●■▲ DT Lords of Genomes 〜5ターン目〜 ▼★◆

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432 ◆Ochihhypy6
      「たまちゃん」
     ( アゴヒゲアザラシ )
       bearded seal

 断崖絶壁、っていうか海。まさにマスコミの目玉キャラ。
でも、彼は人間じゃない。たまちゃんはただのアザラシだ。
追ってくるのも天敵でなく何匹もいる、白装束の人間。
もう、やつらの白い衣擦れの音が聞こえてきた。

「たまちゃん、アシカなんかより俺の方が強いって、言ったよね」
 これ以上思い出すとと、終わりになる。たまちゃんにもそれは
わかっていた。だけども思い出してしまった。

「お願い、ここから逃げて」
アザラシは、人間に見つかったら最終回、捕まえられたら、お別れだ。
たまちゃんは、海を見ながら考えて、悲しそうに言った。
「…俺、逃げるところをあなたに見られたくない」
 たまちゃんは不意に恋人の前まで来て、ヒゲを抜いた。そしてそれを
目隠しにして、恋人の後頭部で結んだ。
恋人はたまちゃんより頭一つ体が大きく、その時だけはずっと大人に見えた。
抱きつく衝動は抑えたけど、涙は出た。
 ヒゲは老人臭くて嫌い。体が灰色なのも嫌い。ヒゲだと細くて、目隠しにさえならない。

 たまちゃんの逃亡が始まった。行く先々で心を癒す暇はない。
思う会や見守る会に、恋人が襲われる瞬間を思い出すと、たまちゃんはぽろぽろと泣いた。