【デモヤッパリ】カチーナタン(´д`)ハァハァ×4【リョウトキュン】

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「何だってぇ? だ、大丈夫なのか?」
連邦軍極東支部基地の昼下がり、リュウセイの驚いた声があがる。
合同食堂で昼食を終え、洗い場に食器を下げている所だった。
「大丈夫…私たちに任せて」
「ああ、やってみせる」
リュウセイの前に立ち、なにやら自信ありげに答える少女がふたり。ラトゥーニとレビ。

「どうしたの、リュウ?」
同じく食器を下げに来たアヤが問う。
「あ、アヤ…それがさぁ……
 このふたりが、俺に今日の晩メシ作ってくれるって言うんだよ」
少し困ったような顔で、リュウセイが説明する。
「あら、素敵じゃない!
 リュウ、女の子がお料理を作ってくれるって言うんだから、もっと喜びなさい」
たしなめるように言うアヤに、さらに顔を困らせてリュウセイが返す。
「いや…そりゃ嬉しくないこたないけどよ、食材までイチから手に入れてくるって言うんだぜ? 心配でさ」
レビが少し、むすっとして答える。
「…大丈夫だ。そのくらい簡単に出来る……」
「そうよねえ、リュウったら失礼よね。 それで、何を作るのかしら?」
「まだ決めてないんです。だから、リュウセイに決めてもらおうと思って…」
ラトゥーニが答える。再び話を自分に振られ、リュウセイは目線をそらして呟く。
「……う〜ん、何が食いたいかって言われても…昼メシ食ったばっかじゃ分かんねえよなぁ…
 簡単そうなのでいいぜ?」

「リュウ、『なんでもいい』っていうのは一番困る答えなのよ?
 いいじゃない、あなたの好きなものをお願いしちゃいなさい」
「ちょっとくらい難しくても大丈夫だから…。ね、何が食べたいのか教えて、リュウセイ」
「何か無いのか、リュウ…? 私は、お前が一番喜ぶものを作って、それで喜んで欲しいんだ…!」

「のあーーっ!ちょっと待ったちょっと待ったーー!!  …そ、それじゃあ……」
一斉に詰め寄られたリュウセイは、たじろぎながらも必死に頭を巡らせて
なんとか『焼肉』という答えをしぼり出した。
5322-462(2/19):02/12/31 12:48 ID:???
「それじゃあ、行ってらっしゃい。ふたりとも気をつけてね」
ふたりを基地の正門までジープで送り、アヤが手を振る。少女たちもそれにこたえ、街へと歩いていく。
その姿を見送り、アヤは心配そうに呟く。
「あのふたりだけで外に出すなんて初めてだけど……ほんとに大丈夫かしら?
 ……なんだか、嫌な予感がするけれど…………
 …考え過ぎね。ラトゥーニはしっかりしてるし…こんなところで、何も起こるわけが無いわね」
そう思いなおし、アヤは基地内部へ引き返していった。

騒音などの問題のため、基地から市街地へはそれなりの距離がおかれている。
見渡す限り草だけの平野に貫かれた道路を、ふたりは歩く。もうしばらく進めばバス停がある。

「…あ。焼肉っていっても、何のお肉なのか聞くの忘れちゃったね…」
「そういえばそうだな…。食べられる肉というと、どんなものがあるんだ?」
「そうね…。豚に牛、鳥かな…。あ、でも鳥を焼いても、焼肉とは言わないかも…」
「そうなのか…」
白い息をこぼしながら、少女たちは歩いていく。

のそり……
草むらの中から、道を歩くふたりを見つめるひとつの大きな影があった。
「ぐるぅぅ………」
それは低い唸り声をあげると、静かにふたりに近づいていった。
5332-462(3/19):02/12/31 12:49 ID:???
「他には無いのか、食べられる肉は…?」
「えっと…、わたしは食べた事ないんだけど、鹿とか、馬とか食べる事もあるみたい」
「そうか…。リュウは、何の肉が一番好きなんだろうな…?」
「そうなのよね…なんだろう? あ、他にはね、熊も食べられるみたい」

「…熊?」
呟いて、レビが足を止めた。
「あれ…熊、知らない?」
ラトゥーニも立ち止まり、レビの視線につられて振りかえる。

50メートルほどの距離の位置に、褐色の、巨大な動物がいた。

「ラトゥーニ……あれは、熊……だよな?」
それを指差し、レビは呆然と呟いた。
「ぐがぅぅぅぅぅ………」
その熊は、目を血走らせ牙をむき、唾液を垂れ流して少女たちを睨んでいる。
どう見ても、腹を空かせている風体だ。

そのあまりの現実感の無さに、ラトゥーニの思考が一瞬停止する。
なぜ、こんなところに、こんなものがいるのか…………
気が付くと、レビの手を取って走り出していた。基地への道を引き返す。
「なっ、な……な、なな、なんでーーーー!?!?」

「がぅぅぅ………るぅぅ!」
背後から熊が追ってくる気配がする。
さすがに…速度が違う。逃げ切れない。

「あう…っ!」
「レビ…!」
脚がもつれ、レビが転んだ。駆け寄り、助け起こすラトゥーニ。
熊は目前。…もう逃げられない。
5342-462(4/19):02/12/31 12:50 ID:???
生身の戦闘力を鍛えられているラトゥーニも、さすがに熊を相手にしたことは無い。
相手を制する基本は、相手の急所を攻める事。
だが、この熊を相手には……
ラトゥーニは、自分の持つ攻撃が、この熊の巨体と筋肉の前には通用しないだろう事を
恐れからではなく、観察眼で見抜いてしまっていた。

だからこそ初手から逃げを打ったのだが、それが断たれてしまった今、なす術はもう無い。
追い詰めた事を確認したのか、熊がじりじりと近づいてくる。
このままでは、リュウセイに料理をつくってあげるどころか、自分達が料理になってしまう。

(……こんなことなら、無理にでもリュウセイと一緒にお風呂入っておけばよかった…)
(リュウ…やっぱり私は、リュウに身体を洗って欲しかったよ……)
「…どうせなら、あの時…ほっぺたじゃなくて、くちびる奪っちゃっておけばよかったな……」
「…それで、そのまま一緒に眠りたかった……」
「わたし……やっぱり、もっとリュウセイと一緒にいたかったよぉ……」
「私は…もっと、リュウに撫でてもらったり、肌に触れたりして欲しかった……」
「…レビのえっち……」

胸の内を明かしあうばかりで、ふたりは気付いていなかった。
新たな影が現れ、熊がそちらの方に向き直っていた事を。

「グァアアアッ!」
熊の丸太のような腕が振り下ろされる。それをかわし、叫ぶ。
「一刀両断!!」

ダダァアアアアアン!!

響き渡る叫びと轟音に、ふたりはようやく正気に戻った。
大量の血飛沫をあげて、どう、と地に倒れ伏す熊。
その向こうに、深く腰を落とし、刀を青眼に構える男の姿。

ゼンガー・ゾンボルト。
5352-462(5/19):02/12/31 12:50 ID:???
その姿に、ラトゥーニが目を見開く。
(ゼンガー少佐…? 終戦直後に、エルザム少佐と一緒に姿を消したって話だったけど…
 こんな基地のすぐ近くに…いたの……?)
ゼンガーは刀についた血を拭き取り、鞘に収めた。
「…無事か。ラトゥーニ・スゥボータ」
「は………はい……」
答えを返す。思っていた以上に、声が震えていた。

ラトゥーニにしがみついていたままのレビが、おそるおそる口を開いた。
「た……助かった、のか…? ラトゥーニ………」
「そ、そうみたい……レビ………」

「……レビ…?」
ゼンガーの片眉がピクリと動いた。
ガチャリ。刀を握りなおす音が響く。

「…あっ」
ラトゥーニは息を呑んだ。あの戦争中にレビの顔を見たものはいない。
そしてゼンガーは、今のレビの事情をおそらく知らない。
ゼンガーの全身から発せられる気が、その場一帯にただならぬ緊迫を生み出した。
「貴様……レビ・トーラーだというのか?」

…こくん。
見据えられ、尋常でない威圧感に恐怖を感じてはいたが…呼ばれた自分の名に、レビは正直にうなずいた。

「……………」

ゼンガーはしばらく、レビを凝視していたが…やがておもむろに剣を頭上高く掲げ、気迫を込めて叫んだ。
5362-462(6/19):02/12/31 12:51 ID:???
「出でよ、零式ぃいいい!!」

天が雷鳴で応え、大地が激しく揺れ動く。
どこからともなく巻き起こる烈風が、ゼンガーの髪とマントをバサバサとなびかせる。

「チェストォオオオオオ!!」
大地を蹴り、ゼンガーが空高く飛びあがる。同時に無数の地割れが走り、地の底から幾筋もの閃光が放たれる。
ゼンガーの跳躍が最高点に達し、一瞬、空中で動きが止まる。閃光も止んだ。

「ぬおおおおおおおおおおお!!」
次の瞬間、轟音と共にひときわ巨大な光が天へと駆け昇り、ゼンガーを包みこんだ。
光に溶けるようにゼンガーの衣服が消えていき、赤いフンドシのみの姿となった。
光を放つ地中から、巨大な影が浮かび上がり、空中のゼンガーの影と重なる。
ゼンガーの姿が、影の中に吸われて消えていく。

「一意専心!!」
叫びと共に光が激しさを増し、あたりの全てを包みこんだ。
光が止んだとき、そこには圧倒的な威圧感を放つ鋼鉄の巨人の姿があった。

巨大な腕を伸ばし、掌を握り締めて拳をなす。分厚い胸板が鈍く輝く。
鋼鉄の脚が力強く大地を踏みしだき、鬼神の怒りを抱いたがごとき面構えを見せる。
背負いし無双の太刀を抜き放ち、上段に構える。その一挙一動が、大気を震撼させる。
両の眼から、真紅の稲妻がほとばしった。

「グルンガスト零式、見参ッッ!!!」

超闘士が、咆哮をあげた。

「いやーーーーっ!?」
目まぐるしい状況の変化に、ラトゥーニは半狂乱に陥ったような叫びをあげた。
5372-462(7/19):02/12/31 12:55 ID:???
「…待って、少佐…! レビは……」
「問答無用!!」
グルンガストに向かい、ラトゥーニが必死に声を張るが、一喝で退けられる。
零式は首を回し、レビを睨む格好を取る。そして、ゼンガーの声が響く。
「どうしたレビ・トーラー! 機動兵器を出さんのか!」

「あ…………ぁあ……………」
…レビは怯えていた。記憶を無くしてからは初めて触れる、純然たる敵意。
今の彼女に、それに抗うことは不可能だった。

震えるその身体を、ラトゥーニは力いっぱいに抱きしめた。

(ごめん、レビ…… わたしには、なんにもしてあげられない…!
 助けて………レビを助けて、リュウセイ……!)

「来ないのならば……こちらから!!」
斬艦刀が振り下ろされるかと思った、その刹那。

もう一つの巨大な影が上空から舞い降り、零式とふたりの間に立ちはだかった。
大地が激しく振動する中、ふたりは互いの身体を支えあって、現れたその機体を見つめていた。
グルンガストより一回り小さいが、その姿は、ふたりの目には何よりも頼もしく映っていた。

「「R−1……!」」
ふたりの声が重なった。
5382-462(8/19):02/12/31 12:56 ID:???
零式がR−1を睨む。
「俺の前に立ち塞がるか…。ならば!
 いざ、尋常に勝負!!」
仕切り直しを示すように、零式がふたたび斬艦刀を頭上に掲げる。
R−1も姿勢を正し、拳を構えた。

………

ラトゥーニも、レビも…言葉を失い、ただ、二機の対峙を見守るしかなかった。
静止したまま動かない二機の間で、空気が研ぎ澄まされていく。

均衡を破るきっかけを待つ、その空間で…
渇いた風に運ばれた葉が、ゆらゆらと舞い、落ちて…ほんのかすかな音を響かせた。

その合図に、二機は同時に大地を蹴った。間合いは一瞬で詰まり、零式が必勝の一撃を振り下ろす。
R−1の拳は、振りかぶったまま動かない。

「「―――――!!」」

少女たちが声無く叫ぶ。
斬艦刀がR−1の頭部に達す――…

コンマ1秒に満たない世界。

R−1の両目が光り輝き、モーターが激しい唸りを上げる。
振りかぶった右拳を斬艦刀の腹に叩き付け、斬撃の軌道を逸らそうとする。
瞬間的に生まれた膨大な衝撃が大量の火花を生み、爆煙をあげて右腕を襲う。
すぐに荷重に耐え切れなくなり、拳が爆ぜた。だが同時に斬艦刀も、R−1の機体スレスレの
地面にまで逸れて振り下ろされていた。

そのとき既に、R−1は左手に構えたリボルヴァーを零式の眉間に突き付けていた。
5392-462(9/19):02/12/31 12:57 ID:???
「そこまでだな。お前の負けだ、ゼンガー」
決着を告げる声が響く。
振りかえった少女たちの前に、エルザム・V・ブランシュタインの姿があった。
零式が、斬艦刀から手を離した。


『大丈夫だったか、2人とも?』
いまだ火花の上がる機体から、多量のノイズが混じった声が響き、R−1がこちらを向いた。
コクピットブロックのハッチが開く。

…プシュウウウウ……

オーバーロードのために蒸気が吹き出し、その中に人影が姿をあらわした。

「…リュウセイ……」
「……リュウ…」

夢見るような面持ちで、ふたりはその人影を見つめていた。
蒸気が晴れ、そのパイロットはヘルメットに手をかけて、脱いだ。








「………なにをしょぼくれてるんだ、お前達は?」
カイ・キタムラは、ヘルメットを抱えてけげんそうな顔をした。
5402-462(10/19):02/12/31 12:58 ID:???
「申し訳ない……逃がしてしまった食材が迷惑をかけたばかりか、
 ゼンガーまであのような振舞いをするとは。…だが、怪我が無くて何よりだ。
 『斬られる前に斬れ』とは言うが…ゼンガーも本気で、無抵抗のままの君たちを
 斬るつもりは無かっただろう。…無器用な男ゆえ、ああするしか無かったのだ」
「…許せとは言わん。…だが、済まなかった」

レビの事を話し、またゼンガーの行動を釈明される。だが、それでもその行動は理解に苦しんだ。
脱げたはずの衣服を、零式から降りたゼンガーが再び着ていた事も含め、ラトゥーニは考えないことにした。

「それにしても驚いたぞ。ここらで急激な巨大エネルギー反応が出たっていうんで、
 俺が緊急でR−ウイングで出てきたんだが…まさかお前等だったとはな」
「お騒がせしてしまったようですね。零式のジャマーが故障していたとは…うかつでした」

嬉しそうに語らうカイ。あれだけの戦闘を繰り広げた後だというのに、何の文句も無いようだ。
教導隊という人種は、やはり自分には理解できない所があるようだと、ラトゥーニは思った。
レビもきょとんとしたまま話を聞いている。多分、彼女もよくわかっていないのだろう。
後で聞かれたら、何と説明したらいいのか……ラトゥーニは頭が痛かった。

「ところで、君たちは休暇中だったのか?
 見たところ、任務や訓練のようにも思えないのだが」
常識的な話の展開に、少し安心したラトゥーニが事情を話すと、エルザムは興味深そうに言った。
「ほう、手料理の食材を探すためとはな」
静かな笑みを浮かべる。
「そういうことならば、詫びと言ってはなんだが…。取り戻せた食材をおすそ分けしよう」
「…って……え…。さっきから、食材って……」
「…まさか………」
ふたりの危惧どおり、エルザムの視線は一刀両断されて転がっている熊に注がれていた。

聞けば、珍味として北海道から取り寄せていたヒグマが、運送中の事故で逃げ出し
この付近をうろついていたのだという。
(珍味って……。この人たち、隠れて生活してる自覚あるのかしら……)
ラトゥーニは頭を抱えるほかは無かった。レビが心配そうに袖を引いた。
5412-462(11/19):02/12/31 12:58 ID:???
「では、まずは解体から始めねばな」
エルザムが熊に歩み寄っていく。

「か、解体って……」
思わず顔をしかめるラトゥーニに、ゼンガーが言う。
「滅多に見られん。よく見ておくがいい。
 料理をしようと言うなら…なおさら、生物が食材に至る過程をその目で見ておくのだな」
自身も目をそらさず、横顔でそう告げた。
その言葉にラトゥーニは、食材たる熊に対し、真摯なまなざしを向けた。
(そうか……それは、その通りよね……)

「うむ、組織が無駄に傷つくことなく両断されている。これならば問題あるまい」
エルザムは熊の傷口を点検すると、立ち上がってマントを広げた。
その内側には、無数の調理道具がしまい込まれている。
その中からシートを取りだし、地面に敷いた。そして、一本の大型の包丁を取り出す。
「では参るぞ、我が剣よ!」
目を細めて刃の具合を確認すると、ゼンガーの方を振りかえって言う。

「ゼンガー、頼むぞ」
「承知。……ぬんんっ!」
ゼンガーは熊の身体を担ぎ上げ、真上に放り上げる。エルザムがそれに続いて跳躍した。
「とあーーーーーーっ!」
その際、身体に大きなひねりを加え、凄まじいスピードで全身を回転させた。

「か、回転しているだと!?」
「むうっ、エルザム…!」
カイが驚きの声をあげ、ゼンガーも目を見開いた。
「これぞクロガネの艦首超大型回転衝角を元に編み出せし技、
 その名も黒鉄竜巻剣≪シュバルツァイゼン=トロンベ=シュヴェーァト≫!」

空中高く回転しながら、高らかに叫ぶエルザム。
ラトゥーニはめまいを感じながら、頭上を見上げていた。
5422-462(12/19):02/12/31 12:59 ID:???
空中の食材に追い付き、包丁を突き刺す。
そのまま流れるような手付きで、肉をさばいていく。切り取られた肉が、四方へ散っていく。
超スピードで回転していながらも、その手付きにはわずかな乱れすらない。
「これで仕上げだ!」
夕陽をバックに、エルザムの包丁さばきが映えた。

エルザムの着地から一瞬遅れて、シートの上に分割された熊肉が落ちてくる。
…とたたたたたっ
ひとりでに、部位ごとに分けられて整然と並べられていく。
「相変わらず見事だな、エルザム」
カイが感嘆と称賛を告げた。

「見たか。これが…生きる為に人間が背負わねばならぬ、業の姿というものだ」
ゼンガーの声に、ラトゥーニはもはや、言葉を返すことが出来なかった。

「ラ、ラトゥーニ……今のは、跳んで回る必要があったのか…?」
「………た…たぶん、遠心力とか、そういうのじゃないかと思う……
 ………全然、わからないけど…………」

「次は血抜きだな」
そう言ってエルザムは、大型のボールに水を浸していく。
「準備のいいことだな。塩水まで簡単に用意するとは」
なかば呆れたように称賛するカイに、エルザムは不敵な笑みで答える。

「ただの塩水ではありません。南極の海水と南アルプスの天然水をブレンドした、
 ヒグマ肉の血抜きのためだけに用意した特別製の塩水です。
 もはや地球上で、これ以上のものは有り得ません」
「…そ、そうか」

「…そういうものなのか、ラトゥーニ…?」
「……お願い、聞かないで………」
震えながら、レビの問いをラトゥーニは拒絶した。
5432-462(13/19):02/12/31 13:00 ID:???
手早く血抜きを終え、その肉を丁寧に包み、袋に入れてレビに手渡す。
「ヒグマのロース肉、もっとも美味な部位だ。
 せんえつながら、精製まではこの私がさせてもらったが…調理は君たちの手でしてあげるといい。
 私のおすすめの調理レシピを、あとで幾通りかメールで送ってさしあげよう」
「あ…ありがとうございます……」
はっとしてラトゥーニが礼を言い、レビもぺこりと頭を下げた。

「…お前達、行くのか?
 何を企んでいるのか……聞くだけ無駄だろうな」
カイの問いかけに答えず、エルザムとゼンガーは背を向けた。
「フッ…。また、お会いしましょう」
「さらばだ」
そして2人は、つむじ風の中に去っていった。

「……さて、すっかり日も暮れちまったな。お前たちも疲れたろ。一緒に帰るか?」
「え……、でも、少佐…」
R−1のコクピットに、ラトゥーニとレビのふたり、加えて熊肉が入りきるとは思えない。
「大丈夫だ、何かあった時のために、近くでフェスラーを待機させてある。
 今呼ぶから、待っていろ」
カイが無線で連絡を入れる。

「…………」
レビが黙りこくって、明後日の方を見つめている。
「…どうしたの、レビ?」
「ああ……大した事ではない…。あの、あれは何という名だったかと思って……」
「あれ?」
こくり。
「ほら、あれ…跳び上がって、回りながら肉を切ったあれだ…」
「………………知らない…っ」
ラトゥーニがそっぽを向いてうつむいた。その様子に、カイが大きな笑い声をあげた。
5442-462(14/19):02/12/31 13:00 ID:???
ごうんごうん、ごうんごうん。

輸送機の中で、ふたりは壁に背をもたれ、並んで座っていた。

「…ラトゥーニ……。大丈夫なのかな……、リュウは、喜んでくれると思うか…?」
「…お肉はお肉だし、エルザム少佐のお墨付きよ。…きっと、大丈夫よ」
「そうではなくて…リュウは、私たちが料理を作ることを、迷惑だと思ってないか、って……」
「レビ………」

「何を馬鹿な心配をしてるんだ、お前たち」
R−1のコクピットから、カイが顔をのぞかせて言った。
「あいつが女の真心こもった手料理を嫌がるような男かよ。
 心配するな。ちょっとでも嫌そうな顔しやがったら、俺が代わりに食ってやる。
 泣いて謝っても許してやらんぞ。奴の目の前でたいらげた後、2時間は説教してやる!」

「…………ふふっ…」
その光景を思い浮かべたのか、レビが小さく笑いを漏らした。
「……ありがとう、カイ少佐…」
ラトゥーニが礼を言う。カイは自慢の口ひげをつまんで笑った。

「おかえりなさい。ふたりとも、遅かったわね?」
基地に戻ると、アヤが出迎えてくれた。時計の針は8時を指している。
「何か、いい食材は見つかったの?」
言われて、レビが抱えた包みを示していった。
「ああ…熊肉が手に入った」
「く、熊…!? そ、そんなものが売っていたの…?」
「違う、道端で…」
「え、えええ………!?」
アヤが、目を白黒させた。
5452-462(15/19):02/12/31 13:01 ID:???
「よぉ、ふたりとも…おかえり〜……」
キッチンに入るために横切ろうとした食堂で、テーブルに付いていたリュウセイが力なく手を挙げた。
「リュウセイ…待っててくれたの?」
「まぁな…」
「リュウ…なんだか、ずいぶんやつれて見えるが……」

「うふふ、ふたりが頑張ってお料理するって言うから、
 リュウは晩御飯、何も食べてなかったのよ」
「…え…… ほ、本当なのか…?」
「だって、もう…こんな時間なのに……」
基地の夕食は6時。毎日の食事を楽しみにしているリュウセイにとって、
2時間耐えることがどれほどのものか。それを考え、ふたりの心は申し訳無さで一杯になった。

「リュウセイ…ごめんなさい…」
「すまない、リュウ…」
「…何言ってんだ、お前たちだって、何も食べてないんだろ…?
 さ、作ってきてくれよ…そしたら、一緒に食べようぜ」
リュウセイに促され、ふたりからようやく暗い顔が消えた。
「…うん! すぐに作ってくるね」
「もう少しだけ…待っていてくれ」
そう言うと、ふたりはパタパタとキッチンへ走っていった。
5462-462(16/19):02/12/31 13:02 ID:???
割烹着を着て準備を始めるふたりに、アヤが声をかけた。
「おせっかいかとは思ったけど、帰りが遅かったから、ごはんを炊いておいたわ。
 ジャーで保温になってるから、良かったら使ってね」
言われてラトゥーニははっとした。確かに、今から炊いていてはリュウセイが餓え死にしかねない。
「あっ……ありがとう…ございます」
「ありがとう、アヤ」
「どういたしまして。それじゃあ、私は行かなきゃならないけど…火には気をつけてね」
「はい」
「それじゃあ、頑張ってね」
アヤは笑顔を残し、キッチンから去っていった。

エルザムが送ってくれたレシピの中から、すでに「熊串焼き」を選んでプリントアウトをしてある。
必要な道具、材料に調味料…すべて揃え、あとは調理を始めるだけなのだが…
いざとなると緊張してしまう。

「…なんだか、最初思ってたのより…すごく野性的な料理になっちゃいそうだけど…」
「上手く作れるといいが……はじめようか、ラトゥーニ」
「うん、がんばろうね、レビ」

あのひとのために。

それを言葉にはしなかったが、同じ想いを抱いて、ふたりは笑顔で励ましあった。


当のリュウセイは、頬杖を付きながら、キッチンから流れてくる物音を聞くともなしに聞いていた。

カチャカチャ、カチャン……

ジャー――――……

ぼふん、ぼふっ……
5472-462(17/19):02/12/31 13:03 ID:???
ばたばたばたばた……

 「レビ……何してるの?」
 「遠心力を……」
 「しなくていいから…ね? それはしなくていいから……」

「な…何だぁ、今のは……?」

やがて火がつく音がして、肉の焼ける匂いが漂ってくる。
「うぁ〜……やっべえ、いい匂いだ……」
目を輝かせて、リュウセイはヨダレを拭いた。そわそわと落ちつかない。

 「…出来たね…!」
 「ああ、出来た…!」

そしてその声を聞いたとき、リュウセイは思わずキッチンまで乗り込んでいきそうになった。

澄まそうとしても隠しきれないといった笑顔で、ふたりが料理を運んでくる。
すぐにでも食らいつきそうなリュウセイをなだめ、自分たちの分も整えてテーブルに付く。
熊肉の串焼きと、白いごはんが3人分並べられた。

「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
「い……いただきまーす!」
既に香りだけでメロメロになっているリュウセイ。
串を手に取り、ひと切れを口に入れる。
少女たちは自分たちが箸を動かす前に、リュウセイの一口を見守る。

……ごくん。
充分に噛んだ後、飲み込む。
5482-462(18/19):02/12/31 13:05 ID:???
「リュウセイ……ど、どうかな………?」
「…リュウ……」
ふたりが心臓の鼓動を抑えながら聞く。

「どうもこうもねえよ、
 美味い、美味過ぎる!」
リュウセイの見せた極上の笑顔に、ふたりは別の意味で心臓の鼓動を加速させてうつむく。
「ど、どうしたふたりとも? 早く食べないと冷めちまうぞ?」

そしてふたりも、今日一日の散々な出来事が詰まった肉をほおばる。
その記憶はあまり思い返したくも無いものだったが、その結実は確かに美味だった。
「……おいしいね、レビ」
こくん。
レビも口いっぱいに味わいながら、うなずいた。

「いやホント、たいしたもんだぜ。
 これならふたりとも、いい嫁さんになれるぜ?」

ガタタタッ

その言葉に、少女たちは勢いをつけて席を立った。まっすぐにリュウセイに詰め寄る。
「ほ、本当っ?本当にそう思うの? 
 大丈夫だと思う…?たったったた、たとえば、リュウセイなら…」
「嫁って……、リュウは、私とラトゥーニをどこかにやってしまいたいのか?
 私は…、私はそんなのはいやだ! 私もラトゥーニも一緒に、リュウが貰っ」
「れ〜〜〜び〜〜〜〜〜〜!」

「なんだー!? なんだ、なんだーー!?!?」
突然騒ぎ出した少女ふたりに圧倒され、リュウセイはうろたえるだけだった。

極東支部の変わらない一日が、夜のとばりに閉じていく。