似ている……」
彼女と対峙する最中、青年は呟く。
その後、何かに気づいたように吐いた。
「もしかして君はヒビキ・ゴールドの……」
『貴様、イツキか?』
「おっ、その声はホウオウ! 久しぶりだね。君の体験した時間では二十年ぶりくらいになるかな?」
『やはり貴様だったか……』
ゴールドボールに居るホウオウは、彼と顔見知りのようだ。だがその間には一欠片の穏やかさもない。
『気をつけろ。奴はかつて四天王だった男だ。実力はジムリーダーよりも格段に上だ』
「……のようね」
青年はフッと苦笑を漏らす。
ホウオウから彼の名前が明かされた瞬間、のび太達の顔が驚愕に変わった。
だがツバサには何の関係もない。ただ彼を睨み、その動きを窺っている。
「ということは、今はその子が君のマスターか。ホウオウ、君にはもう少し人間を見る目があると思っていたんだけどね……」
「なんですって?」
青年の言葉に、ツバサは眉をしかめる。
彼女の感情を逆撫でるように、彼は続けた。
「猫に小判、宝の持ち腐れもいいところだ。君は何故その程度のお嬢さんをマスターに選んだんだい?」
「言わせておけば……!」
だったら実力を見せてやる、とバクフーンに攻撃を命じようとしたところ、ホウオウに制止させられる。
『挑発に乗るな。冷静にならなければ奴は倒せん』
「わかってるわよ……!」
青年はそこが知れない雰囲気を放っている。迂闊な行動は敗北につながると、ツバサは自身の怒りを鎮めた。
「てめえ、スネ夫はどうした?」
「私が預かっているよ。取り返したかったら家においで」
「なに!?」
横合いからのジャイアンの問いに、青年は至って落ち着いた口調で返す。
やはり、骨川スネ夫はこの男に拐われたのだ。
「お父さんは元気かい?」
ツバサ以外の存在を適当にあしらい、今度は彼が尋ねる。
それもまた、ツバサの感情を逆撫でる言葉だった。
「どうせ元気でしょうね。あんな奴、さっさと死んでしまえばいいのに」
「それは悲しいお言葉だ。彼にとって君は最愛の娘だろうに……」
「気持ち悪い。何しに来たのよお前」
アイツとどんな関係か知らないが、親父の話は一切振らないでほしい。第一、この場には何の関係もない。
青年、イツキもそんな話をする為にわざわざここに来たわけではない。
ツバサが思った通り、彼の用件は他にあった。
「君達に宣戦布告しに来たのさ」
「宣戦布告?」
「今夜十二時……果たし合いをしようじゃないか」
「面白い申し出ね」
望むところだと言わせてもらう。
出来れば今この場で果たし合いたいものだが、場所は悪く、それは叶わない。
「私が何者か、私が何を成そうとしているのか、全て判っているのだろう?」
「ええ」
「出来るものなら止めにおいで。そこに居る君達も」
チラッと彼に睨まれた瞬間、ジャイアンと出木杉の顔から大量の冷や汗が滴り落ちていく。
しかし交戦経験のないツバサとのび太だけは、ごく自然体で彼と向き合うことが出来た。
「果たし合いの場所はその時になったら判るだろう。ホウオウが着いていればね」
常に余裕に満ちた表情を崩さず、イツキは言った。
「君達の友人の彼も居るから、ついでに迎えに来るといい。それでは、さようなら」
『待て!』
テレポートで立ち去ろうとする彼を、ホウオウが全員に聞こえるテレパシーを出して呼び止めた。
『貴様は本当に……イツキなんだな?』
「そうだよ、私の名はイツキ。君達の時間軸では二十年も前に失踪している人物さ」
『それがあの時から全く歳を取っていない理由か』
「そういうこと。それではまた会おう」
別れの言葉を言い残し、彼はこの部屋から消えた。
まるで始めから存在していなかったかのように。
ツバサとのび太にとってはこれが彼とのファーストコンタクトだった。
投下終了
予定を変更して展開を前倒しにしました。レッドとの修行風景は回想で出す予定。
次回からは決戦編に入ります。
587 :
忍法帖【Lv=6,xxxP】 :2011/08/30(火) 22:38:51.82 ID:B3kLjLZbO
最近はしょっちゅうのようにどっちかが投下してて楽しいな
賑わってていいな
乙
そういえばエルレイドもセレビィもエスパータイプだね
トゥートゥーにも期待してみる
のび太と七色の翼氏乙です
それでは投下します
第七話『真夜中のできごと』
1
「戦闘終了後、勝者のポケモンは全回復する……。
死んだトレーナーのポケモンは奪っても戦闘不能のままで使い物にならない。
12時間の間に死者が出ない場合、全員が死亡する……か」
赤帽子の青年、
レッドは真夜中の公園の白いベンチに座りながらルールブックを読みふけっていた。
ベンチの下には無数の死体が横たわっている。
屈強な大男、マチスと炎ポケモン使いのカツラ……。
この二人は同じカントー地方出身者としてカントー最強のレッドを頼って
レッドの後を追ってきたが、この様だ。
彼の恐ろしいところはこのゲームに乗るか乗らないかを何とコインで決めてしまったことだ。
二人に言った言葉は
「……カツラ、マチス、俺はコインを投げたんだ。
表が出たら、ドラえもんと戦う……裏が出たらこのゲームに乗る」
裏が出てレッドは彼を頼ってきた二人をピカチュウのかみなりで直接攻撃してしまった。
「俺はどちらでもよかったんだ。本当にどちらでも……」
レッドはシロガネ山で一人で修行するうちに感情というものをあまりあらわさなくなった。
その代償に最強の力を得た。等価交換というものだ。
カツラ、マチスの死体を見ても別にどうとも思わない。
悲しいとか、さびしいとかそんな気持ちも一切ない。
ただ修羅のように戦う……ただそれだけ。
レッドは死んだ二人のデイバッグを持ち去った。
――残り31名――
2
河原というものは不思議な場所である。
川が冷たく夏など、涼を求めてバーベキューをする者が後を絶たず、
その反面、洪水時に水かさが増して溺れる者がいて、時には人間達に牙をむく――。
真夜中のかわらで三人の実力者たちが集結していた。
ウルガモスをイメージしたオレンジ色の髪が特徴のアデク。
黒い服装でクールな女性、シロナ。そして緑色の髪でほっそりとした体形のリョウ。
アデクは手持ちポケモンの巨大で蛾によく似たウルガモスにひたすら蝶の舞を命じていた。
「ウルガモス、蝶の舞!」
アデクがウルガモスに戦闘前から蝶の舞を命じているのは
このゲームの終盤戦になるまでに能力をひたすらアップさせれば有利に戦えるからだ。
「アデク、戦う前から能力アップは反則じゃない?
悪い男ね」
シロナがアデクを注意した。
「シロナ、このアデクは用意周到でね。
このゲームに勝つためには何だってする」
アデクは表情一つ変えずに言った。
「弟子のレンブが失望するわよ」
その言葉にアデクの胸が締め付けられた。罪悪感がアデクを襲う。
自分の本性は欲望に忠実な愚かな人間。
アデクは実は世間一般に伝わる良い人間ではなかった。
そもそもチャンピオンという地位についたのも半分は謀略を駆使してだった。
謀略で自分より上のトレーナーを蹴落としてきた。
その中の一人にベテラントレーナーのタイガがいる。
彼は素晴らしい才能を持ち合わせていた。タイガは今、何をやっているだろう。
(自分の本性を見たらレンブは何と思うか……)
その罪悪感を消し去るためにひたすら蝶の舞を命ずる。
今、アデクはシロナ、リョウと同盟を結んでいる。
だが、その同盟もゲーム後半には何にも意味をなさなくなる。
「いい、アデク。この同盟は残り人数10人以下で終わりよ」
「それでよい」
お互いもう一度この同盟規約を確認した。つまり、10人以下となった時点で
この二人は敵同士になるのだ。アデクは勝利を得るために、
まず強いトレーナー同士手を組んで、残りのトレーナー同士のつぶし合いを待つ
という作戦を立てた。
(出来れば、レンブと会いたくない。レンブを失望させたくない)
アデクはそう願うのであった。
シロナ視点
シロナは澄ました顔で、
ウルガモスに蝶の舞を命じるアデクを見つめていた。
(愚かな男。そんなに優勝したいの?
私は優勝しなくてもいいわ。死ぬ覚悟だって出来てる。
でも、強いトレーナーとポケモンバトルを楽しみたいものね)
シロナは生まれたときから地位も名誉も財産も全て持ち合わせていた。
何でも持っている。だから人生をつまらなく感じた。
それでも唯一楽しみだったのがポケモンバトルだった。
しかし、頂点に上り詰めて待っていたのは孤独だった。
強すぎるが故の孤独……自分に匹敵するようなトレーナーがいない。
でも、まったくいないわけではない。
アデクやダイゴなどといった各地方のチャンピオン――。
それにクロツグ。自分に唯一勝てる力があるトレーナー。
だが、ダイゴとは対戦成績で確か上回っていたはず。
激戦区であるシンオウ地方のチャンピオンは世界最強の称号だ。
(私は強い相手とバトルしたい。
アデクとは同盟を結んでしまったし、興味あるのはダイゴと
クロツグ、あとレッドとワタルぐらいね)
シロナは思った。
この過酷な状況下においてもシロナは冷静に状況を分析出来る人間だ。
アデクとは違う。自分は異端なのか?シロナはときどきそう思うときがある。
万能ともいえる経歴の持ち主なために他者との孤立を思うときがあった。
「ねえ、リョウ。私のことをどう思う?」
「シロナ様はシンオウ地方のトレーナーの憧れですよ」
シロナの問いに四天王のリョウはすぐに答えを出した。
リョウの視点
リョウは殺し合いの最中でも不思議と恐怖は感じなかった。
その理由は彼が崇めるシロナの存在だった。
(何なんだ、この感覚は? 命のやり取りをしているのに
この安心感は一体。シロナ様さえいれば何とかなる気がする)
シロナの存在は彼を安心させていた。リョウはそれほどまでにシロナを信頼していた。
圧倒的な強さ、それに驕らず、他のトレーナーにとても優しい。
まさに完璧な存在だ。シロナ以上の人間はこの世に存在しない。
リョウは完全にシロナに心酔していた。
それに比べてアデクという人間は同じチャンピオンなのになんて卑怯な人間だろう。
ポケモンバトルの前からポケモンに能力アップをさせている。
これは反則まがいじゃないのだろうか?アデクという人間は最低だが、
ポケモントレーナーとしての腕前は確からしい。
そうでなきゃかりそめにもチャンピオンにはなれない。
(シロナ様とは大違いだ。屑め!)
リョウは心の中でアデクを罵った。本当はアデクと同盟を結ぶのも嫌だった。
だが、シロナが決めてしまったものはしょうがない。
自分より格上のシロナが決めたことに意見はできない。
(しばらくの我慢だ)
リョウは黙って終盤を待つことにした。
投下終了です。
二人とも投下乙
七色の翼氏の敵の人選の渋さに脱帽
アダムス氏は、予想通り同盟組む連中が出てきたな。しかしリョウはいずれシロナも敵になるって分かってるんだろうか
投下します。
3
真夜中のスーパーの食品売り場は不気味なほど静かであった。
さらに不気味にさせているのは明るさを保っていることだ。
ジャイアンは無人の食品売り場で食べ物をあさっていた。
やはり、殺し合いの最中でもお腹がすく。それは当然だ
「腹減った! 死ぬ! スネ夫の家でもっと食っとけば良かった」
ジャイアンはおにぎりを食べながら叫んだ。既に三個目に手がかかる。
その時だった。何ものかがジャイアンの背後に立った。
背後に立つまでジャイアンは全然気付かなかった。
いつから忍び込んだのだろう。食べ物に夢中で警戒心は薄れていた。
「やっほーっ! おじさん、僕のこと全然気づいてなかったでしょ?」
後ろを振り向くと小さい子供が立っていた。ジャイアンはほっと胸をなでおろした。
10歳くらいだろうか、髪の毛が紫というぐらいは他に特徴がない。
「ぼうや、年いくつ? こんな場所で何してるの?」
ジャイアンは大人の対応をした。
「僕はリラ。おじさん、それより……」
突如として上からポケモンが現れた。
二本のスプーンを持つ
エスパータイプのポケモン、フーディンだ。
フーディンは超能力で浮いていた。そして
持っている二本の内の一本のスプーンが尖っていき、凶器になる。
「これは……!?」
「これはフーディンの超能力で尖らせたんだよ。形状を変える程の超能力……。
すごいよね。僕がこのゲームに乗ってたら、おじさん死んでたよ?」
ジャイアンはぞっとした。なんて恐ろしい子供だろう。
「で、でもこのゲームに乗ってないんだろ?」
ジャイアンはこのゲームに乗ってないことに賭けた。
「どうだろう……考え中だよ」
リラは考える仕草をした。
(か、考えるって……こんな恐ろしいゲームにこの子が乗るはずが……)
ジャイアンは気付くと汗びっしょりになっていた。
この子は可愛い外見とは裏腹に恐ろしいことをいう子だ。
「おじさんて変な髪してるね。それに浴衣なんか着ちゃって
変なの。あっ、そうだ! おじさんのポケモン見せてよ」
「わかった。今みせるから」
ジャイアンのポケモンは大相撲の力士を思わせるハリテヤマだった。
「へー、おじさんに似てるね」
ジャイアンは似てると言われて照れ笑いした。その刹那――。
「やっぱり、このゲームに乗ることにしたよ。じゃあね、おじさん!」
瞬間にフーディンの尖ったスプーンはハリテヤマの喉元へと投げられ、貫いた。
ハリテヤマは致命傷を受け、戦闘不能になった。
リラとフーディンはその場から一瞬にして消えた。まるでテレポートだ。
「おい、こんな馬鹿なことあるかよ。俺は25歳にして大関だぞ。
今場所は14勝一敗で横綱黒鵬に敗れたものの準優勝で大関昇進。
電撃引退した横綱昼青龍の後継者と目されてたのに……。
これは何かの間違いだろ? 俺はし……死ぬのか?
く……苦しい……い……息……が……でき……」
ドサッ!
ジャイアンはハリテヤマの隣で息絶えた。
――残り30名――
4
夜中の三時――。
骨川スネ夫は自分の家……。
いや、自分の家に似た邸宅の庭で四人のトレーナーと共にしていた。
そのトレーナーとはマツバ、キョウ、センリ、ギーマだ。
スネ夫はとりあえず強そうなトレーナーと行動を共にして安全を図った。
それで自分の邸宅に招いたのである。
「スネ夫君、俺達を集めてどうする気だ?」
四人のリーダー格となりつつある長身で顔立ちの良いセンリが問うた。
センリの常に冷静な所がスネ夫が好感を持った理由だ。
「皆さんでこのゲームの脱出方法を探そうと思います」
スネ夫は一人では脱出方法を見つけるのは困難、なので四人を集めた。
「それで俺達を集めたのか。
だが、人数を集めても脱出方法が見つかるとは思えんが」
「だな。絶対に無理だろう」
センリとキョウが真っ向から否定した。その時である。
突然、落雷がスネ夫の家を襲った。
「かみなりだ! このゲームに乗った奴がここを嗅ぎつけたんだな。
みんな! 急いでポケモンを出して応戦するんだ」
マツバが慌てふためきながら、みんなに指示した。
その言葉に従い、5人はポケモンを繰り出した。
ゲンガー、ケッキングなど様々なタイプのポケモンが出てきた。
「誰だ!? 僕の家にかみなりを落とすのは!」
「………」
謎のトレーナーは帽子を被っており見えにくかった。
「………」
しかし、スネ夫はポケモンをプレイしたから分かる赤帽子の青年、レッドだ。
「………」
レッドは電気タイプのネズミポケモン、ピカチュウを従えていた。
みんなもはっとしてレッドだと気づいたようだ。
「に、逃げろーっ! 奴はカントー地方最強のトレーナー、レッドだ!
史上最強との噂もある! 俺たちじゃとても敵わん!」
センリは動揺して逃げ惑う。
それにつられて他のトレーナー達もその場から逃げようとした。
スネ夫は恐怖してその場から動けなかった。
「……逃げたトレーナーには裁きを与える……」
レッドはピカチュウに指示を下し、ピカチュウのかみなりが逃げた四人のポケモンに浴びせる。
「嫌だ―っ! 俺はまだ死にたくない!」
センリ、マツバ、キョウ、ギーマのポケモンは一瞬にして戦闘不能になり、
四人はポケモン共々息絶えた。あっという間の出来事だった。
「……逃げなかったお前は勇気のあるトレーナーだ。
特別に見逃してやろう……どこへでもいくがいい」
レッドはピカチュウと共にその場から消えた。
スネ夫は奇跡的に助かった。しかし、必死で集めた仲間が死んでしまったのは辛かった。
――残り26名――
投下終了です。
乙。参加者の人選は割とどうでもいいのか?アッサリと実力者が大勢死んでるんだが…
しかしジャイアンの最期が説明口調過ぎてワロタww
あとリラって女の子だろww
投下します。
第8話『早朝』
1
朝日が昇り、また一日が始まる。しかし残り26人のトレーナーにとっては
地獄の始まりに感じられた。
「みんな起きろーっ! 朝だぞー!
これから禁止エリアと死亡した者を読み上げる」
ドラえもんの大きな声によってのび太とレンブは強制的におこされた。
のび太はレンブと共に行動している。同じ格闘家ということで
二人は意気投合した。二人は裏山の中腹で野宿をしていた。
裏山は標高が低い山でしっかりと舗装もされていてとても登りやすい山だ。
食糧はデイバッグにわずかにパンが二つ入っていた。
それでも貴重な食事には変わりはない。
「まず死亡した者はダイゴ、マチス、カツラ、剛田武(ジャイアン)、
センリ、マツバ、キョウ、ギーマの8人だ。次に禁止エリアは『学校の裏山』
一時間以内に裏山から出ないと死んでしまうよ。これで放送は終わり」
ドラえもんの声は途切れた。のび太はとてつもない衝撃を受けた。
それはジャイアンの死――まさかそんなはずは……。
「まさか聞き間違いじゃ……レンブさん、剛田武って言ってないですよね?」
のび太はすがるような目線をレンブに送ったが
「いや、残念だが、ちゃんと剛田武と言っていた」
レンブは気の毒そうに言葉を返した。のび太はレンブの返事に
絶望した。人目をはばからずにのび太は男泣きをする。
(ジャイアンが……死んだ)
この現実はのび太はとてもじゃないけど受け入れがたかった。
どんなに嘆いてもジャイアンはこの世にはいない。
のび太の心は大きな悲しみでいっぱいになった。
ドラえもんを野放しにしてはいけない。
それにジャイアンに勝利したトレーナーを許しておくはずがなかった。
「誰がジャイアンを! 絶対に許せない!」
のび太は泣きやむと復讐を心に誓った。
ジャイアンに勝利したトレーナーは一体誰なんだ。
残りの26人の誰かだ。いずれ会えるかもしれない。
いや、絶対に探し出してやる。
「のび太君、今は友人の死に嘆いている場合じゃない。
一時間後に裏山は禁止エリアになってしまう。早く移動しよう」
レンブに諭され、のび太はようやく立ち直ることができた。
二人はこうして急いで裏山を下山した。
2
カミツレは焦っていた。
なぜなら今、自分たちのいる裏山が禁止エリアに指定されてしまったからだ。
早く下山しなければならない。
「いい、エリカ、アスナ、スズナ、急いで下山するわよ!」
三人はカミツレの言葉に頷いた。急いで下山を開始する。
あと一時間しかない。まさか裏山が禁止エリアに指定されるとは思わなかった。
予想外の展開にカミツレは動揺していた。のんきに寝ている場合じゃなかった。
それに昨日の夜だけで8人も新たに死亡しているとは……。
(結構強いトレーナーが死んでいるじゃないの)
カミツレはホウエン地方チャンピオンのダイゴが死んでいるのに驚きを隠せない。
でも、カミツレはこのことは嬉しい知らせだった。
強いチャンピオンが呆気なく死んだということは
たかがジムリーダーの自分にもチャンスが巡ってくるかもしれない。
ただ強ければいいんじゃないんだとカミツレは思った。
(強いだけじゃだめよ。策を練るのが大事なのよね)
カミツレはほくそ笑んだ。
自分がやられそうになった時はこの間抜けな三人を盾にすればいい。
自分だけは必ず生き残る気でいる。美し過ぎる容姿とは裏腹にかなりの極悪人だ。
「私、憧れのカミツレさんと共に行動出来て嬉しい」
そう言ったのはもっともカミツレに心酔するエリカ。
(馬鹿で間抜けな奴……この3人の中でエリカはもっとも馬鹿だわ。
こっちは思いっきり見下しているのに。
まあいいわ信頼を得るのが目的だからね。計画通りってわけよ)
カミツレは3人に見えないように極悪面をした。
しかし、下山した4人を待ち構えていた二人がいた。
「誰なの……!?」
「裏山が禁止エリアに指定されたからな。待ち伏せしていた。
私はロケット団ボス、サカキ。こちらは私の部下のミツル君」
カミツレは思わぬ人物に遭遇していささか動揺した。
まさかこんな所で別のグループに遭遇するとは……。
だが、相手は二人。こっちは4人もいる。
(ビビることはなさそうね)
そう思った瞬間――。
「ジムリーダーのエリカ君、スズナ君、アスナ君だな。
なぜカミツレなどと共に行動しているんだね。私には分かる。
カミツレは100パーセントこのゲームに乗っている。
君たちは利用されているだけだ。
いざとなれば君たちは盾にされ使い捨てにされる。
私のグループに入りなさい」
サカキは言うと持っていた黒いトランクケースの中を開いた。
中にはぎっしりと札束が入っていた。いきなりサカキは札束を
地面にばらまいた。
「お、お金?」
「札束がいっぱい……」
「くれるの!?」
お金持ちのエリカはともかく、スズナ、アスナは目の色を変えた。
カミツレはその瞬間、まずいと思った。
(何よ、何で札束で目の色を変えるのよ! これはまずいわ)
カミツレはしまったと思った。札束を見て心が動かない人間はいない。
もし、三人が買収でもされたら……今までの苦心が水の泡だ。
(それに何で私がこのゲームに乗っているのがわかったのよ
サカキは超能力者?)
「極限状態において金は無意味のように思える。だが、
私はこのゲームからの脱出方法を知っている。
こんな金、私の部下になればいくらでも手に入るぞ。
そうだ、このゲームから脱出したらロケット団に入りなさい。特別に幹部待遇をしよう。
まず、支度金が一人200万。月収100万でどうだ?
つまり年収が1200万というわけだ」
まずい。これでサカキグループに3人が寝返ってしまうのは確実。
どうせ三人が寝返るなら本性をさらけだしてしまおう。
(ここは開きなおって本性をさらそう)
覚悟を決めたカミツレは極悪面を晒した。
「そうよ! 私はあなた達を利用してたのよ。
私は一生ジムリーダーのままで終わりたくなかった!
出世を望んでいたのよ! 私は真面目にジムリーダーの仕事をしていた。
でも、心の内では四天王に……いや、チャンピオンになりたかった」
3人はカミツレの本性を見て愕然とする。もう構わない。
こうなったら私のエモンガの最強の電気技で5人まとめて葬ってやるわ。
「ひどい! カミツレさんは悪い人だったのね」
もっとも心酔していたエリカは泣きじゃくりながら喚いた。
「私たちを騙してたのね! この性悪女!
これからはサカキさんについていくわ」
「私もサカキさんについていく」
アスナとスズナも怒りを隠せない様子だ。
カミツレはおもむろにエモンガを繰り出した。
「エモンガ、5人まとめて地獄に送りなさい! かみなり!」
凄まじい雷撃が5人を襲おうとしたが、
全身がごつごつとした岩のような
サカキのポケモン、ドサイドンが雷撃を全て受けて無効化した。
「ドサイドン、ストーンエッジ!」
鋭く尖った岩がエモンガの背に落ちた。
エモンガはかわしきれずにダウンしてしまった。
「嘘よ! この私が死ぬ……嫌よ……死にたくな……」
カミツレはエモンガと共にこと切れた。
――残り25名――
投下終了です。
正直、自分の文章力のなさに絶望している。
小説を書くのは好きだ。しかしいくら努力しても限界を感じてしまう。
今更ながらドラーモン氏やセカンド氏の文章力は素晴らしかった。
今の七色の翼氏だって非常に高い文章力を持っている。
自分には才能がないのかと毎日思ってる。
だが、『のび太のポケモンバトルロワイアル』はなんとしても完結までには持っていきたいな
>>606 原作のバトルロワイアルも実力者が割と早く死亡したような
三村信史とか
展開早いなと思ったけど脂肪ペースは原作とあまり大差ない
よくよく考えれば人数が多いから死者も多くなるな
カミツレは相馬ポジションかと思ったがあっさり終わったのが意外な展開
乙。原作あったのか…
カミツレはしぶといポジションになると思ってたから意外だった
というか本性を隠してれば1番心酔してて金持ちのエリカは仲間でいるかとも思ったが…
しかし待ち伏せとは、リスクも高いのにサカキすげえな
アダムス氏乙、カミツレの脱落は予想外……
自分も投下します
イツキ、それは二十年ほど前にセキエイリーグに務めていた元四天王の名だ。
扱うポケモンはエスパータイプを主とし、彼自身も特殊な超能力の持ち主である。
実力は四天王の名に恥じず、リーグに挑戦しに来た挑戦者の大半は彼の前に沈黙する。
彼はある日を境にポケモンリーグを離れ、以後消息不明となっていた。
それが、ツバサ達の世界におけるイツキという存在だ。
『かつてはお前の父ゴールドとも戦った』
「当たり前でしょ、チャンピオンになったんだから」
『……そうだな』
空を見上げれば満月の光が目に入る。
夜中の空き地――。そこにツバサは居た。三つに重ねられた土管の上に、彼女は腰かけている。
両腕で抱えた膝の中に、彼女は顔を埋めた。
「ねえホウオウ…… 本当に、私と一緒に居て良かったの?」
胸に下げた金色のモンスターボールにかけるその問いは、いつになく弱々しい声だった。
フッと苦笑するような声が聞こえ、ホウオウが答える。
『奴の戯れ言など気にするな。我は一度として、お前の元を離れようと思ったことはない。ただ空を飛び回るだけだった時代も、今では懐かしいとすら思っている』
「私よりも貴方を上手く扱える人は、他にたくさん居るのに……」
『居ないな』
「えっ?」
自嘲気味に呟かれた彼女の言葉に、ホウオウは半瞬で反応する。思わず声を上げてしまった。
『この世にお前以上に我を扱える者など、他に居はしない。居るとすればそれはお前の父……ゴールドだけだ』
「……アイツの話はやめて……」
『人間を信じることが出来なかったかつての我を、奴は変えてくれた。お前と出会えたのも奴が全てだ。我は感謝している……』
「やめて! 聞きたくない!」
優しい声で始められた父親の話を、ツバサは拒絶する。
嫌だ。
話を聞くだけで、アイツの顔が頭に浮かんでくる。
「アイツは……一度旅に出たっきり、二度と帰ってこないじゃない! それはもう、家族を捨てたのと同じよ! アイツは悲しませた……お母さんのことを悲しませた!」
見てしまった。
それは父が旅に出て一年あまりが経過した頃。
台所で隠れて泣いている、母の姿を。
父は悲しませたのだ。自分が帰らないことで、娘ばかりか母のことまで。
……その日以来、ツバサは彼のことを憎み続けている。
母は彼女には見せないだけで、寂しいと思った時は陰で泣いている。それが何よりもツバサには悲しく、そして腹立たしく思えた。
私が寂しくて悲しむのは構わない。
でも、お母さんを悲しませることだけは絶対に許さない。
十歳になり、ポケモントレーナーとして地方を旅回る資格を手に入れた時も、ツバサは旅に出ようとしなかった。
同学年の子供達がワカバタウンを離れていく姿を見ても、彼女だけは家を離れなかった。
旅に出てジムリーダーと戦い、ジムバッジを貰ってポケモンリーグへ行き、そこで優勝してチャンピオンになりたいという夢も、昔はあったかもしれない。
しかし母の涙を見たあの日から、ツバサはそんなことを考えたことはなかった。
自分が家を離れれば、母は一人になってしまう。だから一時でも長く自分が傍に居てあげたい。その一心である。
冒険を追い求め、家族を捨てた父とは違う生き方をする。父を憎むあまりの考え方だった。
祖父の研究を母と一緒に手伝いながら、変化がないながらも幸せな時間を過ごしていたある日、それは突然起こった。
次元が歪んでいる――と、一言聞いただけでは意味が判らない話だった。
どうやら世界と世界の間を仕切る次元空間が、何かの拍子に歪んでしまい、穴が空いてしまったらしい。
穴は小さいのだが、間違えてそこに入った野生ポケモン達が、異次元の世界へと迷い込んでしまったと言う。
その話は母の知人であるレッドから聞き、異次元世界に迷い込んだ野生ポケモンの存在が次元空間に与える悪影響などは、後に祖父から聞かされた。
何としてでも異次元世界から野生ポケモンを回収し、次元の歪みを塞がなければならない。
その仕事は、穴を通ることが出来る子供でなければ務まらないと言っていた。
丁度、ツバサに当てはまる仕事である。
適応したポケモントレーナーの子供達は皆旅に出ており、町に残っているのは彼女しか居ない。
さらに彼女は伝説のチャンピオン、ヒビキ・ゴールドの娘に当たる。
ポケモントレーナーになる以前から専門的な知識は備わっており、その上、父親譲りの卓越したバトルセンスは知人誰もが認めていた。
即ち、ヒビキ・ツバサ以上の適任者は居なかったのだ。
もちろん母の元を離れたくなかった彼女は始めこそ「私はやらない」と断ったが、祖父やレッド、現チャンピオンのシルバーら知人達に頼まれやむを得ず、という形で異次元世界へ旅に出ることを決めた。
母とホウオウにも頼まれたのだ。断ることなど出来はしなかった。
「……一年、か……」
旅を始めて約一年が過ぎ、ようやく事件の黒幕と思わしき存在にたどり着いた。これまでの時間は実時間以上に早く感じられた。
その存在、イツキを倒せばすぐに母の元へ帰れる。
お母さんに寂しい思いをさせずに済むんだ。
だからこそ、今回の戦いは絶対に負けられない。
『ツバサ』
「ん?」
不意に、ホウオウからのテレパシーが入る。
その声は深く重く、彼女の心にのし掛かるものだった。
『もしものことがあれば、我を放て』
「……ええ」
敵は強力だ。このゴールドボールから七色の翼が解き放たれる時が来るかもしれない。
だが、その危険性を理解しているが故にツバサは絶対に放たないと心に誓った。
壁紙ハウス。ドラえもんが持つ秘密道具の一つだ。
見た目は家の入り口を模したポスターの形をしているが、これを壁に貼った瞬間、その中は本物の家になる。
自分達の家ではなく、のび太達四人はそこに居た。
空き地の周りを囲う塀の一部に貼り付けられた壁紙ハウスの中で、彼らは今すべきことを行っている。
「タケコプターよし、空気砲よし!」
「お医者さんカバンは?」
「オーケーよ、のび太さん」
のび太が持ち込んできたスペアポケットの中から、来る戦いに役立つと判断した秘密道具を取り出す。
敵はあのイツキだ。まともに戦っては勝てないと踏んで、出木杉はポケモンの他に秘密道具を戦力に加えようと言い出した。
その意見には皆同感らしく、ジャイアンですら素直に応じてくれた。寧ろイツキの力を知っている彼だからこそ、というものがあるのかもしれない。
「そろそろ眠くなってきたな。のび太、眠らなくても良いようにする道具とかあるか?」
「えっ、ああ、そういえば……」
そう言って、のび太はスペアポケットの中に手を突っ込む。
取り出されたのは一つのビンだった。
「ねむらなくてもつかれないくすり〜!」
「そのまんまじゃねぇか」
ビンの中にはいくつかの錠剤が入っており、どうやらそれを飲むと眠らなくても疲れなくなるらしい。
念を入れて確かめてみたが、覚醒剤とは全く違うようで出木杉は安心した。
「はい。静香ちゃんと出木杉君も飲みなよ」
「ええ」
「ありがとう」
ビンから手に取った錠剤を一粒ずつ受け取り、出木杉達はそれを飲み込む。と、効果はすぐに現れた。
「これは良い……」
「すっきりしたわ、のび太さん」
これで深夜の戦いに睡魔が妨げになることはなくなった。
のび太は「ツバサちゃんにも渡してくる」と言い残し、モンスターボールから放たれているピカチュウと共に壁紙ハウスを立ち去った。
その背中を見送ると、背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。剛田武、ジャイアンの声だ。
振り向くと、右手にモンスターボールを握りしめた大柄な少年の姿が目に入る。
「まだ時間はあるし、いっちょやろうぜ」
「……そうだね」
「二人とも、頑張って」
壁紙ハウスは広く頑丈だ。
彼らの次元から切り離されているこの場所なら次元に与える影響も少なく、ポケモンバトルをしても良いとホウオウは言っていた。
確かに時間はまだある。
決戦の前に可能なだけ腕を磨いておこうと、出木杉はジャイアンの誘いに乗った。
彼女は星空を眺めている。
無数に散りばめられた星々は綺麗で、土管に座って眺めている彼女の気持ちがなんとなく判った。
壁紙ハウスを後にしたのび太とピカチュウはすぐに彼女、ツバサの姿を見つける。
ねむらなくてもつかれないくすりを渡そうと近づくと、四歩進んだところで彼は立ち止まった。
(綺麗だ……)
星空を見上げる彼女の横顔に、不覚にも見とれてしまった。
美的センスの欠片もないのび太であるが、今の彼女を見れば百人中百人がそう思うだろう。それほど星に照らされた彼女の姿は綺麗だった。
彼女は今、普段は全く外すことのない白い帽子を外して、その細い両腕に抱えている。上方に跳ねた前髪が、印象深くのび太の目に焼き付く。
しかしのび太がそこに居ると気づいた瞬間、彼女は慌てて帽子を被り、その前髪を隠してしまった。
「……な、なによ? 居るなら居るって言ってよ」
焦る素振りを見せた後、普段の調子で彼女は言った。
足元に立つピカチュウは口を押さえて笑い、のび太も苦笑を浮かべる。
「眠くなったでしょ? これ飲みなよ。ドラえもんの道具で、「ねむらなくてもつかれないくすり」っていうんだ」
「ふーん……」
土管の上から降り、彼女はのび太の手から一粒の錠剤を取る。
しばらく疑いの目でそれを睨んでいたツバサだが、最終的には信じてくれたらしく、それを口に放り込んだ。
だが……
「……っ!? み、みずっ……!」
「え?」
「ゴホッ! …は……はやく水っ! 詰まった!」
「……プッ」
錠剤を喉に詰まらせたようだ。喉を押さえながら手を差し出す彼女の姿に、のび太は噴出する。下を見るとピカチュウが腹を抱えて笑い転げていた。
「……で? どうだったの?」
「何が?」
「お母さんやレッドとの修行」
土管の上に、一人の少年と一人の少女、一匹のネズミの姿がある。少女の手には水の入ったコップが握られていた。
「うん、コトネさんは優しく教えてくれたんだけど、レッドさんは厳しくて……」
「でも、合格点は貰ったんでしょ?」
でなければこの世界に帰さない筈、と彼女は付け足す。
「まあそうなんだけどね…… 僕、あの世界に行ったおかげで強くなったと思う。成長出来たと思うんだ」
真面目な顔をしてそう言うのび太の横で、ツバサはその口に水を注ぐ。彼が彼女の方を向くと、彼女は横目だけ彼に向けた。
「ありがとう」
「えっ?」
「全部君のおかげさ。本当にありがとう」
「ありがとうって、お前……」
呆れたようにため息をつき、彼女はのび太に顔を向ける。
「お前を私達の世界に送ったのは、お前に最低限のポケモンバトルが出来るようになってほしかったってだけで、それ以外何でもない。なんでお前が礼を言うのよ?」
また水を飲み、彼女は続ける。
「礼を言うならお母さんかレッドでしょ?」
「それはちゃんと言ったよ。でも、君にも感謝してるんだ」
膝に乗り掛かってきたピカチュウの背中を撫でながら、のび太は笑顔を浮かべて話す。
「射的やあやとりぐらいしか出来なくて、他は何をやってもダメ……泣き虫で甘ったれで、まあそれは今もそうなんだけど、僕は悔しかった。そんな僕が、ずっと」
「はいはい」
「でも、向こうに行って変われた気がする。レッドさんと厳しい修行をして、少しまともになれた気がするんだ」
「それが私のおかげって?」
「うん。だって僕を連れていってくれたのは君じゃない。元をと言えば君のおかげなんだよ」
だから感謝している。
そして、もう一度ありがとうと言った。その言葉は世界を守る為に一人で戦ってきた彼女に対しての言葉だ。
「私は別に感謝してもらう為にやってきたわけじゃないし、お前の世界を守る為にやってきたわけでもない。だから礼を言われるのはしっくりこないわね」
「でも、君は感謝されることしてきたんよ。絶対、間違いない」
「……そう」
悪くない気分ね、と彼女は呟く。にわかにその顔に戸惑いの色が見えるのは、人から感謝されることに慣れていないからか。
嬉しい?
……嬉しいんだ。
ツバサとしてはただ言われた通りの仕事をこなしていただけだ。次元空間が歪めば、自分達が住む世界にまで悪影響が及びかねない。
のび太達の世界ではなく、自分達の世界を守る為だ。だからそのことで感謝されるのはお門違いだと思った。
まあそれよりも、気になることがある。
「さっきの話……」
「ん?」
「お前は何をやっても駄目って話、あれ嘘でしょ」
泣き虫で甘ったれと言ったのは、見るからに本当のことだろうから否定はしない。
しかし、ツバサはその言葉だけには頷けなかった。
「何をやっても駄目って、そんなに駄目ならなんでお前の周りにあんなにたくさん人が集まるのよ」
「えっ?」
「お前私に喧嘩売ってるの?」
「ええ!?」
ツバサは苛立たしさを全面に押し出して言った。彼女が何故そのような態度を取っているか、のび太には判らない様子だ。
「駄目なんてことないでしょ。お前は色々上手くいってる。羨ましいぐらいよ」
「もしかして、友達のこと?」
「ああ、もううるさい!」
図星だ。彼は母から聞いたのだろう。
友達が出来ない自分のことを。
ツバサの周りには、決して人が居ないわけではない。レッドやシルバーなど歳上の人物なら、何人か親しい者は居る。
だが、同世代の友達、という関係に立つ者は一人も作ったことがなかった。
決して同世代の子供と話をしたことがないわけではない。彼女の容姿を気に入った者が、あちら側から話しかけてくることも多かった。
だが、きつい性格や言動、時たま見せる見下した態度が燗に触るのか、そのほとんどが彼女の元を離れていった。
今さらこの性格を直したいとは思わない。
ただ、のび太のように友達に溢れている存在を羨む気持ちは、少ないだからもあった。
自分でも気づかない気持ちだった。
出木杉やジャイアン達と行動を共にすることで、自然と身に付いてしまったのだろう。
『ふっ…ふっ……』
「何よホウオウ。何笑っているのよ」
『正直になれ。お前の気持ちに』
「は?」
ホウオウの方が彼女自身よりも、ツバサの気持ちを判っているのかもしれない。
ツバサも判りかけてはいる。
だが判ってしまうと旅をしてきて良かったと思ってしまう。
それが父を認めることになると思うと、やはり自分の気持ちと対峙することが出来なかった。
「のび太」
横を向き、少年の名を呼ぶ。
ガラではないが、イツキとの決戦前には言っておきたい言葉があった。
「手伝ってくれて……いや、何でもない!」
「えー」
まだコイツは何もやっていない。礼を言うのはイツキを倒した後だ。
そう思い、一先ず感謝の言葉は見送ることにした。
骨川スネ夫は拉致された。
それは大草原にて相棒のゴルバットと共に、野生ポケモンを捜索していた時のこと。
突如現れた赤紫色の髪の青年。
噂は出木杉から聞かされていた為、彼が自分にとって危険な存在であることは何となく判った。
常に安全策を選ぶことに長けているスネ夫は即刻交戦すべてではないと判断し、走って逃げようとした。
しかし、テレポートによって一瞬で追い付かれ、彼のポケモンの手で気絶させられてしまう。
目が覚めると、スネ夫はすぐにその場所が草原でないことに気づいた。
そう、ここは部屋の中。
自分は拐われたのだ。
「お目覚めかい?」
目の前にはあの赤紫色の髪の青年が。
そして自分は、長テーブルを挟んだ向かい側の椅子に座っていた。
「ここは……」
「私達のアジトさ。悪いね、君を拐わせてもらった」
「………………」
襟元にナフキンをかけた彼は、右手にナイフ、左手にフォークを持っている。そしてその下にあるのは――コンビニで販売されているコーンサラダであった。
(どういう食べ方だよ……)
とスネ夫は自分が置かれている立場すら忘れてその光景に絶句する。
青年は右手のナイフでレタスを切り、左手のフォークでそれを刺して口に運んだ。
「やはり味付けはフレンチドレッシングの方が好みだが……胡麻も悪くない」
『マスター……』
青年の隣に座っている浅緑色の妖精が、何とも言えぬ表情を浮かべて彼の顔を眺めている。
青年はナフキンで口元を拭くと、その鋭い眼光をスネ夫に向けてきた。
ゾクッとスネ夫の背筋に悪寒が走る。しかし予想とは違い、青年は比較的優しい声をかけてきた。
「君も食べたまえ。そこにあるだろう?」
見ると、スネ夫の前にもコンビニで販売されているコーンサラダがあった。そして何故かフォークとナイフが。
「野菜は美味しいよ。この食感、色……たったそれだけで私は満たされる」
よほどのベジタリアンなのか。しかし何故フォークとナイフなのか判らない。
箸はどこにも見えないので、スネ夫はとりあえずフォークだけでそれを食べることにした。
「ドレッシングはフレンチと胡麻があるけど、どちらがお好みかな?」
「その二つならフレンチだね」
「そうか、趣味が良いな」
青年の手からフレンチドレッシングを渡され、適度な量をサラダの上にかける。
コンビニの食べ物を食べるのは随分と久しぶりな気がするが、味は悪くなかった。ただ、肉が食べたい。
「ご飯はそこにある。あそこの電子レンジで温めてからお食べ」
「あっ、どうも」
青年の指差した方向にはパックに包まれた白いご飯、やはりコンビニで販売されているものだが、そこにあった。
電子レンジで温めること四十分、彼はご飯を取り出し、テーブルの上に置いた。
しかしやはり、肉が無い。
「お肉は好きかな?」
「そりゃまあ……」
「動物の命を食す……それは私にとって非常に耐え難いことだ」
「でも、食べなきゃ生きてけないでしょ?」
「それが自然界の掟。悲しき現実だ……」
『マスター、ドレッシングが頬についています』
コーンサラダとご飯を食べながら、二人の男は雑談を始める。スネ夫はやはり、自分の立場を忘れかけた。
「ここには肉は無い。私はあれを食すと悲しくなるんだ。人に食される為に生きてきた家畜達の存在を思うと、どうもね……」
「弱肉強食でしょ? 仕方ないじゃん」
「同じ命ではないか。私達人間も牛も豚も、そして……ポケモンも」
『マスター、コーンが溢れています』
ナイフとフォークを置き、青年は視線をスネ夫の顔に移す。
端正な、まさに色男と言った恵まれた顔立ちだ。まあ僕ほどではないねと思いながら、スネ夫は彼の視線に答える。
「申し遅れたね。私の名はイツキ、この子はセレビィ。率直に言うと君達の敵だ」
「イツキ……四天王のイツキか。マスクを着けてないからわからなかった……」
目の前で敵宣言を受けているというのに、何故だかスネ夫は冷静で居られた。
テーブルに並べられたコンビニの食品やドレッシングが付着した彼の顔が、どうやら緊張感を台無しにしているらしい。
「私の目的は空間の神を捕獲し、この世界をポケモンの楽園に変えること」
「空間の神?」
「まあそんなことはいい。君を拐わせてもらったのは、彼らをここへ呼び寄せる為なんだ」
「僕はエサか」
「そういうこと」
彼らというのはジャイアン達のことか。イツキは淡々と説明する。
「日付が変わる頃、私は彼らと戦う。その時になったら、君のことは解放してあげるよ」
「僕のゴルバットは?」
「君が持っているモンスターボールに居るよ。君が草原で捕まえたポケモンは預からせてもらったけどね」
彼の口振りからすると、人質目的で自分を拐ったわけではないようだ。そのことには安堵するが、スネ夫は一つ、気になることがあった。
「僕を縛ったりしなくて良いんですか?」
「縛られたいのかい?」
『気持ち悪い……』
「……じゃなくて、拐った割には僕を自由にさせすぎじゃないかって聞いてるんだ」
人質目的でないにしろ、拘束もなければ厳しい扱いをするのでもない。そうされたいわけでは断じてないが、スネ夫には奇妙に思えた。
「私は自由を束縛することが嫌いでね。ポケモンも人間も……だからここから抜け出したければそうすればいい。少々邪魔させてもらうかもしれないけど」
「やめておくよ。ジャイアン達を待ってた方がマシだ」
「良い子だ」
時刻は午後十時を回っている。
彼と話していく内に、スネ夫には彼がただの悪人だとは思えなくなった。
少なくとも極悪人ではない。
今まで見てきた悪人の中で最も異色なイツキを、彼は測りかねていた。
善ではないが、悪でもないような……彼は、不思議な人物だった。
投下終了、避難所の方は来週以降の投下になりそうです
乙。ツバサ思春期だなぁ、なかなか素直になれないね
>電子レンジで温めること四十分
なげえよwwwwwwwwwwwww
×四十分 ○四十秒です。とんでもないミスをw
ワロタwwww
しかしイツキもなんか面白いなww
のび太と七色の翼氏乙。
文章力が神がかっている。
それでは投下します。
3
早朝に市街地を歩く二人がいた。一人は黄色い髪で整った顔立ちの長身の青年デンジ。
もう一人は眼鏡をかけたインテリ風の青年、ヒョウタ。
だが、デンジの表情は険しかった。常に死の恐怖と隣合わせだからだ。
これまでにデンジが勝利したトレーナーは何と三人。
虫ポケモン使いのジムリーダーツクシ。イッシュ地方のトレーナーチェレン。
飛行ポケモン使いのナギの三人。だが、けっしてこのゲームに乗ったわけではない。
ポケモンバトルを強制されたからだ。
これまで戦ったトレーナーはポケモンのタイプの相性が良すぎた。
いつ、自分の不利になるトレーナーが現れるかわからない不安を抱えていた。
だがその不安を少しでもかき消してくれるのは仲間の存在だ。
同じシンオウ地方のジムリーダーであるヒョウタだ。
デンジはヒョウタと仲が良かった。
デンジとヒョウ太は早朝の市街地を歩いていたら割と広く草が茂った空き地に辿りついた。
「デンジさん、誰か人が倒れています」
「この方は……ホウエン地方チャンピオン、ダイゴ!
ダイゴが死んだのはドラえもんの放送で分かった。
しかし、誰がダイゴ程の腕が立つトレーナーを倒したんだ?」
デンジとヒョウタはダイゴの死体に駆け寄って観察したところ、
全く死臭がしないことに気付いた。
何らかの方法で防腐処理が施されているらしい。まるで死んだ直後のようだ。
(さすがの俺もホウエン最強トレーナーの死に動揺してしまう。
缶コーヒーでも飲んで心を落ち着かせたい)
デンジは既に動揺しきっていた。憧れつづけたダイゴの死……。
「ヒョウタ、自販機で缶コーヒーを買ってきてくれ」
「はい、わかりました」
自分たちの持っている通貨がこの世界で通用するかわからなかったが、
デンジはヒョウタに缶コーヒー代を渡すと
ヒョウタはコーヒーを買うために駆け出して空き地からいなくなった。
空き地に一人残されたデンジ――。
一人になると突然、不安に駆られる。
もし、一人の時にこのゲームに乗ったトレーナーと遭遇したらどうしよう。
(大丈夫だ。落ち着け。ヒョウタは直に戻ってくる)
そう思っても不安感は襲ってくる。どうすれば良いだろうか?
早く缶コーヒーを飲みたい。飲みたいぜ。
ヒョウタ早く帰ってこないかな。俺の弟分……。
奴は信頼出来る奴だ。今の世の中、あんな好青年はなかなかいない。
それほどまでにヒョウタを信頼し、また頼りにしていた。
(ヒョウタだけは信頼できる。ヒョウタだけは俺を裏切らない)
そう考えたとき、何ものかが自分の背後に忍び寄るのを感じた。
「誰だ!? 俺は気付いているぞ!」
「やっほー! よく気づいたね! デンジさん!」
デンジが後ろを振り返ると知っていた人物が姿を現した。
年は十歳ごろ、そして紫色の髪が特徴的。
それでいて端正な顔立ちをした子供――。
百七十五センチはある長身の自分と比べるとだいぶ小さい。
子供だから当たり前か。知っていると言っても直接会ったことはないが、
とても有名だ。ホウエン地方、タワータイクーンのリラ――。
自分の名前を呼んだってことは互いに噂で知っているということか。
「タワーンタイクーンともあろうお方が俺に何の用だ?」
デンジは焦りを隠せない。
リラは可愛らしい外見とは裏腹に周りにプレッシャーを与える威圧感を放っていた。
デンジは今、汗だくだくである。
「別に……特に用なんてないよ。デンジさんて自意識過剰?
自分を重要人物だとおもったの? 面白いね!」
リラは言いながら腹を抱えて笑いだした。しかし、その笑いも
まるで作られたような不気味さを放っていた。
「なら何でここにいる?」
「ダイゴさんが本当に死んだか見に来たんだよ。案の定、死んじゃったね!
そうだ! せっかくだからポケモンバトルしない?」
リラは突然ポケモンバトルを仕掛けてきた。このゲームのルールでは
ポケモンバトルを放棄し続けたトレーナーは死ぬ。
だからこれもでも不本意ながらポケモンバトルを続けてきた。
(断ることはできない……か)
ここは仕方なくポケモンバトルをするしかない。
デンジはポケモンバトルをする覚悟を決めた。
「いいだろう。だが、小娘だからと言って手加減はせんぞ!」
「それはそうと、もう始まっているよ!」
「何!?」
突然デンジの身体は積み上げられた土管までふっとんだ。
デンジの目の前にリラの手持ちポケモン、フーディンが
超能力で空中に浮きながら次の攻撃を仕掛けようと構えている。
(なぜだ!? なぜポケモンがいることに気付かなかったんだ。
それに何で口に出さなくても奴はポケモンに命令できるのか?)
デンジはあまりのショックで頭が混乱した。
「僕の特殊能力に驚きを隠せないようだね。
そうだよ。僕は直接口に出さなくてもポケモンに自由自在に命令出来る。
すごいでしょ! これが僕の自慢のスキルさ」
リラは誇らしげに説明した。
(信じられん……。
ホウエン地方にはこんなすごいスキルを持つトレーナーがいたのか
そんなことよりも早くポケモンを出さねば)
デンジは急いでボールを投げ、電気タイプのポケモンであるレントラーを出した。
黒い犬の姿だが、全身の毛が逆立ち、身体じゅうから電気を発する。
「レントラー、ワイルドボルト!」
「………」
レントラーの身体がまばゆい光が発せられる。
膨大な電撃を帯びたレントラーがフーディン目がけてぶつかろうとするが
フーディンは楽々と避け、その極大な超能力で空き地に置いてある三つの土管が同時に宙に浮かして
レントラーにぶつける。レントラーは大きなダメージを受けた。
「レントラー!」
「勝負あったね! さあて、とどめといこうか」
やはり、口に出すのと出さないんじゃ全然違う。リラは心に思っただけで
ポケモンにすぐに伝わる。まさに以心伝心だ。
(か、勝てない! 奴は化け物だ! 人間じゃない!
俺みたいな凡人では一生かかっても勝てない)
デンジは心底から恐怖した。恐ろしい、この小娘は悪魔だ。
いや、小さな死神と呼ぶべきなのだろう……。
今のデンジには死神が足音を立てて迫っているのが聞こえてくる。
リラの圧倒的な力……忍び寄る死の恐怖にデンジの身体はガクガクと震えだした。
「デンジさん、やっぱり世の中才能が全てなんだ!
凡人がいくら努力しても天性の才能を持ったトレーナーにはかなわないよ。
僕のポケモンと心を通わせるスキルは努力して得たものじゃない。
最初から持ち合わせていたものなんだよ!
つまり、人間は生まれた瞬間から人生が決まってしまうんだ。
たまたま僕は天才に生まれた。そしてこの力を使ってタワータイクーンになった。
とても気持ちのいい人生だよ。正直、毎日人を見下しながら生きてる。
僕は表にださないだけで心の中では思いっきり見下してるんだ。
久し振りに本心を口に出してしまった。それではとどめをさすよ!」
リラは恐怖で地面に這いつくばってるデンジを見下すような冷たい目をしながら語った。
そしてフーディンが持つ二本のスプーンの先端が鋭く尖っていき、刃物に加工された。
デンジはレントラーの死……すなわち自らの死を覚悟した――。
「今からこの刃物に加工されたスプーンをレントラーの急所に投げさせるよ」
リラは邪悪な笑みを浮かべながら述べた。まさにその時――。
「デンジさん!?」
缶コーヒーを握りしめながらヒョウタが戻ってきた。
走ってきたのか、ヒョウタの顔は汗だくだった。
「やっと戻ってきたか、二人で戦えば何とかなるかもしれない」
デンジは思わぬ救援に喜び、立ち上がる気力が出た。
これでリラに勝てる。デンジの顔は見る見るうちに笑顔になった。
「やれやれ、あと一息だったのに仲間がいたとはね。
僕はついてないや。まあいい、二人まとめてゴミにしてあげるよ」
リラはヒョウタの登場に微動だにしなかった。二対一で戦うのが不利と理解しているのだろうか?
いや、リラは自分の力に慢心している。ただそれだけ……。
「ヒョウタ、早く助けてくれ!」
ヒョウタに助けを求める。しかし、ヒョウタは下を向きながら何か考える仕草を見せた。
そして――
「裏切りってよくあるんだよね」
ヒョウタの顔は突然、悪人のように人相が悪くなる。
ボールを投げて恐竜の姿のラムパルドを繰り出し、
「ラムパルド、もろはのずつき!」
ラムパルドは猛突進し、傷つき動きが鈍ったレントラーめがけてもろはのずつきを放った。
レントレーは致命傷を受けて虫の息となった。
「ヒョウタが裏切るなんて……まさか……。
おのれ! ヒョウタ! 許さん!」
デンジは怒り狂ってヒョウタを殴り飛ばそうとしたが、拳がヒョウタに届く前に
苦しみだし、倒れた。ヒョウタが嘲笑いながらこちらを見下ろしている。
「レントラーが戦闘不能になった。だからお前はもうすぐ死ぬんだよ。
さようなら、デンジ」
「君もね」
「何!?」
ヒョウタが振り返るとラムパルドがフーディンのサイコキネシスを受けて
頭を抱えながら苦悶の表情をして苦しんでいる。そしてラムパルドは呆気なくその場に崩れ落ちる
途端にヒョウタも苦しみだした。
「ぼ……僕は君の味方をしたのに……」
「ねえ、君は見た目は頭よさそうに見えるけど馬鹿なの?
人を簡単に裏切る奴はまたいずれ裏切るって知らない?
それに僕は仲間なんかいらないよ。
だって僕は僕以外の人間は全て見下しているもの……」
リラはヒョウタを見下すような目線で返した。
「そんな……く……苦しい」
デンジは薄れゆく意識の中、ヒョウタを一瞬、哀れだと感じた。
そしてまもなく二人は息を引き取った。
――残り二十名――
投下終了です。
これでやっと折り返し地点です。
乙。最後にリラが言ったことがもっとも過ぎるなwwヒョウタは自業自得だww
ツクシもチェレンもナギも、なんでこのゲームに乗ってんだよ
半分消えたか…
昔こんなスレあったねぇ
当時から見てた人っているの?
652 :
名無しさん、君に決めた!:2011/09/09(金) 20:53:24.59 ID:kLtLW3340
ミュウ失踪から来てなかったけど、一昨年?辺りに久しぶりにポケモン板に立って以来避難所含めチェックしてる
俺はドラーモン氏が投下してたり、避難所で作者人気投票とかやってた頃からいる
ぶっちゃけた話、元作者とか結構いるでしょ?
アダムス氏乙、スピーディーで良いですね
それでは投下します
――時刻は午前零時。
異変は、突然起こった。
『なに?』
真っ先に察知したのはホウオウ。
空き地で待機する五人の少年少女の表情に、不安と緊張の色が浮かび上がる。
そして次の瞬間、異変は目に見える形となって彼女らの前に姿を現した。
「あ、あれは……」
「ポッポにムックルに……ヤミカラス……?」
暗黒の空を駆ける何十、何百もの影――。それはカラスでも雀でもなく、この世に存在する筈のない生物だった。
野生鳥ポケモンの大群が翼を羽ばたかせ、夜空を渡っていたのだ。
『これは……』
「どうなっているの?」
『……おそらく……国中に潜んでいた鳥ポケモン達が、一斉に飛び立って群れを成したのだろう』
東から飛来してきた鳥ポケモンの大群は、そのまま彼女らの居場所を通過し、西の方角へと消えていく。
その異様な光景に一同が呆気に取られる中、ホウオウだけは常の冷静さを崩さなかった。
『そういうことか……』
何かを理解したように、ホウオウが呟く。ツバサが質すよりも先に、彼のテレパシーは一同の頭脳に伝達される。
『奴は大量のポケモンを一ヶ所に集めることで、次元の歪みを集中させて生み出す気だ』
「空間の神を誘い出す為ね……ってことは、あのポケモン達はイツキに集められているってこと?」
『うむ』
出木杉やジャイアンなどは首を傾げるが、次元の歪みの性質を知っているツバサには、それだけで敵の魂胆を読み取ることが出来た。
本来対象の世界に存在してはならない生物がそこに存在することで、次元の法則が乱れ、歪みが生まれる。
存在してはならない存在――ポケモンの存在が多ければ多いほど、次元空間への影響は強まっていく。
空間の神――パルキアは空間の守護神とも呼ばれている。自分が住んでいる次元空間にまで被害が及ぼうものなら、間違いなく元を断ちに現れる筈だ。
『奴は自ら空間の神の怒りを買い、己の前に現る瞬間を待っているのだ』
「回りくどい真似を……」
それが敵のやり方。
もし空間の神が現れなければ、この次元が崩壊してしまうことも判っているだろうに。
ツバサは奥歯を噛み締める。
「とりあえず、あんなポケモンの大群は一般人には見せられないわね」
この世界でのポケットモンスターはあくまで架空の存在であり、現実に存在していることが多くの人々に知られるのは危険だ。深夜とは言え、町中が大騒ぎになる。
ツバサは懐からモンスターボールを取りつつのび太の方へ振り向く。
「のび太、その秘密道具って奴で、町に居る他の連中を一時的に消すことは出来ない?」
ダメ元で、そう訊ねた。
しかし彼は数拍の間を置くと、Tシャツの腹部に貼り付けたスペアポケットの中を探り始めた。
「確か……あった! 独裁スイッチ!」
満面の笑みを浮かべて取り出したのは小型の押しボタン。
ツバサの無茶な要求に、ドラえもんの秘密道具は応えてくれるようだ。
のび太が言うには、どうやらこのスイッチを押すと使用者が口にした対象の存在を消すことが出来るらしい。もちろん効果は一時的で、永続的ではない。
「私達とイツキ以外の全ての人間と、関係ない野生ポケモンを消して」
「うん」
ツバサが言った存在を消す対象を口にして、のび太はスイッチを押す。
これで、無関係な者は全て居なくなったことだろう。
しかし、ホウオウは言った。
『駄目だ。確かに我々以外の人間の気配は消えたが、野生ポケモンは消えていない。どうやらその効果は、ポケモンには適応されないようだ』
「えっ?」
「そう……ポケモンは例外ってことね」
のび太達四人は秘密道具の効果に例外があったことに驚いているようだが、ツバサは至って平常心だ。そこまでは始めから期待していなかったのである。
モンスターボールからヨルノズクを繰り出し、彼女はその背中に乗り込む。
『あの大群が向かう先に、奴は居る』
「お前達、私に着いてきて」
「ああ」
「おう」
ヨルノズクが飛び立ち、出木杉とジャイアンが後を追って飛び上がる。彼らはポケモンではなく、ドラえもんの秘密道具、タケコプターの力を使っていた。
空を飛べるポケモンが居ないのはのび太も同じであり、彼も頭にタケコプターを装着している。
彼らに続いて飛び立とうとすると、のび太の背中に少女の声が掛けられる。
今回の戦いに参加出来ない、源静香の声だ。
「のび太さん、気をつけて」
「うん。静香ちゃんももしもの時はよろしくね」
「ええ……」
静香は空き地に留まり、お医者さん鞄を用意して待っている。戦うことが出来ないなら、別の方面で皆の手助けをしたいという意図だ。
それは彼女らしい健気な考えだと思うし、のび太としては彼女の分まで戦う所存である。
「じゃあ、またね」
一時的な別れを告げ、タケコプターを装着したのび太は闇夜の空に消えていった――。
タケコプターは最速で時速八十キロまで出すことが出来る。
しかしヨルノズクの飛行速度の前には、引き離されないように着いていくことで精一杯だった。
(なんて速さだ……)
ヨルノズクは決して素早さの高いポケモンではない。だが、タケコプターと比較すればそのスピードは一目瞭然だ。
薄目を開きながら、出木杉はヨルノズクの背を眺める。
風圧が呼吸を困難にし、息を苦しめる。身体も肺も強い方だが、このまま長時間の飛行をしていては危険だ。
そう心配する出木杉だが、それ以上タケコプターが速度を上げることはなかった。
彼らを先導するツバサのヨルノズクが、「何か」を前にして前進を止めたのだ。
「これは……」
「すげぇ……」
「何か」――それは鳥ポケモンの大群。
空き地で見たものよりも遥かに多数の鳥ポケモン達が、その場所に集まっていた。
壮観な光景に、思わず感嘆の息を吐く。しかし、すぐにホウオウから「気をつけろ」とテレパシーが入った。
『彼らは我々に敵意を向けている。奴に操作されているのだろう』
「イツキは?」
『この先に気配がある。だが、奴の元へ行く為にはこの大群を退けなければなるまい』
ホウオウは、この大群はイツキの居場所の壁となるようにして集まっていると言う。
最初の敵はここに居る全ての鳥ポケモン、つまりはそういうことだ。
出木杉達に気づいた彼らは、翼を羽ばたかせて一斉に襲い掛かってくる。最初に反応したのはツバサだった。
「ヨルノズク、熱風!」
ヨルノズクの翼から放たれる赤い風が、一ヶ所に固まっている鳥ポケモン達を吹き飛ばす。
しかし圧倒的な数の前には、その一撃は大した意味を成さなかった。
「喰らえ、空気砲!」
ジャイアンとのび太が右腕の空気砲を構え、大群に向けて発射する。一匹一匹のポケモンは弱く、そんな攻撃でもダメージは与えられるようだ。
しかし、空気砲では一匹ずつしか倒せない。ツバサのようにポケモンに攻撃させた方が賢明であるのは確かだった。
「いけ、ギャラドス!」
出木杉はモンスターボールからポケモンを放つ。
ギャラドスは水タイプであると同時に飛行タイプだ。鳥ポケモンとの空中戦も可能である。
「ギャラドス、暴れる!」
青い竜が群集に飛び込み、自分の周りに漂う鳥ポケモン達を手当たり次第殴り倒していく。攻撃を避けたポケモンを、出木杉は空気砲で撃ち落とす。
「全滅まで、あと三十分以上はかかるな……」
ここで時間を浪費するわけにはいかない。出木杉は空気砲を撃ちながらチラッと横目をヨルノズクの方に移した。
「ツバサちゃん、君は先に行って!」
「えっ?」
「僕達じゃ束で掛かってもイツキには敵わない。だから君だけでも!」
「出木杉の言う通りだ」
出木杉とツバサのやり取りに、ジャイアンが介入する。彼は空気砲を撃つばかりか、接近してくる鳥ポケモンを拳で殴り飛ばしていた。
「あの野郎に勝てるのはお前しか居ねぇ!」
「ここは僕達に任せて!」
ギャラドスが敵を薙ぎ払い、ヨルノズクの前に道を開ける。
ツバサは俯いた後、小声で言った。
「……ありがとう……」
ヨルノズクの熱風がさらに広い道をこじ開け、彼女は猛スピードで突き進んでいく。
彼女を追い掛けようとする鳥ポケモン達は、天才ガンマンと唱われる野比のび太が撃ち落とした。
「頑張れ……」
出木杉は祈るように呟く。
ヨルノズクに乗る小さな背中が、今は何よりも頼もしかった。
周囲を野生鳥ポケモン達の警備に囲まれた、名前の無い廃ビル。
その屋上に、イツキと骨川スネ夫の姿があった。
するとイツキの元に、浅緑色の妖精が近づいてくる。
『マスター、これでこの国の野生鳥ポケモンは、全てここに集まりました』
「ご苦労様。ゆっくり休んでくれ」
妖精――セレビィは彼の肩に腰を下ろす。
「あれほど多くのポケモンが集まれば、次元の歪みはここに集中して生まれる。ほら、見てごらん」
ふっと頬を弛緩させ、イツキはビルの周辺に目を向ける。
数十ヶ所ほどの空間に、直径二十センチの穴が空いていた。
「これだけ次元空間が歪めば、空間の神が黙っていないだろう」
「でも……」
セレビィに対して話していた筈が、横合いからセミリーゼントの少年が割り込んでくる。
イツキは快くも不快にも思わず、ただ彼の顔を見下ろした。
「空間の神って、パルキアのことでしょ? もしやって来たとしても、そう簡単には捕まらないよ」
少年は得意気に言い、笑みを浮かべる。
イツキはそれに苦笑で応え、懐から取り出した紫色のボールを彼の前に差し出した。
「それは……!」
一転して、彼の表情が固まる。その変化にイツキはまた苦笑を浮かべた。
「このボール、マスターボールは、どんなポケモンでも捕まえることが出来るんだ。例え相手が神と呼ばれしポケモンであってもね」
確かに普通のモンスターボールを使って伝説のポケモンを捕獲するなど簡単に出来ることではない。空間の神が相手ならなおのこと、それは限りなく不可能に近い。
しかし、イツキの自信は根拠なく作られたものではなかった。
捕獲を前提に話が出来るのは、このボールを手にしているからこそなのだ。
「さて……そろそろかな?」
マスターボールを元の場所にしまい、イツキは遠方を見やる。
そこには、鳥ポケモンの大群をものともせず突っ切っていく茶色のポケモンと。
金色の目をした少女の姿があった。
「ツバサちゃん!」
セミリーゼントの彼が少女の名を呼ぶ。
やはり、あの群集を最初に突破してきたのは彼女だったか。
流石はあの少年の子供……と、イツキは唇をつり上げた。
「ようこそ果たし合いの場へ。ヒビキ・ツバサさん?」
ヨルノズクはこの廃ビルの屋上に止まり、降りた少女はイツキと向き合う。
胸に下げた金色のモンスターボールが、暗闇の中で一際輝いていた。
投下終了
次回からは戦闘回になります
乙。のび太の射的の腕が発揮されたか。そしてジャイアンマジ野生児
元四天王とはいえ、マスターボール持ってるとかすげえ
666 :
名無しさん、君に決めた!:2011/09/12(月) 17:52:18.73 ID:///mktVg0
このスレまだあったのか
何年か前に外伝で書いてたぜ
のび太の七色の翼氏乙!
皆さん、お待たせしました。最近、なかなかアイディアが出ず、
今までのようなペースで投下することが不可能になりました。
それでは久し振りに投下します。
第九話『中盤戦』
1
サカキグループは無人の住宅地の空き家にいた。
空き家といっても電気は付けられるし、水道だって使える。
それに二階建てで驚くほど綺麗に掃除をしているかのように隅々まで綺麗だった。
このグループはリーダーのサカキを筆頭にミツル、エリカ、スズナ、アスナの五人。
間違いなく他のグループと比べて大人数であろうとサカキは思った。
サカキ達は一階のソファでくつろいでいた。
サカキはゲームを進めていくうちにこのゲームの必勝法を編みだした。
愛読しているある独裁者について書かれた本を読むのをいったん止めて
話を切り出す。
「諸君! よく聞いてくれ。このゲームには必勝法がある。
それは大人数のグループを形成し、他のグループを蹴散らす。
そして最後に自分たちのグループ内で最終勝者を誰にするか決めたら、
わざと最終勝者に決めた人間に負ける。それで生き残った最終勝者は
『このゲームで死んだトレーナーを全員生き返らせてくれ。
ただし、カミツレなど悪人は除いて』とドラえもんに願いを言う。
どうだ!? 素晴らしいアイディアだろ!」
サカキは必勝法を四人に説いた。この必勝法を聞いた四人は
見る見るうちに笑顔になり、狂喜した。
「すごいわ! サカキさんは天才よ!」
「そうよ! その手があったのは気がつかなかった」
「やっぱり、カミツレなんかよりサカキさんに付いて行って正解だったわ」
「さすがはサカキ様!」
四人はサカキの必勝法を聞いて気分が良くなったようだ。
しかし、この必勝法の落とし穴は最終勝者に決めた人間が裏切り、
自分のためだけの願いを叶える可能性があること。
サカキはそれに目を付けていた。
サカキの策とは自慢の巧みな話術で自分が最終勝者になり、
自分の願いを叶える。他の連中を生き返らせることは絶対にない。
サカキの願いとは不老不死。一番の願いは世界征服だが、
それは時間をかければ叶えられると読んでいた。
四十歳を超えて老いによる焦りがサカキにはあった。
幼いころより感じていた天才的な才能も薄れ始めていたのもあり、
サカキは焦っていた。
(俺様は必ずこのゲームに勝利し、不老不死を手に入れる。
そして元の世界に戻ったらじっくり時間をかけて世界征服を成し遂げて見せる)
サカキの目は爛々と輝いていた。
問題は既に洗脳したミツル以外の三人にいかにして自分を最終勝者にすると説き伏せることだ。
(いっそ洗脳してしまうか?
いや、三人同時に洗脳は若いころなら可能だったが、
今の俺様には無理だ。二人がせいぜいだ。どうする?
俺様の話術でなんとかするか)
意を決してサカキは口を開いた。
「問題は最終勝者を誰にするかだが、私は辞退する。
諸君はまだ私を信用していないようだし……」
サカキは下手にでた。この場で自分が最終勝者になると言ったら
怪しまれる可能性がある。だからあえて辞退すると言った。
「サカキさん! 私たちはサカキさんを信頼しているわ
だから、サカキさんが最終勝者になるべきだわ」
「そうよ、サカキさんは噂で聞くよりよっぽど良い人だわ」
「私もサカキさんなら信頼できるような気がする」
思った通り、サカキの低姿勢に騙される三人。
しかもこの必勝法の落とし穴に気付いていない馬鹿ばかり……。
(単純すぎる。やはりこの三人は支配される側の人間。
そして俺様は支配する側……。
このゲームで問われているのはポケモンバトルの強さではない。『支配力』だ)
サカキは改めて思った。この世の中には支配する人間と支配される人間の二通り。
サカキは幼いころよりその天才的な能力と卓越した頭脳によって支配する側の人間だった。
「諸君、ありがとう。私は人にここまで信頼されるのは初めてだ。
謹んで最終勝者の役を引き受けよう」
作戦が上手くいったことにサカキは手ごたえを感じた。
しかし、サカキは胸騒ぎを感じていた。それは死んだカミツレのことである。
(カミツレは確かに死んだはずだ。しかし、なぜか胸騒ぎがする)
サカキはすぐにその疑念を強引に拭い去った。死んだ人間が生き返るはずがない。
しかし何事もなく着々と優勝に向かって突き進んでいることにサカキは違和感を感じていた。
2
大きな遊園地――遊園地だというのに人が全くいない。
ジェットコースターもメリーゴーランドも観覧車も何もかも停止していて不気味だ。
その閑静な遊園地に帽子を被り、緑色の髪に百八十センチオーバーの大男だが、
細身の体型でハンサムなNと中肉中背でモヒカン頭のカゲツ。
Nはのび太の町から遠く離れた遊園地で残り人数が減るのを待っていた。
彼は心の内ではこのゲームに乗っていた。しかしカゲツにはこのゲームに乗っていないと
嘘をついている。Nはプラズマ団のボスだった。
だが、プラズマ団はある人物により崩壊。
そして自身はゲーチス達による単なる傀儡――つまり操り人形だったことが発覚する。
ショックを受けた彼はその後、カントー地方一帯を縄張りとするロケット団ボス、
サカキに弟子入りして様々なことを学んだ。新たなるNの野望――。
それは自らが神となり、無能な人間からポケモンを解放し、
選ばれた人間のみポケモンを所有する新世界を創造すること。
それは着々と進み、今では多くの信者を獲得。世論もN側に傾きつつあった。
それでも依然としてNの思想に反対する者もおり、
そのためこのゲームでは偽名を使って参加している。
カゲツに名乗っている仮の名前は『タロウ』(太郎)
Nの顔は組織内の一部の人間しか知らないので好都合だ。
(サカキは世界征服など俗なことを考えているが、僕は違う
選ばれたエリートのみがポケモンを持ち、無能な人間を支配する理想の世界。
僕は新世界の神になる! カゲツは僕を信用しきっている。
馬鹿め。最終的に優勝するのはこの僕)
Nは笑いがこみあげてくるのを必死で押さえていた。なぜなら
Nは小学校の校庭を普通は出るところを逆に小学校に引き返して
ドラえもんに『のび太は必ず僕が始末するから優遇してください』と言った。
ドラえもんがのび太という青年を憎んでいることをあの教室で確信したからだ。
こうしてNは最強クラスの伝説のドラゴンポケモン、レックウザと
禁止エリアを自由に設定できる装置を手に入れた。
この装置のスイッチを押せばその場は十分後、禁止エリアになる。
いわゆるこのゲームにおいて絶大な効果を発揮する道具をNはまんまと手に入れていた。
しかし五回までという制約つきだが、使い方次第で十分に最強の武器となりえる。
(カゲツを実験台にしてやる)
無情にも自分を信じてきたカゲツをこの道具の実験台に目論むN――。
「カゲツさん。僕はレックウザに乗って見回りをしてきます」
「おう! 頼むぜ、相棒」
アホ過ぎる。何にも疑いを持たないのかとNは心の中で笑止した。
(クックックッ! 何て馬鹿な男だろう。
サカキには到底及ばない。カゲツ、お前には四天王を名乗る資格はない。
後はカゲツに見えないようにスイッチを押して遊園地を離れるだけ……)
Nはカゲツに見えないように後ろを向いてデイバッグから装置を取り出し、
おもむろにスイッチを押した。するとピコンピコンと警戒音が鳴り始めた。
そしてNはモンスターボールを投げて緑色で長い胴体の威厳漂う巨竜、
レックウザにまたがり、大空へと羽ばたいた。
(計画通り!)
大空へと駆けるレックウザに乗っている最中、
「僕はサカキを超える! 僕は新世界の神になる!」
Nはそう抱負を口走った。
カゲツ視点
カゲツはタロウの帰りを首を長くして待っていた。
しかし、一向にタロウは帰ってこない。
「タロウの奴……帰ってこねえな」
カゲツは急に不安を抱えた。タロウが帰ってこなかったらどうしよう。
それに何だ? ピコンピコンとなるこの音は……。
(もうすぐ十分が経過するぞ)
次第に音が大きくなり、なぜかカウントダウンが聞こえた。
十! 九! 八!
(ま、まさか。これは……タロウの奴……俺を嵌めたのか?
あの時、奴は後ろを向いて何かこそこそやってた……)
カゲツは自分がタロウに嵌められたのにようやく気付いた。
このカウントダウンはカゲツには終焉のカウントダウンに聞こえる。
「俺は死ぬのか? 先に死んだダイゴさんのように……」
三! 二! 一!
ドクン!
カゲツはダイゴの後を追うように死亡した。
――残り十九名――
投下終了です。
まったく関係ない話だが、とても気になっていることがあります。
それはドラクエ10の噂。
噂ではオンラインで月額課金があるとのこと
誰かの予想ではアイテム課金があるかもしれないらしい。
たとえばメタルキングの剣10000とかメラゾーマ一発500とか
ありそうで怖い。ドラクエ10に一年間かかる金額は60000というスレも発見。
ポケモンをやっている人の中でもドラクエ好きの人も結構いるはず
自分はオンラインと知った時点でドラクエ引退を決意しました。
皆さんは買う?それとも買わない?
乙。買わないよ
というかほとんどライトじゃねーかww
サカキ賢いな
アダムス氏乙、Nが完全に月に……
ドラクエは買わないと思う。
自分も投下します
金色の満月の下で対峙する二つの影。
それは、青年と少女だった。
二人から発せられる強力な気迫に、スネ夫は足を竦める。とてつもない何かが起こる予感がしていた。
「この暗さでは流石に戦いにくい。とりあえず明かりを点けようか」
そう言ったのは赤紫色の髪の青年だ。右手の指をパチンと鳴らした次の瞬間、廃ビルの屋上が明るいライトに照らされる。
すると、今までよく見えなかったこの場所の姿がはっきりと目に映った。
「バトルフィールド……?」
少女が驚きに目を見開く。彼女と青年とスネ夫が今立っている足場には、中心部に巨大なモンスターボールのマークが描かれていた。
「ただの床じゃ崩れてしまうからね。君と戦う為に頑丈にしておいたんだ」
「準備がいいわね」
両者は互いに目で牽制を入れながら、懐からモンスターボールを取り出す。
ゴクリとスネ夫は息を呑む。今から始まる二人の決闘を見物していきたいところだった。
「お前は早くここから去って、のび太達を助けに行って」
しかし、仮にも人質の立場である以上、少女はこの場に留まらせてはくれなかった。
「のび太? のび太が来てるの?」
「ジャイアンと出木杉も居る。お前も戦えるポケモンを持っているんでしょ?」
質問を受け、スネ夫は戦えるポケモン、ゴルバットを繰り出す。親友のジャイアンの協力で捕まえたズバットを、彼は進化させたのだ。
「どこへでも行くがいい。君にはもう用はないからね」
ゴルバットに乗って飛び立とうとするスネ夫を、青年は全く止めようとはしなかった。興味すら抱かず、依然として少女の目を睨んでいる。
「……それじゃあお言葉に甘えて……」
スネ夫が自分の言葉を言いかけたその時、戦いの火蓋は切って落とされた。
二人が取ったモンスターボールから一匹ずつポケモンが出現する。
少女は水ウサギポケモン、マリルリ。
青年は人形ポケモン、ルージュラ。
ボールから飛び出すと同時に、二匹は互いの攻撃をぶつけ合った。
マリルリは水の波動、ルージュラはサイコキネシスを。
威力で勝るサイコキネシスがマリルリの水の波動を掻き消し、そのまま本体に襲い掛かる。
マリルリは強力な念の力によって宙に跳ね飛ばされるが、バック転の要領で体勢を整え、地に足を着けた瞬間にトレーナーが指示を出す。
「アクアジェット!」
目にも留まらぬ超スピードで接近し、ルージュラに打撃攻撃を叩き込む。しかし、その動きは青年の予測の範疇だった。
「目覚ましビンタ」
ルージュラは攻撃を喰らいながらもマリルリを睨む視線を緩めず、その頬に痛烈なビンタを浴びせる。
攻撃から次の攻撃へと転じる動作は、マリルリよりもルージュラの方が早かった。目覚ましビンタで体勢を崩された隙を狙い、青年は本命の一撃を命令する。
「サイコキネシス」
ほぼ零距離からエスパータイプ最高クラスの技が放たれる。
直撃を受けたマリルリの青い姿は一瞬で霧散し、この世界から消え去った。
しかしサイコキネシスが貫いたのはマリルリではなく、マリルリの身代わりだった。
「上か……」
青年は冷静に、本体の居場所を特定する。
だが、一歩遅かった。
「捨て身タックル!」
空中から落下する重力まで味方に付けた渾身の捨て身タックルが、ルージュラの脳天に叩き込まれる。
ただでさえ耐久力に乏しいルージュラにその攻撃を堪えられる筈がなく、たちまち地に崩れ落ちた。
だがダメージと比例して、技の反動も大きい。
その名の通り捨て身の攻撃で敵を倒したマリルリは、自らの技で意識を失った。
マリルリとルージュラの戦闘は三分も掛からず、しかも引き分けに終わったのだ。
(なんだ……今どんなバトルをしたんだ?)
素早さの低いポケモン同士による異常な高速戦闘に、スネ夫はこの場から飛び立つことすら忘れていた。
ジャイアンよりも強く、出木杉よりも速く、自分よりも巧みで……二人のポケモンバトルは彼の知るそれよりも何ランクも上を行っていた。
「ゆっくり休んで、マリルリ……」
少女と青年は引き分けに終わった自らのポケモンを一言も責めず、モンスターボールに戻す。
すると、少女がスネ夫の方に目を向けてきた。
「さっさと行きなさい! 何ボーッとしているのよ!?」
「あ……う、うん」
あれほどの戦いを無視しろと言うのは酷だ。だが、彼がこの場に居ても何の役にも立たないのは事実であった。
「……ツバサちゃん、頑張って!」
別れ際、スネ夫は少女、ツバサに応援の言葉をかけた。しかし彼女の反応は薄く、再び青年と向き合ってしまった。
「いかに強敵とはいえ、フレンドを失うのは癪に触るものだ」
青年、イツキの表情には最早笑みはなかった。ただ戦うことだけに精神を集中させた、戦う者の目。元四天王と言うだけのことはあるようだ。
「流石にやるね。あの少年達とは比較にならない手応えだ」
ホウオウを持つ彼女を宝の持ち腐れと罵った彼だが、イツキは前言を撤回した。
君は強い、と。
「本来の世界で君が辿る道は、やはり父と同じチャンピオンロードのようだね」
「私はそんなことに興味ない。チャンピオンも四天王も、どうでもいいことだわ」
「ふっ、受け継いだ才能が泣くよ」
「才能なんかじゃない。私がアイツから受け継いだものなんて、何もない!」
新たなモンスターボールを手に取り、ツバサは二匹目のポケモンを繰り出す。
彼女が初めて持ったパートナーであり、最高のポケモン。
バクフーンの雄叫びは暗黒の夜空にこだました。
「血は争えないね。お父さんを嫌う割には、似ているところばっかりだ」
イツキもそれに応え、二匹目のポケモンを繰り出す。エルレイド。ジャイアンと出木杉に苦汁を飲ませた強力なエスパーポケモンだ。
「来なよ」
「言われなくても……」
バクフーンとエルレイドからは、マリルリとルージュラが対峙していた時以上の凄まじいプレッシャーが放たれている。
そうだ、本番はこれからだ。
「火炎放射っ!」
背中から赤い炎を放出し、バクフーンは口から灼熱の豪華を吐き出す。
エルレイドは右方向に軽くステップを踏むと、その射線から飛び退いた。
「サイコカッター」
すかさず反撃の一撃が襲い掛かってくる。だが、エルレイドと同じようにバクフーンもその攻撃を容易く避けてみせた。
「スピードスター」
簡単に攻撃は当たらないと判断し、ツバサは牽制を掛ける。必中の技、スピードスターは寸分狂わずエルレイドに向かって走っていくが、敵はそれを片腕の刃で弾き飛ばした。
「その程度の攻撃、避けるまでもない」
「なら、これならどう?」
「むっ?」
バクフーンの背中の炎から、広範囲に渡って黒い煙が広がっていく。攻撃性のあるその技は噴煙。避けなければダメージは免れない技だ。
「まもる」
出足が送れ、左右にも上にも逃れられないと踏んだイツキは、完全防御の技を命令する。
思い通りに動いてくれた。
まもるはどんな攻撃も防ぐ。しかし、その体制を解く瞬間には僅かに隙が生まれる。
噴煙をやり過ごしたエルレイドの背後には、既にバクフーンが接近していた。
「火炎放射!」
回避不能の距離まで間合いを詰め、得意の炎を放射する。
間違いなく直撃する――筈だった。
しかし次の瞬間には、バクフーンがエルレイドに蹴り飛ばされていた。
「テレポートにはこういう使い方もある」
「………………」
流石は元四天王。こちらの攻撃を最初から読んでいたということか。
――強い。
敵のポケモントレーナーをそう認識するのは、あの日ポケモンリーグを去って以来のことだった。
ポケモンリーグで最後に戦ったあの少年も、目の前の彼女と同じ色の瞳をしていた。
ポケモンを自分の手足のように自在に操る戦い方といい、彼女はあの少年とそっくりだ。
『マスター……』
「大丈夫だよ。私は決して負けたりはしない。君達を救うまでは、決してね」
セレビィを抱きしめるその腕の力が、意識せずとも強まっていく。
勝率は九十九パーセントと見える。だが、一パーセントの不安が彼に多大な緊張感を与えた。
「エルレイド、テレポートから瓦割りだ」
遊びはしない。彼女とのポケモンバトルは空間の神を誘き寄せる為の手段に過ぎないが、気を抜ける相手でないことはこれまでの戦いで判っていた。
あらゆる移動過程をショートカットしたエルレイドがバクフーンに接近し、その頬を殴打する。
テレポートを戦闘に応用することなど、よほど訓練を積んだポケモンでない限り不可能だ。彼のエルレイドはその訓練を積んだポケモンの一匹だった。
どこから現れて攻撃が来るのか判らず、バクフーンは対処に苦しんでいる様子だ。そんな優位な状況をわざわざ見逃すほどイツキは甘くない。
「もう一撃だ」
一瞬にして姿を消し、一瞬にして姿を現す。エルレイドは敵の死角から拳で殴り掛かる。
しかし。
その拳が敵の体に到達するよりも速く、敵の拳がエルレイドの腹部にのめり込んでいた。
「炎のパンチ……」
ポーカーフェイスが崩れ、イツキは思わず驚愕の表情を表す。
まさか……そんなことが……
「テレポートによる攻撃を、初見で見切ったというのか!?」
そんなことが出来るトレーナーは今まで戦った中で一人しか居なかった。
彼女の父、ヒビキ・ゴールドただ一人しか。
(どこまで似ている……!)
悶えるエルレイドに、バクフーンは火炎放射を放つ。エルレイドは痛みを堪えながらもテレポートを使い、攻撃から後方へと逃れた。
「今のは……ホウオウの力かい?」
『違う。エルレイドが出現する位置を即座に特定し、指示を送ったのは全て彼女だ』
「まさかね……親子二代に渡って破られるとは思わなかったよ」
大概の敵は今のテレポート攻撃で瞬殺してきた。それが彼女には、ヒビキ・ツバサには通用しないらしい。
『何の見込みもなしに、我が彼女を選ぶとでも思ったか?』
金色のモンスターボールからのテレパシーが、どこか得意気に聞こえた。
確かにその通りだ。
彼女の能力はホウオウの操り人として相応しい。
「ふふふ……はっはっはっはっは!」
イツキは高笑いする。ここまで笑ったのは何年ぶりだろうか。
「……面白い。最後の敵として君以上の者は居ないよ」
彼女の力を見くびっていたようだ。
ならば教えてあげよう。
エスパー修行に明け暮れた、このイツキの真の実力を――。
投下終了
最近のび太が空気ですが見せ場は用意しています
乙!これは続きが楽しみになる勝負だ
テレポートってやっぱそう使えるよな
子どものころからそう思ってた人多いと思う
もうすぐ容量埋まっちゃいそうだね
のび太のポケモンは種族関係なく特性スナイパーがつきそう
500KBまでだっけ?
パワーパフガールズVSドラえもん!?♪。
保守
次スレが必要か?
今夜投下する予定だが、容量オーバーのことを考えるとこちらに投下しない方がいいのかな
次スレを立ててそこに投下するのとどちらがいいでしょう?
次スレで
自分では立てられなかった……申し訳ありませんが誰かお願いします
スレタイはSSスレとわかるように変えた方がいいですよね
てす
DAT落ちは512KBだったような
埋め立てる必要があるな
浮上せりww
続き乙ってくれ。
あと他のスレからも移してほしいなーw
埋め立てー
7レス違い
??
ほひまひまはたはたまはまさたはまはまはまはたはまはまばはまさあはまはまさなまはまはまはまはまはまはま。さたはまはみさまはたは
たさはなまさまやなやまさやたふまひはまたわなさたふまふまふた
田様は田畑ひた是たる間の間
ここの残り何しようか
/ ̄ ̄ ̄ ̄\,,
/_____ ヽ
| ─ 、 ─ 、 ヽ | |
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|` - c`─ ′ 6 l
. ヽ (____ ,-′
ヽ ___ /ヽ
/ ヽ
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シュッ i||!| | |
シュッ i|!i|!i ノ _____|
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