するといつの間にか僕の背後に立っていた10代後半くらいの少年と目が合った。
互いに固まってしまい妙に気まずい空気が流れる。
すると少年が口を開いた。
「見た所どこからか逃げ出してきたポケモンだよね。俺、色々な地方を旅して回ってるんだけど良かったら一緒に旅をしない?」
無断でポケモンフーズを食べたことを責められると思っていた僕にとって意外すぎる言葉だった。
この人と一緒に旅を続ければ気も晴れるかもしれない。
僕は少年が差し出したモンスターボールの中に自分から入った。
これが今のご主人との出会いだった。
3人目のご主人は長い間旅を続けてると言っても滅多にポケモンを捕まえないから彼のトレーナー歴の中で僕が6匹目のポケモンになっていた。
僕が入るまでご主人の手持ちの中で最年少だったルカリオさんが何かと面倒を見てくれていて、それを最古参のバシャーモおじさんが「自分より年下が来た物だからルカリオがお兄さんぶってる」とよくからかっていた。
ちなみにバシャーモおじさんは厳つい顔とは裏腹に陽気でよく冗談を言う。
そんなこんなで幾つかの地方を巡る旅を続けて新しい仲間とも打ち解けた頃にその出来事は起きた。
「今日はとっても良い物が手に入ったんだ」
ご主人がニコニコしながら僕に話しかける。
良い物ってって何だろう?
そう思ってるとご主人は「それ」を僕の目の前に差し出した。
「それ」を見た瞬間僕は凍りついた。
「光の石!随分レベルが上がったしそろそろ進化しても良い頃かな〜って思って。手に入れるの苦労したんだぜ」
そこまで言うとご主人は僕の異変に気付いた。
今の姿に進化した翌日に起きた事故の光景が鮮明にフラッシュバックする。
トラックに突っ込まれ、ぐしゃぐしゃにひしゃげた車。
血で赤く染め上げられた壊れたモンスターボール。
体が震え始めて止まらない。
多分僕の顔は青ざめてるはず。
たしかに進化すれば体も大きくなってずっと強くなる。
でも2人目のご主人は僕が今の姿に進化した翌日に死んだ。
1人目は卵から孵った僕の姿を見て捨てた。
卵からトゲピー、トゲピーからトゲチックと姿が変わる度にご主人に捨てられるかご主人を失うかしている。
だからまた進化したら今のご主人やバシャーモおじさんたちも…
そんなの絶対嫌だ!
頭を両手で抱えて悲鳴に近い声で叫んだ。
「ごめん!ポケモンの言葉は分からないけど俺とっても酷いことをしちゃったみたい。本当にごめん!」
ご主人は何も悪くないんだから謝らないで。
僕のために光の石を手に入れてくれたのは分かってるよ。
それは十分わかってるけどそれだけは絶対に嫌!
僕、これ以上誰とも別れたくないよ!
ルカリオさんが一体どうしたんだと声をかけてくれてる。
そのルカリオさんにバシャーモおじさんが「今はそっとしておいてあげよう」と声をかける。
それからしばらくして夕暮れになった頃、ご主人が小袋を持って僕の前に現れた。
「進化を嫌がってるのにこんなことをするのは無神経だと思うけどこの袋の中には光の石が入ってる。これを君に渡す。この石を捨てるもこれを使って進化するも君の自由だ」
最初は小袋を投げ捨てようと思ったけど、折角ご主人が僕のために手に入れてきた物を捨てるのも気が引けるし…
首から下げるのに丁度良い紐がついてるのに気付いた時、とりあえずこの石をどうするか保留する気になった。
この石をどうするか時間をかけてゆっくり考えよう。
ご主人は日替わりで丸一日ポケモンをボールから出して連れ歩いている。
その日は偶然にも僕が外の出る番だった。
いつものようにご主人の後ろからついて歩く僕。
だけどその時は気付いていなかった。
この日が光の石の一件に決着を付ける日になると。
「次の町までもうすぐだ」
タウンマップを見ながらご主人が僕に話しかける。
今僕たちが歩いているのは山道。
すぐ近くが崖になっていて覗き込むと真下まで吸い込まれそうな程高い場所に僕たちがいることが分かった。
崖からなるべく離れて進もうとしたら突然僕たちの目の前に野生のポケモンが姿を現した。
「頼む!」
ご主人のその一言ともに僕と野生にポケモンの戦いが始まる。
野生のポケモンとの戦いはすぐに終わった。
伊達に色々な地方を巡る旅をしてたわけじゃない。
ご主人と出会ったころとは比べ物にならないほどレベルも上がってたし技マシンや秘伝マシンで色々な技を覚えてる。
だけどこの戦いで1つだけミスをした。
圧倒的な力の差を見せつけて相手を追い払うことには成功した。
でも相手が逃げる直前にご主人に向けて一発何かの光線を放っていた。
「うわっ!」
ご主人の足元に相手の攻撃が当たり爆風でご主人は崖に向けて吹き飛ばされた。
しかも吹き飛ばされた勢いはそのままに崖から真っ逆さまにご主人は落下していた。
それも物凄い勢いで崖のはるか下の地面に吸い込まれるように。
僕はご主人を追って迷わず崖に飛び込んだ。
幸いにもご主人は無傷だったけど爆発の衝撃でご主人は気を失っているようだ。
落ちていくご主人を追って僕も垂直降下で崖を下っていく。
だけど物凄い勢いで落ちるご主人に追いつけない。
僕とご主人の距離が縮まらないまま地面が近づいていく。
このままじゃ追いつけない!
また僕の脳裏に2人目のご主人を失った事故の光景がよぎる。
このままご主人が地面にたたきつけられたらボールの中のバシャーモおじさんたちも潰れて死んでしまう。
嫌だ。
もう誰も失いたくない!
だから…!
僕は首から下げてる小袋から迷わず光の石を取り出した。
お願い!
僕にみんなを守る力を!
光の石が輝き始めると同時に僕の体は激しく光り始める。
光に包まれ僕の体が大きく変化すると同時にスピードが一気に上がった。
だんだんご主人との距離が縮まる。
そして遂にご主人に追いつく。
光をまとったままご主人を背中に乗せて一気に上昇する。
それと同時にまとっていた光が飛び散り、新しい姿の僕が太陽に照らされた。
僕がトゲチックからトゲキッスに進化した瞬間だった。
安全な場所に降り立った後、ご主人を僕の背中から降ろすと同時にご主人は目を覚ました。
「トゲチックなのか?」
僕は頷いた。
この姿になったことは後悔していない。
なぜなら今度はご主人とみんなを失わずに済んだのだから。
それから数日後、とある町のダブルバトル大会に僕たちは出場していた。
くじ引きで決まった組み合わせの2人のトレーナーが優勝を競ってダブルバトルをする。
ご主人と一緒に組むことになったのは旅立ったばかりの新米トレーナーの女の子。
バトルの前に僕たちは女の子のポケモンたちと顔合わせをした。
わぁ!小さくてかわいい子たちが一杯いる!
よーし、お姉ちゃんはりきっちゃうぞ!
そう言うと女の子のポケモンたちは一瞬固まった。
「えっ、お兄さんじゃないの?」「あたし好みのイケメンだと思ったのに」そんな声が聞こえてくる。
僕これでも年頃の女の子なんだよ…
軽くショックを受けているとルカリオさんが僕の肩に手を置いて呆れ気味にこう言った。
「だからあれほど言葉づかいを直せと言ったのに…」
その様子を見たバシャーモおじさんは「お姉さん気取りをするはずが当てが外れたな」と笑いながら言ってる。
そんなことをしてるうちに次は僕たちの順番が回ってきた。
ご主人は「先発はトゲキッスに任せる」と言ってる。
そして観客の喝采の中ダブルバトルが始まった。
女の子が出したポケモンはシェイミ。
優勝目指してがんばるぞ!
こうして僕たちのダブルバトル大会は始まった。
これからも色々な出会いと別れを経験することになると思う。
だけど僕は色々な人やポケモンの出会いを大切にしていきたい。
そのことを胸に刻みこれからも旅を続けていく。
END
感激した。
607 :
名無しさん、君に決めた!:2011/03/06(日) 16:55:21.52 ID:hIop7Pnm0
イイハナシダナーーーーーー
トゲチックが好きすぎて厨ポケ化したトゲキッスは嫌いだったけれど
この話のおかげではりキッスなら好きになれる気がする
608 :
sage:2011/03/06(日) 17:05:48.22 ID:hIop7Pnm0
あげてしまったすまん
うちのはりチックにすてみタックルかましてもらってくる
いい話だった。よかったねトゲキッス
最後に出てきた女の子とシェイミってもしかして……
傭兵の話のシェイミか
ID出ないからって調子に乗っちゃダメ-
書くことを強要したり物語を引き合いに出しすぎるのはやめとけよ
言わせんな恥ずかしい
>>605 トゲチック(キッス)可愛いし、進化シーンも凄いドラマチックで良かった!良い話でした。乙。
「日常」
とある町のとある家族の日常風景である
「ちょっと〜朝ごはんできたわよ〜、早く起きないと学校遅刻するわよ…って、もう起きてたのね、というか今日は日曜だったわね♪」
二階からおりてきた少年は無言でテーブルにつく
家の中だというのにやけに帽子を深くかぶっている
「そうそう昨日、隣の奥さんのヨーテリーちゃんがry」
少年は顔をうつむいたまま箸をすすめる
テレビのアナウンスが時刻を告げる
「ここでニュースです、今朝方ホドモエからシリンダーブリッジにかけての河原に、大量のポケモンたちが捨てらているのが発見されました、ポケモンは生まれたばかりの子ばかりだということです」
「こわいわね、ホドモエ付近は学校の通学路だし…」
少年の箸がとまる
「警察の調べによると、川の流れからホドモエの跳ね橋から投げ捨てられたと考えられ、現場の検証を急いでいます」
「また連日、跳ね橋付近で、大量のポケモンとタマゴを持ち歩いている少年の目撃情報が寄せられており、少年は「ハネ」を集めながらぶつぶつと独り言を口にしながらポケモンを孵化させていたとのことです」
少年は帽子のかげからテレビを見つめている
「ハネを集めながら?一体なんのためにかしら?あっ、そう言えばこの前あなたからもらったハネもすごい綺麗な色してたから、きっとこの子もコレクションとかしてるのかしらね」
「…いってくる」
少年はつぶやき立ち上がる
「あら、もう出かけるの?気を付けていってらっしゃいね、夕飯までには帰るのよ〜」
とある町のとある家族の日常風景である
既出でしたらスマソ
>>615-616 いや、ハネ関連の話はあんまなかった気がする。一言しか喋ってないのに少年の心情が伝わってくるわ…。乙です
何気ない一言が少年の心に何を考えさせるのか…
色々想像できて良い話です。
>>617 >>618 感想ありがとうございます
誤字脱字あると思いますが、また機会があれば投稿させていただきたいと思います
図鑑を埋めるために捕獲して進化→置き場に困ってポイ
なんでこうゆう話が投下されないんだろ GTSのエサにされるミミロップならいたけど
>>620 元々野生だったものだし、Lvも多少高いだろうからネタにし辛いのかもな。
だが、逆に寧ろ、親しんでいた主人と別れるという悲壮感が強まるかも…とか今考えてしまった
ポケモントレーナーとして強くなることも目的ですが
図鑑の完成も大きな目的です
とか説明書に書いてあるんだから
図鑑を埋めるためだけにつかまって進化させられるポケモンは多いはず
進化して強くなることはポケモンとしてもいいことだろうし
どっちかっていうと捕まえたままボックスに放置とかのがムゴイ
ポケモンは人間とは違う生き物で特に嫌がってる描写もないのに
勝手にムゴイとかいってるやつなんなの
>>623 ボックスは転送式になっていて、
画面の向こうではアニメのように
博士が広いフィールドで世話してくれてると脳内補完している・・・
>>625 100は余裕で超える数のポケモンを相手にする博士さん流石っス
ボックスやモンスターボールの中に閉じ込められたらポケモンだって嫌だろう って考えがあったからプラーズマーにあれだけ人が集まったという気はする。
結局「ポケモンは人間を信頼してるから嫌じゃない」って結果に終わったけど
シャガ「人間との関係を望まないなら去ることもできる」
>>627 手持ちのポケモンはな
ボックスにブチ込まれっぱのポケモンは…
BWは人間が好きってポケモンしか出なかったからイマイチだった
心の底から人間を憎んでるのが出てくれば面白かったしこのスレのネタもいっぱいできたのに
>>628 ポケモンから見ても人間から見ても厳しいやせいの世界に戻るより温室のほうがはるかにいい
しかし活躍できる事は一生無い
野生のほうが活躍しませんが何か
個体値気にしてなかった俺のポケモンライフを激変させたSV自然発生のメタモン
一生恨んでやる
今ちょっとSS書いてる
出来たら投下する
期待
「やめたげてよお」
「やめたげてよお」少年が少女のこのセリフを聞くのはこれで二度目だった
初めて聞いたのはほんの一ヶ月前、少年がポケモンを覚えたての頃だ
「ま〜たメスだよ」少年はため息まじりにつぶやく
「メスばっかで、ちっともオスが出てこないな、まあいいやバイバイ〜」少年は捕まえたばかりのポケモンを足でけとばして払う
「そっちはどうよ?」少年の視線の先に少女はいた、少女もまた少年を見ていた、いや見ているというより睨んでいた
「まだ捕まえてないのかよ」少年は先ほどより深くため息をつく、少女は少年を睨んだままである
「な、なんだよ」ここで少年はようやく少女の異変に気付く
「…や…め…たげてよ…」顔を真っ赤にした少女からか細い声がもれた
「は?」少年はきょとんとしている
「やめたげてよおおお!!うわーん!!」少女は泣きながら両手を振り回しながら少年を殴り付ける
「うわ!なんだよ!やめろよ!一体何をやめればいんだよ!」いつもマイペースな彼女の思わぬ逆襲に少年は両手でふせぐので精一杯だ
「無意味にたくさんポケモン捕まえてすぐ逃がして、捕まえたばっかりのポケモンけっとばしたりして!ポケモンがこわがってるよ!あたし許さないから!わーん!」可愛らしい少女の顔は涙と怒りでくしゃくしゃだ
「あーわかったよ!悪かったよ!謝るよ!もうしないよ!」少年は観念したようだった
「あたしじゃなくて、ちゃんと謝って!ポケモンたちに!」少女はすでに手を止めていたが、目は少年を睨んだままだ
近くの木の影から、先ほど少年が捕まえたポケモンがおそるおそる二人の様子をうかがっている
「ごめんよ、もう意地悪したりしないから許してくれよ」少年はさらに深くため息をつき謝った、心底反省した様子であった
それを聞いた少女は涙を拭うとポケモンの元へと駆け寄った
「やめたげてよお」少女のこのセリフを少年は二度と聞きたくなかった
少女がうるさいから?少女が恐いから?いやどちらでもない、純粋に彼女の悲しい顔を二度と見たくないからだ、彼は誓ったのだこの日から、彼女を泣かせはしない、悲しませはしないと
彼は許せなかった、彼女に再びこのセリフを言わせた今の状況に、そしてそれ以上に過去の自分に
モンスターボールを握る手に力が入る、あの日の少年はもうここにはいない
「プラズマ団だかなんだか知らないけど、ポケモンをけっとばしたりして、ポケモンこわがってるよ!オレ許さないから!」
既出、誤字脱字、読みにくかったらすいませんm(__)m
>>641 文章が簡潔にまとまってて読みやすかったよ。乙!
しかしベル強えなww
ポケモン関係ないじゃん
糞池沼ベルが書きたいだけなら巣に帰れクズ
いやいや、少年が♂粘りさえしなければベルが「やめたげてよお」を言う必要も無いわけで
いちおうシナリオでも性格は少し粘っておく
ずぶといズバット捨ててれいせいズバットと旅したりしたなぁ
普段性別にこだわってなくても、プルリルだけは性別こだわりたくなるよね。
管理人ではありませんが微力ながらまとめを更新してみました
が、4スレ目の182-184は一緒にすべきか個別に項目作るか分からなくて手前で打ち止め
>>647 なんだっけそれ サンドパンがウホッとかいってるやつ?
ウホッ
いえ、中古で売られたソフトの中にいたポケモンの末路を想像した短編三本です
三つ目の話にラグラージがいます
乙です。過去スレ読めないから嬉しい
まとめwikiいけよ…
653 :
652:2011/04/01(金) 18:55:54.19 ID:???0
なんか勘違いした すまん
ウホッ
ウホッ
>>647 おおお!乙です!
今までの話がまとめて読めるとやっぱいいな
>>650 その話なら、ひとつにまとめちゃっても良いんじゃないか?3つで1セットって感じだったし。
連投すまん
お久しぶりです
あなたと最後に顔を合わせた日から数ヶ月たちましたね
こう見えても私、最初はとっても楽しみにしていたんですよ?
お友達と一緒に虹の橋を渡って空の上や海を飛び跳ねたり、一緒にアイスクリーム作ったり
ステキなおうちをいっぱい飾って、仲良くなった皆に自慢の畑を見せたり、好きなモノを分けてあげたり
でも、あなたはそんなことには興味がなかったんですよね
「ゆめとくせい」のポケモンが欲しかっただけだから、一緒に遊ぶ時もずっとつまらなさそうな顔で
せっかく仲良くなれたポケモンたちにも「♂に用はねーよ!屑ポケモンのお前らは♀もいらねーよ!」と
怒鳴って追い払ってくれましたよね、おかげで私には友達なんていなかったんですよ?
おうちは空っぽで、畑にはあなたが飽きて放置した木の実の苗が干からびて悲しいことになってます
そして持ってる人からもらう方が早い…いや、作っちゃった方が早いと判断したあなたにとっては
「ゆめいでん」ポケモンすら不要になったんですよね?
私がここに置き去りにされてもうだいぶ経つってことは
私はこのまま永遠の眠りにつくのでしょうね、文字通り…
………最近、夢を渡れる、同じ境遇の同士が私の世界にやってきて、勧誘されたんです
私には、今はそんな能力はありませんが、力を貸してくれるそうなんです
いつか、あなたの夢で、再びこの顔をお目にかけることができると嬉しいですね?
その時は、同志たちと一緒にあなたが童心に返っちゃうくらい遊んであげますから、よろしくお願いいたします
LV3 チョロネコ
5番道路にいる猿3匹使ってくるトレーナーで何か書けそう
個体値気にしてなかったころに育てたバイバニラ
つぶても遺伝していない
気が付いたらレベルばっかり高いからただの爆弾にされてる どうしてこうなった
「あの日」
デスマスは泣いていた
暗闇の隅で泣いていた
デスマスが自分のマスクを見つめて泣いているのはよくある光景だ
そのデスマスもまた、同じように泣いていた
しかしそのデスマスは他のデスマスと違っていた、その見つめる先にあったのはマスクではなく一枚の写真
ボロボロの写真、汚れてはいたがまだ新しい写真、つなぎ合わせて修復された跡がある
その写真には5歳ぐらいの少年とその両親、そしてデスマスが写っていた
写真のデスマスは笑っていた
小さな少年の横で笑っていた
辺りの闇はさらに深くなる
デスマスは泣いていた
暗闇の隅で泣いていた
既出だったらスマソ
よく上げないで続くなw
つまらんがな
>>661 写真眺めては泣いてるデスマス可哀想…その光景想像してみたら泣けた
>>661 詩っぽい所が、またしんみりしてて良いね。乙!
667 :
635:2011/04/07(木) 01:59:08.55 ID:???0
ちょっと遅れたが書きあがった
・途中から人間主役気味
・プラズマ団とメディア悪く書かれてます
・独自設定みたいなの多いかも
・駄文
以上許容できない方はスルーでお願いします・・・
669 :
名無しさん、君に決めた!:2011/04/07(木) 02:01:39.40 ID:0bSII1Zu0
「よくやったね。あなたは私の一番の誇りだよ、ラン」
十年の時をかけて、やっとすべてのポケモンリーグを制覇した時――彼女は満面の笑みで、愛する仲間のランを抱きしめながら言った。
「アンタならここまで来ると思ってたよ」
ぽつりと、アデクが呟く。はじめて全リーグを制覇した人間を前にして、彼は喜ぶでもなく、自分の力のなさに落胆したかのような微妙な表情を浮かべていた。
彼女は、ポケモントレーナーの中でも、誰よりも優秀と言われていた。その強さと優しさは、ジョウトのリーグを制覇した時から、他の地方のリーグに関わる者の間で噂になっていたのだ。
彼女の手持ちは、常にたったの一匹。ランターン一匹だった。それも噂に火をつけた要因だった。
「さあ、こっちへ来い。そのランターンを、決して消せぬ記録に残そうではないか」
アデクに言われるまま、彼女は、チャンピオンとそれを打ち破った者にしか入れない部屋へと、一歩足を踏み入れた――
埋め
埋め
「・・・・・・ッ!」
がばっと、彼女は布団を跳ね除けて飛び起きた。全身汗まみれで、息は荒い。
「夢・・・・・・か。久しぶりだね、あの頃の夢を見るのは・・・・・・」
がくがく震える手を、もう片方の手で強く、強く握り締める。額に浮いた玉のような汗をそのままに、彼女は立ち上がる。
――二十年前の夢を見るなんて、珍しいこともあるものだ。
そんなことを彼女は思い、しかしそれを振り切るようにすたすたと洗面所へと向かった。一人の朝、やることはそんなに多くないらしく、すぐに彼女は身支度を終える。
周りにポケモンの影はなかった。薄汚れた小さな部屋に、彼女の気配だけがある。
「ニュースでも見るかな」
一人呟いた彼女は、リモコンを手に取ると、いつも見ているニュース番組をつけた。彼女の朝は、ニュースを見ながらただ放心するだけの味気ないものだった。
でも、その日に限っては――彼女にとって一番見たくもないニュースが放送されていた。
『あのチャンピオンは今何処に!?』
そのタイトルを見た瞬間、彼女は体をびくりと震わせた。しかしそんな彼女の心境は無視して、ニュースは淡々と流れ続ける。
「さあ、本日のピックアップチャンネルでは、未だに仮説が立てられさまざまな議論を呼び起こしている、○○さんについて情報をお伝えしようと思います!」
テレビで読み上げられたそれは、紛れもなく、彼女自身の名前だった。
「さて、○○さんについてなんですが、彼女は22歳の時にすべてのリーグを制覇したという天才トレーナーなんです! 当時は彼女を尊敬してリーグに挑む人や、ジムリーダーになりたいと言う人たちが続出していましたね!」
そしてアナウンサーは、大げさに悲しそうな顔をした。
「しかしそのリーグ制覇から一年後、そんな○○さんにポケモン虐待の罪が発覚! 彼女のランターンは、数千匹のランターンの中から一番強い一匹を選んで育て上げられたという情報が入ってきまして、独自に調査しましたところ・・・・・・」
アナウンサーは一泊開けて机を両手で思いっきり叩いた。
「なんとッ! 選ばれなかった他のランターン達を、選ばれたランターンに殴り殺させたという事実が発覚したのですッ!」
「違う!」
とっさに彼女はテレビに向かって大声をあげた。目には大粒の涙がたまっている。
「数千匹のなかからランを選んだのは事実だけれど・・・・・・ッ、殴り殺させるなんてそんな事はしてない!」
彼女の目からあふれ出た涙は、よれてぼろぼろになった作業服を濡らした。
――そう、彼女はそんなことはしていないのだ。ただ選ばなかったポケモンを逃がしただけで、噂が高じてメディアがそれに食いついて脚色しただけなのだ。
過去、彼女がリーグ制覇した後の事だった。彼女はその昔起こした罪を自らテレビに、大衆に、すべてのポケモンを愛する人たちに告白したのだ。
「私は、このランターンを、他の数千匹を逃がしたりと犠牲にして、作り上げました」と。
彼女は、その告白の最中、何度も涙した。最低の事をした、自分の一生をかけてこの罪を償いたい、そのために今ここにいる、と何度も言いながら。
(それをした事を悔いて、償っても、命は戻らない)
口々に人々は彼女を責め立てた。そのたびに彼女は、何度も何度も謝罪した。責められるのは当然のことだと、何度も頭を下げた。
そんな気の遠くなる生活は、一年間続いた。彼女の家は落書きで溢れ、町で彼女を見かけた人々は石を投げたりもした。
それでも彼女は、責められることに対して嫌な顔も辛そうな顔もなにひとつ見せなかった。
中には許していいんじゃない? と疑問を持つジムリーダーもいたが、
そんな疑問を口にすればポケモン好きの団体の圧力によってそのジムリーダーも同罪扱いされたのだ。
一年も経つ頃には、誰も彼女の援護をする者はいなくなった。
それでも彼女は謝罪し続けた。そのうちメディアも火種が尽きてきたのか、今度は最悪の行動に出たのだ。
――報道するような事件が何もないのなら、”作ればいい”。
この一年間彼女がひと時も手放さなかったランに、その火種は向けられた。
ポケモンを解放したいとわめくプラズマ団の残党をメディアがそそのかし、ランを狙わせたのだ。
ランターンが死にさえすれば、後はいくらでも『彼女が本性をあらわし、ランターンを殺したとでっちあげられる。
しかし、誰かは知らないが、その情報は彼女の耳に届けられる。匿名の電話が、彼女の家にかかってきて、ランターンが狙われていることを告げたのだ。
彼女はそれを聞いたと同時に、ランを連れて海へと走っていた。
つまんない
クズ死ね
「ラン」
彼女は、小さくランの名前を呼んだ。
リーグを制覇しようと決め、歩き始めた頃からずっといっしょだった、誰よりも愛するポケモン。ボールにはいれずにいつも連れまわしてきた、友達。
「きゅきゅー!」
ランは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。これから何して遊ぶの? と言うかのように、彼女の足にぺちぺちと尻尾をぶつけた。
二人だけの、静かで幸せな海辺。
(このコは、私にいつも着いてきた。迷子になったときでも、どんなときでも、必ず私を見つけてくれた)
つい手がいつものように、ランの頭に伸びる。でも、その手を彼女は途中でとめた。
(ごめんね・・・・・・もう、なでてあげられない。私の側にいると危険なんだ・・・・・・)
――だから、私の側を楽に離れられるように。
それは、彼女の優しさだったのかもしれない。
つまんない
クズ死ね
瞬間、彼女の顔は鬼のように変貌していた。
ギロッと、今まで誰にも見せたことのないような、誰もが本能的にすくみ上がるような怖い眼で、彼女はランターンを見据える。
その目は、彼女を民衆が見る目つきとまるで変わらない目。
「アンタ、使えない」
冷酷に言い放つ。ランはそんな主人を目の前にして、それでもニコニコとすりよってくる。
そんなランを、足で一蹴。ランは少し離れた所に叩きつけられた。
「元々アンタはリーグ制覇したら用済みだったんだ!」
(リーグ制覇してからも、ずっとずっと一生側にいてほしかった)
ランは、何を思ったかよろよろと笑顔で近寄ってきた。その目には、疑いも何もない。
「アンタがこんなに弱いだなんて知らなかった!」
(ランは本当に強いね・・・・・・私が知らないくらい強くなったんだね)
彼女は近づいたランをまた蹴る。
ランは、傷ついた体など構わず笑顔で彼女にすり寄ろうとする。
「いい加減私の側に近寄らないで! アンタの顔見るのもうイヤなの!」
(もっと抱きしめてあげたかったな・・・・・・ずっとランの成長するところ、見てたかった)
彼女はランを、平手で張った。そして、ランから距離をとる。
ランは、震える体でよろよろと彼女に近寄った。――いつもと変わらない笑顔で。
――そっか。無理だった。無理な話だったんだ。
――共に生きて、共にリーグを勝ち抜いて、共に罪を分かり合ったランを、拒絶することなんて。
――私には、できない。
彼女の頬に、一筋の涙が伝った。
でも彼女は、笑顔だった。笑いながら、泣いていた。
つまんない
クズ死ね
寒空の下で。震える虚空に向けて。もう手にすることは叶わないぬくもりを求めて。
彼女は、無意識に手を伸ばした。
ランはすべてわかっているかのように、その手に一度だけ、触れた。
それが、最後。
ランは、海へと自ら飛び込んだ。
一度も振り返らず、ランは海を泳ぎだした。彼女は呆然と、それを眺めていた。
それから、程なくして彼女がランターンを私利私欲のために殺したというニュースが流れた。
完全な創作だった。根も葉もない嘘だった。しかし、メディアに煽られた民衆はそれを疑わず、信じたのだ。
そこからの彼女の生活は、悲惨という言葉では表せないほどだった。
つまんない
クズ死ね
「おはようございます」
彼女は今日見た夢のせいか体調が悪いのかはわからないが、微かに青白い顔で出勤した。
ここに勤務する人は寮での生活を強制的にさせられる。外出は厳禁なので、ほとんどの人は体調万全ではないだろう。
そんな彼女には目もくれず、そこにいた男は大量のモンスターボールを仕分ける。
「おい、そこの1番の箱、処分な」
「はい」
薄暗い、湿り気を帯びた室内には、モンスターボールが散乱していた。
ダンボール箱にもモンスターボールがずさんに入っており、そのダンボールには番号が振られている。
彼女は無言でダンボールを持ち上げると、飴色の明かりがぼんやりと照らす、汚い廊下を歩き出す。
遠くから悲痛な鳴き声が響いてきたが、いつもの事だと彼女は気にしなかった。見ないフリをしていただけかもしれない。
ダンボールを、廊下の行き止まりにある小さな室内へと置くと、彼女は入っていたモンスターボールを片っ端から投げだした。
出てくるのは当然ポケモン達。共通するのは、ほとんどが幼くレベルも低いポケモンだということ。
つまんない
クズ死ね
彼女が働くこの施設は――いわば『保健所』。といえば聞こえはいいが、実際は『処分所』である。
毎日毎日世の中の強い人間は、『厳選』と称して、ポケモンを大量に孵化させては、見合った強さを持たない、
タマゴから生まれたばかりのポケモンを逃がす、ということを続けていた。そのおかげで、野生のポケモンの生態系は一度、破綻しかけたのだ。
それの対策として設置されたのが、この施設だ。逃がされたポケモンたちはすべて捕獲され、この施設に預けられ、引き取り手を捜すことになる。
今では厳選が公認されているので、トレーナーたちは逃がすことをせず直接ここにポケモンを預けているのだが。
そして、引き取り手が見つからなかったポケモンは、ここで”処分”されるのだ。
彼女の過去やった罪は、今となっては罪ですらない、当然の行為となっている。
大多数の民衆はデモなどを起こし、それを批判するのだが、現在チャンピオンとなったある人物により、その行為は正しいことだと提唱されているのだ。
そして彼女が何故今ここで働いているのかというと、ここが罪人収容施設も兼ねているからだ。
過去に罪を起こした人々は、ここで働かされる。つまり、罪人にポケモンを殺させる。
この仕事を自らやりたいと言う人は誰もいないため、施設を作った人間にとってはすごく都合のいい場所なのだ。
ここに勤めていた男が、彼女の罪は一旦取り下げられるはず、だと言ったことがあった。『厳選』という行為は今となっては合法化されたこと、と。
しかしその主張は、誰もとりあわず、「ランターンを私利私欲のために殺した為、罪を取り下げることはできない」と一掃されたのだ。
つまんない
クズ死ね
逃がす場所にもよるけど卵から孵した奴をすぐ逃したとして、レベル1のそいつがポケモン界で生き残っていけるのか?
「しっかしなぁ」
彼女と同じ作業服を着た男が、ため息をついた。
「最近多いと思わねぇ? 厳選余りじゃないポケモンとかさぁ」
男はがさごそと2番と書かれたダンボールを漁る。その中にあったスーパーボールを取り出すと、手首だけひょいっと投げる。中から出てきたのは、弱ったミロカロスだった。
「え、ミロカロスですか!?」
彼女は驚いた顔で、ミロカロスに駆け寄った。男はそれに対してやれやれ、と首を振った。
「こっちの地方じゃ、海に元々住んでるポケモンの進化系とかが野生で出てくるだろ?
何かの影響で生態が変化したのかってことで、ほら、一度生態系が壊れかけたからな、
乱獲して調べる連中が出てきたんだよ。それで、調べた後はこっちに送ってるんだろ」
「そう、なんですか・・・・・・」
彼女は、弱って小さく鳴くミロカロスを抱きしめた。温もりが微かに伝わってくるらしく、いつもの張り詰めた表情を崩して、優しい笑みを彼女は浮かべていた。
「なあ、アンタさ・・・・・・今のチャンピオン、間違ってると思わねぇ?」
男は彼女の笑顔を見た瞬間、彼女の耳元に行き、小さな声で言った。
「私には、何も意見なんて・・・・・・ない・・・・・・です」
ミロカロスを抱きしめた彼女は、ふっとまた緊張した表情に戻ると、感情のこもっていない声で言った。男は不満そうな顔になると、
「・・・・・・なぁ、アンタ、ムリしてねぇか? こんな仕事柄、精神的にキツいのはわかるけどよ」
そう、彼女の肩を軽く揺さぶった。しかし、彼女は以降無言でミロカロスを抱きしめ続けるだけだった。
それから一週間後。
いつもと変わらない風景の中、彼女は黙々と作業を続ける。朝日も夕日も入ってこない、監獄のような部屋の中で、処分したポケモンのリストをひたすら彼女は書いていた。時折滲む字は、インクの出が悪いわけではなかった。
疲れているのか、その手は時々止まる。
「このチラーミィ、どうするよ・・・・・・ゴージャスボール入りのどうするか指示されてねーよ・・・・・・やってらんねーよ・・・・・・」
作業服の男はため息をつく。少し困ったような雰囲気だったが、男の顔は優しげだった。どうしようもねぇか、と呟いた後チラーミィを連れて男は部屋をそのまま出て行った。
静かな室内、ゆらゆら揺れる明かり。彼女はこくん、こくんと目を床に落とす。
うたた寝をはじめた彼女の足に、ひとつのボールがこつんと当たった。彼女ははっと目を覚ます。さっきからそんな繰り返しを三十分程続けていた。
(・・・・・・ボール、動いてる?)
覚醒しきらないまどろみの中で、ふと気づいて彼女は目をこすった。足元にあるモンスターボールがかたかたと音を立てていた。
出たいのかな、と呟き、いつもなら無視するのだが寝ぼけていた彼女はそのモンスターボールを手に取る。
そのボールが揺れる音以外、周囲に音はなかった。
閉じたような静寂。耳鳴り。
何故か、彼女の手は遠くから見てもわかる程に震えていた。手に持ったモンスターボールには色々なところに傷がついていた。
そして何よりも、そのモンスターボールにはガムテープがぐるぐると巻きつけられている。
何度かガムテープが破れた跡もあり、そのうえから更にガムテープが貼られていた。
(時々こういうボールは遠目に見たことあった・・・・・・皆逃げ出そうとした強いポケモン達だったけど・・・・・・)
そういったボールは基本的に危険なポケモン入りとされ、別の担当にまわされる。これもその類だろう。偶然それがこっちに紛れ込んでいただけだろう。
――でも、何故か胸が高鳴った。
鼓動を抑えるかのように、彼女は胸に手を当てる。なんでこんなに鼓動が高鳴るのか――そんな疑問を含んだ表情で、少しずつ。少しずつ彼女は、ガムテープをはがしていった。
震える手をそのままに、彼女はボールを投げた。思ったより力が入らなかったのか、よろよろっとした軌跡を描いたボールは、地面に不時着した。
それに反して力強く、柔らかい光と共に、ボールの中から出てきた。
―― 一匹の、ランターンが。
紛れもない。
傷を負い変わり果てていようとも。
片目に傷を負い、その目は開いていなくとも。
例え、十九年の時が流れていようとも、
「ラン・・・・・・ッ!?」
彼女には、一目で解ったのだ。
彼女がランを抱きしめるのに、間は一寸も置かれなかった。
ここが、どこだか忘れたかのように、彼女はランを抱きしめた。自分の作業着がランの血で汚れるのも厭わなかった。
「ランッ、ラン・・・・・・ラン・・・・・・! 会いたかった! 会いたかったよぉぉッ・・・・・・!」
彼女の頬は血と涙でぐしゃぐしゃに汚れている。
何度も何度も、会いたかったと叫ぶ。積もりに積もった感情が溢れ出したのだろう、十九年分の想いは留まることを知らなかった。
言葉がなかなか出てこないのか、ただただ彼女は、一番愛した、いや、愛しているポケモンただ一匹の名前を呼び続けた。
血濡れのランは、自らの傷などどうでもいい事、と思っているのか、ただ、そのまま愛している主人に抱きしめられていた。時折、頬を提灯の部分で拭おうとする。
ひとしきり抱きしめあったあと、彼女はランから体を離す。
作業服の男が何故か「持っておけ」とずっと昔にくれた、回復の薬。それを迷うことなく彼女はランに塗る。
そして。
この薄暗い灯りの下で。
どこか暖かい虚空に向けて。
再会した、あの時望んだぬくもりを、もう一度求めて。
彼女は、無意識に手を伸ばした。
ランはあの時と同じように、すべてわかっているかのように、その手に一度だけ、触れた。
「さて、現実を考えると、再会喜ぶヒマはないぜ」
唐突に、部屋に声が響く。ばっと彼女は顔を向けると、そこには作業着の男が立っていた。
「深夜だから警備員と管理人くらいしか残ってなかったから、ちょっと眠らせておいた」
彼女は呆けた顔で男を見つめる。表情は何で? という疑問で埋め尽くされている。あっけにとられている彼女に、男はやれやれ、と肩をすくめる。
「お前のランターンのボールが足元に偶然転がってくる、なんて有り得ないだろ?」
男は片手で扉を閉める。その音に警戒したのか、ランは彼女の前に躍り出る。そのランを片手で軽く彼女は制すると、
「・・・・・・えっと、状況が掴めないんだけど・・・・・・」
「俺の仕事は、殺されまいと暴れたポケモンを沈静化させて処分するってトコなんだよ。で、おとといこいつに出会ったんだよ。
俺の仕事は間違ってなかったって確信したね。
俺は、そいつをお前にまた会わせるために、この仕事やってたんだよ。自分から志願して」
男はそこまで息をつかずに語る。彼女はもう何が起きようと何を知ろうと驚かない、といった表情で、男の話を無言で聞いていた。
「まあ、こいつがここに送られるって確証はなかった。広い海に逃げたわけだし、こればっかりは奇跡だな」
「じゃあなんで、明らかに歩の悪い賭けなのに、ここに志願してまで・・・・・・。
ここまで、してくれたの?」
そう彼女が聞くと、男の顔が曇った。え? と彼女が言うよりも早く、男は深く深く頭を下げた。
「謝って済むことじゃないのはわかってるが・・・・・・ごめんなさい。本当に申し訳ない。すまなかった・・・・・・」
彼女はまた呆気にとられる。
「お前がリーグ制覇の後、そのランターンを厳選した事を謝罪しただろ?
その後一年以上、民衆やメディアから酷い事をされ、さらにメディアがプラズマ団の一部をそそのかしてランターンを殺させようとした。
で、それが電話でお前の耳に入って、結果ランを逃がすことになった」
「そうだね」
「民衆とメディアをそういう風にするようにとけしかけたのは、俺なんだ。他のランターンを、そのランターンに殴り殺させたってデマを流したのも、
お前を責めるように民衆をそそのかしたのも、俺なんだ」
「ッ!?」
「俺はお前に嫉妬してた。俺はまともにジムリーダーにも勝てなくて、お前が幸せな顔するたびに、ものすごい嫉妬して。
このリーグ制覇は才能じゃなくて、努力して勝ち取ったもんだって言うたびに、努力もまったくせずに俺は、お前の批判ばっかりしてた。
そのお前が、ランターンを厳選してたって告白したとき、お前を叩くいいネタができたって思ったよ。今思うと、本当に下衆だったと思ってる」
男はそこでまた一息ついた。
「本当に申し訳なかった・・・・・・」
彼女は、少しうつむいてランを見つめていた。
「言い訳にしか聞こえないかもしれないが、それから少し経って、メディアがランターンを殺させるようにプラズマ団をけしかけた時、心底反省した。
殺すって話まで、行き着くとは思ってなかったんだ、その時の俺は。
それから、俺は本気で反省した。それで、俺のしたことを償いたくて・・・・・・お前がここに送還されたときに俺もこの仕事に志願したんだ」
「そうだった、んだ・・・・・・」
男はそれっきり、口を閉ざして頭を下げ続けた。ランも、彼女も、男の足元を見て、何かを考え込んでいた。
少しの間があった。
「許さないよ」
彼女は、柔らかい笑顔で――そう告げた。そしてすぐ真顔に戻る。
「した事は事実だし、許さない。・・・・・・だけど、あなたが私とランをまた会わせてくれたのも事実だから、」
一拍おくと、彼女は、
「ありがとう。本当にありがとう」
――今までの笑顔の中で、最高であろう笑顔を浮かべてそう言った。
「で、この後、どうする? 抜け出すんだろ? ここ」
「うん。今までしたことが許されないのはわかってるし、償い続けるけど・・・・・・やりたいことが、あるからね。
あなたは・・・・・・どうするの? 抜け出す、よね?」
罪悪感でいっぱい、といった表情で彼女は少しだけ俯いた。
男は、かつてチラーミィに見せた笑顔と同じ笑顔――少しだけ困ったような、でも優しい笑みを彼女に見せた。
「抜け出すよ。目的は達成したわけだしな」
彼女は頷くと、ランターンを抱きかかえながら男と出口へと走った。
出口には、防弾ガラスを張った鉄格子のような小さな扉が何枚も連ねられていた。
どちら側からでも開けるには鍵が必要な珍しい扉だった。罪人収容施設でもあるのだから、当然だろう。
男は人気がないのを確認すると、どこからくすねてきたのかわからない鍵を懐から出す。
どうやらそれはマスターキーらしく、暗闇の中手探りで鍵を開けようとした。それを見ていたランが、見かねたようにフラッシュを使った。
薄ぼんやり明るくなったが、男の顔は影になっていて見えなかった。
最後の扉が開いたとき、男は彼女を先に外へ導いた。ぶわっと強い風が吹き、それにあおられ彼女は前へと躓く。
晴れすぎた、秋の月夜だった。雲ひとつなく、月がぽっかりと空に浮かぶ。ススキがざああっと風につられて音をたてる。
しばらく彼女は、月を見上げながら何十年ぶりかの外の空気を味わっていた。
「そういえば・・・・・・何で、あの匿名の電話のこと知ってたの? あれは、私しか知らないはずなのに」
彼女が振り返ると、男は、呆気にとられたような表情をしていた。男は彼女の目を見ると、今度こそ本当の、とても優しい笑顔を浮かべ――
――そのまま背を向け、扉を、閉じた。
つまんない
クズ死ね
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