何年か前、まだ物心もついていなかった頃、ぼくはある本を読んだ。
その本の中の世界では、人間世界の裏に『犬』が独自に文明を築く世界があった。
猿ではなく、犬が発達し知恵を持った世界。
その物語の中で、人間同様知恵を持ったその犬は、こんな発言をしている。
『君達の世界では偶然猿が発達し知恵を持ったに過ぎない』
『そして、偶然犬が発達し知恵を持った世界が、僕達の世界なんだ』
しょせん物語……作り物の中のセリフでしかないと言えばそれまでだけれど、
ぼくはこの一節に、幼心ながらひどく感銘を受けた覚えがある。
人間以外の生き物が知恵を持ち、文明を築いている世界なんて存在するはずがない……
そうやって考える人は多いしそれが常識だけど、実際の所そんな根拠なんてどこにもありゃしないんだよね。
ポケモンは、高い知能を持っているものがたくさんいるってよく聞く。
人間に近いほどの、そしてそれ以上の知能を持っているものだっていると言うけれど……
だとしら、もしかするとぼく達の誰も知らない遠いところ……いや、もしかしたらすぐ近くにでも……
ポケモン達が言葉をしゃべり、文明を築いている。そんな世界があるのかもしれない。
2
糞スレ認定
厨二病乙
「いけぇ、フライゴン!! ドラゴンクローだ!!」
ぼくがそう叫ぶと、目の前のフライゴンはその翼を力強くはためかせ、
猛烈な勢いと共に眼前の敵ポケモンに強烈な一撃をくわえた。
「あ、ああ! オクタン!!」
致命的なダメージを受けた敵ポケモンは力尽き、相手トレーナーのモンスターボールへと自動的に帰っていく。
「……俺の最強の切り札であるオクタンがこうあっさりやられるとは……完敗だ」
手持ちに戦えるポケモンがいなくなった男の人は、チッと悔しげに舌を鳴らすと、
若干納得のいかないようではあるけど、素直に負けを認めた。
「シンオク地方最強のジムリーダーであるこのデンチを倒した今、お前はこのピーコンバッヂを手にする資格を得た。
そして同時にポケモンリーグへと挑戦する権利も……
ふん。まあ俺の代わりにポケモンリーグのチャンピオンにでもなってきてくれ」
デンチはポケットから金色に煌くバッヂを取り出すと、ぼくにポイと放り投げる。
逃さずキャッチし、満足感と達成感に胸を火照らせながら、
たった今受け取った勝利の証『ピーコンバッヂ』を、ゆっくりと胸のトレーナーカードに貼り付けた。
……トレーナーカードの中に輝く8つのバッヂ。
ぼくが、このシンオク地方全てのジムを制覇した証だ。
「ギュウ!! グギュギュウ!!」
そんなぼくを祝うように、フライゴンは可愛らしい菱形の羽をパタつかせながら、
ぼくの顔を覗き込み、赤い幕の内側にある愛らしい瞳をキュウッと狭める。
『コウイチくん、これでバッヂ8つっ! やっとポケモンリーグに挑戦できるんですねーっ!
やった、やったァっ!! ボクも嬉しいですよーっ!』
そんなフライゴンの言葉が、聞こえてくるようだった。
そんな事を考えていると母がやってきて
「あんた!いい加減働きなさい!」
僕は母を部屋から追い出し鍵を閉め寝た
そんな毎日を過ごし気がついたら乞食となっていたのだ
僕は後悔した
そして自害したのである
完
7 :
◆8z/U87HgHc :2007/11/27(火) 19:26:16 ID:k5wLs5D+
どんっ!!
意気揚々とナグサシティジムを出て行くぼくに、勢いよく誰かがぶつかってきた。
「あい、つつ……」
小柄なぼくは衝撃によろめき倒れそうになる。
そんなぼくの耳に、聞き慣れた声が入り込んできた。
「なーんだっつんだよー! 俺、また先こされちまったの!?」
耳によく響く、明朗快活をそのまま表したかのような声。
ぼくはその人……今ぶつかってきた人に視線を向けた。
その視線の先にあった顔は、親友でありライバルでもあるミキヒサの顔だった。
「あーっ、もう。おれ、お前に先越されてばっかだなァ〜〜。もう8つバッヂ集まったんだろー?」
ぼくのトレーナーカードをめくり、8つに輝くバッヂを物欲しそうな目つきでまじまじと見つめるミキヒサ。
ぼくが少し誇らしげに胸を張ってみせると、ミキヒサはためいきをつきながらぼくのトレーナーカードから手を離した。
「ジムを制覇したコウイチくんは今からポケモンリーグ挑戦か〜〜、うらやましいなあ〜〜……」
「ミキヒサも、もうバッヂ七つ集まってるでしょ?
だいじょぶ、ここのジムの人そんなに強くなかったからさ、ミキヒサならすぐにバッヂを手に入れられるよ」
「はんっ。余裕たっぷりな発言するなあ! コウイチめっ」
不遜な顔をしながら、ふと辺りをキョロキョロと見回し出すミキヒサ。
と、そんなミキヒサの目に何か重大なものが映ったようで。
「……おっ。おやっ、おやっ! コウイチ。あそこの灯台のテレビ見てみ、ポケモンリーグのCMみてーなのやってるぜ!」
ミキヒサはこちらを向かないまま、ナグサシティ中心に立つ灯台の巨大なスクリーンに向かって指をさした。
ぼくも灯台の巨大スクリーンに視線を移す。そこには、今からぼくとミキヒサが目指す、
ポケモントレーナー達の頂点、ポケモンリーグの様子がでかでかと映し出されていた。
舞台はパラレルワールドか?
という妄想をしながら僕は部屋に引き篭もりゲームをしている
こうやって現実逃避をしているのだ
そして気がつくと乞食になっていた
僕は後悔した
そして自害したのである
完
『シンオク・ナウ!! 今日はテレビコトブチ開設記念日特別スペシャルとして、
ポケモントレーナー総本山・シンオクポケモンリーグに来ていまァーーーす!!
そして、何と何と!! シンオク中のポケモントレーナーみんなが憧れる、
ポケモンリーグ四天王のみなさんがこうしてカメラの前に集まってくれましたァーーー!』
やたらと興奮する現地キャスターの脇に、四人の男女が立っているのが見える。
小柄なぼくよりもずっと小柄な、多分ぼくよりも全然年下で、アンテナみたいな変な髪癖のちっちゃい子供、
今にも死にそうなほど干からびて、たまにゴホホホと咳をしているおばあさん、
赤いアフロに白い厚化粧に白い服、まるでピエロみたいな男の人、
どこか一流企業の重役みたいにピシッと整った格好と顔立ちをした、気品漂うメガネの人。
あれがきっとポケモンリーグ四天王なんだ。ポケモントレーナーの頂点、そして今からぼくが戦う四人……!
『さぁー、四天王さん!テレビの前のポケモントレーナー、そして未来のポケモントレーナー達に、一言お願いしまぁすっ!』
『ハーーイ!ぼく四天王のリョウトでぇーす! バッヂ持ってる人、どしどし来ちゃってくだーーさいっ!!
ぼく達といっぱい楽しいポケモン勝負しましょ〜〜! ……あっ、パパ、ママ、ねぇ見てる〜〜〜!!? わーい!!』
『わた……し……してんの……キクエ……ゴホッ、ゲホホホォ!! グギャアア!!!
……みんな来てね、ポケモンリーグホォ!! ゴホホホッ!! ギャぁ!!』
『アーイム・ラビニィーット!! おれ四天王のオーパ!!
俺のケツに火ィつけられるような強い挑戦者待ってるぜッ!! アーイム・ラビニィーット!!』
『どうもテレビの前のみなさん。私は四天王のゴギョウ、ポケモンの神話や秘密について調べています。
各地を渡り歩き、特にハクタネシティやカンザキシティにはよく出向くので、見かけたら一声かけてください。
サインも書きますよ。なんどでも書きますよ。なんどでもな ん ど で も 書きますので ぜひ ぜ ひ ぜ ひ 一声おかけ下さい』
なーんて事を考えていたら何時の間にか乞食になっていた
僕は後悔した
そして自害したのである
完
これ、前に小説スレに投下されてた未完のやつか?
『では、これでポケモンリーグ現地リポートを終わりまぁす!ではさようなら!』
現地リポートが終わり、巨大モニターはぼく達の全く興味の無い映像に切り替わる。
ミキヒサは構わずモニターを見続けながら、感極まったのかこんな事を言い出した。
「くーっ。グッと来るね! 俺ももうすぐあのポケモンリーグに……
……で、お前は今から挑戦しにいくんだよなーっ、おれより先にっ!
もう夜だけど、いまから行って今日中にはチャンピオン様になってますってかー!? うンらやましいねェーっ!」
ニコニコしながらぼくの頭を掴み、黒髪をワシャワシャと撫で回すミキヒサ。
「いや、まだ行かないよ。行く前に……ぼく寄る所があるんだ」
「はい?」
手の動きを止めおずおずと引っ込めながら、ぼくを見つめるミキヒサ。
と、そのミキヒサはいきなり芝居っぽく手の平をポンと叩いたと思うと、こちらをビッと指差し自信満々にこう言った。
「そォか! まずはご邸宅に帰って、おママにご一報ってワケだなぁ〜〜!? こ〜のマザコンお坊っちゃんめっ!」
「違う」
「にゃにっ!?」
ぼくの発言に、これまた大袈裟なリアクションを取るミキヒサ。
意地悪っぽく舌を出して挑発してみると、ミキヒサの顔がもどかしげな色に染まっていく。
「なんだっつんだよー! おまえ、おれをバカにしてるなー!? えい、言わなきゃ罰金100万円の刑ー!」
子供じみた法外な『罰金』を請求しながら、力のこもってないパンチやらをぼくに浴びせるミキヒサ。
込みあがってきた笑みを顔に浮かばせながら、ぼくは言った。
「ぼくの思い出の場所さ。……なんなら、ミキヒサも行く? いっしょに」
ミキヒサに向けて、ニコリとやや意地悪っぽい笑みを作ってみる。
彼はパンチやらをピタリと止めて、ぼくの顔を少しの間見つめたと思うと
みるみると表情を笑みに変えていき、そしてぼくの全く予想通りの事を言ってくれた。
「もっちろん! もちろんだよコウイチくーーん!! いやぁ、さすが親友! にゃっははーー!」
ぼくの肩を掴みながら、ルンルンと小躍りするようにして喜びを表現するミキヒサ。
ぼくはそんなミキヒサを見つめながら、思い出の場所へ飛ぶためにフライゴンの入ったボールを高く挙げた。
そんな事を考えてるうちに鬱になってきた
俺はこんなところで何をしているんだろう・・・。
もう3年も部屋の外に出ていない
数年後、俺は乞食になっていた
そして後悔した
部屋に引きこもってる間勉強してれば
少しはまともな人生を歩めたのだろうか・・・。
俺は自害した
完
そして僕はポケモンリーグに向かったのだが突然やってきたハリケーンに巻き込まれたのだ
勿論死んでしまい僕の物語はここでおしまい
今は天国で気楽に過ごしているよ
そういえばこないだ食べたフライゴンの肉はとてもおいしかった
また食べたいものだ
完
ぼくは、血液型がA型だ。
だからなに? とか言わないで、できるなら最後まで聞いて欲しいな。
血液型性格診断なんてものがあるけれど、それによるとA型って『几帳面』な人らしいんだよね。
性格診断なんてほぼ占いみたいなもんじゃあないか。ロクなもんじゃあない……
ぼくはそう思ってはいるけど、この血液型性格診断の結果は、ぼくにとってはズバリ当たっているんだ。
ぼくは自分でも不思議なくらい『几帳面』で。整理整頓なんかはしないと気がすまないんだよね。
時間なんかは勿論キチンと守るし、全ての物事にちゃあんと確認は怠らない。
だから、遅刻だとか忘れ物だとかは特別な事がない限りいっさいしたコトないし、
捕まえた事のあるポケモンをウッカリもう一回捕まえちゃったりとか、そんなコトは今まで一回もなかった。
後味の悪いことはしたくない、とか……大事な物事の前にはまずやるべきことを全部済ませる……とか。
そんな性格だから、ぼくはポケモンリーグに行く前に『思い出の場所』へ向かうことにしたんだ。
几帳面じゃなかったら、そんなことしない……少なくともあのミキヒサだったら絶対しない。
そう、もしぼくが『几帳面じゃなかったら』……『A型じゃなかったら』……
たぶんだけれど、これから起こることは絶対に起こらなかったんだ。
そうだ、ぼくの運命を全く変えてしまう出来事は……
でも、結果的にそれが幸運であったか不幸であったかを、
仮に、これから起こる運命の変化を乗り越えたときのぼく……つまり未来のぼくにそれを聞いてみたとしたら……
たぶん、『ものすごい幸運だった』って答えるとは思うだろうけど……ね。うん、多分。
つづく
と、思ったらここで打ち切り
地味に期待
と言いたいところだがやはりつまらない
これどっかで見たことあるな
満ちた月が辺りを照らしいつもより明るい夜の空を、ぼくとミキヒサを乗せたフライゴンがゆっくりと飛行している。
上空から見下ろす夜の町や自然の景観に感嘆の声をあげはしゃぐミキヒサに一々かまっている内に、
フライゴンは、ぼくの『思い出の場所』にゆっくりと降り立った。
「ここは……シンシ湖か?」
フライゴンの背中から降り、目の前に雄大に広がる湖を見つめながらポツリと一言漏らすミキヒサ。
ぼくが 「そうだよ」 と一言いって見せると、ミキヒサは半笑いの表情で、ぼくに突っかかってきた。
「なんだっつんだよ、思い出の場所ってここのことかァー!
……おれ達二人の思い出の場所だな、ここは」
「……そうだね。ぼく達がポケモントレーナーになるきっかけになった場所……かもね」
ぼくとミキヒサはどちらともなく湖の渕に腰掛け、ゆったりと流れる水面を見つめながら
互いに思い出していくように、湖での思い出を語り合い始めた。
「ここでヒカルって子とオオカマド博士がいてさ、モンスターボールの入ったバッグ忘れてったんだよな」
「そうそう! で草むら入ったら鳥ポケモンが出てきてさ」
「んでおれ達、勝手にバッグ開けて中のボール使っちゃったんだよなー」
「オレ達とか言わないで! 勝手に開けたのはミキヒサ! 止めといたほうがいいって言ったのに……」
「でも結果バッグ開けんのやめてたらさ、おれ達こうしてトレーナーになってなかったよな、きっと」
「うん。え、じゃあ何? ぼくがこうしてトレーナーになってポケモンリーグ挑戦間近なのも全部ミキヒサのおかげ!?」
「ん……そういう事になるねー! はは、おれ様に感謝せいよコウイチ!」
「ははーっ、おありがとうございますっ! ……って何で!」
どれだけ思い出を語り合っていたか分からないけど、しばらく経ったらもう話すことが無くなって
二人で無言のまま、風が葉を揺らす音と波が岩を削る音に耳をくすぐられながら、月明かりに煌く湖面を見詰め合っていた。
どれだけそうしていただろう。思い出を語り合っていた時間よりも長く、無言の空間が続いていたかもしれない。
気が遠くなり時間も忘れそうなほどそんな時間が続いてたとき……ふとミキヒサがこう言った。
「あれ、なんだ?」
湖の先を真っ直ぐ見つめ指をさしながら、不思議そうに首を傾けるミキヒサ。
指をさした方向にぼくは目を凝らしてみる。……孤島のようなものが見える、気がする。
「あんなもん、あったか? あんな島この湖にあったかよ?」
「……なかった」
ミキヒサと同じ違和感を胸に感じながら、ぼくはもう一つの違和感を見つけてしまう。
湖の水かさが、いつもよりも大分減っているんだ。
ぼくはその違和感を胸に蓄えることはせず、すぐにミキヒサに報告した。
「ねぇ、見て。水……水位がいつもより低いよ。気付かなかった?」
ぼくの言葉にミキヒサは真下を見つめ水位を確認する。『そういえばそうだな』とでも言う風にミキヒサは眉をしかめる。
「これって、あれか。引き潮ってやつ?」
真下を見つめながらポツリとそう一言を漏らすミキヒサ。
引き潮。たしか学校で習った。ぼくはすぐに脳の奥からその単語の情報を引っ張り出し、頭の中でその情報を読み上げる。
引き潮って確か、月の引力が何だかで海面の高さが低くなることだけど……
ここは湖だ。引き潮なんてことはありえない。
その事をぼくが言おうとして口を開きかけたとき、ミキヒサがそれを遮るようにこう言った。
「言ってみる? あの真ん中の……島」
島を指差しながら、ニッと愉快げに微笑むミキヒサ。
相変わらずの好奇心の強さに、ぼくは呆れそうになる。
昔からこの変な好奇心に振り回されてみると絶対にロクな事が起こらない……
そうは分かっているんだけれど、ぼくだって『突如湖に現れた謎の島』に対する好奇心が沸々と湧き上がってきている。
ぼくは、力強く 「うん」 と一度だけ頷いた。
48のやつか
「こうやってこの湖の上で波乗りすんのってさ、始めてだよね」
月明かりが反射し白いチューリップの花畑のように煌く湖面を、
ぼくはラグラージに、ミキヒサはエンペルトに乗りながら、例の孤島へと向かっている。
二匹が激しく水を掻き分ける音にかき消されそうになりながらも、ぼく達二人は会話を絶やさない。
「ま、そんな機会なんてなかったからな。しかしまー……」
眉をしかめながら、ぼくのラグラージの顔を覗き込むミキヒサ。
「お前のそのラグラージってのさァ……ほんっとキモいよな」
「キモくない!」
「いや、キモいって。どこがってそりゃホラ顔とかー」
「キモくなーい! あ〜〜っ、ほら、ラグラージ泣きそうな顔になっちゃったじゃんかバカぁ!」
そんないつも通り馬鹿らしい会話をしている内に、ぼく達は『謎の孤島』に着いていた。
たぶん普段は湖の奥底に隠れているのであろうその謎の孤島には、奥深そうな洞窟が一つあるだけだった。
小さい入り口から中が見えるけど、明かりの類は一切なさそうだ。
ぼくが何となく不安を感じ躊躇っている傍ら、ミキヒサはその洞窟へと全く躊躇いなく入ろうとしている。
ぼくはたまらずミキヒサに声をかけた。
「ちょ、ちょいまち、ミキヒサ!」
「なァ〜〜〜〜んだっつんだよぉ?」
ぼくの呼び止めに、うっとうしそうな表情でこちらを振り向くミキヒサ。
「そこ、入るの? だいじょうぶ? ホントに?」
ミキヒサはやれやれと言った風に大袈裟に手を高く挙げ、目を瞑り首を振りながらこんなことを言う。
「あ〜〜、入るに決まってんだろ! 入れそうな洞窟を見つけたら即入るっ! ボーケン者の心得だぜ〜?
まっ、コウイチくんがいかないっつーんなら、オレ一人でも行っちゃうけどねーーっ、と!」
そう言い終わると、ミキヒサは未知の洞窟の中へとずかずかと入り込んでいく。
「もう……ミキヒサめ!」
ぼくは好奇心と若干の不安を感じながら……ミキヒサの後をついて洞窟の中に入っていった。
やたらしっかりしてるな。
予想通り暗い洞窟の中を、ミキヒサのサーナイトのフラッシュを頼りに進むぼく達。
不思議なことは、やたらと広く深い割には野生のポケモンがいないことだ。
洞窟の中では大体見かけるイシツブテやズバットすらも、全く出てくる気配が無い。
「こりゃあ……珍しいポケモンどころか、ポケモン自体いないかもな」
床の小石を蹴飛ばしながら、心底つまらなそうにため息をつくミキヒサ。
「こんな広いのに、ポケモンがいないってのもおかしいけど……ホント何もなさそうだね」
ぼくも、もう辺りをキョロキョロ見回すこともやめて、もはや『早く一番奥に着いてくれ』とまで願いつつ
ひたすら道なりに歩を進めている。たぶんミキヒサだって同じだ。
と、すっかり好奇心が消えうせていたぼく達の目前に、階段が見えてきたのだ。下りの階段だ。
「階段、だ……」
小さく呟くミキヒサ。その顔に、ちょっとだけ好奇の色が戻ってきているようだった。
「階段っ! 階段だよミキヒサ! これってアレじゃあないの? この洞窟は自然に出来たものじゃなくて、
作られたもの、つまり、実はなにかの遺跡……ということは……!」
「……いるかもな。『古代のポケモン』がっ!」
すっかり入る前の好奇心を取り戻したように、ニワッと笑みを浮かべるミキヒサ。
と、好奇心を取り戻したミキヒサはもう歩いていくのももどかしいらしく、ダッと走り出した。
「へへーーーんっ、オレが先に行っちゃうもんね!! 今度こそはオレが先を越してやるぜーーー!!」
「あ、ちょっと! 道暗いからあぶな……」
ぼくの言葉を全く無視し、楽しげに叫びながら階段を一段飛ばしで降りていくミキヒサ。
ミキヒサの声が洞窟中に反射しぼくの耳にガンガンと痛いほどに響く。
ほどなくして、 「あでゃっ!! あでゃあでゃーーっ!!」 という情けない悲鳴と転げ落ちるようなド派手な音が響いてきた。
フラッシュが無いから階段を踏み外して転げ落ちたんだろう。
「……はぁ。まったく、もう」
ぼくは笑みの混じったため息をつきながら、キョロキョロと目を真ん丸くしてうろたえているサーナイトと共に落ち着いて階段を降りていった。
「あいててー……」
「大丈夫? ミキヒサ」
階段の下で痛みに頭を押さえてるミキヒサに声をかける。
ミキヒサは 「大丈夫」 というより前に、目の前の方向を指差して元気に叫び出した。
「それよりもさ、すごいぜっ。ポケモンはいねーけど、やっぱりここ何かの遺跡だったんだ! 見てみろってホラ、周り!」
頭を押さえるのをサーナイトに任せながら、キャッキャとはしゃぐ事に努めるミキヒサ。
ぼくは、ミキヒサの言う通りに辺りを見回した。
上の階に比べると、この階はとても明るい。もしかしたらフラッシュもいらないかもしれないってくらいだ。
壁や天井の姿もハッキリと確認できる。岩の隆起やその渕に生えている苔も、
その岩面の至る所に刻まれている壁画らしき物も。
そして取り分け目を引くのが、ほぼ部屋の中心の床に深く刻まれた、魔方陣のような紋様。
均整の取れたその幾何学模様は、明らかに自然に出来た物ではないことを示している。
「あのさあのさ、もしかしてこの遺跡発見したのってさ、おれ達が一番なんじゃないの〜〜!?
珍しいポケモンはいねーけど、こういうの見つけた人ってテレビ出たり金もらえたりするんだよな! なっ!」
すっかり元気になったのか、ミキヒサはもう立ち上がりニコニコしている。(サーナイトは未だミキヒサの頭を押さえているけど)
「へへへーっ、もしかしたらお宝なんかもあったりしてっ! 金の玉とかがっぽがっぽにあったりしてェっ!!
うっひゃァーーーあっ、元から金持ちなコウイチくんはいいにしても、これでオレ億万長者!? すっげーーーぇっ!!」
そんなことを叫びながら、興奮して部屋の中心に向かって走り出すミキヒサ。
「ちょ、また走り出すー! 転んだら危ないよー?」
年下に聞かせるような注意をしながら、ぼくもミキヒサの後ろをついていく。
二人揃って部屋の中心の紋様の上に立った時……異変が、起きた。
『勇者よ』
29 :
名無しさん、君に決めた!:2007/11/27(火) 19:51:12 ID:oBORrnkn
このスレは伸びる
いや伸びない
「? ……なんか言った?」
「いや、何も。ミキヒサこそ、何か言ったでしょ」
「いや、なにも」
どこからか、確かに聞こえてきた謎の声。
空耳なんかじゃあない。空耳とか聞き間違いとか言う割には随分とハッキリ聞こえたし、
何より、ミキヒサもその声が聞こえたみたいだし。
二人して周辺をキョロキョロ見回していると、もう一つの異変…… 今度は、ハッキリと分かる異変が起きた。
ポン!
「わっ!?」
突如、ベルトにかけてあったモンスターボールが勝手に開きポケモンが出てきてしまったのだ。
ミキヒサも同じく、勝手にポケモンが出てきてしまっている。
ポン!ポン!ポン!
一つ一つ、そして全てのモンスターボールが勝手に弾け、ぼくらのポケモンが出てきてしまった。
ぼくのポケモン。
フライゴン、ラグラージ、バシャーモ、ジュカイン、レディアン、ユキメノコ……
ミキヒサのポケモン。
エンペルト、バクフーン、キレイハナ、ボスゴドラ、パチリス……
ぼくとミキヒサの合わせて(既に場に出ていたミキヒサのサーナイトも合わせ)
十二体のポケモンがその場に出される。
何というか、急に場が賑やかになってしまった。
「な、ななな、なんだよコレは!? もも、戻れっ、みんな!!」
ミキヒサはポケモンを戻そうと、ボールを拾い上げポケモンに向かい翳す。
……
……何も起こらない。
モンスターボールをポケモンにかざすと、ボールが反応し自動的に開きポケモンを吸い込んでいくはずだ。
しかし、ボールが開く気配は無い。重油を流し込んだかのような空しい沈黙が流れていくだけだ。
「な、なんだっつんだよぉ……一体……」
おいつまんねえぞ
首をかしげ、異様な雰囲気にざわめくポケモン達。
ぼく達も一緒になって首をかしげる。
そんなぼく達に、また……あの、声が。
『よく来ました、勇者達。さぁ、その紋様の上を絶対に離れないで下さい』
「……!!」
今度は、よりハッキリと聞こえた。
ゲームやら漫画やらでよく聞くような台詞。
耳元で囁かれているように、その言葉はハッキリとぼく達の耳に入ってきたんだ。
「なんだ……っつんだよぉ……!」
ミキヒサの顔が徐々に青ざめ、恐怖の色に染まっていく。
ぼくでさえあまり見たことの無い、ミキヒサの『怯えた顔』。
「なんか……怖いよ、コウイチ! ここ、怖い!! コウイチ、みんな、出よう、帰ろう!!」
声を震わせ、上ずらせ、怯えた表情でミキヒサは出口へと走っていく。
「ま、待ってよ!」
ぼくも、ミキヒサの後を追う。
ぼくだって、怖い。連続して起こる怪現象に心底怯えている。
そりゃそうだ当然だ、到底考えもつかないような予測外の出来事が、
それもこんな誰も来たことないような暗い洞窟の地下でいきなり起こって怯えないヤツがいるか?
もしいたとして、そんな強心臓のヤツとぼくを比べないでほしいな。ぼくはまだ12歳の子供なんだぞ。
「うぴゃ!!」
後から盛り上がった気がする
「!!」
外へ出ようと階段を上がろうとしたミキヒサが、突如何かにぶつかったように後ろに倒れた。
いや、実際『見えない何か』にぶつかったのかもしれない。そう、『見えない何か』……
倒れたミキヒサへ、サーナイトが駆けつける。
ミキヒサは赤くなった鼻を押さえながら起き上がり……悲鳴を上げた。
「ひいいいいい!!!!」
声が裏返り、虫の金切り声のようになったミキヒサの叫び声に、サーナイトが、いや、辺りにいる全員……
もちろん、ぼくも含めてビクリと震え上がる。
こういった現象に(多分だけれど)鈍感であるはずのポケモン達も、
ジュカインやユキメノコなど肝っ玉の太い種を除きほとんど全員がブルブルと身を震わせ怯えている。
「グギュ……グギュウ……」
助けを求めるようにこちらを見つめ、ぼくの手をぎゅっと握ってくるフライゴン。
ぼくに彼を落ち着かせるほどの心の余裕は全く無い。
人間である、しかも子供のぼくは、一刻も早くここから消えたいと願うほど怯えていた。
次の瞬間、『三つ目の異変』が起きた。
ネイティオ様まだー?
『三つ目の異変』は、今までの異変とは全く別次元の物だった。
いや……『異変』? 『異変』なんて言葉でくくれるものじゃあ、到底ない……
「ギュッ!?」
その現象に最初に気付いたのはフライゴンだった。
フライゴンは怯えたようにぼくの手を強く握り締める。そしてほどなくしてぼくもその現象に気付いた。
……見間違いじゃない。
……部屋の隅から、部屋の四方から『闇』が漏れ出こちらに迫ってきている。
何も見えない、闇。いや、言うなら『無』?
ともかくそれが、流れ出る水が染み込み地を薄く染めるように、どんどん辺りを侵食していくんだ。
「な……なんなんだよ、なんだっつぅんだよぉ!! ぎゃああああ!!!」
徐々に染み込んでくる『無』の闇に飲まれそうになるミキヒサ。
ミキヒサはぼく達がいる魔方陣の元へ帰ろうと立ち上がろうとするけど……
恐らく腰が抜けているんだ。 怯えた顔のままなかなか動けずにいる。
そして……
「う、うわぁっ! た、助けて……助けてくれェっ!!」
「ミキヒサ!」
迫り来る『無』に、ミキヒサが……サーナイトが飲み込まれていく。
足から腰へ、腰から胴体へ胴体から頭へ……どんどん飲み込まれ『消えていく』。
ミキヒサはただ叫んでいるけど、ぼくも叫ぶ事しか出来ない。
「プチチュ!!」
「バーーク!!」
「あっ」
見兼ねたミキヒサのパチリスとバクフーンが、ぼくらのいる魔法陣から飛び出した。
今まさに完全に飲み込まれようとしているミキヒサの元へ走り寄っていく。
「お、お前達! た、助けて……!」
ミキヒサとサーナイトが手を伸ばし、パチリスとバクフーンはすかさずそれを掴み助けようと腕を引っ張る。
……しかし、二匹がいくら力を入れ引っ張ろうとミキヒサとサーナイトは本当にビクともしない。
まるでパチリスとバクフーンは一切力を入れていないかのようにすら見える。
そうしている内に、ミキヒサの伸ばす腕までも飲み込まれていき、やがてはパチリスとバクフーンまでも……
「パチリス、バクフーン! い、一旦離れて! きみたちも……!」
ぼくが咄嗟にそう叫ぶも、いわば時はすでに遅し、二匹は自らの腕も既に飲み込まれ始めていた。
今度は二匹は自分の腕を無から引き離すように、全力で腕を引っ張り、重心を後ろにかけている。
しかしその抵抗も空しく、パチリスとバクフーンまでも完全に飲み込まれ消えてしまった。
二匹が無に飲み込まれた瞬間、ぼくは完全に腰が抜け、糸が切れたようにその場にへたり込んでしまった。
『さぁ、みなさん手を取り合って……』
無の侵食の中、またあの声が聞こえてきた。ポケモン達もぼくも全員が体をブルリと震えさせる。
無の侵食は止まらない。やがて無の満ち潮は、ぼくらの立つ紋様の孤島さえも飲み込んでいった。
『よく来てくれました、勇者達よ』
正体不明のあの声を聞きながら、 ぼく達は全員……一人一匹残らず無の海に飲み込まれなくなっていった。
完
飛んだ。
飛んだ意識の先は、まっくらやみの中だった。
何も見えない。
何か変な例えだけれど、墨汁の海に顔を突っ込んだかのようだ。
ただただ眼前には黒い風景が広がるのみ。
でも、『聞こえる物』はある。
これは……
風に揺れた葉が、他の葉っぱ達と擦れ合う音?
風に散れた砂が床を転がり、色々な物にぶつかる音?
風に押された水が岩にぶつかる音?
そこまで頭が整理されてから、やっとぼくはこの事実に気付いた。
『ぼくは目を閉じている』。
『いまから目を開く事が出来る』。
ぼくは、心の中でカウントダウンを始めた。
3・2・1だ。3・2・1の……1の次に!
そうっ、『0』の瞬間に目を開けよう。
OK、ぼく? うん、OKだよ、ぼくっ!!
よし、行くぞぼくっ。行けっ! 行っちゃれェっ!
3…
2…
1…
……ん〜〜っ!
0っ!!
ぼくの目に入ってきた風景は、空だった。 それも、吸い込まれそうなほど綺麗な青空だ。
起き上がり辺りを見回してみる。若草色の芝生の絨毯、まちまちと生えている木々、そして大きな湖が見える。
湖……じゃあここは……シンシ湖のほとり?
いや。全然……シンシ湖じゃない。 まったく、見覚えが無い。
「あっ、フライゴン!」
ぼくは、隣にフライゴンが倒れている事に気付いた。
緑色の大きい体を横たわらせ、苦しそうに呻いている。
ぼくは頭の整理をするよりも先に、倒れているフライゴンの元へ近づいた。
「だいじょうぶっ? フライゴン、だいじょうぶかっ!?」
フライゴンの肉感的な体を叩くと、ぺちぺちとみずみずしい音が鳴る。
一度叩くたびに、一度鳴らす度に、フライゴンが呻き体を震わせていく。
何度目かの時、ついにフライゴンは目を覚まし起き上がった。
首を持ち上げ、かわいらしい赤い寝ぼけ眼をこちらに向ける。
「あ……おはようございますコウイチくん。その……ここ、どこですか?」
小さい口を大きく開けてあくびをしながら、キョロキョロと辺りを見回すフライゴン。
彼も、ぼくと同じ疑問を持っているようだ。
「フライゴンっ! よかった、もう目を覚まさないかと思った……!」
ぼくはフライゴンの質問に答えるよりも早く――そもそも答えなんてぼくが知りたいくらいだし――
まずは無事を確かめ合うように、フライゴンの首をひしと抱きしめた。
うっとうしそうに首をぶるんと振ろうとするのを感じ取り、ぼくは慌てて腕を離す。
「あっ、ごめん。……フライゴン? 体に怪我とかない?」
「ん……だいじょうぶですよっ。それよりもここ、どこかなぁ? シンシ湖じゃ……ないですよね」
「うん。そうみたい……リッチ湖でもエイジ湖でもないみたいだし……ん?」
ふと、ぼくの胸の内に一つの違和感が生じる。
小説スレの48氏だな!? 待ってたぜ!
ん?
「ねぇ、フライゴン」
「なんですかー?」
フライゴンが不思議そうに首をかしげる。
いや、ちょっと待て。首をかしげたいのはぼくだ。
ふと生じた違和感は、整理がついてきた頭の中でどんどん肥大化していって……
「しゃべ」
「はい?」
フライゴンのその『一言』……
「はい?」 というその『一言』を聞いた時……
そう、その『一言』だ。その『一言』がおかしいんだ。
『一言』……
『違和感』が、ぼくの頭の中で爆発した。
! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !
「しゃっ、しゃべーーーーっ!!? しゃべ、しゃべ、しゃべってええェェーーーるうゥーーーーっ!!?」
「え……あれ、なんでぼくコウイチくんと普通にしゃべ……しゃべーーーーーーっ!!??」
ポケモンがしゃべった!
ありえないことだ。
人間の言葉をしゃべるポケモンなんて聞いたことがないし、
せいぜい妄想の中や夢の中に出てきたってくらいだ。
毎週何曜日かにやってるアニメでは、なんか人間の言葉をしゃべくるニャースがいるけれど、
あんなことはアニメの中だけだからであって、ジッサイにはありえない。
人間の言葉なんて勉強しなきゃしゃべれないし、まず勉強できる知能がないといけないし……
ともかく、ありえない。ありえないっ。
人間の言葉をしゃべれるのは人間だけだっ!
なのに、目の前のこのフライゴンは……少し前までは言葉なんてしゃべらなかったこのフライゴンは、
今まさに人間の言葉を臆面も無くしゃべっている。
これは、つまり……
つまり……
「「夢だね」」
ぼくと、フライゴンの発言が完全に一致した瞬間だった。
思わずぼく達は顔を見合わせ、プッと笑い出す。
「……あははは!」
「……あっはははー!」
まるで友達同士のように明るく笑いあうぼくとフライゴン。
あっはっはーーと笑い続けていると、ふとぼくはある事を思い出した。
「……ミキヒサは?」
ぼくは重大な事を思い出していなかった。
そうだ。
そういえば、ぼくはミキヒサと一緒に行ったあの洞窟で『無』に飲み込まれてそれで……
そこまで思い出してから、フライゴン以外のぼくのポケモンがいない事に気付く。
ミキヒサもいないし、もちろんそのポケモン達もいない。
無論モンスターボールもない。未使用のモンスターボールはポケットの中に入っているけども……
「ミ……ミキヒサは!? 他のぼくのポケモン達はっ!?
ラグラージは!? レディアンは!? バシャーモは!? ジュカインは!? メノコは!?」
「どうでもいいと思いますよー、どうせこれ夢ですしねー」
「あっ、そっか」
フライゴンの突っ込みに一瞬にしてぼくのシリアス思考は終了した。
そうだ、夢だ。夢なんだ。夢なんだから誰がいないとか何とか、んなこと関係ないよね。
でも、これが夢なら……もし夢だとしたら……覚めたらぼく達はどうなっているんだ?
『現実のぼくは、今どこにいてどんな状況になっているんだ』?
恐ろしい考えが始まろうとしていたその時……新たな音と声が同時に聞こえてきた。
やたら本格的だな
おそらく羽ばたき。鳥が翼をはためかせる音……そして、声。
「おおっ、あれってまさか……まさかっ!! 人間かっ!?」
「に……ににに、人間だぜっ!! しかも、たぶんその隣にいるのは竜……
竜!? 12竜騎士の一人か……!?」
「?」
ぼくとフライゴンは、同時にその音と声の元へ視線を向ける。
そこには、二羽の鳥ポケモンがいた。
あの茶色い毛と赤いとさか、そしてドリルのように鋭く尖った嘴をもつあのポケモンは……・たぶんオニドリルだ。
「コウイチくんっ! ポケモンがいます……しかも、あいつらも言葉しゃべってますよっ!」
「そうだね……!」
咄嗟に立ち上がり、戦闘態勢を取るフライゴン。
その様子を見た二羽のオニドリルは、また何やらしゃべりはじめた。
「やる気だぜ、あの竜騎士。くっくく、やってやろうぜっ、やってやろうぜェーーっ、オイ!!」
「おぉっ!! 手柄とって俺達も飛鳥3幹部に昇進!! いや、俺達が入ったら五幹部か? うひゃーーっ!」
「夢湧き上がるぜベイベッ!! よっしゃーー、行くぜ兄弟っ! 飛鳥部隊の名の下に!!」
「ワクワクドキドキだぜバッボイベッ!! いくぜっ、飛鳥部隊のォーーー、ん名の下にぃっ!!」
何だかゴチャゴチャ叫んでたと思うと、二羽のオニドリルは突如ぼく達に向けて急接近してきた。
何を叫んでたのかそういうのは一切分からないけど、とりあえず確かなのは、あのオニドリルは『やる気』だってことだ。
「フライゴン! なんだか知らないけど、ぼく達いまから襲われるみたいだ……迎え撃つよ、フライゴン!!」
「はいっ!!」
「覚悟はいいかい人間チャンっ!!」
「食い荒らしちまうぜ竜騎士クンっ!!」
二羽のオニドリルは、まるでドリルそのもののようにフライゴン目掛けて凄まじいスピードで接近してくる。
ぼくは冷静に、いつものバトルのようにフライゴンに攻撃の命令を与えた。
「フライゴン、砂かけっ! あいつらの目にビシッと砂かけるんだっ!」
「はいっ!」
フライゴンは大きい尻尾を床に叩きつけ、砂しぶきを二羽のオニドリルに浴びせかけた。
「みゃぐ!」
「ぎゃー! 目がー!!」
砂のツブテが思い切り目を抉り苦しみながらも、なおオニドリルは速度を落とさず、接近をやめようとしない。
意表をつかれたぼくは、フライゴンへ次の命令を出すのが遅れる。
だけど、ぼくの命令を聞かずともフライゴンは次の動作を起こしていた。
「ふんっ!!」
砂かけの時に振った尻尾を、フライゴンはそのまま勢いをつけて振るったんだ。
「あ」
「あ」
図太いしっぽの一撃が、さながらバッティングのように猛スピードで迫ってくるオニドリルを捕らえた。
「「うぎゃあーーー!」」
モロに尻尾の攻撃を受けた二羽のオニドリルは後方に吹っ飛んでいき、パタリと空しく床に落ちる。
フライゴンは二羽のオニドリルが力尽きる様を見据え、顔を満足気に染めながらこちらを見つめた。
「余裕勝ち、だよっ!! コウイチくんっ!!」
「……えーーいっ、よくやったフライゴーンっ!!」
ポケモンの襲撃を難なく撃退したフライゴンに、いつものように抱擁して喜びを分かち合う。
言葉が通じるおかげか、いつもより数倍も喜びを分かち合えてる気がした。
「強すぎ……ですっ!」
「ダメだこりゃっ……!」
と、オニドリルがよろよろとその身を起こしかけているのがぼくとフライゴンの目に入る。
まだ戦う気なのか?それとも……
「まだやる気なのかっ!」
フライゴンが再び戦いの構えをとると、二羽のオニドリルは目を真ん丸くして同時にブルリと振るえ、
降参といった風に、同時に両手(というか両翼)を高く挙げた。
「いやいや、私達の負けですけどもっ!」
「もうこれ以上危害加えないで……そして、一時てったーーーいっ!!」
二匹のオニドリルはバッ!と大きく跳躍したと思うと、翼をはためかせ高く舞い上がった。
「「あっ!」」
慌てて二人で見上げると、二羽のオニドリルは勝ち誇った顔でこちらを見下ろしながらこんな事を言い出した。
「お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!」
「魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!! はははーー!!」
「魔王……竜騎士?」
「……あっ、逃げますよっ!」
バサバサと弱弱しく羽ばたきながら、オニドリルが逃げていく。
ぼく達はそれを追うよりも、急な出来事だらけでごちゃごちゃになり過ぎている頭の中を整理する事に努めた。
支援してみる。
「魔王……ですって。あの、その……ギャグですかねぇ?」
苦笑いを作りながら、そうぼくに尋ねるフライゴン。
魔王……竜騎士……やたらとファンタジックでレトロー、的な語感に笑いがこみ上げてくる。
「知らないよ。ま、夢だから仕方ないよ」
ぼくも、馬鹿馬鹿しいといった風に肩をすくめ、半笑いを浮かべながらため息をついた。
「そうですね! あっはは!」
「あーっははーっ!!」
再びほのぼのと笑い合うぼくとフライゴン。
何かを誤魔化すように、遠まわしにするように、笑う事に『必死に』夢中になるぼく達。
しかしずっと笑い続けられるはずもなく、すぐに息がきれてどちらともなく笑い合うのが止まってしまった。
「とりあえずさっ」
気まずい沈黙が流れる前にまずしゃべっておく。
「歩こうか。歩いて色んなところに行こうよ! せっかく楽しそうな夢なんだし、楽しまなきゃ損っ!」
「ですねっ、夢とはいえせっかくコウイチくんと話せるようになったんだもの……楽しまなきゃ損っ!」
「そうっ! せっかく話せるようになったんだ……いっぱいいっぱい話し合おうねっ!」
「ね〜〜っ!」
ぼく達は明るく話し合い、笑い合いながら、歩き始めた。
右も左も分からぬ、一つも知った風景の無い、『夢』の世界の中を。
あてもなく、ただ夢が覚めるであろうその時に向かって。
……いまだ見つからない後五匹のぼくのポケモンの行方。
そしてミキヒサとそのポケモン達の行方。
オニドリルの残した、まるで馬鹿馬鹿しい言葉。魔王、竜騎士……
そして、何よりポケモンがしゃべっているという事実。
わからないことが多すぎる。馬鹿馬鹿しいくらいに多い。
多すぎるがために、ぼく達二人は話の節々で『これは夢だ』と確認するなどして、必死にこの事を夢と信じようとしていた。
……夢では、『視覚』や『聴覚』……『嗅覚』『味覚』、そして『触角』……
五感が機能する事はない。機能するのは、『意識』のみ。『意識』によって作られた『架空の五感』のみだ。
例えば、夢の中で感じる味覚は、普段頭の中で『味を予想した時の味』。
夢の中で感じる触角は、普段頭の中で『感触を予想したときの感触』。
幻覚……幻痛……幻聴……
『夢の中で感じる感覚』は、ほぼ全てコレだ。
さて、夢を夢と認識している状態で……
『架空の五感』と『本当の五感』の区別がつかないなんてことがあるだろうか?
そんな事は(多分だけれど)ないはずだ。
例えば『頬でもつねってみれば』……その痛みが『本物』か『架空』か。
つまりこれが『現実』か『夢』か。そんなことは一瞬で分かるはずだ。
だけど、ぼく達はそれを出来ないでいた。
なぜか? 夢でないことを恐れて? それともその逆?
……それすらも、ぼく達はまだ分からなかった。
ここで一旦止め。また明日投下します。
支援してくれた人ありがとねー
ネイティオ様はまだお預けか
一応続きに期待。
59 :
名無しさん、君に決めた!:2007/11/27(火) 21:10:14 ID:2ugIvESU
乙
この手のスレ乱立しすぎ
いい加減に一つに纏めろ、何かあるたびにわざわざ立てるんじゃねえボケカス
まぁ、もちつけよ
時期が悪かったな
>>1。
でもまあ期待はできるクオリティ。
応援してます、こんなことしか言えませんが頑張ってください。
うむ
>>1が戻ってきたか
応援してるぞ、ちなみにお前が前回書いた最後の分まで残ってるから気にするな
やっぱ導入部はあんま盛り上がらんな
ミキヒサくん死んだ?
67 :
名無しさん、君に決めた!:2007/11/28(水) 09:26:43 ID:D96G0JI3
あげ
今日の3時半と6時に投下します。
期待
一人で投下していると途中で規制かかるので、
もしリアルタイムで見てくれてる人がいたら、
なんか合間に書き込みでもしてくれると、助かるし励みになります。
きたか
何十分経ったか、すこしおなかが鳴り始める時間、
夢の世界を渡り歩いているとフライゴンが前方に何かを発見したようだ
「あっ! あれ……村ですかね?」
「そう……みたいだね」
風景の奥に、家屋の集まりが見える。
『夢の中とはいえ』誰か他の人が住んでいるようだ。
……人?人が住んでいるのかな。それとも、まさかポケモンが……
「ねぇ、行ってみますかー?」
ぼくが考え込んでると、好奇心を多分に含ませた口調でフライゴンがそう言ってくる。
ぼくも空いてきたおなかをさすりながら、明るく返事を返した。
「行ってみよっか! 実はね……ぼく、さっきからおなかすいてて。
村の人に何か食べさせてもらおうよ!」
「そうですねっ、実はボクも……あれ?」
ふとフライゴンは大きく首をかしげる。
かしげたと思ったら、続けてこんなことを言ってきた。
「『夢の中』なのに……おなかって空くんですか?」
「は?」
数秒――ぼくとフライゴンの間で時間が固まったような気がした。
予期せぬ時間凍結を、それを引き起こしたフライゴンが慌てて溶かす。
「あ、あの、空きますよね。おなか。ボ、ボクだって夢の中で空いたことありますし。
は、ははーっ! ごーめんなさいねー、変なこと言っちゃいましてーーはははーー……」
「そ、そうだよねっ! なに時間止まってるんだよぼくらって感じ! ははーーっ!」
本日何度目か分からない中身の無い笑い合いを続けながら、 ぼく達は目の前の『村』へと向かった。
第一話 「壁」
その村が人の村かポケモンの村か……
それは、その村へ足を踏み入れた瞬間に判明した。
「フライゴン……」
「はい。やっぱりここは『ポケモンの村』……それもここは、タネボーやハスボーの村みたいですね」
多数のタネボーやハスボー……コノハナやハスブレロが、村に入ってきたぼく達を見てざわめいている。
ざわめきの隙間から聞こえる『言葉』。このタネボー達も例外はなくみな言葉をしゃべれるようだった。
だけどぼく達はこれは夢だからと、周りのタネボーの事は気にせず村を歩く。
……しかしまー、こうもヒソヒソヒソヒソうっとうしくざわめかれると、
まるでぼく達がいけない事でもしているみたいじゃあないか。
ぼく達がそんな珍しいか? いや、ここは『ポケモンの世界』……もしかして珍しいのは『ぼく』……
それにしても、この村。
そこらにある家は、ぼくらの世界のものとほぼ変わりない。
扉はあるしノブもある。窓だってあるしたまに二階建てらしき家があったりもする。
木製の展望台なんかもあるし、たまに何かの看板が立っていたりもする。(しかもキチンと読める字だ。『花踏まないで』と書いてある)
これが夢だといったらそれでお仕舞いだけど……いや、それどころかますます
『これが夢』だという事の信憑性が深まってきたような気すらする。
そんな事を考えながら何処か気まずい雰囲気の村観光を続けていると……
突然……いや、やっとと言うべきか、一匹のコノハナがぼくに話しかけてきた。
「あの……もしや、もし、もしや、ですけど、あなた……人間、ですか?」
バイザーのような文様の中の目をパチクリさせながら、ぼくにそう言うコノハナ。
その目つきは、まるで色違いポケモンを見つけたトレーナーのような驚愕と猜疑心に満ちた目つきだ。
「うん、そうだよ。ぼく人間だけど……それがどうかしたの?」
ぼくがそう答えると、コノハナの目が更に大きくかっ開かれた。
いや、目をかっ開いたのは眼前のコノハナだけじゃない。周辺にいたポケモン全員が、驚きに目を見開いた。
ざわめきが二倍に増え、さらには「えっ!?」と大声を上げるヤツも出だす。
……なんだ、なんだよ。随分と大袈裟なリアクションとるなあ。
「……どうかしたの? ええと、んー……ぼくがそんな珍しいかなあ?」
自分を指差しながらそう言ってみた。後から苦笑いも付け加えてみる。
「めめめめ、珍しいどころの騒ぎじゃありませんよっ!!」
「いっ!?」
コノハナが思い切りこちらにつっかかってきて大声を上げだすので、思わずビックリして身を引いてしまう。
と、コノハナはどうやら興奮して無意識に叫んだみたいで、コホンと一度咳払いをすると、
今度はそれなりに冷静な風な口調で(それでも結構ムリしてるような感じだけど)こう言った。
「あの……こちらへ。『村長』の元へ案内します。……ついてきてください、『人間様』」
コノハナはそう言うと、少し緊張した風な堅い動きで歩き出した。
「……人間『サマ』?」
コノハナの発言の節に少し引っかかりながら、ぼく達はコノハナについていき『村長』の家へと向かった。
コノハナに連れられて村長の家へ入ると、
家の奥にボサボサの白い髭を生やしたハスブレロが……たぶん『村長』さんが椅子に座り眠っているのがまず目に入った。
コノハナは眠っているハスブレロ村長に駆け寄り、起こそうとゆさゆさと揺さぶり始める。
「村長っ! 起きてくださいよ。人間が……人間様がっ!」
コノハナがそう叫ぶとハスブレロはやっとそのしわくちゃの瞼を開き、身を起こした。
半開きの目がぼくに向けられた瞬間、彼の目が豆鉄砲でも撃たれたかのように大きく開いた。
ハスブレロ村長は椅子から苦しそうに立ち上がると、ぺたぺたとこちらに走り寄ってきた。
「これはこれは! これはこれはこれは……これはこれは!!」
ハスブレロ村長さんは怖いくらいに目を見開いてぼくをじいっと見つめだす。
そして見た目に似合わず大きく陽気に笑い出すと、気さくな口調でこう言った。
「ひょっひょ! ようこそいらっしゃいました『人間様』! ささっ、さささっ、椅子へお座りください」
老体を思わせない機敏さで二つ椅子を持ってきて、ぼくたちに座るよう促すハスブレロ村長。
戸惑った顔でフライゴンと目を見合わせながら、ぼく達は椅子に腰をかけた。
「ほれ、そこのコノハナ。わしの椅子も持ってこんかい」
「あ、はい」
コノハナが先程までハスブレロ村長の座っていた椅子を持ってくる。
村長は深く息を吐きながらその椅子に座ると、身を乗り出してぼくにこう聞いてきた。
「ようこそ人間様! 数十年に一度の偶然が、まさかわしが生きてるうちにまた起こってくれるるとはの……ひょひょ。
さて、人間様。どこからここへいらしたのかな? 目的は?」
「えっ? えぇ〜〜っと……」
さっそく返答に困るぼく。フライゴンに目配せすると、フライゴンも困ったような目つきで見つめ返してきた。
……どこから何のためにって言われても、ねえ。
「……あ、分からないのならいいのですじゃ。すまなかったの。ひょひょ」
ぼくが返答に困っている事を察したハスブレロ村長は咄嗟にそうフォローを入れた。
と、いきなり聞く事がなくなったのか村長はまた無言でぼくをじいっと見つめ出す。
「あのう……村長さん」
「はっ、なんですじゃ?」
ぼくは先程からずっと胸の奥でモヤモヤしてる『疑問』を、投げかけてみた。
「何で人間『サマ』って言うんですか? 『サマ』って……何ていうかですけど、人間って偉いんですか?」
「ひょっ」
ぼくの問いかけにハスブレロ村長は一瞬固まり、少し間をおいてこう言った。
「もちろんですじゃ。人間様はいわば……わしら『モンスター』にとっては『神』なのじゃから」
「『神』!?」
「言い伝えにはこうある。何百年前だったか遥か昔……人間の集団がこの世界に現れた。
そして人間達はわしらモンスターに言葉を伝え……技術を伝え……文化を伝えたと。
つまり今のわしらがあるのは、ほぼ人間様のお陰と言っていいのじゃ」
「へぇ〜〜〜……」
ハスブレロ村長の語りに、思わず感心したように頷いてしまう。
これが『夢だ』ってことも少し忘れかけてきちゃったり……
「人間様には返しても返しきれぬ大恩がある。人間様は『絶対歓迎』なのじゃ。
以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある……
その時は、それはもう盛大に歓迎したものじゃ……」
上を向いて物憂げに目を瞑りながら、たぶん若き日の思い出を辿り出すハスブレロ村長。
前来た時も盛大に歓迎したって事は、ぼく達もこれから歓迎、されるのか……?
隙間侘しいおなかをさすりながらそう考えると、少しだけぼくの胸が期待に躍る。
「ねぇ、フライゴン。ぼく達これから歓迎されるみたいだよ」
隣のフライゴンに視線を移す。
と、フライゴンは何かを考えるように、小さい手を顎に添えながら下を向いている。
「どしたの? フライゴン」
そう言ってフライゴンの顔を覗き込もうとすると、フライゴンはすぐに顔を上げこちらを向いた。
「いや……何となくですね。辻妻が合うというか、何というか……でして」
「えっ?」
フライゴンは何か意味ありげなことを言い出した。
「ずっと前からボク、不思議に思ってたことがあったんですよ」
「ボク達ポケモンって……あの、本当にみんな『人間が大好きなんです』。
物心ついたときから……たぶん生まれた時から、どのポケモンもみんな人間が好きで。
ボクがまだナックラーで野生だった頃、ボクの友達はみんな人間が大好きでした。
仲間内で話すことといえばホント、人間の事ばっかりで……人間にゲットされた友達を本気で羨ましがってました」
「へぇ〜〜〜〜〜ぇ……」
ポケモンの本とか、旅の途中であった足跡博士なんかから『人間を嫌いなポケモンなんかいない』って話をよく聞いてたけど……
ポケモン自身が言ってるんなら、本当にそれは間違いない事だったのかな。
そう感心すると共に、少しばかり優越感が胸を浸す。
そして、フライゴンの話はまだ続く。
「ボク達が人間に飛び掛るのってあれ、捕まえて欲しいからなんですよね。
ボクがあの日あの時コウイチくんに飛び掛ったのも……その、コウイチくんに捕まえてほしかったからなんですよ?」
いつだったか、砂嵐吹き荒れる地帯の草むらを歩いていたとき、
一匹のナックラーがぼくに飛び掛ってきた……あの日の思い出が、ふと蘇る。
「で、なんですけどねっ」
そう言うと共に、フライゴンはどこでそんな仕草を覚えたのか、短い人差し指をピッと立て手をこちらに突き出す。
ここからが本題みたいだ。
「何で、ボク達って人間が好きなのかなあって……生まれた時から人間が好きなんです。おかしいですよね? これ。
で、なんかそれが……今の村長さんが言ってた事と何か関係あったりしてー、とか思っちゃいまして……ってワケなんですけど」
「……」
ぼくは考える。
人間を神と崇め絶対歓迎するというこのポケモンの世界と……
生まれた瞬間から人間を好きだというぼく達の世界のポケモン。
まだ果てしなく、ホントに果てしなく『何となく』ではあるけれど、どこか深い関係があるような気がしてしまう。
これは『夢』だって言うのに……
「ところで〜」
ハスブレロ村長が不意に話しかけてきた。
支援
「あっ、はいっ!?」
フライゴンと話し込んですっかりハスブレロ村長の存在を忘れてしまっていたので、随分上ずった声で返事してしまう。
村長は少しだけ眉をしかめたが、すぐに柔和そうな表情に戻った。
「きみ達まだここへ来て日が浅いようじゃな。なにか〜〜、質問とかあるかの? 何でも答えてやりますぞ」
身を乗り出しそう問いかける村長。
「質問……」
何か聞きたいことはないかと記憶を辿ると、すぐにあのオニドリル達の発した言葉へと行き着いた。
“お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!”
“魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!!はははーー!!”
ぼくとフライゴンは顔を見合わせ、ほぼ同時に全く同じ質問を村長へ投げかけた。
「「魔王とか竜騎士ってなんですか?」」
あまりに全てが一致してしまったので、またぼくとフライゴンは顔を見合わせる。
フライゴンはぼくと同じく驚いたように目を見開き、口を半笑いの形に歪めていた。
「ふむ、やはりそう来たか……順を追って説明せねばな」
ハスブレロ村長は長く深呼吸する。結構長い話になるみたいだ。
ぼくも釣られて、思わずゴクリと息を飲んでしまう。
ハスブレロ村長はあらかた深呼吸し終えると、じっとぼくを見据えて話し始めた。
「この世界には、わしら以外にも多数の種類のモンスターがおる。
しかし、ほとんどは『その種族はその種族ごとに』……
エスパーならエスパーと、ゴーストならゴーストと、キチンと住み分けておるのじゃ。
違った種族同士が共存している場所など、あまりありはしない。
しかし、『魔王』が率いる『魔王軍』だけは違う……
この世界からあまねく集められた多種の種類のモンスターが、『魔王軍』という一つの軍の元に共存している。
そしてその魔王軍のトップ、魔王の目的は……
わしも詳しくは知らんが、『この世界を一つにすること』」
「『世界を一つにする』……」
ぼくは、魔王という呼び名とその目的がイマイチ一致せず、思わず首を捻ってしまう。
世界を一つにする……
ぼくは子供だからよく分からないけれど、
何となくその響きは神聖で、悪いイメージなんて微塵もしない。
ぼくは、そのモヤモヤをすぐに口に出した。
「魔王っていうからには世界を恐怖に陥れるとかそういうノリだと思ってたけど……
あの、魔王って、悪い感じのヤツじゃないんですか? 目的はあんま悪い感じに聞こえないんだけどなあ」
「あ、ですよねっ。ボクもそう思ってたんです」
フライゴンも、その疑問を言いあぐねていたのかすかさずぼくに同調する。
と、ぼく達のその疑問に、ハスブレロ村長さんは即答した。
「勿論悪い者じゃ。悪いも悪い……『世界を恐怖に陥れる存在』という言葉も全く間違っておらん。
定期的に町や村を襲い魔王軍へと引き込むためにモンスターをさらっていく。
意味の無い破壊や殺戮を頻繁に行うとも聞く。立派な、平和を乱す悪党の群れ……害虫どもですじゃっ」
力強く、そう告げるハスブレロ村長。
言葉の中の破壊だの殺戮だの……残虐な単語が、一気に話を生々しくさせている。
……やはり、『魔王』という名前からには悪い集団であったようだ。
しかし、その悪い集団である魔王軍は、つまるところ『ポケモンの軍隊』……
あの『ポケモン』が、あの『ポケモン』達が、『世界を恐怖に陥れる存在』だってのか?
ポケモンがポケモンを苦しめる光景。あまり進んで想像したくはないな……
ハスブレロ村長は、話に一区切りつけるように一度息をつき、そして引き続き話し始めた。
「そして、その魔王軍に唯一対抗できる『唯一の戦闘集団』こそが、竜騎士。『12竜騎士』なのですじゃ。」
12竜騎士。
フライゴンは先程の魔王の話よりも、より興味深そうに首を前に突き出した。
「ここから遥か西にある竜達の国。その竜の国のトップに立つ12匹。
いわば魔王軍を除いたこの世界での最強の戦闘力を持つ『12匹の竜』こそが、12竜騎士なのじゃ」
「12、竜騎士……」
口をついて単語が出てきてしまう。
『12の竜』……言い換えれば、『12匹のドラゴンタイプのポケモン』。
ドラゴンポケモンなんて、ぼくはフライゴン以外に見たことは無い。
何だか、本当にワクワクきてしまう。
こんな所でポケモントレーナー魂が刺激され疼いてしまうぼくはどうにかしてるのかな。
無意識に、 「早く続きを」 と急かすようにぼくは身体を前にかがめてしまう。
村長はまた息を深く吸うと、話を再開した。
「きみの……つまり、『人間様の世界』にもある12までの月……
そのそれぞれの月に、『誕生石』と呼ばれるシンボルがあるじゃろう?
わしらの世界にもそれはある。当然じゃ。わしらの文化は人間様が伝えた文化なのじゃから。
そして12の竜騎士は、使命として一匹が一つずつ、それぞれの性格に合った『誕生石』を与えられているのじゃ。
その十二種の誕生石……せっかくじゃ。名前も、石言葉も、全て教えて差し上げましょう」
1月の石・ガーネット! 真実・忠誠!
王に最も忠誠厚き騎士に与えられし石!
2月の石・アメジスト! 平静・高貴!
決して折れぬ自我を持つ誇り高き騎士に与えられし石!
3月の石・アクアマリン! 沈着・勇敢・聡明!
大海の如く雄大な意志を持つ騎士に与えられし石!
4月の石・ダイアモンド! 清浄無垢!
清く汚れなき心と身体を持つ騎士に与えられし石! 清き精神は不純なき意志! 何物にも砕けぬ無垢の心!
5月の石・エメラルド! 廉潔・平穏!
何より好むものは平穏と安らぎ! 無欲で、他の者・弱き者のために動く心優しき騎士に与えられし石!
6月の石・パール! 健康・長寿・美!
真珠の如く滑らかで美しく、かつ強固な意志を持ちし騎士に与えられし石!
7月の石・ルビー! 情熱・仁愛!
炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石!
8月の石・ぺリドット! 和合!
弱者も、強者も、愚者も、何者をも引き付け、断ち切れぬ心の鎖で繋ぎ止める圧倒的カリスマを持つ王の石!
9月の石・サファイア! 慈愛・誠実・徳望!
何者をも包み込む慈愛と人徳、誠実さを兼ね備えた騎士に与えられし石!
10月の石・オパール! 無邪気・歓喜・忍耐!
あどけなく少年少女のような素直な心を持つ騎士に与えられし石! その率直な意志は、どんな苦難や誘惑をも己の正義の元に耐え忍ぶ!
11月の石・トパーズ! 友情・希望・潔白!
全ての者に熱き友情を注ぎ込み、何者をも信用させる力を持つ騎士に与えられし石!
12月の石・ターコイズ! 成功!
与えられた任務は例えどんな手段を用いようとも最期には必ず成功させる手腕、そして狡猾さをも持つ騎士に与えられし石!
石の紹介のしかたが何かジョジョっぽいw
支援
まだか
ハスブレロ村長はそう一気に言って、少し息切れしていた。
「は……把握したかね?これが竜騎士達に与えられた十二種の宝石ですじゃ」
肩息まじりにまとめの一言を告げるハスブレロ村長。
「12の竜騎士……誕生石になぞらえた12の竜騎士……フライゴンきみ、お誕生日いつだっけ?」
なんだか興奮してしまって、思わずフライゴンにそんな事を聞いてしまう。
「え? いや……自分の誕生日とか分からないんですけど……」
まぁ、当然の答えだ。
「あっ、そっかぁ……ぼくは5月! ええと、5月の宝石ってなんでしたっけ?」
「エメラルドじゃよ。廉潔と平穏の石じゃ」
心なしか、そう言った時のハスブレロ村長はかなりイライラしているような感じだったけど、ぼくはそんな事はおかまいなく騒ぎ続ける。
「エメラルドかァーー!! あの緑色の石? うひゃぁー、ぼくエメラルド! 緑のエメラルド!
あれっ、緑って言ったらフライちゃんと同じ色じゃーん! いやーん、運命的ー!!」
昂ぶった感情のままに、ひしっとフライゴンを抱きしめ、艶やかキレイな緑のボディーを優しくぺちぺちと叩くぼく。
「あ、あのぅ……コウイチくん……」
「えへへ……ごめーんっ」
フライゴンが呆れたような声を出したので、照れ笑いしながら手を離す。
「……元気があっていいのう。子供は」
そう言うハスブレロ村長は何故だか、言葉とは裏腹に眉間にしわを寄せ、本格的にイライラきている表情だ。
その表情を見たぼくは何故だか背筋にゾクリと嫌なものを感じ取り、一瞬でそれまで浮かばせていた照れ笑いが消えてしまった。
「で……『部隊』ってのは? ボク達、今朝『飛鳥部隊』って名乗るオニドリル達に会ったんですけど」
次に質問を投げかけたのはフライゴンだ。
ハスブレロ村長は数度うんうんと頷くと、息切れ混じりに話し始める。
もうこれ以上質問をするのは、ちょっと老体に響くんじゃあ……
ぼくは少しそう思いつつも話に引き続き耳を傾けた。
「魔王軍は、先程も言った通り『複数のタイプのモンスターが入り乱れる唯一の集団』。
恐らく、竜以外の全ての系統のモンスターが集まっているのではないのだろうか?」
まず、魔王の直属の部下には四匹のモンスター。『四天王』と呼ばれるモンスターがいる。
一匹は百年先を見通し、一匹は人の意識を操り、一匹は巨山をも拳のみで砕き割り、一匹は何をしようと砕けることのない強固な体を持つという。
そして、その四匹がそれぞれ部隊長を務める四つの部隊がある。
百年先を見通す四天王が従えしは『超人部隊』。
人の意識を操る四天王が従えしは『幻霊部隊』。
並ぶ者なき剛の四天王が従えしは『闘神部隊』。
一の強固を誇る四天王が従えしは『巨岩部隊』。
そして、それら一つの部隊につき更に三つの傘下の部隊。
『飛鳥部隊』は確か、『超人部隊』の傘下の部隊の一つだったかのう?
とにかく、合わせて『十六の部隊』が魔王軍には存在するんですじゃ」
ハスブレロ村長はそこまで言うと一旦口を止め、ふぃ〜〜とくたびれたようにため息をつき出した。
のんきに肩をポンポンと叩き、やっと次の言葉を口にする。
「……もう、めんどいのう。色々と……歳だとね、あまり長い台詞喋ると疲れるのじゃよ。顎が。
さぁ、めんどい事は後にして、きみ達、食事はどうかね?」
「え? お食事、ですか?」
いきなりの話の転換っぷりに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
……いい所だったのにな……
次々語られる『竜騎士』やら『魔王軍』やら、まるでマンガやゲームな世界な話に、正直ぼくは心躍っていた。
話がぶっ切れてしまった事を少し残念に思いながらも、ぼくは猫のうなり声のようにゴロゴロ鳴るおなかに従った返事をした。
「はい、喜んで!」
ぼく達二人はハスブレロ村長に連れられ村の食堂へと移された。
食堂へとぼく達が……正確には多分ぼくが入ったことにより、食堂中にざわめきが起こる。
ぼくとフライゴンは店の中心の大テーブルの前に座らされる。
店中の人の視線がぼく達に突き刺さる。
と、ハスブレロ村長が村の人達に対してこんなことを言った。
「ほほ、人間様と次世代の竜騎士様のご来店じゃぞ。
みなよ、こちらに来い。この二人を存分にもてなしてやろうぞ」
村長が皆にそう言うと、村人達は戸惑ったように各々顔を見合わせる。
やがて一匹のハスボーがぼく達の元へやって来るのを皮切りに、
やがてはその食堂中の人がぼく達の周りに集まってきていた。
「ねぇねぇ、人間さんどこから来たの?」
「これが人間かー。やっぱ火吹いたり地震起こしたりとかできるわけ?」
「竜巻起こせます?」
「フレアドライブ程度くらいまでは楽勝っしょ? ねぇ、どうなんです?」
「ありゃ、人間ってもっとこう神々しいイメージあったけど、何だか可愛らしい外見だなぁ」
「竜さんカッコいいー!」
あっという間に、村人達から質問攻めになるぼく達。
すぐに料理も運ばれてくる。……サラダしかないけど。
「ねぇ、食べて! 存分に食べてね! いっぱい食べてね!」
料理を運んできたコノハナさんはそう言いながら、長い鼻先がくっつきそうな程にこちらへ顔を近づけ、ニコニコと笑ってぼく達を見つめている。
……食べづらいんですけど。
そう言うわけにも行かず、ぼくはそのコノハナさんの期待に沿ってサラダを掬い口に入れた。
苦いキャベツの香りが口の中に広がり、一口噛みしめると弾け出た苦味が口内に飛び散り舌に染み込む。
普段あんまり好きじゃあない味だけど、無理して満足そうな笑みを作るとコノハナさんの顔が歓喜に綻んだ。
……まだぼくを見ている。
ぼくが完食するまでずっと見ているつもりなのか。尋常じゃなく食べづらいよ、コレ! ちょっとどうにかしておくれよ!
視線や質問攻めに耐えながら出された料理を半分くらいたいらげた所で、突如村長がぼくにこう言った。
「実はあなたに……見せたいものがあるのですが、少し付き合ってもらっていいですかな?」
「……?」
一レス分多く投下してしまいましたが、ここまで。
途中バイさるに引っかかったけど、どうも0分を超えると解除されるみたい?
じゃあ6時半くらいに次のぶん投下します。
乙
ってかネイティオ達は?
…………
「ここですじゃ」
ぼくは、ハスブレロ村長に連れられて、村の端の高い岩壁の前につれて来られていた。
その目の前の高い岩壁には、いくつもの洞穴が開いている。
「あのう、見せたいものって?」
「この洞穴の中にあるのじゃ……きっと驚くだろうよ」
ハスブレロ村長は、そのいくつかの洞穴の一つに入っていく。
ぼくは腰を折り進む村長の後ろについて、洞穴の中に入っていった。
洞穴……また洞穴か。
今日何回目だろう。
いや、まだこれで二回目だけれど今日随分何回も入ったような、そんな錯覚がする。
中は比較的広いけど足場はやたらと起伏が多くて歩きづらく、気をつけないと足をとられ転倒してしまいそうだ。
床の凸凹に気をつけながら歩いてしばらく経つと、少し広めの部屋に着いた。
通路はもう無い。ここが最深部……行き止まり。村長の動きも止まる。
つまり、ここに村長の『見せたいもの』があるんだろう。
「あのう、見せたいものってどこにあるんですか〜〜。なんかの壁画とか何とかですかあ〜〜?」
部屋を見回し、壁の一つ一つに目を凝らす。何も無い。
天井を見つめても特に何も無いし、床も一通り見てみるけど特に何かがあるってわけでもない。
村長はなにやらもったいぶってるのか、黙りこくってる。
「あの〜〜、こう言っちゃあアレですけど、ぼくもうオナかペコペコでして……
見せるものあるなら早いところ見せてくれませんかね……失礼ですいませんけど……」
段々ぼくももどかしくなって、空腹のせいもあってつい本音を口にしてしまう。
とにかくぼくのその発言もあってか、村長はようやく口を開いた。
「そこの壁の下に……隙間があるじゃろう」
ハスブレロ村長が適当な壁に指をさす。
壁の下に目を凝らしてみると、確かに小さい隙間がまるで巣穴のように幾つも幾つもあった。
到底入れそうにない大きさだ。村のタネボーやハスボーならギリギリ入れるかな?
やがてぼくが『これはなんだろう』という考えを持ち始めた瞬間、意思が通じたように村長はそのことについて答えた。
「この洞窟はあるモンスターの巣穴での。それも知恵も持たぬ、言葉もしゃべれぬモンスターのな……
そして『それなりに』獰猛なのじゃよ。自分よりずっと大きい生物でも平気で食いよる。ま、奴等は肉食だからわしらは食われんがの」
ハスブレロ村長はよく分からないことを語り始めると、身を翻して元来た通路の方へ歩き出した。
「?」
『見せたいものがある』って言ったのに……変なこと語ってそれで終わり……?
少しだけ頭が困惑に揺れる。
と、村長は歩を進めながら再び口を開いた。
「この村も、魔王軍に襲われた事が無いわけでもない……ま、こんな小さな村じゃから襲われると言っても数人程の小隊にじゃが……
それでも戦闘の出来ぬわしらに勝ち目は無い。だが、わしらは一度も魔王軍に制圧された事は無い…… なぜか分かるかのう?人間様よ。ひょっひょひょ」
「あの……村長さん、何を言ってるんですか……?」
「『ここに魔王軍の奴らをおびきよせたのじゃ』。奴らを全員ここらの穴におびきよせる。後は『彼ら』がやってくれる……そういうことじゃ」
「……?」
ハスブレロ村長は独り言でも言ってるんだろうか。まったくぼくと会話をしてくれる気配が無い。
まさか、年寄りだから耳が遠くて聞こえないなんてことじゃあ……
ぼくは意を決して、少し大声で言ってみる。
「あのっ!村長さんっ!」
「やかましいのう!!」
「!?」
不意の怒号にギョクン、と胸が揺れる。
村長は強く振り向き、怒りのこもった目でぼくを睨みつけながら今までに無い大声でそう言ったのだ。
白目の端々に、赤い血走りが覗いている。
「わしは初めに……お前に『見せたい物』があると言ったよな」
村長はようやく本題に触れ始める。その口調はかなりの怒り、いや、苛立ちを含んでいる。
……この人、少し怖い……
村長はぼくから視線を外すと、再び元来た道へ向かって歩き始めた。
壁と壁の狭まり……通路の始まりらへんに到達すると動きを止め、
すぐ横の壁に手を沿えながら、こちらを振り向かないまま村長はこう言った。
「お前に見せたいというものは……先程言った『彼ら』のことでな」
「え?」
次の瞬間、ぼくは見た。
ハスブレロ村長が添えていた壁が、突如『へこむ』のを。
……いや、村長がまるで『スイッチか何かのように』……壁を『へこました』のを。
そしてそれから間もなくのことだ。
村長のいる場所のわずか後方の天井から『ガラス戸』が現れ、
そのガラス戸が、ハスブレロ村長のいる通路とぼくのいるこの部屋を遮断してしまった。
「え……?」
事の重大さはすぐには把握できなかった。
咄嗟に何かの冗談だとか思いつつも、ガラス戸の方へ走りよる。
「あ、あの……」
ガラス戸に手をつき、その奥の村長を見る。
「そのぅ、どういうことです? これは……」
ハスブレロ村長は反応しようとしない。
「出してくださいよ……」
ガラス戸を叩く。
「ねぇ、ちょっと? 出してよ。聞いてます……? ねぇ……」
更に強く叩く。
「ね……村長さん……?」
反応が無い。
「……」
ぼくは両手の平で思い切り、ガラス戸を叩いた。
「出せええェェーーーーーっ!!!」
「出せっ、出せェェーーっ!! 村長さん、出してくれよぉぉーーっ!!」
平手で強く、何度も強く、壊そうとしているわけじゃあなく村長に呼びかけるためにひたすら強く何度もガラス戸を叩く。
次第にはグーで叩きつけるように。ドン、ドン、と何度も。今度は若干『壊れてくれ』という願いも込めてだ。
ようやく、ぼくは事の重大さが把握できた。
ぼくはこの部屋に閉じ込められたっ!
このガラス戸は開かないっ!
そしてこの部屋は『肉食ポケモン』の巣穴っ!
間違いなく命の危機だ。そんくらい子供のぼくだって分かる。
そしてぼくを今その危機に陥らせてるのは、今まで全くそんな気配の無かったハスブレロ村長……
ワケわからない。ワケがわからないっ!
村長ご乱心
「なんで……なんでこんなことをォーー!?」
ぼくの声は焦りと怒りにまみれている。
そのぼくの声に突き動かされたのかどうか知らないけど、ようやく村長は口を開いた。
「こういう情報がある。『人間は、魔王の完全復活に重大な鍵を持っている』と……」
「!?」
ゆっくりと、低い調子でそう告げるハスブレロ村長。
ただでさえしわがれていた声が、より一層しわがれて聞こえる。
そのせいで村長の発言はひどく聞き取りにくいものだったが、ぼくは完全に聞き取った。
そして『村長が何故ぼくをここに閉じ込めた』のかもすぐに察知した。
「魔王は力を取り戻していないのじゃ。詳しくは知らんが大昔その力を吸い取られ封印されたと……
ともかく魔王がその『力』を取り戻すには『人間の存在が重要な鍵』だと言うのじゃ。
魔王軍にお前が手渡ってしまったら、困る。魔王が完全復活しちまうからのう? そういうことじゃ」
村長はそこまで言うと、ぺたぺたとゆっくり帰っていく。
村長が一歩進むごとに、ぼくの胸にズシリ、ズシリ、と湿った何か重いものが覆い被さってくる。
帰っていく。ぼくが取り残される……ぼくが……
「人間には返しても返しきれない恩があるって言ってたじゃあないですかっ!!」
ぼくは強く、震える声を引き絞り力強くそう叫んだ。
村長の動きが、ピタリと止まる。
村長はきっと迷っているはずだ。人間には恩があるから……沢山の恩があるはずだから……
本当は『ぼくを殺す事に迷いがあるはずなんだ』っ!そうじゃなきゃ、おかしい。
「ねぇ、出してくださいよっ。人間には恩があるんでしょ? ぼく達は……いわば『神』だって……言ってたでしょっ!?」
強く強く、希望を声量に変えて力強くぼくは叫び続ける。
洞窟中に声が反射して、痛いくらいに何度もぼくの耳に入り込む。
やがて耳鳴りと共に、静寂が訪れる。ぼくは、もう一度叫ぼうと息を吸って……
「恩? 『恩』じゃとォォォ〜〜〜〜?」
「?」
ハスブレロ村長はついに振り返り、こちらを見た。
その表情は……
「『恩』なんて……『大恩』なんて……
わしらが知ったこっちゃあるかマヌケめェェェーーーーー!!!」
「!?」
ハスブレロ村長の形相は、今までに無いほど怒りの色に塗れていた。
まるでゾンビのように、顔中に血管の模様が浮かび上がり。
「『恩』!? それはいつ誰への話じゃ!? オイ、いつ誰の話じゃァァーーーー!?
それは遠い昔の『わしらの先祖への恩』じゃろう!? わしらは別に何もされた覚えはない。『恩』なんてこれっぽっちもねーんだよォォ!!
つまり『恩』なんてわしらが知ったこっちゃあるかボケが!! 知ったこっちゃあるかクソが!!
って事なんじゃよォォーーー!!! ひょっひょ……うひょひょひょひょひょ!!!」
村長は激しく怒り、興奮している。
ある意味では陽気に、楽しげに、怒りの程を叫びぶちまけている。
村長のあまりの豹変ぶりに、胸が恐怖に疼いてくる。
そんな中、ぼくは村長のある発言を思い出した。
”以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある…… ”
瞬間、とてつもなく恐ろしい考えがぼくの胸をよぎった。
「ま、まさか! 前にこの村に来たっていう人間にも、こうやって……お前は……!」
「ん〜〜?」
村長は挑発じみた声を出しながらこちらに向かってくる。
「どうじゃったかのう。けっこう昔のことじゃから……よく覚えてないの〜〜〜」
「……!!」
途端に今までの村長に戻り……呆けたような声でそう言う村長。
……『ボケ』装ってるつもりかこいつ……!
無意識にぼくの心に、村長へ対する敵対心が沸いてくる。 こうやってはぐらかすって事は、きっと……
ぼくがそこまで考えると、また村長はうっとうしく独り言を始めた。
「そもそもわしはガキが大嫌いでのう……ガキに対しては怒りしか湧いてこないのじゃ。
ガキは空気が読めない……ガキは身の程を知らない……
そういえばお前、さっきわしに対して『お前』と言ったよな?
人間の世界では老齢の者には敬意を払えと教えてないのか?
そして、何よりガキは無慈悲じゃ。 わしが栽培した村の花や蓮が、
何度無慈悲なバカガキどもに踏み潰され引っこ抜かれた事か……」
「そ、それとこれとは関係な……」
「黙れクソガキャッ!!」
「わっ!?」
突如村長が、ガラス戸を平手で叩きつけてきた。
胸が驚きに跳ね上がり、よろめいて尻餅をついてしまう。
村長は、ぼくのその姿を見ると、はちきれんばかりの爆笑を始めた。
「ひょっははははァァ!!! かぁ〜〜〜〜わいいのうっ!!!
ひょははっ!!! やっぱり楽しいのう……ガキ驚かすのはっ! ひょははっ!!」
べたべたと跳ね回り、子供じみた罵声を浴びせ、悪戯心に満ちた顔でぼくを見下すハスブレロ村長。
挙句の果てには下瞼をめくりベロを出したり、尻を叩いて見せたり……これが『今から人を見殺しにしようとているヤツの行動か』!?
長生きしているうちに倫理観とか何とかがぶっ飛んじゃったのか、
『ハスブレロ』が元々こういう性格の種族なのかどうかは知らないけれど……
……ムカッ腹が立ってきたぞ。
怖いとか何とか……そんなことより、ぼくは『コイツ』にムカついてきたぞっ!!
「言っておきますけどねっ!!」
ぼくは尻餅をついた体勢のまま、そう叫んだ。
自分でも驚くほど、ぼくのその声はハッキリとして芯が通っている。
村長の動きがピタリと止まった。
「ぼくは、死なない。フライゴンが……あの竜、フライゴンがぼくを助けに来てくれるからだっ!」
ぼくは村長の顔をキッと睨みつけ、そう言ってやった。
村長はぼくのその言葉に固まる。
……それも一瞬だけで、すぐにあのムカつく半笑いの表情に戻ると、
膝を折ってガラス戸にギリギリまで顔を近づけ……果てしなく『悪そうな』表情でこう言ってきたのだ。
「保証はあるのか? 『本当にあの竜はお前を助けに来てくれるのか』?」
「はい?」
とても馬鹿馬鹿しい質問だった。ぼくは思わず笑いそうになる。
いや……実際笑ってやった。思い切り小ばかにするように、 「プッ!」 ってね。
「ぼくとフライゴンは、あなたなんかには分からない程の強い絆があるんだっ。助けに来てくれるに決まってるっ」
ぼくがそう言うと……ハスブレロ村長は笑った。 さっきのぼくと全く同じように、「プッ!」 て。
そして、その表情のままガラス戸に顔をくっつけ、果て無く意地悪そうな口調でこう言ってきたのだ。
「『保証』は? 『保証保証保証』! 『強い絆があるっていう保証』は!?
所詮お前の一人よがりなんじゃあないのか……? ええ!?
本当はあの竜は、お前のことを恨んでいるんじゃあないのか? 憎んでいるんじゃあないのか?
お前みたいなガキのことじゃから、それはもうあの竜を存分にこき使ったのだろう……だったら、勿論恨まれてるはずじゃが……?」
「……!」
『保証』……
『保証』なんて……そう言えばあるか?
そうだ。誰も心の中なんて読めない……『保証』なんて……ないんじゃないか?
”ねぇねぇ、みんな聞いて聞いて!! ぼく昨日ポケモンゲットしたんだよぉ!!
見てホラ見て見てホラ見て見てぇっ!! どう? 丸くてパクパクでっ!! 丸くてパクパクでぇーーっ!!”
いつだったっけな、誕生日プレゼントでもらったモンスターボールで、ぼくがあの『丸くてパクパク』なポケモンをゲットした日は。
まだぼくがシンオク地方に引っ越す前で、ホウエヌ地方にいた頃だったっけ。
ともかくその『丸いパクパクくん』がぼくの初めてゲットしたポケモンで、
ゲットした翌日、友達みんなにああやって叫んで自慢しまくった記憶がある。
それから、ぼくは毎日そのパクパクくんことナックラーと朝から晩まで遊んだ。寝るのもお風呂はいるのも毎日一緒だ。
しょっちゅう手を噛まれたり、寝ぼけて噛まれて夜中起きちゃったり、
最初の方は色々大変だったけど、二週間くらいすればナックラーはもうぼくを噛まなくなったし、
自然とぼくにのこのこ擦り寄ってくるくらいには懐いてきた。(あの『のこのこ』って風なのんびりさがまたカワイーんだよなぁ〜)
さて、そうしてナックラーとの生活が何年かを超えて、
引っ越してきたシンオク地方にもだいぶ慣れ始めてきたある日、
ぼくはミキヒサに連れられてコトブチシティで開催されたポケモンバトルの大会を見た。
激しくぶつかり合うポケモン、飛び交うトレーナーの命令、観客の声援、そして勝利したポケモンとトレーナーのあの輝くような歓喜の笑顔……
生で見るそのポケモンバトルの熱狂ぶりは、今までポケモンバトルに疎かったぼくの心にある『夢』を植えつけてしまうことになったんだ。
『ナックラーと一緒にポケモンマスターになる』
それからというものの、ぼくは毎日のようにナックラーを戦わせた。
学校から帰ったら色んなポケモントレーナーと戦うために色んな場所へ出かけたっけ。
もちろん、だからってナックラーと遊ばなくなったわけでも一緒に寝なくなったわけでもない。
ナックラーとの生活に新たに『ポケモンバトル』という項目が加わっただけに過ぎないんだ。
……でも、『格段にナックラーを傷つける機会が増えてしまった』事には変わりない。
一月に二回はポケモンセンターに連れていってたような気がする。
そして、やがてナックラーだけでなく他のポケモンもゲットするようになった。
捕まえたぼくのポケモンは一匹一匹がとても可愛かったけど、
数が増えてしまった分、かける愛情が分散してしまったような気もしなくもない。
それに何より、ポケモンが増えてしまった事により、あえなくポケモン達をボールに『収納』せざるを得なくなった事も大きいだろう。
……でも、ぼくは『全員に最高の愛情をかけた』つもりだった……けれど、それこそまさに独りよがりだったのかもしれない。
そうだ、独りよがり。独りよがりだ!!
そう、ポケモン達はポケモンバトルなんて本当は嫌だったかもしれないんだ。
ボールに『収納』されて、ずっと窮屈な思いをしていたかもしれないんだ。
命令なんて嫌々従ってただけかもしれない。勝利の後の『笑顔』や『喜び』なんてあんな物ただの建前だったのかもしれない。
心の奥底のホントのホントでは、『ぼくなんていなくてもいい』なんて思ってたのかもしれない。思ってないなんて『保証』あるか? どこにある?
『図々しく命令なんかしてるんじゃあねえクソガキ』なんて思ってたのかもしれない! 思ってないなんて『保証』あるか!? どこにある!?
『絆がある保証』なんてどこにもないんだ!
いくら繋がってる気がしても、結局はそんな気がしてるってだけで実際そうだってわけじゃない。
心なんて読むことができないから当然のことさ。どこまで行っても結局は決定的な所まではたどり着けず、『気がする』で終わってしまう。
そう、自分と他の者の間には……人間とか家族とか親友とかポケモンとか、そんなものは関係なく!! 例外なく!!
必ず『決して覗き見ることの出来ない壁』が広がっているんだ!
107 :
11/13 ◆8z/U87HgHc :2007/11/28(水) 19:08:14 ID:+XZiqCqs
絶望的な状況に脆くなった心は、いとも簡単に揺れ動く。
ぼくは自然と黙りこくってしまっていた。
「ひょっひょ。わしは知ったこっちゃねーが、お前は知っているじゃろう……『どれだけ奴をこき使ったか』!! ひょっひょひょ!!
んっん〜〜〜? 図星かね? ま、何度も言うようだがわしは知ったこっちゃねーがの。ひょひょひょ!」
村長は立ち上がり、高笑いを残しながら去っていった。
薄暗い道に、すぐにその後姿は見えなくなる。
そして……耳鳴りと共に静寂がやってきた。
……いや。
静寂の中から、聞こえてくる。『音』。
土が削れる音。『何かが這ってくる音』。
それが複数……何個も、何個も、マラカスのようにガシャガシャガシャガシャ。いくつも、だ。
先程村長が残したある言葉が頭をよぎる。
”『それなりに』獰猛なのじゃよ。自分よりずっと大きい生物でも平気で食いよる。ま、奴等は肉食だからわしらは食われんがの”
ぼくは、見た。
床の下の狭い隙間から……何かが出てくるのを。
複数の何か。虫ポケモン……?
おそらくぼくの匂いを嗅ぎつけたんだ。『餌』の匂い……
ふざけないでよ、ぼくは餌じゃあない。食べても美味しくない。
もちろん煮ても焼いても多分美味しくない。そんなの餌か? 違うでしょ。だから餌じゃあない……
頭がパニックにかき回される。
と、その時。パニックにかき回されている筈の頭に、
偶然か奇跡か天啓のように、ある『事実』が舞い戻った。
「……そうだ、これは夢だったんだっ!!」
ぼくは、今まですっかり忘れていた『事実』を思い出した。
途端に、今まさに胸にかかろうとしていた絶望の靄が晴れ、希望が現れる。
そうだ、夢だったんだ!
これは夢だっ! 故にぼくは死なない。
目を覚ませばいい話だ。
目を覚ますだけでこのピンチは一瞬でお仕舞い。
そう、目を覚ますだけでいいんだ。簡単なお話じゃあないかっ!?
どうやって目を覚ますんだ?
ぼくはギュッと目を瞑った。
数秒後目を開いてみると、そこにはさっきと全く同じ光景。
意味も無く跳ねてみる。
しかし なにもおこらない。
頬をつねってみる。
痛い。
痛い。
痛いよ。
夢じゃなかった。
やっぱり。
「村長と人間様……遅いなぁ……」
また新しい料理を運んできたコノハナさんが、小さくそう呟く。
そういえば、コウイチくん遅いなあ。もう何分経っただろう……
ボクは野菜料理をほおばりながら、コノハナさんに尋ねてみた。
「ねぇ、コノハナさん。村長さん達どこに行ったんだろう?」
「さぁ、私は知りません……ってか、そもそもこの村に人間様に見せるものなんてありましたっけ?」
首を捻り、考え込むコノハナさん。
それを皮切りに周りの村人さん達も皆が皆、不思議そうに首をかしげながら、 色々と言い始める。
「この村って、人間様にわざわざ見せるような名物なんて特に無いよね」
「ってかさ、正直……村長って、何やるかわからないよね」
「ちょっと怖いもんあの人。この前俺がお花さん踏んじゃっただけで殴り飛ばされたし」
「マジかよ〜〜!」
話の流れは、どんどん村長さんの悪い噂へと流れていく。
優しそうな村長さんだったんだけどなぁ。
「ねぇ、竜さん」
「あむっ、ハイ?」
いきなり話がボクに回ってきた。咄嗟に振り向いたので、ほおばっていたトマトが溢れてテーブルに落ちちゃう。
「ねぇ、竜さん。あなたも行った方がいいんじゃないですか?」
……
ボクはテーブルからトマトを拾い上げ、再び口にほおばった。
既に口の中に入ってた野菜と一緒にゆっくりと噛み締める。
残ったトマトの破片や他の野菜を奥歯で磨り潰し、口内で舌を躍らせ弾け出た酸味を残さず舐め取る。
崩れたトマトや他の野菜のごちゃごちゃになったものを、水と一緒にコクリと喉に送り込んだ。
口の中に余裕が出来る。ボクは一息ついて、返事を返した。
「……―――」
つづく
おお、続き気になるな
みんなもっと活気出そうぜw
48氏が帰ってくるのをお待ちしておりました。
続き期待しています
ハスブレロw
追加要素か
代わりにネイティオ様達がいなかった事にされてる…
早く続き来ないかな。
頬に熱い線が走った気がした。
痛み? これは痛みだ。生暖かいものが……
いや、そんな事よりもだ。そう、『そっちよりも』。
ぼくの『視覚』には更なる衝撃があった。
ほぼ目の前にスコルピがいる。ぼくの顔と腕の間のガラス戸に、爪を突き立てたスコルピが。
不意にスコルピの首がぐるりと回り、その赤い目がぼくを捕らえた。
「ひええええええ!!!」
慌てて、ぼくはガラス戸から飛び退く。
その一瞬でぼくは理解する。まずはぼくの頬に切り傷があり、そこから血が流れていること。
そして、一匹のスコルピが『凄まじい速度でぼくの頭目掛けて飛びついてきたこと』。
ともかく照準が外れたらしく、スコルピの爪の一撃はぼくの頬にかすり傷を負わせるだけに留まったんだ。
しかし、だからって安堵なんて出来るはずがない。
このスコルピは、にじり寄る事しか出来ないわけじゃなく、
『その気になれば』とんでもない速度で飛びついてくることが出来るって事が分かったからだ。
一命を取り留めたからって、『安堵』なんかよりむしろ『絶望』の溝の方が圧倒的に深まってしまった。
まったく嬉しくない一命の取り留め方だバカヤローーーッ!!
ぎゃーす、順番ミスった。
>>118は無かったことにしてください。
今まさに『隙間』から現れた無数の虫ポケモン……『スコルピ』が、ぼくを取り囲んでいる。
凶悪そうなとんがった目を、鋭く研がれているであろう爪を、牙を、こちらに向け……
皆が皆ぼくを見つめている。
……『餌』として。
「やめて……来ないで……来ないでよォ……」
後ずさりしようとするも、それは出来ない。
そりゃそうだ、もう背中が壁にくっついてるんだもの。
これ以上、後ろにさがる事は出来ない。
そう、逃げられない。逃げられない……
重くて、重くて、重い事実がぼくにのしかかる。
その事実が告げる、恐るべき方程式。
逃げない=死ぬ
逃げられない=ぼくはもう死んでいるも同じ
I am DEAD!!
DEAD!! DEAD!! DEAD!!
「うぎゃああああああああっ!! 誰か、誰か助けてくれェェーーーっ!!!!」
ぼくは絶叫を上げながら、無駄だと分かりつつもガラス戸を渾身の力で何度も叩いた。
何度も、何度も、手が痛いけれどそんな事、この期に及んで気にしていられない。
叩いてる内に、無数のスコルピがジリジリとこちらへやってくる。
チラチラと後方を確認しながら、ひたすらひたすらぼくは戸を叩く事に専念する。
しかし、次の瞬間。
パシュッ!
頬に熱い線が走った気がした。
痛み? これは痛みだ。生暖かいものが……
いや、そんな事よりもだ。そう、『そっちよりも』。
ぼくの『視覚』には更なる衝撃があった。
ほぼ目の前にスコルピがいる。ぼくの顔と腕の間のガラス戸に、爪を突き立てたスコルピが。
不意にスコルピの首がぐるりと回り、その赤い目がぼくを捕らえた。
「ひええええええ!!!」
慌てて、ぼくはガラス戸から飛び退く。
その一瞬でぼくは理解する。まずはぼくの頬に切り傷があり、そこから血が流れていること。
そして、一匹のスコルピが『凄まじい速度でぼくの頭目掛けて飛びついてきたこと』。
ともかく照準が外れたらしく、スコルピの爪の一撃はぼくの頬にかすり傷を負わせるだけに留まったんだ。
しかし、だからって安堵なんて出来るはずがない。
このスコルピは、にじり寄る事しか出来ないわけじゃなく、
『その気になれば』とんでもない速度で飛びついてくることが出来るって事が分かったからだ。
一命を取り留めたからって、『安堵』なんかよりむしろ『絶望』の溝の方が圧倒的に深まってしまった。
まったく嬉しくない一命の取り留め方だバカヤローーーッ!!!
スコルピ達の次の飛び掛かり攻撃は、間もなくのことだった。
「ひっ!」
顔目掛けて飛び掛るスコルピを、ぼくは大袈裟に身を屈めてかわす。
髪の毛が何本か刈り取られ、パラパラと降ってくる。
その次のスコルピ達の攻撃は、 『ひとまず安心する』の『ひとまず』も無いほどに間が無かった。
続けて、牙を剥きまるで弾丸か何かみたいに飛びかかってくるスコルピ。
ぼくは咄嗟に、転がるようにしてその攻撃を避ける。
……まったく汚れのなかったおニューのスーツが、土に汚される。
紺色のブレザーの生地に砂が混じり込み、茶色く変色している。
傍目から見たらきっとみっともないんだろう。
……不様だ。
ドッヂボールの試合で自チームに残ってるのは自分一人だけ、みたいな状況だ。
なんて不様なんだ。なんてカッコ悪いんだぼく。
それも、『先の無い不様さ』だ。
『一瞬一秒の命を取り留めるだけの不様さ』だ。
『見返りなんて一切存在しない不様さ』だ。
これ以上に空しいことがあるだろうか? これ以上の絶望があるだろうか?
ぼくはまだ子供で人生経験なんて浅いから胸を張って言えないけれど……多分ないと思う。
とめどなく涙が溢れてきた。
死はほぼ確約されてるのに、たとえ不様でも一瞬一秒の命をとりとめようと抵抗する。
なんでだろう? それは……もちろん死ぬのがイヤだからだ! そんな未来を信じたくないからだ!
まだ若いのに、夢だって実現してないのに、こんなワケのわからないことで死んじゃうなんてイヤすぎるからだ!
「くそおっ!」
もう何度目か分からないスコルピの攻撃を、ぼくは死に物狂いでかわす。
『諦めて素直に死にます』なんて選択肢は今のぼくにはありえない。
……必死に避けてるうちに、少しだけぼくが『絶対諦められない』ことに疑問が芽生えてきた。
死ぬのはいやだけど……痛いのはいやだけど……本当の本当に『死が確約されてる』ならもう諦めがついてもいいんじゃあないか?
なんでぼくは、絶対諦めようとしないんだ?
そうだ。
『ほぼ』って何? 死はほぼ確約されてる……『ほぼ』って何だ!?
ほぼって事はほとんど。つまり『大半』って事だけど……
『大半』って事は、『大半じゃあない部分』がまだあるって事じゃないか!
それって、つまり……助かる可能性。希望だ。
希望ってなんだ? ぼくを絶対諦めさせない……その希望って何だ?
フライゴンだ。
そこまで、ぼくは到達した。 心の底にポテトチップスの残りカスのように密かに残るちっさな『希望』へ。
……しかしその瞬間に、あの一言が頭をよぎる。
”『保証』は?『保証保証保証』!『強い絆があるっていう保証』は!?
所詮お前の一人よがりなんじゃあないのか……? ええ!? ”
……やっぱり、希望なんて……
ガシャアァァン!!!
突如、洞窟中にけたたましい音が響き渡る。
この音は何だ? 何かが割れる音……ガラスが割れる音。
スコルピ達の目が、一斉にその音源へ向けられた。ぼくもそちらへ目を向ける。
ガラス戸がある方……『先程までガラス戸があった』方向へ。
そこには、まさかのまさか……
いや、やはり……か?
まさかなのか、やはりなのか、どちらか分からないけれどともかく……
フライゴンがいた。
あの全身緑のボディのドラゴンは、間違いなくフライゴン。ぼくのフライゴンだ。
フライゴンが壁を突き破り、助けに来てくれたっ……?
「コウイチくんっ!」
色んな感情が混ざっているような声を上げて、フライゴンは急いでこちらへ向かってくる。
と、ぼくは見てしまう。一匹のスコルピが、フライゴン目掛けてぼくにしたのと同じく勢いよく飛び掛っていくのを。
「フライゴン!」
咄嗟にそう危険を伝えるが、そういい終えるや否や、
フライゴンはしっぽを思い切り薙ぎ払い、飛び掛るスコルピを一蹴した。
「……!」
あっけなく吹っ飛んで行き、倒れ動けなくなるスコルピ。
危険を予知したのか、他のスコルピ達がたじろぎ後じさりを始めた。
「邪魔だぞ、虫ども……!」
フライゴンはいつもよりも低いトーンでそう言い、スコルピ達を威嚇するように睨み付ける。
その目には、激しく燃える怒りの色が……
怒り……
ぼくのために、こんな怒ってくれている……
「乗ってください、コウイチくんっ。早くここ出ましょう!」
フライゴンは背中を向け、ぼくに乗るように指示する。
「あっ、うん……」
ぼくは少し遠慮気味にフライゴンの背中に乗る。
ぼくがフライゴンの体に手をかけた瞬間、彼は羽を大きくはためかせ、
髪が全て後ろに靡く位の凄まじいスピードで飛行を始めた。
「うっ……!」
空気がぶつかる音が聞こえる。ぼくはたまらず頭を伏せ顔をフライゴンの背中にうずめる。
それも一瞬で、二秒、三秒経たぬ内にフライゴンの動きは止まった。
頭を上げ、顔を上げる。そこはもう洞窟の外だった。
空が赤く染まっている。夕焼けの時間だ。
フライゴンの緑の体も、赤みが混じり橙色に染まって見える。
「……あっ」
ぼくは慌ててフライゴンの背中から飛び降りた。
何となく、そんな長く乗ってたらいけないような気がしたんだ。
「大丈夫ですか? 危機一髪、ってやつでしたね……」
目を細め、ぼくを心配そうな目で見つめるフライゴン。
傷口一つ一つに目を通すように目を動かし、小さく 「かわいそう……」 と呟く。
本気で心配してくれている。嬉しいんだけれど、ちょっとした疑問があってぼくは素直に喜べない。
「あの……フライゴン」
「はい?」
言う直前少し躊躇いそうになるけど、ぼくは何とか最後までこう言った。
「なんで、ぼくを……助けに来てくれたの?」
おお
「はい? えーとですね……実は食堂に村長が一人で戻ってきてですね……
ぼくや村の皆で質問攻めにしたらコウイチくんをここに閉じ込めた事とか諸々得意げに喋り出して……
いい人そうな村長さんだったからちょっと信じられなかったけれど、とりあえず行ってみたら……って事でして」
顎に指をやりながらそう喋り出すフライゴン。……違う、ぼくが聞きたいのはそういう事じゃない。
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「え? じゃあーどういう……」
「あの……ぼく、こき使ってたじゃないか」
ぼくがそう言うと、フライゴンは 「へ?」 と呟き、呆気に取られたような表情を取った。
ぼくの言ってる意味がよく分からないのか。ぼくは構わず続ける。
「ぼく……きみ達ポケモンをこき使ってたじゃないか。
勝手に捕まえて、勝手に戦わせてさぁ……都合のいいように……」
なぜだか、言っている途中に瞼の奥で何だかよく分からないものがこみ上げてきて、目にぎゅうっと力が入り涙が強引に押し出される。
「村長が言ってた通り、ぼくポケモン達に本当は恨まれてんじゃないかって思って……
本当は『絆』とか『信頼』なんてぜんぜん無いんじゃないかとか思ってさあ……
助けに来てくれないと思った……本当は、ぼくなんかとは離れたいと思ってると……思った」
喋りながら、迷子の子供のように何度も目をこすり、鼻をすする。
瞼が痛いけれど、それでも涙が溢れて止まらないんだから仕方ないじゃん。
そうやってずっと泣きじゃくっていると……
フライゴンは慰めるようにぼくの頭に手を置いて、わしわしと優しく撫で始めた。
そこには恨みとか何とか……そんな冷たい感情は一切感じない。
とても優しくて……暖かい、手。
「……バカ言わないで下さい」
「こき使われてるから恨んでるとか……そんなこと全然ありません。
それどころか、ボクは……ボク達は、もっともっとコウイチくんの役にたちたいって思ってるんですよ?
ねぇ、何でか分かりますか……?」
ぼくの頭を撫でながら、ゆっくりと、親が子供におとぎ話を語るような優しい口調でそう言うフライゴン。
ぼくは、涙が浮かび真っ赤な目のまま顔を上げてフライゴンを見つめた。
「本当に……?」
「ええ、本当に。……ふふっ、嘘なんかつく意味ないじゃあないですかっ。
もし本当は嫌ってるとして、それをぶちまけた所で怒られるわけでもなし、叩かれるわけでもなし。
嘘なんかつく必要ないでしょう? こんな優しいコウイチくん相手にっ!
そう、本当にボクがコウイチくんを嫌いだってんなら、嘘なんかついて気遣うはずもないですしねーっ」
「……」
フライゴンは一息おくと、ふっと柔和な笑みを浮かべこう言った。
「何でボク達はもっとコウイチくんの役にたちたいと思うか……
それは、感じるからですよ。コウイチくんと一緒にいると、ひしひしと伝わってくるからです。
コウイチくんが、どれだけボクらを可愛がってくれてるか……愛情を注いでくれてるか……
楽しいこと、いっぱいあったでしょう? 辛い事もあったけれど、いつも協力して乗り越えてきましたね」
フライゴンはそう言うと、どんどん思い出していくように『思い出』を列挙しはじめた。
ぼくとポケモン達の思い出。一緒に過ごしてきた思い出……
フライゴンの一言一言に傷ついた心は癒され、充足感に満ちていく。
絶望やら何やらで完全に消えかけていたポケモン達との清き思い出が、どんどん蘇ってくる。
「『絆』がないわけないじゃあないですか。『信頼』がないわけ……
コウイチくんがボク達を好きでいればいるほど、ボク達はコウイチくんを好きになるんです。
コウイチくんがボク達を信頼すればするほど、ボク達はコウイチくんを信頼するんです
ねぇコウイチくん? コウイチくんは……ボク達のこと、どれくらい好きですか? どれくらい大切ですかね?」
「どれくらいって……それはもう命と同じくらい大切だよっ!」
ぼくはそう即答する。建前とか嘘とかじゃあない、全くのぼくの本音だ。
ぼくにとって、ポケモン……友達は、家族は、最上級に大切なもの。
他にも大切な物や失いたくない物はいっぱいあるけれど、その中でも一番大切で掛け替えの無いものだ。
フライゴンは口元に笑みを浮かべたまま、物憂げに目を瞑り、俯いた。
「それなら……ボク達もそうなんですよっ」
囁くようにそう言うとフライゴンは顔を上げ、今度はぼくの顔を真剣なまなざしで見つめながら喋り始めた。
「ボク達はみんなコウイチくんを誰よりも好きだし誰よりも信頼してるんですよ? だから……
コウイチくんも、何があってもボクを信頼しててください。信頼されてないのは……辛いですし、ね」
言い終えてからフライゴンは、ぼくの頭をぽんぽんとあやすように軽く叩く。
ぼくは、またまたまた涙が溢れてきていた。 今度は、とても暖かい涙。先程の冷たい涙とはぜんぜん違う……
フライゴンは、ぼくをこんなに思ってくれていた。言葉のおかげで、彼の態度のおかげで、想いが伝わる。
……完全に信頼をしていなかったのは、むしろぼくの方だったんだ。
ぼくからフライゴンへの、そしてフライゴンからぼくへの道中にある壁を不透明なモノにしていたのは、このぼく自身だったんだ。
これからはもう……疑わない。フライゴンの事は絶対に……疑わないっ。
そして、信じる。『フライゴンがぼくを信じていると信じる』。
涙が溢れ、ぼくの中の壁の不透明な部分が洗い流されていくと同時に、命の危機を抜け出したという安堵感もどっと胸に満ち溢れ出した。
「さて……戻りましょうかコウイチくん。
あの村長さん……どうしてくれましょうかねっ」
>>128で台詞の部分ミスした……
次はまた6時半過ぎからです
これは確実にもっと評価されていい
「村長……あなた、自分が何したか分かってるんですか!?」
食堂。
ハスブレロ村長の周りを、村人達が取り囲んでいる。
村人達が村長を見る目は、畏怖と困惑を同時に包容していて……
それは、目の前の村長が『しでかした事』がいかに重大であるかを表している。
しかし、村長はそんなこと全く問題でないという風に、ふてぶてしい態度を取っている。
「何じゃ、何じゃ? わしが何したか分かっているじゃとォ……?
あぁ!? お前らが何言ってるのか分かってるのか!!」
村人達全員が、村長の剣幕に押されビクリと震える。
村長はイライラした風に椅子から立ち上がりながら、老体を思わせない物凄い剣幕で村人達全員に檄を飛ばし始めた。
「人間が魔王の復活に重大な鍵を握っているという事をお前らは知らんのか?
あのまま、あ奴らガキ人間をほったらかしといたら、すぐ魔王にとっ捕まるに決まっとるだろうがァ!!
人間はひ弱な生き物だ。無論、炎も吹けなければ竜巻を起こす事も到底出来んっ!
あの隣にいた竜も、まるで覇気が感じられんかった。所詮見掛け倒し、魔王軍にかかればイチコロじゃっ!!
分かるか、あァ〜〜〜〜ん? わしゃこの村のためっ! この世のためを考えて行動したのじゃ!!
それを……お前ら何じゃぁーーっ!?」
ハスブレロ村長の激に、辺りがシンと静まりかえる。
村人達はほとんどが顔を伏せ、村長を見つめている者はみなどうしていいか分からないような表情をしていた。
静寂の中コノハナがふと呟くようにこう言った。
「だからって、殺すまでは……殺すのは流石に……」
「あ?」
コノハナのその呟くような反論に、ハスブレロ村長は敏感に反応する。
村長は顔にいくつもの筋を作りながら、コノハナの目の前に立ちまた怒号を上げた。
「わしのやる事にまだ文句を言うか貴様ァーー!! 若造の分際で生意気じゃぞォーー!!
人間が死ぬだの何だの、このわしが知ったこっちゃあるかァーーーー!!!」
「……!」
村長がそう言い終えた時、コノハナは完全に言葉を失っていた。
何も言えず、黙りこくって……
……口を半開きにして、目を驚きに見開いている。
その視線は……村長ではなく、その『後ろ』にあった。
「……何じゃ貴様。何を見ている?」
村長も、すぐさまその事に気付き目の色を変える。
コノハナは、震えた動作で村長の後ろを指差し……
「……村長、後ろ、後ろ……」
「あ?」
「村長ーーっ! 後ろ、後ろーーっ!」
村長は、指に従いゆっくりと後ろを振り向いた。
後ろのその『一つの影』を見た瞬間、彼の脳内に並々ならぬ衝撃が走った。
先程の話題の『人間』が……閉じ込めたはずの『人間』が……いまその場に立っていたからだ。
キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
……ぼく達の姿を確認した時のハスブレロ村長の顔は、まさに衝撃一色だった。
ぼくの予想以上に、いい顔をしている。
村長がぼくにあんな事をでかした事も相まって、村長の衝撃に揺れる顔は非常に愉快だ。
この顔を見れただけでも、閉じ込められた甲斐はあったかもしれない。
と、村長はその顔のまま『信じられない』と言った風な震えた口調でこう言う。
「な、なんで……なんでじゃ……」
「ボクが助けたんです。あの脆いガラス戸をぶち破ってね」
ズイと前に出ると同時にフライゴンはそう言う。
フライゴンはまっすぐハスブレロ村長を睨みつけている。怒りに満ちた目でだ。
村長がたじろぎ怯えているのが、目に見えて分かる。
フライゴンはおどしかけるようにまた前に一歩出た。
「村長……あんたはボクに言いましたね。『行った所で助けられない』と。
あんな脆いガラス戸を信用してたんですか?」
「う、うう……」
いざ丁寧語は使っているものの、フライゴンの語調からはハスブレロ村長に対する敵意がぷんぷんだ。
今にも、村長に襲い掛かってしまいそうなほどに、だ。
こんなに怒っているフライゴンは、珍しい。ぼくのために怒ってくれてるんだ……
村長もそれを感じ取っているのか、顔を真っ青に染めおろおろと視線を泳がしている。
その村長を見つめる村人達の目つきも、『因果応報だ』とでも言う風で、庇う気はさらさら無さそうだ。
フライゴンと村人達に見つめられ……勿論ぼくにも見つめられ、無言の圧力を一身に受けている村長は、いまどんな気持ちだろう。
……なぜだか、少し村長に対して同情が……
「よ、よくやった」
「え?」
『よくやった』。そう言ったのは、ハスブレロ村長だ。
食堂中に少しだけざわめきが起こる。
しばらく経ってざわめきが止まった瞬間……村長は続けてこう言った。
「じ、実は試練だったのじゃよ。ひょっひょ。よくやった、よくやった。
き、君達は魔王を倒す、勇者になれる素質を持っておる」
ぼくは驚愕した。
もちろん、村長のその言葉の意味に対してではない。
見るからに、聞くからに、感じるからに、村長の発言は100%嘘に決まってるからだ。
ぼくが驚愕したのは……『この状況でこんな事を言える村長のふてぶてしさ』にだ。
芽生えかけてきた同情の心も、村長のその言葉を聴いた瞬間に砕け散った。
「はぁ?」
そう言ったのはフライゴンだった。
「い、いや、ほ、ほんとうじゃよ。試したんじゃよ。君達が魔王と戦えるかどうかを……
ほ、ほら。わしらモンスターが、に、人間様を殺そうとするわけ、ないじゃろう? は、ははは」
村長は、かたくなに嘘を続けようとする。
バレてないとでも思っているのだろうか? このまま押し通せるとでも思っているのだろうか?
先にしびれを切らしたのは、フライゴンだった。
「こ……この後に及んで何をォーーっ!!
ボクは怒ったぞ! コウイチくんをこんな風にさせた罪……償えっ!」
フライゴンは憤怒の形相で腕を振り上げる。
村人達は咄嗟に顔を伏せたりするも、誰も止めようとするものはいなかった。
「ひっ!」
「待って!!」
突如、大声での静止が入った。
フライゴンの動きがピタリと止まり、腕がゆっくりと下ろされる。
「え……何で……?」
ゆっくりと、困惑の目つきでこちらを振り向くフライゴン。
そう、静止を入れたのはぼくだ。
「何もしなくて、いいよ。」
フライゴンの肩に手を添え、ぼくは静かにそう言った。
フライゴンの目が一層困惑に揺れる。
村人達も、驚き目を白黒させている。
「な……何でですか?コイツはコウイチくんを殺そうとしたんですよ!?」
ぼくの顔と、ぼくの体のいくつかの傷跡を交互に見交わしながらそう尋ねるフライゴン。
フライゴンは、ぼくの仇を取りたくてどうしようもないみたい。だけど……
「あの村長だって……村やみんなを守るために、ぼくを殺そうとしたんだ。
別に悪い人ってわけじゃあない……だから、いいんだよ。別に……」
「そ、そんな……」
村長は確かにぼくを殺そうとしたし、何度も小ばかにしたような発言をぼくに浴びせかけた。
けど、別にそこに完全な悪意があったわけじゃあない。
それよりも何より、相手はポケモンでありしかも老人だ。ズタボロにされるのを黙って見てられるか?
それに……結果的にだけど、奴のおかげでぼくとポケモン達との絆がハッキリしたのも事実だ。
これが『夢じゃあない』ってことも……
「帰ろう、フライゴン。この村から出よう……」
「で、でも……」
「いいから」
ぼくは渋るフライゴンの羽を掴む。
フライゴンはキッと一度村長を強く睨みつけると、渋々ぼくに従って身を翻した。
……ゆっくりと、フライゴンと一緒に食堂を出ようとした、その時だ。
「さ、さすが人間様! 寛大なお方じゃのう! そ、それでこそ勇者の素質あり、じゃ! ひょ、ひょひょ!!」
まるで捨て台詞の如く、村長がそう叫んだ。
……しつこく、あの『嘘』を押し通しそれで完結させようとしている。
意地でも自分のした事を『正当化』させたいんだ。
あんなことをしておきながら……底意地が腐っている。
ギリギリ繋がってたぼくの堪忍袋の緒が、ついに千切れ去った瞬間だった。
「おまえ―――!!」
ぼくは、考えるよりも先に体を動かしていた。
勢いよく振り向き、村長をギッと睨みつける。
「ひっ」
村長は身を竦め、その顔がまた恐怖に歪んだ。
殴れない代わりに、ぼくは力強く睨みつける。
精一杯目つきを鋭くさせ、精一杯歯を食いしばり、
村長へ、ぼくの怒りの念をただひたすらに送る。
もっと怯えろ! もっと怖がれ! もっともっと後悔するんだ!! もっと! もっと!!
「……あやまれ」
ヒリヒリと疼き痛む傷口が、ぼくにそう喋らせた。
ぼくのその一言を聞いて、村長が一瞬呆気に取られた顔をしやがった。なんだその顔は――
「あやまれって言ってるんだァーー!! 人を殺しかけて、その上あんなふざけた口まで聞いて、誠心誠意あやまるのが
当然ってもんじゃあないかっ!? この世界では『失礼なことをしたらちゃんと謝れ』って教えてないのかァーー!?」
ぼくは叫んだ。感情に身を任せてこんな怒り叫んだのなんていつぶりだろう?
それにしても、ぼくみたいな子供が老人に対してこんな口を聞く方が失礼なんじゃ……
いやっ!! 奴のしたことは深刻だ! それはぼく自身が一番分かっているだろう!?
あれほどの事に、年の差とか種族の差なんて関係あるかっ!
ともかく、ぼくの怒号の迫力に押されたのか、あのプライドの高そうな村長はまず床に膝をついた。
ギリリと歯を食いしばり、おそらく恥や後悔、悔しさに押しつぶされそうになっている。
だけど、もうぼくはそんな村長を見ても同情なんて微塵も沸いてこない―――
フライゴンも、村人達も、ぼくの前に膝をつくハスブレロ村長をある意味小気味良さそうな目で見つめていた。
そして……
「……すまなかった、すまなかった、人間様ァ!! だから、許して……許して、ください……」
ぼくをあれ程絶望に追いやった村長は、ついにそのぼくの前で地に頭をこすり付けた。
…………
人間とそのお供の竜が食堂から……この村から去って、既に何分かが経過した。
それでも、ハスブレロ村長は硬直したようにまだ床に頭を擦り付けたままだ。
取り囲んでいる村人達の目も、だんだん憂慮の色に染まっていく。
「あ、あの……村長……」
しびれを切らした一人のコノハナが、村長の元へ近寄る。
と、彼が近寄った瞬間、村長は不意に頭を上げた。
「!」
村人の間に一抹のざわめきが起こる。
驚き、じりっと後退するコノハナ。
村長はぐるりと首を捻りそのコノハナの方を見つめると、こう言い出した。
「……あ〜あ。とんだ災難じゃったのう」
そう言いながらゆっくりと膝を伸ばし立ち上がる村長。
その表情は、反省の色などは微塵も無い涼しい顔だ。
あるのは『やっと厄介事が過ぎ去ったか』程度の感情のみ。
村人達は、一斉に黙りこくり村長を見つめ出す。
……その目の表情は、あくまで冷徹な物で……
「……何じゃ、何を黙りこくっとる? 何だその目つきは?」
それを、村長も感じ取る。
村長は不愉快な気分をそのまま声量に変え、村人達全員に向けて怒鳴りつけた。
「何なんじゃその目つきはーーっ!! わしは何も悪いことはしていない、そうじゃろう!?
そもそも何じゃ貴様ら、何でさっき黙っておったー!? 村人としてわしを庇うのは当然のことじゃろうが、オラッ!」
べちんべちんと地団太を踏みながら説教を始めるハスブレロ村長。
しかし、村人達が村長を見つめるその冷めた目つきは依然変わらず……
しばらくすると、一匹のハスボーが無言でハスブレロの横を通り抜けていった。
「お……おい? ど、どこへ行く? 説教はまだ終わっとらんぞ……」
慌てて引きとめようとする村長。
しかし、ハスボーは一切反応の様子は見せずに食堂を出て行ってしまった。
そしてそれを皮切りに、村人達が次々と無言で村長の横を通り抜けていく。
「お、おい、何じゃ!? 誰が帰っていいと言った!?」
うろたえ、叫ぶ村長。しかし誰も一切その声に反応しようとはしない。
村人は、ほぼ全員無言のままに外へと出て行き、
やがてその場には、ハスブレロ村長と、給仕をしていた一匹のコノハナの二匹だけが残されるのみとなった。
「ぐ、うう……」
ズタボロに傷ついたプライドを押さえるように歯を食いしばるハスブレロ村長。
と、コノハナがそんな村長に近寄り、冷たい口調でこう言った。
「あんな横暴をしでかして……村人達にも見放されるのは当然です。
老人相手にこう言うのも何ですが……あなた、きっと近い内ひどいバチが当たりますよ?」
コノハナはそう言い放つと、厨房の奥に消えていった。
広い食堂に、ハスブレロ村長一匹が残される。
村長は荒い鼻息をつきながら、ふらふらと壁にもたれかかった。
辺りの静寂と反する心の激しい怒りと後悔を少しでも晴らすように、
村長は壁を強く、思い切りたたきつけた。
「……くそっ!! くそっ、くそっ!!」
怒りと悔しさに壁を叩きつける村長。
何度も何度も、手が痛むのも全く気にせず壊れたように壁を叩きつけ続ける。
それから長い時間、村長は食堂を出ずに手が壊れそうになるまでずっと壁を叩きつけ続けていた。
「さっ!! これからどーしますか? コウイチくんっ!」
黒が差し込み間もなく夜へと向かおうとしている空の下を、ぼくはフライゴンと一緒に歩いている。
フライゴンの問いに、ぼくは大袈裟にウーンと考える仕草を取ってこれからの事を考えた。
ハッキリしてるのは、これは『夢じゃあない』ってこと。
ってことは、これからやる事は二つだけ。そして最も優先する事は……
「まずは、はぐれたポケモン達、あとミキヒサを探す事だねっ!
たくさん色んなところへ行こう! ……あはっ、観光代わりにもなるかもねっ」
「ですねっ。……観光っ! それいい発想です、コウイチくんっ!」
「でしょ? せっかくこういう所来たんだし、楽しまなきゃ損だよ〜」
「さすがコウイチくん、ポジティブシンキング!」
「そ、そうさそうさ、ネガティブでいい事なんか一つもなしだし……これからのぼくはポジティブぼくだっ!」
そう言ってからぼくは手を大きく広げて、いかにぼくが
ポジティブであるかを全身で表現してみた(この仕草のどこがポジティブの表現になってんのかは自分でもよく分からないけど……)。
……と、そんなポジティブぼくの脳内ビジョンに、不意にこんな言葉が浮かんでくる。
みんな無事でいるかな……
……い〜や、きっとみんな無事でいるに決まってるさ!
……自分がこんな目に会っといて、ちょっとそれは説得力ないけどさー。
……本当に元の世界に戻れるのか。
吹きすさぶ夜の風と共に何かそんな考えもふと頭に浮かんできたけど、ぼくは慌ててそれを打ち消した。
そうさっ、これからのぼくはポジティブぼくっ! こういう事はなるべく考えちゃいかんいかーん!
「……ふふっ」
そんなこと考えてると、何故だかちょっと笑みがこぼれてしまった。
不思議そうにフライゴンがぼくを見つめる。少し笑みの残った顔で見つめ返すと、フライゴンもぼくにつられて笑みをこぼした。
「……うふふっ」
そのフライゴンの笑みにつられて笑うぼく。
「あははっ」
そのぼくの笑みにつられて……
「あっははーー!」
そのフライゴンの笑みにつられて……
「あはははーー!!」
少し経ったら、またまたぼく達は大声で笑いあっていた。
とても温かくほのぼのとした雰囲気が、ぼくたちを包み込んだ。
こうしていると、少し前に壁の中に閉じ込められて死の危険に晒されていたことが、まるで夢のようだ。
フライゴンの信用を疑い絶望していたことが、まるで夢のようだ。
でもあれは夢じゃあないんだよね。すべて実際あったこと……現実なんだ。
閉じ込められたことも、死にかけたことも、フライゴンを疑ったことも、直後にフライゴンが助けに来たことも……
……うふふふっ。
甘美だっ!
甘美すぎるっ!
あーゆー大ピンチを乗り越えたことにより生まれる安心感が、こんなに甘くて美味しいものだなんてっ!
舌がとろけるぅっ! ほっぺたが落ちるぅっ! うわーいっ、こりゃあ三ツ星レベルだねっ!
夢ではないのは分かってるけど、これが夢だとしたら絶対覚めてほしくないよっ! ふふっ、都合いい人間だよね、ぼくってば。
わははと明るく笑い合い、腕をふりふり足取り軽く、ぼく達は次の場所へ向かっていった。
第一話 おわり
少し時は進み……ある場所でのこと。
「ぺリッパーー! はいはいはァい、このぼくぺラップが夜七時をお知らせしまァす! ペリッパーー!!」
「シャーーラップ!! 声量を控えろぺラップ。もう夜なんだぜっ!!」
相変わらずやかましいぺラップに喝を入れながら、俺はある報告を済ませようと廊下を急ぎ足で進んでいた。
……向かう先は、我が飛鳥部隊の長の部屋。
「失礼します」
自慢の鋼の翼で扉をノックし、部屋に入っていく。
……我が部隊を治める、いわばリーダー……部隊長、ネイティオ様の部屋。
ネイティオ様は相変わらず、夜だというのに部屋のライトもつけず
壁全体を覆うほどの大窓の前に立ち、夜空の満月をただじっと見つめている。
俺が部屋に入ってきた事に何の関心も示さない。 ……気に入らねぇっ。
「……飛鳥部隊、副部隊長……エアームドでございます」
名を名乗っても、ネイティオ様は一切何の反応もしようとはしない。
しかし、これもいつも通りの事。気に入らねぇ。気に入らねぇが……もう慣れっこだ。
俺は窓を見つめているネイティオ様の背後に立ち、先程部下から受けた報告を部隊長に告げた。
「今朝、我が部隊のオニドリルがサイシ湖にて、人間と新たな竜騎士と思しき者と遭遇したそうです。
……いかがいたしましょう、ネイティオ様。ご命令を」
ネイティオ様のグリーンの後頭部と、その後頭部から突き出る二本の長く赤い毛の束をじっと見つめながら、返事を待つ。
……それなりの沈黙が続いたが、しばらくしてネイティオ様がようやく口を開いた。
「ご命令を……そう言ったな」
こちらを向かないまま、そう俺に向かって言うネイティオ様。
「言いましたが……それが何か」
ネイティオ様の後姿に並々ならぬ威圧感を感じながら、恐る恐るそう言うと……
「キミは無能だな」
「は?」
突如投げかけられた厳しい言葉に、思わず感嘆符が漏れ出る。
……その言葉に対するネイティオ様の反応は、異常に早かった。
「『は?』……だと? 『は?』といま君は言ったな!?
何なのだその無礼極まる態度は。それが目上の者に対する言葉かね? 君は礼儀も知らないのかね!?
そのような言葉を臆面も無くこの私の前で出せるとは、礼儀知らずも甚だしいというものだ!
目上の者に対する礼儀がっ! 行儀がっ! 君には一欠片もないようだな!
君のような物こそ、まさに『無能』という呼び名がふさわしい!!」
「!」
まるで土砂崩れでも起こったかのようにいきなり饒舌になり、やたらめったら言葉を吐き出すネイティオ様。
ネイティオ様の後頭部が、赤い二本の毛の束が、プルプルと揺れている。
その説教は、まだまだ続いた。
「先程……君は『命令を』と言ったな。上の者から命令を受けねば君は動けぬのか?
全くの無能め! それくらい己の脳で判断し動くのが下の者として当然のことであろう!
私の集中を乱しおって!! 私に無駄な時間を取らせおって!!
いいか、無能よ。この世界にて最も生きる価値のない者とは何か知っているかね?」
「……」
俺は、答えずにじっと反応を待つ。しばらく経つとネイティオ様は溜息混じりにこう言った。
「無能な者だ」
初支援。
俺には文才はないから応援しか出来ないから頑張ってくれ。
「この世界は神によって作られた物であることは君も知っているであろう!
そして、何故我々は作られたのか? きみは把握しているのかね?
神は何より退屈を嫌う。神は飢えているのだ。全知全能、それ故に神は飢えている。
そこで神は生物を作った。まずは知能というものは存在しない機械仕掛けとなんら変わらぬ物達をだ。
しかし、その知能なき物同士がただ食らいあい生き延びるだけの世界に神は程なくして飽きた。
当然であろう、単純だからな。『知能』のない世界は、弱肉強食……ただそれだけだ。
そこには過去も未来もない。同じ世界が延々と続くつまらぬ繰り返し。
至ってシンプル、単純至極。いかに飢えているとはいえ、すぐに飽き果ててしまうのは当然のこと。
だからこそ神は我々を作ったのだ! 『知能』、つまりは『果てなき可能性』のある我らモンスターをな!
我らは日々その可能性を開拓し続けねばならない。神の退屈を凌ぐためにだ。
我々は神を楽しませるために生きているのだ。だからこそ、可能性を開拓しようともしない……
神を楽しませることのできぬ『無能な者』に生きる価値は一片も無い! これはもはやこの世の真理!!
遥か過去……そして遥か未来……いついかなる時もこれこそがたった一つの真理なのだ!!
よって全ての能なき者は能ある者の糧になるべきである! 強き生物が弱き生物の肉を食らうようにな!
だが、君のその鋼の肉体はとても食らえそうにないな……たとえ餓鬼であろうと口に入れようとはしまい。
ならばバラバラに解体し、あぶり焼き鉄火にでもしてくれようか!?
ふん! 君のような無能がいると『確たる未来』が霞むのだ!
無能はすべからず私達のような能ある者の足を引っ張る……フッ、これもいわば『真理』だな。
私の見る『確たる未来』。魔王様の理念、『世界が一つになる』という『確たる未来』!! それを揺らがしてくれるな無能よ!!」
「……」
意味の分からない毒電波台詞を長々と喋るネイティオ様。
これがコイツの本性なのか? クレイジー。そうとしか表現のしようが無い。
ともかく、散々無能と言われ俺は少々頭にきかけている。
年中つっ立ってるだけのお前こそ無能なんじゃないのか……!?
「エアームドよ、仏の顔は何度までだ?」
「え?」
ネイティオは遂にこちらを振り向いた。普段は半開きのはずの目が怒りにかっ開き、異常な威圧感をかもし出している。
そのまま、ネイティオは俺目掛けて今までにない声量で怒号を吐き出した。
「仏の顔は何度までと聞いているのだこの無能がァァーーーーーーッ!!!
いかに君のような学無き無能といえど、この程度の知識ぐらいはあるだろう!?
それとも君の頭は飾りかッ!? それとも君の耳が飾りなのかッ!? それとも両方飾りかァッ!!!
ほ・と・け・の・か・お・は・な・ん・ど・ま・で・だ? 答えろォーーーーーッ!!!!」
「さ、三度までですっ!!」
あまりの剣幕に押され、咄嗟にそう答える。
答えは合っている筈だが、ネイティオは怒りの表情を変えず続けてこう言った。
「そうだ、三度だッ!! 礼儀知らずの発言で一度、
無能ぶりを長く曝け出し私を苛立たせた事で二度、猶予はあと一度だ!!
あと一度無礼を働いてみろ!! その瞬間貴様の体のパーツは四散し、
そして跡形も無く砕け散り、君の未来は完全に消え去るものと思え!!
早く出て行けッ!! そして人間を君の指揮で捕らえ、少しは能があることを見せてみろッ!!」
「うっ!?」
突如俺の体がフワリと浮いたと思うと、猛烈な勢いで俺の体が後方に飛んでいき、
部屋の外の壁に叩きつけられたのだ。
「……!」
衝撃に軋む首を持ち上げネイティオを見ようとすると、
誰かが閉めたかのように一人出に扉がガチャリと閉まり、部屋の中は見えなくなった。
「……チッ」
俺は不愉快な気分に荒い鼻息を漏らしながら、
心中に溜まるどうにもならぬ苛立ちを少しでも発散させるように、力強く舌を打った。
スーパーネイティオ様タイム来たコレw
何が無能だ、ビークワイエット!!
廊下を早足で歩きながら、俺は心中でネイティオへ罵声を浴びせる。
見ろ、俺のこのシルバーに輝く美しき鋼のボディーを!
この鋼のボディーはいかなる攻撃も通さない。そして圧倒的高度を誇るこの鋼鉄のウィングは、鈍器にも刃にも変わる!
ネイティオ! アンタが最後に見せたサイコキネシス攻撃は俺には一切効いていなかったぞ!
いつか……ふんぞり返っているだけのアンタを蹴り落としこの俺が部隊長の座についてやるっ!
そしてまずは……『俺の指揮』でっ! 人間と竜騎士を捕らえてみせる!
そうだ、全ては俺の手柄になる! そうなれば俺はアンタの座へ昇格、そしてアンタは自動的に俺の座へと降格だァ!!
「『飛鳥三幹部』!!
ピジョット! ムクホーク! ヨルノズク! 出番だぁっ!!」
俺は部隊長の部屋のドアを開けた時とは比べ物にならぬほど力強く、『三幹部』の寝部屋のドアを開ける。
部屋の隅々にそれぞれ巣を作り眠っている飛鳥三幹部。
俺の呼びかけに、深く眠っていたはずのピジョットとムクホークは瞬時に身を起こす(ヨルノズクは最初から起きていたが)。
「……ワタシ達に、こんな時間に何の用ですかエアームド様? 騒々しい……」
ピジョットは起き上がると同時に羽を掃除しながら、気だるそうにそう言う。
「こんな夜っぱらに大声出さないでくれねーっスかねー。ちょぉっとビビっちゃいましたぜェーーっ!」
相変わらずムクホークは柄の悪い態度を取っている。
「ほっほほ。出番とは何かのう? 久しく運動してなかったんで、体がなまっていたので丁度いいのう……」
くたびれてるかのように、首をコキコキと回しながらそう言うヨルノズク。
俺は先程のうっぷんを晴らすかのように、大声で三人にまくし立てる。
「いィか、三人ともよく聞けェッ!
今朝サイシ湖にて、人間とはぐれ竜騎士が見つかった。
そしてこの事は、俺らと同じ『超人部隊』の傘下である『歩虫部隊』も『光獣部隊』も知らねぇ。
ドゥー・ユー・アンダースタン!? 俺達が他の部隊を出し抜ける大大チャンスってワケよォ!!
俺達飛鳥部隊がっ! 超人部隊……幻霊部隊……岩王部隊……闘神部隊……
奴等と同じ四天王様直属の部隊へのし上がるってわけだっ!」
「人間、ですか……それはそれは、久々に随分と重大なニュースですねぇ?」
「……ノリノリっスねェ〜〜、エアームドサン」
「場所は……『今朝サイシ湖にいた』。ほっほ。手がかりはそれだけかの?」
「もちろんだ」
俺はニヤリと笑いながら、演説のような語調で語り始めた。
「だがな、俺らは他の這ったり歩いたり、
つっ立ってるだけしかできねークソどもとは違う……
俺らには! この翼があるじゃあねぇか!!」
翼を前に突き出し、そして高く上げる。俺の顔も翼と同じくグッと上へ向け、天井を見つめる。
我ながら芝居がかった演出だなと思いつつも、構わずその体勢のまま演説を続ける。
「俺らは空の支配権がある唯一の部隊だ。オーケイ!? 人探しは俺らのいわば十八番じゃあねえか!
“異世界より来たり者が磁場に近寄りし時、大いなる力は深き眠りから目覚め、その首をもたげる……”
この言い伝え覚えてんだろ? そしてこの言い伝えが差す『大いなる力』が、俺らが魔王様の完全復活には欠かせない物だって事も……
……ハハッ、まぁ覚えてなきゃ魔王軍追放モンだがな」
三幹部に向かって翼を強く前に突き出し、顔の向きもそちらへ戻す。
クールに口をニッと歪ませ、一層声を高らかに演説の締めくくりを演出した。
「人間は、魔王様の完全復活に重大な鍵を握っている!!
いいか、テメーら……ぜってー人間を捕らえるんだぜ!!
ディドゥ・ユー・アンダースタン!? さぁ、行けェ!!」
つづく
明日は事情により投稿できないので、続きは明後日です。
支援してくれた人や応援してくれている人、本当にありがとうございます。
何か書き込みがあるだけでも、だいぶモチベーション跳ね上がるなぁ。
ではまた。
相変わらず飛行タイプ連中はブッ壊れてるな。
待っています
コウイチくんとフライゴンが可愛過ぎるんだがどうしてくれよう
主人公はコウキのパラレルキャラじゃなくて、描写的にオリキャラに近いっぽいな。
・12歳
・小柄
・黒髪
・紺色のブレザー着用
まとめるとこんなとこか。
戻ってきたか、とか小説スレの48、とかみんな言ってるがどういうこっちゃ?
だれか教えよ。
何スレ前の小説スレに始めに投下したのが48レス目だから…だったはず。
違ったら修正よろ
>>156-157 初代ポケモン小説スレの
>>48だったから
>>500ぐらいまで連載していたが馬鹿が沸いて一時消えた
どこかの有志が小説保存してくれたみたい
そういえばポケモン大戦争の作者は戻ってこないのかなあ…
12竜騎士の設定は面白そうだな。
予想
ガーネット→
アメジスト→
アクアマリン→カイリュー(海に住んでいるから)
ダイヤモンド→ディアルガ(ダイヤのパッケージだから)
エメラルド→レックウザ(エメラルドのパッケージだから)
パール→パルキア(パールのパッケージだから)
ルビー→ラティアス(ルビーで出るから)
ぺリドット→キングドラ(王様だから)
サファイア→ラティオス(サファイアで出るから)
オパール→
トパーズ→
ターコイズ→
後はもう予想も出来ん・・・
ターコイズ→ガブリアス(何となく狡猾っぽいから)
期待あげ
逆だけど色から考えるとそっちがいいよね
>7月の石・ルビー! 情熱・仁愛!
> 炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石!
熱血なラティオスってのも何かやだなw
>>158 いえ、一時期消えたのは事情によりパソコンが使えなくなったからです。
断じて他の人の書き込みのせいじゃありませんよー。
なにか喧嘩さえ起きない限りは、書き込みがあればあるほど嬉しいです。
今日の投下は5時半過ぎからになると思います。
今まで鍵カッコ以外の文には必ず頭にスペース入れてましたが、
なんか携帯で読んでみたら少し読みづらかったので、今回は頭にスペース入れないで書いてみます。
スペース入れたほうがいいか入れてないほうがいいか、後で意見を聞かせてください。
日が暮れかけ群青色に染まろうとしている空の中を、一つの大きい影……鳥が緩やかに飛行している。
その鳥は、何かを探すように目を光らせ地上を見下ろしながら、ブツブツと言葉を呟きだした。
「人間は無意識の内に磁場の元に引き寄せられる……か。
どこから生まれた言い伝えかは知らぬが、それが真ならば……」
鳥は目線を動かし、地上を濃く染める膨大な木々の群れを見据える。
「サイシ湖から一番近い『磁場』……あの『生命の森』に、人間達はやってくるはずだの。ほっほっほ」
鳥はゆっくりと笑いながら、再び地上を見下ろし何かを探すように視線をギョロギョロと滑らし始める。
……それから数分の時が経った時、地上を見下ろす彼の目線の先に、二つの小さな影が現れた。
「……おっ!?」
鳥はそれを視認した瞬間、期待の入り混じった一声を上げた。
そして鳥は、地上をゆっくりと歩いているその二つの小さな影に向かって目を凝らす。
……数秒後、鳥の表情に喜色が走った。
「……やはり、だっ! わしの予想通り、奴らは『磁場』へ……『生命の森』へ向かっていたっ!」
鳥は顔に浮かばせた喜色をみるみる強めていきながら、不気味に首を横に傾かせ、興奮したように叫びだした。
「さっそく一句できたぞっ!ほほ、快調じゃのォ〜〜〜
哀れかな
飛んで火にいる
夏の虫
ほほっ! 彼らならきっと……わしにいい句を沢山提供してくれるだろうのォ!! ほほほほほっ!!」
鳥は壊れたような高笑いを残しながら、大きく翼をはためかせどこかへ向かって飛び去っていった。
「わあ、お空もう暗くなってきたねフライゴン……」
「ですねー。こんな場所だと、暗いとちょっと怖いなあ……」
辺りは暗い闇に包まれようとしている。
夜の始まり、夜行性のポケモンが寝床から起き始める時間帯だ。
――この世界の時間の表現はどうなのか知らないけど……
……いや、この世界の文化が人間から伝えられたものなら、時間の表現もやはり同じなのかな?
ともかく、今の時間を人間の世界の表現で言えばおそらく『8時か9時』と言ったところかな。
いつものぼくなら、旅から一旦帰ってきてごはんも食べ終わり、そろそろお風呂に入り始める時間。
つまり就寝の一歩手前くらいの時間だ。
そんな時間帯だけれど、『今のぼく』はお風呂に入る支度もしていなければ、自宅にもいない。
じゃあ、一体今ぼくは……ぼく達は、何をしていると思う? どこにいると思う?
歩いているんだ。鬱葱と生い茂る『森の中』を。
見回せば木しかない。 見上げれば、濃い群青色の空を黒いまだら模様が覆っている。
……なぜ、ぼくはわざわざこんな森に入ったのか。
自分自身でも上手く説明がつけられないけど、この森には、ぼくを強烈に引き付ける『何か』があった。
ぼくの『予感』や『期待』といった物を刺激し増幅させる魔力めいた『何か』が、この膨大な木の集まりの何処かから染み出していたのだ。
端的に言えば……『ぼくのポケモン』が、あるいは『この世界を抜け出る方法』が。
この森の何処かに存在している……そんな気がしたんだ。
第二話 「不安の流れ」
「あー、このまま野宿ー、なんて事になったらヤだなぁ〜〜。ぼく寝袋とかなんて持ってないし、からだとか髪の毛が汚れちゃう……」
「だ、大丈夫ですよコウイチくん! もしそうなったら、ボクがコウイチくんのお布団になりますからっ」
「えっ! ……い、いや、いいよぉ。さすがにそれは遠慮しておくよ……」
「いやあ、遠慮しないでいいですよー。そのくらいボクには苦にも何にもなりませんよ」
「そ……そお? そぉ〜〜? じゃ、じゃあ野宿する事になったら頼むねっ! 野宿する事になったらだけど……」
「はァ〜〜い」
まったく、フライゴンは本当にいい子だ。ここまでぼくの事を思ってくれてるなんて、
トレーナー冥利につきるというか何というか、大事に育てた甲斐があったってもんだねっ!
……でも、さすがにポケモンの上に乗って寝るなんて気が引ける。フライゴンもおもっ苦しくてよく寝付けなくなるだろうし。
野宿なんて、出来ることなら避けたいんだ。そのためにはこの森を早く抜けなければいけない……のだけれど、出口が見つからない。
こんな感覚を覚えたのは、かなり前のことだけれど『ハクタネの森』の探検以来だ。
……まぁ、だからって『怖い』だとかそんな感覚は一切無いけどね。
何たってぼくの隣には、何よりも頼れるこのぼくのポケモン……フライゴンがいるのだから。
たとえば凶暴なポケモンが襲ってきたところでやっつけてくれるし、
本当に迷ったみたいだったら、彼の背中に乗って空飛んで脱出できるしね。
……そうは理解しているのだけれど。
なぜだか、ちょっとだけ……そう、ほんのちょっぴりだけれど『嫌な予感』がするんだ。
身を竦めるほどでも足取りが鈍くなるほどでもない……本当にほんのちょっぴりの嫌な予感。
歩いている間ぼくはフライゴンと絶え間なく話をしているけれども、それでもこのちょっぴりの
『嫌な予感』は、十字キーの股にこびりついたちょっとした汚れのようにしつこく離れようとしない。
……これは短い人生の中でのぼくのちょっとした『法則』というか『ジンクス』ってやつなんだけど……
こういうちょっとした『嫌な予感』って……意外と当たるんだよね、なぜだか。
今回はどうだろうか? そう思い始めてからほぼ間もなくして……その答えは出た。
「見下ろせば 死地へ赴く 子の頭」
「?」
不意に、風のさざめきを割ってそんな声が聞こえてきた。
5・7・5のリズムに乗せた言葉の塊……俳句?川柳?
そしてその言葉が聞こえてきたのは、およそぼく達の頭上……そのせいで音波が拡散され正確な方向は掴めない。
「今なんか、聞こえた……よね」
「聞こえました……ね」
フライゴンと一度顔を見合わせ、声の主を探ろうと同時にまっすぐ上を向く。
その瞬間、また声が聞こえてきた。
「夏夕べ 空を見上げる 阿呆の面」
「アホ!?」
突然バカにされた。それもよく分からない俳句に乗せられて。
なんだかよく分からないけれど、とにかくぼく達を陰から見て嘲笑ってる奴がどこかにいるんだ。
首をぐいぐい捻り、闇に塗れ複雑に絡み合う木々や葉っぱの間を目を凝らして見るけど、 何者かの影なんてどこにも見えない。
自分の見えない場所から俳句だけ言われるのがひどく不気味で、ぼくは心なしか冷や汗を流していた。
先程までの『嫌な予感』がれっきとした『不安』に変わっていく。
「幼子が 畏怖に汗ばむ 森の奥」
また、ぼく達の様子をそのままヘンな俳句にされた。
不気味だと思うと共に、苛立ちが募っていく。
「フライゴン……誰かいた?」
「いや、何も……あっ!」
フライゴンは驚きの一声をあげ、ある一点に向かってビッと腕を向けた。
何かを見つけたんだ。ぼくは急いでその方向を見つめる。
……幾多の木々のどれか……てっぺんの木の枝からもう少し上、
空にインクを垂らしたようにポツポツ浮かぶ葉っぱの群れの一端に、小さい二つの赤い光があった。
いや、これは光じゃない……『目』だ。
「まず『三つ』か……『三つ』で限界だが、これは幸先のいい……
『二つ』ではなく『三つ』……これは幸先がいいのォ〜〜〜!
最初と最後以外に余分に一つあるこの余裕……ほっほほ! 安定感が比べ物にならぬ!
意外や意外や意外、ここまで『二つ』と『三つ』の間に高い壁があるとは! これも収穫だの……ほほ!
本当に幸先がいい……これからの収穫を予想しただけで身震いが起こるのォ! 期待が止まらん、ほっほほ!!」
『そいつ』は何か意味の分からない事をベラベラと喋っているが、ぼくはそれに耳を貸さずひたすら目を凝らすのに集中する。
どんどんと、『そいつ』の全体像が見えてきた。
鳥……? かなりでかそうだ。
……それにしても、頭上から突き出るあの二つの角のようなものは、どこかで見たことのある形だ。
夜……・『光る目』……そうだ、こいつは……!
夜行性の鳥ポケモンの代表、そしてこのでかさから言えば恐らく『それ』の進化系。
間違いない! こいつは……
そこまで思考が到達した瞬間のことだ。
「さて、人間諸君。これからワシに多大な収穫をもたらしてくれるであろう君達に、名も教えないのは失礼かもしれんの。
一つ、自己紹介させてくれないかの? 文化を重んじる者は礼儀も重んじる物だからの」
『そいつ』はそう言うと同時にその翼を大きく広げ、止まっていた木の枝から足を離れさせた。
こちらに降りてくる。ぼくは咄嗟にそう思ったし、実際そうだった。
翼を軽くはためかせ、『そいつ』はあっという間にぼく達の前に降り立った。
「!」
姿が完全に露になったそいつのプレッシャーに、ぼくは……フライゴンも、思わず後じさりをする。
そいつは一度微笑むように目じりを上げると、先程ぼくの思考も辿り着いたその名を口にした。
しかも、もう一つの衝撃の事実と一緒にだ。
「ワシはヨルノズク……魔王軍飛鳥部隊三幹部のヨルノズクだ。ほっほ!! よろしくのォ、人間諸君!!」
ヨルノズク!
夜の草むらによくいるホーホーっていうふくろうポケモンの進化系だ。
ぼくは夜には大体自宅に帰ってるから、実際見たことはあまり無い。
そして、こんな間近で見たのはたぶん初めてだ……
いや、そんなことよりもだ。
問題はこのヨルノズクが『魔王軍』……要するに『悪いヤツ』だってことだ。
『人間は魔王の完全復活に重大な鍵を握っている』と、ハスブレロ村長が言っていたけれど……
あれが本当だったなら、ヤツの狙いは確実にぼくだ。
ぼく達の世界の野生のポケモンは基本的に人間は襲わないけれど、
こいつらは間違いなくぼくを襲ってくる。ニワトリがミミズを食べるように一つの躊躇いもなく。
さらわれるのか? それとも……死なされちゃう、のか?
「……コウイチくんには手を出させないぞ」
フライゴンはぼくの心中の不安を読み取ったかのようにそう言い、ぼくの前に出た。
さすがフライゴン! 頼りになる……!
フライゴンはまっすぐヨルノズクを睨みつける。
それに対しヨルノズクは、対抗するように睨み返す……という事はなく、フライゴンの視線を恐れるようにすぐ目を逸らした。
「ほっほほ……言っておくが、ワシゃ戦いはちょいと嫌いでの……
そういう暴力的なことはなるべくワシゃ遠慮したいのだがのー」
「なに?」
拍子抜けしたようにフライゴンの表情がふっと緩んだ。
ぼくも同じだ。こいつ……もしかして俳句を言うためだけにここに出てきたっていうのか?
突然、そのヨルノズクは全くの敵意も何も感じさせない半笑いの表情でこう言い出した。
「ワシゃそれなりに歳での……ブンブン動き回ってのチャンチャンバラバラは体に障るからの。
こう言っちゃあなんだがー……見逃して欲しいのだがの」
「はぁ?」
ぼくは、気がついたら思い切り感嘆符を口から出していた。
当然だ。『自分から出てきておいて見逃してくれ』?
何を言ってるんだこいつ! さっきの村長と違ってまさかコイツ本気で『ボケ』入ってるのか?
「ね、ねぇコウイチくん……あのおじさんこー言ってますけど」
フライゴンが振り返りぼくの耳元でそう囁く。
「う、うん……言ってるね」
ぼくはどう対処していいか困っていた。フライゴンも困ったような顔をしている。
『見逃してくれ』と言ってる相手をやっつけるのはアレだし、だからって簡単に見逃すのもアレだ……
……そうやって迷っていると、不意にヨルノズクがこう言い出した。
「あのな、言っておくが……」
フライゴンはその言葉にパッと振り向き、ふたたびヨルノズクを見据える。
ヨルノズクの表情に、笑みは無かった。 鋭い眼を光らせ、プレッシャーを放っている。
「お前らは大人しくワシを見逃してくれ。ワシは戦わないしお前達に手は出さない。戦いは嫌いだからの……
だが『ワシはお前を見逃さない』。『竜のお前はズタボロに倒され、人間のお前は魔王様の下へ連れて行かれる』。
いいか、お前達は無事に帰れない。肝に銘じておけ……お前達はたったいま『火の中にいる』のだ!」
ヨルノズクは突如片方の羽を高く上げた。
それと同時に、複数の葉ずれの音が同時に鳴る。複数の何かが、幾多もの木の中から現れた!
「コ……コウイチくん、上、見てください!!」
「!?」
ぼくは上を向き……そのまま辺りを見回した。
無数の木の葉をバックに、幾つもの陰が浮かんでいる。詳しい種類は分からないが間違いなく『鳥ポケモンの群れ』。
もしや、全員このヨルノズクの手下……いや、『もしや』じゃない。『確実にそうだ』!!
「ほーっほほ! そういう事じゃ人間諸君。では、ワシゃ文字通り高みの見物といくかのー!!ほっほほほ!!」
ヨルノズクは高笑いだけ残し、バッと飛び去ってしまった。
そして、複数の鳥ポケモンが……おそらくぼく達目掛けて一斉に急降下を始めた!
「コウイチくん、下がってて!」
「句とは即興なり!!
感動とは鮮度を保つことが難しいもの……
体験した感動はその場でそのまま書き記さねば、よい句などはできないのだ!!
巣の中で小一時間難しく頭を働かせて書き上げた句など、たかが知れた物にしかならぬ。
ワシは魔王軍に入り、己の最たる感動は何かを知ると同時に、それを理解した!
そしてワシのその最たる感動とはっ! 苦しみ、もがく若者を見ることにより芽生えるのだっつ!
四面楚歌の窮地に立たされ、命をすり減らし必死にあがく若者を見ることにより芽生えるのだっつ!
ワシにとってその様は、積もる初雪に輝く銀山よりも、紅葉に燃える赤山よりも、
蛙飛び込む水の音よりも、何倍も何倍も感動を得られるものなのだ!!
さぁ、若者達よ。ワシに至上の感動をプレゼントしておくれっ!! ほっほっほ!!」
「フ、フライゴン……!」
敵ポケモンは一体何匹いるのだろう?
ともかく、確実に20匹以上はいる。
ぼくは野鳥観察官じゃないから詳細な数なんて見当もつきそうにないけど、
ともかく……
こんな数のポケモンに襲われるのなんて、生まれて初めてだっ!
1対2の経験ならある。だけどそれ以上は一切ない。1対3もなけりゃ1対4もない。
しかし、今回は『1体20X』だ。
フライゴンは持ちこたえられるのだろうか? 心配で、ぼくは後ろに下がるのを躊躇う。
しかし、敵ポケモン達は思いのほか早く、もうぼく達のかなり近くまで近づいてきていた。
「コウイチくん!!下がってくださいっ!!」
「あっ」
フライゴンは、ぼくを手で押し退けた。
それと同時に、フライゴンは翼を大きく広げ強く力を込め始めた。
「なんだなんだ? 何をやってるんだぜあの竜?」
「気にすんな! 突っ込んで奴の体を嘴でザックリ刺してやるだけよ!」
まるで矢のように急速な勢いでフライゴンに突っ込んでいく鳥ポケモン達(近づいてくるにつれ、そのポケモンが『スバメ』や『ポッポ』などである事が分かった)。
その『矢』が、四方八方から何本もフライゴン目掛けて飛んできているのだ。。
ぼくは、経験の無い事態に慌てフライゴンへの命令が全く頭から出てこない自分に焦っていた。
焦っている間にも、『矢』は依然急速な勢いでフライゴンへ飛んでくる。
やがて、幾多の『矢』はもうフライゴンのすぐ近くへ・……
「フライゴン!! とにかく頑張って打ち落とせェーーー!!」
「ぐがっ!!」
間もなくして、悲鳴が聞こえた。
それも、『幾つもの』だ。
もちろんフライゴンの悲鳴じゃない。鳥ポケモン達の悲鳴。
向かってくる『矢』に対し、フライゴンは硬質化させた翼をたたきつけたのだ。
何匹かの鳥ポケモンが崩れ落ちると同時に、すぐに『矢の』第二陣はやってきた。
しかし、そのどれもフライゴンの体に至ることは無い。
フライゴンはまるで舞うように硬質化した翼……『鋼の翼』で、力強く的確に襲い来る『矢』を撃ち落していったのだ。
『矢』達は、みな空しく悲鳴を上げ落ちていく。
軽く30匹は、フライゴンの翼の攻撃のみで倒れていっただろうか。
やがて敵の軍勢は尽きたのか、もう矢はこちらへ向かってこなくなった。
フライゴンは息を切らしているが、まったくの無傷だ。
余裕勝ちだ。完封勝利だっ。笑いが込みあがってくる。
「や……やったやったー、フライゴン!! さすが……」
そう言ってぼくが近寄ろうとした……瞬間。
パシュッ!
「うあっ!」
空気が切り裂かれたような音と共に、
突如フライゴンは呻き声を上げながら、体の一部を手で押さえた。
その手の中から、鮮血の筋が漏れ体を伝っている。
フライゴンが何者かに攻撃されたんだ。敵はまだどこかにいるということだ。。
「フ、フライゴン!? だいじょうぶ!?」
ぼくがフライゴンに駆け寄ろうとした、その瞬間。
パシュッ!
「あっ!」
再び空気が切り裂かれる音と共に、ぼくの頬に熱い線が走った。
そして、そこから生暖かい血が垂れてくる。
さきほどフライゴンを傷つけた『何か』が、ぼくの頬を切り裂いたんだ。
痛みはほとんど無かったが、見えない場所からの攻撃への恐怖に胸が犯される。
……しかし、その恐怖はすぐに晴らされた。
「そこだっ!」
フライゴンはそう叫び、瞬時にある方向へ向かって竜の息吹を吹き出した。
フライゴンの口内から放たれた熱の奔流が、斜め前方の木の中へ入っていく。
それから間もなくして……
「にぎゃっ!!」
その方向から悲鳴が聞こえ、ぼとりと丸っこい黒い塊が落ちてきた。
フライゴンの息吹に撃ち落されたんだろう。ぼくはそちらに駆け寄り、落ちてきた塊の正体を確かめた。
「これは……」
おそらくぼく達に『エアスラッシュ』を打ち込んだのであろうそのポケモンは、ホーホーだった。
あの敵、ヨルノズクの進化前……確実に、ヨルノズクの手下のうちの一匹だ。
歯車のような文様の目をぐるぐる回してる。一目で完全に気絶してる事が分かる。
「どうです?」
フライゴンが駆け寄ってきた。
「見ての通り気絶してるよ」
フライゴンはほっと安心したように顔を綻ばせる。
「そですか。こいつがボク達を狙ってたんでしょうけど……まさか狙ってたのがこいつ一匹だなんてことは……」
怪訝な顔でフライゴンがそこまで言うと、上空から『あの』声が空から降ってくるように辺りに響き渡った。
「ほっほ、第二章の開幕の合図だよォ、人間諸君!!
さぁさぁさぁ、ここからは一層厳しくなるゾォォ!! ほっほっほォ!!」
ヨルノズクの声が響き渡った瞬間、突如辺りの木々がまた一斉に葉擦れの声を上げた。
「!?」
再び夜空に幾つもの影が浮かび上がった。それも、ホーホーと同じ丸っこい影がだ。
そしてその影は、先程のスバメ達と違ってこちらに向かってくる気配は微塵もない。という事は……
「コウイチくん、危ない!!」
「撃てェ!!」
ヨルノズクの合図と同時にフライゴンはぼくを抱きしめ、そのままその場を飛びのき横なりにゴロゴロ転がった。
数コンマ後、空気が切り裂かれる音が降り注ぎ、ついさっきまでぼく達がいた地面に幾つもの深い傷跡が出現した。
「……!」
「それなりに間髪いれず連発してきますよ、あいつら……ほら、また来た!!」
ヨルノズクは、今まさに感動の境地にいた。
眼下では、人間と竜がホーホー達の見えない攻撃を飛び回り必死で避けている。
ヨルノズクはその二人の動きと表情を必死で追いながら、内なる興奮を我慢できず喉から解き放っていた。
「ほっほっほっほっほォォォ!! いいぞっ、その動き、その顔っ、その必死さっ!!
すごい、すごいゾォォォ、句が湧き水のようにどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん湧いてくるのォォォ!!!
また一句!! また一句!! また一句!! また一句!!
また一句!! また一句!! また一句!!
多多益々弁ずとはよく言ったもの、これだけ句が浮かべばそれなりに当たりもあるだろうし当分は困ることなかろうて。ほっほっほ!!」
「!?」
ぼくとフライゴンが避けている途中、興奮したようなヨルノズクの声が森中に響き渡りだした。
「コウイチくん、あそこにいますよ!」
フライゴンがヨルノズクのいるであろう方向へ指を差す。
ぼくは顔を挙げ、大木の頂上から文字通り高みの見物しているヨルノズクの方へ視線を向けた。
闇に馴れたぼくの目は、一目でヨルノズクの様子を脳に伝えるに至る。
……そのヨルノズクの様子を見た時、ぼくは何とも言えぬ不気味な感覚にとらわれた。
ヨルノズクはまるで壊れたカラクリ人形のように首をぐるぐると高速で回転させ、
俳句短冊へ筆を走らせるように、翼をシャカシャカと空になぞっている。
ヨルノズクというポケモンは難しい事を考えているときには首を180度傾けると聞いたことはあるけど、
あんなにグルグルと頭を高速回転させるなんて聞いたことないぞっ。
言葉も出せないほど呆気に取られているぼくに、不意にフライゴンがこう言った。
「……コウイチくん、ちょっと今からボクあいつ倒してきますっ」
「……えっ?」
次の投下は7時半過ぎからです。
ぼくは条件反射的に咄嗟に『無謀だよ!』と言おうとしたが、冷静に考えるとそうでもない。
あのヨルノズクは『戦いが嫌い』らしいし、おそらくあのホーホー達を指揮してるのはあのヨルノズク。
ここであのヨルノズクを仕留めれば、きっとホーホー達の動きはガタガタになる筈だ。
たとえば一流のオーケストラ楽団でも、演奏中に突然指揮者がいなくなれば
音が合わず悲惨な事になるらしい(お母さんが言ってた事だから今一信用できないけど)し、それと同じことだ。
ぼくは、ゴクンと一度息を呑み叫んだ。
「よし、じゃあ行けフライゴン!! あのヨルノズクをコテンパンにしてくるんだぁ!!」
「了解です、コウイチくん!!」
フライゴンは羽をはためかせ、激しい振動音と共にジェット機のように急速な勢いで上空のヨルノズク目掛けて飛び上がった。
「!!」
ヨルノズクの頭の回転がピタッと止まった。危機を察知したんだろう。
ぼくはグッと拳を握り締めながら、フライゴンの行く末を見守り始めた。
ボクは爪に神経を集中させた。一撃であのヨルノズクを仕留めなければいけない。
ボクのドラゴンクローは、今までどんな敵だって一撃で仕留めてきたんだ。出来ないはずがないっ。
ヨルノズクの姿がどんどん大きくなっていく。ボクは一度大きく息を吸い、腕を振り上げた。
「ヨルノズク、覚悟っ!!」
ヨルノズクの表情が一層動揺に歪む。
ボクは、渾身のドラゴンクローをヨルノズク目掛けて繰り出した!
ガキン!!
けたたましい金属音に似た硬い音が、ボクとヨルノズクの間から鳴り渡る。
「……!」
……爪から腕へ、腕から脳に伝わるその感触は、生物の肉体に爪が食い込む感触じゃない。
もっと固い……金属の板のようなものに衝撃が弾かれる音。
「あと一息……あと一歩……と言った所だの。
まさに紙一重、いいや、板一重とでも言った方が上手い洒落になるかの。ほっほ」
ボクの爪とヨルノズクの間には、わずか数ミリ程の『リフレクター』が張られていた。
ボクの攻撃はそれに阻まれ、ヨルノズクには通らなかったんだ。
「くそぅ、ならもう一度……」
ボクが再び腕を振り上げると、ヨルノズクはすかさずこう言った。
「少しは己の危機に気づいた方がいいな、竜よ」
「なんだって?」
パシュッ!ピシュッ!パシュッ!
「あぐぁっ!!」
突然、体の至る所にカミソリの刃が走ったような鋭い刺激が走った。
ボクは瞬時に察知する。ホーホー達のエアスラッシュが、ボクに命中したんだ……
そうだ、ボク達は依然ホーホー達に狙われたまま。同じ場所にいたら一斉に攻撃を受けるに決まってる。
「フライゴン!!」
地上から、コウイチくんの心配したような声が聞こえる。
思わず首を回し下を見ると、ボクの背中から血が何滴か滴り落ちていることが分かった。
心配しないで待っていて! すぐに戻るから……!
「んぐぅぅっ!!」
ボクは歯を食いしばり、再び渾身のドラゴンクローをリフレクター目掛けて叩き付けた。
「!」
ヨルノズクの目が見開かれ、同時にリフレクターが音を立てて破壊された。
空気に飲まれるようにリフレクターの破片が消滅していく。やった!
あとはヨルノズク本体へドラゴンクローを叩き込むだけだ。
ボクはもう一度腕を振り上げ……
バシュッ! パシュッ! ピシュッ!
神ktkr
「か……っ!」
三度目の激痛の波がやってきた。ホーホー達のエアスラッシュがまたもボクに直撃したんだ。
痛みのせいか、ふとボクの意識が暗闇に飲まれる――
「フライゴォン!!」
「はっ」
コウイチくんの声が聞こえ、ボクは数コンマだけ消えていた意識を取り戻した。
その時は既に……ボクの体は地に向かい重力にしたがって落ちている途中だった。
「わ、わ――っ……えっ!?」
慌てて翼をはためかせようと力を入れたその時、突如背中に鈍い衝撃が走り落下が止まった。
「……え、え?」
地面に落ちたわけじゃない。まだボクはかなり地面から遠い場所にいる。
それなのに、なぜだかボクは落下を何かに受け止められていた。
「え、これは……」
ふと身を起こし、己の背中を受け止めたものに視線を走らせる。それは―――
リフレクター!?
いまボクの背中にあるものは、間違いなくあのヨルノズクのリフレクターだ。ヨルノズクのやつ、ボクを助けたっていうのか……?
いいや、違う。これは『ホーホーにボクを狙わせるために張ったんだ』。
咄嗟に周りに視線を巡らすと、ホーホー達の視線がボク一点に集中されてる事に気付く。
そして、翼を高く挙げエアスラッシュの準備姿勢に完全に入っていることも……
「うあっ」
急いで飛び上がり離れようとするが、体に力を入れると傷口に線が走り思わず痛みに呻いてしまう。
やられるっ !
ボクは瞬時にそう悟る。そして次の瞬間――
「うぎゃあああ!!」
あれ?
突如、辺りに悲鳴が聞こえてきた。
だけどボクはまだ悲鳴を上げてないぞ!
聞こえた悲鳴は『ボク以外の悲鳴』だ。それも、全く聴き慣れない声。
つまりヨルノズクの悲鳴でなければ、コウイチくんの悲鳴でもない。
じゃあ誰の悲鳴だ? それは、次の瞬間に明らかになった。
「あぎゃっ!!」
「!?」
その瞬間起きた悲鳴と同時に、周辺の何十の丸っこい影のうちの一つが落下していった。
悲鳴を上げたのは、ボクをエアスラッシュで攻撃していた『ホーホー』だった。
「ぎゃっ!」
「うぎゃっ!」
続いて何度も悲鳴が聞こえ、その度にホーホーが一匹一匹落下していく。
「? ?」
ボクの頭が困惑にかき回される。その中、更にボクの困惑を助長させる要素が一つ加わる。
……まるで身軽な猿が木々の間を飛び交っているかのように、周辺の木々から枝を蹴りつけるような音が順番に聞こえてくるんだ。
そして目を凝らしてみると、その音がした木と次に音がした木の間に、『何かが移動してるような影』も見えるんだ。
……ボクが今出した例え話が、もしかしたら当たってるのかもしれない。『身軽な猿が木々の間を飛び交っている』……
木々の間を縦横無尽に飛び回り、すれ違いざまに敵を倒していく。その戦い方に、なぜだかどこか既視感が芽生える
「な、何だァーー!何が起こってるんだァ!」
ヨルノズクもうろたえ、そう叫び出す……その次の瞬間辺りに、
ボクのものでも、コウイチくんのものでも、ヨルノズクのものでも、ホーホーのものでもない……
ある声が響き渡った。
「いいか、これはれっきとした天誅、成敗ってヤツさ阿呆鳥ども。
俺達の縄張りを勝手に侵したアンタらが悪いんだぜっ」
およそ周りにいたホーホー全員が打ち落された次の瞬間、辺りにそう響き渡った。
……ヨルノズクの声でもコウイチくんの声でもないけど、なぜだか……聞き覚えがある、声だ。
「なんだ、誰だっ!!どこにいるのだっ!」
ヨルノズクは頭を左右に回転させ目を光らせる。
ボクも頭を動かし声の主を探ってみるが、どこにもそれらしき影は無い。
「ここだよ、ここっ!」
「?」
突如、声の位置が変わった。ボクより下……
ボクは、頭を横に転がし下を見つめた。ヨルノズクもバッと地面を見下ろす。
いた。
コウイチくんの隣にその声の主はいた。
そしてその声の主の姿を確認した瞬間……その声が聞き覚えある声である理由が瞬時に判明した。
「やぁ〜〜っと気付いたかよノロマ。梟のクセにやたら視力悪いのな、老眼鏡でもかけたらどうだ? カハハハーッ!!」
なぜなら、その『声の主』とボクは……以前『仲間』だったからだ。
同じ『コウイチくんのポケモン』として一緒に戦った、『仲間』だったからだ。
ボクは、反射的にその彼の名前を叫んでいた。
「ジュカイン!!」
「ジュカ……イン……?」
突然のことだった。本当に突然、ぼくの隣にあのジュカインが現れた。
元『ぼくのポケモン』……フライゴンと同じく『一緒に旅してきた仲間』……
そのジュカインが。今まさにボクの隣に立っているのだ。
「何だ、アンタ俺の名前知ってんのかよ」
「え?」
ジュカインは、ぼくの方を振り向きそう言った。 ……少しだけ湧き上がっていたある期待が、一瞬にして消滅する。
『アンタ』。このジュカインがぼくのジュカインだったとしたら、こんな他人行儀な呼び方はない。
だとしたら、このジュカインはぼくのジュカインじゃない……別のジュカインだという事だ。
「アンタ、あの鳥達の被害者?」
ジュカインはぼくにそう尋ねる。
「……そうだけど」
「ってことはアンタは敵じゃあないってワケね。あそこで浮いてる緑いのは?」
「……ぼくのポ…友達だよ」
「ふぅん。じゃ、あと残ってる敵はあそこの梟だけね。……おい、何ジロジロ見てんだよ」
……気だるそうに垂れた目、ぼくより少し大きいくらいのその大きさ(『ジュカイン』という種類の中ではかなり小さい方らしい)。
姿だけ見たら、お顔だけ見たら完全に『ぼくのジュカイン』だ。
ぼくの頭が困惑にかき乱される中、ふとヨルノズクの叫び声が聞こえた。
「お前みたいな部外者はお呼びでないんだよォ!! 邪魔だからさっさと消えろっ!!」
突如ヨルノズクはそう叫ぶと、片方の翼を高く挙げた。そしてそれと同時に、また木々の隙間から数十の鳥ポケモンが出現する。
「あいつボケ入ってんのかね。どっちが邪魔な部外者だか分からせてやるっ」
ジュカインはぐぐっと腰を引き戦いの構えをとった。
……戦い方を見れば。戦い方を見れば分かるはずだ。このジュカインが『ぼくのジュカイン』か『違うジュカイン』なのか……
……ってかもし戦い方が完璧ぼくのジュカインだったら、彼がぼくにこんな他人行儀なのはどう説明すればいいんだ?
有り得ないけど……まさか、き、記憶喪失、とか?
スバメ達が、さっきフライゴンに襲い掛かったようにこちらへ急降下してくる。
その攻撃に、ジュカインは……ってあれェ!?いない!
……いつの間にか、ぼくの隣に立っていたはずのジュカインがその場から消え去っている。
まさか逃げたんじゃあ……そう思い始めてから間もなく、疑いは杞憂である事が知らされた。
「ぎゃっ!」
また悲鳴が聞こえ、一匹のスバメが落ちていく。
無数の木々の間を高速で影が飛びまわり、その影とスバメが交わった時に、スバメは打ち落とされている。
打ち落としているのは間違いなくジュカイン。
ジュカインは、木々を順に飛び回り敵をかく乱すると同時に、辻斬りの如く進行上のスバメを斬り落としているのだ。
この、戦い方は……
「さて、ちょいと手ごたえが無いようだけど、これどういうワケ? カハッ」
ジュカインは高速移動をやめ、一本の木の枝にぶら下がったまま辺りを見回し出した。
高速移動の連続で体が疲労しているのか、片足を木に張り付けのんびりと辺りを見渡している。
「……!」
戦闘が有利な状況での、この余裕のノンビリっぷり……
「……よ、余裕ぶっこきおって、このワシを嘗めとるのか貴様ァ〜〜〜〜
そんな態度を見ても。ワシは面白くも何ともないんだよォ!!」
ヨルノズクは苛立ったような声を上げると、また片方の翼を高く挙げた。 『指令』の合図だ。
それと同時に、また鳥ポケモンが木々の中から何匹も現れ……
そして一斉に、ぶら下がりほぼ無防備なジュカインへと向かって突進を始めた。
ジュカインは依然ゆったりとした態度を取ったまま、向かい来る鳥ポケモン達に視点を定める。 動き出す気配は無い。
……あのままの姿勢で迎え撃とうってのか?
相手の鳥ポケモンは素早く、また数が多い。無茶だっ。
そして……
ぼくは思わず、目を数度瞬かせた。
視線の先で、凄まじい早業が繰り出されていたのだ。
ジュカインは、片手で木にぶら下がったまま向かい来る鳥ポケモン達をことごとく撃退していた。
片手でのリーフブレードで……シダ植物のような形の尻尾での、身を捻っての叩きつけで……
尖った足の爪を使っての二度蹴りで……一つのダメージもなく、
あっという間に向かい来る敵をほとんど蹴散らしてしまったのだ。
「……!」
向かってくるのが遅れた一匹のポッポが、目の前の状況に驚き前進を止める。
「ジャジャ〜ン。これぞまさに一網打尽っ」
ジュカインはそう呟くと、片腕の力だけで枝を軸にクルリと回転し枝の上に立つ。
そのまま膝を折り、ただ一匹倒し損ねたポッポに向かってこう言い出した。
「さて、倒され損ないの小鳥くんにひとつ質問。
キミには今おおまかに二つの選択肢があるわけだが……どっちを選ぶんだい?」
ほぼ囁くような声量で、ジュカインは言う。
「勝ち目無い相手に果敢に挑んで倒れるか……このまま尻尾巻いて逃げ出すか……
二つに一つってヤツだけど、さぁ、どうするどォする〜? カッハハッ!!」
ポッポはしばらくは答えずに、鋭い眼でただジュカインを睨みつけている。
静寂がしばらく続いた後、ポッポはまっすぐにジュカインを睨みつけながらこう言った。
「オレ達を嘗め腐りやがって、この緑色め……! どこの誰だか知らないが、しゃしゃり出てきて無事に済むと思うなよぅ!」
「おっ、来るのか?」
ジュカインはふっとため息をつくと共に、『来いよ』とでも言う風に指を畳み開きを繰り返し挑発してみせた。
ポッポは怒りに目付きを一層鋭くさせて――
「ってかダメだ、やっぱオレには無理!! 助けてーヨルノズク様!!」
「ありゃ?」
ポッポは瞬時に身を翻すと、翼を一生懸命はためかせ逃げ出し始めた。
ジュカインは今度は嘲るようなため息をつくと共に、腰に力をいれグッと前かがみの姿勢になる。
枝が縦に揺れ、そして――
「ぐぁっ!」
一瞬の内に、ポッポの背が切り払われた。
「な……追い討ちなんて、シドい……」
ポッポの翼の動きが止まり、グラリと体制を崩し地面へまっさかさまに落ちていく。
ジュカインは次の木の枝に立ち、ポッポの落ちていく様を見据えながら呟いた。
「悪いが、オレを恨まないでくれよ。恨むなら、この森を荒らすよう指揮した
お前さん達のリーダー……ヨルノズク様ってやつを恨むんだな。
……そして、心配するな。そのお前さんの恨みは――」
ジュカインは、すぐ斜め上にある木の枝を見上げた。
そこには、苛立ちに筋を浮き上がらせ赤い目を怒りに奮わせるヨルノズクの姿があった。
「このオレが綺麗さっぱり晴らしてやる。ありがたく思えっ! カハハッ」
ジュカインはヨルノズクをキッと睨みつけながら、挑戦的な笑みを浮かべる。
その笑みを受け、ヨルノズクは一層表情の怒りの色を濃くしていく。
「貴様ァ……!」
ヨルノズクは唸るようにそう呟き、そして次の瞬間――
「はっ?」
ジュカインは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故なら、ヨルノズクはあのポッポと同じく真っ先に身を翻し、
逃げ去るようにその場を飛び立ってしまったからだ。
てっきり戦いを挑んでくるものだと思っていたジュカインは完全に意表を付かれ動きを止めたが、それも一瞬の事で――
「ボケがっ、好き勝手やっといてさっさと逃げられると思うな!」
飛び去っていくヨルノズクに狙いを定め、力強く枝を蹴り付けた。
一瞬にしてヨルノズクの背後へ到達し、ジュカインは腕を振り上げるが……その瞬間。
「たわけめっ!」
「なっ!?」
ヨルノズクが不意に振り向き目を一瞬大きく開いたかと思うと、突如ジュカインの動きが空中で静止したのだ。
「なっ……!?」
驚愕するジュカインへ、ヨルノズクは溜め息混じりにこう言い出す。
「軍勢を失った今、ワシは戦いの術を持っておらぬ。無抵抗の者を切り裂こうとは関心せんな……」
そう言い終えた瞬間、彼の眉が一瞬青白く発光した。
それと同時に、止まっていたジュカインの体が動き出した。
……地面へ向かって。
「むおおおぉぉぉ!!」
ジュカインが地面へ向かい落ちていく様を見届けないまま、ヨルノズクは翼を大きくはためかせ夜空の奥深くに消えていった。
GJ!
あさって辺りには、ようやく新しい所が見れそうだな。
何でこの小説敵キャラがやたらやたら濃いんだよw
「わっ――」
いきなり、ジュカインが砂埃と鈍い衝撃音と共にぼくの近くに落ちてきた。
あのヨルノズクに何かをされたのか分からないけど……とにかくあの高さから地面に叩きつけられちゃあマズイ。
「ジュカ……」
「くそおおォォ!!」
「うわっ」
ぼくが声をかけた瞬間、ジュカインは叫び声を上げながら勢いよくその身を起こした。
そのまま流れるようにバッと上空を見上げたと思うと、すぐに落胆したように項垂れて、深いため息をつきだした。
ヨルノズクがまんまと逃げおおせてしまったからだろうか。
「ちくしょォ……逃がしちまったよォ……頭来るぜ、ちくしょォ〜〜〜」
ガッ、ガッ、と軽く拳で床を殴りつけ、ブツブツと悪態をついている。
何処となく話しかけがたい雰囲気に纏われていたが、ぼくはおずおずとジュカインに近づく。
ぼくはこのジュカインに言いたい事があるんだ――
「うわわっ、落ちるーーーっ!!あぎゃーーっ!!」
「!?」
また上空から悲鳴が聞こえてきたかと思うと、空から何か大きい物が降ってきているのが目に入った。
落ちてきたのはフライゴンだった。ジュカインも咄嗟に落ちてくるフライゴンへと視線を走らせる。
フライゴンは背中からまっすぐ落ちてきている。このままじゃ床に叩きつけられる――
「むぎっ! う−−っ!」
しかし、フライゴンは何とか地面スレスレの場所で羽を高速ではためかせ落下の勢いを和らげた。
先ほどのジュカインの時よりも遥かに緩やかな衝撃で、フライゴンは地面に着地する。
ぼくは、ほっと胸を撫で下ろし安堵のため息をついた。
「まったく、あのリフレクターいきなり消えるなんて……って言ってもずっとあそこに寝転がってたボクが悪いのかもですけど……」
フライゴンは背中をパタパタとはたき、のそりと立ち上がった。
心なしか動きがぎこちない。
さすがドラゴンタイプというべきか背中の血はもう完全に止まり傷口は塞がりかけてるけど、まだその傷跡は痛々しそうだ。
「フライゴン……け、怪我ダイジョウブ?」
ぼくが駆け寄りそう言うと、フライゴンは無事な事を伝えるようにニヘラッと笑みを浮かべ即答した。
「全然ダイジョウブですよ〜〜。……そんなことよりも、ですよっ」
フライゴンはゆっくりとジュカインの元へ歩き出し、前に立った。
ジュカインもふとフライゴンを見つめ、ふっと小さなため息をつきながらこう言った。
「よう、感謝しろよ緑っこいの。親玉は逃しちまったけど……ま、次来たらまた返り討ちにしてやるサ」
「……」
フライゴンは、ジュカインの言葉に返事を返すことなくただジュカインの顔をじいっと見つめている。
……ぼくには分かる。フライゴンは『先程ぼくが抱いていた疑念』を今まさに抱いている途中なのだ。
『このジュカインはかつての仲間のジュカインか』? 『それとも全く関係ない別のジュカインか』?
……少なくとも、今ぼくの中ではその結果は完全に出ているのだけれど。
「おい、何ジロジロ見てんだよォ、不気味だなァ」
「あの……きみ、ボクに見覚えないの?」
「は? 何言ってんだお前、見覚えなんてあるもんかっ。お前みたいな緑っこいヤツのよー、俺が知るかってんだ……」
「……」
フライゴンは首を捻りながら、とぼとぼとこっちに帰ってきた。そして、ぼくの耳元でこう囁く。
「コウイチくんっ!あのジュカインですけど……どう見てもボク達の仲間のジュカインですよっ!
あの体付きといい、色合いといい、目付きといい目付きといい目付きといい……どうなんですかっ、実際?」
相当フライゴンは困惑しているのか、声に混じって吐息がズカズカ耳に入り込んでくる。
ぼくはそれを気にせず、こう即答した。
「……答えは、出ているよ。」
「えっ」
「彼は――」
「間違いなくっ!ぼくのジュカインだっ!!」
ぼくはジュカインをビッと指差しながら、確信に満ちた声で叫んだ。
「はアっ?」
ジュカインが呆けた声をあげ、ぐるりとこちらを振り向く。
ほうらほら、その顔つきなんかまさにぼくのジュカインそのまんまじゃあないかっ。
「ほ、本当ですかコウイチくん?それ間違いないんですか?」
「うん、間違いないねっ!見ての通りのあの姿、強さだって戦い方だってまさにぼくのジュカインっ!
きっと何かの衝撃で、いわゆる記憶喪失的なアレになってるってだけさっ」
そこまで言ってから一瞬『記憶喪失なら戦い方まで忘れてるもんじゃないのか?』という疑問が頭をよぎったが、
『ゲームのセーブデータと同じで、セーブデータは消えてもゲームそのものは消えないのと同じ事』という結論で疑問はすぐさま消え去った。
よくドラマとかで記憶喪失の人がいるけど、言葉は普通にしゃべっている。それと同じ事だ(実際どうなのかは知らないけど……)。
「……あのなァ〜〜〜」
ジュカインは深くため息をつきながら立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。
未だ苛ついているのか、声を震わせながらこう言い出す。
「アンタ頭は大丈夫か?何が記憶喪失だっ!
オレはこの森の住人のジュカインで、それ以外の何物でも……」
「だから、キミはそれを忘れてるんだって。君は『間違いなく』ぼくのポケモンのジュカインだっ!
きっとぼくのお顔見てたらすぐ思い出すよ! ねぇねぇ、ほら見てよぼくのお顔を」
ジュカインの肩をしっかり掴み、ぼくはジュカインのお顔をじぃっと見つめる。
……見れば見るほど、ぼくのジュカインだ。
ジュカインは顔をしかめながら一度だけぼくのお顔を見て、プイと目を逸らしてしまった。
「そんなほのぼのした顔見ても何も思いださねーよバーカ!
クソッ、馴れ馴れしくすんじゃねぇよ、俺は馴れ馴れしくされんのがだいっ嫌いなんだっ」
「!?」
ジュカインの放った一言。『馴れ馴れしくすんじゃねぇよ』という言葉が……
ふと、ぼくの頭の奥底で眠っていたある記憶の首をもたげさせた。
あれはいつだったか、オオカマド博士にジュカインの事を相談しに行った時のことだ。
あの時の会話の内容に、頭を巡らす。
“あの……オオカマド博士。相談があるんですけど……”
“うむぅん。なんじゃあい、コウイチくん?”
“あの、このジュプトルの事なんですけど……ぼくに懐かないというか、馴れ馴れしくするとうっとうしがるんです。
これって、ぼくと一緒なのがイヤって事なのでしょうか?もしそうなら、あの……ぼく、この子逃がしてあげようかと……”
“・……うむぅん。そうとは限らないんじゃないのぉ?”
“えっ”
“うっとうしがられても、ゆう事は聞くんでしょぅ?それとも、ゆう事も聞かないワケん?”
“……言う事は、聞きますけど……”
“うむぅん、それなら安心じゃよぉ。キミは少なくともそのジュプトルに信用されてるっ、嫌いなんて事はないわァん。
本当にトレーナーが嫌いなら、ポケモンはとことんトレーナーに逆らうはずだわっ。
力で押さえつけてるのならその限りではないけれど、コウイチくんはポケモンを力で支配するタイプじゃあないし……”
“……あのう、じゃあうっとうしがられるのは何でですか……?”
“それは単にそのポケモンの性格ね”
“せ、性格?”
“うむぅん。ポケモン全員がトレーナーに甘えたがる可愛い性格って事はないのよぅ。
中には、馴れ馴れしくされたらつっぱねるちょっと素直じゃない性格のポケモンもいるわ。
特にキモリ系統は、そういう性格の者が多いとはよく聞くわねん……彼らいわゆる一匹狼的な種族だしィ?”
“そ、そうですか……”
“ポケモンは、人間と同じく様々な性格のポケモンがいるのよぅ。
一流のトレーナーになるなら、まず彼ら一匹一匹の性格をちゃんと把握する事ね。
ポケモンマスターへの道への第一歩は、ポケモンを知る事よっ! おわかり?”
“は、はいっ!”
“うむぅん! いい返事だわっ! やっぱキミいいわァ……応援のキスしてあげようか?”
“お断りです”
確信が更に固く深まる。もうこの子はぼくのジュカインである事に絶対ぜったい100%間違いはないっ。
「ほうらその性格っ、やっぱぼくのジュカインだキャーーン!!」
「のわっ!!」
再会の喜びに、ぼくは我を忘れまっすぐジュカインに飛びついた。
「ぐあ、な、何するんだテメーッ!」
ジュカインはうっとうしそうに四肢を振り抵抗しながら、ぼくを睨みつけてくる。
そうだ、そうだった、馴れ馴れしいのはNGだった。
「ああ、ああっ、そうそう、馴れ馴れしいのはダメだったよねっ、と、と」
慌てて腕を離して、一歩、二歩、下がる。
コホンと一度咳払いしてから、ジュカイン目掛けてこう言ってやる。
「よぉしっ、じゃあ馴れ馴れしくしないから記憶取り戻しておくれっ!」
「無理に決まってんだろバカ!」
真面目に怒られた。
「ねぇ、どうしますコウイチくん?本当に記憶全部ふっとんじゃってるみたいですよォ……」
フライゴンは心底不安な調子で、ぼくにそう話しかけてくる。
もしジュカインの記憶が戻らなかったら云々などと考えているんだろう。
ぼくは安心させるようにフライゴンの肩を軽く叩きながら言った。
「だいじょぶだいじょーぶ。ほら、ドラマとか漫画じゃあ記憶喪失キャラなんて大抵は後々記憶取り戻すわけだし」
「あっ、そーですか。それなら問題ないですねっ!」
「イヤイヤイヤイヤ、ちょっと待てお前ら」
ジュカインがいきなり割り込んできた。下を向きながら、精魂まで全てを出し尽くすようなド深いため息を吐いている。
「二匹ともほのぼのした顔しやがって頭の中もほのぼのかテメーら、マジいい加減にしやがれーっ!
オレが記憶喪失? ふざけたこと言ってるんじゃねーぜっ、他人の空似だボケッ! もう帰れガキども!」
「こらージュカイン! ご主人様に向かってガキとは何だー! 名前で呼んであげなさい名前で!」
「そうだぞジュカイン。さてほら、ぼくの名前はなんだっけ? せーの、さんはいっ」
「だから知らねーーっつってんだろクソガキャーー!!」
ほら、この冗談の通じなさも間違いなくぼくのジュカインだってば。
「じゃあ、仮にオレは昔お前の仲間だったという事にしよう」
「?」
不意に、ジュカインは落ち着いたテンションでそう言い出した。
「そして、仮にオレはいま記憶喪失になっているのだとしよう……
その上でオレは言うぜ。『お前達なんか知ったこっちゃない』ってな。
無くなった記憶なんて二度と戻ることはない筈だ。 お分かりか?
つまり、お前の知ってるオレは実質死んだっつーことだ。もはや今のオレにはお前に対する義理も何もねー」
「なっ……」
「繰り返し言うようだがオレはこの森の住人、ジュカインっ! それ以外の何物でもないんだっ。
だから諦めてさっさと帰れ、帰れっ!」
ジュカインは吐き捨てるように一気にそう言い、シッシッと手をはためかす。
ジュカインのその真剣な返答に、ぼくは口ごもる。先程までのようなノリで言葉を返すことは出来なかった。
「……」
フライゴンが更に不安げな色を増した目付きでぼくに目配せする。
と、ジュカインは小さく鼻でため息をつきながら、スッと身を翻し歩いていってしまった。
静寂の中、まるでカウントダウンのようにペタペタとジュカインの足音が木霊する。
こめかみから一筋汗が滴り落ちる。ぼくはジュカインの後姿目掛けて、叫んだ。
「誰が諦めるもんかァ!!」
ぼくがそう叫んだ瞬間、ジュカインはふと歩みを止めた。
そうだ、ここで諦めるわけにはいかない。
ここで諦めるという事は、すなわちジュカインと永遠に別れるという事。
記憶が戻る可能性なんて少ないけど……そのジュカインが今目の前にいる事は確かだ。
そうだっ、ぼくだってふとした事で完全に忘れていた昔の事をいきなり思い出すことがある。
それと同じ事で、ふとした事で昔の記憶を取り戻すなんて十分ありえる事じゃないか。
そう、人間の記憶ってものはゲームのセーブデータなんかとはワケが違うはずだ。
何で記憶が無くなったのかとかは一切不明だけどともかく、ジュカインの記憶が戻ってくる可能性は大いにあるっ!
ジュカインは、ゆっくりと身を捻りこちらを振り向く。
その彼の目付きは、ぼくを哀れむような蔑むような冷たい目付きで……
それでもぼくは負けじとじっとジュカインを見つめ続ける。
「ジュカイン!! 様子はどうだ!?」
「!?」
突如、聞きなれない声が耳に入ってきた。
ジュカインの目付きが変わり、声のした方向へ体ごと振り向く。
ぼくもそちらへ視線を走らせる。そこには……見慣れない数匹のポケモン達がいた。
「ぞ、族長」
ジュカインがふとそう言う。
今のジュカイン以外にも、この森には沢山住人がいたという事なのか。
二足歩行の緑色のポケモン達が、ぞろぞろとこちらへやってくる。
何となくだけれど、またややっこしい事になりそうな気が……する。
つづく
これでやっと以前小説スレで投下した分すべてを投下し終わりました。(かなり追加や修正が入ってますけど)
明日からは、小説スレでも投下していない新しい部分に入ります。
その代わり毎日投下するのは無理になりますが、よろしくお願いします。
キタ━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━ッ!
族長はジュプトルと予想
205 :
名無しさん、君に決めた!:2007/12/02(日) 23:50:31 ID:/fkZbRqo
今のうちに上げとくか
上げんなカス
上げると荒らしが来るお
オオカマドwwwww
オカマwwwwww
フライゴン、ラグラージ、ゴウカザル、レディアン、ユキメノコ……そして、ジュカイン。
ぼくの頼れる、そして愛する手持ちポケモン達。
ポケモンはペット、って言う人がずいぶん多いけれど、ぼくにとってポケモンはペットなんて物じゃない。
ペット以上って事は友達かな? いーや、それ以上だ。なら親友かな?
んーっ、もうちょっと上かなっ。家族? 子供? ……そこまで行っちゃうともう上限が無くなっちゃうか。
みんな出会いは偶然だったけれど、今やみんなぼくの人生に欠かせないパートナーだ。
しかし何の因果か今、ぼくはその欠かせないパートナーのほとんどとはぐれてしまっている。
この見知らぬ世界のどこかにいる事は多分確実だけれど、
この世界がどの位の広さなのか全く不明のままなので、再会出来るかどうか考え出すとまるでハテが無い。
……それなのに、ぼくはあろうことか一日もせずにもう仲間の一人と再会してしまった。
これはとても幸運な事だ。おみくじ的な段階で判定すれば、堂々最上段の『大吉』っていった所だろう。
だけど何とも運命ってのは意地悪なもので、この『幸運』をそのまま『幸運』としてぼくにプレゼントしてはくれなかった。
晴れて再会したぼくのジュカインには……いわゆる『記憶喪失』なんていう無駄なオプションがくっついていたんだ。
何でそうなったのかなんて一切不明だけど、そもそもが不明だらけのこの世界で何かを追求するのは止めておこう。
ともかく……ジュカインの『記憶』をどうにかして戻さなきゃぼくのジュカインは戻ってこない。
ジュカインはぼくの大切なポケモンの内の一匹。そのジュカインと別れるという事は、家族を失うのと同然。
そう、どうにかしてジュカインの記憶を戻さなければいけない……!
「ぞ、族長」
森の奥から、全身緑色のポケモンが続々とこちらへやってくる。
恐らくジュカインに族長と呼ばれているであろう先頭のポケモンは……同じく『ジュカイン』だ。
ただこの『族長さんジュカイン』は、ぼくのジュカインと違ってだいぶお顔と体の皺が深く、また目つきも少し穏やかだったり
背中に宿してる黄色い果実の数が違ったりと大きい違い細かい違い共に多く、簡単に見分けがつく。
そしてその族長さんジュカインの後ろにいるのは、暗くてよく見分けがつかないが多分キモリの集団だろう。
ともかくその二種族の集団がこちらへやってきたんだ。
「ジュカインよ、騒ぎはやはり魔王軍の……?」
族長さんは少し焦ったような口調でジュカインにそう問いかける。
「ま、そんな感じだったな。ボスのデカブツ梟は逃しちまったけど、次来たら返り討ちにしてやるさ。
……あと聞いてくれよー、何か変な奴らがいてさー……」
ジュカインが族長さん達に近づきながら、ため息混じりにこう言い出す。
「俺のことを『記憶喪失』だの『ぼくのジュカイン』だの何か変なこと言ってんだよね。
片方は見たことも無い生き物だしもう片方はドラゴンみたいな変な緑色だし、何か不気味でさ。何か言ってやってくれよ族長」
ジュカインはこちらを指差しながらそんなことを言っている。
族長さんは、そのジュカインの言葉を受けぼく達の元へ近づいて来た。
そして、それにつれどんどんと族長さんの目つきは訝しげな風に細まっていくのだ。
族長さんはぼくの目の前につくと、間髪入れずにこう聞いてきた。
「き、きみはまさか人間……なのか?」
怪訝な表情でじっとぼくの顔を見つめながらそう問いだす族長さん。
……そうそう、そういえばこの世界は……『ぼくたち人間が非常に珍しい世界』だったんだ。
ここ連続で命にも関わりかねないような危機に晒されたせいか、すっかり頭から抜けていた。
「……はい、ぼくは人間です」
ぼくがそう言ってみせると、族長さんの顔が明らかに驚きの色に染まった。
と、後ろのキモリ達の間からも一斉にざわめきが起こる。
「オイ、聞いたか人間だって……」
「人間って……あの人間っ!? あ、いやいやいや、人間『様』!?」
「ままままマジでェ〜〜〜!? うわあ、すっげぇすっげーーーぇ!!」
「マジかよーーっ!! おいおい誰か紙持ってきて、スケッチするから」
「しっ、騒ぐな! 人間様に失礼だゾ」
まるで街角で有名人を目撃したかのような反応を見せるキモリ達。
彼らは、確かにこのぼくが『人間』と名乗ったことによって騒いでいるんだ。
……見下しているわけではないけれど、なんとなく切り札を出したみたいで愉快な気分だなぁ。
と、族長さんは一度コホンと咳払いをし柔和な笑顔を浮かべた。
「そうか、まさかまさかの珍客だ……とりあえず人間様、ようこそ『生命の森』へ」
「……な……なんだとォ〜〜〜?」
ジュカインは信じられないと言ったような表情でこちらへ駆け寄ってきて叫びだした。
「おいおい困ったな、そいつが何なのか知らねーが、ようこそだなんて!
何か不気味だし、オレとしちゃーさっさと追放してもらいたいんだが――」
「それは『失礼な口』というものだぞ、ジュカインよ。お前はまだこの世界に来て日が浅いから知らぬのも仕方無いが……
このお方は『人間様』と言って、この世界ではほぼ『神』として崇められている種族なのだ」
「か……神だァ〜〜〜?」
半信半疑といった風に、それでもやはり驚きは隠せない風な目つきでぼくを見るジュカイン。
ぼくはほくほくと溢れだす愉快な気分に胸を躍らせた。
そして『それ』は、ジュカインを驚かせた事のみによる物ではない。
先ほどの族長さんの『ある発言』による物でもあるのだ。
『お前はまだこの世界に来て日が浅いから』……という族長さんの発言。
これはもはや、あのジュカインがぼくのジュカインである最大の証拠じゃあないか?
だって、ぼく達がこの世界に来たのは数時間前……この日のお昼過ぎぐらいなんだもの。
という事はつまりジュカインだってその時間にこの世界に来たはずだ。
人間の事なんて知らないに決まってるし、日が浅いなんてレベルじゃないくらいここへ来て日が浅い。
僅かな不安はすぐに消え去り、同時に希望も満ちてくる。
この森のトップである族長さんはぼくを追放するつもりは無いみたいだし、もうこりゃあ時間の問題だね。
……いや、族長さんを何とか説き伏せれば今すぐにでもジュカインを引き取れるかもしれない。
「……では、人間様」
族長さんはこちらへ向き直り、ぼくにこう問いかけた。
「話を……聞かせてもらえるかな。『記憶喪失』とは……『ぼくのジュカイン』とは一体どういう事なのかを」
きたきた!
ぼくは、あくまで冷静にジュカインの事を族長さんに話した。
あのジュカインが恐らくぼくのジュカインである事を。
あのジュカインは何らかの理由で記憶喪失になっているであろう事を。
族長さんは何度か頷きながら終始神妙な顔つきを崩さずぼくの話を聞いていた。
ぼくの話に何を思っているのかは知らないけれど、ちゃんと理解はしてくれているはずだ。
「……なるほど」
一通り話を終えると、族長さんはうむぅと深く唸り考え込むように腕を組み始める。
やたらと緊張感ある沈黙がしばらく挟まれてから、族長さんは口を開きこう言った。
「ここは少し野次馬が多い。ついてきてくれ、奥で話そう」
「え……奥で?」
一瞬以前の村でのハスブレロ村長との出来事が頭によぎるが、ぼくはすぐに頷いた。
この人はきっとあんな事はしない。根拠は全くといっていいほど無いけれど、子供の勘ってのはけっこう当たるものなんだ。
「おい、みんな。わしはこの人間様と二人きりで話す。しばらくここで、待っていてくれ。……さぁ、行こうか人間様」
族長さんはみんなに向かってそう呼びかけ、ぼくに向かって手で合図しながら森の奥へと歩を進め始めた。
それについていこうとすると、フライゴンが慌てたようにぼくに駆け寄ってくる。
「ちょ、ちょっと、コウイチくん!」
「ん? どしたの、フライゴン?」
「ひ、一人でいっちゃあ危ないですよ! もしも前の村のように閉じ込められちゃったら……!」
フライゴンは心底不安そうな目つきでぼくを見つめながらそう叫ぶ。
ぼくはフライゴンの肩に手を置き、安心させるように声を弾ませてこう言った。
「だいじょーぶっ! あの人はそんなことしそうにない雰囲気だし、
それに二度も同じ目に会う程ぼくは馬鹿じゃあないさ。
きっとうまく話つけてくるから、あのキモリ達と遊びながらここで待っててね!」
「……」
フライゴンはまだ顔に若干不安げな色を残したままだけど、大人しく引き下がってくれた。
ぼくはフライゴンにニコリと一度ほほえみかけ、一人族長さんの後をついて森の奥へと入っていった。
「さて、ここらでいいだろう」
キモリ達のざわめき一つ聞こえないくらい奥まで来てようやく、族長さんは足を止めた。
振り向きざまに族長さんはバツの悪そうな笑みを浮かべ、すまなそうにこう言った。
「すまんな、人間様。こんな所まで連れてきてしまってな……
あのキモリ達はやかましくてな……ジュカインを見つけた時もあの子達はうるさく騒いで、
ジュカインを相当困らせたものだ……きみも、小うるさいのは嫌いだろう」
「あ、はい……」
この場所移動はやはり、何てことはない族長さんの配慮に過ぎなかったんだ。
改めて安堵すると共に、もう一つ新たな疑問も生まれる。
「あのう、ちょっと一つ質問いいですか?」
「ん? なんだね」
「いま族長さんが言ってた、ジュカインを見つけた時のこと……詳しく教えてくれますか?」
「おお、分かった。確かあれは三日ほど前のことだったな……」
上を向き目をつぶり、ゆっくりと語り始める族長さん。だが、ぼくは語り始めからいきなり耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
「えっ! な、なんだね?」
突然突っ込まれて呆気に取られたのか族長さんは軽くどもっているが、ぼくは気にせず、すぐに疑問を投げかけた。
「いま、『三日ほど前』って言いましたね……あなた嘘ついてませんか?」
「……? いや、嘘なんてついているつもりは一つもないぞ。全て事実のことだ」
「え……?」
『それこそ嘘なんじゃあないですか』という言葉が一瞬喉から出掛かるが、ぼくはそれを喉の内にとどめる。
嘘を言っているようにも見えないし、何よりどう考えてもこんな所で嘘をつく必然性が全くないからだ。
だとするなら族長さんの言っている事は『本当』って事になるけれど……
もしそうなら、あのジュカインはぼくのじゃあなくて……
いや、いや、いや!
ぼくとフライゴンは『今日の』この世界に飛ばされたわけだけど、ジュカインは『三日前のこの世界』に飛ばされたってだけの話なんだ。
そもそもが非常識なこの世界。常識で物を考えちゃあいけない。
族長さんはぼくが黙り込んでしまったのを確認し、再び語り始めた。
「そう、三日ほど前のことだ。あれはお昼時だったかな……夕暮れ時だったかな……
発見したのはわしではなく、キモリ達だ。この私と同じ種族のモンスターが倒れているという知らせがあってな……」
そこまで言うと族長さんは数歩足を進め、そこの地面から突き出る石に手を添えた。
「この石の近くに、ジュカインは倒れていた。目を覚ましたジュカインは物を喋ることは出来たものの、
自分の事を何も知らなかった。どこから来たのかも、己の種族名すらも全て……」
「……ってことは、やっぱり……!」
「……ジュカインには頭を強く打っている後があった。何かの拍子に、
この石に頭をぶつけたんだろう。つまり、おそらく貴方の言う通りだ……」
「……!」
ぼくは表に出さずとも心中で歓喜の声を上げガッツポーズを取っていた。
もしかしたら少し顔に出てしまってるかもしれない。気づかれてたらイヤだなァ。
ここまで来たら、もはや全てが確実だっ。
「やっぱり、やっぱり、あのジュカインは元々ぼくので間違いはなさそうですねっ!!」
ずいと前に出て、そう叫ぶ。自然と声が弾む。
「ぼくもジュカインも、違う世界からこの世界へ飛んできて、
ぼくと連れのフライゴンってポケモンは、気がついたらある湖のほとりに倒れていました。
ジュカインも、気がついたらこの森に倒れていた。
つまりぼくらと同じで、ジュカインも『飛ばされてきた』ってことですっ!
こうなればもはや、あのジュカインがぼくのジュカインである事に一片の疑いもありません。
さぁ、ジュカインはこのぼくが引き取りましょう! いいですよねっ!?」
声を高らかに、ぼくは族長さんへ向けてそう言い切る。
……ぼくはその時、族長さんはすんなりと『いいですよ』との返事をくれると思っていたのだけれど……
なんと族長さんはぼくのその言葉に、ひどく目を迷いに揺らしながら何やら考え込み始めたのだ。
その反応に、ぼくはたまらず焦りを覚える。
……何を迷っているんだよっ、貴方の答えは一つでしょうっ!? さぁっ! さぁっ! さぁっ!
「すまぬが、ジュカインを引き取るのは……遠慮してくれないか……?」
「えっ……」
族長さんの冷たい宣告がぼくにのしかかった。
「いや……人間様には悪いとは思うのだが……
わしは、あのジュカインは『神の恵み』だと思っておる。あの凄まじい強さはまさに森の守り神となりうる……
竜騎士様の管轄外であるこの森は、もし先程のように魔王軍に襲われてはひとたまりも無いからな。
この森が、そしてわし達が無事でいるためにはあのジュカインが必要なのだ……」
「……」
族長さんの目は真剣そのもので、そう簡単に引いてくれそうもない雰囲気を醸し出している。
だけど、勿論ぼくだって引く気はない。ここで引いたらジュカインとぼくの関係は完全にお仕舞いだ。
「え、ええと――」
間隔を空けぬよう口を開き適当な事を唸りながら、族長さんの言葉への上手い反論を何とか考え出そうと、必死に脳をかき回す。
ふと天啓の如くある反論の芽が芽生え、ぼくはすぐにそれを口に出した。
「あの、さっきの魔王軍の奴らはぼくを狙ってここへ来たんです!
決してこの森や貴方達が目的で来た訳じゃあないんです。ええと、だからですねっ」
くそう、言ってる内に考えてる事がこんがらがって来ちゃう。
……こういう時は、『直前に言った事を確認するように問う』。そうやって時間を稼ぐんだ。
「魔王軍の奴ら、ぼく達が来る前にこの森に来た事はないでしょ?
だからその、安心ですよ。『守り神』なんて必要ないはずなんですっ!だからですね、そのっ」
すぐに言葉に詰まってしまう。次の『言い訳』がすぐには浮かんでこないよ。
「だ、だからですね……ええと、あの〜、その〜……」
もう適当に『あの〜』だの『その〜』だの唸って時間を稼ぐのも恥ずかしくなってくる。
そうやって必死に次の言葉を頭の中で模索する中、ぼくはふとこう口にしてしまった。
「だから、ジュカインはぼくに返して下さい、お願いします」
あちゃあ!! 言った瞬間思わずぼくはそう叫びそうになった。
言うに事欠いて、あまりにストレートすぎる物言い。建前というか『遠慮』って物がなっちゃいない言い草だ。
その失言を慌てて取り消そうともう一度口を開きかけた時……ある思考がぼくの頭の中で展開された。
『遠慮』?
……何で、何でぼくが『遠慮』なんてしなきゃあいけないんだ?
考えてもみれば、ジュカインは元から完全に『ぼくのモノ』だ。
あの族長さんには、いわば少し貸しているだけに過ぎないんだ。
それなのに、『何でぼくが遠慮しなきゃあいけないんだ』?
普通なら、どんな理由があろうと絶対的に遠慮しなきゃいけないのは族長さんの方だ。
だって、ジュカインは元から族長さんのものじゃあないんだもの。ジュカインは、ぼくのポケモンであってぼくのパートナーなんだもの。
今の族長さんが言ってる事は、例えばゲームソフトを借りて
『お前のセーブデータ消えちゃったからこのソフト俺がもらっていい? ねぇ、もらっていいかなあァァ〜〜
いいよねえェェ〜〜〜、お前のデータ消えちゃったんだしさあァァアアァァ〜〜〜〜』なんてぬかしてるような物だ。
そんな理屈通るか? そうだ、『遠慮』なんて一つも必要ないんだ! ジュカインは返してもらう!
「……そうだよ、まずぼくに引き下がる理由は、一つもないんだ」
ぼくはジッと強くまっすぐ族長さんを見据える。
族長さんのただでさえ迷いに揺れていた目が、一層迷いに揺れる。
ぼくは、畳み掛けるように声量を少し大きくして言った。
「遠慮してくれって言われて簡単に遠慮できるもんか。
なぜかって、ジュカインはそれ程ぼくにとって大切な存在だからです。
ジュカインは元々ぼくの仲間。家族って言っても差し支えは無いかもしれません。
だから、族長さんはジュカインをぼくから借りてるだけに過ぎないんです!」
そこまで言ってから一息つき、頭の中で言いたいことを整理しなおす。
少し失礼というか過激な物言いになってしまうかもしれないけれど、仕方が無い。
「分かりますよね? 借りた『物』は返すなんて常識中の常識じゃないですかっ。『生き物』でも同じでしょうっ!?
族長さんには悪いと思いますけど……族長さんこそ遠慮してくださいっ!」
そこまで言い終えても、ひたすら族長さんの目を真っ直ぐ見据える。
そのまま沈黙がしばらく続き、ようやく族長さんが口を開いた。
「証明が……ない」
支援
「えっ?」
ぼくは思わず感嘆符を漏らしてしまう。
この族長さん、何が言いたいっていうんだ……?
「確かに君の言う通り、あのジュカインを借りてる身のわしが『遠慮してくれ』なんて言うのはふてぶてしいと思うよ……
魔王軍がこの森で騒ぎを起こしたのも、確かに今日がほぼ初めてと言っていい。
だが、そもそもわし達は君達が来るまであのジュカインを借り者である事すら知らなかったのだ。
そして、こうして君が現れた今でさえ『ジュカインが君からの借り者であるれっきとした証明がない』。」
迷った目つきのまま、ひどく自信の無い低いトーンでそう告げる族長さん。
『証明がない』だって? 確かにジュカインは今記憶喪失になってるわけだけれど、証明がないから返さないなんてそんな――
思わずぼくは少し怒って大声を上げかけたが、それよりも先に族長さんは今までより語調を強めこう言った。
「その『れっきとした証明』が出来たのならばっ!! ジュカインを君に返すと約束しようっ!!」
「!」
族長さんは、真っ直ぐとぼくの目を見据えている。
その目には、少し前まであった迷いは幾許か消えていた。
『れっきとした証明が出来たのならば』……つまり、『ジュカインの記憶が戻ったら返す』ということか?
「で、でも……」
思わず反論をしようと口を開いてしまうぼく。自分でも何を言おうとして口を開いたかはよく分からない。
言葉として表現しにくい心中のモヤモヤをどうにか言葉にしようと頭を動かしていると……
「そりゃあいい案だぜ、族長!」
突如、沈黙を割って彼の声が聞こえた。
声のした方向へ目を向けると、その方向にあった木の合間から……彼が姿を現した。
「ジュ、ジュカイン!!」
「わけ分かんねぇガキにわけ分かんねぇまま連れ回されるなんてイヤだからな。
全くもっていい案だぜ族長。お前もそう思うだろ、人間さんよっ! カッハハー!」
愉快そうに高笑いを上げながら、ジュカインはこちらへやってきた。
「ジュカインよ、聞いていたのか?」
族長さんもジュカインの出現に少し驚いているみたいだ。
ジュカインは族長さんのその問いには答えないまま、こう言い出した。
「そして、このままそのわけ分かんねぇガキにずっとここに居座られて、
身に覚えのないことを耳元で毎日毎日聞かされても困る……
よって、この案には『期間』を設けさせてもらうぜ、人間さんよ」
「『期間』だって?」
ジュカインは変な笑みを浮かべながら、ぼくと族長さんを互いに見交わしている。
期間って事はつまり……ぼくはたまらずジュカインに問う。
「期間って事は、つまりその期間内にきみの記憶が戻らなかったらぼくを森から追い出す……ってこと?」
「そっ、そーいう事さ。で、その『期間』もどんくらいかこのオレが決めさせてもらうぜ……いいよな、人間さんよ?」
「えっ……う、うん……」
流されるようにぼくがそう承諾してしまうと、ジュカインは一度ひどく意地悪そうな笑みを浮かべ……こう言った。
「明日の朝までだっ。
明日の朝までオレの記憶が戻らなかったら、お前は即・刻・追・放っ!!」
「えっ!?」
ジュカインの出したその『期間』の程に、ぼくは咄嗟に声を上げていた。
『明日の朝』!? もうほとんどすぐの事じゃないか!
「ちょ、ちょっと待ってよ! 明日の朝なんて!
寝て起きたらすぐじゃないか、それじゃあ期間なんて無いのと同じじゃないか!」
ぼくが慌ててそう訴えると、ジュカインは悪戯めいた笑みを浮かべながらこちらへ顔をズイと近づけ、声を張り上げた。
支援
「何だお前、オレに文句言うってのか!?
これは完全に『オレの問題』だ。オレがどんな条件つけようと構やしねぇだろう?
そもそもこの時点で、オレとしては都合のいい条件飲みまくってんだ。
本当なら『今から一分以内』って言っていい所を、あえて『明日の朝』までに抑えてやってるんだぜ!
ここは逆に感謝すべき所だろうよ!? カハハハーーッ!!」
言い終えてから、ジュカインは心底愉快そうに高笑いしだした。
……記憶が喪失している当人とは思えない言い草だ。
だけど、ぼくは何も言い返せない。
族長さんはまた迷ったように目を泳がせているが、何も言うつもりは無いようだ。
「クケケッ、俺がちいっとでもお前のことを思い出したら約束通りお前についてってやるさ……
まっ、んな事あり得ないってのはこの俺自身が一番よく分かってる事だがな……
だいったい、『ぼくのもの』だの『貸す』だの『返す』だのオレをモノ扱いしてんじゃねーよ、カハハーッ!」
ジュカインはまた愉快げに笑い声を上げながら、踵を返し木の奥へ消えていった。
……辺りに静寂が戻ってきた。
「……人間様」
族長さんは立ち上がり、ぼくの肩にそっと手をやってきた。
「……すまない、本当に……だが、わしを恨まないでくれ。
とりあえず今日はこの森で夜を過ごしてくれ。寝床はいくらでもあるから……」
すまなさそうに眉根を顰め、気を遣うようにそう言う族長さん。
だけど、ぼくはその言葉に反応を返せないほどに今衝撃を受けていた。
……胸の内に悲しいような悔しいような……不思議な感覚がもやもやと渦巻いて止まらない。
喪失感と似ているけど、また少し違った感覚。言葉では表現しにくい。
あのジュカインは、間違いなく『ぼく』のジュカインなんだ!それなのに……
つづく
乙です
乙ー
記憶どうやって戻すつもりなんだろうこりゃ
ここまでシリアスな流れになっちゃったから、
適当にコケて頭ぶつける→記憶戻る→大団円
っていう手っ取り早いパターンの線が消えちゃったじゃないかw
GJ!
言い忘れましたが、明日も今日と同じ時間に投下しまーす
オオカマド博士の濡れ場を希望
ぼくは多量の不安を残したまま、族長さんと一緒にフライゴン達がいる場所に戻ってきた。
フライゴンとキモリ達は仲良くなったのか、何やら盛り上がっている。
「あっ、人間様と族長様だー」
「二人ともおかえりなさいー」
「コウイチくん! あと、族長さん、おかえりなさーい」
何匹かのキモリがぼくらを笑顔で出迎え、フライゴンは何かモグモグと食べながら
なぜだかホッとした風な笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
「いやぁ、遅いから心配しましたよー! 前の村みたいにまた捕まって閉じ込められてやしないかと、
ちょっとソワソワしちゃってました……えへへ、いらない心配でしたかねっ」
「あ、うん……何ともなかったよ」
……何ともなかったと言えば嘘になるけど、フライゴンの笑顔はあまり崩したくないのであえて嘘をついておく。
ジュカインの事を言うのは、もう少し後でいいだろう。
「ところで、聞いてくださいよコウイチくん! ボクここの子達と仲良くなったんですけどねー、
面白い特技持ってる子がいるんですよ。ホラ、モリくんコウイチくんにきみの特技見せてあげてっ」
「任せろ! ほれコウイチくんとやら、オレの技を見て驚けー!」
モリくんと呼ばれたキモリは近くの木に足の平をくっつけたと思うと
そのままの状態で突然ブランと上体を寝かせ、そのまま勢いよく、まるで忍者か何かのように木を垂直に走り出した。
同時にキモリ達の間から歓声やら拍手やらが巻き起こる。
「よっ、と」
モリくんは足を木に貼り付けたまま木の枝から何かを取ると、ぼくに向かってそれをひょいと放り投げた。
「うわ、わ」
慌ててキャッチすると、野球のボールみたいな随分と固い感触が手の平を走る。
じっと見つめてその物体の正体を確かめようとすると、木の上からモリくんの声が降ってきた。
「コウイチくんとやらー! それ、ここらの木にたっぷり生えてるラムの実って言う果物で、
殻は固いけどとっても美味しいんだ、よかったら食べておくれー!」
「は、はあ……」
どうやら果物のプレゼントだったみたいだ。
フライゴンのやつ、何か食べると思ったらこの木の実を食べていたのか。
……モリくんの気遣いは嬉しいのだけれど何となく食べる気になれない。
ぼくがじいっと手の上の木の実を見つめ続けていると、フライゴンがニコニコしながら話しかけてきた。
「ねっ、カッコいいでしょ!? 彼、みんなからザ・NINJAって呼ばれてるみたいで……
……って、コウイチくん……何かーその、リアクション薄くないですか……?」
「え? あ、ああ、す、凄いねっ!」
すっかり忘れていたリアクションを慌てて取ると、随分と演技っぽくなってしまう。
……いや、実際演技なんだ。ジュカインの件のせいか、どうも騒いだり感動したりする気になれない。
と、そんなぼくの心情を見透かしたようにフライゴンはこう問いかけた。
「あのう、何だか全然元気ないみたいですけど……どうしたんですか? 族長さんと何か、あったんですか……?」
ぼくの顔を覗き込み、心配そうな目でじぃっと見つめるフライゴン。
「……」
ぼくは少しためらいながらも、先ほどの族長さんとジュカインとの話の内容をフライゴンに聞かせた。
「そんな……それってちょっと『無理』じゃあないですかっ!」
ぼくが全て言い終えると、フライゴンはたまらずそう言っていた。
「無理っていうか……難しいかな」
この夜から明日の朝まで、わずかな時間でジュカインの記憶を戻すなんてとても難しいことだ。
いや難しいっていうか、確かにフライゴンの言う通り『無理』かもしれない。
「まったくジュカインのやつっ! あいつ本当に性格悪いですねっ!
なんにも覚えてないからって、ズケズケとコウイチくんにひどい事を……」
「いや、でも……確かに仕方ないことだよ。
ぼくだって突然見知らぬ人に連れて行かれそうになったら怖いもの。」
「んー、まぁ確かにそうですけどさー……でも、だからってジュカインのやつ……ん?」
と、フライゴンはそこまで言ってから一旦言葉を止め、ふとキョロキョロと辺りを見回しだした。
「っていうか、『そのジュカインは』……?」
そう呟きながら辺りを見回し続けるフライゴン。
ぼくはフライゴンはジュカインを探していることに気づき、同時にジュカインが辺りにいない事にも気づく。
「そういえば見当たらないね、ジュカイン」
「ええ、どこにいったんでしょうかね……さっきコウイチくんと族長さんが行ってからすぐどっか行って……
それっきりですよっ! 戻ってくる気配ありませんし、いつの間にか戻ってたーって事もないようですし。見た限りですけど……」
『ジュカインが戻っていない』。ジュカインは、ぼくと族長さんよりも早くこちらへ戻ってきた筈なのに『いない』だなんて……
どこへ行ったんだろう。おしっこでもしに行ったのかな……いや、こんなに遅いんだから大きい方か……
……
まさか
ふと、ぼくの頭にある恐ろしい予測が浮かんだ。
「ねぇ、フライゴン聞いて。今ふと、ちょっとしたある予測が浮かんできたんだけど……
例えばの話……うん、あくまで例えばの話なんだけれどね」
「はい? 予測……ですか〜〜」
フライゴンがぼくに顔を近づける。
ぼくもフライゴンに顔を近づけ、よく聞き取れるようにゆっくりとその『予測』を話し始めた。
「もし……ジュカインがハナっから記憶戻るか戻らないかなんて賭け、受けるつもりなんてないとしたら?
記憶が戻っちゃう事を恐れて……あるいは、ぼく達をからかうために、
ジュカインがこのまま明日の朝までこっちに戻ってこないとしたら?
要するに……ジュカインがこの晩だけ『逃げてた』としたら?」
「……はい?」
ぼくの長々とした予測を聞いて、呆けたような顔を浮かべるフライゴン。
しかし、その表情はみるみると焦りの色に染まっていく。
フライゴンはついに完全に把握したように、こう叫びだした。
「……ま、まさかっ、そんなっ! ジュ、ジュカインのやつ……!」
フライゴンは怒ったような表情を浮かべたと思うと、いきなり羽をはためかせ宙に浮き始めた。
ラジコンヘリの駆動音のような羽ばたきの音が森に響き始め、キモリ達の視線が一斉にこちらに集まる。
「ちょ、フ、フライゴン、どうしたの?」
相当に気が立っているのか鼻息を随分と荒くさせながら、フライゴンはこう答える。
「もちろん、ジュカインを探しに行くんですよ! とっ捕まえてビンタでもして無理やり記憶戻してやるっ」
「だ、だから例えばの話って最初言ったじゃないかぁ、落ち着いてよっ!」
フライゴンはぼくのその言葉を聞かずに、体を前に倒し飛行を始めた。
……全くその瞬間の事だ。
「たぁだいまァ〜〜〜」
「!?」
急に、辺りに聞き覚えのある声が響き渡った。
その声が誰のものであるかすぐに理解し、そしてぼくはほっと安堵する。
声の方向を向き、声の主を確認する。やはりジュカインだった。
どこに行っていたかは知らないけど、逃げたわけではなかったんだ。
「おっ、ジュカインさんおかえりー」
「ジュカインさん、どこ行ってたのー?」
「ジュカインさーん」
キモリ達や、木の上に登っていたモリくんも木から飛び降りて、ジュカインへ駆け寄っていく。
ジュカインはキモリ達の頭をあやすように撫でながら、ゆっくりぼく達の方へ近づいてきた。
「ジュ、ジュカイン……!」
フライゴンはすんなり帰ってきたのが意外だったのか、ジュカインを睨み付けだした。
「カハッ、何だい何だい、俺が逃げるとでも思ったかい?
カハハッ、失礼な奴だなァ〜〜。オレはそんな薄情なヤツじゃねえぜ!」
ジュカインは神経を逆なでするように眉根を寄せ口元に笑みを浮かべている。
苛立った様にフライゴンが 「ゔ〜〜〜っ」 と低く唸りだす。今にも突っかかりそうな勢いだ。
変にトラブル起こさないように、ぼくは咄嗟にフライゴンを宥めた。
「ま、まぁよかったよとにかく戻ってきて。それに越したことはないよ。だから怒らないで……ね?」
「そ、それはそうですけどね……む゙〜〜〜っ」
どこか納得行かないようだけれど、とにかくフライゴンは肩の力を抜き怒りを納めた。
ほっと一息つくと共に、ふとある疑問がぼくの頭に浮かぶ。
ジュカインは今までどこへ行っていたのか?
そしてその疑問が浮かんだ直後、ジュカインが手で何かを引きずっている事にもぼくは気づいた。
……大量の、網?
ジュカインは、黒い幾重にも重なった網を片手で引きずっている。
今までしばらく姿を消していたのは、どこかにこの網を取りに行っていたからなのだろうか。
……それで、この網は何のために持っているのだろう。何かに使うために持っているのだろうか?
まさかこれから海行って地引き網でもするってワケはないし。
「ねぇ、ジュカイン。この網……」
「ああ、この網か? ……寝るのに使うんだよ」
「寝るのに使う? ……網を?」
『網を寝る事に使う』……ぼくはすぐさまピンと来た。
こんな深い森の中で、網を寝ることに使うといったら『あれ』だろう。
ぼくは実際に使ったことはないけれど、テレビや本で何度か使っているのを見たことがある。
ジュカインはどこか曰くありげな笑みを浮かべながら、話を続けだした。
「そう、俺たちは何も地べたに眠るってわけじゃあないんだ。土くれや小さい虫が背中についちまったら気持ち悪いだろーよ。
このでっかい網を木と木の間にくくりつけて、めくり広げる。そしたらあっという間に快適就寝具が完成さ。
『ハンモック』っつーんだけどさ、それを作るためにこれ持ってきたってワケ。
……おおい、みんなー! 網持ってきたから、ちゃちゃっとハンモック作ってさっさと寝ようぜっ!!」
ジュカインは網の事を語り終えると、周りのキモリ達にそう呼びかけ始めた。
……
ちょっと待て、いま『コイツ』何て言った?
「そういえばもうそんな時間かー」
「お空はもう灰色時だもの。いつまでも夜遅く騒いでると森に怒られちゃうよっ」
「よーし、用意だ用意だー」
キモリ達が近寄ってくる。ジュカインは一匹一匹に網を手渡していく。
キモリたちは、それぞれ網を木にくくりつける作業を始め出した。
今日を終わらせようと、各々寝床を作る作業を始めている。
そして、今ジュカインも網の一端を木にくくりつけハンモックを作ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!」
ぼくは慌ててジュカインに駆け寄り、ハンモックを作る作業を止めるように腕を掴んだ。
ジュカインは、寝るつもりだって言うのか?
寝てしまって……『今日を終わらせようというのか』?
やっぱり逃げるつもりだったんだ。記憶戻るか戻らないかの『賭け』なんて受けるつもりなかったんだ。
ぼくがジュカインを睨みつけていると、ジュカインは浅いため息をつきながら言った。
「……何だい何だい。眠るなとでも言いたいのかい? ええ?」
「そ、そうだよ! 『明日の朝』までって言ったのは誰だよ、眠るなんて卑怯だよ!」
「カハハ、卑怯も何も……オレは眠いんだ。お前も眠いだろ?
オレ達この森の民族の間にはな、空がねずみ色になったら眠るってしきたりがあるんだ。見てみろよ、空を」
ぼくはバッと空を見上げる。無数の葉っぱの奥には一片の青もないくすんだ灰色の空だけが広がっている。
ふと、こめかみから一筋の冷や汗。
胸の奥から、ざわざわと焦りが……不安が……込み上げてくる。
……しきたり……眠る……明日の朝までジュカインの記憶が戻らなかったら……追放……即刻……!
「ジュ、ジュカイン!!」
「あん?」
どこか小気味よさそうな半笑いを浮かべたまま、ジュカインはそう返事する。
ぼくは真っ直ぐそのジュカインの肩を掴み、焦りのままに必死に訴えかけた。
「お、思い出してよォ!! ほら、何年間もぼく達一緒だったじゃないかっ!!
きみがまだキモリの頃から、ずっとずっとずっと嬉しいときは喜び合って悲しいときは泣き合って一緒に生きてきたじゃあないかっ!?
助け合ったこと励まし合ったこと何もなンにも覚えてないのかよォ、ジュカイン!! ねぇジュカイィン!?
思い出してよ、思い出してくれよォ!! ぼくの顔を見て、フライゴンの顔を見て、思い出せェっ!!」
その声は、自分自身でも信じられないくらいに焦りに満ちている。
当然だ、ここでジュカインの記憶が何一つ戻らなかったら、ぼくらは……!
胸のうちに不安を秘め、目には期待を込め、ぼくはジュカインを真っ直ぐ見つめる。まっすぐ、まっすぐっ。
……ジュカインは半笑いの表情のまま、ぼくとフライゴンの顔を見交わし……フッと鼻で笑いこう言った。
「さぁ……? 何一つ身に覚えがないねぇ?」
「ぐっ……!」
焦燥感が、胸を炙り始める。それにより、びちゃびちゃと溢れ出してくる不安。不安。
なんでっ、なんでっ……どうすればっ、どうすればっ!!
ぼくは必死に思考を巡らせる。どうやれば記憶が戻る、どうやれば思い出させられる。
……そうだ、何か思い出の品があればっ! ぼくとジュカインとの思い出の品……あっ!
ぼくはふと閃き、胸ポケットに入れてあるトレーナーカードから一つバッジを取り出し、ジュカインの前に突きつけた。
「ほ、ほら、これを見て!! ノボセシティジムの牧島カレンさんを倒して手に入れたフェヌバッジだっ!!
これを手に入れられたのは、あの人に勝てたのは、全部きみのおかげだったね。
きみが頑張って踏ん張って戦い抜いてくれたおかげで、このバッジは手に入ったんだっ!!
ねぇ、これに何の見覚えもないのっ!? せめて、こう、何か少しは感じるものがあるだろうっ!? ねェっ!?」
震える指でしっかりフェヌバッジを掴みながら、ジュカインに見せ付ける。
これで、きっと思いだすっ、きっと思い出してくれるっ!
きっと……! きっと……!
「う……うぐぅ〜〜〜」
……!?
……なんとその願いが通じたのか、ジュカインは突如俯き、何か唸り声を上げだした!
頭を抱えて、苦しそうに……さも、『何かを思い出していく』かのように……!
ジュカイン……!
「ジュ、ジュカイン!? なっ、何か思い出しているのっ!?」
ぼくがそう言うと、ジュカインは唸るのを止めてゆっくりと顔を上げた。
ジュカインはじぃっとぼくを見つめだす。目が覚めたときのようにどこか呆けた顔つきでじいっと、じいっと……
……沈黙。
……そして。
「はてェ〜〜〜ッ!? オレにはそんなバッジッ!! ぜんっ!! ぜんっ!! 見覚えがございませェーーーーんッ!!」
「えっ」
返ってきた答えは、ぼくの期待していた答えとは全く真逆のものだった。
そして、そう言ったジュカインの表情には笑みが満ちている。『完全に人を馬鹿にしたかのような笑み』……
……あの『何かを思い出していく』かのような行動は、全て演技だったんだ。
ぼくを虚仮にするための、演技だったんだ。
「あっ、あああぁぁっ」
腑抜けた声が、勝手に喉から搾り出される。
急に体から力が抜けていくような感覚に襲われ、ぼくは思わず膝を付きそうになる……
……が、ぼくは何とか踏みとどまった。
地にしっかりと足をつけ、まっすぐジュカインの顔を見据える。
「……クケケッ、どうしたんだよ人間サマ?」
「……」
……まだ諦めちゃいけない、だから諦めるなっ、ぼくっ
……そうだ。どんな時だって、諦めなければ必ず活路が生まれるっ……!
何とか心中で自分を励ましながら、再びぼくは思案を巡らせる。
そう、思い出の品だっ。何か、思い出の品っ……
記憶を辿る。ジュカインとの思い出から、ジュプトルとの思い出へ。
ジュプトルとの思い出から、キモリとの思い出へ、そして出会いの思い出――
――『視覚』で通じないなら――
その瞬間、また一つある閃き。
「ジュカイン……初めてぼくがきみを見つけたとき、きみはすごく飢えていたよね」
心を落ち着かせ、ジュカインを見つめながらぼくはゆっくりとそう言う。
「あぁ?」
笑みを表情から消し、不機嫌そうに言うジュカイン。
ぼくはポケットをまさぐり、いまからジュカインにやろうとしている思い出の品……
それが詰まった、『ポフィンケース』を取り出した。
「……?」
ジュカインはそのポフィンケースを見て、疑問めいた表情を浮かべる。
ぼくはポフィンケースからドギつい『赤色のポフィン』を取り出し手の平に乗せ、そのジュカインに向かって差し出した。
「赤くて、辛いポフィン……これは、その時きみにあげたお菓子だ。
その時きみは、このお菓子を嬉しそうに食べてくれたね……その表情、ぼくはよく覚えている。」
「……」
ぼくはそう言ってからちょっとだけ目を瞑って、当時のことを思い出してみた。
凶暴な野生のポケモンだらけのある裏山……そこに一匹場違いな、傷だらけのキモリがいた。
キモリは傷だらけなばかりか、痩せこけて衰弱していて……ほとんど死に掛けていたっけな。
そのキモリにぼくは、この赤いポフィンをあげたんだ。その時のキモリの嬉しそうな食べ方、その後の満足そうな表情、よく覚えている。
だからきっとこの赤いポフィンの味は、ジュカインの心に深く深く焼きついているに違いない。
だからこのポフィンを食べさせれば、多少なりともジュカインの記憶は――戻るはずだっ
「サァ、食べてジュカインっ……! これを食べれば、きっと思い出すよ……!」
ぼくはそう言って、ジュカインへ軽くほほえみかける。
ジュカインはおずおずと、ぼくの手の平の上のポフィンに手を伸ばした。
これで……きっと思い出してくれる……!
パシッ
「あっ」
一瞬、時間が止まったかのようだった。
ジュカインは、ぼくの手の平の上のポフィンを手で弾き飛ばしたんだ。
「のヤロォ……」
ジュカインは苛立ったように唸りながら、床に落ちたポフィンの元へ近寄り……ポフィンを踏み潰した。
そのままぐちゃぐちゃと踏みにじり……そして吐き捨てるように、ぼくに向かってこう言った。
「いい加減にしろよ、テメェ……!」
「――っ」
あまりの衝撃に、ぼくは言葉さえも出なかった。
そのジュカインの表情には、あの悪戯めいた笑みさえも、ない。
……怒っている……? ……本気で……?
「いい加減にするのはどっちだッ!?」
「!!」
「!?」
不意にそう叫んだのは、フライゴンだった。
そして彼の目は、明らかな怒りの色に染まっていた。
「黙って見てたけど、何もそこまでする必要はないんじゃあないかっ!?
演技してまで虚仮にしたり、お菓子弾き飛ばして踏みにじったり……何でなんだよっ!!」
鼻息を荒げズカズカとジュカイン詰め寄りながら、激しくそう問いただすフライゴン。
……その問いにジュカインはニィッと気持ち悪いくらいに口を歪めたと思うと、高笑い交じりにこう言い放った。
「お前らをコケにするために決まってんだろォーがよバーーーカッ!! カハハ、カッハハハーーー!!」
「……!! ジュカイン……ジュカイン、ジュカイン、ジュカイィンッ!!」
ジュカインのその言葉にフライゴンの怒りはついに沸点を迎えたのか、
フライゴンは咄嗟に手を振り上げ、ぼくが静止の一声を上げる間もなく
怒りのままにジュカインへ向かってその手を振り下ろした。
何をやっているんだ――
「フ、フライゴン!!」
バシッ!!
「……うっ……」
フライゴンがジュカインへ向けて振り下ろした手は、ジュカイン自身の手によって止められていた。
「……なんだい、いきなり暴力振るうこたねぇだろう、暴力はよ……
何事もすぐに暴力に訴えるってのはさ、野蛮で下品なクソ野郎って言うんだよな……ええ? おい」
およそ今までの人を虚仮にしたような調子でなく、怒りを押し殺したような口調でジュカインはそう呟く。
そしてジュカインは乱暴にフライゴンの手を振り解くと、声を荒げてこう言った。
「このクソボケ共がァっ!!」
「勘違いするなっ、本当ならぶん殴ってやりてぇのはこのオレだッ!! お前らじゃあなく、このオレだッ!!
お前らをぶん殴って、けっ飛ばして、この森から強引に追い出してやりてぇ所をこのオレは我慢してやってんだよッ!!
オレはこの森での生活が気に入ってるんだッ!! この森が大好きなんだッ!! ずっとこの森で大人しく生活していたいんだッ!!
それをお前らはいきなり現れて、ズケズケズケズケ図々しく踏み込んでぶち壊しにかかってきやあがるッ!!
元々はぼくのジュカイン? 『元々は』? んな事オレが知るかっ、クソッ! クソッ、クソッ、クソッ!! クソガキどもがァッ!!!」
ジュカインは今まで押し殺していた『怒り』を発散するように、罵声を吐きながら土を蹴っている。
「例え記憶喪失だったとして、それがどーかしたのかよって話だ。んなこたオレにゃ関係ない。以前の記憶なんて一つも興味はない。
いいか、『今のオレが今のオレだ』ッ!!! 分かるかっ、このクソボケどもめッ!!!」
ジュカインはぼくらを指差し、力を込めてそう言い切った。
それに対しフライゴンは何か言い返そうと口を開ける――が、すぐにむぐむぐと口を噤んでしまった。
フライゴンも『理解』したのだろう。
――ジュカインは怒っている。冗談や虚仮なんかじゃあなく、本気でぼくらに対して怒っている。
それでなければ、こんな怒号は出せない。それでなければ、あんな目の色を出せるわけが無い。
ぼく、今までは全然分からなかったけど……『ジュカインはぼくの元へ戻ってきて当然』
なんて根拠の無い思い込みをしていたから、全然分からなかったけど……
彼の本気の怒号を真に受けた今、ぼくはようやく理解した。
今の彼にとって……どれだけぼくらが迷惑で邪魔でうざったいかが!
『記憶が戻るかも』なんてちっぽけな望みのみでベタベタひっついて、
挙句の果てに非難まで始めるぼくらが……どれだけ迷惑でっ! 邪魔でっ! うざったいかがっ!
あのジュカインが元々ぼくのジュカインである事に変わりは無い。
だからこそ……もうぼくらは身を引くべきなのだろうか?
いいや、彼のことを思うのならばもはや身を引くしかないのだろう。『記憶は戻らない』。
……でも……
「お、おいおい、よせジュカイン」
ジュカインの怒号に慌てた族長さんや数匹のキモリがこちらへ駆け寄ってくる。
「はんっ、慌てんなお前ら。何でもねぇって……」
ジュカインは小さくため息をつきながら駆け寄ってくる族長さんに静止を入れると、
出来上がったハンモックに飛び込みゴロンと寝転がってしまった。
「おい、人間と緑色。網ならあるから、お前らも寝ろ!
森の空気やにおいを感じながら眠れば、ぜんぶ忘れて朝までグッスリ眠れるさ」
ジュカインはそう言い終えると同時に、寝返りを打ちそっぽを向いてしまう。
ぼくはジュカインの背中を見つめながら、少しうなだれていた。
そんなぼくの背中をフライゴンがポンと叩く。
「……コウイチくん」
「…………」
ぼくは網を拾い上げ、無言で寝床を作る作業を始めた。
十数分後には、森の住民達はもう全員ハンモックの上に横たわっていた。ぼくやフライゴンも含めて、だ。
空を塗りつぶしているような木の枝葉の隙間から少しだけ覗く夜空には、
星々が無整列にたくさん並んで、それぞれ異なった輝き方を見せている。空がきれいな証拠だ。
そんな森の夜空を見つめながら、静寂の中たまにやってくる夜のすずしい風、その風に運ばれてくる草木や土のにおい、
葉っぱが擦れる耳心地いい音などを感じていると、まるで赤ちゃんのようにすぐにでも眠りについてしまいそうだ。
……普段ならば、この甘い眠気に迷い無く身を任せるところだけれど、
今は眠るのが惜しい。いや、正確に言えば……朝を迎えるのが、惜しい。
「……ねぇ、コウイチくん。 ……起きてますか?」
ふと、隣のハンモックに横たわっているフライゴンが声をかけてきた。
「うん、起きてるよー……なぁに? フライゴン」
ゴロンと転がり、フライゴンと目を合わせる。
フライゴンは神妙な顔つきをしながら、呟くようにぼくに向けてこう問いかけた。
「やっぱり……諦めますか? ジュカインは……」
……時が止まったような沈黙が数秒、場を支配する。
ぼくは、まるで囁くような声量でこう答えた。
「冗談じゃあ、ない。ぼくは、絶対諦めたく、ないっ」
ぼくのその一言に、フライゴンは意外だという風に目を見開く。
次の瞬間から、ぼくはほぼ無意識のまま恨み言のように言葉を垂れ流していた。
「冗談じゃない……じょ、冗談じゃあないぞ……! 誰が、だ、誰が、諦められるもんか……!!
でも……クソッ、クソックソッ……クソッ……ふざけるなクソがっ、クソクソクソクソクソクソ、クソォォォォォォ」
そう呟くぼくの声は震えている。ああ、ぼくはいま苛立っているんだ。神経に来ているんだ。
こんなバカみたいに汚い言葉が、下品な言葉が、口から自然に漏れ出てきてしまう程に。
頭の脇に寝転がせていたはずの手が、自然と頭を掻き毟りだす。幾度も、激しく、だ。
別にかゆいから掻いているんじゃあない。それなのに、いっぺん頭を掻き毟りだすと夢中になって止められない。
なぜだか頭を掻き毟っている間だけは、どこか苛立ちが薄らいでいくような気がするからだ。
……いわゆる現実逃避ってやつだ。
同時にその行為は、どうあっても逃げる事の出来ない現実に直面しているのを自覚している事の表れでもあるのだ。
……現実からかけ離れているはずのこんな世界の中で、どうして逃げることの出来ないような――
逃げ出してしまいたいような『現実』に悩まされなけりゃいけないんだろう。
不思議でたまらなかった。不思議でたまらないから、ぼくは頭を掻き毟るんだ。何度も、何度も何度も何度も。
……しかし、いつもはカラクリ仕掛けのようにいつまでもいつまでも続けてしまうこの『癖』は、今日は存外早くに治まってくれた。
それは激しい『眠気』のためだった。まるで『催眠術』でもかけられたかのような異常な眠気が……突然ぼくらを襲ったのだ。
それによりぼくもフライゴンも瞼を鉛のように重くさせ……すぐに深い眠りについてしまった。
眠り行く寸前に森の奥に見えた、『二つの光』の事をも忘れ、深い眠りへ……
つづく
なんかもう、いつも長くて本当にゴメンナサイ……
次回は金曜日の6時半からです。
乙!
すごい展開になってきたな…もうどうしようもなくね?
乙乙ー
がんばってくれー
249 :
名無しさん、君に決めた!:2007/12/04(火) 21:51:56 ID:QbK4LDga
ジュカインむかつかね?
やってることが非道
だってそういうキャラだろうから
そんな風に感じさせられる
>>1はガチで凄いと思う
牧島カレンってマキシマム仮面のことかwww
シリアスな場面に変なの織り交ぜんなwww
>>251 確かにそうだな
まあいずれ記憶戻ったらデレるんだろうけど
これ才能の無駄遣いだろw
絶対ポケ板向きじゃない。
オオカマド博士のキモさと、牧島カレンのネーミングセンスが光るなw
ところでこれ、かなり大長編になるんだよな?
敵の部隊が16もあって、飛鳥部隊だけでも主要キャラが5人もいる。
このままいくと魔王+部隊長+副部隊長+三幹部で81匹。
ヨルノズクと同等以上の敵がこれだけいるとなると恐ろしいな。
まぁ、すべての部隊が登場するのかはまだ分からないし、
幹部の数がもっと少ないという可能性もある訳だけど。
とにかく、これからの展開に期待!
部隊が16個ってことは、ドラゴン以外のタイプ16個それぞれの部隊か
>>1のやる気次第だろうが、確実に半分以上はソードマスターヤマト的に処分されるだろw
オオカマド博士の
”お断りです”
は原作では
”死んでもお断りです”
だったんだよなー
オオカマドは間違いなくコウイチくんの貞操を狙ってる
当分出ないだろうけど、魔王と四天王は誰なんだろう?
イメージ的には魔王はダークライっぽいけど。
何であろうが俺が読めりゃそれでいい
ドラポケスレに宣伝した奴いるみたいだが宣伝はやめろよな。
荒れる元になるし
>>1に迷惑かかるだけだから。
すいませんでした
四天王はゲンガー、フーディン、カイリキー、ゴローニャだと予想する
カイリキーとゴローニャだとキャラ被る気もする
まぁ、49氏ならそこら辺は大丈夫だとおも
いいえ、それは48氏です。
この小説に限ったことではないが、ゴローニャはネタ的な活躍しか期待できないw
待ってたぜ…投下今日だよなwktk
午後6時半からだろう
いままでそんくらいの時間に投下されてたし
48氏の愛読書はまちがいなくジョジョ
「はっ。」
ぼくは、ふと目を覚ました。
……静寂の中、時計の秒針が刻む音だけが部屋に響いている。
まだ意識が薄ぼんやりとしている中、ぼくは何とはなしにキョロキョロと辺りを見回してみた。
自分の部屋ではない。質素な装飾に、窓の外から見える広大な大海原。
ぼくを乗せている大きなベッドの布団には、大きいモンスターボールの形のマークが描かれている
そうだ、ここはナグサシティのポケモンセンター三階の宿舎。
ポケモンリーグへ挑戦しに行kのは夜より朝がいいと思い、ここに泊まっていたのだ。
「おンっはよ〜〜! 目が覚めたかい? コウイチ〜〜。」
部屋と廊下を隔てるドアの奥から、叩くようなノックと同時にハイテンションな声が聞こえる。
ぼくはその声に半ば起こされるようにベッドから起き上がり、ドアの鍵を開けた。
扉が開き、ぼくの親友の顔が現れる。ミキヒサだ。
「今日もさわやかな朝だねぇ〜〜〜。うっふっふ、ポケモンマスター日和っていうかさぁ〜〜〜。」
やたらと満足げな顔をしながら、クネクネと体をくねらすミキヒサ。
その様子を見ただけで、今朝彼に何か幸運なことがあったであろうことは容易に察しがつく。
「ねーねー、ミキヒサ何かいい事でもあったの?」
ぼくがそう言うと、ミキヒサは待ってましたとばかりに顔を半笑いにゆがめた。
「ん〜〜〜? にっひひ〜〜、よく聞いてくれましたっ!
ジャジャジャーン! これ見てーーっ!!」
ミキヒサは元気よく叫びながら胸のトレーナーカードを開いtぼくに見せつけてきた。
中には8つの輝き。8つつのジムバッヂ……
「あれ?ミキヒサこの8つめのバッヂ……」
「そうそう、今日朝一でここのジムリ倒してゲットしてきたのさっ!
これでオレもポケモンリーグに挑戦出来るんだぜーっ!」
wktkが止まらない!!
ぼく達はナグサシティはずれの浜辺に来ていた。
ここから海を数キロメートルほど渡ればやがて大きな滝が見え、
そこを上るとポケモントレーナーの総本山、ポケモンリーグが見えてくるらしい。
「オレな、ポケモンマスターになったらな、」
言いながらミキヒサは海辺に向かって水色のポケモンを出し、その上に乗った。
ぼくは自分の水色のポケモンを出し波乗りを始めた
ポケモンリーグへの唯一の道であるこの2230番水道は、
潮の流れもとても穏やかで、待ち受けるポケモンリーグでの
厳しいバトル への最後のゆとりだと言われている。
風評通り、照りつける太陽と吹きすさぶ潮風の温度の調和が肌に心地よく、
緩やかな波音や、間断なく聞こえるキャモメ達の優しいさえずりがミミに心地よい。
爽やかな自然が偉大なる挑戦を迎えパミ゛ようとしているぼく達を歓迎しているようにも思える。
「今日もさわやかな朝だねぇ〜〜〜。うっふっふふふふふふふふふふふ、ポケモンマスター日和っていうかさぁ〜〜〜。」
気分がいいのか、歌うような調子でミキヒサはそう叫びだす
耳鳴り。がする。ところで何十分か経ったいま、ぼく達はとうとう滝の前に立っていた。
見上げてみる
ちょうtんが見えない程の大きい大きい滝だ
上りきれるだろうか?いいや、ここまで来たぼくのポケモンの力なら「きっと上れるに違いな」い。
ぼくは自分のポケモンである260のラグラージにぼくは滝登りの命令をラグラージに浴びせかけたのだ
何か文章がバグってきてないか?
ミ
キヒサも滝登りを始めている ぼくと肩を寄せ合ってだ。
「今日もさわやかな朝だねぇぇぇぇ〜〜〜。うっふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、ポケモンマスター日和っていうかさぁ〜〜〜。」
滝登りをしながらミキヒサがそう叫びだした。
叫んでも叫んでもいくら叫んでも叫んでもいくらいくら叫んでも頂点は見えない。
上を見上げても下を見下ろしても滝の流れが永遠のように続いてるだけ
雲を突き破り天に橋をかける大きな大きな大きな大きな滝
この一番上にポケモンリーグがあるという噂なのだ。
だがしかし噂は噂
もしもこのまま幾ら上がり続けてもポケモンリーグなんて無かったら?
まさに永遠にこの滝が続いてるだけだとしたら?
ノボッても上っても先が見えないこの滝は僕に絶望感を与えている。しかしミキヒサは平気そうな顔をしている。のんきな物だ
しかしミキヒサは平気そうな顔をしている。のんきな物だ
どれだけ時間が経ったかわからない。一時間か、十時間か。ぼく達はまだ滝を登っている
もはや上を向いても下を向いても横を向いても前も向いても後ろを向いても滝なのだ。
いまぼくの世界には滝と自分達しか存在しない
もうどうにもなれというある意味の諦めがぼくの脳内を満たし「緊張するなー、コウイチ。くーっ、チャンピオンになれるかなーっ!」
「じゃあミキヒサ、どっちが先にチャンピオンになれるか勝負しよっかー!」
「アネ゛デパミ゛」
「むっ、それいいねぇ!にゃはは、今度は負けないぞぉーーー」!!
「ぼくも負けないぞおっ!!」
ぼく達は共に励ましあィ゛ゃゾ┛び#ガネ゛
滝の中に顔が見える
誰の顔?
誰の顔?
いいえ、それはわざマシン36です
>>275 待て、落ち着け。これは48氏の罠だ。そしてあえてひっかかるのだ
見知らぬ顔だ。見知らぬ顔が円形状に延々と並んでいる
もはや上を向いても下を向いても見知らぬ顔で埋め尽くされている。
四方八方全てが見知らぬ顔で埋まっている。
右も左も上も下も奥も手前もぼくの中身までも全てすべてが
そう、見知らぬ顔で
埋まっている
「はっ。」
ぼくは、ふと目を覚ました。時計の秒針。それが刻む音だけが聞こえる。
ぼくは、キョロキョロと辺りを。自分の部屋じゃあ。質素な装飾に、
窓の外から見える。ぼくを乗せている大きなベッド。
の布団には、大きいモンスターマークが描かれ。
そうだ、ここは○○○○のポケモンセンター
三階の宿舎。ポケモンリーグへ挑戦しに行kのは。夜より朝がいいと。
「アネ゛デパミ゛」
ドアの奥からベッドが。現れる。グリーンバッジ
「データが破損しています! データが破損しています! データが破損しています! データが破損しています!」
警告!このゲームを無断で複製することは法律で禁止されています!!法律で禁止されていますゥゥーーーー!!
「データを初期化しますか? データを初期化しますか? データを初期化しますか? データを初期化しますか?」
セーブしています・・・必ず電源を切らないで下さい・・・切らないで下さいって言ったでしょォーーーッ!!! 電池切れなんて言い訳になんねえぞォーーーッ!!!
「お気の毒ですが冒険の書1は消えてしまいました! お気の毒ですが冒険の書2は消えてしまいました! お気の毒ですが冒険の書3は消えてしまいました!」
もはや何も見えない。何も聞こえない。
見えるのは見知らぬ顔だけ。怖い、怖い怖い。
おそらくこれは夢だ。ぼくには分かる。でも ああ
(ほっほ……人間め、いい具合に夢にうなされているようだのォ……さすがは、このわしの『夢食い』!
……ほっ! なかなかよい句が浮かんできたぞォォ!! ほっほ!
……さて、次は隣のこの緑色の竜のうなされかたを、じっくり観察させてもらおうかのォーっ!)
伏線だったのか
こんにちはーっ! ボクの名前はフライゴンっ!
いま、ヨスダシティの触れ合い広場に、ボクの自慢のトレーナー・コウイチくんと一緒に来ていまーすっ。
ボクのトレーナーのコウイチくんは、世界一っ!
頼りになるし、頭いいし、かわいいし、何よりとーっても優しい!
いつもどんな時だってボク達を思いやってくれて、時には甘えてきちゃったりもしちゃう、
そんなコウイチくんが、ボクはだいだいだいだァい好きなんですっ!
コウイチくんは広場に入るなり、ぱたぱたとお花畑のほうに走っていきました。
彼の絹糸のように艶やかキレイな黒髪が、金色の陽光に照り栄えて栗色に光っています。
「わぁ、見てごらんフライゴン! キレイなお花だよー」
コウイチくんは、広場に沢山咲く様々な色合いの花を指差して、
まるで無邪気な赤ちゃんのようにはしゃいでます。何てかわいいんでしょう……
「キレイですねー……それにとってもいい匂いっ」
鼻をつくような甘い花の匂いを(あっ、ダジャレじゃないですよ)、鼻腔いっぱいに吸い込んでみます。
甘い香りが頭の中にぽわ〜って広がって染み込んで来て……恍惚っていうのでしょーか、頭がぽ〜ってなって凄い幸せな気分。
なんていうか……とっても甘えたい気分になっちゃいます。
「コウイチくん……」
女の子のように整っているのに少しあどけなさの残るコウイチくんの顔を、甘えた目付きで見つめてみます。
コウイチくんもボクを見つめ返して、やんわりと可愛くほほえんでくれました。
……まさにこれが、心が通じ合う瞬間っ! なんでしょうねっ!
ああ、きっとボクいま世界一幸せなポケモンです。
ボク達を見て羨ましがらないポケモン及びトレーナーなんていませんよっ!
それ程ボク達は心が通じ合い息が合っている……まさにベストパートナー、なんですよねっ。
「ああ……なんかボク、眠くなってきちゃったかな」
腕を上げておおあくび。心地よい眠気のもやもやが頭にかかります。
ボクは、チロリとコウイチくんのちっちゃい膝に目をやります。そうだ。膝枕してもらっちゃおうっと……
そ〜っと倒れこんで……えいっ、ひざまく……
「おい」
「はい?」
いきなりドスの効いた声がボクに降ってきました。
誰でしょう? 幸せな時間を邪魔する有害物質めっ
「はい? じゃあ……ねェーーーだろォーーーッッ!!!」
「いっ!?」
いきなり髪をつかまれ、持ち上げられてしまいます。痛い、痛い痛い!!
だれだ、ボクにこんな事をするのは……!
首を捻って、ボクの髪を掴む暴漢の顔を見つ、め……
コウイチくん!?
「テメーコラッ!! 勝手にご主人様の膝に頭つけるたァ、どォいう事だァ〜〜〜ッ!?
そのコケの塊みてェな腐った頭をぼくの膝につけやがって、どう落とし前つけるつもりだダボがッ!!」
「はいぃぃーーーっ!?」
ボクの髪を掴み暴言を吐きかけてきたのは、確かにコウイチくんでした。
コウイチくんの顔が、今まで見たこと無いくらいに恐ろしく歪んでいる……な、なんで! ボクそんな悪い事した!?
「土・下・座 しろ」
コウイチくんはボクの髪を離すと、床を指差しながらそう言い放ちました。
土下座? ボクが……コウイチくんに?
いくらコウイチくんの命令とはいえ、躊躇ってしまいます。すると……
「土下座してあやまれって言ってるんだァーーッ!! 土下座だよォ、土下座、土に下りて座るんだよォ〜〜ッ!
膝と手を地面につけて、頭を床に擦って擦って擦りつけまくるんだよォォ!! 湿気ったマッチ棒みてェにグリグリって何度もなァ〜〜〜!!!」
「ひっ……」
泣きそうになりながらも、僕はコウイチくんの目の前で膝と手を付きます。
コウイチくんを怒らせてしまったなら仕方が無い……この怒りを収めれば、きっといつもの優しいコウイチくんに戻ってくれるはずです。
ボクは床に頭をつけ……言いました。
「すいません……許してください、コウイチくん……」
ボクは言いながら、涙をこぼしていました。
壊れた水道管のように涙がボロボロ溢れて止まりません。
もう、ボク達おしまいなんでしょうか。
「そういえばさ……」
コウイチくんはいきなり声のトーンを落として、そう言いました。
許してくれるのでしょうか。元のコウイチくんに戻ってくれるのでしょうか!?
「ぼく……きみに『穴を掘る』って技たしか教えたよねー?」
「あ、はい」
コウイチくんの口調はいつも通りの穏やかな風に直っています。
質問の意図はよく分からないですけれど、とにかくよかった、コウイチくんが元に戻ってくれたぁ……!
「よし、いい事を思いついた。お前いまここで穴を掘れ」
「え?」
突然下されたコウイチくんからの命令。『穴を掘れ』……この触れ合い広場で穴を掘るの?
従業員の人とかに注意されないか心配だけれど、コウイチくんの命令です。ボクは急いで爪で地面を掘り始め……
「SYAAAAAAGYAAAAAAA!!!!」
「ひえええええっ!?」
ボクが穴を掘ろうとした瞬間、いきなりコウイチくんがワケ分からない奇声を上げボクを威嚇し始めたのです。
ボ、ボク何か悪い事した!?
コウイチくんは、膝を折り未だ土下座のポーズのボクの顔を見ながら、
憤怒の形相でこう叫びだしました。
「だれが『手を使って穴を掘れ』と言ったァーーッ!? いいかッ!! 土下座したそのポーズのままッ!!
その地面に擦り付けた『頭』でッ!! その汚ねぇドタマで『穴を掘る』んだよォッ!! 『土下座穴掘り』だよォォォ〜〜〜〜ッ!!!」
「ええええええぇぇぇぇぇっ!?」
幾らなんでも無理難題です。『頭を擦り付けてそれで穴を掘る』なんて……!
どうやってやれっていうんですか。理不尽、不可解、意味不明。
コウイチくんは今までこういう無理な命令なんて一回もしてこなかったのに……
「ぼくは思うねッ!! マジに心の底から『すまない』って気持ちがあれば、何でもなァんでも出来るってなァッ!
そう、何だろうとッ!! 何だろォとだッ!! それが例え窃盗・放火・人殺し・犯罪の類であろォーーーとッ!!
テメー、『すまないゴメンナサイ』の気持ちがあるんだろ? あるなら土下座穴掘りくらい朝飯前だろォーーがよォーーなァーーッ!!」
もう何か言っても聞いてくれるような雰囲気じゃありません。完全に別人のようです。
「う、うううう〜〜〜〜っ!!」
ボクは、泣きながら頭を地面に擦りつけ『土下座穴掘り』を試みました。
周りの人からの視線が痛いです。恥ずかしいです、頭が痛いです、胸が痛いです。
誰か助けて……何でですか、コウイチくぅん……誰か、誰か……助けてよォ……
(ほっほ、何といいうなされ方かっ! この顔を見ているだけで句五つは軽いのォーーっ!!
さて、次は……あのジュカインとかいう生意気なトカゲ野郎のうなされ方をじっと観察させてもらおうかのっ!)
今回は、完全に次のジュカインパートへの前置きです……
次は、明日の朝方に投下したいと思います。
(^o^)ノ ガンバレー
乙! マザー2のムーンサイドみたいな狂気が感じられたぜ!
最初は48氏のゾンビ化が始まったのかと思って怖くなったけどw
ヨルノズクの仕業ということか。
夢オチと申すか。ゼル伝夢を見る島を思い出したではないか。GJすぎるよ……
>>286 なんて渋いゲームを……いい趣味だ
最初は今までの話が夢だった、ってオチかと思ったが逆でよかった。
それにしてもフライゴンくんはもう乙女一歩手前だなw
フライゴンがかわいいなw
人がうなされる顔を見ただけで俳句五つ近く量産出来ちゃうヨルノズクさんスゴス
別れは 次の逢瀬の 一歩みなり
みたいな感じでここは別れる方向だと思ったがこんな展開とは! グッジョブ!
11時半くらいに投下しまーす。
『生命の森』。
それが、オレの住むこの森の名前だ。
名前の通り、この森は清き生命にあふれている。
一切不純物のない綺麗な土が常に逞しい木々を育み続け、
言葉も喋れないような小鳥や小さい虫達はその木々を中心として各所に住処を作り、
元気に鳴き声を上げながら、生き生きと動き回っている。
やさしい風のそよぎ、芳しい葉っぱや土のにおい、
木々や生き物達の息づかい、全てに『みずみずしく平和な命』が溢れている。
オレは気がつけば、この森にいた。
まるでたった今生まれてきたかのように、その時点のオレには『記憶』という物はほとんど無かったが、
オレの本能がこの森に住みたいと願い、そして何があろうとこの力で、この森を守っていきたいと思った。
恐らくは、オレはいま記憶喪失という奴なのだろう。
なにせオレの頭には、この森で目覚めた以前の思い出が一つもない。
記憶を辿っていっても、もののすぐに記憶の道は途絶え断崖絶壁に行き当たってしまう。
この体の大きさからして、オレが生まれたばかりのわけもない。
……だが、そんな事は今のオレには一つも関係ない。
今のオレに大事なのは、今オレが存在しているこの『森』だけなのだ。
オレが記憶をなくし、全てが全てまっさらのままこの森に来たのは、きっと『運命』なのだ。
オレは何があろうと、生命芽吹くこの森に住み生涯を送る。
誰にも邪魔はさせない。例えそれが、記憶をなくす前のオレに関係した者であろうとだ。
だが……
「ねー、ジュカイン。ぼくのジュカイン、聞こえてる? 早く行こうよ、ねぇ」
うっとうしい奴が来た。『今より前のオレを知っている』などとぬかす、人間様とかいうチビガキだ。
本当であろうと奴の勘違いであろうと、あんなのについていってこの森から離れるなんて勘弁だ。
「まだいたのか、お前〜〜〜。いい加減諦めろよ! オレはお前についていく気はないんだっつの!」
オレがそう言うと、チビガキはいきなり俯いて、声を震わせ口ずさむような声量でこう言い出した。
「冗談じゃあ、ない。ぼくは、絶対諦めたく、ないっ」
「何ィ〜〜〜〜?」
まだコイツは、このチビガキは一向に折れようとしない。
あれだけ『オレの悪いイメージ』をわざと植え付けてやったってのに、まったくしつこい奴だ。
普通なら、あれだけコケにしてやりゃ 『何だこんな奴!』 なんて思ってすんなり諦めてくれるはずなのに。
……『以前』、オレとこいつはどんな風な関係だったって言うんだ?
ここまで諦めきれないほど……オレとこいつは親しかった、関係が深かったって言うのか?
「ああ、ジュカイン? 聞いて。今日はぼく、君の好きなお菓子作って持ってきたんだよ」
「は?」
突如チビガキは元の朗らかな表情に戻り、生意気に小奇麗な服の胸ポケットから何かのケースを取り出すと、
そのケースから何やら赤色の球体を出して、オレに差し出してきた。
「は? ……な、なんだよ、これ」
「いいから食べてよ。きみの好きなお菓子でしょ?」
「はァ〜〜〜〜……?」
ガキはオレの手にそのお菓子を握らせると、真ん丸い目を好奇心に輝かせ、オレの様子を伺い始めた。
たったい今渡された、手の内の『お菓子』を見つめる。ドぎつい赤色に、鼻の内側を刺激するようなスッ辛い匂い……
無意識に、口内に唾液がふつふつと滲み出てくるのをオレは感じ取った。
ガブッ!!
ハグハグ、ムグゥ〜〜
オレは気がつけば、一切の警戒心を持たずはしたなくその『お菓子』にかぶりついていた。
餅のようにふっくらもっちりと弾力のあるその菓子に歯を食い込ませると、
心地よく焼け付くような辛さが舌と喉を刺激し、その奥にあるうまみが口内に弾け渡る。
『食感』。『香り』。『味』。全ての要素が、オレの嗜好にぴったりマッチしている。
それに夢中になってる間に、オレはすぐにお菓子を食い尽くしてしまっていた。
「うふっ。ど〜お? 美味しかったでしょ〜♪」
「う……」
あっという間にお菓子を食い尽くしてしまった自分自身が信じられない。
ガキはニコニコと満足げな笑みを浮かべている。……なんとなく、屈辱的な気分だ。
「こ、こんな物っ! お、美味しくも何ともなかったぜバーカっ!!」
その屈辱的な気分に任せ、オレは全く心にもない事を叫んでいた。
「!!」
オレのその言葉に、ガキはひどくショックを受けたような表情を浮かべる。
その目にじわっと涙が滲んだと思うと、口をきゅっと結び、ふっと下を向くとシクシクと啜り泣きを始めてしまった。
……ふ、ふん、ザマーミロだぜ。調子こくからそうなるんだ。
……
「お、おいおいおいおいおいおい、幾らなんでも泣くこたねーだろォ〜〜!?
オレが悪かったからさァ、泣き止めって! おまえ男の子だろう、だから泣き止んでくれってばァ! あァ〜〜〜もォ〜〜〜〜」
ガキのすすり泣く姿に何故だかオレは急に罪悪感が芽生え始めてしまい、気が付けばガキに謝ってしまっていた。
……くそぅ、何でオレがこんな世話焼かなきゃいけねーんだ! どこまでも厄介なガキ……
「あっ、ジュカイン! ……ボクのご主人様を泣かしたなっ!!」
「なっ……」
あのガキの取り巻きの緑色ドラゴンが、矢庭にオレに因縁をつけてきた。
「コウイチくんを泣かせるなんて罪な奴っ。謝りなよ!」
緑色ドラゴンは、鼻息を荒げながらオレに詰め寄り、謝罪を促してきた。
その態度に、オレは反射的にこう叫んでしまう。
「ざ、ざけんじゃねーっ、まずい菓子作ってきたあのガキが悪いんだぜっ!
むしろオレが謝ってもらいたいくらいだね……手を付いてこう、頭を擦り付けてよ。カ、カッハハー!!」
「ジュ、ジュカイン……お前……」
……最低なことを言っている自覚は、無論ある。
だが、それくらいの方がオレのためにもあいつらのためにもいいはずだ。
極限まで後味悪いほうが、キッパリ諦めて忘れてくれるってもんだしな。
「あなたは『嘘をついている』わね、ジュカイン」
「!?」
突如、これまで聞いた事のない女性の声がオレの耳に入り込んできた。
声の元へ顔を向ける。そこには、心覚えのない女モンスターが立っていた。
着物のようにも見える雪の幕で体と顔が覆われており、その下から鋭く冷たい目つきでオレを見据えている。
そして、いたのは『その女だけじゃない』。
女のほかにも、まだ三匹……見知らぬ三匹のモンスターがいて、皆してオレを見つめているのだ。
まるで旧友を見るような目つきで……
「お前は、嘘をつくのがうまい。……だが、今回のお前の嘘はバレバレだ。
さぁ、こちらへ来い。俺たちはみんなお前が帰ってくるのを待っているのだぞ」
全身が燃えるような赤い体毛に覆われたモンスターが、落ち着いた調子でオレにそう語りかける。
反論しようと口を開くと、すかさず別のモンスターの声に遮られた。
「そ〜〜ォそォそォ!! 六人揃ってこそぼく達は一グループ!
一人でも欠けてちゃあ戦隊は成り立たないんだよっ! 大事なのは協調性サっ、わっかるゥ〜〜?」
四本の前足と薄い翅に青い水晶体のような目が特徴的な虫のようなそのモンスターは、そう言うと妙なポーズを取り出す。
オレが何か言いかける暇もなく、もう一匹の図体のでかい青いモンスターが何か叫びだした。
「そうだぞジュカインよ。またコウイチや俺達と一緒に色んな所を冒険して回ろう!
そう、たとえ火の中水の中、草の中や森の中! 土の中に雲の中、
あの子の……グフッ……スカ、スカート……グヘヘ……あの子のスカートの……グフ、グふフヘヘ……」
「うわァ……ラグラージさんキモーい……」
「気色悪いわね。気持ち悪いとかじゃなくて、気色悪いわね」
「う、うるせーもん! 元気な女の子のミニスカートの中は俺達ポケモンにとってもロマンなんだもん!! ウッ、ウッ」
次第に、その四匹のモンスター達と緑色ドラゴン、そしてあのチビガキまでも、
和気藹々と、楽しそうに……オレをそっちのけでやかましく騒ぎ出した。
……なぜだか、オレはその光景にたまらなく腹が立った。
「うるせーぞ、このクソどもがっ!!!」
「!!」
オレがそう叫ぶと、モンスター達は語らうのをやめこちらへ視線を向けた。
皆が皆、意外とでもいう風に呆気に取られた顔をしている。なんだその顔はっ――
「何度言ったら分かるんだ、オレはお前らと一つも関係ない!! もうこうなったら一匹一匹オレが纏めてぶっ倒してやろうか!?
カハハッ、そうだろっ、めんどくせー事するよりも、そっちの方がいいだろうっ!? かかってこいよオラ、全員おん出してやるぞっ!!」
力の限りそう叫ぶ。すると、どういう事かモンスター達は一匹一匹、徐々に溶けるように消えていった。
あのチビ人間すらも消えていく。……そして、周りの風景すらも――……
「……ハッ」
ふと気がつくと、辺りの光景が一変していた。
辺りには木が立ち並び、地面には芝草が生い茂っている。
……森である事には変わりない。だけれど、『生命の森』とはまるで違う。
まるで見覚えのない場所。
「なんだ、ここは……」
戸惑い、頭の整理もほとんど為されていないながらも、とりあえずオレは歩き始める。
そして歩き始めると、更に心中で違和感が増していく。
なぜだか体の節々、取り分け首の辺りがヒリヒリ痛むし、歩く感覚にもどこか……うまく説明できないが何か違和感がある。
「おおい、みんなどこだ? 族長ー、おまえらー……」
思わず大声でそう呼びかけるが、なぜだか息が長く続かないし大きい声も出ない。
訳の分からない展開に、自然とオレの胸の内には不安が募っていく。
ガサッ!!
「!?」
突如、大きい葉擦れの音がオレのすぐ横から響き渡った。
反射的にオレは音の元へ顔を向ける。
そこには、白と黒二色の毛並みの一匹の鳥モンスターがいた。鋭い目つきでオレを見つめている。
あの目は、オレを獲物として狙っている目だ。……いい度胸していやあがるっ。
「おいおい、やろうってかい? ……身の程を知ったほうがいいぜ、小鳥さんよっ!!」
腰を捻り、足を踏ん張る。そしてオレは地面を思い切り蹴りつけ、鳥へ向かって大きい跳躍を――
あれ?
「あれっ?」
思わず口を付いて疑問符が飛び出てしまった。
おもいきり土を蹴って飛んだつもりが、体は全然飛ばず、鳥の元へ達さないままオレは跳躍を終えていた。
「あいだっ!」
そして、みっともなくバランスを崩して地面に転んでしまう。
思うように体が動かない。まるで子供にでもなったかのように……
!?
途端頭の中で何かが弾けたかのように、ある憶測がドロリと溢れてきた。
手を見つめる。手首から生えていたはずの葉っぱ状の突起がまるで見当たらない。
腰を捻り己の尻尾を見つめる。シダのようだった面影はほぼ無く、丸く太い形になっている。
その尻尾の形を見た瞬間、オレは確信した。
オレ、退化している……キモリに、退化している……!?
「シギャー!!」
その事実に辿り着いた瞬間、鳥モンスターは羽を広げ、嘴を向けながらこちらへ突っ込んできた。
瞬間、鋭い嘴の一撃がオレの頬を掠める。
「ぐっ!」
刺すような痛みが頬に広がる。同時に、足が竦み冷たい汗がこめかみを伝う。
鳥モンスターは手ごたえありと言った風に甲高い鳴き声を上げながら、再びオレ目掛けて嘴を突き出してきた。
やられる……!? こんな所で、わけも分からないまま……このオレがっ!?
やべぇ……助けろっ……誰かオレを……誰か、誰かっ……
――助けてっ――
「ビブラーバ、竜の息吹だぁっ!!」
どこか聞き覚えのある声がした次の瞬間、
オレの脇を灼熱色の奔流が走り、目の前の鳥モンスターに直撃した。
「ピギャッ、ピギィーー!!」
鳥モンスターは攻撃に驚き、さっさとその場を逃げ去っていった。
……危機は去った。安堵するよりも先に、オレはまず自分を助けたであろう者を確かめようと、
あの熱の奔流が走ってきた方向へと顔を向ける。
――そこには、またもやアイツがいた。
「だ、大丈夫? 怪我はない?」
『アイツ』がオレの元へ駆け寄ってくる。そう、例の人間様とか言うチビガキだ。
その肩には、見覚えの無いトンボのような生き物が止まっている。いや、あの丸い目はどこかで……?
「首輪の痕……全身にアザ……それに、確かこの子はホウエヌ地方に生息するポケモンだったはず……」
しゃがみこみ、オレの首や体中を撫でながらチビガキはそう呟く。
――触るなっ
そう言いたかったが、なぜだか意思と喉とが繋がっていないかのように声が出ない。
チビガキは大方オレの体を触り終えると、小さい手をギュッと握り締め怒ったような調子で何か言い出した。
「やっぱり噂は本当だったみたいだね! ポケモン屋敷のお坊ちゃまのウラニワくんってやつは、
気に入らないポケモンはみんな手ひどく虐待したあと、裏山に捨てていくって噂……
ぼくはああいうやつが一番嫌いさ、年齢や身分にモノを言わせて生意気に振舞うお坊ちゃま……」
チビガキは唇をかみ締めながら、オレに哀れむような視線を落とす。
「ああ、顔色はよくないし頬までこけているね……衰弱しているんだ……
お腹も空いているでしょ……? こっちへおいで、きみにいい物を上げるっ」
「?」
チビガキは、やたらと小奇麗な服の胸ポケットからどこか見覚えのあるケースを取り出すと、
そのケースから何やら赤色の球体を出して、オレに差し出してきた。
……あれ? この展開少し前に……
「これ、今日ヨスダシティのお料理教室でぼくが作ってきたポフィン!
ぼく、お料理だい得意だから出来には自信あるよ! 自信あるけどオ……
これ辛い奴だから、きみのお口に合うかどうか……合わなかったらゴメンねー。えへへへっ」
にひっと苦笑いを浮かべ唇の先からちょっとだけ舌を出しながら、ポフィンを乗せた両手をオレへ差し伸べるチビガキ。
――しつこいっ
そう言おうとするも、やはり言葉が出ない。
……言葉が出ないばかりか、体の自由まで効かない。
惹きつけられるようにオレは、チビガキの手の上のポフィンに食らいついていた。
「あはっ、いっぱい食べてるー♪」
ガキはオレがお菓子を食べる様子を見ながら、頬を染め心底嬉しそうな声を上げた。
……やめろっ、そんな声だされたら、オレまで……っ!
不思議な気分になってくる。
自分の体が自分の体でないようで……自分の意思でないハズなのに自分の意思のようで……
何より、さっきからオレの脳内にうっとうしく絡み付いているこの強烈な既視感はなんだっ!?
「ねぇ、きみ? もうこんな危ない所にいる必要は無いよっ。ぼくのお家へ連れてったげるからね!
これ自慢じゃないけど、ぼくのお家はでっかいお屋敷で住み心地はバツグンにいいんだっ。
このビブラーバを始め、きみと友達になれる子もいるよっ。いっぱいよくしたげるから……ねっ? ふふっ」
ガキは二コリとほほえみを浮かべると、オレを抱きかかえた。
抱きかかえてからも、ガキはずっとオレへほほえみを投げ掛け続けている。
オレは、抵抗することが出来ないどころか、不思議と抵抗する気さえ起きなかった。
……それは抵抗しようとしても無駄だと分かっているから……じゃあない。
ガキの腕の中はとても暖かくて……体も心の内もほっと落ち着く暖かさがあって……
胸の奥から、湧き水のように緩やかに溢れてくる暖かさがあって……
「これからよろしくねっ、きみ! ぼくの名前は――……」
「ジュカイン!!」
突然、ガキの肩に止まっていたトンボ野郎がオレの名前を呼んできた。
うるさく翅をはためかせながら、オレの周りをぐるぐる回りだす。
「もちろん、ボクの名前は覚えているだろう?」
トンボがそう喋ると、突然そのトンボが目を覆うような光に包まれた。
しばらくすると光は晴れ、その下から例の緑色ドラゴンが現れる。
「いいや、覚えていないはずがないな。
ボクの名前は『フライゴン』。どうだ? 聞き覚えあるだろ?」
フライゴンと名乗る緑色ドラゴンがそう言い終えると、なぜだかオレを抱きかかえているチビガキの方がその話を続けた。
「いま、フライゴンが『フライゴン』と名乗ったのが何よりの証拠だよ。何でかって、ここはきみの夢の中だからだ!
今ここにいるこのフライゴンが、きみが知らない筈の名前をああして名乗ったって事は、
きみがフライゴンという名前を知っていたっていう事なのさ。分かるかい? 分かるだろう?」
?????? 何を言っているのかまったく見当が付かない。なんだ、なんなんだ?
……何を言っているのかは全く見当がつかないが、『ここはきみの夢の中だからだ』という一節に引っかかる。
そうか、ここは夢の中なのだ。
今までは何故だかこれは現実である事を疑っていなかったが、そういえば不可思議な出来事ばかり起きている。
「!?」
そう理解した瞬間、いきなり背景がぐにゃりと捻じ曲がり、色がぐちゃぐちゃに反転しだした。
いろんな色が混ざり合い、もはや元が何だったか見当もつかない色の塊に辺りは覆われ、
その中に幾つも幾つも……まるで展示物の如く、不気味に顔が浮かんでくる。
顔だ。顔だらけだ。顔、顔、顔。
その中には、あのチビガキの顔やフライゴンの顔もあった。
先ほど会った、あの見知らぬ三匹のモンスターの顔も。
そして……この『オレの顔』までも。
「この顔は、お前が……いや、『オレ』が『今まで』に出会ってきた人間やポケモン達の顔全部だ。
見覚えのない顔もあるだろう? だが、オレの夢の中であるこの場所に何故オレの見覚えのない顔があるんだ?
おかしいと思わないかい? え? どう思うんだ? え? おい。分からないのか……?」
そう喋ったのはその『オレの顔』だった。
少なくとも顔はオレと同じだ。……そして、相変わらず言っている意味は理解し難い。
「な、何なんだよ……」
わけが分からない事態に思わず、ため息ついでにオレはそう漏らす。
無数の顔が発する意味の分からない言葉を聞いていると、頭が割れてしまいそうに痛む。
その言葉は、耳に響いているというよりは、頭の中に直接響いているかのようなのだ。
このままここにいたら、狂ってしまいそうだ……どこか逃げ道はないものか。
必死に辺りを見回すと、無数の顔と顔の間、ぐちゃぐちゃの色の混ざり合いを割って一筋の亀裂が空いている場所を見つけた。
あそこが出口なのか。オレは、その亀裂目掛けて一気に走り出し――
訂正。
>>304の9行目の『三匹』は、『四匹』の間違いです……
「待てっ! そっちに行くんじゃねえ!」
突如、制止の一声がオレのすぐ背後から響く。
オレは反射的に動きを止め、声の元へ振り向いた。
オレは思わず飛び上がりそうになる。
振り向くと、すぐそこまで先程の『オレの顔』が迫ってきていたからだ。
その『オレの顔』は、ひどく切迫し焦心に満ちている。なぜ……?
『オレの顔』はその語調にも焦りを色濃く込め、こう叫びだした。
「もうハッキリ言っちまうが、お前の心の隅には見ての通り、まだこうして『記憶』は残っているんだ!
『外部からの思わぬ干渉』で、こうして何とか『オレ』はここまで出てこれた……奥底に沈んだ『記憶』を何とかここまで持ってこれたんだ。
この機会を逃したらもう次はない。さぁ、この記憶を思い出すんだオレ! 思い出せ!」
「!」
今までこの『顔達』が言っていた事はわけが分からなかったが……わけが分からなくて当然とすらも思っていたが……
オレは、その今の『オレの顔』の叫びに、ある推測が生まれかける。
この顔は、この『オレの顔』は……心の中の記憶をなくす前のオレ……つまり、『失った記憶』……?
だとすると、この亀裂は……夢から現実への帰り道、ということになるのか……?
オレはためらい、足を止める。しかし、亀裂の中から突如闇が溢れ出し、オレを飲み込まんばかりに広がり始めた。
「お、おい、闇が広がり始めたぞ」
うろたえ思わずそう問うと、『オレの顔』はすぐさまにその問いに答えた。
「これはお前が目を覚ましかけているって事だ。分かるか? 時間がねーんだよ!
お前が何も思い出さないでこのままだと、『オレ』が困るんだ……」
「だ、だからどーしろってんだよこのオレに! 思い出せ思い出せって、何を、どうやって!?」
思わず叫び声が口を突いて出てしまう。まさにそれが、今オレの言いたいことの全てだった。
『オレの顔』はその言葉に一瞬迷うように顔をしかめたが、すぐに答えた。
「うるせー、とにかく頑張って思い出せよォ! 『オレ』は出来る限り色々協力してやったんだぜ!
見ただろ、フライゴン含むオレの五人の仲間っ! 味わっただろ、あの苦くて暖かいポフィンの味!
感じただろ、オレが生まれてきて始めて感じた人間の温もり……」
「……!」
そうか、なら先ほどの四匹とフライゴンは、オレの元仲間……
ポフィンの味……オレが退化してからのあの謎の一連の出来事……あれは、全部オレが体験したもの。
……言われてみれば、そのような気もしてくる。少なくとも、強く否定する事はできない。
少し前までは絶対の自信を持って否定できたことが、今ではひどく曖昧だ。
これは……なくした記憶を、思い出してきている、っていう……こと、なのか……?
……身を覆い尽くすような不安がやってくる。
あの人間が言っていたことは、全て本当だったっていうのか? まさか、まさかだよな……
……でも、だとしたら、オレは……オレは、どうすれば……
……
際限なく広がり続ける闇は、色も顔も、オレの思考意外全てを覆い尽くし世界を完全に塗り替えた。
真っ暗な世界の中、オレの思考だけが小さく光を灯しているようだった。
カオスな流れもこれで終わり…
次回は、月曜日か火曜日の6時半からです。
みなさん応援ありがとうございます、とても励みになります。
なんという焦らしぃぃぃいい!!……………GJ
超GJ!
クオリティたかっ
乙〜
レディアンとラグラージはネタキャラ要員決定したようなもんだな
これから、ちょっとした質問があれば、それに答えていきたいと思います。
なにか質問したいことがあれば、遠慮なく質問してください。
でも答えたくない質問、答えられない質問には答えませんので、ご了承ください。ごめんなさい。
>>255 大長編にしたいですし、部隊も全部じっくり書きたいですねえ。
話のネタだけなら、たくさん考え込んでます。
補足しておきますと、『これから』というのは『以後ずっと』という意味で、
もし何か質問があった場合は、小説を投下した後に一通り答えます。
じゃあ月曜日か火曜日にまた……
とりあえず乙
コウイチくんとちゅっちゅしたいよぉ〜
きめえ
dat落ちしろ糞スレ
誤爆乙
なんだかんだでジュカインは仲間に戻らないと見た
ヨルノズクと相打ちになるとかで…
>>321 そうかな…しかし言われるとそんな不安が…
草タイプのジュカインでは飛行タイプのヨルノズクには勝てないよ。
うぇ〜い
とりあえず、なにか質問を。
48氏はポケモン暦はどれくらい? メインのシリーズ以外のポケモンもプレイする派?
いまんとこ活躍してるポケモンが見事に金銀ポケモンとルビサファポケモンに集中してるな。
しかし「アネ゛デパミ゛」が登場したってことは間違いなく赤緑世代w
かなり遅れましたが今から投下します
キタ───(゚∀゚)───!!
森の夜更け。灯りの元一つなく暗闇が支配しているはずのこの森に、
ただ二つ、淡黄色に不気味に光る円形の何かがあった。
その二つの光に、網の上ですやすやと寝息を立てている小柄な人間の少年が照らされている。
「労せず食らいたくば寝込みを襲え……か」
虫も鳴き止み静寂が充満しているこの空間に、ふとしわがれた老人の声が木霊する。
その声は、あの二つの光のすぐ真下から発生している。
「『寝込みを襲う』……己の誇りに傷がつくと言って敬遠する者も多いが、このわしは違う。
貫き徹する事が誇りを生むのならば、外道を往く事もまた然り……
ほっほ、むしろわしにとっては、より外道としての誇りが高まるというものだ」
うわごとのように呟きながら、二つの光……いや、『二つの目』は、鼻先の少年の顔を舐めるように見つめている。
その少年の寝顔は、眉根に皺が寄り、悪夢でも見ているかのように苦しみに満ちていた。
「何度見てもい〜〜い顔だァ! どんな夢を見ているかは知らぬが、少なくともロクな夢ではなかろうの。
ここにいる者は全員、このわしの『催眠術』と『夢食い』によって本来見るはずだった夢を食われ、
ぐちゃぐちゃにぶち壊れた夢……ほとんど悪夢のようなものを見ているはずだからの……ほっほっほ」
甲高くゆっくりとした笑い声が、辺りに響き渡る。
二つの目は更に少年へと近づいていき、そしてまるで微笑んでいるかのようにきゅうっと上下が狭まった。
「さて、そろそろこの人間を我が基地へ連れ帰るとするかの……
わしの催眠術を食らったこの場にいる全員は、夜が明けるまでは目覚めることはない。目覚めることはないが……
何事も小さな油断が大事を招き、失敗へ至ってしまうのだ。仕事はすぐにこなさねばの……」
突然、二つの目の真上から青白い輝きが放たれたと思うと、少年の体が吊り上げられたかのように宙に浮き上がった。
二つの目はより一層狭まり、気分を表しているかのように一層光が強まる。
そして……
「ぐあっ!?」
「ぐぅっ……!」
突如、老人のうめき声と鈍い音が同時に響き渡り、二つの目がグラリと揺れ地に伏した。
同時に、宙に浮き上がっていた少年は糸が切れたように網の上にストンと落ちる。
「なん、だァ……!?」
二つの目の輝きが曇り、苦心に満ちた声が響く。
そして次の瞬間……その老人の声ではない、『もう一種類の声』が森に響き渡った。
「ケケケッ、こんな夜更けに何やってやがんだぁっ!?」
「……!?」
「正面から駄目と見りゃ寝込みを狙うなんて、いい精神していやあがるぜ。
なぁ、いつぞやの魔王軍の梟の旦那……いいや、『ヨルノズク』さん、だったかな?」
もう一つの声は、ひどく相手を小馬鹿にしたような抑揚の激しい喋り方をしながら、どんどん二つの光のある方へ近づいていく。
二つの目が……『ヨルノズクの二つの目』が、もう一つの声の元である影を照らした。
「きさ、貴様は……!?」
その影の正体を確かめた瞬間、ヨルノズクの顔が驚愕の色に染まった。
いるはずのない者、起きているはずのない者が、今そこに確かに立っていたからだ。
「貴様は、『ジュカイン』……!?」
「な、なぜだっ! この場にいる全員は、貴様も含めわしの催眠術で
明日まで眠りっぱなしのはずだ……なぜ、起きている!?」
そのヨルノズクの声は、驚きと焦りに塗れ震えている。
ジュカインはそれとは対照的に、愉快といった風に喉を震わせながらこう言った。
「クック、簡単なことさ。理由は二つ。
まず、お前が森全体に『催眠術』をかけた頃には、オレは既に眠っていたんだ。
そしてもう一つ。オレは、お前のように寝込みを狙ってくる卑怯なやつに対応するために、
わずかな物音がしただけでも起きれるように鍛えてあるのさっ。ケケケッ」
「ぐっ……」
ヨルノズクはそれを聞くと、悔しそうに歯をむき出しにし、
また納得した風に少し笑みを浮かべながら、数度頷いた。
「ほ、ほほっ、なるほど……だ、だが聞け、ジュカインとやら」
ヨルノズクは数歩進んだ後、ジュカインにしがみつくようにしながら、こう懇願し出した。
「手を出さないでくれ。誤解しているようだが、わしは何もこの森を荒らすつもりは微塵も無い。
あの人間を連れて帰れればそれでいいのだ!
頼む、手を出さないでもらえるか。手を出さねば、わしは以後この森には関わらぬと約束するぞっ」
「……」
ジュカインはそのヨルノズクを見下ろしながら、考え込むようにしばらく黙り込んでしまう。
そしてしばらく経った後クックッと愉快そうにほくそえみ出したと思うと、
一言、ゆっくりとヨルノズクに向けてこう告げた。
「いいぜ」
「!」
ヨルノズクはその答えに一瞬だけ意外と言った風に目を見開いたが、すぐに元の意地悪い笑みに戻る。
ジュカインはそれを見てまた喉をククッと鳴らすと、続けて口を開いた。
「カハッ、……その人間は俺にとっても心底迷惑な存在でな、早いトコこの森から出てって欲しかったんだ。
はっきし言って全く好都合さ、ヨルノズクさん。アンタのやろうとしていることはよ……ケケッ」
そのジュカインの言葉に、ヨルノズクの笑みがどんどん深い物になっていく。
そして、ついには口に出して高く笑い出した。
「ほっほっほ!! ……そうかそうか、それはありがたいのう。では……」
ヨルノズクは身を翻し、再び少年の元へと近づこうと歩を進める。
その瞬間、ふとジュカインがこう呟いた。
「……と、以前なら言っていただろうがなっ」
「?」
ジュカインの言葉に、ぴたりとヨルノズクの足が止まる。
間髪入らずジュカインの声がまた響いた。
「残念ながら、だいぶ事情が変わっちまったんだよな。
オレがさっき寝てから今起きるまでのほんのたった数時間の間に……ね」
「なにィ?」
振り向き、ジュカインを見つめるヨルノズク。その顔にはそれまで浮かべていた笑みが消え、若干の不安の色が浮かんでいる。
ジュカインはそのヨルノズクの不安げな表情を見て、嘲るように半笑いを浮かべる。
「たぶん、お前の『夢食い』って技のせいだろーが、ちょいと奇妙な夢を見てね」
彼はそう言ってから、まだ半笑いを浮かべたままヨルノズクの目を貫くように見つめ出した。
「なっ、何を言っているのだ。そっ、そんなどうでもいい話は……」
ヨルノズクはどこか曰くありげなジュカインの言葉と貫かれるような視線に、思わず声を吃らせる。
「カハハッ、どうでもいい?
いいや、テメーにとっては『どうでもいい』筈がない話さ……つまりだなっ」
ジュカインはそこで一旦言葉を止めると、すうっと息を吸いヨルノズク目掛けてこう叫んだ。
「そこの人間には、このオレが絶対に手を出させねぇってことだ!!」
「な……!」
ヨルノズクは驚くよりも、怒り屈辱に震えるように歯を食いしばり、ジュカインを睨み付け出した。
「カハハッ! 喜びも束の間……だなっ!」
ジュカインはそれを見ると、 まるで一つ望みでも叶ったかのように心底満足げに顔を愉悦に歪めた。
いや、事実一つ望みが叶ったのだろう。
彼にとっては、自分のことを気に入らない者が屈辱に震えて、
自分に対し怒りを露わにする所を見るのは、この上ない快感の一つでもあるのだ。
「要するに、こうとも言う。『テメーは今ここで再起不能になる』。
もう二度とあの人間に手を出せないってようにな……」
ジュカインは一転して挑戦的な笑みを浮かべると、ヨルノズクを睨み付けた。
「貴様……このわしに戦いを挑むというのか!?」
「だからそう言ってんだろバーカ。夕べみっともなく逃げ出したような奴がよく言うぜ」
「貴様ァ……!!」
一時は歓喜の色に染まっていたヨルノズクの目は、いまや溢れんばかりの怒気をはらんでいる。
ここまで己を嘲り虚仮にするような態度を取られては、自尊心の高いヨルノズクにとっては当然の事だろう。
しかしヨルノズクはその表情とは裏腹に、落ち着きはらった口調で喋り始めた。
「……夕べわしが逃げたのは……怖気づいたからでも自信が無かったからでもない。
……『疲れるから』だ。貴様らを葬れる力はわしには存分にあるが、そんなことで無駄に疲労して句を考える余力が無くなっては困るからだ」
「へぇ? あんま面白くない言い訳だな」
またもジュカインが挑発するように言うが、ヨルノズクはそれを無視し話を続ける。
「……ところが、『今は事情が違う』!
相手は貴様一人、句も十分に足りている。
そして何より……何より何より何よりィ〜〜〜」
「わしをここまで虚仮にした貴様は、このわし直々に懲らしめねば気が済まぬからなァッ!!」
「!」
ついに、ヨルノズクの表情と語調が一致する。
「へぇ、本性を現したのか……? それとも、精一杯の強がりか……?」
ヨルノズクの叫びにもジュカインは些かも動揺せず、どこか余裕のある好戦的な笑みを浮かばせたまま、ヨルノズクを睨み続ける。
水を打ったような静寂と、二匹の間に充満するプレッシャーが、夜闇の緊張をより深めていた。
つづく
乙ー
>>325 いちおう初代が発売された頃からずっと順番にやってってますけど、
初代だけはやり込んだ覚えがありません。
バグ遊びなら結構やり込んだ覚えありますけどw
メイン以外のポケモンは一つもやったことないですね……ポケダンとかやってみたいんだけどなー
次回は明後日ごろになると思います。
GJ!
ジュカインかっこいいけど、何か挑発とか笑い方とか悪役っぽいなw
GJ
なんだろう……何故だか、ミュウツーの逆襲を思い出す。
是非、
>>1も含めてミュウツーの逆襲を見てほしい……。ただ、それだけだ――。
ミュウツーの逆襲見たことない俺にkwsk
・・・別に詳しくじゃなくてもいいけど端的に。
>>341 アイツー「わたしはアイツー。アイを元に作られたの」
ミュウツー「幼女テラモエスwww」
ミュウツー「私は誰だ! 誰が生んでくれと頼んだ!」
フジ「わしが育てた」
カイリュー「怪しいもんじゃなから、ちょっとあの島まできてくれや」
サトシ「イエス・ユア・ハイネス」
ミュウツー「いったれや! コピーポケモンたち!」
サトシ一行「テラツヨス」
ミュウツー「貴様と私、最強はどちらなのか決めるときが来たようだな!」
ミュウ「そんなことより、おはスタの収録が――もう、強引だなぁ」
サトシ「オレの体が石にィィッ!」
ピカチュウ「涙涙涙」
サトシ「も、戻った!」
ミュウツーとコピーポケモンたち「ぶーん」
コバヤシ「あ〜る〜き〜つ〜づ〜け〜て〜♪」
343 :
340:2007/12/11(火) 02:37:44 ID:???
>>341 これは内緒だが、笑ってる動画でミュ○ツーと検索すれば、映画が見れるらしいな……
べ、別にあんたのためn(ry
端的に言うとこんな感じだべ
>>342 我ハココニアリの影響受けすぎワロタ
要は、めっちゃ感動できる
>>342だと思え。見て損は無い。
アジール=ピジョット
サーゲス=ヨルノズク
バイオレン=ムクホーク
静寂が支配する深夜の森。その中で相対する二匹のポケモンがいた。
片やニヤニヤと挑戦的な笑みを浮かべ、片や顔つきに怒りをむき出しにさせ、お互いを睨みつけ合っている。
……数秒の沈黙を経て、ふと挑戦的な笑みを浮かべていたジュカインがゆっくりと膝を折り足に力を込め始める。
次の瞬間、地を蹴りつける音と共にジュカインの姿がその場から消えた。
「!」
怒りの表情を浮かべているヨルノズクは、その表情のまま、ジュカインが姿を消したのに合わせて顔を上に向ける。
ヨルノズクの視線の先にある無数の木々の枝と枝の間を、ジュカインらしき影が不規則に縦横無尽に飛び交っている。
影の飛び交う速度はどんどんと速くなり、常人の目では到底捉え切れぬ程の速さに達しても、まだ衰えることなく加速していく。
『カッハハーッ! 昨晩の戦いで、お前相手に正面からぶつかるのは危ないのは分かったからなっ!
どうだ、オレが飛んでいる軌道が見えるか!? 見えねぇだろっ、カハハッ!!』
ジュカインは目まぐるしく加速を続けながらも、ヨルノズク目掛けて挑発めいた言葉を投げつける。
ヨルノズクはその挑発に、一層表情の怒りの色を強くしていく。
「さぁ、いくぜっ!!」
不規則に飛び交いひたすら加速を続けていたジュカインの影が、遂にヨルノズク目掛けて飛びかかっていった。
ガキィン!!
「!」
金属音によく似た硬い音が辺りに鳴り響き、それと同時にジュカインは吃驚し目を見開いた。
そして、それとは対照的に、ヨルノズクはニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。
ジュカインのリーフブレードでの一撃は、ヨルノズクには届いていなかった。
ヨルノズクとジュカインの間にある壁……リフレクターによって、ジュカインの攻撃は防がれていたのだ。
「……はて、余裕の笑みが消えたの? ほっほっほ」
「…………!」
ジュカインは一筋の冷や汗を流し、驚きに目を見開いた――が、すぐに先ほどの挑戦的な笑みを取り戻す。
「偶然だっ」
キター
「偶然に決まっているっ!!
森の中でのオレのあの動きが、見切られるハズがねぇ!!」
ジュカインは飛び上がり、再び高速で無数の木々の間を飛び交い始めた。
ヨルノズクはその様子を見ると愉悦めいた笑みを一層強め、高笑いを始める。
「ほっほっほ!! 貴様、その戦法に大した自信があるようだのォ!!
だがなっ……このヨルノズクにとってはっ! その戦法は全くの無駄よっ!! 」
ヨルノズクの目はジュカインの不規則な動きを完全に捉え、それに合わせてギュロギュロと滑っている。
「わしの動体視力を甘く見るなっ。貴様はすばやく動き回りこのわしを上手く撹乱しているつもりだろうが、
この目には貴様がどこをどう飛び交っているのかよく見える! 蛍光ペンで書き標していくかのように、軌跡すらもハッキリとな……」
ヨルノズクのその発言は、決して嘘偽りではなかった。
そしてそれを証明するかのごとく、ジュカインの次の一撃をも……
ガキィン!!
……完璧に防いでしまったのだ。
「ほっほっほ……さて、『二度目』だのォッ!?
『二度目』だが、さァ果たしてこれは偶然かァッ!? ヒャハハッ!!」
ヨルノズクは、今まで受けた挑発をそのまま返すかの如く勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ジュカインを睨み付ける。
ジュカインの表情からは笑みが消え、屈辱といった風に歯を噛み顔を歪めている。
「……ちくしょうっ、ちくしょうっ!!」
しかしそれでもジュカインは諦める事なく、三度飛び上がり高速移動を始めた。
それを見たヨルノズクは嘴を思い切り開き舌を曝け出しながら、狂ったように爆笑を始めた。
「ヒャッハハハハハァッ!! ひょっとして『大マヌケ』か貴様ァ〜〜ッ!?
わし相手にはそんな『カス』戦法、何回やっても何回やっても通用するわきゃないんだよォッ!!
まさに馬鹿の一つ覚えだなっ、著しく学習能力が欠如した小汚い緑猿めっ!! ヒャハハハハァッ!!!」
『うるせぇ……うるせぇっ!! 見ていろっ、『三度目の正直』だっ!!』
「……ヒャハハッ!! 三度目の正直だぁ〜〜?? 二度あることは三度あるんだよクソボケェッ!!」
『黙れっ!!』
十分加速した後、ジュカインは三度目の攻撃をヨルノズクへ浴びせかける。
……しかし、それももはや当然の如く、ヨルノズクのリフレクターによって防がれてしまった。
ヨルノズクはリフレクターの奥からジュカインを見下しながら、再び爆笑を始めた。
「ほほっ、三度目ッ、三度目ェッ!! 洗剤で顔をゴシゴシこすって出直してこ……うっ?」
ふと、ヨルノズクの笑みが止まる。
ジュカインの表情が、不自然なことに喜色に染まっていたからだ。
「貴様、いったい……ぐぎゃっ!?」
鈍い音が響き渡り、ヨルノズクは頭を押さえながら地面に突っ伏した。
「ぐがっ……な、なぜ……!?」
「クククッ、バーカ」
吐き捨てるように言いながら倒れたヨルノズクに近づき、その傍らから何かを拾い上げる。
野球ボール大の緑色の球体……ジュカインはそれを口元に持っていくと、それに勢いよくかぶりついた。
「なっ……それは……!?」
首だけを上げ、ジュカインの手の中の物体を見つめそれに驚くヨルノズク。
ジュカインはシャクシャクと口の中から小気味よい音を立てながら、説明を始めた。
「これは、『ラムの実』……殻は硬くて重いが、中身はシャクシャクホワホワってな。
あんまオレの好みな味じゃねーが、自分で落としたんだから食ってあげなきゃいかんよな」
その言葉に、ヨルノズクは驚いたように目を見開く。
「木の実……それをわしの頭上に……?」
「そう。ここら一帯の木は、ラムの実がたくさん生っているからな。
ちょうどお前の頭上付近にも生っていたから、すれ違いざまにそれを切り落としたんだ。
しかしそれに気づかなかったってこた、お前はオレの移動のみに気をとられすぎていたってワケだ」
「ぐぅ……ならば、絶望したような言動は全て演技……
高速移動からの攻撃は、その木の実をわしに落とすための囮だったというのか……!?」
それを聞いたジュカインは見下すような笑みをより一層深くし、挑発するようにヨルノズクへ顔をずいと近づけた。
「クケケッ! 『だったというのか……!?』じゃねーよバーーーカッ!! ケケッ、警戒心が無さ過ぎるぜオマエ……」
「『大マヌケ』ってのは、まさしくテメーのような奴の事を言うんだろうな。カッハハハーッ!!!」
己を散々虚仮にした者が、自身の自慢の戦法をあっさりと破られ驚愕し絶望する。
その光景のあまりの愉快さとカタルシスにヨルノズクは勝ち誇り、『まだ何かあるかもしれない』という警戒心をすっかり忘れてしまっていたのだ。
「貴様……貴様ァ!!」
ヨルノズクはガバリと立ち上がり、その屈辱と怒りに塗れた顔をジュカインに向ける。
瞬間、ヨルノズクの白い眉が青白く発光し、ジュカインを眩く照らした。
「!!」
「しまっ……!」
焦り、思わずそう口から漏らしたのは、『ヨルノズクの方だった』。
そのヨルノズクの眼前からは、ジュカインの姿は消えていた。ジュカインは咄嗟に飛び上がり念力攻撃を回避したのだ。
そして……
「隙だらけだぜっ」
その声……ジュカインの声が響いたのは、ヨルノズクの背後からだった。
ヨルノズクは振り返る間もなく、その背をジュカインのリーフブレードによって切り裂かれた。
「ぐぁっ!!」
ヨルノズクは、再び前のめりに床に突っ伏した。
ジュカインは余裕の笑みを浮かべ、うつ伏せに倒れているヨルノズクを見下す。
「その念力攻撃をやっている間は、リフレクターを発動しておくことが出来ない……そうだろう?
昨晩の戦いでオマエがその念力攻撃をやった瞬間、フライゴンを乗せていたリフレクターが消えたのをオレは見てたんだぜ……」
「ぐっ……クソ、がァ……!!」
背中の痛みに足をふらつかせながらもヨルノズクは立ち上がり、鋭い目つきでジュカインを睨み付ける。
ジュカインは、ヨルノズクの睨みを余裕の目つきで受け止めている。
「まだやんのかよ、地味にタフな奴だなぁ……だが立ち上がってどうする?
リフレクター……念力……オマエのたった二つの手札はこのオレに跡形も無く破られた。
はてさて、これ以上どうするつもりだい? 悪あがきでもしてみるか? カカッ」
「ハッ、ほざくな」
ヨルノズクは目つきを鋭くさせたまま、口を笑みの形に歪ませた。
その表情にジュカインは、相手の奥底にまだ残されている余裕に気づく。
「まだ何かありそうな顔しやがって」
「ほほっ、そうさ。今までのわしの戦い方は、体が衰えてしまった老い故の戦法……わしの、全盛期の戦い方とは違うのだ!
本来の戦い方はこの老いた体では疲れるが、この際仕方ない……見せてやろう、このわしの本当の戦い方をなっ!!」
ヨルノズクの目と翼が、勢いよく同時に開かれた。
そして次の瞬間、ヨルノズクの姿が一瞬の内にわずかな残影のみを残し、その場から消え去ったのだ。
「これは……!?」
ヨルノズクが突如消え去り、きりきりとした緊張感と沈黙のみがその場に残される。
さすがのジュカインも、その状況に緊張の念を感じずにはいられなかった。
「どこへ……?」
ジュカインが思わずそう呟いた次の瞬間。
ピシッ!
「ぐっ!」
何かが掠めた音が高く響くと同時に、ジュカインはうめき声を上げ腕を手で押さえた。
押さえた手の隙間から鮮血が漏れ、腕を伝い滴り落ちる。
ジクジクと焼け付くような痛みが、押さえた手の下に張り付いていた。
「攻撃された……のか?」
ジュカインの表情が一転して引き締まり、警戒するように目を凝らし辺りを見回し始めた。
視界には、森の夜景のみが映されている。変化一つない、いつもの通り木々と葉っぱがあるだけだ。
「!」
――その風景に微かな変化を感じ、ピクリとジュカインは反応する。
目をじっと凝らさなければ分からないだろう。眼前に広がる無数の木々の合間を、夜闇に紛れ凄まじいスピードで掠めていく影があったのだ。
その影のあまりのスピードに、ジュカインはすぐに影を見逃してしまう。そして、その矢先……
「ぐあっ!」
再び、掠める音と、己のうめき声とが同時に響き渡る。
ジュカインは理解する。また攻撃されたのだ……それも、あのヨルノズクに。
あの影は、ヨルノズクの影なのだろう。ヨルノズクが、並外れたスピードで森中を飛び回っているのだ。
それでいて、暗殺者やなにかの如く羽音も、葉擦れの音すらもほとんど立てず。
「……!」
そこまで思考が行き着いてから、ジュカインはふとある事実に気がつく。
「これは……オレの戦法とほとんど同じじゃあねぇか……!」
『はぁ、はぁ……ほっほっほ、そうさ、皮肉にも貴様と同じような戦法だのォ!!』
「!」
不意に、ヨルノズクの声が夜空から鳴り響いた。
『ふふっ……わしは貴様のこの戦法を、夜に適したこの目とリフレクターで防いだ。
だが貴様はどうだ? 『どちらも無い』。『何も無い』。『どちらも無い』。『何も無い』。
はぁ、はぁ……ほほっ、文字通り、成す術があるまい? 手も足も出せまい? ほっほっ……!』
ヨルノズクの声は疲労困憊といった風に所々に肩息が混じっているが、それでも勝ち誇った風な語気に満ちている。
興奮したようなヨルノズクの言葉が夜空を飛び回り、やがて急速な勢いでジュカインへ迫っていく。
『はぁ、はぁ……わしは、暗殺者と呼ばれていた。
わずかな光すら集めるこの目、そして羽音を一切立てぬ、この柔らかい翼……
夜の森で獲物を逃したことは、わしには未だかつて一度も無いのだ!』
言葉が途切れた瞬間、またもジュカインの体に一閃が走った。
「ぐぅっ!」
ジュカインのわき腹が薄く切り裂かれ、鮮血がどくどくと漏れ始める。
傷みに顔を歪め俯くジュカインを嘲るように、再びヨルノズクの声が鳴り響く。
『ほほっ……正直同じ戦法とは言えども、わしは貴様よりもスピードは遅い。
だが、貴様のその夜に適していない目で見切れる速さでもあるまい!
言っておくが、今のわしに油断は無いと思え。貴様は確実にここで朽ちるのだ! はぁ、はぁ……ハヒヒヒッ!!』
「……朽ちる……? ククッ……ケケケッ」
『?』
ジュカインは曰くありげな笑い声を上げながら、まだ俯いたまま独り言のように何か喋り始める。
「オレは生きている内の大半は、アイツのために費やしてきたんだ。
親すらも知らず幼少時を虐待されて過ごしたオレに……アイツは初めて、温もりを与えてくれた……
そんなアイツに、オレは……オレは……」
『? ……ほほっ、ボソボソ言ってちゃあ聞こえぬのォ!
命乞いは聞こえるように言わねば意味が無いぞっ……はぁ、はぁっはははは……ハハッ!!』
ヨルノズクの声の飛行が止まり、一点に留まる。どこかの木の枝に止まり羽休めをし出したのだろう。
ジュカインは、ふと呟くのをやめしばらく呼吸を整え出したと思うと、
不意に顔を上げ、ヨルノズクのいるであろう方向へ顔を向けニッと笑みを浮かべた。
「はぁ……はぁ……ククッ」
次の瞬間、ジュカインは笑みを浮かべたまま、姿の見えないヨルノズクへ向けて言葉を投げつけた。
「オレがここで朽ちるという事は、負けるという事は、アイツを守れないって事だ。
そして、オレはいつだってアイツを守ってきたし、この後アイツに『償わなきゃいけない事』もある……
だからオレは負けない……無様に負けんのはテメーの方だってことだよっ!! カハハハーッ!!」
そう叫ぶジュカインの目つきは、恐怖や諦めなどの念はまだ一片も感じられない挑戦的な目つきだった。
その言葉にヨルノズクもいささか動揺したのか、反応が返ってきたのはしばらくの沈黙を挟んでからのことだった。
『ほう……この期に及んで精神論か? だがそんな物では、勝つ可能性は1%たりとも上がらんぞ、ほっほ……』
「……確かにお前の言う通り、今は『精神論』や『根性論』なんかじゃあどうにもならない状況さ……
だがなっ。オレはたった今、その戦法を破る方法を思いついた所だぜ」
『なに?』
ジュカインはまだ笑みを浮かべながら、己の尻尾へ手を伸ばしガサガサとまさぐり始める。
数秒後、ジュカインは尻尾から手を離す。離れたジュカインの手は、握りこぶしを形作っていた。
「見えるか、ヨルノズク? オレは『これ』を使って、お前のその戦法を破るぜ」
ジュカインは拳を握っている方の手を真っ直ぐ突き出し、ゆっくりと指を開いていく。
そうして晒された手の平の上には、幾つもの小さい植物の種が散らばっていた。
「この、『宿木の種』でっ!! この『宿木の種』を使って、お前のその戦法を破ってやるよっ!! カハハハーッ!!」
つづく
乙ー(´・ω・b
意外と頑張るねヨルノズクさんw
GJ
宿り木の種で何をどうするんだろう?
この小説に足りないのは紅一点だと思うのだがどうだろう
男気が溢れておk
無理に登場する必要もないだろう
乙女チックなフライゴン君がいれば今は大丈夫だと思うよ。
さて、次回も
>>1に期待しつつ就寝、と……。
ユキメノコいたじゃん
メノコはあんまタイプじゃ(ry
そもそも、モンスターだもんね。
『それは植物の種……かの? そんなモノで何をするつもりだ?』
遥か遠くから響いてくるヨルノズクの声。
ジュカインはその問いを無言の笑みで返すとふと膝を折り、土を見つめだした。
そしておもむろに指を使い己の周りの土に浅い穴を開け、手の中の『宿木の種』をそこに植え始めたのだ。
『な……何をしているのだ……?』
何をしているか自体は見れば明らかだが、
今までの流れからのその行動のあまりの脈絡の無さに、思わずヨルノズクは疑問符を投げかけてしまう。
ジュカインは二度目の問いを受けるとまたもニッと笑みを浮かべる。
しかし今度はそれだけではなく、言葉も添えてヨルノズクへと返した。
「見て分からないか? 木を植えているんだ……」
言いながら、ジュカインは立ち上がる。ひとしきり種を自らの周りに植え終わった後のことだった。
当然のようなその答えに、ヨルノズクは徐々に苛立ちを募らせていく。
『その理由を聞いているのだ。まさか貴様、この期に及んでまだこのわしをおちょくっているつもりなのか!?』
怒りを押し殺したような震えた声で、ヨルノズクはそう叫ぶ。
その問いに対してジュカインは……『勿論さ』とでも言わんばかりに、満面の笑顔で返した。
『貴様っ!!』
およそ身の程をわきまえず挑発を続けるジュカインに対して、ヨルノズクの堪忍袋の緒が引きちぎられる。
ヨルノズクは羽休めを終え、木の間をスラロームしながらジュカイン目掛けて突っかけた。
「!」
ヨルノズクの飛来を感じ取り、ジュカインは避けようと身を捻る。
しかし目にも留まらぬ敵の攻撃を避けられるはずも無く、ジュカインの体はまたもヨルノズクによって薄く切り裂かれた。
うめき声を後に、ヨルノズクは勢いのままにジュカインの傍らを通り過ぎていく。
勢いの落ちた数十メートル先でヨルノズクはUターンをし、再びジュカイン目掛けて突っかけた。
『ほほっ、ジワジワいたぶってやるぞォ!! 今宵は貴様の苦しむ顔を肴に句三昧といくかのっ!! ……む?』
ヨルノズクは、ジュカインがその両の手にまた何かを持っているのに気がついた。
ジュカインが持っているのは、木の実ほどの大きさの黄色い種。それを両手いっぱいに持っている。
おそらく、先程まで彼自身の背中についていたものであろう。
……この戦法を破るために使うのか、それとも、また挑発を仕掛けるためだけに使うのか?
ヨルノズクの脳内にふと浮かぶ二択。彼が結論付けたのは後者だった。
『性懲りも無くまた無駄な挑発をするつもりかッ!!』
気にせずヨルノズクはジュカインに突っ込み、すれ違いざまに翼で肩の肉を抉り取る。
「ぐぁっ!!」
鋭い痛みに顔を歪め、呻き声を上げるジュカイン。
同時に、攻撃された反動からか、彼の手の中にあった複数の黄色い種が高く宙を舞った。
『ほほっ、早くも手放してしまったか……何に使おうとしていたかは分からぬが、残念だったのォッ……!』
首だけを後ろに向けジュカインの様子を見ながら、勝ち誇り皮肉めいた言葉を投げつけるヨルノズク。
……その皮肉めいた言葉を投げつけた瞬間、ヨルノズクはふとつい先程のことを思い出す。
勝ち誇り油断したことにより警戒心をなくし、不意を打たれ一撃を浴びてしまったことを。
そうだ、油断は禁物。警戒は常に怠ってはならない。
ヨルノズクは数十メートル先でUターンすると同時に、今度は真っ直ぐにジュカインを見据えながら勝ちを確信した言葉を投げつけた。
『もはや貴様に打つ手はないだろうが、これ以上遊んでいては足元を掬われかねん……次で終わりだッ!!』
ヨルノズクは嘴を真っ直ぐに突き出し、体自身を一本の槍のようにさせてジュカインへ突っ込んでいく。
狙いはジュカインの体の中心。言葉通り、次の一撃で終わらせる気なのだ。
「くっ……はぁ、はぁ……!」
ジュカインは未だ顔を痛みに歪めたまま、顔を上げ……
――全てを見透かしていたかのように、笑みを浮かべた。
「違うねッ! その『逆』だッ!!」
(全てが――)
ジュカインは両腕を、『リーフブレード』を、頭上で交差させる。
(筋書き通り――)
宙を舞っていた幾つもの黄色い種が全て切り裂かれ、
その中から漏れ出た淡黄色の液体が、ジュカイン及びその周辺にシャワーのように降り注いだ。
地面に落ちたその液体は、地中へじわじわと染み込んでいく。
『何をしている……!?』
ヨルノズクはその光景に多少の動揺を見せるが、それでもスピードを落とす事は無い。
もっとも、もはや容易にスピードを落とすことは出来ない程に体に勢いがついてしまっていたから、というのもあるが。
『さァ死ねッ!!』
最後の一撃が、音もなく急速なスピードでジュカインへ迫っていく。
常人の目では、間近まで来るまで反応も出来ぬ程の驚異的なスピードで――
ジュカインがその最後の一撃に体を反応させたのは、ヨルノズクがまさしく目の前まで迫ってきてからのことだった。
無論、迎え撃つことも避けることも出来るわけもなく……
そう、ジュカイン自身は、全く何もすることは出来なかったが……
ヨルノズクの最後の一撃はジュカインには届かず、彼の僅か手前でその動きを止めていた。
「げ……げぼァァーーっ!?」
そして同時に、ヨルノズクの呻き声が森中に響き渡った。
勝ったか?
「な……なぜだァッ!! この痛み……なぜ……『下』から……!?」
口から血を撒き散らしながら、驚愕の表情で己の体を見つめるヨルノズク。
細長く、先端が鋭く尖っている何本もの『棒』が、下からヨルノズクの体を貫いていた。
その『棒』は根元で幾つか枝分かれしており、そしてジュカインの周辺の地中から満遍なく……生えている。
ヨルノズクの脳内に、理解と同時に衝撃が走った。
「まさかこの棒は……ガボッ、『枝』ッ!? ということは、これは先ほど貴様が植えていた『宿木』かッ!? 」
「カッハハ、いかにも……だぜっ」
宿木の林の中心に立つジュカインは、少し苦しそうにしながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「バ、バカなァッ!! 木が……木が、一瞬でこれだけ成長するわけがァッ、ガボッ、ゲホォッ!! あるッ、あるワケッ、ボゲボゲボゲゲ」
ヨルノズクは今の事態に到底納得出来ず、口から血が漏れ出るのもまるでお構いなしに叫び続ける。
そしてジュカインは、『それが聞きたかった』とでも言う風に、声を弾ませながら応えた。
「ケケケッ、耄碌過ぎてる割に視野が狭いヤツめっ!! 見ての通り、有り得るんだよ。条件さえ揃えばなっ!!」
「これ以上ないという程に良質な、この森の土!!
栄養を無尽蔵に吸収し、急激なスピードで成長する宿木の種!!
そして、植物を成長させる栄養が超高密度に濃縮された、このオレの種!!
この三つが揃えば、有り得るわけさ。この『宿木』の超急激な成長もなっ!!」
「まっ、本当はこの『宿木のバリケード』にお前が頭から突っ込んで引っかかってくれればいい、程度に思ってたが……
こんなピッタリぶっ刺さってくれるとは、なかなかの悪運の持ち主だねヨルノズクさんっ! クケケッ」
「ぐ、ぐう〜〜〜ぐうう〜〜〜〜!!」
「ぐっ……まだ、まだだ……!」
「!」
瞬間ヨルノズクの眉が青白く光ったと思うと、彼の体が徐々に浮き上がっていった。
己を貫いていた枝から体が離れるまで浮き上がると、眉の発光が収まり、糸が切れたように横なりに地面に落ちた。
「がはっ! げほっ、げほぉっ……」
体が地面に叩きつけられた衝撃で嗚咽を漏らし血を吐きながらも、ヨルノズクは強い目つきでジュカインを睨み付ける。
ジュカインは木の枝を掻き分け、倒れているヨルノズクの前に立った。
「カハハッ、いくらお前がタフとはいえ、そのダメージじゃもはや立ち上がるのも無理だぜ!」
ジュカインは文字通りヨルノズクを見下しながら、勝ちを確信した発言を繰り出した。
「ぐぅ……ぐぅ〜〜〜」
顔をしわくちゃに歪め、隙間風のような唸り声を上げるヨルノズク。
彼の脳内には、痛みと屈辱と焦りがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
(バカな……バカなっ!! このわしが、こんなヤツに、こんなァ……!!
ちくしょう、句をっ、句をっ……! もっと句がっ、もっと句があれば……
なぜだっ、句がっ、句が思い浮かばぬゥ〜〜〜〜句がっ、句がっ、句句句句句句句)
「そういえば、お前……句を作るのが好きだったっけか?」
ふと、ヨルノズクのぐちゃぐちゃの思考の中に、ジュカインの声が割り込んでくる。
「な……なに?」
一瞬呆けた顔を浮かべるヨルノズクに、ジュカインは不敵な笑みで返すと同時にこう言った。
「作ってみせろよ。『辞世の句』とやらをよ……ククッ」
なおも相手の怒りと屈辱を煽るようなジュカインの発言。
「ぐぅ……ぐうぅ〜〜〜〜〜ッ!!(だからその『句』が思い浮かばねェんだよクソがァ〜〜〜〜〜ッ!!)」
ヨルノズクはこれ以上ないという程に顔に皺を寄せ、獣のような唸り声を一層強めた。
「いやァ……作れるわけがないかっ」
ジュカインがふと、呟くようにそう漏らす。
一つ小さいため息をはさんでから、彼は嘲笑を交えた口調でヨルノズクへ向けてこう言った。
「相手の苦しむ顔を見るとか……絶望する顔を見るとか……
『そんなモノ』に頼らなきゃロクな句を作れない、いや、作ろうともしないようなお前が、
こんな土壇場で句なんか作れるわきゃないよな……カハハッ」
ヨルノズクは大きく目を見開いた。
「き、きさ……きさ……!!」
自分自身認めようとしていなかった己の本質を見透かされた発言。
それはヨルノズクにとって、今までのどの挑発よりも屈辱的であった事は彼の表情と口調からも歴然である。
そしてそれをジュカインは察し、更にダメ押しの如くこう言い放った。
「ジャジャ〜ン、これぞまさに予感的中っ! カハハハッ!」
「……!」
勝ちを確信した余裕なのか、これまでに受けた傷や危機の仕返しとばかりに、
ジュカインは重ね重ね相手を虚仮にし、相手の怒りと屈辱を煽る発言を繰り返していく。
そして、遂にヨルノズクの怒りは頂点を迎え、全身の痛みすらも超越するに至った。
「貴様……ガボッ、貴様ァ……殺すっ、殺すッ!!」
ヨルノズクが、全身の傷口から血を漏れ出させよろめきながらも、立ち上がったのだ。
それにはさすがのジュカインも驚き、表情を引き締め構えを取る。
ヨルノズクの赤く光る眼ははっきりとジュカインを捕らえ、そして一層強く光りだした。
「ぶち殺す……殺してやるぞっ、このクサレがァーーッ!!!」
ヨルノズクは、血でガラガラの喉を震わせ怒号を上げながら、最後の力を振り絞りジュカイン目掛けて突っかけた。
しかしそのスピードは、ダメージのためか先程と比べると遥かに遅く……
……次の瞬間にはジュカインのリーフブレードに切り裂かれ、悲鳴と共に床に突っ伏していた。
「残念、字余りっ」
倒れたヨルノズクへ向けて吐き捨てるようにそう呟き、舌を出すジュカイン。
如何にタフなヨルノズクと言えど、もはや立ち上がることはなかった。
「はぁ、はぁ……」
細かく肩息をつきながら、ジュカインは倒れたヨルノズクを見下ろす。
もはや立ち上がらないことを確認すると、細かい肩息は大きい一つのため息と変わり、
それと同時に勢いよく地面に座り込んだ。
「はぁーっ! 危なかったぜ……やられるかとも思ったが……」
ジュカインはヨルノズクと対峙していた時にはおくびも出さなかった弱気な発言をしながら、
目を横にやり、倒れ込みピクリとも動かないヨルノズクを覗き込んだ。
「みんなが起きてこれ見たら、ビックリするな……森の奥にでも埋めてくっかな。ケケケッ……」
満足げではあるがどこか力ない笑い声を上げながらジュカインは立ち上がり、
そのまま先程ヨルノズクが捕らえようとしていた人間の少年の元へ歩み寄っていった。
「……」
少年の寝ている網の前に立つジュカイン。
ジュカインは少年の顔へ手を伸ばし、眉の下ほどまで伸びている彼の前髪をかき上げ、その寝顔を覗き見た。
少年の寝顔は、ヨルノズクの夢食いの支配から逃れたにも関わらず、依然として苦渋に満ちている。
「……『コウイチ』……」
淋しげな目つきで少年の寝顔を見つめながら、その少年の名を呟くジュカイン。
ジュカインはそのまましばらくコウイチの顔をじっと見つめ続けていたと思うと、ふと空を見上げた。
枝葉の隙間から覗く空は、未だに深いねずみ色に染まっている。
「こりゃあもう一眠り、だな……」
ジュカインはため息混じりにそう呟き、再び視線をコウイチの顔へと戻した。
次第にジュカインの淋しげな目つきは、ある種の何かの決意の色に染まっていく。
「大丈夫だぞ、コウイチ。明日の朝、オレは必ずお前に精一杯の謝罪をし、そしてお前の元に戻るっ。
そうさ、何事もなかったかのように……『何事もなかったかのように』……ごめん、ごめんな、コウイチっ」
拳を握り締め、己にも言い聞かせるようにジュカインは言葉を震わせそう呟く。
早く目の前の少年を苦しみから解放させてやりたいのに、彼が目覚めるまでは有り余るほどの時間がある。
胸の内がもどかしく、歯がゆい。それを誤魔化すように、ジュカインはひたすら呟き続けた。
「必ず……必ずだっ」
「『必ず』……」
ジュカイン対ヨルノズクに時間かけすぎたかも……
次回は、二日後のいつもの時間からです。ではでは。
面白くなってきたな
乙です
ジュカインの背中のアレを利用するとは…
乙
ついでに落ちてきたからいっちょ上げとくわ
いらっしゃい
何かまだ一波乱ありそうな含み持たせてるな
だれか絵を描く人とかいないんかな
GJ!
次回からやっとコウイチくん視点に戻るかな?
まあ絵はイメージを固定化するからな
作者のイメージを絵にできるのは基本作者だけ
これの場合は主人公くん以外はポケモンだし、場面を再現して描くくらいなら何とか……
とりあえず、
>>1の一番好きなポケモンは確実にフライゴン
で、一番嫌いなポケモンはハスブレロ。
どうだ、正解だろう。
いや、意外に逆かもしれん
でもドラゴンタイプはそれなりに好きなのかもな
特別嫌いってこともないだろうし…自分で使う分には
というか、本気で嫌いだったら自分の作品に出したりしないだろうな。
予定外の用事が入って今日は投下出来なくなりました。
明日投下しますね。ゴメンナサイ……
>>386 ハスブレロは別に嫌いじゃあないですけど、
フライゴンが一番好きってのは合ってますよ。大好きです。
他にはガーメイルとかオニゴーリとか、微妙にマイナーなポケモンが好きですかね。
頑張れ
葉擦れの音と小鳥のさえずりにつられ、ぼくは無意識のままうっすらと目を開けた。
まずぼくの視界に漠然と入ってきた物は、空を塗りつぶしている新緑色のまだら模様と、
それに幾つもの亀裂を入れている木々。そして、それらの隙間から漏れる暖かい木漏れ日だった。
「ん……んふ……ふぁ?」
一テンポ遅れて、ようやくぼくは眠りから覚めたことを理解する。
何だか、とても長い間別の次元に飛んでいたような、そんな感覚がする。
まだ何か靄がかかったかのように薄ぼんやりとした意識の中、
とりあえずうっとうしく目を射し続ける木漏れ日から逃れるように、ぼくは薄目を開けたまま寝返りをうった。
そこには、木と木の間に張られた網のベッドと、そこに横たわる緑色の生き物……フライゴンの寝顔が見える。
「……ふらいごん……」
ゼリーのドームのような二つの赤い膜。その中にある目は、うっとりと閉じられている。
こちらに向けられている赤ちゃんのように小さな口は、微かに聞こえる吐息の音と同じタイミングで開いたり閉じたりを繰り返している。
いとおしいぼくの、ぼくだけのフライゴンの寝顔だア……
……なぜだろう。全く和む気になれないのは。
大自然の真っ只中で穏やかに迎える早朝。隣には自分のポケモンの可愛い寝顔。
なぜだろう。こんな……おそらく誰もが羨むような贅沢な状況で、『全く晴々とした気分になれない』のは。
そうだ。目覚めてからずっとぼくの胸の内に、ずしりと『黒く重いもの』が渦巻いているからだ。
ある種の絶望?とでも呼んでいいのかもしれない。
ゆっくりと、頭を覆う靄が晴れていく。そしてそれにつれ、胸のうちの黒く重いものは何か、ぼくは思い出していく。
……そうだ、思い出したぞ、この『黒くて重いもの』は何か。そして、全く晴々とした気持ちになれないこの奇妙な朝の正体は何なのか、分かったぞ。
『別れの朝』だ。
「ん……ふあぁぁぁ〜〜〜!! よく寝たぁぁ〜〜〜〜!!」
「森よ、今日も晴れやかな朝を頂き感謝します……」
「今日はよく寝たなぁ! ほんっとよく寝たっ! ほんっと、ほんっとよく寝たねマジで!」
やがて辺りから。キモリたち森の住民達のざわめきが聞こえてきた。みんなも目を覚まし始めたんだ。
そんな中、ぼくは構わず目を開け寝転がったままでいる。
こんな美しい自然の中に目覚めて、起き上がって大欠伸の一つもする気になれない子供なんて多分ぼくくらいの物だろう。
「人間様、朝ですぞ」
老人と中年のちょうど真ん中くらいの声……族長さんの声が背後から聞こえる。族長さんがぼくを起こしに来たんだ。
ぼくはその体勢のままころりと寝返りを打ち、族長さんの方を向く。
「……もう、起きてますよっ」
言葉と同時に手をつき上体を起こし、少し笑みを浮かべる。
「お、おお、失礼したな」
族長さんはそう言いながら、まるで一つ罪でも犯したかのように狼狽したような表情を浮かべる。
……ぼくに気を使っているのが目に見えて分かる。『機嫌を損ねると何をされるか分からない』とでも思っているんだろうか?
地面に足をつき立ち上がり、怒っているような印象を与えないようあくまで笑顔は崩さず、ぼくは族長さんへこう言った。
「お心遣い感謝します……だけど、『もう』その必要はありませんよ、族長さん」
「え?」
呆けたような声を上げる族長さん。
「一晩も立てば、さすがに気持ちの整理もつきますよ。
これ以上ぼくがここにいる理由もないし、いていい理由もありません……そうでしょ?」
ぼくは一度だけため息をつき、族長さんの顔を軽く見据えながらこう言った。
「一晩泊めていただいて本当にありがとうございました。ぼくはもうこの森を出ます」
ktkr
「なっ」
まるで恐れていた事が起きたかのように、族長さんは目を見開きおろおろと唇を震わせる。
……ジュカインの件について、族長さんは自分自身に負い目を持っているつもりでいるんだろう。
でも、結果的にこうなってしまったのはいわば運命のいたずらのようなもの。族長さんが負い目をもつ必要がどこにあるだろうか。
「族長さん……何も気にする必要は無いですよ。あなたは何も悪くないんだから」
再び笑顔を作り族長さんをなだめる様にそう言うと、族長さんは眉尻を下げ、
ぼくの言ったことを全く無視して、罪悪感に満ちた声で、こう答えた。
「……すまぬ。わしにはどうする事も出来なかったのだ……」
「……!!」
……まだ罪悪感が抜け切れていないような族長さんの態度に、腹が立ってくる。
あなたがどう負い目に持とうが、何も変わらないっていうのに。
あなた自身は何の損もないどころか、得してばっかの癖に。
族長さんは、自分は何ともないという余裕を持て余してぼくを憐れんでいるんだ。
ある意味、ぼくは族長さんに『見下されている』んだ。
ぼくは気がつけば笑顔が消えていた。
『だから……言ったでしょ。族長さんは何も気にする必要はないって。
そうやって変に負い目に持たれるとね……後味が悪くって、胸クソ悪くって、ホント困るんですよねっ!』
……ふと、そんな言葉が咄嗟に喉から出掛かるが、ぼくは何とかそれを喉の内にとどめる。
……ぼくは何を怒っているんだ。
怒って八つ当たりなんて、浅ましくて、みっともない。ぼくは軽い自己嫌悪に陥った。
「ふああ〜〜あぁぁ……朝だぁァ〜〜……」
ふと、間延びしたフライゴンの声が聞こえてくる。フライゴンが目を覚ましたんだ。
ぼくはフライゴンの方へ視線を移し、歩み寄り声をかけた。
「おはよう、フライゴン」
「ふにゃ……んあ、おはようございまぁ〜〜す……」
まだ半分眠りについているかのような、ボケた返事の仕方だ。
フライゴンはそのまましばらく、むにゃむにゃとまどろんだ顔のままホケーっとぼくを見つめていたが、
いきなり目が覚めたかのように目を見開くと、声を荒げてぼくに突っかかって来た、
「コ、コウイチくん!! きょっ、今日はそのっ、あのっ、ジュカインのっ、そのォっ……!」
フライゴンは寝起きで頭が上手く回らないのか、しどろもどろになっている。
……何を言いたいかは大体察しがつく。ぼくはゆっくりと答えた。
「ジュカインの事はもう諦めることに決めたよ。さぁ、森を出ようかフライゴン」
「えっ」
フライゴンの顔が一瞬固まる――が、すぐにハッと目を見開き、大声でぼくに突っかかってきた。
「ちょちょっ、ちょっと待ってくださいよォっ!! 昨日の晩……まだ諦めないって言ってませんでしたっ!?」
確かに言った。言ったけれど……
ぼくは下を向き、そのままフライゴンに向けて言う。
「昨日は昨日、一晩たって考えが変わったのさ
ぼくがこのまま執着していたら、ジュカインは迷惑だろうし、それに……
ジュカインから非難されるのが辛いんだ。彼に記憶が無いことは分かっていても、
あの声とあの姿で非難されるのは……辛いんだ」
「ええっ、そんな……」
昨晩、寝る直前の時のぼくは何かおかしかったんだ。
衝撃ばかりで頭が対応できなくて、自分のことしか考えられなかった。
でも、一晩経った今は違う。人間は寝てる間に頭の中が整理されるっていうしね。
今のぼくは冷静だ。辛いことだって……冷静に受け止められる。
「……ん……」
フライゴンは、少し悲しそうに俯く。
ぼくは、慰めるようにフライゴンの緑色の頭をゆっくりと撫でてあげた。
……ふと顔を上げると、ぼくの視線の先に彼が……ジュカインがいた。
「おい、ちょっと待ってくれっ」
ジュカインは何故だか少し焦ったような顔つきで、ぼく達の元へ駆け寄ってくる。
そして、全く予想外な言葉をぼくに投げかけてきた。
「お前ら、帰るのか? この森から出るのか?」
「……?」
思わず、ぼくはキョトンと顔を困惑に呆けさせてしまう。
……何のつもりだろう?
『このジュカイン』はこの期に及んで、何を言いたいっていうのか。
またぼくを、虚仮にするつもりなんだろうか……?
ぼくはジュカインの顔を見据えながら、静かにこう言った。
「……ねぇ、森から出ろって言ったのは誰……? きみでしょ……?
今さら何のつもりかなぁ……また、ぼく達を虚仮にするつもり……?」
……図らずも、冷静な口調の中に若干苛立ちや怒りが入り混じってしまう。
「…………!」
ジュカインは何故だかそのぼくの発言に、唇を結び黙りこくってしまう。
……まるでショックを受けているよう……だけど、どうせぼくの気のせいだ。
コウイチくんが何か荒みかけてきてる…
「オ、オレは……」
それだけ言うと、ジュカインは何か言いたげに口元をモゴモゴさせながら俯いてしまう。
昨晩の威勢がまるで感じられない。まさに一晩の内に別人になってしまったかのように……
……別人?
――まさかっ
ある一つの推測が浮かぶと同時に、鼓動が波打ち、景色が変わったかのような錯覚を覚える。
この一晩に何かがあって……ジュカインの記憶が戻ったっ……?
そこまで都合のいい事があるものか――とは思っても、ジュカインのこの態度の急変には期待せずにはいられない。
……そうだ。もしかしたら……もしかしたらだ……!
風の音がよく聞こえる。期待感の入り混じった緊張感が、ぼくの胸のうちに充満し始める。
……沈黙。何とも言い難い、『妙な沈黙』。『変な沈黙』。
……何だ、この沈黙は? なんで黙っている。なんで何も喋ろうとしないんだよ、ジュカイン……!
数分後苛付くような沈黙を経て、ようやくジュカインが顔を上げた。
……次の瞬間ジュカインがぼくに言った言葉で、ぼくの期待は粉みじんに打ち砕かれた。
「……じゃあな、コウイチ」
「!?」
ジュカインのその一言を聞いた時、ぼくは『耳を疑った』。
理解は遅れてやってきて、その瞬間先ほどまであった胸の内の期待感は一瞬にして虚無感へと変わった。
音が、匂いが、その瞬間だけぼくだけから消え去る。
時が止まったかのような沈黙が、ぼくだけを包み込んだ。
……この感情……これは、ただ『期待を裏切られたから』……だけではない。
こんな結果……『考えてもいなかった』。
『コウイチ』。
ジュカインはぼくのことをそう呼んだ。ぼくを名前で呼んだんだ。
……昨晩、ぼくは一度も『自分の名前をジュカインに教えてない』……
そう、ぼくの名前を『このジュカイン』は『知らないはず』なのに……ぼくの名前を呼んだっ!!
そして『そのうえで』っ! そのうえで……ジュカインは『じゃあな』とっ!! 『じゃあな』と言ったっ!!
崖っぷちに立たされていた気分が、いまや崖の下に思い切り突き落とされた気分だ。
これ以上ないというぐらいに、思いっきり……
「……くくくっ、はは、あははは」
ある意味スガスガしい気分に、ぼくは思わず乾いた笑い声を上げてしまう。
何て馬鹿だったんだ、ぼくは。
……『記憶喪失』? 『記憶が戻れば』?
昨晩ぼくが喋った言葉の一つ一つ、考えた事柄の一つ一つ、全てが『恥』に変わる。
まるで『ピエロ』じゃないか、これじゃあ。ぼくは、『自惚れもいいとこ』なピエロだったんじゃないか。
木々が、ぼくを見下している。微かに漏れる木漏れ日が、嘲るようにぼくを照らし続けている。
頭が麻痺してゆく。何だか、もうこの件については何もかもがどうでもよくなってきた。
……ふと、フライゴンがぼくの肩を叩き呼び止めた。
「あのっ、コウイチくん……ボク、その、トイレに行きたいんですけど……ちょっと、いいですか?」
「へ?」
フライゴンの少々間抜けな発言に、思わずぼくはつい呆けた声を上げてしまう。
「ああ、うん……いいけど……でも、する場所とかは、ちゃんと族長さんに聞いてから行ってね」
「はい、ありがとうございます」
平静を取り戻し返事を返すと、フライゴンはぼくにそう一礼しからすぐ近くの族長さんの元へ駆け寄っていった。
「あのう、ここってトイレしていい場所ありますかねー、族長さん……」
「ああ、あるが……ここからは少し遠い場所だから、わしが案内するぞ」
「案内……あ、いや、別にいいですよー、族長さんは案内してくれなくても……」
族長さんは、フライゴンのその一言に疑問めいた表情を浮かべた。
「ん? でも、案内しないと場所分からないだろう。そこら辺にされちゃあ困るぞっ」
「あいや、そういう意味じゃなくてですねー……」
フライゴンはどこか曰くありげに目を細めニッと笑みを浮かべると、不意にジュカインの方を指差し元気にこう言った。
「ジュカインが案内してくれるらしいですからっ!」
「え、オレ?」
「そう、お前っ」
フライゴンはニコ〜っと芝居めいた笑みを浮かべながらジュカインに近づき、その腕をギュッと掴む。
「ま、待てよォ、オレ案内するなんて言った覚えないぞ!」
「るっさいなー、そんな細かいこと気にしないで、さぁ行くよ!!」
「おい、ちょ……」
半ば強引に、フライゴンはジュカインの腕を引っ張って森の奥へ消えてしまった。
ぼくも、族長さん達も、唖然とした表情のまま固まってしまう。
……トイレなんて、嘘だろう。フライゴンは、ジュカインと二人きりで何かを話すために、遠くに離れたんだ。
それで、何を話すつもりだって言うんだろう? 何を言っても、恐らく無駄だというのに。
そう、『記憶』なんてそもそも関係なかったのだから。そう、ジュカインは『はじめから』……『はじめから』……
「おい、何なんだよォ!!」
フライゴンは、まだジュカインの腕を引っ張り森の奥へと突き進んでいた。
やがて他の者の姿も見えなくなり、声も聞こえなくなる。
フライゴンはそれを確認するとジュカインの腕を離し、真剣な顔つきで向き合った。
「な、なんだよ……」
フライゴンの表情の真剣さに、ジュカインは声を吃らせる。
フライゴンは数秒ジュカインを見つめた後、責め立てるような口調でこう言った。
「おまえ、記憶戻っているんだろっ!?」
「えっ」
ジュカインの表情が真顔のまま凍りついた。
「お前、さっき言ったよね……『じゃあな、コウイチ』って! コウイチくんの名前を、お前は呼んだんだ!
ボク達は、その名前をお前の近くでは一切口にしていない!
お前は、『コウイチ』という名前を知らないはずなのに、知っていた!」
……記憶が戻っているんだろう、正直に言え!」
「うっ……」
ジュカインは見透かされたような言葉に動揺し、しばらく表情を固まらせ押し黙っていたが、
躊躇う様子はあまり見せず、むしろ何処か期待していたかのような調子でこう答えた。
「そうさ、記憶は……戻ったよ」
――――
「おい、何なんだよォ!!」
フライゴンは、まだジュカインの腕を引っ張り森の奥へと突き進んでいた。
やがて他の者の姿も見えなくなり、声も聞こえなくなる。
フライゴンはそれを確認するとジュカインの腕を離し、真剣な顔つきで向き合った。
「な、なんだよ……」
フライゴンの表情の真剣さに、ジュカインは声を吃らせる。
フライゴンは数秒ジュカインを見つめた後、責め立てるような口調でこう言った。
「おまえ、記憶戻っているんだろっ!?」
「えっ」
ジュカインの表情が真顔のまま凍りついた。
「お前、さっき言ったよね……『じゃあな、コウイチ』って! コウイチくんの名前を、お前は呼んだんだ!
ボク達は、その名前をお前の近くでは一切口にしていない!
お前は、『コウイチ』という名前を知らないはずなのに、知っていた!
……記憶が戻っているんだろう、正直に言え!」
「うっ……」
ジュカインは見透かされたような言葉に動揺し、しばらく表情を固まらせ押し黙っていたが、
躊躇う様子はあまり見せず、むしろ何処か期待していたかのような調子でこう答えた。
「そうさ、記憶は……戻ったよ」
「やっぱり……!」
フライゴンの顔つきが、一気に引き締まる。
しかしそうかと思えば急に淋しげな表情へと変わり、ふと俯いてしまった。
フライゴンはそのまま上目遣い気味にジュカインを見つめて、静かにこう言った。
「……じゃあさ、何でコウイチくんに『じゃあな』なんて言ったのさ?」
「…………」
ジュカインは返答を躊躇い、目を伏せたまま動かない。
そのジュカインの態度に、フライゴンはもどかしげな表情を強めていく。
「ねえってば、答えてよジュカイン。どうして記憶が戻ったってのに、コウイチくんを突き放したんだよ。
記憶が戻ったってんならそれをコウイチくんに報告してさ、そのままボク達の元にもどればいい話じゃあないか!」
「……言えなかったんだよ」
ふと、ジュカインが俯いたままボソリとそう呟いた。
「え?」
「俺だって最初は……今朝まではそうしようと思っていたさ。
だが、そんなんで簡単に『溝』が埋められるわけがない……
さっきコウイチと話した時、ひしひしと感じたんだ。オレがアイツにつけてしまった心の傷の深さ……!」
拳を強く握り締め、怒りを多分に含ませた口調で、ジュカインは独り言のように小声でそう喋り続ける。
その怒りは、自分自身……ジュカイン自身のみに向けられているものだった。
「そう、記憶は戻った。だが、断じて記憶が『入れ替わった』ってわけじゃない……
オレがコウイチに吐いた暴言の数々、それを受けたコウイチの反応、表情、全てオレは鮮明に覚えちまっているんだ……!」
「……だからこそ、思うんだ。
オレはこのまま『何事もなかったかのように』コウイチの元に戻っていいのか?
全てを謝罪し戻ったとして、コウイチは今までのようにオレに接してくれるのか?
今までのようにオレに対して『馴れ馴れしくしてくれるのか』? ……ってな」
フライゴンは真面目な顔でその独白を聞き続けていたが、
最後の一節を聞くと同時に、疑問めいた表情を浮かべた。
「お……お前、馴れ馴れしくされるのは嫌いなんじゃあないのか?」
まだ目を伏せたままのジュカインに向かって咄嗟にフライゴンがそう問うと、
ジュカインは顔を上げ、少しだけ目を逸らしてこう答えた。
「……違う……その、逆だ。」
「え?」
「…………」
照れくささからかジュカインはその事はそれ以上は説明せず、話を続けた。
「……とにかく、そういう事さ。こんなオレが戻っても、雰囲気が悪くなるだけだろう?
だから……そう、『お前らのためにも』オレは戻るわけにはいかねーんだ……」
そこまで言うとジュカインは再び俯き、感情を押し殺すように歯を食いしばりだした。
数秒のみの沈黙の後に、ふとフライゴンが静かな口調でこう言った。
「ジュカインってば、いっつも強がってるくせに……本当はこんなデリケートさんなんだね。
でもサ、正直おまえ気にしすぎというか……何かちょっと間違ってると思うんだけど?」
「なに?」
顔を上げ、フライゴンを見やるジュカイン。
フライゴンはどこか呆れた風なため息をつきながら、諭すように言う。
「お前がコウイチくんの元に戻るか、戻らないか。どっちがよりコウイチくんにとって辛いか……分からないかなあ?
興奮してないで冷静に考えてみなって。コウイチくんにとって、お前自身にとって、何がベストなのかを」
言い終えてから、フライゴンはジュカインの目をじっと見つめだした。
どこか責め立てるような眼差しから逃げるように、ジュカインは再び目を逸らす。
「……ふう」
フライゴンは一度浅くため息をつくと、おどけるように両手を軽く上げながら、冗談めいた口調で喋り始めた。
「じゃあさ、コウイチくんと一緒にいた時期が一番多くて、一番コウイチくんの事を分かっているこのボクの……
……もしかしたら一心同体〜っ!? ってなくらいコウイチくんを理解していますなこのボクの意見を言わせてもらうとだね……」
フライゴンはそこまで言い終えると、上げていた両手をジュカインの肩にやり、
一転して真顔で相手を真っ直ぐに見据えながら、感情を色濃く込めた強い語調でこう言った。
「ジュカインが戻ってこない方が、よっぽどヤダよっ。戻ってきて欲しいよっ」
「……!!」
フライゴンはそのまま、しばらく真顔で相手を見つめ続けていたが、
ふと鼻で笑うと共に表情を崩し、雰囲気を緩和するように、ことさら抑揚を激しくさせて喋り始めた。
「ってかさー、どっちにせよ最低限コウイチくんとボクへの謝罪くらいはするべきでしょォーよ。
土下座くらいはしてくれなきゃさー。そう、『土下座穴掘り』くらいは……なぁーんちゃってネ、それは冗談っ」
フライゴンは軽く笑いかけてジュカインの肩を二、三度ポンポンと叩いた後、くるりと身を翻した。
「んじゃー、もうそろそろ10分くらい経つし……ボクは戻るとするかな。
……お前はどうするの? ……戻ってきてくれるよね。信じているよ、ボクは」
言葉と同時に、元来た道を沿ってフライゴンは歩き出した。
そしてそのまま後ろ姿が見えなくなるまで、彼がジュカインの方を振り返る事はなかった。
……
オレは……
今まで、コウイチや仲間達にどれだけの幸せを与えてもらっただろう。
どれだけ慰めてもらっただろう。どれだけ心を癒してもらっただろう。
……溢れるほどの感謝の気持ちを、なぜオレは腹の中に蓄え続けていたんだろう?
出さずに蓄えていたこの感謝の気持ちを、一片でもオレはコウイチに伝えてあげたことがあるか……?
……いや、ない。
言葉の壁という、越えられない壁もあった。が、それ以上に……
身の程以上のプライドが、いつだってそれを邪魔していた。
自分自身嫌気が差すくらい、オレは素直じゃあないんだ。
……そうだ。今、オレを邪魔しているのは、まさしくそのごくごく下らない感情だけだ。
さきほど、オレはフライゴンにこう言った。
『お前らのためにもオレはついていくわけにはいかない』と。
自分の心根を曝け出したつもりだったが、いま冷静に考えてみればまるでバカバカしい『建前』に過ぎなかった。
あの『お前らのためにも』という言葉は……『自分自身のための言い訳』に過ぎなかったのだ。
本当は『謝罪や感謝をするなんて恥ずかしい、プライドが許さない』と考えていただけだっていうのに、それを自覚しようともせず……
オレは『お前らのためにもついていくわけにはいかない』と言ってしまっていたのだ。
『コウイチへの感謝の気持ちは、そのコウイチのためにも溜め込んでおくべき』と考えてしまっていたのだ。
いわくプライドのためだけに、後々その自分自身まで後悔するであろう事も全くおかまいなしに、己をも騙していたのだ。
『感謝』……その感謝している相手の『ため』にも……? 感謝は伝えず溜め込んでおく『べき』……?
バカがっ……! バカかオレは……考えれば考えるほど、ありえねぇじゃねえか……
そうだよ。いくら感謝してようが……いや、感謝していると『思って』ようが……
伝えなけりゃっ……伝わらなけりゃ……一切感謝していないのと同義じゃあねえか、オレっ……!
1頑張って〜
フライゴン可愛いぜw
記憶がなくなったときのことを謝罪し、そして、感謝の気持ちを伝えるんだ。
オレが、どれだけコウイチに色々な物を与えてもらったか、それでオレがどれだけコウイチに感謝しているか。
無駄なプライドのせいでもどかしいくらいに伝えられなかったオレの心根を全て伝え、そしてコウイチ達の元へ戻るんだ。
そうしなければ、オレはこの後『必ず』後悔することになる。
例え時間が経ち収まったとしても、持病の如く定期的に再発しオレを苦しめ続けるであろう、最悪の『後悔』が。
感謝の気持ちを伝えるのに必要なのは、その最悪の後悔に微塵も満たぬほどの『一時的な後悔』……つまりは、『勇気』のみだ。
……『コウイチにとって』、そして『自分自身にとっても』……どちらがベストかは、冷静に考えてみれば明白だ。
そうだよ、考えるまでもなく、オレがどうすればいいかは決まっているじゃあねぇか!
幸い、まだ間に合うはずだ。まだ、手遅れじゃあないはずだ。
記憶がなくなっていた時のオレの無礼を謝り、そして伝えるんだ。
オレがどれだけコウイチに対して感謝しているかを……そう、今まで溜め込んでいたものを、全て伝えるんだっ!
……もちろんさっき散々考えたように、プライドというかオレのイメージは丸くずれになるし、
どんな反応が返ってくるかも、分からない。もしかしたら、冷たい反応を返されるかもしれない。
でも、ちょいと注射を刺されるようなものさ。一時的なことだ、何も問題はない。
注射刺されるのがイヤなんてサ、ガキの考えることだろォ? オレはリッパな大人だぜっ!
……
……怖い。
……バカ、この程度のことで怖がるなよオレっ! それこそ、プライド丸つぶれだぜ。
……
……
……
……時間が、経っていく。
「土下座穴掘り」という言葉がまた出てくるとは思わなかったw
つかジュカイン、ど、どうなるんだ?
……期待してる
あと二、三回で第二話は終わると思います。
では、次は明後日辺りに…
乙ー
見事に最初と立場が逆転したな。
>>409 何だかんだあってジュカインは死ぬと予そ(ry
ここって勝手に展開予想して書くのとかおk?
>>414 そこは自重でしょ
作者が書き辛くなるだろうし
そうかなー。スマソ
――――
「遅いなあ……」
思わず、ぼくはそう呟いてしまう。
フライゴンとジュカインがトイレへ行ってからもう『二十分以上』は経ってるっていうのに、二匹とも一向に戻ってこない。
いくら何でも普通に用を足すのに、ここまで時間がかかるわけがない。
ジュカインと話し込んでいるのだろうか? 喧嘩とかしてなけりゃいいけれど……
「……しかし、本当に遅いな。わしらが見に行こうか、人間様?」
族長さんも待ちかねたのか、ぼくにそう提案する。
迷わずお願いしようとした、その瞬間。
「コウイチくん!!」
不意に、辺りにフライゴンの声が響き渡った。
ぼくは皆の視線と共に、声の響き渡った方向へ視線を走らせた。
そこには、フライゴンがいた。……フライゴン『だけ』が、いた。
「お……お待たせしてすいません……えへへっ」
フライゴンはすまなそうに照れ笑いを浮かべながら、ぽてぽてとこちらへ歩み寄ってくる。
ぼくはすかさず、いま芽生えたばかりの疑問をフライゴンへ投げかけた。
「ねぇ、フライゴン……ジュカインは……?」
「へっ、あー、ジュカインですか?」
フライゴンはその質問を聞くと、何故だかうろたえるように目を泳がせた。
「ジュ、ジュカインはですねー、まだトイレが長引くそうでしてっ!
で、でも、すぐに戻ってきますよ。ええ、すぐに……すぐに戻ってきますともっ!」
目を泳がせたまま、妙に早口でそう答えるフライゴン。
……何か隠しているのがバレバレだ。
たぶんジュカインと何かを話してきたんだろう。
そしてその中で、フライゴンがこんなそそっかしい態度を取ってしまうような『何か』があったんだ。
少なくとも、ぼくに聞かせたくないようなやり取り、あるいはそのような出来事があったことに間違いはない。
「……ふう」
少しの間だけあった小さな期待が、ため息となって零れ落ちた。
「ねぇ、コウイチくん……もちろん、待ちますよね?
ジュカインが帰ってくるのを、待ちますよね?」
どことなく縋るような口調でそう言うフライゴン。
「……だから、言ってるじゃあないか」
ぼくの答えは、決まっている。『ジュカインにとっての最良の選択』は何かを、ぼくは理解している。
フライゴンの様子に少し躊躇うも、ぼくはそれを口に出した。
「今すぐ、森を出る……」
「なっ」
予想通り、フライゴンは顔を衝撃に歪ませる。そしてこれまた予想通り、慌てたように反論を始めた。
「き、聞いてくださいコウイチくん。もうコウイチくんも気づいてると思いますけど……
ジュカインは記憶が戻っていますっ! もうすっかり記憶を戻しているんですっ!
彼は今、ボク達の元に戻るかどうかを迷っていますっ! だから、待てばきっと……いやっ、必ずっ!」
フライゴンはぼくの腕にしがみ付き、泣きつくように大声でそう言う。
その言葉が族長さん達にも聞こえたのか、辺りのざわめきが途端に増えだした。
「ジュ、ジュカインの記憶が戻っているというのは……ほ、本当なのか?」
そう言って割り込んできたのは族長さんだ。その顔は、困惑の念に満ちている。
フライゴンは族長さんの方を振り向くと、すぐに答えを返した。
「ええ。実はさっきトイレに行った時に、ジュカインと色々話したんです。
そのときジュカイン本人が言ってました! 今朝記憶が戻ったと……!」
「なっ……」
族長さんの困惑に満ちた顔が、一瞬にして驚きに染まる。
言葉も出せないほどの驚きだったのかそのまましばらくは表情を固まらせたまま押し黙っていたが、
思い出したように顔をハッと上げると、ぼくに対してこう言い出した。
「よ、よかったではないか人間様、ジュカインの記憶が戻って! はっ、ははっ、これはめでたいっ!」
元気付けるように言葉を弾ませ、笑顔を見せる族長さん。
……その様子が、今のぼくの心情とあまりにミスマッチすぎて……ぼくはすかさず、こう言っていた。
「……違うね」
「へ?」
ぼくのその一言に、フライゴンと族長さんは同時に疑問めいた表情を浮かべる。
二匹に向けて、続けてぼくはこう言った。
「『そもそも記憶喪失になんかなっていなかった』……そういう事だと思うんだけどね」
「えっ?」
ぼくの言ってることがよほど意外だったのか、呆けた声を上げ表情を固まらせるフライゴンと族長さん。
「えっ、えっ、えっ? 意味が分かりませんよ、コウイチくん。
ジュカインは、『今朝に記憶が戻って』……」
フライゴンは呆けた表情のまま、そんな事を言い出した。
……あまりに間抜けな返答だ。そんな……
「そんな『都合のいいこと』、有り得ると思うかい?」
「!」
ぼくだって一度はその可能性を考えたし、そうだったらどんなにいい事かとも思った。
だけども『一晩寝たら記憶が戻った』なんて、そんなバカに都合のいいことがそうそう有り得るわけがない。
これは現実。漫画やゲームや夢なんかじゃあないんだから。
「つ、都合も何も……でもジュカイン本人は、今朝記憶が戻ったって言ってて……」
ひどく自信のない口調でそう反論するフライゴン。
「……きみが嘘をついていないのなら……ボロを出した、つまり、ぼくの名前をうっかり出してしまったジュカインが、咄嗟についた嘘さ」
「嘘って……」
どんどんフライゴンの表情が曇り、力ないものへと変わっていく。
しかしふとハッと目を見開くと、言い訳じみた口調でこう反論しだした。
「じゃっ、じゃあっ! 記憶喪失になんかなってたとしたら、昨晩のジュカインの態度はアレ何だったんですか、
記憶があったなら、あんな暴言コウイチくんに吐けるわけないでしょう!?」
「あれが『素』だったんじゃあないか? ジュカインはぼくを……いや、『人間』を嫌っている。何としてでも別れたいと思っている。
……何と言おうと何と思おうと……ジュカインがここにいないのが、何よりの証拠さ……」
「うっ……」
フライゴンは言葉を失い、泣きそうな目をしたまま俯いた。
……
そう、今までジュカインが、ぼくの元で一度だって懐いたそぶりを見せたことがあるか?
ジュカインが、ぼくを好いているというそぶり、片鱗を、一度だって見せたことがあったか?
……こういった疑問は前にも持ったことがあるし、それについてオオカマド博士に相談したこともある。
そのときオオカマド博士は、『逆らわず命令を聞くのなら信頼している証拠よォん』と言っていた。
そして、それにぼくも納得していた。納得していたけれど……
どうだろう? そうだと言い切れるか?
ジュカインは子供の頃に、『人間』に、ぼくと同じ『人間』に、虐待され捨てられた経験がある。
そんなジュカインが、人間を信頼するだろうか? 人間とずっと一緒にいたいと思うだろうか?
……分からない。分かるはずがないけれど、ただ一つ分かるのは……
今この場に、ジュカインがいないということ。
フライゴンに説得されてもなお、ジュカインはこの場に来ていないということ。
もし都合よく今朝に記憶が戻ったとして、その上でぼくの元へ戻るのをためらっているのだとしたら、何をためらっているっていうんだ?
今朝に記憶が戻ったとして、そしてジュカインがぼくにちゃんと懐いているのだとしたら、
ためらう必要もなく、問答無用でぼくの元へ戻ってきてくれるはずじゃあないか。
それなのに、彼は戻ってこない。ぼくに向かって『じゃあな』と別れの挨拶すらもした。
これってどう? ……要するに、こういうことだよね。
ジュカインはぼくと一緒にいたくないという事。
つまりぼくを、人間を未だ嫌っているということ。
いや、そうでなくとも……少なくとも……最低限……
ぼくよりも、この森を優先したということ。
今までのジュカインとの思い出……色々あった。
本当にたくさん色々な事があって、そのどれもがぼくにとって幸せなことだった。
その中でぼくがずっと漠然と信じ続けていたもの。……それは全て、ただ一方的なものに過ぎなかったのだ。
……『事実』が、それを証明している。
「族長さん……本当にありがとうございました……お世話になりました……」
未だ呆けた顔で突っ立っている族長さんへぼくはそう言い、一礼する。
「ほ、本当に、森を出るのか……本当に……?」
念を押すようにそう言う族長さん。ぼくは黙って頷き、フライゴンの方へ向き直った。
フライゴンは未だ俯き黙りこくっている。
ぼくは身を翻すと同時に、その手を取りぐいと引っ張った。
……微かな抵抗。
「きっと来ますから……来て、ボク達の元へ戻ってくるから……だから、まだ待ちましょうよォ……」
か細く弱弱しい声。振り返ると、フライゴンは潤んだ目でぼくを見上げている。
……心がじわじわと疼くように傷む。罪悪感が芽生えてくる。
だけど……考えを曲げるわけにはいかない。
ぼくはフライゴンの肩を掴み、目を真っ直ぐに見据える。
「これでいいんだっ」
「昨晩ぼくは、『ぼくのジュカイン』なんて何度も何度も言ったけれど……厳密に言えばそうじゃあない。
ぼくは……あくまで、ジュカインの保護者だっ。傷ついたジュカインを保護してきたってだけだ。
だから本来、ジュカインがぼくの元を離れ森へ帰るのは当然のことっ。当然の流れなんだっ。
一度人間に虐待され人間に捨てられたジュカインが、人間と一緒にいる事を望むはずがないし、幸せな気持ちになるはずがないっ」
「そんな……」
「ジュカインのためを思うのなら……待ってちゃあいけない。どんな形であれ、彼の中に心残りを残すような事をしちゃあいけない。
彼がぼくらに対してどう思っていたかが分かった以上、すぐ離れて消えるべきだ。そう、ジュカインのためを思うのなら……」
「ジュカインのためを思うなら……っ!」
すれ違いまくりんぐ
「…………」
フライゴンは言葉を失い俯いた。
再び手を取り、引っ張る。
……抵抗は、ない。
ぼくはそのまま身を翻し、フライゴンの手を引きながら歩き始めた。
その場にいる人数の多さとは反対に、森は全くの沈黙に包まれている。
沈黙の中をぼくは歩いてゆく。土を踏みしめる乾いた音がぼくの耳に生々しく入ってくる。
……これでいいっ。これでいいんだっ……
悲しいだけでなく、恥ずかしくて、悔しい。いくつもの感情がぼくの胸中にたくさんの波を作っていく。
波のうねりは徐々に増していく。荒れ狂う波は、ぼくの胸の内をしつこいぐらいに叩いている。
そして、どこから漏れ出たのか、いつのまにやら胸の内を抜け出た波が、ぼくの目から排出されていく。
……っていうか、なんで……?
ちょっと待ってよ、これって……本当のこと……?
……ようやく、掴めてきた。
今までまだしつこく払われないでいたほんのちょっぴりの頭の靄が、
漏れ出てきた水に綺麗さっぱり洗い流されてしまったのを感じる。
……本当にもう……これで終わりなんだね……
さようなら、ジュカイン。
第二話 おわり
「待てぇっ!!」
「「!!」」
不意に森中に響き渡る声。……馴染み深い声質。
望み求めていたけど、もう聞くことはないと思っていた声。
確かに、聞こえた。その証拠に、今その場にいる全員が一斉に声の聞こえた方へと振り向いている。
皆より一テンポ遅れて、ぼくも振り向いた。
「ジュカイン……」
ジュカインが佇んでいた。
軽く肩を弾ませながら、真剣な眼差しでこちらを見つめている。
ジュカインが、帰ってきたんだ。
……なぜ?
「ジュ、ジュカイン!!」
フライゴンは、安堵と共に怒りも混じったようなそんな声を上げ、ジュカインへと駆け寄っていく。
「何でこんな来るの遅いんだよっ、来ないかとか思っちゃったじゃないかぁっ! バカっ、バカバカっ……」
「……フライゴン、ちょっとだけ……待ってくれないか」
「え……?」
ジュカインは、目線をフライゴンからぼくに移した。
相変わらず真剣な眼差しのまま、ぼくを見つめている。……少しだけ、歯を食いしばっているような気がする。
『何の用?』とは言えない雰囲気だ。ジュカイン、一体何を……
……その次の瞬間だった。
ジュカインは『ある動作』と共に、おそらくぼくへ向けて、こう叫んだ。
「ごめんっ!!」
軽いざわめきが森中を包んだ。
「えっ……」
まるで意外だけれど、ぼくが最も望んでいた言葉の中の一つを、ぼくへ向けてジュカインは叫んだ。
そして、それよりももっと意外だったのが、それと共にジュカインが取った動作だ。
あのプライドの高いジュカインが……ぼくへ向けて、『土下座』している。
「オレ……お前にたくさんひどいこと言った……たくさん傷つけた……
本当に悪いことをした、謝っても、謝っても、謝りきれないくらいにだっ」
ジュカインは、まるで柄にもない謝罪の言葉をぼくにやたらと投げかけている。
「な、何をして……」
軽く頭が混乱していく。
目の前にいるのは、本当にジュカイン……?
何よりも先に浮かんでくる感情は、『疑惑』。『不安』。
当然さ、今までぼくは『このジュカイン』に散々虚仮にされてきたのだから。
もしや、これもジュカインがぼくを虚仮にするための……
「コウイチっ!!」
「!」
不意にジュカインがぼくの名前を叫び、ぼくはハッとする。
ジュカインは未だ床に手と膝をつけながらも、顔を上げぼくを見つめていた。
目も、口も、震えている。まるで今にも泣き出しそうな表情をしているんだ。
「今さらこんなことして白々しいとか、思わないでくれ。
信じてくれっ、オレはっ……オレは、昨晩までは本当に記憶がなかったっ!!
今朝に記憶を取り戻したんだっ!! 信じてくれっ!!」
「都合のいい話と思うかもしれない。だからこそ信じてもらえそうになくて怖いんだが……
本当に本当なんだっ! 昨日のオレの発言は、実質全部『オレ』の発言じゃあないんだっ!!」
声を震わせそう叫ぶジュカインの顔は、見て分かるほどに必死な形相だ。
言葉の一つ一つに熱がこもっている。……演技や嘘には、到底見えない。
だとしたら、『このジュカイン』の言っていることは……言っていることは、まさか……
……でもっ。仮にそうだとすると、大きな疑問が沸いて出てきてしまう。その疑問を、ぼくは投げかけずにはいられなかった。
「ジュカイン……さっきさ、『じゃあな』って言ったよね……
不思議だよね。今朝に記憶戻ったんだったら、きみ何であんなこと言ったのかなァ……?」
「!!」
ジュカインの言っている事が本当であってほしいからこそ、
安心に足る確証が欲しいからこそ、それを聞かないでいられなかった。
そしてぼくのその問いに、ジュカインは身を乗り出しすぐにこう答えた。
「あれは……オレが別れたいから言ったってわけじゃあないっ。まったくもって本音じゃないんだ。
あれは、お前を気遣ったつもりだったり、こうして謝るのが気恥ずかしかったり……単なる、気の迷いだったんだよォっ!」
「!」
ぼくは驚いた。……ジュカインの答えた内容にではなく、ジュカインが即答したということに対してだ。
一片の躊躇いも見せず、それどころか『早く誤解を解きたい』とばかりに必死な口調で、ジュカインは即答したんだ。
「そうだ、オレはお前と別れたいなんて思うことはある筈ない。なぜならオレは……」
「オレは……お前に……お前にっ! たくさん感謝しているからだっ!!」
「……!!」
思いがけない言葉。そしてそれを言ってのけたジュカインの顔には、虚偽の色は一片も感じられない。
まさか……本当に……本当に……?
ぼくの胸を覆っている黒い何かが、徐々に溶けていく。
つづく
乙!
途中にフェイントあったな。
続きは明日か明後日に……
>>414 事細かな予想はともかく、ちょっとぐらいならば逆にどんどんしてほしいです。
あくまで、ちょっとぐらいならばですよ。
しかしコウイチくんは土下座され率高いなw
とりあえず乙
初乙させてもらう
しかしこのぐらいのポケモン小説が投稿されるサイトとかってないのだろうか
そうそう無いだろ。
……オレは今、土下座をしている。
大勢の視線の前で、オレは土下座をしている。
そしてそうやって土下座をしながらオレは、
言い訳じみた謝罪を、必死な口調と必死な形相でのたまっているのだ。
……恥ずかしいっ。この上なく恥ずかしいっ!!
不安と共に込みあがってくる恥ずかしさ。歯を食いしばって耐えるだけで精一杯だ。
こんなの……オレのガラじゃねぇっ。
ガラじゃねぇっ、ガラじゃねぇっ。
全くガラじゃねぇが……
こうしなければ、あの幸せな日々は戻ってこない。
食べるものや寝るところに困る事も無く、常に温かい愛情をかけられ、
仲間もたくさんいる。何もかも満たされていた日々。
あの日々が、あの素晴らしい日々が、コウイチが、仲間達が……
プライドを捨てるだけで、返ってくるんだ。
安いものさ、それを考えればっ!
だから……耐えろっ。明日のために今を耐えるんだっ!
そして……伝えろっ、伝えるんだ。オレの感謝の気持ちをっ……オレの『本音』をっ!!
オレはコウイチの顔を真っ直ぐ見据えながら、ありったけの感情を込め、叫んだ。
「コウイチっ! オレは……お前に感謝しているっ!!」
「感謝しているっ、この上なく感謝しているんだっ!!
何よりも、誰よりも……コウイチ、オレはお前たちに感謝しているんだっ!!」
遂に言ってしまった。今まで胸の内にしまい続けていたオレの全くの本音。
だが、こんなもんじゃあない。まだまだ、まだまだ……伝えたいこと、溜め込んでいることはたくさんある。
もうプライドなんて丸崩れなんだ。このまま突っ走れ、突っ走っちまえっ。
「嘘じゃあない、それはオレの全くの本音っ、今までずっと恥ずかしくて溜め込んでいたオレの本音だっ!!
ありがとうっ、ありがとうっ、ありがとうっ、何度でも言えるぜ。何度でも言えるが……
そんな言葉なんかで何度言っても足りないくらいの感謝の気持ちがあるんだっ」
クサい言葉だ。恥ずかしいが、クサいくらいで丁度いい……っというか、最大限伝えようとすればどうしてもクサくなっちまう。
……オレの目の前のコウイチの表情は、未だ疑惑に満ちている。まだオレの気持ちが伝わりきれてないのだ。
「お前と、お前たちといれる時間は、オレにとって一番幸せな時間だったんだ!
不幸せだとか居心地悪いだとか思ったことなんてただの一度もないっ!! いつもずっといつだって幸せで、居心地よくって……!!」
あぁ、本音ではあることに変わりないが、言ってる自分がこっぱずかしくなるくらい痛いっ。
でも、それでも、まだだ。まだまだ、だっ。コウイチの表情はまだ……疑惑に満ちている。
「だからお前を嫌ってるだとか、お前たちと別れたいなんてこれっぽっちも思ってないし思ったこともないっ!!
それどころか、出来ることならずっと一緒にいたい……ずっとお前のポケモンでいたいっ……!!」
一向に変わらないコウイチの表情。
なぜだっ! 伝われ、伝わってくれっ!
「そうさ、出来ることならっ。出来ることならずっ、と……できっ……」
あっ……あれ……これは……?
「で、できることならっ……」
やべっ、何だコレ……目の奥から溢れる熱いもの……
これは涙かっ……!?
ざけんな、一体何の涙を流しているんだよオレはっ……!
「コウイチ……オ、オレ゙は……」
喉がヒクついて言葉すらもまともにしゃべれない。息苦しい。頬を熱い液体が伝っていく。
マジかよっ、いい大人なオレが何で泣いてんだよっ……恥ずかしいっ、みっともないっ、だらしないっ、カッコわるいっ……!!
そうさ、オレはいつも強がっているけど……
本当は体も精神もひどく脆い。おそらく他のコウイチのポケモン達の誰よりも脆い。
……だけど……だからといって……泣くかよっ……!?
いくら恥ずかしいからって……なぜ泣くんだっ、オレ……!
涙や恥のせいか頭が真っ白になり、言葉が出てこない。
出てくるのはワケの分からない嗚咽ばかり。そんな嗚咽が出てくるたびに、恥ずかしさが増していく。
オレは我慢できず、再び頭を下げ顔を伏してしまった。
……顔を伏しても、わけの分からない涙は溢れ続けて止まらない。
ふと、オレは気づく。
胸を締め付け、オレに涙を流させている感情は、恥ずかしさだけではなく、もう一つあることに。
そして、オレに涙を流させている一番の要因は、
『恥ずかしさ』の方ではなく、その『もう片方の感情』であることに。
この感情は……『不安』だっ
ずっと溜め込んでいた正直な気持ちを言っても言っても、
コウイチの疑惑に満ちた表情は、凍ったように一向に変わらない。
これでは、意味がない。
プライドを捨て勇気を持って全てを伝えたところで、結局伝わらなければ何の意味もないのだ。
何も伝わらず、何も信じてもらえず、結局は全てが無下に終わってしまうかもしれないという不安。
醜態を晒した甲斐もなく、後悔と惨めな気持ちを胸に多量に残したまま、
この森で新しい生涯を送ることになるかもしれないという不安。
そんな不安の流れこそが、オレが涙を流してしまった一番の要因だったのだ。
オレが顔を伏してからも、不気味なくらいの静寂は森を包んだままだ。
鳥や虫がやかましくさえずっているだけで、ポケモンの声は一切聞こえない。
それが一層オレの不安を斯き立てる。
オレの胸中の不安の流れは徐々にその強さを増していき、
少しは抱いていた希望やら何やらも無差別に巻き込み塵に変え、やがては流れの一部としてしまう。
”……ねぇ、森から出ろって言ったのは誰……? きみでしょ……?
今さら何のつもりかなぁ……また、ぼく達を虚仮にするつもり……?」”
コウイチの疑惑に満ちた顔が、冷めた声が、目に耳に焼きついて離れない。
幸せだったあの頃と今とのギャップが、オレの心中の絶望を深めている。
コウイチの胸に張り付いているオレへの疑惑は、
もはやどうやっても剥がすことのできない段階まで来ているのかもしれない。
だとしたら、今オレのやっていることは……むしろ疑惑を深めるばかりで……
まったくの無意味どころか、それ以下……以下の以下……完全な逆効果なのか……!?
……なら、これからどうする?
逆効果だってことを分かっていながらまだこうして土下座し続けるか?
それとも、今すぐこの場から走って逃げ出そうか?
もうプライドなんて関係ない所まで来ているのだから、逃げ出しちまおうか?
いや、逃げ出したとしてどうする? それからどうする?
族長やキモリどもに合わす顔すら無くなっちまうじゃないか。それこそ、プライドも何もあったもんじゃあない。
いや、今の時点でもはやそうなんじゃあないか?
『土下座しながらスンスン泣きだしちまうだらしないヤロー』なんていうイメージを、もうみんな深く抱いてしまっているんじゃないのか?
だとしたら、オレには以後もう満足な暮らしは待っていないって事じゃあないか?
もう 終 わ っ て い る の か ?
……不安、不安、不安……不安だっ……
死ぬっ、死ぬっ……このままじゃ、不安に押しつぶされてオレは……死ぬっ……
助けろっ……誰かオレを助けろ……誰か、誰かっ……
――助けてっ――
「……おいでっ」
不意に、沈黙を破りオレの耳に声が入り込んできた。
……透き通るような高い声。
「えっ……」
オレは耳を疑い、一瞬頭が真っ白になった。
今オレの耳に入ってきた声は、コウイチの声だ……
そしてそのコウイチの声が発した言葉は……
……マジかよっ、マジかよっ、もし耳の錯覚じゃなかったとしたら……錯覚じゃなかったとしたらっ……!!
いまオレを殺しかけている、脳裏の焼印……
コウイチの疑惑めいた表情。『信じることができない』といったような表情。
それは、今……? 今……!?
オレは一度涙を拭った後、ガバリと頭を上げた。
脳裏に焼きついていたコウイチの表情と、今オレの目の前にあるコウイチの表情は食い違っていた。
『全く食い違っていた』。
オレの脳裏には、コウイチの疑惑めいた表情が焼きついていたが、今目の前にいるコウイチは……
泣いている。うっすらとだが、涙を流している。
そしてその口元は、軽く笑みの形を作っているのだ。
体全体をざわっと、言葉では言いえぬ感覚が走った。
「信じて、いいんだよね……? 本当に、きみのこと信じていいんだよね……!?
なら、ぼく信じるよ? 信じちゃう……だから、おいで。ジュカイン……」
コウイチは一度ずずっと鼻をすすり涙を拭った後、
腕を広げ、オレに向かって満面の笑顔を見せながら、こう言った。
「ぼくの元へ……戻っておいで、ジュカインっ!」
若干涙ぐんだ声でのコウイチのその言葉が、確かにオレの耳に響き渡る。
『戻っておいで』『ぼくの元へ戻っておいで』
その言葉は、今の今までオレの胸中に渦巻いていた靄……不安を、一瞬にして打ち払った。
そして……
「おっ……」
とてつもなく熱い何かの感情の塊が、急激に腹から込み上げてきた。
感情の塊は全身を粟立たせながらオレの体を駆け上がっていき……
「おおおおおおっ……!!」
搾り出すような唸り声となって口から発せられた。
唸り声を絞り出すごとに、充足感、高揚感、そういったものが胸の奥から沸き溢れてくる。
止まらない脳みその痺れ。止まらない唸り声……『歓喜』っ『歓喜』っ『歓喜』っ!!
戻れるっ。コウイチの元へ……戻れるっ戻れるっ戻れるっ!!
あの幸せな日々が……満たされていた日々が……またっ!!
オレはたまらず立ち上がり、コウイチへ歩み寄りながらその名を叫んだ。
「コウイチっ!!」
「ジュカイン!!」
コウイチは涙に塗れた声でオレの名を叫びながら、オレをひしと抱きしめた。
小さな腕がオレの背中に。小さな体がオレの体に。小さな頭がオレの肩に。
コウイチはオレの肩の上に涙を落としながら、謝るようにこう言った。
「ジュカイン……ごめんっ、ごめんね? 疑ってかかって……土下座なんてさせちゃって……
本当にごめんっ。ぼく、ぼく、全然知らなくて……また虚仮にされてるのかなとか思って……」
「いいんだよ、謝らないでくれ……謝るべきはオレだっ、オレなんだァっ……
とにかく、よろしくなっ? これからも……これからも、ずっとっ……」
「もちろんっ、もちろんだよジュカインっ……みんなと、ずっとずっと……ねっ?」
コウイチは笑みが混じった声でそう言うと、オレを一層強くぎゅうっと抱きしめた。
オレの目から、温かい涙が壊れた蛇口か何かのようにとめどなく溢れ続ける。
コウイチの腕の中はとても暖かくて……体も心の内も落ち着く暖かさがあって……
胸の奥から、湧き水のように緩やかに溢れてくる暖かさがあって……
……あの時と同じだ。コウイチと初めて出会った日。オレの運命が一気に明るいものへと変わった日。オレが救われた日。
オレは救われたっ。救われたっ。コウイチによって、またも救われた……
これからのこと、考えるだけで心が躍る。安心感が胸を浸す……
オレもコウイチの首を抱き締め、一緒に涙を流し続けた。
つづく
次回は明日の6時半からです。
そして次回で第二話は終わりです。
乙下さってる方、本当にありがとうございます。
そんなところを目の当たりにしたフライゴンは
(……ジュカインのヤツぅ…コウイチくんはツンデレ好きなのかな…)
その日からフライゴンのツンデレライフが始まりました♪
「べっ、別にコウイチくんのためにしてるんじゃ…」
後味よく終わってよかった。
乙ー
>>1GJ!!
うん、なんつーか構成が上手い気がする。こういう所だからこそ、上手さが滲み出てるってゆーか、なんというか、すごい尊敬する。
適役の配置も絶妙だよ。謎がありつつも、どれもこれも理に適ってるし、フラグらしくみせかけて、全部キッチリ処理してる。読んでてかなりスッキリするよ。
語彙力だとかじゃなくて、戦闘描写や、言葉のテンポ、キャラの良さ、そして、仰々しくないのが凄い。
是非、見習いたいぐらい。応援してます。
乙です!
ジュカインよかった、コウイチとホントよかった
仲間同士とはいえすれ違いって怖いぜ
>>442 従順なフライゴンもいいが、ツンデレなフライゴンもなかなか……
今日は投下されないんかな?
ストーリーもそうだが、心理描写がやたらしっかりしてるのな
コウイチの神経質っぷりとかジュカインの余裕のなさっぷりが面白いw
体調の問題で昨日は投下出来ませんでしたが、今日はしっかり投下したいと思います。
みなさんも体は大事に…
それにしても、これだけの量をこのペースで書いてると、
食事、睡眠、仕事以外は完全に執筆に費やしてることなるよな。
一回消えてから帰ってくるまでだいぶ間があったし、ある程度は書き溜めしてんじゃネーノ?
要約するとこうだ。
ジュカインは確かに記憶喪失だった。
だけど彼は、この一晩の間に無くなった記憶が戻ったんだ。
ジュカイン本人の話によれば、記憶が戻ったのはどうもあのヨルノズクの『夢食い』のおかげらしい。
ヨルノズクの使った夢食いが、いわゆる催眠療法……その代わりとなったということなんだろう。
そしてジュカインは記憶が戻ったことをぼくに打ち明けた。
更に、本当はぼくに……ぼく達に対して凄く『感謝』しているということも、同時に打ち明けたんだ。
今までジュカインはどこか無愛想で、ぼくに懐いてなんかいないんじゃあないかとも思っていたけれど、
実はその逆……全くの逆だった。本当は懐いていたけれど、ただそれを心の内に留めていたってだけだったんだ。
そして今、ジュカインはぼくの腕の中にいるっ!
昨日からついさっきまで、手を差し伸べても届かない場所に行ってしまった気がしていたけれど、
今はぼくの腕の中……そう、戻ってきたんだっ! ぼくのポケモン……ジュカインっ!
数時間前抱いてたのは悲観、数十分前抱いてたのは絶望、数分前抱いてたのは疑惑と不安……
そして今は一転急浮上っ! たった今ぼくが抱いているのはただ喜びっ、それだけさ!! うひゃーっ!!
きゃーーっ、うーれしーーいっ!!
うわーいっ、わーいっ!! やった、やったーァ!! きゃーーっ!!
やったよフライゴーン!! お帰りジュカイーン!! きゃーーーっ!!
「わし、昔っからこういうドラマ的なの大好きなんだよねエェェッ!!!」
突然族長さんがそう叫び出したのは、既にぼくとジュカインがお互いの体から腕を離した頃だった。
「えっ?」
ぼくもジュカインも同時に疑問符を浮かべて、族長さんの方を振り向く。
族長さんはいつの間にやら目から涙をボロボロ零し、ただでさえしわくちゃの顔をぐしゃぐしゃに歪めていた。
「感 動 し ま し た 的なことが言いたいんだよねっ、わしはっ!!
だって感動モノ的なの大好きだもん、わしっ!! ううっ、こんな間近でそんなドラマ的なの見せられちゃあ、泣かざるをえんべよ……!」
「は、はあ……」
「ケケケッ、なァーに言ってんだか」
ジュカインは笑みを交えながら、呆れた風なため息をついた。
ぼくは呆気に取られて言葉も出ない。……族長さん、キャラ壊れてますよー。
「……んっ」
ふと、ジュカインが何かに気づいたように小さく声を上げた。
その彼の視線の先にいるのは、族長さんと同じように涙ぐんでいるキモリ達だった。
「おいおい、お前らまで泣いてんのかよー!? どんだけ感化されてんだよ、何か冷めちまうぜー。カハハッ」
ジュカインが冗談ぽくそう言うと、大勢のキモリ達の中の一匹が
それに対して首をぶんぶんと横に振って、こう言い出した。
「いや……オ、オレ達が泣いてるのはそれだけじゃなくて……」
「あーん?」
「ジュ……ジュカインさんがこの森を出て行くんだと思うと……オ……オレ寂しくて……だから……」
「!」
キモリが嗚咽交じりに紡いだその言葉に、ジュカインは表情を強張らせた。
ぼくもそのキモリの言葉に、軽く考えさせられる。
……そういえばこのキモリ達、ジュカインに随分懐いていたそぶりを見せていたっけな。
キモリ達にとっては可愛そうなことだけれど、仕方ないよね……
歓喜の中にふと芽生える突っかかり。このままじゃあ、後腐れというヤツになっちゃうかも……
……とりあえずは、ジュカインがキモリ達に対してどんな言葉をかけるか、それが問題だ。
そして数秒の沈黙後、ジュカインがキモリ達に対して放った言葉はこうだった。
「言っておくが、これから後……たぶんオレはもうこの森に戻ってくることは無いと思うぜ」
「えっ」
ジュカインが冷たく放ったその言葉に、キモリ達は衝撃を受け一層泣きを強める。
ぼくもそのジュカインの冷たい物言いに、ちょっとした焦りを覚える。
……ちょっとジュカイン、もうちょっとキモリ達に対してのフォローを入れてあげてもっ……
とぼくが言いかけた瞬間、ジュカインはこう付け加えた。
「だが、誤解しないでほしいのはこういう事……オレの中には、心残りは確かにあるっ。
お前達や森と別れる事になるのは、悲しい……そういった気持ちは、確かにあるっ」
「オレにとって、コウイチやフライゴンはお前らよりも大切な存在であることは確かだが……
それでもお前らが大切な存在であることには変わりないのも、また確かさ。お前らのことは忘れないよ」
今度はしっかりフォローし慰めるような柔らかい口調で、ジュカインはそう言った。
だけど、キモリ達の流す涙は逆にどんどんと多くなっていく。
「う、うう……ジュカインさァん……」
キモリ達は感極まったのか、わっと一斉にジュカインの元へ群がり始めた。
みんなジュカインとの別れを惜しむように、涙をぼろぼろと流して、わんわんと声を上げている。
しかし、ジュカインはどこか不満げな表情を浮かべながら、
仕方なさそうにため息をついて、泣いているキモリ達へ向けてこう言った。
「あ、あのなぁ……、泣いてくれるのは嬉しい。すげー嬉しいんだけどさぁ〜〜……
そんな泣かれっと心残りが増しちゃうわけよ。だから、オレとしては出来るなら笑顔で別れを惜しんで欲しいところなんだが……」
ジュカインのその言葉に、キモリ達は一斉にジュカインの顔を見上げだす。
「え、えがおォ……?」
「そっ、笑顔」
ジュカインがそう返した途端、キモリ達はみんな全く同時に涙をゴシゴシ拭って、
ジュカインへ向けてみんな全く同時に(若干無理したような)笑顔を作って見せた。
「えっ、笑顔でありますっ!!」
「イエッサー、笑顔でありますっ!」
「オレたち、笑顔でジュカインさんを迎えるでありますっ!」
顔は笑顔なのに、言葉は涙ぐんでいる。しかも何故か奇妙な喋り方。
「カハハッ……なんじゃそりゃ……」
ジュカインは緩やかにほほえみながら、そのキモリ達の頭を優しく撫で始める。
心なしかだけども、その目には微かに涙を滲ませているようだった。
かくしてジュカインとキモリ達の別れの惜しみも済み、ぼくの心の突っかかりも綺麗さっぱりに消え去った。
後腐れはゼロっ。あとは、この森との別れを残すのみだ。
ぼくはたった一晩いただけだからいい思い出も特に無いけれど、いざ去るとなると少し感慨深いかな……
何だか急に、この森の風景がとても美しく貴重なもののように見えてきた。
空気も何だか美味しく感じる。数十分前までは、空気の美味しさなんて分からなかったどころか息が詰まるようだったっていうのに。
鳥のさえずり一つ、虫の鳴き声一つとっても、何だかひどく貴重なもののように思えてくる。
……ぼくに、やっと感動できるくらいの心の余裕が出来たって言うことなんだな……
そうやって感慨に耽っていると、不意に族長さんがぼくに声をかけた。
「……さて、人間様。この森を抜けたら、やはり大都会テレキシティへ行くのかな?」
「ほえっ、大都会、んっ、テ、テレキ?」
不意に話しかけられたことに戸惑い、かつ聞き覚えの無い言葉を口にされたことでぼくはひょっと間抜けな声を上げてしまった。
その反応にぼくが何も知らないことを察したのか、族長さんはすぐに説明を始めた。
「テレキシティとはエスパータイプのモンスターが住む大都会だ。
あなたがたがどこから来て、そしてどこへ行くのかはわしは知らんが……
見たところ蓄えもないようだし、テレキシティに寄っておいてまず損は無いゾ」
「へ、へェ〜……なるほどォ〜……」
族長さんは見事に何事も無かったかのように淡々と説明するので、何だか逆に気恥ずかしい。別にいいけどさ。
「へェ〜〜、次の目的地は都会っ!? シティっ!?
ってことは、やっとゴージャスな料理が食べられるってことですかねーっ!?」
話を聞いていたフライゴンは、やたらと上機嫌にしながらぼくにそう尋ねてきた。
「うん、たぶん食べられると思うよ。たくさん食べさてあげるからね、フライゴン。
……ぼくたちのお金がちゃんとこっちでも使えるか不安だけど……」
「ぅわーいっ、ありがとうございまーすっ!! やったやったァーいっ!」
おいしい料理を食べられるのがよほど嬉しいのか、フライゴンはバンザイまでして喜びだした。
口の端からヨダレだって垂らしかけてる。……もうっ、カワイイいやしんぼさんめっ。
「なるほど、テレキシティに向かうわけだなっ?」
ジュカインもフライゴンと同じく話を聞いていたのか、そう言いながらぼく達の間に割り込んできた。
「実際に入ったことは無いけど、道のりなら知ってるからサ。
案内は任せなよ。オレについてけば自然とテレキシティにつくよ」
そう言うジュカインの口調は、どこかウキウキとしている。
「うん、よろしくねっ」
自然に漏れ出た笑顔と共に、ぼくはそう返事を返した。
ジュカインは若干照れくさそうな笑顔を浮かべながら、 「ああ」 と小さく言って頷いてみせた。
「よっしゃ、頼むぜーっ、ジュカイーン!」
フライゴンは、じゃれつくようにジュカインの肩を平手で叩いた。
「いででっ! フ、フライゴンおまえ力強いっ! もう少しは手加減しろアホッ!」
「えへへ、ご〜めんなさァ〜〜い」
おどけた風な謝罪をするフライゴン。その表情には、笑顔が溢れている。
ジュカインはその笑顔を見ると、仕方なさそうな表情を浮かべ、笑みの混じった溜め息をついた。
「のう、ジュカインよ」
ふと族長さんがジュカインを呼び止めた。
「んっ?」
振り向くジュカイン。ぼくも振り向いて、族長さんを見つめた。
族長さんは隣の木に手を添えながら、何か含むような笑いを浮かべている。
「何だよ族長〜。何の用だよ〜っ」
軽く笑みを交えながらジュカインがそう言うと、族長さんは生き生きとした口調でこう叫んだ。
「せっかくだ、餞別をくれてやるゾっ!」
族長さんは叫び終わると、ふと木と向き合い、おもむろにその片足を隣の木に張り付けだした。
……その族長さんの動作を見て、咄嗟に昨日の晩の記憶が脳裏に走る。
まさか……?
そして次の瞬間、ぼくのその予想通りの展開が目の前で起こった。
「お?」
「おおーー!!? ぞ、族長様がァーーー!!?」
同時に、キモリ達の間から驚嘆の歓声が沸きあがった。
昨晩モリくんが見せた垂直走り……あれを、もうだいぶ老いているはずの族長さんが今まさに行いだしたんだ。
老体を全く思わせない機敏さで、木を垂直に走り出したんだ!
「そら、持っていけお三方!! テレキシティにつくまでの腹ごしらえくらいにはなるだろうっ!!」
族長さんはその言葉と共に、昨晩のモリくんと同じく枝から木の実をもぎ取ると、ぼくたち三人へ向かってひょいと投げつけた。
何とか受け取り、投げ渡された木の実を見つめる。昨晩食べたラムの実だった。
「あ、ありがとうございます、族長さんっ!」
慌ててお礼を言うと、ぼくの声を掻き消す勢いでフライゴンも歓声を上げだした。
「ってかすっごーーい族長さん、あなたもこんなこと出来たなんてェーっ! あとありがとうございますっ!! はぐはぐっむぐぅ〜〜」
嬉々として皮ごと木の実にむしゃぶりつき始めるフライゴン。まったくもう、カワイイいやしんぼさんめっ。
「カハッ、よくやりやがるぜ族長めっ」
ジュカインは愉快そうに笑いながら、冷静に皮を剥き始める。
ぼくもさっそく皮を剥いて、ラムの実を口に入れる。
そういえば、もの食べるのも久しぶりだな。昨日渡された実も結局食べないでフライゴンにあげちゃったし……
口内に広がる甘みが、満足感となって胸に広がった。
ジュカインはラムの実を一かじりした後、感慨深そうに森全体を見回しだした。
一通り見回し終えると、ジュカインはひょっと大きく息を吸い始め……
次の瞬間、こう叫んだ。
「じゃあなお前らっ!! これからも健やかに過ごせよなァっ!!」
キモリ達や族長さんへ向けて、延いてはこの『生命の森』自体へ向けて。
森中に響き渡るような声で、ジュカインはそう叫んだんだ。
「おおっ!! またね、ジュカインさーん!!」
「さようならー!! スマイルでさようならーっ!!」
「そう、さよならっ!! あくまでスマイルでーっ!! 人間様とフライゴンくんも、じゃあねーっ!!」
「元気でなァ、ジュカイーンっ!! 人間様、竜さん、元気でなーー!!」
それを受けた森の住民達は、一匹一匹がこれまた森中に響き渡るような声で、一斉に別れの声を上げ出した。
「カハハッ……」
ジュカインは満足げな、また悲しげな調子も若干内包した笑い声を上げながら、くると身を翻し歩き出した。
「あ、ありがとうございました族長さんっ! さようならっ!」
「ありがとうございましたァー、じゃあーね族長さんとキモリくん達ー!!」
ぼく達も同じく別れの挨拶をし、ジュカインの後をついていくようにして歩き始める。
森の住民達の別れの声は、聞こえなくなるまで止むことなく続いていた。
――――
木々が、ぼくらにほほえみを落としている。
微かに漏れる木漏れ日が、祝福するようにぼくらを照らし続けている。
そんな森の中を、今ぼく達は仲良く喋りあいながら歩いている。
「……で、オレのリーフブレードがあのヨルノズクをスパッと切り裂いたわけさっ! まさしくオレの完勝だったねっ!」
「ふ〜ん、ぼくが眠っている間に色々頑張ってくれてたんだね〜」
「カハハッ、ありゃコウイチに見せてやりたかったなー! 自分で言うのも何だが、あの時のオレはだいぶ調子よかったぜ!」
「ふふふ、さっすが〜!」
はしゃぐように自らの戦果を語るジュカイン。今まであまり見たことのないどこか無邪気な態度に、自然と笑みが漏れる。
「クケケッ、いやぁフライゴンくんにも見せてやりたかったなァ〜! オレが華麗にあのヨルノズクを倒す様をさっ!」
と、ジュカインはフライゴンへ向けてどこか嫌味な笑みを浮かべながらそう自慢しだした。
フライゴンは、その言葉にムッと来たようで。
「……む〜っ、何だかムカつくなァその自慢げな喋り方っ! 何が華麗だ、本当は誇張してるんだろ〜っ!?」
「してないしてない、100%事実だぜっ! どうした、悔しいかっ?
……ククッ、そういえばフライゴンは、昨晩あのヨルノズク達に大苦戦してたもんなァ〜〜」
「う、うるさいうるさーい! ったくもー、帰ってきたと思ったらその憎まれ口!
……ふふっ、数十分前わんわん号泣しながら土下座してたやつの台詞とは思えないねーっ」
「うげっ、そ、そそ、その話を出すなバカッ! ありゃあ半分黒歴史として扱ってくれよ!」
「あっ、ジュカイン顔真っ赤! どうした、恥ずかしいか〜っ!? ふふふ、土下座男、土下座おとこーっ!」
「る、るせーっ! やるかこのメガネヤローっ!」
「よーし、受けて立つぞこの緑トカゲめーっ!」
お互い戦う構えを取るフライゴンとジュカイン。
場に一触即発の雰囲気が流れる……わけがない。
だって二匹とも、ずっと表情に笑顔を含ませたままなんだもの。
「と、ところでさ……コウイチ……」
「ん? なーに?」
ふとジュカインがぼくの服の裾を引っ張って呼び止めてくる。
柄にもなく、控えめな態度だ。
「……あの、図々しいかもしんないけどさ、あの赤いポフィン食べさせてくれないかな。
ほら、オレ昨晩あのポフィンあんな風にしちまったからよ……だから、なんつーか……」
俯き加減になりながら、若干話し辛そうに昨晩のことを話し出すジュカイン。
……なァーるほど。昨晩あのポフィンを弾き飛ばして踏み潰した、その罪滅ぼしがしたいんだなジュカインは。
別に今さら罪滅ぼしなんかする必要ないのに、意外とキッチリしてるねジュカインのやつ。
「いいよっ。待っててね、いまあげるから……」
「あ、ああっ!」
顔を上げて嬉しそうな声を出すジュカインを横目に、ぼくはポフィンケースを取り出す。
そういえばポフィン余ってたっけ……? ガラスケースの中身を確認して……あっ
「ごっめーん。もう余ってないやポフィン」
「ええっ!?」
「なんちゃってね、ジョーダン! 一つだけだけど、余ってたよっ。あっはは」
「な、なんだよもォ〜」
ほっと半笑いを浮かべるジュカインに向かって、ぼくは赤いポフィンをそっと差し出す。
ジュカインは笑みを沈めると、そのポフィンを手にとって、まっすぐかぶり付いた。
目を瞑って、ゆっくりとポフィンを味わうジュカイン。
ゴクリとポフィンを飲み込んだ音を確認すると同時に、ぼくはすかさず聞いてみた。
「ね、美味しかった?」
ぼくのその問いに、ジュカインは満面の笑みを浮かべせてこう答えた。
「……ああ。すっごく美味しかった!」
「ふふっ、そう」
釣られて漏れ出る笑み。
昨晩からは考えられなかったくらいの和やかな雰囲気が、ぼくらを包み込んだ。
「ねーねーコウイチくーん、ぼくの分のポフィンはありますかー? ねーねー」
こんどはフライゴンがぼくの服の裾を引っ張ってきた。その目は、期待でキラキラ輝いている。
そんなこと言われてもなァ……ポフィンもう余ってなかった気がするんだけど。
念のためもう一度ポフィンケースを確認。
……やっぱ一つも入ってませーん。品切れガチャーン。
「フライゴン……もうポフィン一つも余ってないや……」
「えーっ! そ、そんなァ〜〜〜」
キラキラ輝いていた目が一気に曇り、フライゴンはへにゃへにゃとへたりこんでしまった。
「ごめんねフライゴン……ぼくがたくさん作り溜めしてなかったばかりに……」
「い、いやっ! コウイチくんは謝らないでいいんですよ、食い意地張ったボクが悪いんですからっ!」
「カハハッ。まぁ、これでも食って落ち着けよフライゴン。栄養たっぷりだぜ」
そう言って、ジュカインは背中の黄色い実を取ってフライゴンに差し出した。
「そ れ は い ら な い 。 断じて」
「えーーっ!? もったいないよ、栄養たっぷりだぜっ、栄養たっぷり!」
「栄養たっぷりだろうが何だろうが、まずそうだからいらないっ!」
「いやぁダメだね、その姿勢! そーやって味で好き嫌いしてちゃあ、その不健康な緑色の体もずっとそのまんまだぜ?」
「体が緑色なのは元々なのっ! 大体お前も体緑色だろ〜が!」
「オレの緑色は健康的な緑色でェ、お前の緑色は不健康な緑色。分かるかい、この違い?」
「嘘つくなバカっ!」
じゃれ合うような掛け合いをしている2匹を見つめながら、ぼくは心中でこう唱える。
……残るは4匹だっ。
ラグラージ、バシャーモ、レディアン、ユキメノコ……
待っていてねっ! 絶対そのうち迎えにいくからねっ!
……ああ、あとミキヒサもね。あははー。
第二話 本当におわり
>>451 当たりでーす。
規制されてた時にある程度は書き溜めしてたんですよね。
まあ書き溜めしてた分も、投下前にだいぶ加筆修正してますけども。
で、その書き溜めしてた分がもう完全に尽きたので、
投下スピードは激減してしまうかもしれませんです。
とりあえず次回は、一週間以上後になると思いますー。
それまで書き込んで保守とかしてくれると助かりますしとても嬉しいです。
ではー。
乙!
族長が最後になっていきなりキャラ立てたなw
>>1 ここいらでキャラの詳細なプロフィールが欲しいな。
ポケモン達は元から決まってるからともかく
せめてコウイチくんとかオオカマドのだけでも。
そういうのあった方が感情移入しやすくならない?
定期あげ
次はピジョットとムクホークどっちが出るかな?
テレキシティは都会らしいからハトじゃないか? むくどりも人家の近くに住んでるけど。
ピジョットは好きなポケモンだし期待してる
ヨルノズク程度には濃くキャラ付けしてもらえりゃ満足だ
いまさらながら乙
ずっと殺伐としてたぶん最後の和やかな雰囲気はいいねえ
次回にも期待してます
やっぱりふりゃーとジュカインはちょっぴりおふざけ喧嘩ムードなのね。
キャラが活きてて面白いな
フライゴンかわいいよフライゴン
コウイチ:ひかえめ かんがえごとがおおい
フライゴン:すなお たべるのがだいすき
ジュカイン:いじっぱり ぬけめがない
ユキメノコ:れいせい
バシャーモ:れいせい
レディアン:むじゃき
ラグラージ:へんたい スカートのなかみがだいすき
こんな感じですか?
このまま
>>1が帰ってこない、なんてことがあったりして
気長に待つさー
今後も何かあったら作者さんは一言声をかけていってほしい
年末年始なんだし保守でもしながら気長に待とうじゃないか
まだ一週間しか経ってないし、小説って普通このくらいのペースだよな
みなさん保守ありがとうございます。
色々と忙しいですが、大晦日か元旦辺りには投下できるかもです。
>>466 主要な人間キャラのみですが。
コウイチ
年齢:12歳
身長:142cm
体重:38kg
趣味:ポケモンと遊ぶこと
身の回りの整理
ミキヒサ
年齢:12歳
身長:153cm
体重:43kg
趣味:ご近所探検
漢検DS
オオカマド博士
年齢:65歳
身長:236cm
体重:162kg
趣味:ポケモン研究
子供達と戯れること
子供達を見つめること
子供達の声を聞くこと
オオカマドの身長に激しくツッコミたいw
オオカマドのプロフィールが書きたかっただけだろこれw
あと投下期待してます。
一通り読んだらすごく面白かったです。
即ブックマークに保存いたしました。なんだか魔力がある。
投下しますね。
キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
『ダメ男』とは、まさしくこの私のような者のことを言うんだろう……
賞味期限切れ直前の弁当が入ったコンビニ袋片手に、
人っ子一人通らない深夜の住宅街を歩きながら、ふと私はそう考える。
最近は常日頃こう考えてばかりだ。
それほどに、私がいま置かれている状況は暗い物だった。
私はユンゲラー族のユリル・ゲル。
成人してもう何年経ったか分からないが、このテレキシティで未だに定職に就けずにいる。
いい歳をしてアルバイトの給料と安いギャンブルで稼いだ収入のみが私の生活源で、
これといった楽しみや趣味もなく、ぼやけた意識で毎日を過ごしている。
勿論、好き好んでそんな生活を続けているわけでもない。
ある意味、仕方がないのだ。
このテレキシティでは、よい職に就くには大前提として『超能力』の腕がよくなくてはならない。
まぁ超能力と一口に言っても種類は様々であり、
人によって何に優れているか何に劣っているのかとは違うのだが、
その『何に優れているか』によって、自然と何の職に就けるかが決まってくるのだ。
しかし、その超能力の腕が何一つとして一定のラインに達していない場合は、立派な職には就けないのである。
『立派な職などに就かなくていいのでは?』と思うかもしれないが、
それはどっこい、なにより私個人のプライドが許さない。
よくわからぬ無名企業や俗な職に就くなど、経歴が傷つくだけではないか。
意味がない。全くもって、意味がない……
……かといって立派な職に就くために日々超能力の腕を磨いてるかというと、そういうわけでもない。
確かに超能力は本人の努力しだいでどうにでもなるが、
それにもやはり『才能』という一定のブレが、どうしようもなく個人個人にあるわけだ。
そして私は、その『才能』は一般のラインよりも下……
言うなれば劣等生に近しいのである。
……『ぐだぐだ言わず人一倍努力しろ』という声が聞こえてきそうだが、
どうもその『人一倍努力』という言葉は癇に障って仕方がない。
生まれつきの差を埋め合わせるための努力?
人一倍努力して初めて他人と同じラインに立てるなど、馬鹿げている。
影の努力だとか何だとか、そんな腋の下の匂いがプンプン漂ってくるような言葉など、
聞いただけで虫唾やら鳥肌やらが体中を覆うようだ。
……要するに私は、『プライドだけは高く、高望みするだけするが実際には何もしない』という典型的ダメ男……
……ということを完全に自覚し、あまつさえ自己嫌悪に陥りながらも結局は何もしないという、完全なダメ男なのだ。
そんな私に引き換え、私の弟は優秀だ。
弟は念写の類の能力に優れており、今や立派なカメラマンとして仕事をたっぷりもらっているらしい。
年間の収入も、生活の充実ぶりも、およそ私とは比べ物にならないだろう。
同じ親から生まれてどうしてこうも違うのか。この世には平等のカケラも無い。
私はこれから先、充実した生活を送れる日は来るのだろうか……?
物憂げに、夜空を見つめる。
星一つない夜空。まるで黒いカーテンで青空を覆っているかのよう……
……!?
私はふと、目を疑いそうになった。
その黒いカーテンの下を、『巨大な鳥の影』がゆるやかに這っているのだ。
要するに、夜空を鳥が飛んでいる。それも、ただの鳥とは思えないほどに巨大な鳥の影……
「なんなのだ、あれは……」
ふとそう言葉を漏らしてしまうほどに、私はその光景に圧倒されてしまった。
もし弟がこの場にいたのなら、迷わず何枚も写真を撮っているのだろうな……
そんなことを考えながら、その巨大な鳥の影に見惚れていると……その影に、ある変化が起きた。
……巨大化している。鳥の影が、どんどんと巨大化してきている……!?
いや、違う。巨大化してきているのではなく、降りてきているのだ。
巨大な鳥の影が……いや、『鳥』が。今まさに私の近くへ降りてこようとしているのだ。
本能的に逃げ出そうとした、その瞬間だった。
「ぐっ、ぐっ!」
突如、謎の強風が私に襲い掛かってきたのだ。
それまでほとんど風も吹いていなかったのに、あまりに前触れの無い強風の襲来。
そのとてつもない風圧に押され、私は思わずよろめきその場に倒れてしまった。
「ぐうぅ〜〜……何なんだ、一体……」
その謎の強風は、私が倒れてしまってから間もなくして止んでしまった。
……全く持って不可解な現象。
だがとりあえず私は、その不可解な現象の意味を脳内で探るよりも、
地面にぶつけてしまって傷んだ腰を撫でさすることと、その場から立ち上がるのに努めることを優先した。
……立ち上がりそして顔を上げた瞬間、私は心臓が飛び上がり、また倒れてしまいそうになった。
立ち上がった私の目の前に……いつの間にやら、あの『巨大な鳥』が立っていたのだ。
140cmばかりはある私の背丈よりも大きいその鳥が、威圧感を内包したその鋭い目つきで、私を見下ろしていたのだ。
「あ……あ……」
つい先程まで夜空をゆったりと飛んでいたはずの鳥が、今は私の目の前に立っている。
私はその巨大な鳥の姿に圧倒され、動けなくなっていた。
……その『美しさ』に。
街灯もない夜の住宅街にいて尚、その鳥の毛並みの非常なほどの美しさはありありと伝わってくる。
鬣のようなその立派な頭の羽も相まって、神々しいほどの美しさがその鳥全体を覆っていた。
そしてその美しさが、威圧感となってこの私を圧倒し、この場に釘付けにしているのだ。
言葉も上げれず逃げることも出来ず、ただその鳥を見続けていると……鳥がふと口を開いた。
「こんばんは」
鳥が、言葉を喋った。
「!!」
私はその言葉に、再び驚愕した。
目の前のその巨大な鳥は、確かに言葉を喋った。私に「こんばんは」と挨拶をした。
この鳥は、『モンスター』としてしっかりと教育を受けていた鳥だったのだ。
私は、はたと思考を巡らせる。
……この鳥は、このテレキシティに、この私に、何の用があるというのだろう。
このテレキシティと彼の住む町とで、友好……外交関係を結んでほしいとでも持ちかけるつもりだろうか。
いや、それなら私のようなただの一般市民に、それもこんな深夜に、話しかける意味などない。
……それならば、ただの気まぐれ? ただ、異種族と対話がしてみたいというだけ?
私は思考に結論をつけるより前に、落ち着いてその鳥に対話を試みてみた。
「……あなたの、名前はなんですか?」
あれこれ考えるよりも、先ずは対話だ。
勝手な予測を立ててそれで納得するよりも、相手から聞いたほうが手っ取り早いに決まっている。
「……ワタシは……」
鳥は、私の言葉にすぐさま反応し口を開いた。
……次の瞬間その鳥が口にした言葉は、私を再び驚愕させることになった。
「ワタシの名は、ピジョット。
魔王軍……飛鳥部隊の幹部を務めている、ピジョットだ」
――魔王軍だと!?――
心臓がドクンと波打ち、同時に嫌な汗が体からにじみ出てくる。
芽生えかけていた好奇心が、すぐに恐怖へと変換された。
魔王軍の恐ろしさは、学校で存分に教え込まれた。
端的に言えば、無差別殺人や誘拐を頻繁にする集団……
要するに、『犯罪集団』だということを。
この鳥は……『ピジョット』は、その犯罪集団の一員であることを自ら名乗ったのだ。
このピジョットが目の前に降りてきたときから既に微かに感じていた『死の危険』が、一気に現実的なものになる。
一刻も速くこの場を逃げなければ――死ぬっ。
「なにを黙りこくっている? ワタシに名乗らせたのだから、次はキミが名乗る番だろう……
名刺でも構わない。キミの身分、名前、このワタシに教えてくれ」
ピジョットは落ち着き払った口調でそう言いながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
それと同時に、心臓が恐怖に打ち震える。冷や汗が頬を伝う。息が乱れる。
――逃げろっ!!――
「!」
私は迷わずピジョットに背を見せ、その場から逃げ去ろうと駆け出した。
――こんなとこで死にたくないっ! まだ私には輝かしい未来があるはずなんだ、それを体験する前に死ねるかっ……!
脚力を総動員しようとする……が。
その矢先、私の腕が何者かに引っ張られた。
到底振り払うことは出来ないくらいのすさまじい力で。
……振り返らずとも分かる。いま私の腕を掴んだのは……捕まえたのは……魔王軍の、ピジョット。
私は逃げることが出来なくなった。
キターッ!(AAry
「なぜ逃げる」
頭の後ろから響く、冷徹な声。
私の胸が、警鐘を打ち鳴らし続けている。
無意味な警鐘。もはや手遅れでしかない警鐘。
まだ実際に体を傷つけられてはいないので些かの余裕はあるものの、
それでも吐き気を催してしまいそうな恐怖が胸のうちにまとわり付いている。
――死ぬのか。私は、殺されるのか。
「ワタシはキミに名を名乗った。それなのに、なぜキミは背を見せ逃げようとする?
あまりに一方的。キミのやった行為……それはほとんど暴挙だよ。
『理性ある者』……すなわち、『街に生きるモンスター』としてはな」
「ひっ……?」
ピジョットが案に相違してまともな事を話し出したことに若干驚きながらも、私はその口調の冷徹さに恐怖を募らせる。
「キミがワタシと真正面から話し合う権利を自ら放棄するというのならば、
このワタシも、きみと対等に話し合う権利を放棄してもいい、という事なのだ。……分かるかな?」
「えっ」
「このままキミが逃げるというのならば……ワタシは、キミを『エサ』と見なしていい、そういう事になる」
「ひいっ」
ピジョットの言葉。自分自身の命に関わる言葉なのだから、私は瞬時に理解する。
要するに、『逃げれば殺す』ということ。
……そして逆に言えば、逃げずに真っ向から話し合えば殺さないということ。
とても信じることは出来ないが、いまや私の命はピジョットの胸先三寸。応じざるを得ない。
私はゆっくりと、ピジョットの方へと向き直った。
「……フフフ、そうだ、それでいい。向き直り対話する……それこそが『理性ある者』として正しい姿。美しいということだ……フフフ」
「『理性に根ざした知恵』というのは分かるかな?
街に生きるモンスターとして当然持っていなければならぬ知恵のことだ。
理性に根ざした知恵は、すべからく対話のための知恵。向き合い情報を交換し合うための知恵。
お互いの価値観を理解し合い、尊重し合うための知恵のことだ。
それを自ら放棄するなど、理性ある者……すなわち『モンスター』の行動ではない。
向き合い対話してやっと、モンスターとしての知恵……
理性に根ざした知恵、すなわち『知性』はその役目を果たしたことになるのだ。
危うくキミは、モンスター以下のただの獣へと逆戻りしてしまう所だったな。フフフ」
向き合った途端ピジョットは、まるで教科書を読むかのような口調で自論を展開しだした。
……言っていること自体はともかくして、この自論を展開するに至ったのが
さきほど私がこのピジョットに背を向けたことに基づいているのならば、それは全くいわれのないことだ。
最初に『魔王軍』などと名乗って恐怖を煽ったのは誰だ。
『魔王軍』と最初に名乗られてしまっては、よほどの命知らずでない限り普通は真っ先に背を向けて逃げるだろう……!
……こいつは、魔王軍という存在が世間に一体どういった存在として認識されているかを、ちゃんと自覚しているのだろうか?
「さぁ、キミの身分と名前を、ワタシに教えてくれ」
「……」
ピジョットは改めて私に名を名乗ることを要求し始め、私は意味もなく少し躊躇してしまう。
だが、事実上こちらの命を相手に握られているこの状況、無論断ることは出来ないし、その必要もない。
「わ、私は……ユンゲラー族の、ユリル・ゲル。無職……です」
無意識に声を震わせてしまいながら私がそう名乗ると、
ピジョットは今まで恐ろしいくらい無表情だった表情を緩く綻ばせた。
「なるほど、ユリル・ゲルくん。フフフ、よろしく」
「は、はぁ、よろしく……」
……相手の『よろしく』の挨拶に、私もよく考えず『よろしく』の挨拶を返したが、
一体、ピジョットのこの『よろしく』にはどれだけの意味が込められているのだろう。
不安の念を感じざるを得ない。何せ相手は魔王軍、犯罪集団の一員であることには変わりないのだ。
……そう思っていると、ピジョットはそれを見透かしたかのようにこう言った。
「安心しろユリル・ゲルくん。
ワタシは、何もキミを傷つけたりだとかさらったりだとか、そんな事をするつもりは微塵もない。
ワタシが得をし、そしてキミも得をする。いわゆるギブ&テイク。
そんな双方に美味しい話を持ってきただけさ」
「美味しい……話?」
ピジョットは私の不安を払拭させようとしてるのだろうが、逆に一層不安は強まってしまう。
私を油断させるために口からでまかせを言っているとしか思えない。
……疑ったところで、どうしようもないのだけれど。
「キミは、『人間』を知っているね?」
「人間……ですか?」
無論知っている。知らないはずがない。
この世界に文化や言語を伝えたという、異世界の種族。
私はとりあえず黙って頷いてみせる。その人間が一体どうしたというのか。
私が頷いたのを確認すると、ピジョットは懐から何やら一枚の紙切れを取り出し、私に手渡した。
「……こ、これは?」
その紙切れには、11桁の番号の羅列が記してある。
……携帯電話の、番号?
「その人間が、いま一人この世界にやってきていることは知っているかね? ……いや、知ってても知らなくてもいい。
ともかく、その人間がもしこのテレキシティにやってきたら、この番号に連絡してそのことを教えてほしい」
「え……この電話番号に連絡して、人間がきたことを、教える?」
私はその突飛な申し立てに困惑して、ほぼ相手が言った通りそのままに聞き返してしまった。
「そう、そういうことだ。……無論、ただでやれとは言わないよ。
さっきワタシが言ったとおり、キミも『得をする』……
キミが私の言うとおり人間の存在を教えてくれたのなら、これをやると約束するよ。フフフ」
「え……」
ピジョットは不敵な笑みを浮かべたまま、またその懐をまさぐり、
何かを羽に乗せて、それを私に差し出してきた。
「こ、これはっ……!?」
ピジョットが差し出してきたその『モノ』に、私は驚き声を上げそうになる。
その『モノ』は、
金。札束だ。
ざっと見積もっただけでも相当の額はある。50万……60万……いや、100万……?
少なくとも、先ほどピジョットが提示した条件とは『逆に』全く釣り合っていない金額。
このピジョットは先ほど『美味しい話』と言っていたが、美味しい話どころの騒ぎではない。
「本来はこの程度のこと部下に任せるのだが、事情があって現地の者にお願いするほか無かったのだ。
とりあえず、我々は人間を心から欲している。その人間様を我々魔王軍の元へ招待できると考えれば、
それくらいの金額は微々たるもの。我々は資金繰りには特に困っていないのでね」
「……」
ピジョットの羽の上の札束に、目が釘付けになって離れない。
……『電話をかけて教える』……ただそれだけの行為で、これだけの金額を手にしていいものだろうか。
理不尽なまでの『テイク』。お互いに得をするとは言っても、幾らなんでも割合が偏りすぎている。
……明らかにおかしい。どう考えても、これは何かの罠……罠じゃないか……
罠?
普通に考えて、ピジョットからしてみれば私に罠を仕掛ける必要など一つもない。
なにせこちらの『ギブ』は、たとえ報酬がなくとも構わないくらいに低いのだ。
報酬を釣り上げまくって、私の欲を煽る必要は一つもない。
ならば、答えは一つ。このピジョットの金銭感覚がズレにズレまくっているということだ。
……『なにせ相手は魔王軍』……常軌を逸した犯罪集団。それならば、金銭感覚すらも常軌を逸していても不思議ではない。
……え……? ちょっと待てよ……
だとすると、これって……え? もしかして……
私にとって、『ものすごく美味しい話』なのでは……?
(
>>495の二行目、脳内削除しておいてください……)
この魔王軍の者に会えたのは、実は物凄く幸運なことなのでは……?
一生に一度あるかないか、という程の幸運なのでは……?
「では、よろしく頼むよゲルくん。……では、ワタシはこれで……」
「待って。待って……ください」
「ん?」
ピジョットが飛び去ろうと羽を広げ始めた所を、私は慌てて呼び止める。
訪れたかもしれない『幸運』を受け入れるのにあたり、どうしても気にかかることが一つあったのだ。
「その人間を貴方の元に、魔王軍の元に招待する……その理由はなんなんですか? 何のために?」
話を聞いていればこのピジョットたち魔王軍は、どうしても人間を自分達の元へ招待したいらしいが、
彼ら魔王軍は犯罪者集団。『神』と呼ばれる人間を利用して、何か悪事をしでかそうとしている可能性が高い。
もし後にこれがきっかけで何か大事が起きれば、私は間接的ながらもそれに加担したことになるのだから、枕を高くしては眠れなくなる。
私はただそこだけが気にかかっていた。もしかしたら私は、彼ら魔王軍の悪事の片棒を担がされようとしているのかもしれないのだ。
……ピジョットは私のその問いを受けると、またお得意の不敵な笑みを浮かべ、こう答えた。
「……フフ、そこまで教えてあげる義理はないが……あえて教えてあげれば、
我々魔王軍のため……つまりは、この世の中のためさ。ウフフフ」
……『この世の中のため』……?
私がその答えに呆気に取られ困惑していると、ピジョットは強風を立てて夜空へと飛び去っていってしまった。
……ピジョットは『世の中のため』と断言していたが、
それが、およそ私たちの考えとは確実にズレているであろうことは容易に想像が付く。
ほぼ確実に、私は『悪事であろうこと』の片棒を担がされかかっている。
――だが、あの金額は魅力的だ。
人間がまだこのテレキシティに訪れるかは分からないが……
そもそも分からないからこそあのピジョットは私に報告を頼んだのだろうが、
もし来たとしたら。そして、それを私が耳に入れる……あるいは目撃したとしたら。
……私は確実に、この番号へ電話をかけるだろう。
私は無意識に、目を大きく開いて夜空を見つめていた。
――――――――
「あァ〜〜〜〜〜つゥ〜〜〜〜〜いィ〜〜〜〜〜よォ〜〜〜〜〜!!」
生命の森を抜けてから数十分、テレキシティまでの道のりである広い草原を歩いている途中、
じりじりと照りつけてくる太陽に耐えかねたのか、フライゴンが軽く泣きながらそう叫びだした。
その様子に呆れたジュカインは、たまらずそのフライゴンに向かってこう言った。
「ったく。お前、砂漠のポケモンなのにこの程度で暑がるなんて意味わかんねーよ!
心地よい暑さじゃあねえかよ。お天道様がニコニコ笑ってて、こっちまで笑顔になっちまうぜ……クケケッ」
「どーこーがーっ!! うわぅ〜〜〜暑い〜〜〜〜体が焼けるぅ〜〜〜〜
せんぷうき〜〜〜! クーラー〜〜〜! メノコちゃんどこ〜〜〜!」
緑色の体の至る場所から汗を掻きながらそうやって泣き言を繰り返すフライゴンは、
確かに、元が砂漠出身のポケモンだったとは到底思えない。
……夏は外に出るときは大抵ボールの中、家の中では冷房ガンガンの部屋で遊ばせる……
ぼくがそんな育て方をしたせいで、フライゴンはこんな暑さに弱いポケモンになっちゃったのかもしれない。
……よォしっ。ここは一度、トレーナーとして責任とってちゃんと教育してあげないとっ!
更新されてる!
乙です。
「ねぇ、フライゴン? 暑くて汗をかくってのはいいことなんだよっ」
「ふえっ、いいことお〜〜? こんなどろどろになるのがあ〜〜〜?」
納得のいかないような表情を浮かべるフライゴンのその問いに対して、ぼくは勢いよく頷く。
「汗をかいたら代謝が活発になって、そのぶん健康になれるからねっ!
どろどろ汗をかくたびに体が強くなって、お病気になりにくくなるんだっ。
ぼくも日焼け止めクリームくらいは塗りたいケド……
元気な体がつくられてると考えて、ここはがまんだよフライゴンっ!」
フライゴンの目をまっすぐ見据えて、ぼくは勇気付けるようにぎゅっと手を握ってやる。
そうするとフライゴンはぼくの手を握り返して、元気よく頷いてくれた。
「はいっ、分かりましたコウイチくんっ!
病気になってコウイチくんに迷惑かけないためにも、ボクがまんしますよォっ!」
「うあっ、さすがフライゴン、いい子いい子〜」
「えへへへ……」
とても素直なフライゴンに感激して頭を撫でてあげると、フライゴンは満足そうに目を細めた。
やっぱり子供は素直じゃないといけないよね……
なんて風にぼくが感慨に耽ってると、横からジュカインが。
「おいフライゴン……おまえ大人なんだから、子供のコウイチに撫でられて嬉しそうにしてんなよ……ったく」
……そういえば確かにそうだけどね。
「しかしまあ、改めて思うが……コウイチお前、育ちがお坊ちゃまのクセして、よく出来てるよな」
フライゴンを撫でていると、ひょっとジュカインがそんなことを聞いてきた。
確かにぼくのお父さんは企業の社長だから、ぼくの家柄は結構金持ちだけれど……
「ん、そうかなあ? 普通だよこのくらいっ」
「いやあ、普通じゃないってー。金持ちの子供なんつーのはさ、
もっとこうホラ、生意気で高慢ちきな感じだろ?」
「何だって〜〜?」
聞き捨てならない発言にぼくは反応してしまい、気が付いたときにはぼくの舌は回り始めていた。
「違う違うっ! そんなのは勝手なイメージだよっ。イメージイメージっ!
お金持ちってのはちゃんと躾が行き届いてるんだから、生意気で高慢ちきなんてそんなの逆だよっ、真逆っ。
そういう生意気な金持ちってのは、よっぽど親がバカなんだ。それでそんなバカなヤツが金持ちになれる例なんて稀だし、
だから高慢ちきなお坊ちゃまが出来上がるのも稀なんだよっ。分かるっ? 分かるっ!?」
「そ、そうなのか……?」
「そーなのっ!」
「ご、ごめんなさ〜い……」
しゅんとして黙りこくってしまうジュカイン。……熱弁しすぎたかも。
でも、何で『お坊ちゃま』=『生意気』なんて勝手極まりない妄想じみたイメージが、こう浸透しちゃってるかな。
ジュカインに限っては、そういう類のお坊ちゃまに酷い目に合わされた経験が実際あったから別にいいにしても、
なーんでそーゆーイメージが一般的に広まっちゃってるかな、ぼくらの世の中はーっ!?
ぼくみたいなまともな子が割を食うことをちゃんと考えてんのかな、一部の生意気なお坊ちゃんと、それを広める奴らはっ!
「ねっ、そー思うでしょ、フライゴンっ!」
「……は、はい……(な、なにが……?)」
それから数分後、ひたすら前を見つめながら歩いていたジュカインが、ふと嬉しそうに声を上げた。
「あっ、ほらほらコウイチ、フライゴンっ! 見ろよ、見えてきたぜテレキシティがっ!」
「えっ!」
ジュカインが前方……地平線の奥を、指差す。
その指に従って、目を凝らして前方を見据えると……
かすかだが、見えた。
幾つものビルの頭。ビルの群れ。
ぼくらの世界に存在するものとほとんど変わらない『都会』の象徴が、
地平線の向こうからひょこりと顔を出しているんだ。
「わあ〜っ、本当に見えてきたっ! すごいすごーい!」
「……」
はしゃぐフライゴンを傍目に、ぼくは言葉にならない衝撃を受けていた。
この世界に来てから今まで近代的な文明を一切目にしていなかったせいか、
族長さんから『大都会』と聞いたときも、ぼくは無意識下に『都会といってもたかがしれている』と思っていた。
だけども、ぼくら人間の世界でもまるっきし近代文明の象徴である『ビル』が、いま確かに風景の奥に幾つも存在している。
このポケモンの世界にも、確かに近代的な文明というものは存在していたんだ。
……次第に衝撃は感動に変わっていき、どんどんと胸を満たしていく。
「カハハッ、驚いてるなコウイチ。あんな近代的なモンがあるなんて思ってもなかったかい?」
「うん、思ってもなかったよ。だから、スゴく楽しみ……!」
気が付けば、ぼくの口は自然と笑みの形を作っていた。
この世界に来てから、ぼくはいま一番ワクワクしているかもしれない。
エスパーポケモン達の住まう大都会、『テレキシティ』……さて、どれほどのものかなっ!?
第三話 「お坊ちゃま」
投下終了です。
この後はしばらくはノリの軽い雰囲気で続くと思いますけど、よろしくお願いします。
続きは……いつになるか分かりませんけど、一週間以内には投下したいです。
では、また。
乙、良い御年を〜
乙〜
ってかピジョットはオスなのか?メスなのか?どっちなのか?
ユンゲラーさんは何か可哀相な末路が見える・・・
ものすごくリアリティのある始まり方に吹きましたよw
何かごく現代的な話になりそうだなw
ルージュラがグラビアアイドルやってたりするような街なんだろうなあ。
あけおめ
乙明けまして、ピジョさんに惚れそうな件
エスパータイプというだけでドキドキしている
体大切に!心の奥底から支援!
コウイチのキャラが濃くなってきたなw
冒頭が現実的すぎて吹いた
あの小物くさいエアームドのほうがピジョットより格上ってのが腑に落ちない件
ヒント ワンピースのスパンダムとルッチ
ユンゲラーが俺過ぎて困る
初めからパートナー:フライゴン
二番目に戻る:ジュカイン
初めに入った村:蓮
二番目に入った村:森トカゲ
飛行の偉いやつ:ネイティオ
緑好きだな作者、だいすき
そういえば緑だらけだな今んとこ。
最初のほうにサーナイトも出てたし緑フェチか。
体大切にと言ってくださったばかりで大変申し上げにくいのですが、インフルエンザにかかってしまいまして…
投下は遅れてしまいそうです。ごめんなさい。
本当にすいません…
>>514 緑色は一番好きな色ですね。目に優しいし。
>>516 どうかお大事にしてください
俺しばらく保守できなさそう、以後誰か頼んだぜ
5日間隔ぐらいで大丈夫だとは思うが
スレの位置が500より下に来たらその時は浮上してくれ
>>518 最近スレが立つ頻度が上がってるみたいなんだ
保持数の限界が迫っている……あとは分かるな?
そういや保管庫的なもの(wikiとか)は無いんだっけ
ペース的にはまだ大丈夫だけど容量も迫ってきた
500KBがラインだったはずだから480KBあたりで次スレかな
>>516 お大事に!みかん食べてください
ウィキつくるの?
もう500以下だけど上げた方がいいのかな
まだ大丈夫
上げるときは深夜に上げた方がいいな
Wikiは欲しいな
携帯なら過去ログ読めるからいいが、モリタポを買うのは・・・
523 :
名無しさん、君に決めた!:2008/01/06(日) 01:23:35 ID:kZ4+VJGi
保守
>>522 つ「こっそりアンケート」
でも50モリタポを貯めるには最低1ヵ月はかかる
いまスレの容量何kbくらい?
違います
408です
528 :
名無しさん、君に決めた!:2008/01/07(月) 19:26:36 ID:wJr3vM0J
一応今投下されてる奴は保存しといたが、
これはどうするべきなんだろう。
wikiのこととかよく知らんからどうしようもない
俺のコウイチの脳内イメージは何となくミツル
といってもコウイチは描写では黒髪でスーツ着用だから、
ミツルといっても黒髪でスーツ着用してるミツルだけどね
ようやく治りました。みなさん保守ありがとうございます!
まだ本来書こうとしてた所までは書き終わっててないんですが、
あんまり投下しないで日を空けるのもアレなので、いま出来てる所まで投下します。
ちょっと区切り悪いですが、ご勘弁を……
テレキシティは、レンガ造りの『壁』に囲まれていた。
都市の内部と外界を隔てるその壁は、いわば『国境』のような役目を成しているんだろう。
高さはゆうに20メートル以上はあり、壁の両端は左右を見渡しても到底見えそうにない。
その壁には等間隔でいくつもの自動ドアが設けてあり、それぞれの自動ドアの上部には、
都市への入り口であることを指す『City Entrance』の文字がデカデカと刻み込まれていた。
壁の上には幾つもの蛍光灯(今は日が昇っているので飾り以外の役目は成していない)と、
不当に都市へと侵入してくる者を取り締まるための小さな監視カメラが常に回っている。
「ここがテレキシティーの入り口ですかねえ、コウイチくん!」
「うん、そうみたいだね。ドアの上にもそう書いてあるし。」
ぼくたち三人はその壁の目の前までやってきていた。
辺りを見渡せば、ぼくたちと同じくテレキシティへの観光者なのか、ちらほらとポケモンの影が見える。
そのほとんどが見たことのあるエスパータイプのポケモンなのだけれど、
中には、見た目エスパータイプには到底見えないようなポケモンも僅かながら存在する。
そんなエスパータイプ以外の者も、特に違和感なくエスパータイプの者達の中に紛れ込んでいるし、
今こうして壁の前にいるぼく達三人も、じろじろと周りの者達に見られたり声をかけられたりすることはない。
入り口に入る前ですらこうなんだから、テレキシティはあまり外見や種族にこだわらない都市なんだろう。
……それが例え『人間に似ている者』であろうと、『人間そのもの』でない限りは。
「おいコウイチ。誰もお前が人間だってことに気づいてないみたいだぜっ。クケケッ」
「うん、そうみたいだねっ! ちょっと不安だったけど、よかったァ……変装した甲斐があったよ」
今ぼくは、自分が『人間』だということがこの都市の者達にバレないために、ある種の変装をしている。
そして、ここまで周りの者達がぼくに対して興味を示さないということは、この変装は大成功だったということだ。
ぼくは改めて、ホッと安堵のため息をついた。
これで気兼ねなくテレキシティの観光及びぼくのポケモン捜索が出来るってものだね。
……ここに来る前に、ちゃんとみんなと相談しておいてよかった。
――――――――――――――
時は20分程ばかり遡る。
テレキシティを囲む壁と、その周りにちらほらと存在するポケモン達がうっすら見えてきた頃、
ぼくはある重大な事実を思い出したんだ。
……なぜ今まで忘れていたかも分からないほど、重大な事実。
”あのさ、そういえばこの世界って……人間が神だとか宇宙人だとかと同じような存在なんだよね。
このままぼくが人間丸出しのまんま、あんな都市に入っちゃったらさ……すっごい騒ぎになっちゃわない?”
ぼくは先ほどまで忘れていた事実とそれにより芽生えた不安を、ふたつ同時にフライゴンとジュカインに伝えた。
そしてそれを伝えたと同時に、それまでうかれていたフライゴンとジュカインの表情が瞬時に真剣な物に変わった。
そう、これはとてつもなく重大なことだ。
ぼくたちの世界でも、ちょっと外国のポケモンが姿を出したくらいでテレビも新聞も大騒ぎってなくらいだし、
ぼくらの世界とそう変わらないであろう近代都市のあのテレキシティに、
この世界では『神』と同等の存在(ちょっと誇張入ってるような気がしなくもないけど)であるという
『人間』が、つまりぼくが立ち入ってしまえば、もうどれほどの大騒ぎになるか想像もつかないし想像したくもない。
とりあえず、のんびりまったり都市観光……なんてことが出来なくなるってことくらいまでは分かる。
ゆったりなごやかに都市観光するためには、ぼくが『人間』であるということがバレてはいけない……
とりあえずぼく達は歩を止めて、その方法を考えることに専念することにしたんだ。
胸ポケットには、トレーナーカードとポケモン図鑑。
ブレザーのポケットには、ハンカチとティッシュと手鏡。
ズボンのポケットには、ちょっとした腹ごしらえのためのチューイングガム。
腰に巻いてあるポシェットの中には、おサイフ、各種傷薬、3、4つくらいのモンスターボール、
そして、寒い場所に立ち入った時のためのマフラーと毛糸の帽子が入っている。
これだけの道具で、どうやって自分が人間だとバレないように変装すればいいんだろう。
マフラーで顔をぐるぐる巻きにするとか……? いやいや、それはちょっとイヤだよっ!
頭を抱えて悩んでいたとき、ふとジュカインが思い出したようにこう漏らしたんだ。
”そういえば昨晩、お前と族長が二人でどっか行ってる間に、キモリ達に聞いたな……
『人間を人間と区別する最大のポイント』……ってやつをさ”
それを聞いた瞬間、ぼくの中にふとこういう疑問が芽生えた。
そういえば、ここのポケモン達はぼくの姿を見て瞬時に『人間』と勘付いているけど、
足が二本、腕が二本、頭が一つの生物なんてポケモンの世界でも特に珍しくはないのに、
ここのポケモン達は、どこを見て『あっ、こいつ人間だっ!』と把握しているんだろう。
……それが分かれば、自分が人間だとバレないための効率のいい変装の完成に大きく近づけるかもっ……!
”ど、どうやって区別してるの? ここのポケモン達はっ! 教えてっ、ジュカイン!”
ジュカインの答えは、こうだった。
”ああ、これがおおまかに二つポイントがあるらしくてな……
なんでも、髪の毛と、指……らしいぜっ”
”頭の下のほうや手はツルツルなのに、
上の方だけ毛を伸ばしに伸ばしてるその珍妙なスタイル。
そして、何でも器用に物を作れちゃう五本の指。
この二つが、『人間を人間と区別する最大のポイント』……らしいぜ”
その言葉に、ぼくは深く納得する。
人間はふつう服を着ているし、ここは人間により文化が伝えられた世界なのだから、
服で覆われている部分は区別する対象にはならない。
つまり区別するポイントは、『露出している部分』のみということになる。
そしてその露出している部分で一番特徴的なのは、確かに髪の毛と指だ。
ということは、その二点をどうにかすれば、ぼくが『人間』として見られることはなくなる……!
人間だとバレないための効率のいい変装。
その方法が瞬時に頭の中で構築され、ぼくはすぐさまそれを実行した。
まず指を見せないために、手をブレザーの袖の内側に隠す。
これで最低限はOKなわけだけど、一片も怪しまれないためには隠すだけじゃあ物足りない。
つまり『新しい手』を作れば、より自分が人間ではないということをアピールできるはずだ。
そこでぼくは、『モンスターボール』を新しい手とすることにした。
袖の中にモンスターボールを入れ、その半分だけ袖からはみださせる。
こうするだけで、新しい手の完成だっ!
モンスターボールの白い部分をはみ出させてるから、見た目は『ドラえもん』の手そっくりだねコレ。
で、髪の毛を隠すのは簡単。ただ毛糸の帽子をすっぽりと被るだけでオーケー!
……髪の毛をぜんぶ帽子の中に収めるわけだから暑いし蒸れるしで最悪だけど、
そこはフライゴンとジュカインのためにがまんがまんっ!
人間を人間と区別する二つのポイントを完全に覆い隠したこの変装。
完璧だとは思いつつも正直不安ではあったけど、その不安は杞憂に終わった。
そしてそれは同時に、ポケモンが作り出した近代都市への期待と興味を再び呼び起こす事となったんだ!
――――――――――――――
数分後、ぼくらはついにテレキシティへの入り口の中へと入っていた。
当然といえば当然だけれど、入り口を通ったらすぐに都市の中……というわけではなくて、
入街手続きを済ませるための審査所への待合室に繋がっていた。
待合室の中は、予想していたよりは居るポケモンが少なくて、
幾つか設置してあるソファにも、ぼくたち三人分が座れるようなスペースは幾つも空いている。
ぼくたちは入り口前で受付に渡された整理券を握り締めながら、遠慮なくソファへと腰を下ろした。
「うわー、ふかふかですねこのソファ〜。いままで木の椅子やら地べたとかにばっか座ってたから気持ちいいや〜」
フライゴンは顔をほくほくとさせながら、軽く飛び跳ねたりしてソファの弾力を楽しんでいる。
「この植物手入れが悪いなーっ! 土もからっからに乾いてるし、ちゃんと水やってんのかなァ〜? 枯れるぜコレいつか」
ジュカインは、ソファのすぐ横においてある観葉植物を手でいじりながら、あれこれ文句を言っている。
……まったくぅ、二人ともまるで田舎モノみたいだな。大勢いる場なんだから、もっとこう慎ましくさァ……
……とは心の中で思っていても、このぼくもさっきから心がソワソワして落ち着かない。
ソファや観葉植物もモチロンそうだし、ぴかぴかでつるつるな床や天井、設置された公衆電話、
すべてが、この世界では今までになかった近代的なモノで、
そんな近代的な建物の中なのに、周りに存在する生物は『ポケモンだけ』だというこの違和感。
胸の奥にしまわれかけていた非現実的な感覚が、再び呼び起こされてきてしまう。
……ただ、『非現実的な感覚』とは言っても、そこに不快感やら不安といったものはない。
むしろ、入り混じっているのはそれらとは全く真逆な意味のものたちだ。
例えるなら、はじめて動物園やら遊園地に行った時のような気分。
そんな夢のような感覚が、ぼく……いや、ぼくらの心を落ち着かせないでいるんだ。
そんなまったく落ち着かない待ち時間を過ごしている中、
フライゴンがふと立ち上がって、部屋の一端にあるテーブルに向かって歩いていく。
そこの棚からパンフレット状の紙を持ち帰ってくると、それをぼくに見せてきた。
「ねぇねぇコウイチくん。ホラ、『入街審査案内』ですってー」
「『入街審査案内』?」
フライゴンが持ってきたものは、入街審査の手順やら注意事項が書かれたものだった。
カラー印刷で文字も大きく、所々にイラストもあり、かなり見やすく作られている。
「へー、ずいぶん見やすいねーっ、コレ」
「イメージアイドルなんてのもいるぜ。『くちびる系アイドル・ムチュールちゃん』だってさ。
こーゆーアイドルとか乗せる意味あるのかなー!? たかだか審査案内の紙一枚にさ……」
いきなりジュカインが、所々に写っている髪の生えたペンギンのようなアイドルに対して文句をつけ始めた。
「まぁまぁ、オヤジじゃあないんだからそんな細かい所まで気にするなよジュカイン。
んじゃあー、せっかくだからボクが読み上げますねコウイチくん。えーと、なになに……」
「オ、オヤジって……」
不遜な表情を浮かべるジュカインを尻目に、
フライゴンは紙を目で追いながら、たどたどしい口調で読み上げ始めた。
「1・うけとった整理券の番号を呼ばれたら、指定された審査室へ入りますっ。
2・わたされた書類に種族名・氏名などの情報を記入し提出しますっ。
記入事項に従って……ええと、てーねーに記入してくださいっ。
3・手荷物検査とボディチェックを行いますっ。
4・SMJ……かっこS波による心の鑑定かっことじを行い、貴方の危険度を察知しますっ。
5・入街者リストへ貴方が登録されて審査は終了ですっ!」
「注意……私物検査で危険物が出た場合ただちに没収のち処分となり、危険者リストに登録されます。
心の鑑定により危険度が70を超えた方は危険者リストに登録させていただき、
90を超えた方は、申し訳ありませんが入街を拒否させていただきます。ごりょーしょーください……」
読み終えたフライゴンは、苦い顔をしながら不安そうに呟いた。
「ですって。うわァ、大丈夫かなぁ」
「危険度を察知しますだってさっ。オレとお前はこれに引っかかるんじゃねぇの? クケケッ」
ジュカインは腕のリーフブレードを撫でながら、軽くため息をつく。
「ぜったい引っかかっちゃうよねー! ボクは爪や尻尾は凶器だし、熱いの口から吹けちゃうし……
ジュカインも、腕に刃物引っ付けてるしね。コウイチくんは穏やかで優しいから危険度0でしょうけど」
「90以上いっちまったらどうしような? っつかどういう方法で鑑定するんだろ……質疑応答?」
「そこはアレだよ。エスパータイプだけに超能力でも使うんじゃなーいの?」
「超能力でどんな風に検査するんだろうな? 器具とか使うのかな?」
「さァ? 分からないけど、なんだか楽しみだなぁ、ボク」
不安そうにしていたのはどこへやらだんだんと楽しそうに語り始めるフライゴンを脇目に、
ぼくは、少しばかり審査への不安で緊張していた。
人間に見えないように変装したはいいけど、ボディチェックとかのときにごまかせるかな……
「うう、ぼくも何だか緊張してきたよ。……バレないまま審査抜けられるかなァ……」
不安のあまり、ぼくは二人に励ましてもらいたくてつい小声でそう漏らしてしまう。
それを聞いた二人は、同じく小声で期待通りぼくを励ましてくれた。
「きっと大丈夫ですってコウイチくん! コウイチくんなら何とかごまかせますって!」
「最悪ボディチェックのときバレたとしてもさ、内情を話して口止めすれば大丈夫だぜ。多分」
「そうかな……うん、ありがとう二人ともっ」
二人の意見は根拠のないものだし実際にはまったく頼りにならないものだけれど、
ぼくはとても勇気付けられて、次の瞬間には不安や緊張も驚くほどに和らいでいた。
そうだよね、何とかなる、大丈夫さ。別に悪いことしてるわけじゃあないんだし……
『84番の方。84番の方、Dの審査室へお入りください』
48という数字にぼくはピクリと反応する。48……ぼくの整理券に記されている番号だ。
「呼ばれた。じゃあ行ってくるね、フライゴン、ジュカイン」
「はァーい。また奥で会いましょうねー」
「必死でごまかせよ。カハハッ」
ぼくは立ち上がり、まだ若干の不安を抱きながら指定された審査室へと入っていった。
「うう、ぼくも何だか緊張してきたよ。バレないまま審査抜けられるかなァ……」
不安のあまり、ぼくは二人に励ましてもらいたくてつい小声でそう漏らしてしまう。
それを聞いた二人は、同じく小声で期待通りぼくを励ましてくれた。
「きっと大丈夫ですってコウイチくん! コウイチくんなら何とかごまかせますって!」
「最悪ボディチェックのときバレたとしてもさ、内情を話して口止めすれば大丈夫だぜ。多分」
「そうかな……うん、ありがとう二人ともっ」
二人の意見は根拠のないものだし実際にはまったく頼りにならないものだけれど、
ぼくはとても勇気付けられて、次の瞬間には不安や緊張も驚くほどに和らいでいた。
そうだよね、何とかなる、大丈夫さ。別に悪いことしてるわけじゃあないんだし……
『84番の方。84番の方、Dの審査室へお入りください』
84という数字にぼくはピクリと反応する。84……ぼくの整理券に記されている番号だ。
「呼ばれた。じゃあ行ってくるね、フライゴン、ジュカイン」
「はァーい。また奥で会いましょうねー」
「必死でごまかせよ。カハハッ」
ぼくは立ち上がり、まだ若干の不安を抱きながら指定された審査室へと入っていった。
wikiの件ですけど、自分的にも作ってくれると嬉しいですね。
自分の文を保管してくれるというのは色々な意味で励みになります。
お帰りなさい!
84?48?
間違ってるよ〜。
GJ!頑張って〜
GJ!
ストーリーは決まってるの?
>>544 3話はもう細かい流れは全部決まってますし、
10話くらいまでは大体おおまかな流れくらいまでは考えてありますねー。
暇があればストーリーを妄想してお話のストックを増やしていってます。
はいはいトリップ間違えてしまいましたよ。
なんという地味すぎる良スレ
ここだけは荒れないようにしたいものだ
550 :
名無しさん、君に決めた!:2008/01/13(日) 23:58:00 ID:dAzePhmk
保守age
なんか絵でも描いてみようかな
wiki作ってみようと思う
見たいと思ったときにすぐに見れるのは読者としても嬉しい
ただちょっと時間かかるかもしれないのであまり期待しないでくださいお願いします
作者マジでこんなトコで才能を無駄に使ってないか?これ本にして出版したら絶対売れるよ…
553 :
551:2008/01/14(月) 14:33:49 ID:???
話のタイトルは『ポケモン ドリームワールド』で宜しいですか?
おk
wiki期待してる
556 :
551:2008/01/15(火) 01:49:10 ID:???
wiki進行状況:第二話まで掲載完了
第一話と飛鳥部隊まで誤字脱字チェック完了
二番目のやつはこれどう考えても違和感あるというものを勝手にポチポチしちゃってます。すいません。
もうちょっとかかる予定ですが初心者の手ではシンプルってレベルじゃねーですご了承下さい。
頑張って!
ここのフライゴンはためらいなく主人公に体捧げそうなくらい従順でつね
今日か明日には投下できるかもです。
投下間隔遅くてごめんなさい。
いざ書いてみるとつい筆が進んじゃって、分量が予定の二倍以上になってしまい……
結果書き上がるのが遅れてしまうとか、そんなんばっかですいつも。
どうしようもない悪癖よのー、ですよね。こうして自覚はしてるんですけどもねー……
>>551 保存してくれるだけでも嬉しいですよー。ありがとうございます。
10レス前後なら週一でも別に遅くはないべ
562 :
551:2008/01/18(金) 16:16:46 ID:???
wiki乙ー
>>562 wikiありがとうございます。
これでいつでも確認できます。お疲れ様でしたー。
それでは投下しますね。
通された審査室には、スーツを着こなした役人さんらしきユンゲラーが三体佇んでいた。
部屋の内装は存外大人しめで、何枚もの書類が置かれた丸いテーブルが中心にあり、
隅に用途の分からない大きな機械が一つと、コンピュータが何台か置かれているだけだ。
そのくせ間取りはムダに広いので、それがぼくの緊張を一層と煽る。
三体の役人ユンゲラーの内の一体が丸いテーブルを囲む椅子の一つに座ると、ぼくにこう指示した。
「こちらへお座りください」
「はい」
促されたとおり、役人ユンゲラーの座っている向かい側の椅子に腰を下ろすと、
役人ユンゲラーはすぐさまテーブルの上に置かれている書類とペンをボクに差し出した。
「では、こちらの書類にご記入願います」
淡々とした事務的な口調でそう指示する役人ユンゲラー。
ほぼ無機質なその口調は、毎日この仕事を飽きるほどに繰り返しているそれだ。
……もしかしたら数分もしないうちに、この人の事務的でない口調が聞けるかもしれない。
ぼくが人間だとバレることによって……
……って、何を後ろ向きなことを考えているんだ、ぼくは。
フライゴンも言っていたじゃあないか。そう、大丈夫。大丈夫さ。
ぼくは己自身を励ましながら、とりあえず目の前の書類に目を通した。
記入する欄は意外にも少ない。種族名、氏名、性別、年齢、健康状態、特技……
『どこから来たのか』などを記入する欄は存在しないし、すべて適当に誤魔化せそうだ。
さぁ、怪しまれる前にさっさと書いてしまおう。
…………あっ。
しまったァーーー!! ぼくは大マヌケかっ!!?
書けないっ! というかペンを持てないっ!
今のぼくのこの手……『モンスターボールの手』じゃあ、ペンを持てないっ!
このモンスターボールの手である間、指を使うことは全てフライゴン達に任せればいいと思っていた。
だけど、こういう状況は一切想定しなかった。隔離された部屋でぼく一人、指を使わなければいけないこの状況……
なぜあの審査案内を見た時から、こういった状況に陥ってしまうだろうことへ思考が行き届かなかったんだろう。
そこへ思考が行き届いていれば、何かしら対策は打てたに違いないのに……
書類とペンを見つめたまま、ぼくは動くことが出来ない。
テストの途中にシャーペンの芯を完全に切らしてしまったら多分こういう気分になるんだろう。
……混乱のあまり、ぼくは次の瞬間こんなことを口走ってしまっていた。
「あ、あのう……あなたが代わりに記入していただけませんか?」
「は?」
「いや、あの……ぼ、ぼくが言った通りに書類に記入してほしいんです。
あの、その、何というか、ぼく……字とか書くのは、何ていうか……」
言ってる自分でも分かる。『何をむちゃらくちゃらな事を言っているんだぼくはっ!?』
自分自身が言っているのに、まるで他人の言葉を聞いているかのようだ。
そして、目の前の役人ユンゲラーの答えは当然……
「直筆でお願いします」
相変わらず事務的な口調で対応された。当たり前だけど……
役人ユンゲラーの左隣に立っている髭のない役人ユンゲラーは、さも退屈そうに目を細めている。
右隣に立っている髭の長い役人ユンゲラーは、怪しむようにぼくを鋭い目つきで見ている。
部屋の隅にあるコンピュータの駆動音が、やたらと耳に響く。
本当に、どうしよう。事態は深刻になってくばかりだよオォ〜〜〜
……
そういえばこの目の前の役人ユンゲラー、どうして何も言わないんだ?
『言葉を喋れるのならものを書けないわけがない』と高をくくってでもいるんだろうか。
ぼくのこの丸い手を見れば、ペンを持てそうにないとすぐに気づくだろうに……
……待てよ。
そういえば指がなくても、ペンぐらい持とうとすれば持てるよね。
たとえば指や腕がない人は、口や足で筆記用具を持って文字を書くし、
本来ものを掴むための部位がなかったとしても、他の部位で代用すればいい話なんだ。
……もしかしたらこの役人ユンゲラーは、ぼくが『そういう種族の者』だと思っているんじゃあ……?
よおし、それならばこの役人さんの期待通りにやってあげようじゃあないか。
ぼくは、テーブルの上に転がっているペンに向かって顔を伸ばした。
普通なら指で持つ部分を……ぼくは唇で掬い上げ、そして挟み込む。
「……」
若干、辺りの空気が変わった気がする。
いや……逆だ。変わったのは辺りの空気ではなくて、ぼくの心情……
隔離された静かな部屋で三体のポケモンに見守られながら、テーブルの上に転がるペンを唇で持ち上げる。
なんとも珍妙な状況だ。衆人監視のなか汚れた地面を舐めさせられる、昔の罪人みたいだ。
……でもっ。
それとは違う。恥じゃあない。ぼくがペンを持つ方法はこれだけ……『これだけ』なんだから。
そう、ぼくはいま『そういう種族』なんだ。『ペンを唇で持って文字を書く種族』なんだ。
ぼくはしっかり唇でペンの先端を挟みながら、筆先を書類の記入欄へとくっつけた。
とても書きにくいし字は下手になってしまうけれど、書けないわけじゃない。
とりあえずは書ける。そう、それで十分だ。
字が下手だろうが、記入欄を全て埋められればそれでいい。
記入欄が半分ほど埋まってから、ぼくは念のため上目遣いで役人ユンゲラー達の様子を確認してみた。
向かい側の役人ユンゲラーは、別段何事もなかったかのように表情は一切変えていない。
左隣の髭なしユンゲラーも相変わらず退屈そうにしているだけだ。
だけど右隣の髭長ユンゲラーは、変わらずぼくに刺すような視線を送っている。
……くそう、何を怪しんでいるんだ。『ぼくはこういう種族なんだ』! 『こういう種族なんだよっ』!
「……書き終わりました。ペン、よごしちゃってごめんなさい……」
なんとか記入欄を全て埋め終わり、謝罪も添えてぼくはペンを口から離した。
達成感とか満足感なんかよりも、なにかひどく無駄なことをしたような気分でいっぱいだ。
……口でペンを持って物を書くなんて、もう生涯ないかもね。希有な体験したなあ。
「お疲れ様でした。それでは次の部屋でボディチェックとSMJをお受けください」
役人ユンゲラーはそう言って席を立つと、その書類を持ってコンピューターの方へ向かい何かの作業を始め出した。
それと同時に髭なしユンゲラーと髭長ユンゲラーがぼくの隣へやってきて、こう指示を出した。
「では、こちらへ。検査室へご案内します」
そう言って、二体の役人ユンゲラーはぼくが立ち上がるのを確認すると、
出口の方の扉を開けて、髭長はぼくの隣に、髭なしはぼくの前に立って、検査室への歩を進めはじめた。
ボディチェック……たぶん、これが一番の関門となるだろう。さて、バレずに抜けられるだろうか……?
再び、緊張がぼくの胃をきりきりと緩く締め付け始めた。
不自然に長い通路を挟んだ後、ぼくは検査室へと辿り着いた。
そして、その部屋の驚くほど質素な内装に、ぼくはちょっとした驚きを覚える。
先ほどの部屋もかなり質素だったけど、この部屋は質素というよりは……もはや何もない。
たぶん没収したものを入れるためのカゴと、鉄か何かで出来たようなメットが幾つか壁にかけてあるだけだ。
それほど質素なのにやはり間取りだけはやたらと広くて、不気味さすらも醸し出している。
「あのう。この部屋ってなんでこんな質素なんですか? 部屋もやたら広いし……」
たまらず、ぼくは役人さんに向かってそう質問してみる。
その質問に、髭長ユンゲラーが即座に答えを返した。
「これからボディチェックの後に始める『SMJ』と呼ばれる検査は、超能力を使う検査です。
そして超能力を発した際に生じる『S波』という振動は、精密機器などに影響を及ぼします。
ですから無駄なものは置かないのです。部屋が広いのは、S波の振動を部屋の外に漏らさぬためです」
「へぇ、なるほどォ……ありがとうございます」
部屋の質素さと間取りの広さにはやはりちゃんとした理由があったんだ。
そしてエスパータイプというだけあって、自分たちの特性を生かした検査方法を作り出している。
感心すると同時に不安も芽生える。超能力というと万能なイメージがある。隠し事くらいなんでも見破れそうなイメージが……
ますます不安が深まっていく中、ふと髭長ユンゲラーが……
「……あなたの場合は……たっぷりとそのS波の振動を体感する羽目になるかも……」
「えっ?」
髭長ユンゲラーが何か意味深なことを呟いたのを、ぼくは聞き逃さなかった。
いま確実に、『ぼくが隠し事をしている』ことを見破っているかのような言葉を……
「はいはいはいはい、サァサァさっさとボディチェックを始めちゃいましょうね!!
ムダ話はあとあと、他のお客さんが突っかかっちまう前に、検査を早く済ませちまいましょう!」
しびれを切らしたのか髭なしユンゲラーのほうがいきなりそう叫び出し、ぼくのポシェットの中をさっさと確認し始めた。
この人は、面倒なことは早く済ませたい性格なのだろう。ということは、多少はぐらかしても無視してくれるかも……
多少だが光明が増してきた。問題はあの髭長ユンゲラーか……
「ええと、財布にマフラー、と……ん、このガラス瓶に入ってるのは何ですかー?」
髭なしユンゲラーは、ポシェットの中の各種傷薬を指差している。
「ああ、それお薬です。ピンク色のやつとオレンジ色のやつは傷薬で、
金色のヤツはなんでもなおし……あの、万能薬みたいなものです。
怪しく感じるなら没収してもいいですよっ。都市の中で同じようなの買いますし」
いらない誤解をかけられるのを危惧して、没収してもよいと言っておく。
でもその配慮は必要なかったようで、髭なしユンゲラーは照れ笑いしながらすぐ傷薬から指を離した。
「ああ、傷薬ですか。分かりました、それならOKで……あっ!」
しかしその瞬間、髭長ユンゲラーの方が代わりにポシェットに手を突っ込み……
「これは没収ですね」
そして、各種傷薬をすべて籠の中に突っ込んでしまったのだ。
その光景に、髭なしユンゲラーはおろおろとうろたえている。
「えっ、あっあっ。おいルンゲラ、それはただの傷薬だってこの子が言って……」
「お前はアホかユルグ、確証がないだろうが! こういうものは基本的に没収なのだ、アホめっ」
髭長ユンゲラーもといルンゲラさんは、髭なしユンゲラーもといユルグさんを乱雑な口調で罵倒しながら、
ぼくのポシェットの中をじっと見つめた後、ぼくのスーツのポケットをまさぐり始めた。
「ハンカチにティッシュにガムに手鏡……と。……この機械は何ですか?」
ルンゲラさんは胸ポケットからポケモン図鑑を取ると、まじまじと観察し始めた。
「えっ! それはっ……」
ぼくは咄嗟の返答に困る。『ポケモン図鑑』なんて直接言って大丈夫だろうか?
でもさすがにポケモン図鑑は没収されるわけにはいかない。ぼくは適当な嘘を交えてこう答えた。
「それは、『モンスター図鑑』です。ぼく全国を回ってモンスター達をこの図鑑に記録しているんです。
それを没収されたら、ぼく困りますっ! その図鑑を埋めていくのがぼくの仕事なのに……」
「ふうん……まぁ害はなさそうですし、これはいいでしょう」
ルンゲラさんは一通り図鑑を観察した後、ぼくの胸ポケットに図鑑を戻してくれた。よかった……
「それでは、上着と帽子の下も見せてください」
「えっ!?」
安堵したのも束の間、ルンゲラさんのその指示にぼくは胸を跳ね上がらせる。
……上着と帽子の下を見せろだって!? そんなことしたら、
人間であることの証明である髪の毛と五本の指が丸出しになっちゃって、一発で人間とバレるじゃあないか!
従うわけにはいかない。どうにかはぐらかさなきゃ……
「あ、あの、見せなきゃダメですか? 手で触って確認とか、それだけじゃあダメなんですか?」
「当然でしょう。裸まで見せろとは言いませんが、見せれるところまでは見せていただかないと……
それにしても、何か様子がおかしいですね? 上着あるいは帽子の下に『危険物』でも隠してるとか……
そういった事情でもあるような……そんな様子ですね、今のあなた……ふふふふ」
「うぐっ……」
ルンゲラさんの嘲笑の混じったその口調は、まるで『すべてお見通し』でも言っているようだ。
答えがずれてはいるものの、ぼくの醸し出している怪しさを彼は敏感に感じ取っている。
……一度疑われてしまえば、その疑いが完全に間違いでない限り、晴らすのはとても難しい。
上手くはぐらかしきれるだろうか……いいや、どのみちぼくには何とかはぐらかすしか道はないんだ。
「イヤだな〜! ぼく危険物なんて隠し持ってませんよォ。
いまあなた、『見せれるところまでは見せていただく』って言いましたね?」
「はあ……言いましたがそれがなにか?」
冷徹な視線をボクに投げかけるルンゲラさん。構わずぼくは言い訳を続ける。
「『見せれない』んですよっ! 危険物だとかなんだとかそういう理由じゃなくて、
ぼくらの種族じゃあ帽子や上着の下を見られるのは、裸を見せるのと同じくらい恥ずかしいことなんです。
あなた達の常識じゃあ考えられないことでしょうけど……ホラ、世界って広いでしょ」
「……へえ」
「……!」
ルンゲラさんの目つきは、ぼくが言い訳を始めてから一層鋭さを増している。
まるで射抜くような視線。疑っているというよりは、もはや怒っているかのような……
……もしかして、ぼくの言い訳……逆効果だったんじゃあ……
「……嘗めるなよ、小僧」
「!?」
突如、胸にズシリと響くような低く重い声が、部屋に響き渡った。
そしてその低く重い声が紡いでいたのは、この場では全く場違いともいえる乱暴な言葉。
それを発した声の主は……もちろんぼくじゃあなくて……はしっこで小さくなっているユルグさんでもなくて……
残るもう一人の……
「嘗めるなよ小僧ッ!! そんなバレバレの言い訳にこの私が乗せられるかァッ!!
ヌケヌケと都市に入れると思ったのか? そんな子供すら騙せないような稚拙な言い訳でッ!!
侮辱された気分だ、ああ胸糞悪い!! この仕事に就いてから滅多にないぞこんな気分になったのはッ!!」
一変して粗暴な口調になったルンゲラさんは、血走らせた目をかっ開いてぼくを睨み付けている。
ぼくは一瞬で感じ取った。怒りに触れた……社会人の怒りに触れちゃったよォ〜〜……
即刻あやまりたいけど、そうさせてくれる暇もなくルンゲラさんはぼくに言葉を投げつけ続ける。
「思えば、貴様が審査室に入ってきたときから私は貴様を怪しいと思っていた……
超能力ではない。私が長年この仕事をやってきて培った『勘』だっ!
その『勘』が、貴様の胸の内にある薄汚れた野望を感じ取ったのだっ!!
このクサレ小僧め、バレバレに露呈してんだよ貴様の小悪党精神……」
「お、おいおォ〜いルンゲラー。声を荒げるのはやめようぜェ〜〜……」
この状況を見かねたのか、ふとユルグさんがかなり控えめな口調でそう言う。しかし……
「黙らんかユルグッ!! 貴様はトイレでも行って顔でも洗っていろッ!!」
「ひえぇっ! ご、ごめんなしゃ〜〜い……」
ルンゲラさんのプレッシャーに押されて、ユルグさんはまたすぐに縮こまってしまった。頼りにならない人だなぁ……
「ふんっ……さて……」
「……?」
ルンゲラさんは鼻息を荒げながら、ひょっとぼくから視線を外し壁の方に歩いていった。
そして、その壁にかけられているメットを手に取ると、こちらに戻ってきてぼくに手渡してきた。
鉄でもなければプラスチックでもない、何とも言えない感触のヘルメット。
「……こ、これは……?」
「貴様の嘘はバレバレだが、それでも確証をなしにひっとらえるのもいけないことだ……
貴様の嘘を嘘だと完全に証明し、後味よく最高に気持っちよくひっとらえてやるっ!!
さぁ、それを被れ小僧ッ! 今から『サイコキネシス』を使い、貴様の『心の揺れ幅』を観察してやるッ!!」
「心の……揺れ幅……?」
ルンゲラさんはこれから、テレビとかで見る『嘘発見機』みたいなことを超能力でするってことだろうか。
じゃあ、何でこのメットを被る必要があるんだろう。
これが機械だったとして、超能力を使ったら精密機器に影響が出るはずなのに……
……あっ、そうか。超能力を使った際に『ぼくの脳みそ』に影響が出るのを防ぐために、このメットを被るってわけね。
……そんな風にゆっくりと考えていたら……
「さっさと被れッ!!」
「あっ、は、ハイっ!」
ルンゲラさんの剣幕に押され、ぼくはすぐさまそのメットを頭にはめ込んだ。
ちょいとメットのサイズが大きすぎる。ブカブカだ。こんなんで、『S波』とやらから脳みそを守ってくれるのかな。
……違う。そんなことよりも、嘘を見破られて人間だとバレてしまうことのほうが、よっぽど心配だ。
相手は超能力だぞっ、超能力。サイコキネシスだぞォ……! 『バレない』なんてこと有り得るの……?
……バレる。バレちゃうのかっ、ついに……!? 嘘でしょォ〜〜……!?
「今から質問をする。『YES』か『NO』で答えろッ!! 分かったなッ!?」
「……はい」
素直に返事をするしか、ぼくに道は残されていない。
ルンゲラさんはぼくがそう返事をしたのを確認すると、一度勝ち誇ったような笑みを浮かべた後、こう問いかけた。
「その毛糸の帽子、あるいは上着の下に……『我々に見られたらマズいもの』は入っているか?」
支援だぜ
「……!」
ぼくが人間だとバレるのはマズいことだから答えはYESだけど、
YESと答えたところで正直者だと褒められ、人間であることがバレて都市中に広まるだけ。
逆にNOと答えても、それが嘘だと見破られる。
どう答えても、『心の揺れ幅』とやらのせいでそれは全て自供となってしまう……
いわゆる、詰むしかない将棋っていうやつだ。もうどうしようもない……
……こうなったらもう、相手の超能力とやらがどうにか外れてくれることを祈るしかない……!
「『NO』……です」
超能力以前に、答え方とその表情で悟られてしまわないように、あくまで平静を装いそう答える。
「……クッククク、まぁ当然の答えだな。さて、それが嘘かはたまた真か……
十中十ウソであるということは分かっているが……見せてもらおうかァ、貴様の心の揺れ幅ッ!!」
ルンゲラさんはそう言うと、思い切り目をかっ開き、全身を硬直させるように力を入れ始めた。
超能力を発動させたんだ。ぼくの心の揺れ幅を見るための、超能力……エスパータイプの特権!
次第に辺りの空気が明らかに変わってくる。空気がかすかにうねっているような感覚……
頭に被っているメットのおかげなのか頭痛などの症状は起きないけど、軽い耳鳴りが響いてきた。
……実感はないけど、いま確かに探られているんだ。ぼくの心の揺れ幅……動揺を……
……動揺……そうだ。この動揺が、『ぼくはウソをついています』というメッセージを送っているんだ。
多分だけれど、心を読まれているってわけじゃあない。ルンゲラさんが読んでいるのは、あくまで『動揺の具合』だけ。
だから、心を鎮めれば……この渦巻く動揺をどうにか収めれば……ぼくの『NO』は『NO』のままだ。
そうだ、抑えろ。鎮まれ、ぼくのこの動揺……鎮まれっ、鎮まるんだっ。
フライゴンやジュカインとの楽しい都市観光のために! 鎮まるんだっ!!
「……ククックク。ふふははは……」
「ハハハハーーーッ!! 嘘をついてるなァーーーーー貴様ァーーーーー!!
貴様の心がビンビンに揺れているぞッ!! 『ぼくちんはウソをついています』と自白しているぞォッ!!」
「!!」
ルンゲラさんの歓喜の叫び声。
瞬間、ぼくの胸中に何か重いものが覆いかぶさった。
ウソだと、バレた。バレたっ、バレたっ
言いわけをする暇も、それを考える暇もなかった。
「このテレキシティで何を仕出かそうと企んでいたかは知れぬが、貴様のその計画は適わんぞッ!!
確かな証明が出来たんだからなァーーー即効見せてもらおうネェーーーまず貴様のその帽子の下ァッ!!」
ルンゲラさんは興奮したようにそう叫びながら、ビッと勢いよく人差し指をこちらに向けた。
「あっ!」
突然頭上のメットが弾け飛び、その下の毛糸の帽子も、見えない力でずるずると脱がされていく。
同時に急に耳鳴りが増し、頭に割れそうなほどの痛みがのしかかってくる。
サイコキネシスだ……ルンゲラさんは、サイコキネシスでぼくの帽子を脱がそうとしている……!
ぼくは咄嗟にモンスターボールの手で頭を押さえる。しかし、見えない力はぼくの手ごと帽子を脱がそうとしてくる。
「お、おいルンゲラ! 耐波メットをしてないやつにそんな強いサイコキネシスを浴びせるのは法律違反……」
「うっとうしいぞユルグっ!! そのヒゲぶち抜かれたくなったら黙って見てろゴミカスッ!!」
ルンゲラさんの叫び声が聞こえると同時に、見えない力は一層その強さを増してきた。
脱がされていく帽子の下から、黒髪がぱらぱらと垂れてくる。も……もう……!
毛糸の帽子が、ぼくの頭からずり落ちた。
その下から現れる髪の毛。二体の役人ユンゲラーの前に、ぼくの髪の毛が晒された。
「えっ……!?」
「あっ……!!」
空気のうねりが収まり、同時に激しい耳鳴りと頭痛から開放される。
そして代わりに、重油を流し込んだかのような重い沈黙が辺りを包み込んだ。
吃驚したまま表情を固まらせてぼくを凝視する、二体のユンゲラー。
その表情は、彼らの心の中の言葉をそのままぼくに伝えている。
『こいつはまさか!?』『そのまさかさ、まさかのまさかだよ』『人間だっ! 間違いない、人間だ!』
ぼくの中を、ずっと同じ単語がリフレインし続ける。
バレたっ バレたっ バレたっ バレたっ
「……髪の毛……それも、一本一本がシャーペンの芯よりもずっと細い……
ムチュール族やキルリア族の頭の毛とは違う、本物の……『髪の毛』」
先程の勢いを感じさせない、震えた声でそう呟くルンゲラさん。
続けてユルグさんが、ぼくの絶望を確実なものへとする言葉を放った。
「マジかよ……嘘だろォ……めちゃくちゃな大ニュースじゃあねえか、このテレキシティに……」
「『人間様』がやってきたなんて……!」
「…………」
再び沈黙が訪れた。二体のユンゲラーの表情は相変わらず驚きのまま固まっている。
……………………
……このまま帰ろうか……?
……それとも、このことを都市の内部の者に報告されると分かっていて、入街するか……?
……いや……まだ打つ手は、あるっ。
「あ〜あ……困ったな。ぼくのこれ、見られちゃうなんて……」
「!」
急にぼくが喋りだしたのに反応して、ハッとする二体のユンゲラー。
ぼくは深く俯き、二体にちゃんと聞こえるように大きくため息をつきながら、こう言った。
「行く先々で……みんなこれ見るとそう言います。そして、騒ぐんです。
ぼくにかかる迷惑も顧みず、人間様だ人間様だと好き勝手に騒いで纏わりつくんです。
とっても迷惑でした。ぼくが人間様だなんてそんなの……とんでもない『勘違い』なのに」
「えっ……!?」
「か、勘違い……!?」
予想通り、驚きそう反応する二体のユンゲラー。
ぼくは上目遣い気味に二体の顔を見ながら、話を続ける。
「ぼくはこの通り人間様に似ているだけで、人間様とは何の関係もない種族なんです。
……ぼくはぼくだっ。それ以外の何者でもない……もちろん、人間様なんかじゃあない。
なのに、誰もそれを聞き入れてくれない……騒ぎ続けて、ぼくの平穏を奪っていく……!」
わざと語尾に力を込めて、さらに下唇を強く噛み締める。
二体のユンゲラーの顔色が変わってきた……ぼくを憂うような顔色へ。
ぼくは顔をあげて、畳み掛けるように声量を強くしてこう言った。
「平穏が欲しい! 平穏な生活がしたい! ただそれだけなんだっ!
だからぼくは故郷を飛び出し、種族にはこだわらないと評判のこの街へと来たんだっ!
誰にも騒がれない、そんな落ち着いた生活……それだけを……夢見て……」
今度は語尾を弱めて、ふたたび顔を俯かせる。
そうすると、ふとユルグさんがこう口にした。
「……そういう……ことだったんだ……」
ユルグさんはぼくの言葉に感化されたのか、感傷的な視線をぼくに落としている。
よおしっ、伝わっているぞっ……ぼくの『架空の過去』っ……『迫真の演技』……!
ぼくはいま、架空の過去をこの瞬間だけ自分の過去と思い込み、伝えている。
要するに単なるでっち上げさ。この窮地を抜け切るために、咄嗟に思いついたでっち上げだ。
もともと人間が何食わぬ顔をしてこの世界の都市観光にやってくるなんて、彼らにとっては『ありえないこと』なんだから、
『人間に似ているだけの違う種族』とした方がリアリティがあり、信じてもらえやすいはず。
彼らポケモンだって、わざわざ目の前の発言を疑ってまで非現実的な方を信じようとしたりはしないだろう。
……でっち上げを大人に信じ込ませて感傷に浸らせるなんて何だか気が引けるけど、
まぁ『平穏な観光がしたい』という所は変わらないし、別にいいよね。うん、うん。
「ぼくは平穏を求めて、故郷を飛び出してまでこの都市にやってきたのに……
ここでも……ぼくはぼくとして、受け入れてもらえないんですか……?」
そう言いながらまた上目遣いでユンゲラー達を見やると、驚いたことにぼくの目の奥から、自然と涙が滲み出てきた。
虚構と現実の区別が曖昧になってくる。まるで、たった今作り出したばかりの架空の過去が、本当の過去であるかのように。
気分も高揚してきた。今ならば、どんなクサい台詞だって吐けそうだ。ノってきた。演技がノってきたぞっ!
舞台役者とかって、演技がノってくるとこういう気持ちになるんだろうなぁ。
そして、そんなぼくの真に迫った演技が心に響いたのか、ユルグさんが……
「おい、ルンゲラっ!! 聞いたか、この子にはこんな事情があったんだっ!
この子は、ただ平穏な暮らしがしたいだけだったんだぞっ!」
「うぐっ……!」
ルンゲラさんは返答に詰まる。彼のこめかみには、一筋の汗が伝っている。
長年の勘ってやつが外れたんだ。さぞや悔しいことだろうね、ルンゲラさんめっ。
「ルンゲラ、お前はなぁー、健気なこの子の心を踏みにじり傷つけたんだ! 反省しろっ、オラっ!」
「…………」
ユルグさんはここぞとばかりにルンゲラさんを責めたてている。急に頼りがいのある人に大変貌だ。
やっと、事態が好転してきたぞ。いいぞっ、この調子だっ……!
「黙れ、ユルグッ!!」
「ひっ」
急に、ルンゲラさんが、ユルグさんへ一喝を入れた。
ユルグさんはその迫力に押されて、あっさりと縮こまってしまう。
「もしかしたら……この『人間に似ている』ってのはカムフラージュで……
本当は、別の場所に危険物を隠し持っているのかも……」
ルンゲラさんはもはや意地になっているのか、そんなことを言い出した。
長年の勘が外れ、しかも一瞬とはいえユルグさんに責められたのがよっぽど悔しかったんだろう。
「そもそも、私たちの前であんな大立ち回りをすること自体違和感があるのだ……
……もう一度メットを被れ小僧ッ! その化けの皮を、ふたたび剥がしてやるぞっ」
先ほどの勢いを取り戻し、床へ落ちているメットを被るように促すルンゲラさん。
しつこいな、この人も。どうにか自分の思い通りにしたくてたまらない気持ちは分からないでもないけど……
まぁ、何にせよ危険物を持っていないのは事実なのだ。そこの所は幾ら探られようが一向に構わない。
「いいでしょう、被ります……その代わり、『危険物を持っているかどうか』という質問しか受け付けませんよ、ぼくは……」
「……ダメだ。貴様が本当に人間でないのかどうかも、探らせてもらう」
「えっ!?」
予想だにしなかったルンゲラさんのその言葉に、ぼくは疑問符を飛び出させてしまった。
「な、なんで……!?」
「黙れっ、もしかしたら貴様が種族を偽っている可能性もある!
とりあえず、念のためにそこの所をハッキリさせておく必要がある……」
「そ、そんな……」
いきなり何を言い出すんだ『コイツ』はっ!? 冗談じゃあない、今のぼくの演技まで無駄にしてしまうつもりか……!?
今の彼にはメリットとかデメリットとか、そんなものは頭にない。ただぼくをひたすら探り追い詰めたくて必死なんだ。
ユルグさんもすっかり縮こまり、成り行きを観察するモードに入ってしまっている。
……くそう、ここまで来てまたピンチかよ……事態は好転したと思ったのに……!
「お待ちなさい!!」
「!」
突如、ぼくのものでも二体のユンゲラーのものでもない声が部屋に響いた。
それでいて、ほんの少しだが聞き覚えのある声……
ぼくらは一斉に、その声が聞こえた方へと顔を向けた。
そこにいたのは、先程の審査室に残っていたはずのもう一体の役人ユンゲラーだった。
「……あのね−、後がつかえてるんですよ。意味のない探りを入れて、流れを止めないで下さいルンゲラ」
役人ユンゲラーは溜め息混じりにそう言いながら、冷たい目つきでルンゲラさんを睨み付けた。
「ちょ、ちょっと待てユゲーラ。私は、こいつが危険物を持っていないかどうかを……」
「状況は把握してますよ。言っておきますけど、その耐波メットは尋問用じゃあないんですよ。
あくまで、あれはSMJ用のもので……本来の使い道ではない使い方をするのは違反ですよ違反」
「あ、あのなァー、元はと言えばあいつがボディチェックを拒否ったのが……」
「彼の種族は帽子の下とか見られるのが恥ずかしい種族なんでしょ? それなら、上から触るだけでいいじゃないですか。
どうせ危険物だとか何だとかなんて、ボディチェックの後のSMJで明らかになるんだし。
変に邪推するアナタがいけないんですよ。何にでも首突っ込むテレビアニメの名探偵じゃあないんですから」
「うぐぐっ……」
役人ユンゲラーさんことユゲーラさんの淡々とした説教に、ルンゲラさんは相当参っている。
そしてついには、ルンゲラさんは俯いて完全に言葉を失ってしまった。
……あれれ、もしかしてぼく、助かったんじゃあ……?
状況が一気に好転していくのを完全に理解するより先に、
ユゲーラさんはさっさと耐波メットを拾い上げぼくに被せて、こう言った。
「さぁボディチェックはお終いですよ、コウイチさん。
今から貴方の『心の危険度』を探るSMJを開始します。心を落ち着けてください」
「え? あ、はい……」
最大の障壁であり今の今までずっとつっかえていたボディチェックが急に終了し、さっさと次の段階へと進んでしまった。
ルンゲラさんも、俯いて黙りこくっている。次の段階へと進むのを邪魔するつもりは一切なさそうだ。
……なんだか喜びにくいけど、助かった……んだよね?
SMJと呼ばれる超能力での心の検査には、何の障害もなかった。
ユゲーラさんがぼくに向かって超能力を使いながら、なにやら手元の書類にペンを走らせ、
その間ぼくはただ突っ立っているだけ。何かをする必要は一つもない。
検査の時間もたった二、三分ほどで、出された結果もぼくの心を落胆させるには程遠いものだった。
「危険度は『10』……少々心の強度が脆いくらいで、特には心配なしですね」
ユゲーラさんは相変わらず淡々とした口調でそう言いながら、
検査室の出口を開けて、続けてこう言った。
「以上で審査は終了です、お疲れ様でした」
ユゲーラさんのその一言が終わると、また部屋に沈黙が流れ始めた。
誰も何も言わない。今まで散々ここでつっかかっていたせいか、
このままこの部屋を出ていいのかどうかと、無意味な不安を抱いてしまう。
「あ、あのう、先に進んでいいんですか?」
「もちろんですよ」
「審査終了ってことは、テレキシティに入っていいってことですか?
入街者リストっていうのに登録されたんですか?」
「入街許可は実質下りているも同然です。登録はこの先の受付で行ってください」
ごく淡々とした口調。……その淡々とした口調のせいで、急には実感が沸かないけど、
徐々に、じわじわと、その『実感』は胸の底から沸き立ってくる。数秒後、ついにぼくは完全に理解した。
……ヒャッホー、人間だとバレないで審査を抜けられたんだっ、ぼくっ!
「じゃ、じゃあ失礼します……えへへ」
照れ笑いを隠せずそれを顔に出しながら、忘れず毛糸の帽子を被りなおして出口を潜ろうとすると、
横に立っていたユゲーラさんが、なんと言葉尻に笑みを含ませながらこう言った。
「ふふ……おめでとうございます、コウイチさん」
今までの事務的な口調とは全く違う、あたたかい声。
「あ、ありがとうございますっ! じゃあ!」
後味良い気分に包まれながら、ぼくは出口を抜けていき先へと進んだ。
(;´Д`)
受付での入街者リストへの登録は何のトラブルもなく済み、
今ぼくは待合室に座って、フライゴンとジュカインが審査を終えやってくるのを待っている。
色々トラブルはあったものの結果的にバレずに審査を抜けられた、この嬉しさを伝えたいという気持ちと、
彼らが果たして審査を無事に抜けられるだろうかという不安がぼくの胸に混在していて、
そのせいで今まで以上にソワソワしてしまって落ち着かない。
そして数分後、ついにフライゴンがこちらへ姿を現した。
「コウイチくぅん……ボク、疲れましたよォ……」
フライゴンはなぜだかへとへとに疲れていて、ぼくの隣に力なくドスンと腰を下ろした。
「ど、どうしたの? 審査で何かあったの?」
「いや……SMJとか呼ばれる検査で危険度が85とかなっちゃいまして。
色々な警告やら手続きやらが凄くメンドくさかったんですよォー!
なんか探知機みたいなモノも飲み込まされたし! もォー!」
「あぁ、お疲れ様だったねフライゴン……あはは……」
フライゴンもぼくと同じく、ずいぶんと苦労したんだなぁ。ってことは、ジュカインも……
「――でさー、探知機みたいなものも飲み込まされるし、ホント最悪だったぜっ!!」
「だよねー、もうホントいやになっちゃったよボクもっ! 吐き出せないかな、うげーっ」
……予想通り、ジュカインもずいぶんと苦労したみたいでした。
「まぁ、とにかくっ! こうして無事に審査を抜けられて良かったじゃない。
結果オーライってことでさ、ストレス溜まった分は観光で晴らそうよ!」
ぼくは立ち上がり、愚痴を零しあっている二人を励ますようにそう言った。
その言葉に二人はすぐ笑みを取り戻すと、元気よく立ち上がった。
「そうですねっ! よーし、このストレスはレストランでたくさん食事して発散だっ!」
「じゃあ行こうぜっ! オレはフラワーショップに行ってみたいなァー」
「ぼくは図書館に行きたいや。どんな本があるんだろ?」
かくしてぼくらは無事に審査を通り抜け、ようやくテレキシティの観光が始まったのだった。
つづく
本当は10レスくらいで終わらしたかったのですけども。
次回は一週間以内には投下したいです。では。
なんだろう…三人目の敬語ユンゲラーにすごい萌えを感じる…
GJ!
乙です!
乙
このユンゲラー三人は、ここのみの一発キャラにするには惜しいキャラ達だ
危険度85ww
さりげなく植物に優しいジュカインに萌えた…ってくさタイプだったなそういえば
フライゴンとかその気になれば破壊光線とかで街を破壊できるだろうしな。
いじっぱりでプライド高いのに、本当は心が弱くて主人思いで植物大好きなジュカインたん…
ああジュカインたんに過剰に挑発されたい、リーフブレードで切り裂かれたい
ユゲーラさんイイッ!
この先どういった展開になるんだろうな?
街観光に何回も費やすか、それともさっさとピジョットと戦うか。
596 :
名無しさん、君に決めた!:2008/01/21(月) 21:19:55 ID:K9ghO/1g
保守
最終話 希望を胸に すべてを終わらせる時…!
ポケモン・ドリームワールド第1巻は、発売未定です。 48
フライゴン「チクショオオオオ!くらえピジョット!新必殺流星群!」
ピジョット「さあ来いフライゴンンンン!オレは実は一回攻撃されただけで死ぬぞオオ!」
(ザン)
ピジョット「グアアアア!こ このザ・理性と呼ばれる三幹部のピジョットが…こんな小僧に…バ…バカなアアアア」
(ドドドドド)
ピジョット「グアアアア」
オニドリル「ピジョットがやられたようですね…」
ムクホーク「ククク…奴は三幹部の中でも最弱…」
エアームド「竜ごときに負けるとは魔王軍の面汚しよ…」
フライゴン「くらえええ!」
(ズサ)
3人「グアアアアアアア」
フライゴン「やった…ついに三幹部を倒したぞ…これでネイティオのいる飛鳥城の扉が開かれる!!」
ネイティオ「よく来たなソードマスターフライゴン…待っていたぞ…」
(ギイイイイイイ)
フライゴン「こ…ここが飛鳥城だったのか…!感じる…ネイティオの魔力を…」
ネイティオ「フライゴンよ…戦う前に一つ言っておくことがある お前は私を倒すのに『仲間』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
フライゴン「な 何だって!?」
ネイティオ「そしてお前のご主人様はやせてきたので最寄りの町へ解放しておいた あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
フライゴン「フ…上等だ…ボクも一つ言っておくことがある このボクに生き別れた仲間がいるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
ネイティオ「そうか」
フライゴン「ウオオオいくぞオオオ!」
ネイティオ「さあ来いヤマト!」
フライゴンの勇気が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!
こんな結末になりませんように
まず、ト書きの時点で有り得ないから安心するんだ。
>>1は頑張ってくれてるんだから、あまり茶々出さない方がいいぜ。
>>597に色々突っ込みたいと思いつつスレ容量を心配しながら600
今日あたり来るかな?
スレ容量が足りるか不安だけども…
投下します。
キタ━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━ッ!
『壁』から出た瞬間から、そこは既にテレキシティの中だった。
樹木のようにそこらに高く生え揃っているビル群、観光者を誘惑するための様々な看板、
アスファルトで舗装された道、そして前の村や森とは比較にならぬほどのポケモンの密度。
真上を見上げれば、青い空の下に電線が縦横無尽に走っている。
耳から入ってくるのは小鳥のさえずりでも葉擦れの音でもなく、ポケモン達のざわめきと雑踏。
都会特有のくどいぐらいの賑やかさは、まるでぼくらを歓迎しているかのように、
断続的に、止むことなくぼくらの周りを取り巻いていた。
「いかしまー、予想していたよりも、すっごい都会だなァ……
一回家族旅行で行ったオオガネシティ並の都会っぷりだよ」
ぼくらにとっては都会なんてそんな珍しい物でもないはずなのに、
辺りにある近代的なモノの一つ一つに興味が惹かれてたまらない。
田舎から初めて都会に上京して来た人とか、たぶんこんな気分なんだろうなァ。
フライゴンなんかは、そこらのビルに張ってある看板を一々指差しては、はしゃいでいる。
「うわーっ、見てくださいよアレ! 『ブーピッグ心療内科 話題の黒真珠療法で癒します』ですって!
黒真珠療法ですよ、黒真珠療法! インチキくさいはずなのに、何だか本当っぽい! うわーっ!」
「インチキくさいからインチキなんだろ? どれ、じゃあ試しに入ってみるか」
「いやいやァ、それはいーよ。そんなことよりボクは早く腹ごしらえがしたいなーっ!
エビのノワキソースがけが食べたいなー。多分ここには無いだろうけdpさー」
都会の喧騒に負けないくらいの勢いで、フライゴンは騒いでいる。
ジュカインはそんなフライゴンを見かねたように、ため息混じりにこう言った。
「あのなーっ、フライゴンお前はしゃぎすぎっ! ガキじゃねーんだからさ。
あくまで目的は物資調達とはぐれた仲間を探すこと……だろ? コウイチ」
「ん? まぁそうだけど……ま、いーんじゃないの、せっかくだしこういう時くらいはしゃいでもサ」
「ですよねーっ、さすがコウイチくん……おやっ」
と、ふとフライゴンがある方向へ視線を向けたまま固まってしまう。
その視線の先にあったのは、店頭販売をしているタイプのクレープ屋さんだ。
「ねーねー、せっかくだしアレ食べません? クレープ」
ぼくの服の袖を引っ張りながら、フライゴンは案の定そうおねだりを始めた。
ぼくは笑顔で頷くと同時に、財布を掴むために腰のポシェットへ手を……
おっとっと、この手じゃあポシェットを開けられない。
「ねぇジュカイン。ぼくこの手じゃあ何も掴めないからさ、ポシェットの管理よろしく頼むよ」
「オッケーオッケー。しかしその手だと色々不便だよなー?
後でさ、指の数がわかんないタイプの手袋でも買って付け替えようぜ」
「うん、そだね」
確かに、このさき指を使わなくちゃいけない場面なんかいくらでもあるだろうしね。
まず物食べるのに指使うし……フライゴンにアーンして食べさせてもらえばいいけど、そりゃカッコ悪いよね。
「よいしょっと……えーと、クレープ買うんだよな? ねだんは?」
「一つ400円だね。ボクはあのエビグラタンクレープが食べたいなァー」
フライゴンは食べるのを大層楽しみにしているのか、聞かれてないことまで余計に答えている。
「よし分かった。ええと、財布どこに入ってんのかな……」
ポシェットをぼくの腰から外し、中をまさぐって財布を探し始めるジュカイン。
「おっ、あったあった」
教えてあげる必要もなく、ジュカインは程なくして財布を探し当てた。
ジュカインは、財布につけてあるモンスターボールの模型つきのストラップを引っ張り
財布をポシェットから出し、中からお金を取り出そうとチャックを開けようとする。
……その途中、彼は急にこんなことを言い出した。
「この財布……なんか中に生き物でも入れてんのか?」
「え?」
突拍子も無くそんな事を言い出すジュカインに、一瞬ぼくは戸惑う。
「生き物なんか入れてないよ……なんで急にそんなことを?」
どうしてそんなことを言い出したのか理解できないけど、とりあえず否定しておく。
そうすると、ジュカインは不思議そうに首をかしげながらこう言った。
「いや、さ……『動いた』。いま、この財布……『動いた』んだよ」
「えっ?」
その瞬間、刺すような頭痛が突如ぼくを襲った。
そして同時に、ジュカインの手の中にあった財布が突如宙を舞った。
まるで財布自体に意志があるかのように、飛び上がりジュカインの手を離れたんだ。
「なっ!?」
突然の怪現象に驚愕し、ジュカインは一声を上げた。
辺りを闊歩する群集の視線が、一斉にこちらへと集中する。
その傍ら宙を舞った財布は、ポケモン達の群集の中へと消えていった。
そして、ぼくは確かに見た。群集の中その財布を受け止めたポケモンがいたのを。
その小さなポケモンが、財布を受け取ったと同時に、群集を掻き分けて逃げていくのを。
先ほど感じた頭痛……あれは、ついさっき体験したことがある。
審査所で、ルンゲラさんにサイコキネシスをかけられた時に感じた頭痛と同じだ。
……それを理解した直後、ぼくはいま何が起こったのかを瞬時に理解した。
「ひ……ひったくりだっ!! 財布を盗まれたんだっ!!」
衝撃のあまり、思わずぼくはそう叫んでしまった。
「えっ!」
「盗まれたって、ど、どういうことだよ?」
反応するフライゴンとジュカインに、ぼくは慌てて説明する。
「ぼくは見たぞ、いま飛んでいった財布を受け止めて、そして逃げていくポケモンがいたのを!
サイコキネシスだっ。サイコキネシスを使って、財布をまんまと盗み出したんだ!」
「な、なんだってっ! ちくしょう、犯人を追わなきゃ――」
そう言って犯人が逃げた場所すらも分からないままフライゴンは走り出そうとするけど、ぼくはそれを咄嗟に止める。
「ダメだよ、もう見失っちゃった……盗んだポケモンの姿もよく見えなかったし、諦めるしかない……」
そう、犯人は既に群集の波にもまれ消えてしまっていた。
その群集も、ひったくった犯人を捕まえてあげようとするような人はいないし、
みんなほとんど見て見ぬふりをしている。冷たい群集だ。
都市に入ってからまだ十分も経っていないっていうのに、いきなり文無しになってしまった……
それにしてもひったくり事件が目の前で起こったっていうのに、
ここの都市の人たちは何でみんな、興味なさそうというか……
まるでこれが『日常の一環』だといった風に、何食わぬ顔をしているんだ?
窃盗が日常的に起こるほどに、ここは治安の悪い都市なのか? そうは思えないけど……
「え〜〜〜、都市に入って急にひったくり〜〜〜? ふあぁー……」
フライゴンは深いため息をつき、魂が抜けたかのようにガクンとうなだれてしまった。
お金がすべて盗まれてしまったのだから、目の前のクレープはもちろん、
この先どこに行っても何も食べれないということを瞬時に理解したのだろう。
「オ、オレのせいじゃあないぞっ! ……って、やっぱこれオレのせいだよな……?
ごめんな、フライゴン、コウイチ。もう少しオレが注意していりゃあ……」
しゅんとして、すまなそうに頭を下げるジュカインに、ぼくはフォローを入れる。
「いいや、ジュカインは悪くないよ。悪いのは、どう考えてもひったくり犯の方じゃないかっ。
だからそんなしゅーんとしないでよ。そんな姿はキミには似合わないよ、ジュカイン」
「ああ……」
フォローしてみたはいいけど、罪悪感を一身に感じているようなジュカインの態度は変わらない。
そうだよね、基本的にジュカインは繊細で、細かいところを結構気にするようなタイプだからなぁ……
やっばい。都市に入ったばっかりだっていうのに、急にみんなのモチベーションがガタ落ち状態っ。
こういう時って、トレーナーのぼくが何とかしなきゃだよね……う〜ん、どうしよう。
……ポケモン二体が周囲でうなだれている中、必死に頭を働かせること数十秒後。
「あの〜……もしもし、あなた観光してきた方ですよね?」
「へ?」
天の助けなのか、はたまた単なる時間潰れの種なのか、
突如見知らぬユンゲラーがぼくの前にやってきて、そう声をかけてきた。
ふつう種族が違えば顔の見分けなんて大体つかないのが普通だけれど、
いまやってきたこのユンゲラーは、今まで出会ったどのユンゲラーとも違った者であるとは容易に分かる。
スーツを着こなしていたあの役人ユンゲラー達とは違って、
彼はチェックのシャツにジーパン、と割とカジュアルな服装をしている。
黄色い肌にはハリがあり、ヒゲも生やしておらず、全体的に若々しい雰囲気を持っている。
いきなり知らないユンゲラーに話しかけられて、ぼくはちょっと戸惑い、
また多少警戒しながらも、彼が投げかけた質問へ答えを返した。
「はい……そうですけど、何の用でしょう?」
そうすると、彼はその答えを期待していたとでも言うように笑顔を浮かべた。
「ああ、やはりそうでしたか! ええと、わたくし……」
しかし、なぜか彼はそこまで言いかけてから一度口を噤んでしまう。
そして数秒後、彼の口が再び開いたと思ったら、また質問が飛んできた。
「あのう、あなたがた財布をひったくられた、というか……とられたんですか?」
「……? はい、そうですけど……」
このユンゲラーが何を言いたいのか、いまいち理解できない。
心配してくれるのなら嬉しいことは嬉しいけど、事態が進展するわけでもないしなぁ……
そんなことを考えてた矢先、彼はいきなり笑顔を取り戻して、こんなことを言いだした。
「あっはっは、最近よくあるんですよね、観光者を狙ったこういう事件。
でもね、安心してください。これはひったくり事件ではなくて、ある子供の『イタズラ』に過ぎません」
「へ?」
言ってる意味すらもよく理解できなくてつい疑問符を返してしまうけど、
なんだかぼくらが悩んでいたことが全くの杞憂であったかのような……そんなニュアンスだ。
そしてそんなニュアンスに反応したのか、ジュカインとフライゴンも顔を上げてそのユンゲラーを見つめだした。
ユンゲラーはぼくらへ向かってニコリと柔らかなほほえみを投げかけながら、こう言った。
「もよりの交番へ行ってみてはどうです? ……あ、私が案内しましょう。ついてきてください」
「……赤と白のボールがついたストラップをつけてある、黒い長財布です。
20万金くらい入ってて……『コウイチ』ってなまえも書いてあります。
まさかあるとは思いませんけど……ありますか?」
「はい、少々お待ちくださいね……」
ユンゲラーさんに案内されてたどり着いた交番にて、ぼくはダメ元でそう聞いてみる。
……ユンゲラーさんいわく、ひったくられた財布はこの交番に届けられているはずだって言うんだ。
ありえない話だ。財布をひったくられたのは、ついさっきの出来事だっていうのに……
そして数十秒後、おまわりさんから帰ってきた答えはこうだった。
「……ええ、届いてますよ。さきほど届いたばっかりです」
「ウソ……!?」
「マジかよ、さっきひったくられたばっかだぞ!?」
「そんな、信じられない……」
先程ひったくられたばかりのぼくの財布が、『落し物』として保管されている……
その奇妙な事実に、ぼくらは財布が戻ってきた喜びよりも、驚きのほうが先行していた。
「財布が戻ってきたのはいいことだけど……ほんと、なんでなんだろう」
交番の外。手元に戻ってきた財布をいじくりながら、思わずぼくはそう呟いてしまう。
フライゴンやジュカインも同じく未だに不思議がっていて、次々に推測を投げかけてくる。
「だれかがひったくり犯を捕まえて、交番に届けてたんじゃあないですか?」
「いや、それなら何でオレら本人に財布を返さないんだって話だろ。
ひったくり犯がどっかで財布を落として、それが……って、それも有り得ないか」
交錯する身のない推論。それに決着をつけたのは、交番へと案内してくれたあのユンゲラーさんだった。
「簡単なことですよ。ひったくり犯が自ら交番に届けたんです」
「はい?」
ユンゲラーさんの言ったそのひどく矛盾している答えに、ぼくらは耳を疑った。
「いやね、最近この都市ではよくあることなんですよ……
犯人は子供で、名はマネネ。この街でその名を知らない者はいないと言われる
天才マジシャンのご子息……いわゆる、お坊ちゃまですよ」
「え……じゃあ、あれはそのお坊ちゃまの単なるイタズラってことですか?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「…………」
現地の人が言っているんだから嘘ではないのは分かるけど、なんとも信じられない。
超能力を利用して、そんな悪質なイタズラをする子供がいるなんて……
というか、何で素性まで知られているのに誰も対策を講じないのか、それが疑問だ。
……そんな疑問を抱きはじめた途端、ジュカインがそれを口に出して代弁してくれた。
「なぁ、ユンゲラーさん。なんでそのお坊ちゃま、そんな名前とか知られてるのにさ、
誰も対策しないというか、説教とか補導とか……そういうのをしようとしないんですか?」
「いやあ、確かに、あの子がそういった悪質なイタズラをしているというのは街中みんなが知っていますけど、
そのマネネくんはまだ二桁もいかない子供ですし、なにより人気マジシャンの子供ですからね。
いわばマスコットとでもいいますか。実害はまだありませんし、みんな甘い目で見逃してやっているんですよ」
なるほど、じゃあ目の前で観光客が財布をひったくられてるって言うのに
街の人がみな何食わぬ顔をしているのは、そういう理由だったのか。
……いくらなんでも、ちょいと甘すぎるんじゃないのか。
そう思い始めたら、ジュカインが見事にそれをまた代弁してくれた。
「……ちょいと甘すぎるな、ここの街の奴らは! こんな悪質なことをするヤツを甘い目で見逃すだと?
更正が必要だな、間違いなくっ! このオレが、そのマネネって坊やの腐った根性を叩きなおしてやりたいぜっ」
ジュカインは憤りを露わにして、普段は細めている目をかっ開き、声を荒げている。
……そのジュカインの気持ち、分からないでもない。
なにせ彼はその『お坊ちゃま』という人種に、無垢なイタズラという名の虐待をされた経験があるのだから。
「ったくよー。そのマネネ坊やの親の顔が見てみたいぜっ! これだから金持ちのお坊ちゃまって人種はよー……はっ!」
「…………」
「……す、すまん、つい口が滑っちゃって……えへへ……」
「とにかく、ありがとうございますユンゲラーさん」
「ありがとうございます〜」
「ありがとうございますっ!」
「いやいや、礼は入りませんよ。するべきことをしたまでですから」
ぼくたちが一斉にユンゲラーさんへとお礼をしても、彼は謙虚な姿勢を崩さない。
ああ、こういうのが『大人の鏡』っていうんだよね。何に対しても低姿勢で物腰柔らか。
相手はポケモンだけど、素直に憧れちゃうよ。
……でも、いくら彼が親切で優しい大人とはいっても、
この事を教えるためだけに話しかけてきたってことはないだろう。
そういえば、一回何かを言いかけて口を噤んでいたっけ。この方の本当の目的は一体?
「そういえば、ユンゲラーさん。ぼくたちに、他に何か用がありますよね?」
さりげなくそう聞いてみると、ユンゲラーさんは思い出したようにハッとした後、ほがらかに笑いながらこう答えた。
「あー、あっはっは、すいません、本当の用件を忘れちゃっていました!
ええと、わたくしこういう者でしてねっ。ご確認ください……」
ユンゲラーさんは懐から一枚の名刺を取り出すと、ぼくに差し出してきた。
ぼくはモンスターボールの手にその名刺を乗せて、書いてある文字へと目を走らせる。
所属が書かれている場所には、白い修正テープの上に直筆で書いてある。
「なになに、なんて書いてあるんですかー」
覗き込んでくるフライゴンと一緒に、ぼくはその名刺に書かれている文字を読み上げた。
「テレキシティ観光案内団体……ユリル・ゲラ……」
支援
読み上げ終わると、すかさずフライゴンがユンゲラーさんに対してこう質問した。
「観光案内団体ですって? じゃあ、ユンゲラーさん……ええと、ユリルさんはボクたちを案内するために?」
「ええ、そうです。それも、我々はいわゆるボランティア団体ですので、
お金が欲しいだとかそういう下心は一切抱いておりません。100%の『善意』で、
あなたたちの観光を、よりよいものへしてあげたいと思っているのです!」
笑顔を見せて、そんな商業トークめいたことを語るユリルさん。
お金を取らない観光案内……聞くからに怪しいけど、その腹に何かを含んでいそうな様子は一切ない。
「へェー。ボランティアで観光案内ってなんか面白いな」
「生物と生物のやりとりは打算的なものばかりで構成されているわけじゃあございませんからね。
利害がなんだ損得がなんだ、この都市はそういった世知辛いものばかりでないという事を
みなさま他所の方々に証明するために、我々の団体は存在しているのです」
「ふゥん。立派ですねぇー!」
感心したようにジュカインはそう唸り、こちらを向いて続いてこう言った。
「せっかくだし案内してもらおーぜコウイチ。財布の恩もあるしさ、どうだ?」
そしてそれに便乗してフライゴンも。
「そうですよ、たくさん案内してもらって色々案内してもらいましょー。財布の恩もありますし」
二人して、ユリルさんを案内につけるようにとぼくに頼んでくる。
いや、別にぼくは断る気はなかったけどね……
二人の言うとおり財布の恩もあるし、案内は居たほうがいい。
「じゃあ、案内お願いしますユリルさん」
ぼくが笑顔でそう言うと、ユリルさんも笑顔で返し、そしてこちらへ手を差し出してきた。
「こちらこそ。では、お近づきの印に握手、を……」
「!」
急に握手を求めてこられて、思わぬ事態にぼくは焦りを覚える。
このモンスターボールの手で握手なんて……下手したら、怪しまれるかも……
……いいや、握手を変に拒否したらそれこそ怪しまれるし、嫌味な印象を相手に与えちゃう。
そもそも手が球体のポケモンなんて珍しくもないし、怪しまれることはないさ……
ぼくは怪しまれないよう笑顔を崩さないままに、その丸い手をユリルさんへと差し伸べる。
ユリルさんがぼくの手を握り、『契約』は成立した。
それからぼくらは、ユリルさんの案内と共に都市観光を満喫し始めた。
ぼくらの都市観光にユリルさんという案内が付いたのは正解だった。
彼はぼくらがあれこれと騒ぐのにも一々付き合ってくれて、気を遣うのに苦労するということもないし、
都市の風景で気になったこと、興味のあること、彼は全てに詳細な答えを返してくれ、
それはぼくらを飽きさせることはなく、この観光をより充実したものへとさせてくれる。
「……それでですね、この都市では基本的に、誰でも超能力を扱っていいというわけではないのですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうです。仕事や教育場以外の場で公に超能力を使っていいのは、成人してかつ厳重な審査を通ったものだけで、
その条件を満たさず超能力を使ってしまったものは、さきほど話に出しましたマネネ坊やみたいな
幼子でない限りは、この都市の条例において厳重な処罰を下されてしまいます」
「ほォー、そうなんですかァー……」
ぼくの質問した『超能力について』の質問にも、ユリルさんは律儀に答えてくれた。
段々とこの都市についての知識が深まっていき、それにつれこの都市がようやく身に馴染んでくる。
ここは住んでいるポケモンがエスパータイプとはいえ、ぼくらの世界の都市とそこまで差はないみたいだ。
「あっ、ねぇねぇコウイチくん! あれ見てくださいっ」
「ん? なぁにフライゴン」
ぼくを呼び止めたフライゴンは、ある方向を指差している。
そちらの方向へ視線を向けると、小庭の中心に立つ大きなポケモンの銅像が目に入った。
面積の広い台座に立つその四足のポケモンは、
銅像でありながらも、圧倒されてしまいそうなほどの威圧感を放っている。
まるで大敵に立ち向かっている最中かのように目つきは鋭く、翼を力強く広げており、
大きく開けられたその口から、雄々しい咆哮がこちらに聞こえてきそうなくらいだ。
「……なんだか、この都市に場違いなくらい強そうなポケモンの銅像だね」
「でしょねーっ。で、そこの台座に書いてある文字、見てくださいよっ」
「んん?」
フライゴンにそう言われ、今まで気に留めていなかった台座に掘られている文字へと目を走らせる。
……十二竜騎士が一員、『一月ガーネットの竜騎士』……
「竜騎士っ!」
ぼくはその文字を読み終えた後、思わずそう声を上げてしまった。
十二竜騎士。まえにハスブレロ村長に教えてもらった、この世界の唯一の戦闘集団のことだ。
十二体ものドラゴンポケモンという響きに、ぼくはひどく胸が躍ったっけ。
ドラゴンポケモンは謎が多く神秘的で、しかもカッコよくて激強だっていう、
少年の夢をそのまま形にしたかのような、まさに夢のようなポケモンだ。
そんなドラゴンポケモンが十二体もいるっていうんだから、ワクワクしなきゃウソだってものだよ。
「へー、あれがウワサの竜騎士かぁー。カッコいいねっ!」
「うん、カッコいいですねっ! ボクも同じドラゴンだってのが信じられないくらいですよーっ」
半笑いでそんなことを言い出すフライゴンに、ぼくはすかさずこう切り返す。
「あれあれ、フライゴンも十分カッコいいよ? 強いしさっ」
「そ、そうですか? もう、コウイチくんってば……」
照れくさかったのか、下を向いて頬を染め出すフライゴン。
……カッコいいというよりは、どっちかというとカワイイ方かな?
「おーい、竜騎士ってなんなんだ?」
ふとジュカインが好奇心を剥き出しにしてそう聞いてきたので、それに答えてあげる。
「竜騎士はね、魔王軍と戦っているドラゴンポケモンたちのことだよ。十二体もいてさ、みんなすっごく強いんだって」
「ほうほう。……その竜騎士サンの銅像がなんでこの都市に立ってんだ?」
「え……さァ?」
ジュカインにそう言われて、ぼくは初めてその違和感に気づく。
エスパーポケモンの都市であるはずのここに、なんで竜騎士の銅像が立っているんだろう。
不思議に思い始めた矢先、横のユリルさんがこう言った。
「真実と忠誠を意味するガーネットの石を司る竜騎士様……
何十年か前この都市に魔王軍がやってきた時、竜騎士様は颯爽とこの都市に現れ、
魔王軍をあっさりと撃退しこの街を守ったのです。被害はただの一件もありませんでした。
それ以来ガーネットの竜騎士様は、この都市の守護者として祭られているのです」
「なるほどー……」
ということは、もしぼくがこの都市で魔王軍に襲われたとしたら、生の竜騎士を拝むことが出来るのかなぁ。
それなら、今回ばかりは魔王軍に襲われてみたいなァ……なんちゃってね。
時刻はちょうど正午。
日照りの強さはそろそろピークに達してきて、
はしゃいでいたフライゴンもどんどん元気を失くしはじめ、
ぼくも毛糸の帽子の中がだいぶ蒸れてきて、そろそろ本格的にヤバくなってきた。
ジュカインは逆にどんどん元気になっていってるわけだけれども……
だいぶお腹がぺこぺこになってきたというフライゴンの主張もあり、
ぼくらは腹ごしらえと体を涼ませるために、ユリルさんのお勧めのレストランへと入っていた。
店内は寒いくらいに冷房がガンガンに効いていて、
暑さに参ってきていたぼくやフライゴンにとっては、まるで天国のような場所だ。
「このレストランは冷房効かせ過ぎるくらい効かせることで有名ですからね。
平日のまっ昼間だから客もそこまで多くないですし、快適でしょう」
「ですねえ、すっずしくて快適だなーあ! 水も……ぷはっ、おいしー、まるで生き返るようー!」
フライゴンはテーブルに置いてある水を一気に飲み干して心地よさそうなため息をついた。
ぼくも同じく水を飲む。からからに渇いていた喉が潤っていく感覚は、本当に言葉どおり生き返るようだ。
あー、帽子はずしたいなぁ。あとでトイレ行って、帽子はずしこよう。
「……ここ、冷房効きすぎじゃね?」
不遜な表情をしてボソリとそう呟くジュカイン。まぁ、無理もないよね。
「さァさ、なに食べるか選びましょー。エビのノワキソースがけないかなー」
フライゴンは真っ先にメニューを取ってテーブルに広げると、
舌なめずりをしながら、描かれている綺麗な料理たちを目で追い始める。
ぼくやジュカイン、ユリルさんも、続けてメニューへと視線を移した。
「オレはこの赤とうがらしサラダだけでいーよ。腹減ってねーし」
みんなでメニューを見始めてから数秒もしないうちに、ジュカインが遠慮がちにそう口にする。
「あれれ、別に遠慮なんてしなくていいんだよジュカイン?
お金ならたくさんあるしさ、食べたいもの興味があるもの何でも頼んじゃってよ」
「いやあ、ホントに腹減ってないんだってば。ああ、でも遠慮しなくていいなら、
オレ、パフェほしいかも。……パフェほしいな、パフェ。この赤とうがらしパフェちょうだい」
「オッケー。ジュカインは赤とうがらしサラダと赤とうがらしパフェね」
まずはジュカインのメニューが決まった。さて、ぼくも何を食べるか決めとこうかな。
……メニューの中には魅力的な料理の数々。どれか一つに決めろなんて難しいよ。
お金には余裕あるんだし、いくつかはここで食べないでテイクアウトしちゃいたいくらいだ。
でもそんなこと出来ないだろうし、一つに絞らなきゃだよね。
だとしたら、せめてこの都市特有の料理を頼んだほうがいいなあ。
たとえばこの、『ヤドンのしっぽステーキのマジックソースがけ』とか……
マジックソースは舐めるたびに味が変わる不思議なソースです、だってさ。
「よおし決めた。ぼくはこの『ヤドンのしっぽステーキのマジックソース風味』で!」
結局ぼくはマジックソースとかいう不思議なソース目当てにメニューを決めてしまった。
「じゃあ、ボクもそれで!」
ほしい料理の数が多すぎてどれか決めかねていたフライゴンは、ぼくと一緒のものを希望した。
ユリルさんはそれを聞くと、テーブル横のボタンに手を添えた。
「みなさん決まりましたか? じゃあ注文しますよ」
確認するようにそう言うと、ユリルさんはそのボタンをギュッと一度押し込む。
ほどなくしてウェイターのポケモンがこちらへやってきて、ユリルさんは注文内容を漏れなく伝えた。
「あー、早く来ないかなー」
フライゴンはおしぼりでその小さい手をひたすら拭きながら、見るからにワクワクと期待に胸を躍らせている。
食事は、彼がこの都市で一番楽しみにしていたことだ。そりゃ落ち着きもなくすってものさ。
でもジュカインはそんな落ち着きのないフライゴンが目障りなのか、こんなことを言い出す。
「あのなぁフライゴン、レストランで料理を待つときはだな、もう少し慎ましく、冷静にしているのが大人ってもんだぜっ」
「……ジュカインだって、さっきからずっと貧乏ゆすりしてるくせに」
「はっ!」
まったく、フライゴンもジュカインも落ち着きないんだから。
「……?」
……気がつけば、ぼくの向かい側に座っているユリルさんも何かそわそわとしている。
周囲をキョロキョロと見回してみたり、足を何度か組み替えてみたり。
ユリルさんも料理を楽しみにしているんだろうか……?
いいや、でも今のユリルさんの落ち着きのなさは、フライゴンとジュカインのそれとは少し違う。
なんだか、妙だ。その妙な態度に、ぼくまで釣られてそわそわとしてしまう。
と、ふとユリルさんがこちらに身を乗り出してきて、ぼくに対して囁くような口調でこう聞いてきた。
「あの、あなたコウイチさんですよね、確か……」
「はい? そうですけど……」
急にぼくの名前を確認してくるユリルさん。
そしてユリルさんはその後、再び周囲をキョロキョロと確認し始めた。
……この方、何がしたいんだろう……?
何か周りのポケモン達に聞かれたくないような話でもするつもりだろうか。何を……?
……それが明らかになったのは、わずか数秒後のこと。
……予想だにしなかった言葉がユリルさんの口から投げかけられたのは、わずか数秒後のことだったんだ。
「あなた……人間ですよね?」
「え?」
つづく
投下終了。
そろそろスレ容量が危ないかも……?
支援してくれた方、ありがとうございました。ではー
乙です!
>>619までのスレ容量:488 KB
書き込めなくなるまでの残り:12 KB
今回の投稿(全14レス):25.5 KB
次の投稿をする前に次スレを立て、書き込めなくなった時点で移行したらどうでしょうか?
それにしてもそんなに書いたのかぁ…お疲れ様です
伏線バラまきまくりの回だったね
ガーネットの龍騎士は誰なのか期待
>>620 調べてくれてありがとうございます!ギリギリですね。
そうですね、次の投稿日に次スレを立てようと思います。
立てれるかどうか不安ですけど……
立てれなかったら、お手数ながらみなさんに立ててもらうことになるかもしれません。
まだ書きたいことも全然書いてないけど、ずいぶん書いたような気がしますなー。
とりあえず今よりもっともっとスレが賑わうよう、頑張ります。
賑わうのはいいけど荒れないといいなぁ
第一今いるのって殆ど
>>1のスレ立てを待ってたような奴らだろ
>>623 んなこたぁない。
前のスレで書いてただとか、そういうのが一切伝わらない新参だっているぜ
荒れさえしなきゃいいよなぁ……
ポケ板でこんな良スレに出会えるとは…
>>1乙!
フライゴン君のエビ大好きっ子ぶりに思わずニヤニヤしてしまったw
……次スレもまたタイミングが重要だな。とにかく、
>>1を精一杯応援してるぜ! 頑張れ!
>>621 四足歩行で翼があるドラゴンといえば、かの方しかおりますまい。
このスレGJ!
ポケモンは話薄いし、作業多いからダレるが、こういう小説見てるとまたやる気がでる
他サイトで、ポケモン小説を書いている者
ですが、いつも参考にさせて頂いてます!
どうしたらそんなに上手に書けるのかと。
もしかして本物の小説家ですか?
おまえアホだろ
>>633 参考にするとパクるは違うんじゃない?
程度にもよるけどね
636 :
631:2008/01/27(日) 19:33:03 ID:???
>>633 表現などはパクった事があります・・・。
容量埋まったか?
次スレの季節ですね
梅
第二話は傑作
ジュカインがコウイチに泣き付く場面を読んでるとき
スラムダンクの三井の「安斎先生・・・バスケがしたいです・・・」のシーンを思いだした
ジュカインって三井寿をモチーフにしてたんだな
>>641 そうなのか…な?…と、ジュカインファンの俺が言ってみる
三井とは違うやろw
この世界に喫茶山小屋のところにいたみたいなメイドさんはいるのだろうか
強がり、おっちょこちょい、暗い過去、抜群の戦闘センス・・・
三井寿に重なるね
俺、ミッチー大好き
ジュカインはおっちょこちょいというか、抜け目なさそうなイメージあるけど。
なんとか今日中に投下できそうだけど、スレが立てられなかった……
誰かいますか?
ノ
立ててみます
うーん、10時には用事があるし、
例えいまスレが立った所で、最後まで投下できないな……
ごめんなさい、投下は明日にします! 次回分を書きためしときます。
>>641 スラムダンクは……見たことないです……
興味はあるんですけどね。
>>649 おお、ありがとうございます!
よし、じゃあ頑張って今日投下します。
>>652 ヒント:次スレ
あとsageは半角にせいや
ああ
はよ埋めようぜ
埋め
梅
ふぃぎゅ
アが戦う世界
「ふぁ、ふわあぁぁぁ……」
さっきまで元気そうだったジュカインが大きな欠伸をしました。
それを見たコウイチくんが心配そうに声を掛けます。
「ジュカイン、だいじょうぶ?」
「ああ、ちょっと寝不足なだけさ。こんぐらいで倒れてちゃ――」
ドタッ!
……言ってるそばから、けつまずいて転んじゃいました。
「やっぱり、少し休もうよ」
手を差し延べながら、コウイチくんが声を掛けます。やっぱり優しいなァ……
「いや、ちょっと気が抜けただけだ。ダイジョウブだって」
「でも、これから先なにがあるか分からないよ!? 休んだ方がいいよ!」
強情なジュカインに対して、コウイチくんも強めに言い返しました。
「……分かったよ。スマンな……」
――そんなワケで、ボクたちは休憩をとることにしました。
さっきまで何だかんだ言っていたジュカインは、木にもたれかかるとすぐに寝ちゃいます。
「もぉ……。ヘトヘトだったんじゃないかー」
そう言うコウイチくんも、疲れてるんじゃないかなァ……
「コウイチくんも寝ますか? ボク、布団になりますよ」
「ちょっと、まだその気だったの? 嬉しいけど、そこまでしてくれなくても……」
「遠慮しないでくださいよ。ボク、お世話になりっぱなしだったんですから」
強引な気がしますが、ボクは仰向けに寝てコウイチくんを誘います。
「う〜ん。ぼくあんまり眠くないんだけどな……」
そう言いながらもそばに腰を下ろしてくれました。嬉しいです。
でも、そこで動きを止めて話し掛けてきました。
「ねぇ、寝るより気持ちイイことしようか」
え……?
返事も聞かず、コウイチくんはボクの下腹部をまさぐりはじめました。
「コウイチくん……なにを……」
その瞬間、ボクの体を得体の知れない感覚が突き抜けました。
少し遅れて、コウイチくんがボクのアソコに指を差し込んだのだと分かります。
「コウイチ……くん……ダメですそこは……汚いです……」
息を荒くしながらも、なんとか言葉を絞り出しました。
でもコウイチくんは聞く耳を持ちません。
「フライゴン。きみの体に汚い所なんてないよ」
そう言いながら、ついにコウイチくんはボクのモノを引っ張り出してしまいました。
さっきより強い感覚が頭から尻尾の先まで突き抜けます。
ボクに抵抗する気がなくなったのを見ると、コウイチくんは手を使って扱き始めました。
「ぅ……ぁう……」
ボクの口から呻きが漏れ、コウイチくんの手の動きがどんどん速くなっていきます。
それと一緒に、根元から何かが吹き出してくる感覚が……
ブシュッ!ブシュウウゥゥ!
意識が真っ白に染まっていきそうになるなかで、ボクは自分が何をしたのか気付いて愕然としました。
目の前には、端正な顔立ちを粘っこい液体で汚したコウイチくんの姿が……
「ご、ゴメンナサイッ!」
何が起きたのかわからないけれど、必死に謝ります。
「……何で謝るの?」
「え……?」
顔を上げると、コウイチくんの顔は恍惚としていました。
付いた液体を指で掬いとっては舐めています。
「……もっと、飲みたいなァ」
そう言うと今度はボクのモノに直接口を付けてきました。
いつものコウイチくんじゃない……。怖くなってきました。
「……ゴン? フライゴン!?」
呼び掛ける声。ボクはゆっくりと目を開けました。
……夢? 慌てて頭を振って目を覚ますと、心配そうな顔をしたコウイチくんが。
その顔には何もかかっていませんし、ボクの下半身にも違和感はありません。
「うなされてたけど、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫です……」
いつも通り、優しいコウイチくんです。
「昨日一番たくさん寝といて、なんでここでも爆睡出来るんだぁ?」
ジュカインも、からかうような言葉をかけてきます。
安心すると同時に、夢の中とはいえあんなことを考えてしまう自分が恥ずかしく思えてきました。
「……ごめんなさい!」
地面に頭を擦り付けて謝ります。今なら土下座穴掘りもできそうな気分です。
「フライゴン!? 何で謝るの?」
コウイチくんが困惑しながら問い掛けてきました。
「ボク……、コウイチくんに付いていく資格ないです……」
弱々しく答え、首をうなだれます。そうです、あんな夢を見てしまうボクには……
しかし次の瞬間、ボクは暖かな感覚に包まれました。
――コウイチくんが、抱き締めてくたんだ。
「でもボク……、むぐっ」
続きの言葉はコウイチくんの手で塞がれました。
「何があっても、きみはぼくのパートナーだよっ!」
「ったく、『もしかしたら一心同体〜っ!?』とか言ってた元気はどこ行ったんだ?」
ジュカインも励ましてくれます。
「さあっ! 元気よくしゅっぱーつ!」
コウイチくんが号令をかけます。
……ボクたちはこの先どんな困難があっても乗り越えられる。
そんな思いを胸に、ボクは歩き始めました。